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DEMONBANE-SEED_種死逆十字_第14話3

Last-modified: 2008-11-28 (金) 03:24:57

「ステラの着替え、終わったわよ男ども」
 ルナとメイリンに連れられて、服を着替えたステラが車から戻ってきた。
「こういう服初めてだけど、嫌いじゃない……ありがとルナマリア、メイリン」
「どういたしまして。と言ってもその服全部メイリンのやつで、あたしは選んだだけなんだけど。
 もうちょっと胸があればあたしのもぴったりだったのにね〜」
「お姉ちゃん、それ自慢のつもり?」
「あ、でもステラ腰細いから下はあたしのでも入ったかも。メイリンのじゃブカブカかしらね〜」
 ジト目で睨んでくる妹をスルーし、悪びれもなく言うルナ。今にも爪かハンカチでも噛みそうな勢いだなと、唸るメイリンを見たシンの頭にそんな考えが浮かんだ。
「ほらシン、ボーっとしてないでステラに言ってあげないと」
「へ?」
「感想。男なら気の利いたこと一つぐらいいえないとダメよ」
 ルナに言われて、シンはステラの姿をまじまじと見つめる。
 ロゴの入ったシャツにショートパンツというラフな服装。先ほどまで来ていた清楚なワンピース姿とは
イメージが随分変わり、活発な感じが強く出ている。露出度も上がっており、ついシンは赤面してしまう。
 とはいえ、中身は相変わらずぼけっとしているのは変わらないらしい。何故シンが顔を赤くしているのか
分からないらしく、不思議そうな顔で首を傾げている。
「シン、どうしたの?」
「い、いや……似合ってるよ、ステラ」
「ありがと。それよりシン、顔が少しヘン。赤いけど、少し青い」
「あ、いやこれは……なんでもない」
 アウルに一発もらって出来た頬の痣を手で隠しながら、慌ててシンは言いつくろう。ちなみに後頭部にもスティングにもらった一発でたんこぶが出来ている。
 ステラを助けてくれたからその程度で済ましてやる、と言って憮然としていたスティングは表情を崩すと、ルナとメイリンに頭を下げた。
「本当にありがとうございました。服までお世話していただいて……代金はこちらで支払わせてもらいます」
「そんな、いいですよそんなこと気にしないで」
 丁寧な対応を示すスティングに、メイリンがあたふたしながら返す。
「しかし、それではこちらの気が済みません」
「いいじゃんスティング。気にしないって言ってるんだからさ」
「アウル!」
 生意気な態度のアウルをスティングが諌めるが、それに反発するようにアウルは口を止めない。
「それに服もらったのはいいけど、あんまりセンスがいいわけじゃないし。ステラには似合ってるけど、
 自分で着てたらはみ出すんじゃね? 脂肪とかがさ」
「ぬぁんですって〜!?」
 アウルの言葉に怒ったメイリンがズカズカと彼に詰め寄る。半ば冗談のつもりで言ったアウルはその反応に慌てた。
「な、なんだよ!」
「何よ! そっちだってそんなにセンス良くないじゃない! その服、なんか古臭くて似合ってないよ!」
「んなっ!? こ、これは僕が選んだんじゃない! ネオの奴が……」
「それじゃ、ほんとはセンスがあるって言うわけ!?」
「あ、あったりまえだろ!」
 売り言葉に買い言葉とはこのことか。他人の入り込む隙間のないまま、メイリンの勢いにアウルが圧倒されていく。
どうやら先ほどルナにスタイルで勝ち誇られた怒りも吐き出しているようだ。
「じゃあ、選んでよ!」
「はあ!?」
「代わりの服、きみに買ってもらうから一緒に来て選んで! それにシンの代わりの服も
 買わなきゃいけないから、そっちも!」
「なんでそうなるんだよ!?」
「あの、メイリン、俺は別にこのままでも」
「シンは黙ってて!」
「はい……」
「メイリン、怖い……」
 一喝によりシンは即時降伏、ステラは怯えてしまってその背中に隠れる始末。普段はどちらかといえば大人しいのだが、怒ると怖いのはやはりルナの妹である。
「もうそれで構わないだろう。付き合って差し上げろ、アウル」
 投げ遣りに、スティングはアウルへとそう言い放った。
「スティング!?」
「お前もステラを見てなかったんだ、責任はあんだからそれぐらいしろ…
 …お前にセンスとやらがあるかどうかは甚だ疑問だが」
「あ〜もう……分かったよ! 行きゃいいんだろ行きゃ!」
 観念したのか、不満げな表情ながらも承諾するアウル。メイリンはよしっ、と胸の前で両掌を握り、絶対に勝つといわんばかりに気合を入れる……何をどう勝つつもりかは知らないが。
「メイリンはそれでいいとして……スティングさん、だっけ? あたしも一つ注文してもいいかな」
「ええ、勿論」
「それじゃあここであったのも何かの縁だし、今日の夕食一緒にどう? あたしの分はそっち持ちで、
 っていうのがあたしへの支払いってことで。そっちの都合がよければだけど」
「ええと、確か合流が……大丈夫だと思います。あまり遅くならないようなら、ですが」
「それはこっちも同じね。あとこれはお願いなんだけど、同年代みたいだし敬語はやめてくれない?
 あたしはずっと普通に話しちゃってるし」
「……オーケー。こっちもその方がやりやすい」
「決まり」
 スティングが笑い、ルナがそれに笑い返す。
「皆もそれでいいかしら?」
「うん! シン一緒、みんな一緒、嬉しい!」
「ああ、そうだな。俺も構わない」
「俺に異論は無い」
「うん、いいよ。でもお姉ちゃんいいな〜、一人だけ奢りで食べ放題なんて」
「それじゃお前もそっちにすりゃいいじゃんか、服なんかよりさ」
「それはダメ!」
「ちぇっ……まあメシについては僕も文句ないよ」
 満場一致。満足気にルナは頷く。
「さてと、それじゃ行動しますか! シン、車乗る前に出来るだけ水絞っておきなさいよ!
 さあ、食べる前に動いてガンガンお腹空かせるわよ〜!」
 そう宣言して車の方向へ歩いていくルナ。その嬉々とした様子に、スティングはふと漏らす。
「どんだけ食う気だ、あの女……」
 その直後、ポンと二つの手が同時にスティングの両肩を叩いた。
「覚悟はしたほうがいい」
「ご愁傷様です」
 それだけ言って、レイとメイリンはルナを追っていく。話を聞いていたアウルは複雑な顔をスティングに向けた後、同じように歩いていく。
「足りないなんてことはないよなあ……いざとなったら、ネオから借りたカードがあるからいいか」
 諦め気味な呟きは、海辺で服を絞っているシンと付き添うステラには聞こえなかった。
 ──後日、預金の残高を確認したネオが絶叫したとか、しなかったとか。

