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DEMONBANE-SEED_種死逆十字_第11話3

Last-modified: 2008-02-06 (水) 00:36:33

「膠着状態までは立て直せましたが、今一歩押し込めませんな」
「どいつもこいつも腑抜けおって! 何故これだけの数の差があって、ザムザザーまで投入して押し返せん!」
 その数に調子付き、最初まるで作戦らしい作戦も立てず真正面からぶつかったのは何処の誰だと、不機嫌に怒鳴り散らす艦長の横で副官は内心毒づいた。
 とはいえ、かく言う副官も当初は艦長のやり方で問題ないと考えていた。数の差は大きく、多少の被害は出ても戦艦一隻程度普通なら簡単に押しつぶせる。保険として、トライアルが終了して間もないザムザザーまで持ち出した。
 だが実際は出鼻をくじかれた挙句、切り込んできたたった二機のMS艦隊を撹乱されて動きを抑えられてしまう。その二機を押さえるためザムザザーを出し、艦隊の一部とMSの大半をミネルバに向かわせたが、未だに致命傷を与えられない有様。仕方なく手柄の分配覚悟でオーブに増援を要請してみれば──
「やる気があるのかオーブは! MSを一機だけよこした挙句、当たりもせん砲撃ばかりしおって! あれではむしろ邪魔だ!」
「オーブはまだ同盟に正式加入したわけではありませんし、この間の騒ぎで相当戦力は落ちたと聞いています。諸外国からの感情もあるでしょうし、これだけしてくれれば上等でしょう。MS一機とはいえ新型を抑えているのです、十分なのでは?」
「甘いわ! 奴等が他の国にどう思われようと知ったことか! 幾ら被害が大きかったといってもまだMSはあるはずだ! 我等連合軍が苦戦しているというのに、それに全力で協力せんとは何事か!」
 この喚き散らす権威主義者をどう宥めすかせるべきかと、ウンザリした副官は本気で思考を巡らせ始めるが──何かをひらめいたかのようにニヤリと笑った艦長を見て、その顔色を蒼白にした。
「艦長、何を──」
「鳴かぬなら鳴かせてしまえホトトギス……奴等の尻ならぬ、顔に火をつけてやれぃ!」

 
 
 

