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DEMONBANE-SEED_種死逆十字_第13話2

Last-modified: 2008-08-30 (土) 17:36:46

 数十機を数えるMSを引き連れ、陸上艦隊が大きく開いた谷の合間を突き進む。
 ミネルバはその先頭に立ち、正に先陣を切る戦女神といわんばかりの雄姿を熱砂の中で際立たせていた。
 格納庫ではMSがいつでも出撃できるようスタンバイし、メカニックたちも入念なチェックを行なっていた、
その最中。
「ウェストがいないだと?」
『おう、それにエルザとセトナ嬢ちゃんも。あんたなら知ってるかと思ったんだが……オラそこタラタラしてんじゃねえ!
 ……ったく、嬢ちゃんたちはともかくこのクソ忙しいときにどこいきやがったあの■■■■!』
 エイブスの言葉に、オーガアストレイのコクピットで待機していたティトゥスは首を傾げた。先日ふざけた
提案をしてきた時に殴り飛ばしてからマトモな会話はしていないし、何処に行ったかなど知るよしもない。
 ──今思い出しても頭が痛くなる。よりにもよって己の愛馬に、あのような珍妙極まりない代物を
取り付けようなどと……そういえば、アレを入れていたコンテナが見あたらぬような──
 ズンと響く振動。始まった艦砲射撃にティトゥスの意識が引き戻される。
『どれほどの困難、犠牲があろうともこの作戦は必ず成功させねばならない! 総員、奮戦せよ!』
『了解!』
 タリアの一喝に負けぬ、クルー一同の力強い答え。この戦いがザフトの今後に、そしてこの地に住む人々の
運命を大きく左右する事を、誰もが理解している。
 鍵を握るのは別行動を取るシンだが、万一シンが失敗した場合のことも考慮しなければならない。
 シンが失敗すればローエングリンを防ぐ手立ては無く、艦隊は大打撃を受けミネルバとてタダではすまないだろう。もしそうなったなら、ある程度は生き残るであろう艦やMSだけでガルナハンゲートを落とさなければならない。
犠牲は覚悟の上、どれだけの屍を踏み越えようともここは落とさなければならないのだ。
「我等は我等の成すべき事を……任せるぞ、シン。ティトゥス、オーガアストレイ、参る!」
 カタパルトから射出されたオーガアストレイが宙を舞い、岩と砂だらけの地へと着地する。背中には二本の
大剣が備えられたツヴァイストライカー。
 遥か前方にあるは岩壁と一体化してそびえ立つ、文字通りの鉄壁の要塞、ガルナハンゲート。
 段差になった壁の中ほどに備えられた円形ハッチが開き、超強大な陽電子砲ローエングリンの砲身が
あらわになる。その前方に、砲身を守る様にホバリングするMAの姿があった。
 六つの足を持つ蜘蛛の様な下半身に、通常のMSの上半身が乗った異形の機体。前面に展開した
陽電子リフレクターで、ローエングリンを射抜かんとする砲撃を容易く受け止める。
 ゲートの守りはゲルズゲーだけではない。無数のミサイルが、砲撃が、そしてMSがザフト艦隊に牙を向く。
瞬く間にゲートへの道は激戦の様相を呈していた。
「疾っ!」
 頭上でミサイルや砲弾が飛び交う中、オーガアストレイが疾る。ほぼ垂直の崖を各部スラスターを噴かせながら
一気に駆け上り、その上に陣取っていたダガーL部隊の目の前に飛び出す。ストライカーパックに二門の大型砲を
装備し、艦隊への遠距離砲撃を行なっていたダガーLたちは突然の敵出現に動きを止める。
「遅い」
 わずかなリアクションを取る間もなく、ダガー部隊は瞬く間に一機残らず切り伏せられる。
 刀を払ったオーガアストレイが、次の敵を見据えてその眼光を光らせた。
 
 
 