 
 

「あ、それとかいいんじゃない?」
「これかぁ? よっと」
 街中のショッピングセンター内。衣料品関係のショップが設置された階で、メイリンに促されてアウルはジーンズをハンガーから取る。
「ねえねえ、これもいいんじゃないかな? アウル君やっぱり変に気取ったのよりも
 カジュアルな服のほうが似合うよ、絶対」
「ん〜、今までそんなの気にしなかったからなぁ……お、それカッケーじゃん」
 メイリンから迷彩色のジャケットを手渡され、珍しげに目を輝かすアウル──と、そこでハッとして気づく。
「ってお前が僕の服を選んでどーすんだよ! 僕がお前の服選ぶって話じゃなかったっけ!?」
「あ、そうだった。エヘヘ、ごめんごめん。それじゃお姉ちゃん、私たち向こう行ってるね〜!」
「おっおいちょま! 僕を置いていくな!」
 女物を専門に扱うブースに早足で向かうメイリンを、アウルが追いかける。試着室の前に立っていたルナは、その様子を少々呆れ気味に見ていた。
「はしゃいじゃってまあ。でも、あれじゃ一着や二着じゃ止まらないわね。あのアウルって子、
 押されたら弱そうだし……お金大丈夫かしら?」
 そんなことを考えつつ、ルナは試着室の中に呼びかける。
「シン、もう終わった?」
「ああ、あとこれで……今出る」
 試着室のカーテンを開け、濡れた服から着替えたシンが出てくる。その姿を見たルナが眉を潜めた。
 漢字の『兄』がでかでかとプリントされたシャツに、その上からやけに真っ赤な長袖のパーカー。下は色褪せた生地に絵やら文字やらが所狭しと書かれたジーンズで、ベルトは留め金がなぜかドクロを象っている。
 単品で見ればどれも決して悪いものではない、悪いものではない、と思うが──
「……とりあえず、アウルのセンスは疑わざるを得ないわね」
 ため息をついたルナにシンは乾いた笑みだけ返し、ふとキョロキョロと周りを見渡す。
「あれ、他の皆は?」
「メイリンとアウルは服探し。レイとスティングは服のことはよく分からないから、適当なところで暇潰しするって。
 集合場所と時間は決めてるから、それまであたしたちもブラブラしてましょ」
 投げ遣りにいうルナ。その横に立っていたステラが、シンを見ながら言う。
「シン、かっこいい」
「そ、そうかな? ありがとう、ステラ」
 自分ではそう思っていなくても、褒められて悪い気はしないらしい。もしくは褒めてくれたのがステラだからか。
(こっちはこっちでヘラヘラしちゃって……なんかムカツクわね)
 自分でもよく分からない悶々とした気持ちを心の隅に押しのけつつ、これでスティングも似たようなセンスならどうしようもないなあと、ルナは取りとめもなく考えた。
 聞くだけ無駄かなと思いつつ、ステラに訊ねてみる。
「ねえステラ、お兄さんもアウルと服の趣味は同じなのかしら?」
「……お兄さんって、誰?」
「誰って、スティングのことに決まってるじゃない」
「スティング、ステラのお兄さんじゃないよ?」
 へっ? と、ルナとシンはマヌケな声を上げてしまった。

 
 

「では、君達は実の兄弟というわけではないのか……むっ、やるな」
「ああ。俺達は皆、まあ孤児みたいなもんでな……っと、甘えよオラァ!」」
 空を翔る羽根の付いたロボットが放つレーザーが、着地しようとした両腕が砲になったロボットを貫く──
という光景が、ゲーム機のディスプレイ上に映しだされている。