「しぶといな……」
『こいつっ! 手間取ってる場合じゃないのに!』
 ザムザザーを中心とした防御陣形を組まれ、二人は敵陣への進攻を完全に止められていた。MSに攻撃を
仕掛ければ相手はすぐさま後退し、その間にザムザザーが入り込み攻撃を防ぐ。直後MSの一斉攻撃が向けられ、後退すれば今度は艦隊からの援護砲撃が雨のように降り注ぐ。致命傷はないが何度も攻撃を受けたオーガアストレイはかなりのダメージを蓄積し、インパルスのエネルギーも削られていた。
『早くしないと、ミネルバへの被害が……うおおおお!』
「待て、シン! 遮二無二向かっても……ええい!」
 痺れを切らしたシンが直接ザムザザーに突貫する。先程似たようなことをして死にかけたのに、まるで懲りていないらしい。止める間もなく突っ込んでいったインパルスを追おうとするティトゥスだが、その周囲を何体ものウィンダムが取り囲む。シンをザムザザーに倒させるまで、ティトゥスを足止めする腹つもりか。
「有象無象が……邪魔だ!」
 機体に刀を構えさせ、ティトゥスは敵の懐に踏み込もうとする。しかしウィンダムは包囲は崩さぬまま、
オーガアストレイから距離を取っての射撃のみに徹した。オーガアストレイの戦法が、接近戦のみであることに気付いているのだ。突っ込んで一体ずつ斬り倒すのが最も確実だろうが、ダメージは免れない。下手をすれば集中砲火に落とされる可能性もある。
 どうするべきかと考えた直後、突然ガクンとオーガアストレイが傾いた。エールストライカーの持続限界だ。風に乗る形でかなり消費を抑えていたつもりだったが、流石に滞空時間が長すぎた。
「くっ……!」
 考えている暇はない。全推力を全開にし、その力のみで機体を加速。真正面のウィンダムに狙いを絞る。もう一度海に落ちるのは仕方がない。ならばせめて、その前に一機でも倒してシンの負担を軽くしなければ。
 しかし出力が高いとはいえ重量があり、揚力を得られない状態のオーガアストレイが宙に留まるのは難しかった。徐々に高度が落ち、しかも周囲からはライフルの攻撃に晒される。目算で刃がかするか否か──ティトゥスは一縷の望みに賭けて突き進む。操縦桿を握る手に力が入る。
「南無三!」
 スラスターの火が消える。なけなしの慣性に機体を任せながら、一刀に全力を込めて振り下ろすオーガアストレイ。頭一つ高い位置に居座るウィンダムの表面を、刀の先端はわずかに撫でるだけに終わる。
 落下していくオーガアストレイを嘲笑うように、ウィンダムはライフルを構え──自らに起きた変化にまったく気付いていなかった。
 中心に走る一本の線。それにそってウィンダムの身体は二つに別れ、そのまま爆散する。
「……すまんが持ち応えてくれ、シン」
 敵を落とせても、もはや海に落ちるのは避けられない。落下しながら攻撃を受けるオーガアストレイのコクピットで、ティトゥスは複雑な面持ちで呟く。シンのピンチに手を貸してやれないことへの申し訳なさと、ある『ヒント』に思い至ったことによる、思案の顔が混ざった表情だ。
(先の一撃、今ならば──この機体ならば、可能か?)
 考え続けるティトゥスを乗せたまま、オーガアストレイは海面へと激突する。その場に上がる大きな水飛沫。そしてその直後、別の場所でも新たな水柱が上がっていた。

 
 
 

 ビームサーベル二本での連続攻撃にも、ザムザザーはまったく怯んだ様子を見せない。シンの心は、
焦りと不安で塗りつぶされていた。
『そらそらどうした? コーディネーターとはその程度か!』
「ちっくしょおおお!」
 シンはザムザザーに圧倒されっぱなしだった。リフレクターが貫けないなら別の角度からと考え、シンは後方に回り込もうとした。だがいざリフレクターの角度から外れれば、待っていたのは何発ものビームと砲弾の洗礼だった。ビーム砲単装砲低圧砲、そしてバルカン砲。無数の迎撃火器がザムザザーの全身には内蔵されている。リフレクターが一部の角度にしか有効でないことなど、開発者は分かっていたわけだ。
 実弾とはいえ多量の弾幕にインパルスはエネルギーを削られる。衝撃も強く、当たっても避けても攻撃してる暇がない。結局出来ることと言えば、真正面から突っ込むというエネルギーの無駄使いだけだ。
『所詮MSなどその程度! これからはMAの時代なのだ!』
「舐めるな!」
『うっとおしいわ、どけ小僧!』
 リフレクターを解き、残った片方の爪──超振動クラッシャー《ヴァシリエフ》をインパルスにぶつけるザムザザー。吹き飛ばされつつインパルスは体制を立て直す。しかしシンの体力はもう既に限界であり、エネルギー残量も少ない。
 何もできない悔しさに唇を噛むシン。どうすればと途方にくれる中、後方で何かが海に落ちる音が響いた。
「え……」
 上がった水飛沫の向こうからウィンダムが団体で迫ってくる。だがそこに、オーガアストレイの姿はない。まさか、自分がこのカニに気を取られているうちに──
「そんな、ティトゥスさ──!?」
 呼び掛けようとした声が、視界の端に偶然捉えた遥か彼方の光景に途切れた。吹き上がる水柱、これだけならなんの変哲もない、単に艦砲が海に落ちたというだけの話だ。
 だが、撃った艦と落ちた地点が問題だった。撃ったのはミネルバに接近し砲撃をかけていたはずの連合艦隊。そして着弾地点は──オーブ艦隊の目と鼻の先。
 シンは声も出せないまま、その光景を呆然として見つめていた。