 ガルナハンゲートでの戦闘が始まる、ほんの数分前。シンはガルナハンゲートの側面に位置する坑道へと
向かっていた。渓谷の合間を飛行するコアスプレンダーに、チェストとレッグが自動追尾で付いて来る。
 コアスプレンダーを先導するように、前方を飛ぶ機体が二機。白い機体をトリコロールカラーの外装パーツで
覆ったジェスの『アストレイアウトフレーム・Gフライト装備』と、真紅の装甲に白い十字のラインが浮かぶ
カイトの『テスタメント』だ。アウトフレームにはコニールが同乗している。シンを確実に誘導するのが
彼らの役目だ。
『そろそろ目でも見える頃だ!』
「え、どこだ?」
 コニールの声にシンがキョロキョロと周りを見渡すがそれらしいものが見えない。アウトフレームが手に持ったガンカメラを動かしシンに方向を指し示す。
 モニター画像をズームアップしつつ目を凝らし、シンはそれを見つけ──その顔が直後強張り、やがて引き攣ったものへと変わった。
「あ、あんなに小さいんだな、入り口」
『なんだよ、データを見て分かってただろ』
「いや、実物を見るとまたなんというか……」
 通信モニターの向こうで何を今更と肩をすくめるコニールに、シンは苦笑をしながら返した。
 確かにデータで分かっていた事だが、実際見てみるとその坑道の入り口はデータよりずっと小さいように思えた。
 渓谷の壁に空いた切れ目という表現が相応しいだろう形状は細長く、分離した機体が入るかギリギリといったところだ。
 それに入り口を通り抜けられても、その先がまた難しい。データによれば入り口より多少は広くなって
いるようだが道が入り組んでおり、一度操作を誤れば壁に激突必死、しかも真っ暗というオマケ付き。
 正に落ちれば命はない、綱渡りの飛行だ。
「……けど、やってみせなきゃな」
 通信モニターへもう一度目を向ける。モニター越しにこちらを見るジェスの横で、不安げな瞳でこちらを
見つめるコニール。
「失敗なんて、出来るもんかよ……!」
 思い出されるのは家族を失った時の自分。あんな光景をコニールに、いや他の誰にも味合わせてなるものか。
 大きく息を吸い、吐き出す。深呼吸を繰り返すうちに、恐怖や不安が多少なりとも薄れていく。
 もうすぐ、戦闘予定時刻だ。
「よし……行くぞ!」
 コアスプレンダーが速度を上げ、逆に速度を下げたアウトフレームとテスタメントを追い抜く。そのまま一気に
坑道へと飛び込もうと、シンは更に速度を上げ──その背を悪寒が走った。
『……! しまった、アスカ!』
 カイトの叫びも認識半分、すぐさまインパルスへ合体しそのまま回転、壁面に足を付けそのまま跳ぶ。その直後、
坑道の入り口付近を無数の砲撃が襲った。
「な、なんだ!?」
 何とか足場に使える、道に使われていたのであろう壁面の突き出た部分に着地。周囲を伺ったその直後、シンは
己の目を疑った。
 唐突に岩陰や崖の上から、次々とMSの影が現れた。飛行装備のウィンダムや砲撃装備のダガーL、
目に映るだけで八機ほど。今の今まで、完全に動力を切って身を潜めていたらしい。
 攻撃はインパルスはもちろん、アウトフレームやテスタメントにも向けられる。
『作戦が……いや、ここの場所がバレていたのか!?』
『そんな! この坑道はもうずっと前から使われてなくて、人だって近寄る事はなかったのに!」
『ここの指揮官も馬鹿じゃなかったってことだ。周辺の地理を調べ、危険な箇所には伏兵を
 潜ませていたんだろう……当然といえば当然だが、厄介なことになったぞ』
 テスタメントが巨大なクローシールドの中からナイフ付ハンドガンを抜いた。アウトフレームに切りかかった
ウィンダムをクローで掴み、コクピットにナイフを突き刺すと共に弾丸を叩き込む。撃ち込まれる攻撃は的確に
シールドで受け止め、アウトフレームをフォローするのも忘れない。
「くっそー!」
 シルエットのないインパルスは飛行能力もなければ、決定的な火力もない。横幅の狭い足場に四苦八苦しながら、
ビームライフルで敵を迎撃する。ジェットストライカーを破壊しウィンダムを谷底へ落とすことに成功するが、
一歩足を踏み外せば自分も同じだと思うとぞっとする。
 状況はあまりいいものではない。Gフライト装備のアウトフレームは航続力はあるが機動性は高くなく、攻撃力は
皆無に等しい。高い戦闘能力を持つテスタメントはそのアウトフレームを守るため全力が出せず、
インパルスに至っては飛べないという最悪な状況だ。
 飛行装備のウィンダムは何とかなる。問題は二連装砲装備のダガーL部隊だった。
 『ドッペルホルン連装無反動砲』。ストライカーパック規格で造られた二門の大型砲で、対艦兵装にカテゴライズ
