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DEMONBANE-SEED_種死逆十字_第17話3

Last-modified: 2009-07-21 (火) 19:53:50

「シン、出なさい」
 タリアの声に、独房でうずくまっていたシンは顔を上る。
 ミネルバに戻った直後に拘束されたシンは、ジブラルタルに入ってからもミネルバの営倉に監禁された状態で数日を過ごしていた。
「貴方の処分についてだけれど……これから行なう査問の結果如何で、最終的な結論を下すことになったわ」
 独房の扉が開けられ、保安部員が入ってくる。シンは促されるままに立ち上がり、保安部員に前後を固められた。表情のない、無気力さがありありと見て取れる顔にタリアは眉を潜めたが、すぐに踵を返して営倉を出ようとする。
「……アウルは、どうなりました?」
 シンのものとは思えないほど弱々しい声。タリアは振り返らぬまま、問いに応えた。
「昨日本国に移送されたわ。滞りなく……とはいえなかったかしら。あの子自体は大人しかったけれど、ルナマリアとメイリンがかなりごねてね。レイの視線も痛かったわ」
「そう、ですか……」
 それきり、シンは再び黙り込んだ。タリアが歩き出し、それを追って保安部員に囲まれたシンも歩き出す。
(……あれだけの事をした以上、タダで済ますわけにはいかないのは確かなのだけど)
 憔悴したシンの様子に同情しながら、タリアは今回の件に関して疑問を抱かずにはいられなかった。
 エクステンデッド脱走に関して、発覚当初ザフト上層部は重大な問題として責任を追及していた。だが数日もせぬうちに、この件は一切他言無用の極秘事項とするという通達が届いたのである。
 しかもシン以外の関係者には一切罪を問わないというオマケつきで、だ。
 それだけでも異例の事態だというのに、シンにだけ行なわれることとなった査問、その担当者の名を聞いたときタリアは耳を疑った。
(一体、何がどうなっているの……何を考えているというの、貴方は?)
 深く知っていたはずの男の考えが、今はまったく理解できない。困惑と一抹の寂しさを振り払うように、タリアは目的の場所へと足を進め続けた。

 
 
 

 拘束されてミネルバの通路を歩くシン。通りかかるクルーから様々な感情の視線が投げ掛けられるが、シンは俯いたまま一切反応しなかった。
 しかしある程度歩いたところで、ふと気づいて顔を上げる。歩いている道順は艦の外に出るものではなく、むしろ内側に向かうものだ。てっきり基地の中でお偉方の前に突き出されるのだろうと考えていたシンは首を傾げる。
 そしてその疑問は、辿り着いた先が通信室であったことでより深まった。
「入りなさい、シン」
 保安部員が離れ、背後に移動したタリアが促す。怪訝に思いながらも、シンは自動ドアをくぐり室内へ入る。
『──待っていたよ。シン・アスカ君』
 掛けられた言葉に、シンを動揺が襲った。
 聞き覚えのある声。だがそんな筈がない、なんでこの人が──
 後方で部屋に入ったタリアの声と、自動ドアが閉まる音。
「お待たせしました、デュランダル議長」
 その言葉と目の前の光景が、シンに現実を認識させた。
 プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルが、モニターの向こう側にいた。
『驚いているようだね。今回の査問は私に任せるよう、議会に働きかけたのだよ』
 何故、という質問すら出来ないほどシンは緊張していた。緊張を解そうと気を揉んでいるのだろうか、デュランダルは朗らかな笑みをシンに向ける。
 シンも反射的に作り笑いを返そうとし……デュランダルと目があった瞬間、表情が硬直した。
『さて、手早くともいかないが、なるべく時間は省いていこう。私も多忙な身だし、仲介に通信施設を使わせてもらっているオーブに長々迷惑をかけるわけにもいかないのでね』
 笑った顔のままのデュランダルの目は、まったく笑っていない。背筋に、氷のような冷たさが走る。
『これより、軍務規定に背く行為を行なったシン・アスカへの査問を行なう。この内容如何により君への処罰は決定することとなる。こちらからの質問には偽りなく、正直に答えてくれたまえ……よろしく頼むよ、シン君』
 穏やかな口調、だが決して気を抜くことを許さない雰囲気に、シンはただ頷いた。

 
 
 