 
 
 

「フハハハハハハ! 今頃オーブの連中顔を青くして大慌てだろうよ! 誇り高い連合軍に対し協力せんなど愚劣の極み! 協力せんというならばザフトごと蹴散らしてくれるわ!」
(愚劣はどちらだ……私はもう、どうなっても知らんからな)
 連合艦隊による、オーブへの砲撃。その行動はそれを見ていた多くの者に対し波紋を呼んでいた。
「どういうつもりだ!? 連合の奴等、何を考えてあんな真似をした!?」
「タケミカヅチより入電! 先程の砲撃は敵の抵抗にうろたえた艦の誤射であり、オーブへの攻撃の意図があったのではあらず。しかし事態の早期収拾の為、オーブにも積極的な強力を求む、との通達がきたと……」
「脅しのつもりか……同盟への正式加入もまだだというのに、オーブを属国扱いか!」
「やれやれ、だから連合ってのはヤなんだよね……ブルーコスモスかどうか知らないけど、こういうバカを軍に放置しておく姿勢がさぁ……!」
 本島の作戦司令部でカガリが激しく、ユウナは静かに連合の暴挙への怒りを燃やす。
「バカな! こんなことが知れ渡れば、諸国の悪感情を呼ぶだけだと分かっていないのか!?」
「どうやら、とんだ馬鹿者が艦隊を率いているらしいな……しかし、これはちと厄介だぞ」
 怒りよりも戸惑い、呆れが強かったのはアスランとミナの二人だ。二人ともこの行為を愚かと捉えたが──ミナはこの愚行によりオーブもまた追い詰められたことを理解していた。
「れ、連合がオーブに攻撃ぃ!?」
「ま、まさかグルになってるのに気付かれちゃったんでしょうか!?」
「落ち着きなさい! おそらく消極的なオーブに対する援護の催促のつもりでしょうけど……」
 ミネルバのブリッジで、慌てふためくアーサーとメイリンを一喝するタリア。だがタリアはミナと同じ考えに思い当たり、現状が更にマズイ状況に陥るのではと懸念していた。
(問題は今よ……執拗に迫られれば、オーブに選択権は……!)
 この行動が後々連合にとってどのような悪影響を及ぼすかは、今問題ではない。問題は、オーブがたった今連合に協力するか否かを迫られているということだ。
 このような強攻策に出る相手だ、協力しなければ本気で攻撃してくるつもりだろう。あの規模の艦隊なら、おそらくオーブが抵抗すれば勝てる……この場だけでなら。だがもしそんなことをすれば同盟は白紙、最悪の場合敵性国家として連合に敵視される。無理矢理な理屈だが、連合のそれは今に始まったことではない。そうなればまた二年前の悪夢が繰り返されることとなるだろう。
 だが、逆に連合と協力すればミネルバは終わりだ。ただでさえギリギリの状況なのに、ここにオーブ軍まで出てこられては勝ち目がない。そしてそれは同時に、オーブとプラントのわずかな繋がりの消失を意味する。
 どちらを取るにしても、オーブにまず未来はない。だがあえてどちらかを取るというのなら……後々正式に同盟を組む、連合ということになるだろう。
「ただ一つ、これを避ける術があるとするならば……」
 ミナは宙に浮かぶインパルスと、波立つ海面を見つめる。オーガアストレイが海に落ちたのをミナは確認していたが、彼女はティトゥスがやられたなど欠片も思っていなかった。
「オーブが動き出す前に彼奴等がすぐさま突破口を開き、ミネルバが即座に離脱することができるならば」
 無茶にも程がある机上の空論だ。だがあの二人なら可能だろうと、ミナは何故か奇妙な確信を感じていた。

 
 
 