されているものの命中精度はMS戦闘にも通用するほど高い。更に肩部兵装の為両手は自由に使え、ライフルや
シールドを併用する事で更なる攻撃や防御も同時に行なえる。その分動きは鈍重になるが、動きを制限された
今のシンたちにとっては非常に厄介な相手だった。
「このままじゃ……!」
 硬い岸壁を砕く砲撃は、インパルスの走る足場をも削りとっていく。反撃の糸口を見出せぬまま、時間と疲弊
が募っていくばかり。
『カイト、オレたちはいいからあいつらをなんとかしてくれ!』
『バカいうな! お前をほっといたらすぐさま集中砲火で叩き落されちまう! PS装甲でもないその機体じゃ
 二秒と保たん!』
『けどこのままじゃっ……へ!?』
 カイトと言い争うジェスが不意に声を上げた。ズンと響くような大きな鈍い音と共に、崖の上から砲撃を
行なっていたダガーLの一機がいきなり落下してきたからだ。右半身が消失──正に『抉り取られた』
ダガーLはそのまま谷底へと消えていく。
『我輩がやらねば! だーれがやるのか! いーまに見ていろアンチクロス、全 滅 DA!』
『やられメカという理由だけで十分ロボ! ア○ロブリーガー、氏ねぇロボ!』
「ま、まさか……」
 意味不明な、しかし聞き覚えのある叫び声にシンは青い顔をする。もう一度轟音が響き、次に崖から
飛び降りてきたのは予想通り……
『ダイナマイトドリルアタアァァァァァク!』
 スーパーウェスト無敵ロボVerレイスタの姿だった。背中から伸びた二本のアーム、その先に付いた
超巨大ドリルの後方から火を噴き上げ、猛スピードで宙を駆ける。そのまま渓谷の間を抜けて、ダガーLを
隠れていた岩ごとドリルで貫いた。
 誰もが目を点にする中、瞬く間にレイスタは敵を全滅させてしまった。
『す、凄すぎる……』
『バカな、ありえんこんなこと……』
 ジェスとカイトがあまりの光景に現実逃避しかける中、何とか正気を保っていたシンはレイスタへと叫んだ。
「ドクターウェスト! アンタこんなところで何やってんだ!?」
『なにを言っているであるかシン・アスカ。貴様らが一方的にやられていたので助けてやったというに、
 第一声がそれとは無礼であるな』
「うっ……そ、それについてはありがとう……け、けどどうしてこっちに?」
『うむ、素直で宜しいのである。なに、ちと貴様に試して欲しいものが──』
『あーーーーっっっ!』
 ウェストの言葉をコニールの叫びが遮った。キーンと響いた耳を押さえながらシンが訊く。
「どうしたコニール!」
『入り口が……そんな!』
 入り口。その言葉にシンは坑道へと目をやり……愕然とした。
 土砂と岩にまみれ、坑道は完全に塞がっていた。最初の不意打ち、そして戦闘による振動で
崩れ落ちてしまったのだろう。
 これではローエングリンまで辿り着くことが出来ない。このままではザフト艦隊は、ミネルバは……
「なんてこった……急いでミネルバに伝えて、作戦の中止を──」
『もう始まってる、間に合わん……それにザフトは撤退できても、ガルナハン側のレジスタンスは
 どうしようもない』
『あ、ああ……!』
 カイトの指摘にコニールが涙声になる。ジェスは何も言えず、シンは無力感と悔しさに唇を噛み締めるばかり。
『あいや待たれよ! おじいちゃんは言っていた、諦めたらそこで試合終了ですよと!
 別段、名前に同じ字が一文字あるだけで血縁どころか面識もないが』
「けどどうしろってんだ! 道はもう塞がって……」
『道がないのなら作ればよい! ほれとっとと上に上がってくるのである!』
 相変わらずドリルから火を噴いて、レイスタは崖の上へと移動していく。インパルスはテスタメントに
引き上げてもらう。
『あ、皆さんお待ちしてました〜』
 そこには少し前にミネルバに持ち込まれたコンテナの一つと、その傍に立つセトナがいた。
「な、なんでこんなもんがここにあるんだ!?」
『そんなの担いで持ってきたに決まってるロボ』
「あっ、そ……」
 エルザの言葉に、シンは考えるのをやめた。もはやどのような不条理が来ても驚かない、そう決心した……
その一瞬だけは。
『さあ、目玉かっぽじってよく見るのである! 我輩の作り出した新たなる傑作の姿を! セェトナァ!』
『は〜い。ポチッとな♪』
 ウェストがギターを掻き鳴らすのを合図に、セトナがコンテナの展開スイッチを押して離れる。コンテナの
四方と天蓋が開き、その中身が露になる。
 ──それは、誰一人として予想し得なかった、正に異形の物体であった。
「なっ……なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 先ほどの決心も何処へやら、シンの腹の底から吐き出された叫びが渓谷に響き渡った。
 