 最初に感じた緊張感に反して、査問は穏便に続いていた。
 デュランダルは決して詰問するような物言いではなく、穏やかにシンへ質問を行なう。シンの答えを聞き、その言葉の意味を噛み締める様に何度か頷き、次の質問に移る。
 それが十数回繰り返されたところで、デュランダルはふむ、と一息ついた。
『では一度、ここまでで分かった君の行動とその理由をまとめてみようか。シン君、君はステラ・ルーシェを始めとするエクステンデッド達と友人という関係にあった。そして衰弱していく彼等を見ていられず、また本国に移送されて実験サンプルとして扱われることも許せなかった。だから君は、
 エクステンデッドの逃亡を助け、連合に引き渡そうとした……これで間違いはないかな?』
「……はい」
 シンの返答はしっかりしていたが、その声にも表情にも、感情はほとんど現れていない。半分心ここにあらず、という状態だ。
 デュランダルの登場にこそ驚いたが、シンは今回の査問にも、そしてその結果自分がどうなるのかまったく考えていなかった──正確には、考える余裕がなかった。
 今、シンが考えている事は──
『……正直な感想を言わせてもらうと、君の行動は軽率すぎる、と言わざるを得ないな』
 冷たさを伴ったデュランダルの指摘に、半分現実から離れていたシンの意識を引き戻した。
『ステラ・ルーシェを含むエクステンデッドたちの境遇には、私も同情を禁じえない……が、だとしても彼女が連合の兵士として戦い、少なからぬ被害をもたらしたのは否定できない事実だ』
「それは、でも、ステラたちは連合に無理矢理……」
『分かっている。しかしだからといって、何もかもが許されるわけではないだろう。例えば彼女達がアーモリーワンで機体を強奪した際、不幸にも亡くなった軍人や民間人の家族、友人、知人……彼らが事情を全て知ったとして、彼女たちを許せると思うかね?』
 議長の言葉に、反論しようとしたシンは押し黙る。
『彼女を連合に返したところで、本当に彼女が救われるのかどうかも疑問だ。敵に捕らわれるような兵器を、果たして彼女に手を加えた人間や運用する指揮官が大事にするだろうか?』
 シンは黙ったまま議長の言葉を肯定するが、けど他に方法もなかったと、当時の自分を振り返った。
 あの時はステラたちを助けることに躍起になって他に考えが浮かばなかったし、アウルから聞いたネオという男の人物像にわずかな期待を抱いていた。ステラやアウルに少なからず信頼を得ているネオなら、彼等を無下には扱わないだろうと。
 だがそのシンの行動と思いは、他ならぬネオその人によって断ぜられた。
『仮に連合が、ステラの命を助けたとしてもだ』
 デュランダルが一度間を置き、僅かに声のトーンを落とす。
『助かったステラは再び記憶を消され、連合の走狗として戦場に出るだろう。その手にかけられる人々は、ステラが助かったことによって生まれる、本来はありえなかっただろう犠牲だ。君はそこまで考え、承知した上で行動を起こしたのかな?』
 シンの身体がびくりと奮える。無表情だった顔が歪み、泣きそうな声で呟いた。
「俺は……俺はステラをただ、助けたかっただけで……」
『人を助けたい、そう願うのは尊いことだ。だがそのための行動で、別の誰かが被る事になる理不尽を分からなかった、知らなかったというだけで済ますのは傲慢だ。信念と言えば美しいが、言い方を変えればそれは我侭でしかない』
 議長の言うとおりだとシンは思った……ネオに指摘された時から、それに気づいたシンはずっと悩み、苦しみ、答えの出ない自問自答を繰り返していた。
 約束どおりステラを助ける、ただそれだけを考えていた。その為になんでもする決意をし、ザフトにも逆らう選択をした。ステラを連合に返す──そうすれば全部なんとかなると、根拠もなく考えていた。
 いや、違う。ステラを返せばどうなるかなんて、分かりきっていた。それでも気づかない振りをして、目を背けて……ネオの指摘にそれも出来なくなって、始めてシンは恐怖した。
 自分の行動の結果、ステラは人を殺す。大勢の人が死ぬ──分かっていながら、自分はその責任から逃げようとしていた。
 選んだのは、責任があるのは、自分。自分の行動で人の命を脅かしておきながら、自分の行動は正しかったと妄信し、気づかない振りをしようとした。
 それはオーブを救おうと戦い、結果として自分の家族を殺したフリーダム──キラ・ヤマトと一緒じゃないか!
「……けど、じゃあ俺はどうすればよかったんだ……俺にできることなんて、何もなかったのか……?」
『あるとも。というよりやってもらわなければ、できないようでは困る』
 自問の声に、デュランダルが答えた。デュランダルの目は相変わらず、シンを見据えている。
『──回りくどい言い方は止めにしようか。個人的にはさておき、プラント最高評議会議長としては、正直君の思想や動機などはどうでもいいのだ』
「え……」
『私が、いや、プラントとザフトが君に求めるのはただ一つ──今後君は、《何があろうともプラントのため、ザフトとして戦えるか》ということだ。この査問は、結局のところそれを確かめるためのものでしかないのだよ』
 心の奥底まで全てを見透かされているようなデュランダルの視線。
 デュランダルの言葉はすなわち、今後プラントやザフトに逆らうことなく忠実に従うか──全ての敵を、たとえステラが敵として現れようとも殺せるのか、と暗に問うている。それは軍人としては最低限の、当然の心構えであることは理解出来る。
 だがシンは問いに答えることも、首を振ることも出来ぬまま、無為に時が過ぎていく。
『……シン・アスカ。プラント最高評議会議長として、君に命じる』
 無言のままでいるシンに深いため息を付いて、デュランダルは告げた。
『暫定的にではあるが、本日を以って君からインパルス、及びセカンドステージシリーズの操縦権を剥奪する』
「……っ!」
「議長、それは……!」
『異議は認めない。グラディス艦長も黙りたまえ』
 シンは驚愕し、タリアも目を剥いて食い下がろうとするが、デュランダルは一言で切って捨てた。
『本来なら更に重い処分を下すところだが、有能なパイロットである君を燻らせている余裕も無い。だが、いつ機能しなくなるやも知れぬ不安定で危険な人物に、ザフトの最新鋭機を預けることも出来ない……己がどうすべきかもわからない今の君に、ザフトの力を行使する資格はない』
 冷徹極まる言葉が、シンの胸に次々と突き刺さる。デュランダルは目を伏せ、諭すように言った。
『あくまで暫定的なものだ、正式な処分は日を改め、折って通達する。だがこれだけでもパイロットとしては十分に重い処分だろう。今回の件を深く受け止め、君がザフトの兵としての認識を改め反省することを切に願う……以上だ、シン・アスカ。速やかに退出したまえ』
 それだけ言って、興味が失せたかのようにデュランダルはシンから視線を外した。力の抜けた身体でなんとか敬礼し、通信室の出口へと向かう。同情するようなタリアの視線が逆に痛く、また申し訳なかった。
 通信室を出るともう保安部員はいなかった。既にロックの掛かったドアを振り返りもせず、シンはすぐ通信室を離れようとする。
「シン!」
 かけられた声に俯いていた顔を上げる。レイとルナが、心配げな顔をシンに向けていた。
「査問を受けたって聞いたけど、大丈夫!? なんであたしたちは無罪放免で、アンタだけ……」
 肩を掴んで揺さぶってくるルナ。反応らしい反応を返さないシンに、ルナを抑えながらレイも訝しげに訊ねる。
「落ち着けルナマリア……何があった、シン」
 解放されたシンは一度二人に目を向けるが、なんでもないと呟いて目を背ける。
 自分なんかに心配げな視線を向けられるのが、シンにはたまらなかった。
「大したことは言われなかったよ……ただデュランダル議長に、インパルスを降りろって言われただけだ」
 絶句する二人。それを尻目にシンはその場を去ろうとする。
「ちょ……どこが大したことじゃないのよ! 大事じゃない!」
「議長が、だと? どういうことだ!?」
 慌ててシンに追いすがる二人。ルナの手が背中に伸びる。
 シンはその手払いのけ、苛立たしげに歪んだ顔で振り返った。
「俺なんかが……俺なんかがインパルスに乗ってても、何一つ守れるものなんてないってことだろ!」
 怒鳴りつけられて呆然とする二人。その顔を見て、シンはすぐさま後悔の表情を浮かべた。
「……ごめん。しばらく放っておいてくれ」
 振り返り、通路を歩いていくシン。今度はもう、二人とも声をかけてこない。
 暫く歩き、周囲に誰の気配も感じられなくなる。シンは足を止めると、壁に両手と頭を押し付けて身を震わせた。
 俺は戦争で苦しむ人々を守りたかった──その一人として、ステラを助けたかった。
 でも実際は安らかに眠ろうとする彼女を叩き起こして、辛い世界に引き戻しただけ。それだけじゃない、ステラを救うと言う自己満足のために、ステラだけでなく、守りたかった筈の多くの人を苦しめる選択をしてしまった。
 俺は、裏切ってしまった──ステラも、人々も、俺自身の願いすらも!