 シンの中から焦りや怒りは消え、その心は不自然なほどに澄み渡っていた。その真っ白な心に、
沸々と湧き上がる衝動がある。
「アンタ達は……」
 ティトゥスさんを──俺の恩人を落としたのか。ミネルバを──俺の帰る場所と仲間を、落とすつもりなのか。
 オーブを──俺の故郷をまた焼くつもりなのか。トダカさん達を──あの国を守るために闘う人々を、踏みにじるつもりなのか
「アンタ達は……!」
 何度、繰り返す。どれだけ、奪う。
 アンタ達連合は、どれだけ俺から大切なものを失くせば気が済むんだ。

 

「──ッ! アンタ達はあァァァァァァァァァ!」

 

 ──繰り返させはしない、奪わせない。絶対に、守る。

 

 《守る》という衝動がシンの中の真紅の《種》と化学反応を起こし、種が弾ける。
 だがシンの起こした行動は、《守る》という衝動とは真逆のベクトルを向いていた。

 

 ──だから、お前らはみんな死ね。

 

 インパルスがザムザザーに正面から突っ込む。当然ザムザザーはリフレクターを展開し、インパルスを待ち構える。
「バカの一つ覚えか! 単細胞め!」
 インパルスは真正面から突っ込んで来る。余裕でそれを見ていた三名のザムザザー乗組員だったが、インパルスとの距離が狭まってくるうちに、その額に驚愕を貼り付けた。
 ──インパルスに、まったく減速する気配が見えない。いやむしろ、加速し続けている。
「ま、まさか特攻する気か!?」
「ええい慌てるな! ザムザザーならMSの一機や二機、跳ね返すことなど造作もない!」
 怯える操縦士を機長が制する間にも、インパルスは止まらない。その手に握られているのは、実体ナイフ『フォールディングレイザー』。
 あわや激突という寸前、インパルスはナイフをリフレクターに突き立てた。高加速を与えられたナイフはリフレクターに深く突き刺さるが、ザムザザーの装甲に至るまでではなくそのままバキンとへし折れてしまう。
「ざ、残念だったな! 捨て身に出る覚悟は見事だが、それもここまで……!?」
 ザムザザーの目前で、インパルスがナイフを突きいれた状態で身体を捻った。ザムザザーの頭上を、まるで宙返りするかのような形でインパルスは飛び越そうとする。
「ほ、砲撃手! ヤツを撃ち落せ! この距離なら外れはせん!」
 ザムザザーの全火器が一斉に火を吹く。しかし驚くべきことに、ほぼゼロ距離といってもいい至近距離にも関わらずインパルスに攻撃は当たらない。インパルスは最小限の動きで、ザムザザーの砲撃の隙間を掻い潜るように避けているのだ。まるでいつ、どの砲が発射されるのか分かっているかのような正確さで。
 ザムザザーを飛び越えたインパルスがサーベルを抜く。眼前にあるのは、高推力エンジンのノズル。
「バ、バカな! ザムザザーがァァァァ!」
 サーベルの一閃が、二基あるエンジンの片方を切り裂いた。大きな炎と煙を上げながら、ザムザザーは海へと沈んでいく。
「ミネルバ! ブラストシルエットを出してくれ!」
『シン、スゴイスゴイ! って、え?』
「ブラストシルエットだ! 早くしろメイリン!」
『りょ、了解!』
 ザムザザー撃破の余韻に浸りもせず、戦果を称えるメイリンに怒鳴り散らすかのように言い放つシン。光を失った虚ろな瞳は、《SEED》が発現した状態の特徴だ。
 早くシルエットを受け取ろうといったん後退しようとするインパルスだが、その進行方向にウィンダムの群れが迫る。インパルスに攻撃が行われる直前、海から飛び出した何かが二つ、二機のウィンダムに突き刺さった。
『待たせた!』
「ティトゥスさん!」
 突き刺さった二本のワイヤー付きアーマーシュナイダー。それに引きずられ海に落ちるウィンダム。それを足場にし、海から飛び出したオーガアストレイが更に跳躍する。同時にスラスターとエールストライカーをフル稼働、肩から伸びたワイヤーごとアーマーシュナイダーを引き戻し、両手の刀を一気に振るう。
 刀は数メートル、目標の間合いに入っていない──にも関わらず、ウィンダム二機が動体を斬り裂かれ爆発した。高速で振られた刀の衝撃が剣圧となって空気を裂き、刃の先にいた敵を斬ったのだ。数メートル先まで斬れればいい方だが、それだけでもオーガアストレイにとっては大きなアドバンテージとなる。
『やはり、これならば……とにかくここは拙者に任せろ、お主は行け!』
「はい!」
 ウィンダムをオーガアストレイに任せ、インパルスはミネルバへと向かう。既にミネルバから射出されたブラストシルエットがこちらに向かって来ている。
