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DEMONBANE=DESTINY_rqMQ90XgM6_09

Last-modified: 2007-12-30 (日) 07:42:00

走る、崖下へと
視線の先にあるのはピンク色の携帯電話
マユが落としたんだ
マユが大事にしていたものだから、拾わないと
でも急がないといけない
ほら、あんなにも近くで戦闘の音がする
だから急がないと
走る、崖下へと
滑るように下って、そして拾う
ピンク色の携帯はちょっとした傷がついただけ
よし大丈夫、壊れていない
胸を撫で下ろし、そして家族の下へと向かおうとして

 

――光が奔った

 

世界が爆音と荒れ狂う暴風に呑まれた
吹き飛ばされる体
空を舞う、見える地面
叩きつけられ、跳ねて、一瞬世界が真っ暗になる
そして気づく
誰かに起こされる
そして見る
確かに、今、そこに、今まであったものを
「あ……ああ………」
声が、出ない
燃えている、森が燃えている
今、さっきまで走っていた森が燃えている
燃えている、道が燃えている
今、殺気まで走っていた道が焼かれている
そして見る

 

「あああ………ああああ、ああああ………!」
裂けた腹部、押し潰されはみ出た腸
千切れた腕、噴水のように湧く血の泉
叩きつけられ飛び出た眼球は木の枝で潰れて脳髄が髪の毛にこびりついて
灰色が灰色で脳は目玉がぶらぶらぶらさがっていててててててててててててて
ああ嘘だ嘘だ違うそんな嫌だ違う違う違う腕が千切れて腕腕腕手がそんな
どうしてああ、嘘だ、嘘だ、嘘だ

 

かあさんが とうさんが マユが

 

潰れて             千切れて

けて
                        シンで

        いる

 
 

「あ…ああ………うああああああああああああああああああああああああああああ
 あああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 あアアアあああああ!!!!!!!!!!!!!」

 
 

***********

 
 

「ッッッ!」
そこで夢は終わった。
目の前にあったのは見慣れた自室の天井、真っ白なそれがまぶしく眼を細める。
「起きたか、シン」
「………レイ?」
ゆっくりと起き上がり声のしたほうを向けばそこにはレイの姿がある。
「うなされていたようだな」
「あ……うん」
今見た夢を頭から追い出したくて、顔を腕で隠す。
そこで、思い出す。
「俺……どうなったんだ? 攻撃を受けて死んだんじゃなかったのか?」
覚醒した意識が断絶する瞬間に見た兇暴な閃光をシンの脳内に映写する。
それはどんな輝きよりも、残光よりも、きらめきよりも、何よりも冷たくて、おぞましくて、恐ろしいものだった。あの時と同じ無慈悲な光だった。
「分からん。俺たちとあの巨大MSは確かにアンノウンの攻撃を受けたはずだったんだがな……」
そこでレイの声が困惑めいた色を帯びた。
どうにも理解できない事があったのか、口元に手を当てたまま何も言わない。
「どうしたんだよ?」
「……シン。ここがどこだかわかるか?」
奇妙な質問だった。ここはミネルバの中で、自分の部屋だ。
見ればすぐ分かる事だが、しかしそれ以外の答えをレイは求めている。
「どこって、そりゃ―――え?」
身体全体にかかる違和感にようやくシンは気づいた。
今さっきまで確かになかったはずの感覚が全身を覆っている。
それはあの時から久しく感じていなかった懐かしい感覚、重力だった。
「……地球、なのか?」
「ああ、その通りだ。アンノウンの攻撃を受けたはずだった俺たちは気づけば地球にいたというわけだ」
馬鹿な、そう言いかけたシンだったがその言葉は口から出ることはなかった。
立て続けに起きた在り得ない出来事のせいだった。
「一体何が起きたんだ?」
「俺にもまったく理解できん。とにかく今の時点で分かっている事はユニウスセブンの落下を防いだという事、それと此処が……オーブ近海だということだ」
オーブ、その単語にシンの身体が強張る、筋肉が収縮する、呼吸が乱れる。
脈拍が急上昇し、心臓の高鳴りが耳を打つ。
口内は急激に渇き、唾を呑み込む音が喉に響く。
脳内にフラッシュバックする家族の、死、死、死、死死死四肢死し四肢
示し死し死死――
「シン、大丈夫か?」
落ち着いた、だが、冷淡ではない言葉に我を取り戻す。
「あ……ああ。大丈夫、平気だ」
「あまり平気には見えんが、な」
「大丈夫だって」
平気な様子を見せようとベッドから身体を一気に起き上がらせる。
目立った傷もなく全身ほぼ健康体といっても差し支えはない。
「な、大丈夫だろ?」
「……どうだかな」
これ以上言っても聞きはしないのだろう? そんなことを言いたげな視線を
送り、レイは溜息をつく。
「まあ良い、起きたのなら仕事だ」
「仕事?」
起きたばかりの自分にいったい何の仕事なのだろうか。
そんな自分の顔を見るレイの顔が珍しく愉快気に、だが、すぐにいつもの無表情に戻り、告げた。

