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Char-Seed_1_第16話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 19:30:19

艦長室では不穏な空気が漂っていた。
ナタルは困惑して頭を抱え、マリューは溜め息をつき、フラガは肩をすくめた。

「つまり、君はプラントの歌手で、評議会議長の娘ということだな?」

しかしながら、シャアは冷静そのもので、桃色の髪をした娘
――ラクス・クラインの告白を再確認した。

「ええ。そうですわ。」

事態の重さを分かっていないのだろうか、ラクスには一切の恐れや戸惑いが存在していないようにシャアの目に映った。

「私はどうなるのでしょうか?敵方の指導者の娘ですから、何か交渉の種にでも?」

内容とは似つかわしくない声色で、ラクスはシャアに問い掛けた。
それによって、シャアは先程まで抱いていた予測を捨てさった。

「(流石に政治家の娘か……)」

微笑みを浮かべている表情の皮を一枚剥ぎ取ったら、恐れおののいているのかも知れないとシャアは思った。

「少佐、いかが致しますか?」

ナタルが困り果てた面持ちでシャアに尋ねた。
こういったことに経験が無さそうに思えるナタルに決断を仰ぐのは酷かとシャアは感じた。

「しばらく個室に入っていて貰おう。ここにはコーディネイターに
不満を持つ人間もいるらしいのでな」

ラクスを諭すかのようにシャアは今後の処分を言い渡した。
それに不満なのか、唇を尖らせるラクス。

「お部屋にずっといるなんて退屈ですわ……」
「ハロッハロ!ツマンナサス!」
「我慢してくれたまえ。
……そうだ、定期的に学生達を遊びに行かせよう。
同年代だし、話もし安かろう」

これを落とし所と定めたのか、ラクスは不満を引っ込めた。
そんな光景とは掛け離れているナタル達は、先行が不安で仕方が無かった。

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「ほらほら!坊主!」
「そんなこと……ああっ!」

宙域では、組上がった新機体『SP(ストライカーパック)互換機能搭載複座型ジン』
通称、『ジン・シュート』のテストが始まっていた。
だが、トールはまだまだ操縦の洗練さを欠き、フラガはやや苛立ちを隠せずにいた。

「いちいち計器を頼るな!」

フラガの罵声が飛ぶ。

「でも……」
「計器なんてメンコと一緒だ!俺はそう教わったぜ!」

言いながらガンバレルを展開し、デプリの一つにオールレンジ攻撃を掛ける――!

「やりぃ!流石マードックの親父。調整がひと味違うぜ!」

見事に全弾命中し、攻撃面では十分な戦力になると立証された瞬間だった。
しかしながら、バタバタと虫のようにもがく姿は不格好で、攻撃の鮮やかさからは掛け離れていた。

「ああ、もう。格好付かないなぁ!」
「す、済みません!」
「ったく、そんなんじゃ(彼女は)お前を抛っちゃうぞ」
「掘っちゃうって……やっぱり……」

言葉とは恐ろしいものである。
すっかりムウが同姓愛者であると勘違いしてしまったトールの目の色が変わった。

「掘られてたまるかぁぁぁ!」
「う、うぉ!」

急激に二人を襲うG
――トールの目は血走り、全霊をもって操縦に挑んでいる。
こまめな姿勢制御と方向転換もさることながら、移動速度が一段と凄まじかった。

「やるじゃないの!愛の力は偉大だねぇ!」
「わぁぁぁ!」

叫びながらアークエンジェルへと戻って行くトールであった。

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「やるな、トール君」

MSデッキで二人を迎えたシャアは、トールの肩を叩きながら称賛の言葉を与えていた。

「あれだけの機動、そうそう出来るものではない。
キラ君といい……若さは可能性だな。
ん?どうしたかな?」

シャアは、トールがげっそりとやつれているのに気が付いた。

「なんでもありません……」

真実の告白など出来るはずもないトールは口をつぐみ、神妙な面持ちで佇んでいた。

「トール!やりゃあ出来るじゃないか!」

ジン・シュートからトールに続いて降りたムウが、トールの背中に体をもたれさせたのである。

「嫌だぁぁぁ!」

全力でその場を離れるトール。
シャアとムウは怪訝な顔付きでそれを見つめていた。

「何なんですかね?」
「さぁ……若さを持て余しているのかもしれんな」

結論など出るはずもなく、二人はそのことについてこれ以上話すことは無かった。