 
「うう……あれでホントになんとかなるのかぁ?」
「なんというか、もう在り得ないとか不可能とかいう言葉を使う気にもなれん……」
「あれは流石に写真取って公表するのはマズイよなぁ……ああ、ガルナハンの日差しが暑い……」
「はい、冷たいお茶をどうぞ〜」
「ありがと、セトナ……」
 シンがガルナハン・ゲートへ向かった後、いろんな意味で疲れたジェスたちはMSから降りて地面に
へたり込んでいた。もうセトナがどこからお茶を出したのか考える事すら億劫だ。
「フハハハハ! な〜に心配は無用! 我輩の造ったアレの力なら陽電子砲だろうとMAだろうと
 もろともに粉砕、玉砕、大喝采であ〜る!」
「玉砕してどうするよ……つか、あんた等はついていかないのか?」
「ドリルの燃料がそろそろマズイロボ」
「ふ〜ん……」
 ギターが五月蝿いなあと頭の片隅で思いながら、ジェスはセトナに渡されたお茶を啜る。喉に流れる
冷たさが、少しだけ疲れを和らげた。
 
 
 大剣シュベルトゲベールが、シールドごとウィンダムを十字に両断した。すぐさまサーベルを
構えたウィンダムが、三方からオーガアストレイを串刺しにしようと迫る。切っ先がオーガアストレイに迫った
瞬間、オーガアストレイの姿が突然消える。
 シュベルトゲベールの刀身を柱代わりにし、腕の力だけで身体を持ち上げたオーガアストレイ。そのまま
柄を離し宙返り、その手には既に二本の刀が握られていた。
「──斬」
 刃が疾る。オーガアストレイが地に足を着くと同時に、寸断されたウィンダム達は残らず爆散し果てた。
 だがオーガアストレイは止まれない。横へ跳んだ瞬間、砲弾の雨あられが側面をかすめ地面を抉った。
「ちぃっ……」
 既に十数機を斬り伏せたオーガアストレイだが、敵の勢いはまるで留まる事を知らない。ザフト艦隊も、
当初予定していた半分も進めていなかった。このままではまるごとローエングリンの餌食だ。
 アスランのセイバーやマハムール基地所属のバクゥハウンドなど、MSの何機かは先行してローエングリンまで
辿り着いているが、やはり件のMA──『ゲルズゲー』とそれに率いられた精鋭部隊を前に手も足も出ずにいた。
攻撃を周囲のMSに任せ徹底して防御体勢を取られては、先のザムザザーのように背面を取るのも難しい。
エネルギー切れを待とうにも、そんな事をしている間にローエングリンのチャージが済んでしまう。
 何度目かのセイバーのビーム砲が、やはりリフレクターの前に拡散する。その後方ではチャージを続ける
ローエングリンの姿。
『クソッ! このままでは!』
『もう! シンは何やってんのよ〜!』
『弱音を吐くなルナマリア。シンならやってくれる……やってくれる筈だ……!』
 パイロット達の声に焦りが混じり始める。信じている、信じてはいるが、このままでは──
「ぬおおおおお!」
 ティトゥスが操縦款を倒し、オーガアストレイが跳んだ。多少の無茶は覚悟、他を無視し一直線に
ゲルズゲーへと向かう。
 対ビームコーティングを施した実体剣なら、陽電子リフレクターを貫ける。貫くまでに数秒の隙が出来るのが
難だが、今はそれに賭けるしかない。
 だがオーガアストレイの進路を、護衛のMSたちが阻む。
「邪魔だ!」
 一機目を右の刀で一刀両断。二機目を左の切り上げで。三機目の胸を突き刺す。四機目を──
「ぐっ!」
 そこまで来たところで、砲撃がオーガアストレイの右側面を打った。右肩の一部がスラスターごと持っていかれ、
推力ベクトルの狂ったオーガアストレイが岩肌に激突する。
「この、愚か者が……!」
 長距離射撃に意識を向けるのを失念していた己を罵倒しながら、ティトゥスはオーガアストレイを立たせる。
「まだなのか……シンよ!」
 ティトゥスが声を上げた、その時。 
 
『うおうおおおおぅおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっ!?』
 
 岩の砕ける音と共に、凄まじい叫び声が轟いた。
 ガルナハンゲート近くの分厚い岩壁を貫いて、何かが飛び出してきたのだ。それを見たアスランが叫ぶ。
『イ、インパルス! ……なのか、あれは?』
 尻すぼみな声になったのは仕方がなかった。なにせインパルスの姿は今まで見たこともない、非常に奇妙な
ものだったからだ。
 鈍い鉄の色の機体の節々を緑や金で彩った、地味なのか派手なのか判断しかねるカラーリング。
背中に背負った巨大なブースターらしき装備。これだけならまあインパルスと断言できなくもない。
問題は装備した兵装だった。
『ド、ドリル……?』
 そう、ドリルだった。ブースターの両側面に、巨大なドリルがくっ付いた太いアームが二本。更に顔を
スッポリ覆ったパーツの先にも少し小さいドリル。そして二つのキャタピラがついたパーツが胸の前に
装備されている。
 三つのドリルを先端に向けた、MAモードとでも言うべき形状。その状態でインパルスは岩壁をぶち抜いて
現れたのである。
『あれって……まさかぁ……』
 凄く嫌そうなルナマリアの声が響く。その理由を、ミネルバのクルーは一人残らず理解していた。
 哀れにもインパルスの進行方向に立っていたウィンダム三機が攻撃をかけるが、ビームはドリルに当たった途端
あらぬ方向に逸れていく。そのまま一直線に突き進むインパルスは、ウィンダム達をそのドリルでまとめて貫いた。
「真逆……あれをシンに使わせるとは……」
『あれを知っているのか、ティトゥス!?』
 ティトゥスの言葉にアスランが反応する。確かにもう確信しているが、最後の希望としてティトゥスにそれを
否定して欲しかった──恐らく無理だとしても。
 そんな中彼等の目の前で、ようやく突撃を止めたインパルスが姿を変えていく。
 胸のキャタピラユニットが二つに割れ、それぞれ脚部に装着されると共にキャタピラが足の裏に。ドリルアームが
スライドし、両肩の上にキャノンの用に突き出る。顔を覆ったパーツがコクピット部分に移動し、胸の前で
ドリルが回転する。
 ──なんというか、凄まじくシュールな外見だった。
「あれはあのドクターウェストの造った狂気の新型ストライカーパック……ドリルストライカー!」
 ティトゥスの答えは予想通り、かつもっとも聞きたくないものであった。
 