 

「ああ、ユニウスセブンを破壊したパイロットの尋問だ」

 
 
 

******

 
 

画面の向こう、そこでは落ちる宇宙海月とプラントのMSが一緒に映っている。
それを傍らにアナウンサーはプラントのテロだと声高に非難している。
チャンネルを幾ら回しても映るのは同じようなニュースと映像、そして憎悪。
世界は悪意で出来ている、世界は相互憎悪でできている。
ナチュラルとコーディネイターという二つの種族は故に殺しあう。
嗚呼、何て下らない。
余りの下らなさにテレビの電源を落とし、窓へと歩み寄る。
外は蒼穹、海を臨む其処は美しく山際に見える緑がかつての記憶を呼び起こす。
家族と共に過ごしたかけがえのない日々の暖かさに満たされる。
父と母と兄がいた、平凡で、だけど、大切な思い出の数々が其処に在った。

 

――だが、それはもう二度と戻らない

 

「ハンプティダンプティ、塀の上。ハンプティダンプティ、落っこちた」
謡う、それはあの日全てを奪った天使へのあらん限りの怨嗟。
羽根を広げ、逃げる自分たちへと死神の鎌を振るった天使へ向ける復讐の誓い。
深紅の瞳の奥に揺らぐは吹き荒ぶ殺意の嵐、帰らぬ日々を薪に焔にくべ憎悪を燃やす。
「ほうほう。マザーグースか、マザーグースだな」
かけられる初老の男の声、少女は振向き、声の主に向き合う。
白のスーツに白の外套そして夕暮れの陽のような橙の髪と髭、好々爺のような笑みは嘘偽りのないものでありながら、其の実、偽りのみで固められていた。
「テレビ見たよ、ドク。でも、ドクのことは言ってなかった」
「なあに、私たちの事は当分誰にも知られはしないさ、しないのだよ」
「期は満ちた、とか言ってたのに?」
「ああ、そうだ、そうだとも。期は満ちた、得るべき物も得た。だが、期だけでは足りない、必要なものはまだまだあるのだ」
老人の顔には未だ笑み、だがそれ以外の感情も見え隠れする。
この数年付き合ってきたせいか最近では笑みの裏にあるものを推測するくらいはできるようになった。
「まあ、どうでも良いけど」
「うむ?」
そう、どうでも良い。たった壱つの目的以外のことはどうでも良いのだ。
唯それだけのために、唯それを成す為だけに今の自分は在る。
再び蒼穹へ視線を向ける。
その青はあの天使の羽根と同じ色、青の羽根を背負いて家族を奪ったあの死神と同じ色。
「ねえ、ドク?」
少女が紡ぐ声色、それは酷く静かでしかし狂気じみた静けさ。
「うむ、なんだね? 何としたかね?」
老人もそれを知っている。だからこそ、その声には嬉々としたものがある。
だが、それだけでないことも自分は知っている。
しかしそれでも構わない。
成すべき事の為になら自分は魂もこの肉体も全てこの男に奉げると決めたのだから。
それが悪魔であろうと何であろうと、だ。
今、この身に宿った【それ】がその身を奉げた証。
「ドクの手伝い、しようか?」
「ほう? やる気になったか、なってくれたのかね?」
「ドクがくれた命だもの、ドクのために使うのは間違ってないでしょ?」
「しかし代わりに、だな?」
ドクの瞳がこちらを見やる。分かっているのなら勿体ぶらずに言えば良いのだがそれがドクの癖だった。
「うん。それが終わったら私の身体をどうしようともドクの勝手にしていいから。
 だから…………」
そして真紅の瞳は老人を射抜く。

 

「―――フリーダム、キラ・ヤマトを殺させて」

 

その瞳に燃える怨嗟を彼は――ウェスパシアヌスは見逃さなかった。
その瞳と同じものを彼は知っている。
浮かべる笑みの裏に、あの世界で創り上げた復讐の漆黒の天使を思う。
それは彼が創り上げた作品の中の一つ。
それは白天使への憎悪を募らせ、白天使だけを求め、白天使への殺意だけに生きた、白天使への殺意と愛情と憎悪だけしかない黒の天使だった。
今、この目の前にいる少女もまた青の天使への憎悪のみで生きている。
青の天使への憎悪だけをこの世に繋ぎとめる動力として生きている。
憎悪は愛に似るというが、いやしかし、やはり彼とこの少女【マユ・アスカ】は同じと言うしかない。
ウェスパシアヌスは心の内で哂う。
「嗚呼、嗚呼、良いだろう、良いだろうとも。だがしかしだ、今はまだ駄目だ」
「何故?」
「言っただろう? 期は満ちたがまだまだ足りないものはまだまだあるのだ、あるのだよ、あるのさ」
そう、まだだ。この世界における要素【ファクター】が揃わぬうちは動くべき時ではないのだ。
それが揃う時こそが、自分の待ち望む時なのだから。
「だからこそだ、マユよ。君にはやってもらう事があるのだよ」
そう告げるウェスパシアヌスの貌には変わらぬ笑みが浮かんでいた。

 

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