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DEMONBANE-SEED_ですべのひと_02_2

Last-modified: 2013-12-22 (日) 19:20:42

雨の中。

雨の中、やっと雨宿りできる場所を見つけた。

何かおかしいとは思う。普段の賑やかさがまるでない。

自分だけ、世界に取り残されたような気がする。

だが気のせいだ。そう思いたい。そう思うしかない。

今はとりあえず、雨宿りをしよう。

……と思ったら、先客がいた。

路地裏に、少女が一人寂しげに佇んでいる。

こんなところで、一体どうしたのだろうか。というか色々と危なげだ。



……心が痛い。



「君、こんな所でどうしたんだ?」

気がつくと、先に出ていたのは言葉。





人間。それも、常人。

何故此奴と遭遇した。

いくら近寄ろうとしても九郎とは会えず、逆に遠ざかり、

今までその他誰とも遭遇しなかった空間に。

「君、こんな所でどうしたんだ?」

何故、此奴と遭遇した。



……いや、それも妾にはわかりきっていること。

このような真似をする輩は、決まっている。そう。それは

「こんなところにいると危ないから、どこか……」

あのような、

「……危ない!」

闇の



―――え。





数瞬。

この「常人」にかばわれたのだと理解するのに、数瞬かかった。

「な……何をしておる! このままでは汝まで巻き込まれてしまう!」

「もう遅いさ。それに……」

返ってきたのは、

「それに、見捨ててなんておけない。こんな事……

 君が死ぬかもしれないって時に、黙ってられるか!」

似たような言葉。



よりによって。



「……汝」

「何だよ」

「そこを退け」

「駄目だ、今ここを退いたら君が……」

しかし、無知は何たる罪であるか。

奴は今に襲ってくる。わかりきったことであろうが、うつけ。

「……な」

仕方ない。ここまで来たからには、

「こ、これじゃ避けられ―――」

いくら妾とて、力を振るうことに躊躇はないぞ、混沌!

「―――『ニトクリスの鏡』!!」



状況が飲み込めなかった。

いきなり何かに閉じ込められた、黒い影。

気にする暇もなく引っ張られて逃げ出した。

やはり誰もいない中で。

撒けたのか。

暫く走った後、相当荒かった息を整えてから。

「君は……?」

つい、言葉を出してしまう。

いや、かけずにいられない。

それもそのはず、脳裏には。

己の脳裏には、助けられなかった人達。

そして、「彼女」の瞳と被るように見てしまった、少女の瞳。

これは、見逃すことなどできやしない。彼女と無関係でも。

そうだ。

これでは、俺には彼女の力になる以外に何も出来ないじゃないか。

あの時の心の痛みは、それなのだろう。

自分の思考回路に、思わず苦笑しそうになった。

「妾か? 妾は魔導書―――」

少し言葉に詰まったのか、後の答えは遅れて出てきた。

「影」

……影。

アルに比べてずいぶんとシンプルだな。

人外の存在であることは分かっていた。

コーディネーターでさえ息が荒くなる距離を平然と走り抜けた、異常な体力。

それに―――魔術。

疑うまでもない。だがそこまで気にすることでもない。

「影……か。

 俺はシン・アスカ。この街に来たばかりでよく分からないことが多いけど、

 一応魔導書とかには会ったこともある」

……沈黙。あれ、滑った?

当たり障りのないことを言っただけなのに?

