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DEMONBANE-SEED_デモベ死_04_3

Last-modified: 2013-12-22 (日) 05:16:02



 翌日、シンは一人孤独に海岸を散歩していた。貴重な休日を街に出て過ごそうかとも思ったが、仲間の大半はミネルバ

にいて連絡が付かず、共にホテルに泊まったアスランとルナマリアは朝っぱらからラクス(ミーア)絡みで修羅場を展開して

誘えるような状況でなく、九郎とアルにも何やら用事があるとかで振られたのだ。

 断崖から望む黒海の景色はなかなかのものだが、人っ子一人居なくては青い空が孤独な身に沁みる。軽く欝に入って

いると、遥か遠くに二つの人影が見えた。黒い髪と服装の男はともかく、白いフリフリ服と銀髪の少女は見間違える筈が

ない。電灯に惹かれる羽虫のように歩いていくと、男の方が気付いて手を振ってきた。

 もう少しで声が届く距離まで近付いてから、朴念仁免許皆伝のシンには珍しく二人のデートの邪魔をしたのではと思い

つくが、もはや引き返せる間合いではない。

「なんだ、九郎とアルもこっちに来たのか」

 平静を装って声をかけるが、少なくとも嫌な顔を返されなくて安堵した。

「ああ、ちょいと海に用事があったんでな」

「こんな何も無い所に? 俺達以外誰も居ないじゃ……」

 タイミングを図ったように、風に乗って女性の笑い声が聞こえた。その方向に視線を向けると、遠くの崖上でひらひらな服

を着た女の子がくるくる回転していた。

「……居たよ」

「居たじゃん」

「イタいな」

 アルの言葉通り、もう子供といえない娘が一人ケラケラ笑いながらデタラメなダンスを踊る姿は実にアレだった。

「まあその何だ、この陽気だし」

「誰にも見られてないと鼻歌うたったりするじゃん。あれの強化版?」

「妾はクスリと見た」

 三人それぞれ勝手な意見を述べるが、あまりじろじろ見るものでない気がして視線を逸らす。

「それはそうと、用事って?」

「ああ、水中でも使える新しい術の構成を作ったから、それの試験にな」

「術? 魔法の?」

「こないだは水中の相手に使える手が少なくて苦労しただろ」

「アビスか……」

 九郎の言葉で、シンも苦い記憶を思い出した。前回のインド洋会戦でミネルバ隊は、自軍の開発したそのMSの恐ろしさを

多数の仲間の血と引き換えに思い知らされたのだ。





「我らが新しい魔術を編み出せば、少々の構成変更でデモンベインも同じ術を使える。あのような醜態は二度と晒さぬ」

 一度戦った相手には、より有効な対応策をすぐに立てる。永い時を戦いの中で過ごしたアルには当然過ぎる行為だった。

童顔でもそれなりにシリアスに決めているが、脇に抱えた物体の間抜けさはどうしようもない。

「それはまあ良いけど、水着でもないのに浮き輪持ってどうするつもりだ?」

 半透明なドーナツ状のそれを指して、シンが突っ込む。

「これか? たまには外の空気を吸わしてやろうと思ってな」

「?」

 意味不明な答えに疑問符を浮かべるが、

「てけり・り」

 空気弁と思われた突起がぎろりと目線を向け、浮き輪に擬態した怪異がひと声鳴く。シンのSAN値が一気に下がり、それでも

何とか悲鳴を飲み込むが―――

「きゃあぁっ!」

「うわあぁっ!」

 遠くからの甲高い悲鳴に誘発されて、たまらず恐怖の叫びを上げた。

「なっ……何だよ?」

 涙目で崖の方を振り返るが、その先には何も無い。いや無さ過ぎる。

「あれ、さっきの娘?」

「まさか……落ちた?」

 一瞬見合わせた九郎とシンが、同時に駆け出す。崖の上から海を見下ろすと、もがく少女が流されつつあった。

「うそだろ、泳げないのかよ!?」

 想像を超えた事態に硬直するシンの横で、九郎が躊躇なく飛び込む。その決断の早さに軽い羨望を覚えながら、シンも上着

を脱いで10mはある崖下へ飛び込んだ。

 だがアカデミーで一通りの救助訓練を受けたシンと違い、情報媒体の少ない時代の人間である九郎は泳ぐ時は着衣を減らす

という基本どころか、溺れた者を救助する時の最大のタブーすら知らなかった。真正面から近付いた九郎という藁に、溺れる少女