 MSを操縦するのに似た、しかし挙動はMSより軽快で迫力のある、一騎打ち形式の対戦ロボットゲーム。
隣り合う二基の筐体の座席に付き、レイとスティングがそのゲームで争っていた。
 コンティニューしようと硬貨を財布から取り出しつつ、レイがスティングに訊く。
「孤児か……あの時のステラの慌てぶりは、その関係で?」
「まあそんなもんだ。今の引き取り手のとこに来るまでも色々とあった……らしい」
「今は何を?」
「ああその……ジャンク屋だよ。世界中を巡り巡ってジャンクを漁って、その日暮らしの毎日だ。
 前のユニウスセブン落としからこっち、戦争が起きて移動が面倒になるわ、ジャンク屋組合があの件に
 関わってたとかなんとかで一部のバカどもから風当たりが強くなるわ、散々だけどな」
 施設で対コーディネイターの訓練と強化を受け、今は連合兵としてザフトと戦っている──などとは
言えるはずもない。前もって頭に叩き込んでおいた『部外者向け』の架空プロフィールで、スティングは誤魔化した。
 レイに不審な様子は無く、どうやら自分はそれなりに芝居は出来るらしいと安堵するスティング──
レイもまた、ユニウスセブン落下で被害を受けたスティングたちにわざわざいう必要はないと、ザフトの軍人なのを隠すことにしたとは気づかずに。
「まあ兄弟ってのは間違ってないかもな。ガキの頃から一緒に居るし、さしずめ俺は長男ってとこか。
 ボケっとしてる妹に生意気盛りの弟で、扱い辛くてしょうがないぜ」
「そうか……気持ちは分からなくもない。兄弟とは違うが、同期の仲間がクセの強いもの揃いでな。
 片や真っ直ぐだが何事も猪突猛進、片や少々調子に乗りやすいお転婆……しかも二人とも変に気難しいときている。
 最近上司に有能な人物が着いたおかげで、随分と苦労が減った」
「それシンとルナマリアのことかよ? ハハッ、確かにそんな感じするなあいつら。俺の方も有能……
 とは言えねえが、面倒見のいいオッサンがいるお陰で結構助かってる」
 雑談を交わしながら、ゲームをプレイする二人の操作にはよどみが無い。
 機動力を武器に動き回り、ヒット&アウェイを繰り返すスティング。ゲームの経験があまりないレイは
回避に徹しているが、それでも十分に動けている。
「初心者にしちゃやってくれるぜ……けどすこし意外だった。
 お前、最初の印象じゃ無表情でとっつきにくそうな奴だと思ったが、意外と付き合いがいいじゃねえか。
 こうやって話にも結構乗ってくれるし、暇潰しにも付き合ってくれるしよ」
「話を振られれば会話するくらいの協調性は持ち合わせているつもりだ──それになんというべきか、
 相性とでもいうのか。それが合うんだろう」
「──かもな」
 お互いに手のかかる仲間がおり、頼れる年長者がいる。似通った境遇が、二人に共感のようなものを抱かせていた。
「さて、お互いを知ったついでにもう一つ、俺について知ってもらおうか」
「あん?」
「……俺はそれなりに負けず嫌いだ」
 無表情たったレイが不敵な笑みを作った瞬間、スティングの自機が爆発に巻き込まれ転倒する。
「なっ!?」
「なるほど、こういう戦い方をすればいいのか。悪くない機体だ」
 弾速やホーミング能力に大きな差がある各種武装による時間差攻撃や、フィールドに砲台を設置しての多角攻撃を得意とするトリッキーな機体──レイが選んだ機体の特性を、油断してすっかり忘れていたスティングは今になって思い出す。
「操作はほぼ把握した……これまでやられた借りを返すとしよう」