この時俺は、次の言葉を待ち望んでいた。

だけど。

「そうか……魔術についても理解はあるようだな」

この先、俺はこの瞬間が来ない方がよかったと何回思っただろうか。

「ふむ、それにあれを目のあたりにしてここまで平然と話せるのならば

 心も弱くはないだろう。あやつと同じような魔の匂いも感じられる」

俺は、この時突きつけられた。

「シン・アスカといったな……」

魔と対峙するか、否かを。

だが、もう手遅れだ。それは感じていた。

俺は既に、このおぞましい戦いの輪廻に―――



「ならば、妾は汝と契約する」

巻き込まれていた。

契約。

突然そんなことを言われても。

大事なことだというのはわかるが。

その場の事情では、動きたくないのが正直なところ。

「け、契約って……何でだ?」

「汝、魔導書は知りながら契約のことも知らんのか。

 よいか。契約すれば、妾という知識と魔力の塊、

 そして人を越える能力を手に入れることができる。

 それらは汝の力として自由に行使することができる。

 だから、汝はその力で危機を振り払い、妾は探し人を見つける。

 契約といっても、多重契約はできるし、

妾の目的を達成するまでの関係と割り切ってしまっても構わん」

こういうことを、九郎も経験したのだろうか。

まさか、九郎も成り行き任せ……なんてことはないよな、流石に。

だけど。もうひとつ、どうしても聞きたいことがある。

「君の……」

「何だ?」

「君の目的って、何なんだ?」

……沈黙。

流石に踏み込み過ぎたか。

スクールにいた頃、格闘戦の授業の教官によく「踏み込みが足りん!」とは言われたけど、

それは今は大丈夫なんだけど、

普段の会話とかだと「シン、あんたその発言は踏み込みすぎよ」とか言われたこともある。

しかもよりによってルナにだ。

……どうも、こっちの話になると苦手なんだな、俺。

こればかりは未だ直せそうにない。

沈黙を破ろうと、自分から口を開こうとした時。

「妾の主は……あ奴らに殺された」

先に破ったのは、『影』の方だった。



「馬鹿でお人好しだったが、正義感に溢れたいい奴だった」

あれ



「しかし、妾の力が及ばぬばかりに、あ奴らに……全てを奪われた」

この話



「妾は主に誓った。もはや揺るがぬ迷わぬ戸惑わぬ、

 奴らを砕くただ人振りの―――剣となる!」

まさか



「妾一人ではあ奴らには勝てぬ。妾には汝が―――」



わかったよ。

今、腹は決まった。

俺の思うことに、整理はついた。

「『影』、決めたよ」

「ならば……!」

「俺は、君と―――

   契約なんてものはしない! 絶対に!」

言い切った。

言い切ってやった。

「な、何という……状況のわからぬ奴め!

 このままでは汝までこの空間から出られなくなることは確実だろうに、うつけが!」

……何とでも言え。

こうなった俺は曲がらないんだ。曲げる道理が見当たらない。

「……わかってる。それに、君のことも大体は理解した。

 だからこそ、俺は契約しない。

 何故だか言ってやろうか。アンタは今、剥き出しの憎しみだけで戦ってるからだよ!」

「解るとでも言うのか!? 一番大事な者を奪われた者の気持ちが、汝などに!!」

「解るさ」

……そう、今でも瞼の奥に焼き付いている、オノゴロの焼野が。

「それと、もうひとつ」

脳裏から離れない、太平洋、鮮やかな橙の戦士が墜ちる様が。

そして。

「今のアンタの様が! 俺にはこう見えるんだよ……こう訴えかけてるんだよ!

 『二度と憎しみだけで戦うな』って!」

「汝……」

もう構うものか。よくよく考えてみたら、

アイツのことだって大体近いものだ。構わず続ける。

「俺も大事な人をいくつも亡くして、戦ってきたことがある。

 けど、待ってたのは理不尽に人が死ぬ現実。

 どんなにいい人だろうが、死ぬ時は一瞬で死んでいく。

 憎しみだけで動いている限り……それは終わらないんだ!

 俺はその現実を理解した。

 自分と同じような馬鹿を見て、今頃気づいちまったんだよ!」

「……そうか」

「だから、もし憎しみで戦うことはしないというなら、その時は……」

瞬間。

「ならば」

『影』の声が、凍りついた。



「力ずくでも、汝を貰う」



何が起きたのか、わからなかった。

一瞬、『影』が俺に触れた。

それだけで。

俺は、何かに縛られていた。

「捕縛呪法『アトラック=ナチャ』」

「な……っぐ!」

なんて強度だよ。これが魔術ってやつか。

鍛えられたコーディネーターの力でも、全く外れない!