は本能に従い全力でしがみ付いた。

「ぬわ!? ちょっと掴ま……がぼらっ!」

 細い腕からは想像も付かない力で身動きを封じられ、九郎も海中に引き込まれそうになる。

「何やってんだ、あんたは!」

 羨望が失望に変わるのを感じながらシンが背後から近づくが、二人となった水難者を一人で救助するのは無理があった。







「何をやっておるか……」

 海面でもがく九郎らを崖上から見下ろしながら、アルは嘆息混じりに呟き、手に持った浮き輪っぽいものを地面に降ろす。

「ダンセイニ、後で召喚してやるから一人で遊んでおれ。人目につかぬようにな」

「てけり・り」

 主の指示にひと声返事をして、宇宙的怪異は流体となって岩の割れ目に沁み込んでいった。それを確認してからアルは僅

かな距離を助走して、崖から数十m先の九郎達目掛けて飛ぶ。

「九郎〜っ」

 空中で叫んでから、今見上げられると下着が丸見えなのに気付いた。今更気にする間柄でもないが、彼と出会うまでは気に

も留めなかったのだから何となく気に触る。

 とりあえず照れ隠しに、こっちを見た九郎の顔面に―――

「アトランティス・ストライク!」

「めかぶっ!?」

 叫び声と共に飛び蹴りを叩き込む。めり込んだ足の裏が顔面から剥がれる前に、彼と融合してマギウススタイルとなった。

「いきなり何するかこの有害図書!」

「着地だ」

「人の顔面にするな! ていうか思いっきり技名叫んでただろうが!」

「いちいち細かい事を気にするな。禿げるぞ」

「確かに親父は……ってそうじゃなくて」

 言い合いながらも九郎はマギウスウイングを広げ、シンと娘を抱えて飛び上がろうとする。が、

「あれ、何か上手く飛べぎぼぼ」

「ふむ、翼が水を吸って重くなったか」

「吸うのかぐぼぼ?」

「うむ、本だけにな」

「冷静に言う場合げぼぼっ!」

 その間にも沈みそうになった娘が、更に九郎にしがみ付く。マギウススタイルの強化された身体能力をも締め付ける怪力は、

理性を失った必死さだけでは説明が付かない。

「ああこら、何をくっ付いておるか!」

「そんな場合でもなごぼぼっ!」

「あんたは一体なんなんだ!」

 堪りかねたシンが叫びを上げ―――結局女の子は九郎にしがみ付いたままにして、二人を抱えて泳いだ。







 膝下程度の浅瀬まで辿り付く頃には、約一名を除いて全員が体力の限界だった。

「はぁ、はぁ……死ぬかと思った」

「情けないのう」

「半分はお前のせいだ」

 この期に及んで漫才を続ける九郎とアルに苛立つシンは、二人の会話を聞いた少女が顔を強張らせるのに気付かない。

「あんた達はっ……何がしたかったんだっ……」

 乱れた呼吸では思うように怒鳴れず、苛立ちが貯まるだけだ。

「あんたもっ! 死ぬ気がこの馬鹿!」

「っ!」

 激情のままに矛先を変えると、少女の怯えが破局点に達した。

「泳げもしないのに、あんなとこ! 何ボーッとして……?」

「おいおい言い過ぎじゃ……ん?」

「あぁっ、いやぁっ!」

 異常に気付いたシンと九郎が見る前で少女が叫びを上げ、錯乱した様子で海へ引き返し始めた。

「あ、おい!」

「ちょっと待てって!」

「死ぬのは……嫌ぁっ!」

 九郎とシンが前後から取り押さえるが、娘は驚異的な体力で四肢を振り回し、膝が九郎の股間に、肘がシンの顔面に叩き

込まれた。

「うあっ!」

「ぬごぉぉぉ……」

 強烈な打撃でシンは水中に倒れ込み、九郎は股間を押さえて悶絶した。

「うう、死ぬの嫌! 怖い!」

「いやだから待てって! だったら行くな!」

 何とか立ち上がったシンが後ろから羽交い絞めするが、既に水深は鳩尾の辺りまで達している。



「死ぬのっ、誰かが死ぬの! 駄目よ、それは駄目っ、あぁ……怖い、死ぬのが怖い!」

「この娘……」

 彼女が死という言葉を異常に恐れていると、シンは気付いた。その正確な原因は無論知る由も無いが、戦時下の今ではある

想像が浮かぶのが当然だろう。

「この娘も、戦争で家族を……」

 可能性が高くてもそれはあくまで推測でしかないが、目の前で家族を失ったシンは勝手に断定し、自分の境遇と重ね合わせ

た。それは身勝手な同情でしかないが、善意から出た感情であるのは間違いなかった。