 フォースシルエットを除去し、空中で合体。ミサイルランチャーと一体化した二門の大型砲を持つ重砲撃戦機、ブラストインパルスとなる。
「どいつもこいつも、みんな消し飛べェェェェェェ!」
 ホバー機動で海面に浮遊しつつ、まずはミサイルランチャー八発を全弾ミネルバの方向へ発射。すぐさま大型砲を展開しながら振り向き、自機のバッテリーに残ったわずかなエネルギーとシルエットの全エネルギーをつぎ込み、高エネルギー砲《ケルベロス》をシュート。ミネルバを囲んだ敵への牽制と、ティトゥスに任せた敵の殲滅を両方いっぺんにこなす。倒しきれなかった敵も突然の攻撃に動きを鈍らせ、そこを仲間達が突いて次々と撃墜していく。
「ミネルバ、デュートリオンビームを!」
『了解! インパルスの位置確認、障害無し! デュートリオンビーム、照射!』
 シンの要請で、ミネルバからインパルスへと一直線に光が伸びる。光はインパルスの額に当たり、バッテリーにエネルギーをチャージする。これこそセカンドシリーズとその専用艦であるミネルバに装備された機構、デュートリオン送電システム。まだまだ課題は多いが、着艦せずともエネルギーをチャージ可能なエネルギー供給機構である。
 チャージを完了したインパルスはミネルバの前方、艦隊の密集地帯へ向かう。多数の艦からの砲火をものともせずかわし、再びケルベロスを発射。併走していたMS輸送艦二隻を一撃で貫く。ザムザザーという防御の要を失った艦隊はその威力に焦り、包囲網を崩してしまう。
 MSを迎撃しながら、艦隊を切り崩していくインパルス。その姿にミネルバがようやく動き出す。
「今よ! 全速前進、シンの開けた穴から一気に突破するわ! 多少の被弾は覚悟なさい!」
 ミネルバが艦隊の隙間へと前進する。向かってくる砲撃に耐え、とにかく突き進む。寄って来るMSを、ザクとエルザが迎撃していく。
 その後方で剣を交えていたアスランとミナも、お互いに引き際を悟った。
『ここまでだな。達者でやれ、アスラン』
「貴方も。オーブを頼みます」
『言われるまでもない……さあ行け!』
 マガノイクタチでシールドごと弾き飛ばされたセイバーは、そのまま変形してミネルバの援護に回る。それをゴールドフレームは追わない。
 アスラン、そしてティトゥスと合流したミネルバは更に加速する。既に艦隊の隊列はシンの活躍で崩れており、加速するミネルバを止めることも追いつくことも出来はしない。
 とにかく暴れまわって包囲を崩したシンが我を取り戻した時には、既にミネルバは囲いを突破していた。何時の間にか半壊した艦の上に乗り、未だ迫るMSを迎撃するしんがりの役回りになっていたらしい。
『シン、もういいからミネルバに戻って! 早くしないと置いてっちゃうよ!』
「……おいおい、そりゃないんじゃないか?」
 既にシンの目には光が戻っている。インパルスが乗る艦を横切りそのまま前進していくミネルバへ、シンが向かおうと飛んだその瞬間。
『行かせはせんぞ、コォディネェタァァァァァ!』
「うわあ!」
 突然甲板を貫いて、なにかがインパルスの足を掴んだ。沈む艦からなんとか海に飛び出たシンは下を見て愕然とする。そこにはどうやって海の底から戻って来たのか、クローでインパルスを掴むザムザザーの姿があった。後部の破壊されたエンジン部から大きな亀裂が入り、今にも崩れ落ちそうな身体でインパルスを引きずり下ろそうとするその姿には、激しい憎悪と執念が感じられる。
『貴様だけは、貴様だけは逃さァァァん!』
「くそ、離せ!」
 このままではミネルバに追いつけない。それに突破したとはいえ、まだ艦隊やMSは多くが残っているのだ。立ち往生していては多勢に無勢、あっと言う間にインパルスはやられてしまう。
 フルブーストで逃げようとするインパルスだが、巨大なザムザザー相手では分が悪すぎる。どれだけ機体が力を噴かそうとも、ザムザザーに引きずられ機体は海へと落ちていく。
『一度宙へ飛べ、そのまま勢いを殺すな』
 耳にその声が届いた直後、シンは反射的にインパルスの力を上昇に向ける。インパルスに引かれクローが上を向くが、その力はまったく弱まらない。
「──え!?」
 だがその直後、クローの根元が鋭利な断面を伴い断ち斬られた。つい先程見たのと同じ光景、けど今この場にあの人はいないのに──
 拘束から脱し、未だ動いて追ってくるザムザザーやMSを無視してミネルバへ向かうシン。その目に
ミネルバの後部甲板に立つ、刀を持った一機のMS──否、MMが映った。