「何があろうが……何があろうが、手は他にない!

 汝にも、妾にも!」

「やめろ! 憎しみだけで戦おうとするんじゃない、『影』!」

「汝の事情など構うものか。汝はアスカ! ただ剣を執る戦士となれ!」

「今戦ったら、絶対アンタは後悔―――」

……言葉は、続かない。

塞がれてしまった。

……その、唇に。



―――そして、二度とあの悲劇を繰り返さぬように。



声が、聞こえた。

唇が、離れた。

別に何の変化もない。

体にも、外見にも。中身にも。いつもと全く変わりがない。

それどころか、拘束まで外れている。

「……汝、か!」

『影』が、憎しみの瞳を向けるそれは。

「困るなあ……」

ただ、真っ暗な。

「そこまで勝手に、他人の舞台を荒らされちゃあ」

闇、だった。



決定的だった。

この「意識」を放ち、時計の力で望みを断たせ。

会わせるように仕掛けた。

その結果といったらどうだ。

まだ、この世界のことを理解していないにも関わらず。

まだ、魔導の魔の字もおぼつかないにも関わらず。

九割方、話が「同じ」方向に転がった。

剣の側だ。

力に溺れず、正しきに目覚める者だ。

これならば。



「……離せ」

そう、この人間ならば。

「そいつを、離せ」

彼の新たな力となり、

「聞こえないのか!」

愛と勇気と誇りをもって羽ばたき、

「……『影』を離せと言ってるんだ」

この世界に彩りを添えられるだろう。

「君には、素質がある」

「何が言いたい。人のことはずっと無視しておいて」

許せなかった。

赦せなかった。

とても強い怒り。

それでも、今までとは違う怒り。

今の自分には、その怒りを形容する言葉がなかった。

だけど、それは。

それは。

「いいじゃないか、そんなカリカリしなくても。誉めてるんだから」

「そんなものいるか! 俺はそいつを離せと言ってるんだ!」

「……でも君は、今僕が憎いんじゃあないのかな? 憎しみだけで戦うなと言っておきながら……」

聞いていたのか。

だが、そんなことはどうでもいい。

俺はただ、こいつに一言言ってやればいいだけだ。

「意味が違う」

「……ほう?」

そう、意味が違う。



この時代に来てから感じた何か。

ひとつは、優しくてあったかい世界。だけど、もうひとつはそれとは逆方向だった。

確かに復讐は遂げた。

それでも、何も手に入りはしなかった。

あの時から、俺を度々襲う感情。

虚無感。



まるで鏡のように、俺と同じように復讐に走った『影』。

自分と近いものを初めて見たからなのか、その一言一言が。

その虚無感と重なって見えた。

だから、わかったのかもしれない。

「確かに俺は、憎しみだけで戦うなとは言った。

 だけど、それは復讐を遂げたとしても、その先には何もないから。

 こんな事は、ほっとけない。要らないお節介だろうが、

 『影』は……アンタから解放されなきゃならない! そいつを離せ!」

「……お見事」

拍手。もちろん、手ないしはそれと似たようなものは見当たらない。

「馬鹿にするな!」

だが、敵が強大なのは分かる。

少なくとも、人の手に負えないくらいは。

それでも、絶対に退けない。

俺は駆け出した。奴から『影』を解放するために。

駆け出して、



「それでも、僕に挑むのは無謀だねぇ」

捕えられた。



反応すらできない速度だった。

おそらく、まわりの闇自体が奴の武器。

対して、こちらは銃もなく生身。当然近付いて白兵戦しかない。

通じるかどうかはわからない。それに、この束縛された状況から抜け出せるかどうかも。

だが、腕がなければ脚がある。脚が駄目なら頭がある。

何がなんでも、ここで諦めるわけには―――

「力が、欲しそうだね」

……ああ、必要だとも。