「大丈夫だ! 俺が護る!」

 半ば衝動的に叫びながら背後から抱きしめると、少女の動きが止まった。その隙に腕の中で反転させて正面から抱き直す。

「君は死なない、俺が護るから。ちゃんと護るから」

 ―――ちゃんと、今度こそ、マユの代わりに。

 意図した言葉ではなかったが、口に出すと少女が護れなかった妹と重なって見え、本気で己の身に換えても護りたくなって

きた。 そんな想いが伝わったのか、シンの腕の中で少女は身体から力を抜いていき、やがて完全に身を預けた。

「ほう……」

 成り行きを傍観していたアルが、感心した声を出す。この非常時に全く動じなかったのは、いざとなれば魔力で吹き飛ばして

少女を止めれば良いと思っていたからだ。

 そのまましばし抱き合った後、シンは身体を離して少女の顔を覗き込んだ。背格好から彼と同年代と思われるが、邪気の無い

表情は少し幼く感じられる。その顔はどこかで見覚えがあるような気がしたが、予想以上の可愛らしさに動揺して思い出せない。

「俺はシン・アスカ。君の名前は?」

「名前……ステラ。ステラ・ルーシュ」

 真っ直ぐな瞳を向け続けられて照れながらも名乗ると、少女も素直に返した。

「お、俺は大十字九郎。こっちはアル」

「汝、今日は良い所ないな」

 股間を押さえながらよろよろ立ち上がる九郎の情けなさは、アルが指摘するまでもない。





 赤熱化したバルザイの偃月刀が地面に突き立ち、薄闇の迫る海辺を淡く照らす。

 ずぶ濡れになった四人の男女は下着一丁になり、魔剣の発する熱で暖を取りながら服を乾かしていた。

「こっちを向いてみろ、見た方の目を抉ってやる」

「何無駄にエグイ事言ってんだよ。ってか両目で見たら両目を抉るのか?」

「まさか、妾はそこまで残酷ではない」

「目を抉る時点で残虐非道だろうが、どうする気だ?」

「目の間に穴を開ける」

「うわぁ……」

 九郎とアルの漫才を、ステラと名乗った少女は微笑みながら見詰めていたが、正直シンはそれどころではなかった。

「大体今更恥ずかしがる仲でもないだろ。夕べだってあんなにもずくっ」

 アルの投げつけた石というか岩が後頭部に直撃して、九郎は沈黙した。

「九郎とアル、仲良し?」

「いやまあそうなんだろうけど、アレを見てよく判るな」

 痙攣しながら昏倒する九郎を指して言うが、ステラは何が嬉しいのかにこにこしたままだ。無意識に振り向きかけて白い肌が

目に入り、シンは慌てて顔を逸らした。

 アルに言われるまでもなく、美少女二人の裸は思春期のシンには刺激が強すぎて直視できない。更に困った事に、ステラは

子供のように無防備だし、シンに懐いた様で妙に間合いを詰めてくるし、そのくせ身体の方は結構それなりに大人だったりする。

パンツ一丁ではナニがアレしても隠しようが無いので、時折触れる柔らかいものが彼女のどこか意識しないようにしているが、

素数を数えるだけでは煩悩は抑えられない。

「すっステラはこの街の子? ここには一人で来たの?」

 苦し紛れに聞くが、この辺を知っとかないと後が困るだろう。

「街……知らない。一緒に来たのはスティングとアウルと……くちゅんっ」

 小さなくしゃみをして偃月刀に擦り寄ると少し身体が離れ、シンにも余裕が出た。

「そうか、んじゃあその友達が何処にいるか、判る?」

「友達じゃない、仲間。何処に居るかは知らない」

「そうか、困ったな。ここ登る所も無さそうだし」

 彼らが居るのは、断崖の下に潮流の気紛れが作った小さな砂浜だった。しっかりと見た訳ではないが、崖の上に上る道は

見当たらない。

「問題ない。服が乾けば上に登る方法などいくらでもある」

 シンとステラのやり取りを見守っていたアルが口を挟んだ。

「そうか、あんた達飛べるんだよな」

「アル、飛べるの?」

「ああ、この人達は魔法使いなんだ」

「魔法使い?」

 シンの答えにステラは小首をかしげた。

「まあ正確には妾は違うがな。それにそこで伸びておる者が復活せん事には始まらぬ」

 アルの指す先では、驚異的な生命力を誇る筈の九郎が限界を超えたダメージを負って倒れていた。

「あ〜、さっきのはさすがにやばかったんじゃないか?」

「ううむ、石が少々大き過ぎたか?」

「いやそれ以前に考え無しに石とか投げるなよ」