 
 
 

(やはり。足りぬのは質量と魔力──それを太刀筋と速度、そして気合で補えさえ出来るならば!)
 後部甲板に立つオーガアストレイは、腕を十字に構えながら両手の刀を肩に当てた。グッと腕を身体に近付け、刀の鍔が肩に当たるほどまでにする。
 コクピットの中のティトゥスは全ての感覚を研ぎ澄ませ、その手に握る操縦桿を解してオーガアストレイの手、その手に握る刀に神経を集中させる。高められた精神は力を増し、それは屍食教典儀を通して刀へと伝達される。

 

「我が剣は風を斬る」

 

【──I'm a blade that slash the wind──】(──私は風斬りの刃──)

 

「我が太刀は鼬[イタチ]殺し」

 

【──I'm wolf fang that hunts the target──】(──私は獲物を狩る狼の牙──)

 

「我が一刀は空を駆け、彼方の敵をも断つ一撃也!」

 

【──I'm a evil sword that break my lord's enemies──】(──私は、主さまの敵を殲滅する魔剣也──)

 

 右に持つ刀が、火花を散らして煌いた。目にも止まらぬうちに、その手の刀が甲高い音と共に振り抜かれている。直後、ザムザザーが中心から上下に分かたれ、爆散する。少々の間を置いて左の刀が振られると、今度はその後方にいたウィンダムが斬られて落ちた。
 剣圧で少々離れた相手すらも斬ることが出来る、ティトゥスの剣。その剣を更に加速させるため一振り一振りに神経を集中させ、更に肩口に刀背を滑らせて全力で振るう。高速を越える超高速で撃ち出された剣圧は空気を裂き風を斬る真空の刃へと昇華し、その射程は通常の剣圧の比ではない。
 ティトゥスの卓越した技術と、オーガアストレイの超反応があって始めて可能な、常軌を逸した剣の業。これこそ──
「──魔剣、鎌居太刀・空。我が剣の錆となりたいものは来い──斬って捨てる」
 鞘に戻した両刀の柄尻に掌を添え、オーガアストレイが向かってくるMS部隊を睨むように見つめた。鎧武者が魅せた姿と技に、誰もが明確にあの脅威を──ユニウスの魔神を重ね合わせ、足を止める。
 ミネルバはそのままオーブ海域を離脱する。それを追う者はもう、連合には誰もいない。
「無事か、シン?」
『は、はい……ありがとうございました!』
 甲板に降り立ったインパルスが頭を下げる様に、魔剣の使い手は苦笑した。