 
 

「──ってわけでさ〜。スティングの奴いっつも兄貴ぶってるけど結構熱くなりやすかったり、そのせいで
 ドジ踏んだりすることも多いんだぜ?」
「ふ〜ん。あ、これいいかも。だけど柄が少し派手過ぎるかな」
「……お前な、人に話させといてちゃんと聞いてるか?」
「うん、聞いてるよ。ああ、でもこっちは逆にちょっと地味かも」
 どう見ても服選びに集中しているメイリンに、アウルは怒る気も失せてため息をついた。時折思い出したようにこちらに話を振ってくるが、いざ話してみれば毎度こんな感じだ。
「ほら、アウル君も選んでよ」
「って言われてもなあ……女の服なんてよく分かんないよ」
 最初こそ意気込んでいたが、いざ選ぶ段階になるとアウルは途方に暮れていた。
 そもそも女物ばかりのスペースに男の自分がいると思うだけで居心地が悪い。チラチラと女性店員に
見られている気がして落ち着けなくなる。
 逃げるように視線を泳がせたアウルは、ふとハンガーに並んでいた服の一つに目を留めた。
「なあ、これなんかどうだ?」
「え?」
 アウルが手に取ったのはチェックのフレアスカートで、丈は長すぎず短すぎずといった普通のものだ。それを見たメイリンの反応はあまり良くはなかった。全然ダメというわけではないが、あまり気が乗らないと
言った感じだ。
「なんか地味っていうより、大人し過ぎる感じ。こういうのはあんまり着ないなあ」
「やっぱりね。さっきからミニスカとかショーパンとかばっか選んでたからそうだと思った。
 そういう、なんてーの? 若者向けってのも似合ってないことはないけどさ。こういう大人っぽいのも
 悪くないんじゃないかって思うぜ? 上もタンクトップとか派手なプリントシャツじゃなくて、
 ブラウスとか合わせたら結構イイ線いくんじゃない?」
「どうなんだろ。それじゃ後で試着してみる……フフ、でもちょっと意外。アウル君シンに選んだ服とか、
 絶対派手なの好きだろうからそういうの薦めてくると思ったのに。コーディネートのセンスは良くなかったけど」
「う、うるっさいな! いいだろ、僕が似合うと思ったんだから! べ、別に買いたくなけりゃ
 他に好きなの選びなよ!?」
「はいはい、それはちゃんと着てから決めるからいいですよ〜」
 クスクスと笑うメイリン。その笑顔がなぜか気恥ずかしくて、アウルは視線を逸らす。
「意外といえば、アウル君がジャンク屋っていうのも意外だけどね。普通に学校とかに通ってる歳じゃない?」
「まあ、こっちにも色々事情があるんだよ。それに歳はそっちも同じくらいだろ、そういうお前は何やってんの?」
 何気ない質問。それにメイリンは迷うでもなく、率直な答えをアウルへと返した。
「私? 私はね──」