アンタを倒して、『影』を解放する力が。



「なら、君には力をあげよう」

闇の中の紅い三つ目が、眼光を増す。

「とびっきりの力をあげよう。

 高みに上がるための力をあげよう。

 魔を断つに値する力をあげよう。

 剣をあげよう。刄をあげよう。

 とびっきりの力をあげよう」

一瞬おいて、

「使いこなせるかは、君次第だよ」

意識が、暗転した。



……情けない。

結局、自分に何ができた。

気づいたら、闇は消えていた。

『影』と共に。



……何も、できなかった。

まただ。

また、何もできなかった。

俺は無力。

人を救えない力に、何の意味がある。



沸き上がる悔しさ。結局、俺は無力なだけだったのか。



マユが言ってた。落ち込んでる時は、空を見れば気持が軽くなる。

だからなのかはわからないが、涙で滲んだ空を見上げていた。

儚い蒼さの中に……黒い鳥が見える。



……鳥?



鳥じゃない。MSか。自分と同じ要領で、飛ばされてきたのか。

見ているうちに、発砲。実弾の単発なんて、MSにあっただろうか。

……数瞬置いて、衝撃。地面が揺れる。

『どういうことだよ、アル! あれはお前の鬼械神だって話だろ!』

聞き慣れた声のした方を振り向く。

己の背後。



それは、鋼を裂いて唸る鋼。

魔を断つ剣。

無垢なる刃。

『あやつはおそらく妾のものと同じ力を使っておる!

 生身での戦闘が均衡状態ならば、招喚も不自然ではあるまい!』

そして、それらの声の主は。

「九郎……それに、アル……!? 一体何で……!!」

そうこうしてるうちに、被弾した白い巨体。

MSでも、MAでもない。あの黒い奴も。

『どうする? デモンベインでは射程が圧倒的に足らん上に、

 ティマイオス・クリティアスにも限界があるぞ!』

『わかっちゃいるけどよ。どうにか距離を詰められれば……!』

また回避行動をとったのか、巨体が動いた。

俺の横のビルに、ちょうど弾が着弾。

崩れてくる。

「―――って、うわぁぁぁぁ!!」

逃げるしかなかった。

……運悪く、着弾から逃げてもまたそこに撃ち込まれ、

俺はまた、アーカムシティをひたすら右往左往。

……広い通路に出たところで、停止した。

「落ち着いたか……くそっ、どうしてこんな……」

目の前に何かに手をつき、呼吸を整える。

何かに。



「……って」

触ったことのある感触に近い。

これはMSの装甲だ。

この世界にはまだないであろう合金だ。

一体何なのだろうか、と見上げる。

ウィンダムだ。

連合のMS。俺が何機も落としたMS。

何故ここに。

『うおっ!? や、やべぇ、街が……』

『そんなことを気にしている場合か! 奴を倒さねば、これ以上の被害は免れん!』

よく見れば、被害は相当のものだ。

おそらく、九郎の乗っているらしい白い機体は

射撃武器がろくになく、空戦能力もない機体。

対して、黒いのは空戦能力に長けた高機動機体。

……タイマンでは勝ち目は薄い。

だが、目の前のこいつは空戦パックがついている。



目を瞑る。

脳裏に蘇るは、オノゴロの会戦。

駆け抜けた戦場。

奇妙な夢。

ハイネ。

ステラ。

そして、結局救えなかった『影』。

最後に。

短い間だけど、ライカさんや孤児達、

そして―――九郎やアルと過ごした、優しくてあったかい世界。



迷うことはない。覚悟完了。

正直、信頼できる機体ではない。

だが、九郎やアルの助けになれるのならば、それで十全だ。

意を決して、乗り込んだ。

この機体に。この戦場に。

―――終わりの見えない、ループに。











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