 
 
 

「さあ、これからが大変だよ。オーブの、いや世界の運命を賭けた戦いの始まりだ」
 モニター越しにミネルバを見やるカガリとユウナ。その周囲の兵達は誰からとも知れぬうちに、皆がミネルバへ敬礼していた。
「頼んだぞミネルバ、この世界の未来を──そしてアスラン、出来るならばアークエンジェルを──」
 弟と仲間を止めてくれとは、カガリは口に出さなかった。
 敬礼しているのは、艦隊のトダカや他の兵も同様だった。ゴールドフレームの中のミナはミネルバに向けて一瞬だけ微笑を送った後、すぐにオーブ艦隊に指示を出し始める。
「連合艦に通達しろ。これよりオーブ軍は負傷者の救助にあたるので砲撃するなと。
 ──そして、先程の誤射についてじっくり話をきかせてもらうともな」
『ハッ!』
 漆黒の機体がタケミカヅチに降りると共に、オーブ艦隊が救助のため前進を始めた。

 
 
 

 ミネルバの脱出劇が繰り広げられている中、マルキオ導師は浜辺で一人、海の音を聞きながら己の決断を省みていた。
「キラとラクスには伝えておくべきだったのでしょうか……いえ、今の彼等にはまだ荷が勝ちすぎる。今は戦争を終わらせることだけを考えてくれればいい」
 酷く都合のいい考えだ、とマルキオは自嘲した。確かに『SEEDを持つ者』の運命は過酷であり、最悪この世界に仇すら為す可能性もある。彼が見つけた四人は皆純粋だが、どう転ぶかは未だマルキオにも分からない。
 ──などと言いつつ、自分は逃げているだけではないかと、マルキオは思う。結局の所、自分は体よく彼等を利用するつもりなのだ。その為の力が、彼等にはあるから。
 自らの罪を、贖うために──かつてこの目で見た恐怖の記憶を、消し去るために。
「その通りさ。分かっているじゃないか、マルキオ?」
 不意に聞こえた声にハッと振り返る。目は見えないが先程の声と雰囲気、そして『魔力』で分かる。今目の前にいるのは、少し前に自分を尋ねて来た男だ。
「神父アウグストゥス? 数日前に母国に帰られた筈では──」
「ハハッハ! そうだろうね、君はそう思うだろう。だがね、残念ながらそれは正解であり、間違いだ」
 何が違うというのか。目の前にいるのは間違いなくアウグストゥスのはずだ。違うのは馴れ馴れしい言葉遣いと、嘲笑としか思えない不快な笑いのみ。訝しんでいると、アウグストゥスは溜息を付いた。
「まだ分からないのかい? 仕方ない、ならば……これならどうかね?」
 瞬間、アウグストゥスの気配が一変した──否、『人間の気配ではなくなった』。汚れ淀んだ瘴気をそこら中に撒き散らし、人間が発するとは思えない呪いのような鳴き声を響かせ、同時にけたたましい嘲笑を上げる。そしてその気配は一つにして、無限。その場にいるのは一人の筈なのに、その身体から無数の汚らわしいモノが噴出すかのようなおぞましいな感覚。
 そして思い出す……あの日に見た光景を。三つの目を持った怪異を。盲いるまで、いや盲いても脳裏に残る、あの邪悪を!
「き、貴様は……無貌の……!」
「然り」
 その声もまた、人のものではなかった。恐怖感と嫌悪感にマルキオが震えながら杖を取り落とし、砂浜に膝をつく。しかしその顔は怯えをわずかに映しながらも、普段見せない激しい憤怒に歪んでいた。
「そう睨まないでくれ、我が愛する友よ。しかしそんなに怯えられては話も出来ないな」
 つまらなそうに怪異が言うと、その気配が元のアウグストゥスのものに戻った。それで恐怖は少し収まり、マルキオは杖を持ち直しアウグストゥスの姿をした怪異と対峙する。
「何をしに現れた? 貴様にとって私はもう、なんの価値もない虫ケラに過ぎないはずだ」
「どの口がそんなことをほざくのかね? 私の撒いた『種』を使って私の計画を水泡に帰そうとしているのは他ならぬ君だろう?」
 嘲りを隠しもしない怪異の言葉に憤りを覚えるが、マルキオは言い返すことなく唇を噛む。自分には何も出来ないのだ。この怪異を打ち倒すことも、封じることも。
 それが出来るのは、真に目覚めた『SEEDを持つ者』のみ。この怪異の最も望むモノであり、そして同時にこの怪異に対する唯一の切り札。
「その通りだ……そしてその日は近い。私には彼等を鍛える術も、資格もない。だが彼等を出来うる限り正しい道に導けたと信じている。彼らは平和のため闘い、その中で鍛えられていくだろう。そして彼等が正しき心を持ったまま力に目覚めた時、その時が貴様の姦計が潰える時だ」
「言うじゃないか。だが……果たして本当にそうかな?」
 言い放ったマルキオを、怪異は嘲笑った。その声には嘲りだけでなく、憐憫の色もわずかに含まれている。
「正直『いつも通り』、彼等はまだ芽をまったくつけていない。少々甘やかしすぎたのではないかね?予想外だったのはカガリ嬢の発芽だが、彼女は元々偶然の産物。気質はともかく能力までは発現しないだろう」
 それに、と一泊置いて怪異は歩みを進める。マルキオはあとずさるが、怪異はゆっくりと彼の傍へと近付いていく。
「この台詞を言うのも久しぶりになるが……知っているかい? 『最悪の魔導書』の知識を得、模倣し、それ故に邪悪に触れ光を失い、その代償に邪神の途方無き計画を知り、彼の者が落とした『種』を知覚する心眼を得た魔導の賢者よ」
 瘴気を含んだ吐息が、耳元に吹きかけられる。その瞬間、眼の見えぬマルキオの脳裏に、ハッキリと見えた。燃えるような真っ赤な赤い眼が、邪悪な笑みに歪む光景を。
「君が見つけた四人の『SEEDを持つ者』……その中にたった一人、『SEED』とは似ても似つかぬ正体を持った者がいることに」
 マルキオはその言葉を理解できなかった。同時に怪異が再び人の気配を捨て、なんともいえぬおぞましい感触がマルキオの全身を包み込んだ。
『ハハハハハハハハハハハハハハハ! このパターンも何千回あったか知れないが、君のその反応だけは
 飽きないぬぁあ! ブハ破ハはHAはHA羽はHA歯haハ!』

