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Char-Seed_1_第17話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 19:30:30

アスランは強奪機について報告するために本国へ帰還していた。
議員達はその性能に舌を巻き、戦線の変化を危惧したのだった。

「流石、私の息子だ。演説、堂に入っていたぞ。
これから厳しい戦いが待っているだろうが、無理だけはするな」

国防委員長である父、パトリックはオードブルを平らげ、アスランに称賛を与えた。
その言葉に、珍しいこともあるものだとアスランは少しばかり照れ臭くなった。
父親との夕食は何ヶ月ぶりであろうか、アスランは記憶を辿ったが、明確には分からなかった。

「いえ、プラントのためには、これからも奮迅致します」
「まあ、そう他人行儀になるな。今は父と子だ」

そう言うと、パトリックはにこりと笑って優しげな瞳を向けた。
アスランもそれに応えた。

「ところで、これからのことだが」
「はい」
「もう、この戦争は終まいだ」
「……!」

唐突に投げられた発言は、アスランの中で波紋を広げていった。
好戦的、強行派の旗頭であるパトリック・ザラには似つかわしくないものであったからだ。

「今まではMSの優位性でここまで戦ってきたが、もうそれも過去と化した。
私達は十分に戦ったし、独立ももう勝ち取ったも同然だ」

アスランは黙って聞いている。

「後は引き際だけだ。まだ公には出来んがな。
息子には言っても構わんだろう」
「本当……ですか?」

にわかには信じがたいこと故、アスランは念を押して尋ねた。
しかし、パトリックは揺るがない。

「無論だ。だから、無理はするな。若者は次なる戦いをせねばならん。
独立維持という戦をな」

パトリックは立ち上がり、アスランの頭を荒っぽく撫でた。
子供の時分から変わらぬ愛情表現――
しかし、パトリックの手は些か細くなっていた。
国防委員長の激務がそうさせたのだろうかと想像すると、アスランはもの悲しく、堪らない思いになった。
==========

一時の平穏を味わい、アスランは戦線へと舞い戻った。
そこでまず耳にしたことは、婚約者であるラクスが行方不明になったことであった。
ユニウスセブンの慰霊団に加わっていた彼女――ラクスを乗せた戦艦はもうこの世に無いことが発覚していた。

「無事でいてくれ……」

ただ願うばかりであった。親同士が勝手に決めた縁談であったが、アスランは悪い気がしなかった。
ラクスは底抜けに明るく、そして何処か陰を持っていた。
何かで割りきれる人間は取るに足らないと哲学者は語る。
ラクスは、明るさで割りきれない、余りというべき陰を持っていたのだ。
アスランはそれに堪らなく惹き付けられたのである。

「よぉ、英雄」

皮肉混じりの声。
怪我から復帰したイザークである。
赤い彗星を撃退して以来、アスランは英雄ともてはやされていた。

「止めろ。俺はそんな仰々しいものじゃない」
「謙遜だな。本国に召集されたくせに」
「それより名誉の負傷を負ったお前の方が英雄だよ」

イザークの顔面には、縦に一条の傷痕が残ってしまっていた。
消せない痕ではないが、箔が着くからとイザークはそのままにしていた。

「皮肉か?」
「……お互い様だ」

過剰な負けず嫌いであるイザークの物腰は何処か変わっていた。
以前ならば皮肉を漏らせば食って掛ってくるのが目に見えていた。
痛い思いをして、一皮剥けたのだろうとアスランは感じた。

「次の出撃は汚名挽回だな」

何処からともなく現れたディアッカが会話に加わって来たのだ。

「挽回してどうする」
「それもそうだ」
「「「はっはっは!」」」

一同が笑いの渦に巻き込まれた。
少し経ってから、アスランはそれが皮肉であることに気が付いた。
ディアッカは暗に次の出撃の危機を示唆していたのだ。
赤い彗星を殺す戦い――その時は迫っていた。
==========

アークエンジェルは近隣で交戦している友軍の援護へと向かっていた。
報告によるとクルーゼ隊が強襲をかけたらしく、こちらを釣り上げるための戦闘であるとナタルは判断していた。
しかし、困窮している味方を見過ごせるはずもなく、罠にかかるのを承知しての援護であった。

『進路良好!』

ミリアリアの快活な声がデュエルのコックピットに響いた。

『愛してますよ、少佐!』

困惑したのか、ぎょっとシャアの顔が強ばった

「唐突にどうしたね?」
『奮起して貰いたいだけですよ。今回の作戦、大変そうだし』

ミリアリアの天衣無縫さにシャアは笑みを溢した。

「ともあれ、愛情を貰ってしまったら、トール君に叱られてしまうよ」
『少佐にはちょ〜っとだけ分けただけですから。
それに、女の愛は無限です。男にはそれが分からんのです』

軍人を気取った声色に、再び微笑むシャア。

「期待を裏切らんように心がけよう。
シャア・アズナブル、出るぞ!」

そう言い残し、デュエルはカタパルトに撃ち出されて行った。

『続いてストライク!進路良好!
キラ……』
「や、止めてよね……恥ずかしいよ」

シャアとは対照的に、ミリアリアを制すキラ。

『そう?
……じゃあ、頑張ってね』
「うん。キラ・ヤマト、行きます!」

エール装備のストライクが、代名詞であるスラスターを吹かして飛び去って行く。

『最後にジン・シュート!進路良好!

トール……愛してるから……』

今までとは重みの違う言葉――トールは照れ臭げに頭を掻いた。
ヘルメットがそれを邪魔していた。

「なぁ……」

ムウが不満気に息を漏らした。

『何です?』
「俺には?」
『発進どうぞ!』

ブリッジにいるクルー達の失笑がコックピットに流れ込み、ムウは肩を落とした。

「無視かよ!
……ジン・シュート、ムウ・ラ・フラガッ!」

投遣りにムウは合図を出す。

「トール・ケーニッヒ!発進します!」

初陣の固さもなくトールは戦場に飛込んでいき、ミリアリアの意図は功を壮したのであった。

「さぁ、おふざけはここまでだ。
戦闘に入るぞ。気持ちを入れ換えろ」

ナタルの言葉で、堰を切ったように真剣な面持ちになるクルー達。
ナタルは直感を信じるタイプでは無かったが、激戦の予感がしてならなかったのだ。