「無礼な、ちゃんと考えておる。角度とか」

「すんごい鋭角的にめり込んでたぞ」

「瑣末な誤差だ」

 なんだかんだ言って小一時間後、服が乾いた頃に九郎は復活した。





 水平線上に陽の残り火が紅い夜空を、漆黒の翼が羽ばたく。

「あはははっ、すごいすごぉい!」

 シンと共にマギウススタイルの九郎に抱えられて飛ぶステラが、暗い海岸や遠くの街を見下ろして子供のようにはしゃぐ。

「凄いね、シン。九郎は本当に魔法使いなんだ」

「あ、ああ……」

 景色でなくステラの笑顔に見蕩れていたシンは、急に話を振られて慌てて視線を逸らした。

 女の子と密着して夜の空中散歩。中々にロマンチックなシチュエーションだ。ムサい男に抱えられているのを忘れれば。

「気に入ったようだな。ではこのまま街まで飛ぶぞ」

「うんっ!」

 平行して飛ぶちびアルの提案に、ステラは笑顔で返す。

「いや、二人抱えて長距離は結構辛いんだけど」

「今日は鍛錬できなかったであろう。その代わりだ」

 一人不満な九郎の意見は即座に却下。

「九郎、ステラ重い?」

「いやそんな事は……えぇい、飛ばすぞ!」

 子供のように素直なステラには、お人好しの九郎は逆らえない。自棄になってスピードを上げると、ステラは更に歓声を上げた。

「あ、スティング」

 街の明かりに向かってしばらく飛ぶと、ステラが遠くを指差して叫んだ。

「え、君の仲間の?」

「うん、あそこ」

 ステラの示す方向を見ると、彼方を走る車のヘッドライトが見えた。

「本当にあれが?」

 シンが疑問を口にするのは、ステラとまだ離れたくないからだけではない。昼間ならともかく、街灯の少ない夜道で車を判別

するには遠すぎる。

「うん、あの緑の頭がスティング、隣の青いのがアウル」

 迷わず言うステラだが、シンにはその車の種類すら判らない。

「確かに屋根の無い車に二人乗っておるが……」

「目ぇ、良いんだな」

「うん」

 九郎とアルは確認した様子で、ヘッドライトへ向かって飛び、上空を飛び越えてから運転手を脅かさないように車前方のカーブ

で見えない位置に下りた。シンとステラを降ろしてマギウススタイルを解くと同時にカーブの先からオープンカーが現れ、手を振る

ステラに気付いて目の前で止まった。

「ステラ? どうしたんだお前一体」

 運転席の髪を緑に染めた若い男、おそらくスティングとかいう方が声をかけ、一緒に居る怪しい一団にあからさまな警戒の目を

向けた。隣のアウルとかいう少年も何気ない様子だが、いつでも飛び出せるように身構えている。





「その娘、海に落ちたんです。俺達ちょうど傍にいて。でも良かった。あなた達の事聞いて、とりあえず街に探しに行く所だったん

です」

 シンの説明で男はとりあえず表情を緩めるが、隙は見せない。

「そうですか、それはすみませんでした。ありがとうございます」

 丁寧だが固さの残る口調で礼を言い、軽く頭を下げる間も目を逸らさない。

「九郎とアルはね、魔法使いなんだ」

 ステラの言葉に、スティングは再び顔色を変えた。

「魔法使い、というと今世間で話題の、ユニウスセブンの英雄ですか?」

「ええまあ、話題か英雄かは知りませんが、たぶんそれです」

 九郎が頭を掻きながら答えるが、さりげなくアルが後ろから近付いて、いつでもマギウススタイルに戻れる体勢を取る。

「そんな有名人にお世話になって、光栄です」

「いえ、大した事はしてませんよ」

「このお礼はしたいのですが、あいにく所用があってゆっくりもしていられないので」

「いやいや、気にせんで下さい。当然の事をしたまでですから」

「本当にありがとうございました。ほらステラ、お前もお礼言え」

「うん、ありがとう、シン、九郎、アル」

 スティングに促されてステラは頭を下げるが、その後もシンの側を離れようとしない。

「ほら行くぞステラ」

 スティングに呼ばれてステラは車に乗りかけ、名残惜しそうに振り返る。

「えっと……ほら、また会えるからきっと、ね?」

「シン……ほんとに?」

「ていうか会いに行く」

「うん」

 ようやくステラが乗ると、スティングは軽く頭を下げて車を発進させた。オープンカーが夜道に消えるまで、ステラとシンは