 
 
 

 時間にしてわずか数分後、浜辺には何の変化もない。静かに波が打ち、そよ風が吹き、マルキオ導師がそこにいる。他には何も、足跡一つない。怪異の痕跡など何処にも残っていない。
「おォォォォォォォ……おあァァァァおォォォォォォォォォォォォ!」
 その穏やかな場所でマルキオはうなだれ、光りなき眼から涙を流していた。その嗚咽は世界に絶望した呪いのようにも、全ての生命に許しを請う謝罪のようにも聞こえる。
「許してくださいキラ……許してくれギルバート……私は、私は……おお神よ! 貴方は何処におられるのですか!? もしおわすなら世界をお救い下さい! それが叶わぬなら……私を! 罪深き私を殺してくれェェェェ!」
 泣き喚く男に、答えは返ってこない。彼に出来るのはただただ、嗚咽を上げることのみだった。

 
 
 

 マルキオ導師の自殺が発覚し、その遺書がカガリの元に届けられたのは数ヵ月後──世界が大きな変革を向かえた直後のことだった。

 
 
 

「フフフ、これでいい。これで『アレ』はオーブから彼の手に届くだろう……さて、ウェスパシアヌスの方はうまくやってくれるかな? まあそっちはアウグストゥスに任せないとね。 アハハハハハハハハハハハ!」

 
 
 

to be continued──

 

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