 
 
 

 所変わって、ミネルバの格納庫。
 クルーの大半は休暇に入っており、メカニックたちもほとんど出払っている。
 とはいえ、残っている人間が一人もいないわけではない。
「ふむ、やはり良い結果は得られぬようであるな」
「当然だ。やはりあのような物、拙者には合わぬ」
 ウェストの不満足気な言葉に、オーガアストレイのコクピットから顔を出したティトゥスは憮然として言い返した。
 先ほどまでティトゥスは、シミュレーターでドリルストライカーのデータを使用していた。正直またウェストを殴り倒してでも拒否しようと思ったティトゥスだったが、一度だけでもデータが欲しいと、珍しく割と真剣に言ってきたウェストに折れて模擬戦闘を行なうことになったのだ。
 結果だけ見れば、オーガアストレイは勝利した。しかしながらその過程は、ティトゥスにとってもウェストにとっても満足いく結果ではなかった。
「せっかくのドリルを何故使わぬか貴様は! あのドリルはアームによって前後左右東西南北中央問わず
 あらゆる方向に対応できると教えたろうに! 何故にその場は避けた挙句わざわざ振り向くのであるか!
 あまり宝を持ち腐れるともったいないオバケが出ますよ!?」
「眼前に敵が多数いる状態で、後方の敵に気づけはしても対応まで出来る筈があるまい! あの場に留まり
 囲われるなぞ愚の骨頂よ! しかも両の刃を踏み込んだ直後に、ドリルの操作まで手が回るか!」
「ふん、あの程度の苦境で弱音を吐くのであるか? その程度で人の境地など片腹痛いのである」
「……拙者を愚弄するか、ウェスト」
 剣呑な雰囲気を纏い、突き刺すような視線をウェストに向けるティトゥス。当のウェストは平気な顔で背を向けると、オーガアストレイから離れていく。
「何をイラついているのであるか……まあ良い、データは取れたので我輩は失礼するのである。
 少々電波を受けて破壊ロボVerレイスタの強化プランや新たなストライカーパックの設計を閃いたのでな。
 お主は好きにすると良い」
 去っていくウェストの背を睨みつけていたティトゥスだったが、目を伏せるとシートに座り込みハッチを閉じる。
 自嘲を含んだ苦悩に、表情が歪んだ。
「……幼稚よな。痛い所を突かれて、他者に当り散らすなど」
 先のガルナハンにおいて、ティトゥスは醜態を晒した。数だけの雑兵に押され、たかがカラクリ仕掛けの防御壁を斬る事も出来ず、挙句の果てに油断から敵の攻撃を受けて地べたに倒れ伏す始末。
 それはあくまでティトゥスの認識であり、ザフト全体で見ればティトゥスの撃墜数、戦果は他の兵とは比べ物にならないものである。だが、そんなことはティトゥスには関係ない。
 ──足りない。もっと早く。もっと鋭く。
 力への渇望、無力への憤り。オーガアストレイを手に入れてから久しく感じていなかった満たされぬ思い。
 今度は機体の性能ではなく、純粋な己自身の力に対して。
「これでは、偉そうにシンに説教出来る立場ではないな……」
 かつてのように魔道を促す声は聞こえず、魔術に頼ろうとする浅ましさもない。
 ただ、憤怒とも悲嘆ともつかぬ焦燥感のみが、胸の奥底で燻っていた。

 
 
 