 
「ハァー、ハァー……」
 シンは荒い息をついて新たなインパルス──『ドリルインパルス』のコクピットにいた。
 酷い目に合った。何故かシルエットにストライカーパックを装備可能な互換ユニットまでこしらえたあの
■■■■に無理矢理送り出され、凄まじすぎる振動に意識を飛ばしそうだった最悪の乗り心地に耐えた
約数分。
 しかし、おかげで当初の目的どおりローエングリンの近くに辿り着いた。何故か戦場は気まずい雰囲気に包まれ、
全ての視線がこちらに集中しているような錯覚を覚える。
 そりゃこの見た目じゃな──とこんな機体で現れざるを得なかった自分に絶望しかけるが、そんな気持ちは
ローエングリンを見た瞬間吹き飛ぶ。
 機体が何であれ、自分には果たさなければならない役目があるのだ。
「あれだ……絶対に止める!」
『シン! 何故──』
 通信機から仲間達からの声が響くが、既に耳に届いていない。ブースターを噴かせ、インパルスが
ローエングリンへと跳んだ。
 インパルスの動きに反応し、ウィンダムの一団がインパルスの行く手を阻もうと前に出る。
「邪魔すんな!」
 戦闘の一機を、インパルスの蹴りが襲った。装着されたキャタピラが高速で駆動し、チェーンソーの要領で
装甲を引き裂く。続けて襲ってきた二機は、肩のドリルユニット下部に備えられたマシンキャノンで
蜂の巣にする。
 ローエングリンへと肉薄するシンの前に最後の壁が迫る。陽電子リフレクターを展開するゲルズゲー。
「このお!」
 ドリルユニットを叩きつけるように真正面から突っ込む。高速回転するドリルがリフレクターに接触し、
火花が散る。だがやはり、ドリルはリフレクターに突き刺さりはするもののゆっくりとしか進まない。
 周囲のMSがライフルを乱射してきたので、慌ててインパルスは後退する。ビームは数発コクピットを
正確に狙っていたが、胸の小型ドリルがビームを弾いてくれたことで事なきを得る。
「クソッ、アイツを何とかしなきゃ……」
 ゲルズゲーの後ろのローエングリンはもうチャージ完了寸前。もはや時間の余裕は無い。
「シールドに突き刺さる事は突き刺さるんだ……あとは一気にブチ抜くだけのパワーさえあれば!」
 ウェストに教えてもらったコードを入力。ドリルインパルスがその能力を最も発揮できる形態──すなわち、
ドリルの最大パワーを引き出す必殺の姿を表す。
 肩のドリルユニットがブースターからはずれ、両腕と一体化する。ドリルが高速回転すると共に、アームの
上下からスラスターがせり出した。
「うおおおおおおおお!?」
 ブースターとスラスターが連動し、圧倒的な加速をもってしてインパルスがゲルズゲーへと突貫した。
加速から来る圧倒的なパワーにより、ドリルの半分が一気にリフレクターを貫通する。
「よし! このまま……へっ!?」
 ドリルとリフレクターのぶつかり合いによって生じる圧力……それが突然軽くなった。
 ドリルを受け止めたゲルズゲー──その脚部のほうがパワーに耐えられず、リフレクターごとゲルズゲーが
後方へ押されているのだ。
「ええっ!?」
 そして無論、ゲルズゲーの後方にあるのは──ローエングリン。
「えええっっ!?」
 ローエングリンの砲身にゲルズゲーがぶつかると同時にドリルがリフレクターを貫通、ゲルズゲーを
串刺しにする。そしてそのまま半分ひしゃげたローエングリンへと突っ込むインパルス。
「ええええええええええええっっっ!?」
 シンの視界が、まぶしい光に包まれ──
 発射寸前だったローエングリンは、激しい炎と衝撃と共に爆発四散した。
 
 
 炎と煙を上げるローエングリンとザムザザーの残骸。それが示すのはザフトの勝利、そして連合の敗北。
 しかしながら、勝利の美酒も敗北の遺恨も、誰一人として感じる心の余裕は持っていなかった。
 目の前で繰り広げられたあまりにも突飛で滑稽な、喜劇とも悲劇とも付かぬ一連の事態。そのあまりにも
理解しがたい光景に、だれもが完全に思考を停止していた。
「……シンは、どうなった?」
 真っ先にティトゥスが我に帰れたのは、もともと非常識極まりない魔術の世界と■■■■の所業をよく知る為か。
その言葉に仲間達も我を取り戻す。
「し、シン! シン返事しなさいよ! シンってば〜!」
「レイ、手伝ってくれ! ローエングリンを消化してシンを掘り出さなければ!」
「りょ、了解しました!」
 彼等を筆頭に、再度動き始める一同。しかし誰も彼もその動きは疲れ果て、覇気がなかった。
「と、とりあえず何とかなりましたね、艦長!」
「そうね」
「あ〜、シン大丈夫かなあ〜……き、きっと無事ですよね!?」
「そうね」
「あ、あの〜敵が何機か逃げ出してるんですが、追撃は……しなくていいんですかね」
「そうね」
「……やる気出しましょうよ」
 そんな光景がミネルバのブリッジであったとか、なかったとか。
 
 ──数分後、ガルナハンゲートよりザフトに正式な降伏宣言。ザフトは即座にこれを受諾した。捕虜の抵抗や
ザフト側の虐待など、トラブルは一切無かったという。
 
 ただしそれは戦場において、連合とザフトの間だけの話だったが。
 
 
 
 
 
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