互いを見詰めていた。





「見えてたな」

「ああ……」

 オープンカーが見えなくなってから、九郎とアルは呟き合った。

 先程あの車を見つけたステラの、あの暗さと距離で車種はおろか搭乗者まで判別した視力は、人間の限界を明らかに超え

ていた。二人はこの世界の遺伝子操作には詳しくないが、それで生み出される優秀な人間程度では説明が付かない。ステラ

が何らかの特殊能力を持っていると言われても、怪異の相手に慣れた二人なら信じられたが、それよりもこの世界で作られて

いるという人工的な超人のウワサを思い起こしていた。

 ザフトのコーディネーターに対抗する為に、薬物等で無理に能力を引き出された強化兵、ブーステッドマン。連合で研究されて

いるというそれだとすれば、当然ステラも敵側の兵士という事になる。

「しかしまあ、そうだと決まった訳でもないだろ」

「だがあの二人の連れの物腰、素人ではあるまい。彼らを家族や友人ではなく仲間と言っておったのもな」

「ううん……」

 反論が思いつかず、九郎は唸る。

「何の話?」

 ステラとの別れの余韻に浸っていたシンも、いい加減覚めてこそこそ話す二人が気になった様だ。

「い、いやまあ、話すまでも無いっていうか」

「汝には無関係な話だ」

 ザフトの軍人であるシンが無関係な筈も無いが、確証が無い内に彼に話すのは躊躇われた。話を逸らす為にアルは召喚の

魔法陣を描き、海辺に置いて来た従者を呼び戻す。

「ん? うわっ……」

 光の中に実体化するのが見覚えのある怪異と気付いて、シンは背中を向けた。だが背後から肩を叩かれ、振り返ると目の前

に触手が蠢いていた。

「うわあっ!」

 悲鳴を上げて飛び退きかけるが、肉塊から伸びた触手は見覚えのある衣類を持っていた。

「あ、俺の上着?」

「てけり・り」

 海に飛び込む時に崖に脱ぎ捨てた上着を、触手が差し出す。

「持ってきてくれたの? ありがとう」

「てけり・り」

 礼を言って受け取るが、粘液とかは付いてなくても着る気にはなれない。親切な異形が傷付かないようになるべく自然な動作

で脇に抱え、帰ったらすぐに洗濯する事にした。



「いやぁ参った参った。マ〜ジ驚いたぜもう」

 九郎達が見えなくなってから、アウルは溜め込んでいた緊張を吐き出した。

「ほんと。あれがザフトの魔術師か」

「そうみたいだな。意外と普通じゃん」

 この世界で公式に確認されている魔術師は一人だけであり、その者がここディオキアに居るという情報は聞いている。今会った

男が彼らが何度も戦った強敵、デモンベインのパイロットなのは間違いないだろう。おそらくは一緒に居た少年もザフトの兵士か。

「普通で、良い奴等だったな」

「ああ……」

 後部座席で名残惜しそうにしているステラを見るまでも無く、彼らが善人なのは互いに警戒しあった僅かな会話でも判った。

 スティングら第二世代ブーステッドマンは凶暴性を強化した第一世代と違い、敵が下劣な悪党であるのを望む程度の心は残して

いた。いずれ戦い殺し合うかもしれない相手が「良い奴」というのは気分の良いものではない。最も彼らがそれを心配する必要は

無いのだが、彼ら自身は気付いていない。

「で、お前はそこで何をしてるんだ?」

 空気を変える為に、スティングは今までスルーしていたツッコミを後部座席の下へ向かって入れた。

「かくれんぼ?」

 助手席のアウルがシートから乗り出してステラの足元を覗き込むと、そこに潜り込んでいた少女が起き上がった。

「やっと会えた愛する人に会う事が出来ない。エルザのAIはハートブレイクロボ」

「はあ? 会ったのか会ってないのかどっちだ?」

 相変わらずこのエルザは、訳の判らない事ばかり言う。ステラの隣に座り、同時に溜め息を吐く姿はなにやら落ち込んでいる

様子を全身で表し、無駄な所で高性能だ。

「ていうかやっぱお前、あの魔術師と何か関係が……

「ああダーリン、あなたは何でダーリンロボ」

「いや聞けよ」

 いつも以上に話を聞くつもりのないエルザに、スティングは会話を成立させようとした自分が間違っていたのだと気付いた。









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