 すっかり日が落ちたディオキアの町。街灯の照らす公営パーキングを、シンたちは歩いていた。
「うっぷ、調子に乗って食べ過ぎた……」
「お姉ちゃん、いくら奢りだからって食べすぎ。私みたいに腹八分目で済まさないと」
「どっちもどっちだよ……」
 少し気分の悪そうなルナと彼女に肩を貸し介抱するメイリンに、げんなりしながらスティングが突っ込んだ。
 そんなスティングに、メイリンの買った服の入った紙袋二つを持たされているシンが訊く。
「けど本当にいいのかよ? 結局全員分の代金、払ってもらっちゃって。俺達も大分食ったし、
 少しは払ったほうが」
「構わんさ。助けてもらったのもあるが、本当に今日は楽しかったからな。その礼だ。
 どうせほとんど俺達の金じゃないし。なあアウル?」
 手を振って遠慮の意を示しつつ、アウルに同意を求める。いつも通りの生意気な口から遠まわしに同意の言葉が出るかと思ったが、アウルは黙ったままだった。
「アウル、どうした? お前なんか飯の前から変だぞ」
「っ……お、おう! 気にすんなよシン!」
「……? まあ、そこまでいうんならお言葉に甘えさせてもらうけど」
 スティングと顔を合わせお互いに首を傾げながらも、シンは納得する事にした。
 そうこうしている内に、止めていた車まで到着する。
「それじゃ、そろそろ行くわ。あんまり遅くなると保護者がうるさい」
「うん。ネオ、待ってるから……少し寂しいけど、バイバイ」
「……じゃあな」
「「あ、ちょっと待って!」」
 車に乗り込もうとするスティングたちの背中に声がかかる。同時に彼らを呼びとめたのは、メイリンとルナだ。
 メイリンはシンから紙袋を一つ受け取り、アウルへと近寄る。戸惑うアウルに、メイリンは紙袋を差し出した。
「アウル君、はいこれ」
「これって……」
「アウル君の服、ちょっとだけ選んでたでしょ? あれを内緒で買っておいたんだ。私のワガママで、
 二着ぐらい多めに買って貰っちゃったから、そのお詫び。 ……いらなかったかな?」
「……そんなこと、ねえよ……サンキュな、メイリン」
 紙袋を受け取って、アウルは表情を柔らかくする。ぎこちない笑みだったが、メイリンはその笑顔に笑い返した。
 その後ろで、ルナはシンを肘鉄砲でつついていた。
「ほら、あんたも早くしなさいよ」
「わ、分かってるよ!」
 ルナに促されるように、シンはステラの元に向かう。不思議そうな顔をするステラの前で、シンはポケットからビニールで包装された一枚のハンカチを取り出した。
 ブルーと水色の、四角い模様で彩られたハンカチ──ディオキアの海の色。
「小物売り場で見かけて、ステラに似合うと思って……その、見てたらルナに見つかって! 買ってあげれば
 いいじゃないって言われてさ! え〜と、あの……良かったら使ってくれない、かな?」
 しどろもどろに言うシン。背後からあ〜もうじれったい〜! という叫びが聞こえたが、怖いので振り返えらなかった。
 暫くシンを見つめていたステラは、優しく微笑むとシンの手を取った。
「ありがと、シン……じゃあ、これはステラのお返し」
 ハンカチを受け取りながら、ステラはシンの掌に何かを置いた。
 シンが目を向けると、掌には小さな紫の貝殻があった。
「海を見てたとき、見つけたの。綺麗だから拾ったけど、シンにあげる」
「いいのか?」
 ステラは笑顔で頷く。シンも微笑み、ありがとうと返した。
「青春、ってやつか……で、俺には何もないわけだ」
「すまないな、気が利かなくて。プレゼントの一つでも準備するべきだったか」
「男の贈り物なんざいるか!」
 割と真剣味のある声で呟くレイに、スティングは突っ込む。レイは冗談だと言って、スティングへと手を
差し出した。
「今日の戦績は三勝八敗だった。次は負けるつもりはない」
「本当に負けず嫌いなんだな、お前。いいぜ、次に会う時までしっかり腕を磨いときな。ついでに首も洗っとけ」
 互いに不敵な笑みを浮かべつつ、二人は固い握手を交わした。
 ──そして、別れの時は来る。
 三人は車に乗り込み、運転席のスティングがエンジンをかける。
「シン!」
 後部座席に座っていたステラが身を乗り出し、見送っていたシンへと言った。
「またステラが危ない目にあったら、また守りに来てね、絶対!」
「ああ! 約束しただろ! ステラが危ない目にあったら、俺を呼んでくれ!」
「うん、約束! またねシン! ルナ! メイリン! レイ!」
「あばよ! 縁があったらまた会おうぜ」
「じゃーな、お前らぁ!」
 車が発進し、遠ざかっていく。シンたちは新しい友人たちを、見えなくなるまで見送った。

 
 

「いい奴らだったな」
「……ああ」
 車を運転しながら、スティングが助手席のアウルに言う。後部座席では色々あって疲れたのか、
ステラが横になってぐっすりと眠っていた。
 ここまで遊び倒したのはステラにとって──いや、彼ら三人にとって初めての体験だったかもしれない。
「……アウル、お前本当にどうした?」
 あまりに口数の少ないアウルに、スティングは訊ねる。ヤンチャが服を着て歩いているようなアウルが
ここまで黙っているなんて事は、これまでなかった。
 もっとも、スティングはその理由に大方感づいてはいたが。
「……なあ、スティングは気づかなかったのか? あいつらが──」
「あいつらがコーディネイター……ザフトだってことか?」
「! 気づいてたのかよ!?」
「レイとゲームしてて、おかしいと思ったんだ。ゲームとはいえあそこまで俺の反応についてきた上に、
 馬鹿みたいに早い順応速度……あいつが俺らのお仲間じゃない以上、コーディネイターって考えるのが自然だ。
 向こうはこっちをどう思ってたかは分からないが」
 このスティングの予測にはある決定的な間違いがあるのだが、それは今問題ではなかった。今重要なのは、スティングがシンたちの素性に感づいていたということだ。
「あまり深く考えるなよ、アウル。どうせ俺達の記憶は消されちまうんだ……なら、今この時を
 楽しんだほうがいいだろうが」
 だから、スティングは黙っていた。その方がステラやアウルが楽しめるだろうと思ったから。
 彼らエクステンデッドは生命維持と精神の安定のため、『最適化』という処置を定期的に受けなければならない。その際、戦争に不必要だと判断された記憶は消去されてしまう。
 今回の休暇もネオがエクステンデッド達を気遣って与えてくれたが、科学者達はこの記憶も不必要として消し去るだろうことは目に見えていた。
「それに連中がザフトだからって、別に俺達が絶対に戦うってわけじゃない。そりゃ可能性はあるが、まさか
 丁度俺たちとあいつらがかち合うなんてこともないだろ。連合の方針によっちゃ、上手く行けば
 あいつらが死ぬ前に戦争が終わるってことも──」
「絶対なんだよ、クソッ!」
 スティングのいい訳じみた言葉を、アウルの叫びが遮った。驚きに目を見開くスティング。
 ハッとしてステラが起きていないのを確認してから、アウルは細々とした声で告げた。
「訊いちゃったんだよ、僕は……メイリンに、どんな仕事してるのかって……」

 ──船に乗って、通信士やってるんだ私。ミネルバって船に、お姉ちゃんやシン、レイと一緒に。

 スティングの表情が、凍った。
「僕もさ、最初はスティングと同じこと考えたんだ。どうせ忘れちまうんだし、今が楽しければいいじゃんって。
 でもさ……あいつら皆、凄くいいやつばっかで……服なんて、買ってくれちゃってさ」
 綴っていくほどに、震えていくアウルの声。 胸に抱えた紙袋を、強く抱きしめる。
「分かんないよ……分かんないけど、すげぇイヤな感じするんだ。胸が痛くって、苦しくってさあ……
 なんなんだよ、これ……っ」
 顔を伏せ、搾り出すように言うアウル。スティングはその言葉に、答えを返す事が出来なかった。

 
 
 

 エクステンデッドの悲嘆を知る良しもなく、シンたちはミネルバへと帰還していた。
「ほんと、いい休暇になったね」
「ああ。新しい発見もあった。一般の娯楽というのも中々楽しめるな」
「特にシンはホクホクでしょうね〜、あんなカワイイ娘と仲良くなれてさ〜」
「な、何言ってるんだよルナ!? と、とにかく少し急ごう、外出期限までギリギリだ」
 シンにちょっかいをかけつつ、ルナは安心した。シンの雰囲気が随分と元に戻っている事を感じたからだ。ステラと仲良くなったという点には、自分でも良く分からないほど複雑な思いだったが。
 談笑しつつ、格納庫からミネルバの中へと入っていく四人。彼らを出迎えたのは、アスランだった。
「遅かったな。休暇は楽しめたかい?」
「アスランさん? はい、そりゃもう存分に……でも、どうかしたんですかこんなところで」
「君たちを待っていたんだ。疲れているところ悪いが、制服に着替えてブリーフィングルームに集合してくれ。
 外出期限の時刻に緊急発表が予定されているんだが、ここまでギリギリになるとは思っていなくてな。
 君たちで最後だ」
「マジッスか!?」
 慌てて自室に戻り制服に着替える四人。ブリーフィングルームに飛び込んだ瞬間、視線が一斉に集中する。
 特に正面モニターの前に立つタリアの射殺すような視線に、全員悪寒を禁じえなかった。アーサーの憐れむような視線も、別の意味で辛い。
「……全員揃ったようなので、ゲストをお呼びしましょうか。アスラン」
 タリアに促されたアスランが部屋を退出する。ゲストという言葉にざわめくクルーを、アーサーが静粛にとなだめる。
 数分後、部屋にアスランが戻り……その後ろから入ってきた人物に、ほとんどのクルーが驚きの声を上げた。
「ラ、ラクス様!?」
 歌姫ラクス・クライン。その横に赤服のFAITHを従え、一同の正面に立った彼女は優雅に一礼した。
「ごきげんよう、ミネルバのクルーの皆様。皆様ご存知でしょうが、自己紹介させていただきます。
 私はラクス・クライン。皆様の次の航海にご同伴させていただく事になりました。何卒、宜しくお願い致します」
「FAITH所属、ハイネ・ヴェステンフルス。ラクス・クライン嬢護衛の任をデュランダル議長より拝領している。
 今回、同じくミネルバに同行させてもらう……なお、諸事情によりマネージャーは別行動となるので、
 ラクス様へのサイン握手愛の言葉その他諸々の希望は全て俺を通してもらう。そこんとこヨロシク」
 歓喜の絶叫がブリーフィングルームに溢れ、数少ない困惑の声はかき消された。

「ほうほう、これは、これはこれは面白い。面白いな」
 研究機関コロッセオ。自らの私室にて、ウェスパシアヌスは送られてきた情報を吟味していた。
「偽のラクス・クラインに……オーブ。なんという、なんという格好の組み合わせ。これなら、
 これなら動くか? 『自由』と『大天使』は」
 デスクを立ち、大仰な身振りで思案に更ける老紳士。口から思考を垂れ流し、目には穢れた興奮が浮かぶ。
「いや待て待て、結論は早い、まだ早い。現れるという確証はまだない。だがしかし、放置するというのは
 あまりにも、あまりにも惜しい……!」
 不意に、ウェスパシアヌスが笑う。いいことを思いついた子供のように、子供じみた笑顔。そして子供と同じ、
罪悪感の欠片もない酷薄な笑み。
「まあ良い、良いともさ。上手くすればアスラン・ザラくらいは手に入れられるかも知れぬし、上手くすれば
 ロンド・ミナ・サハクあたりも出向くかも知れぬ。そろそろティトゥスとも再開を分かち合いたいし、何より……何よりアレの実戦テストには丁度良い、良いともさ」
 デスクに手を付き、コンソールを操作する。モニターに現れたのは巨大な円盤──もしくは巨大な蜘蛛のようなシルエット。
「フハハハハ……待っていてくれたまえ諸君。現れてくれたまえ諸君。もうすぐ、もうすぐだ。
 楽しい、楽しくてくだらない、本当にくだらない討論【ディベート】の時間はもうすぐだ!」

 
 
 
 

to be continued──

 
 
 

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