 

「俺は、俺は今までなにを、なんのために……父さん、母さん……マユ……ステラ……!」

 

 濁流のように溢れ出る感情は涙に変わり、俯いたシンの瞳から零れ落ちていった。

 
 
 

「……ぇああああっっ!」
 怒号と鉄を裂く重低音が、格納庫に響いた。轟音にメカニックたちはビクリと震えながらそちらを振り向く。
 右手で刀を振りぬいた姿勢のティトゥス、その眼前には廃材となった、MSのフレームに使われていた鉄骨が縦一文字に両断されていた。
「ハアアアッッ!」
 二本に分かれた鉄骨が倒れぬ間に、左手でも刀を抜いてティトゥスはなお斬り付ける。二本まとめて輪切りにされた鉄骨が次々と不揃いの鉄塊と化し、重い音と共に転がっていく。
 比較的見慣れた、ティトゥスの自主鍛錬の光景。だが普段とは違う鬼気迫る様子のティトゥスに、メカニックたちは恐怖と不安を感じずにはいられなかった。
 当のティトゥスはそんな周囲の視線にも気づかず、苛立ちを発散しようと刀を振るい続けた。
 思い出すのは連合の仮面の男。確実に捉えた筈の一太刀は、いとも容易く避けられた。
 男の技量や状況──そもそも、相手が誰であったのかも関係ない。ただ『避けられた』という事実そのものが、ティトゥスを酷く苛立たせていた。
 ──拙者の剣は、人一人斬れぬ程度なのか。
 変わっていないではないか。高みを目指すと嘯きながら、実際の力はこの程度。
 人の道、人としての高みと謳いながら、一歩たりとも進んでいないではないか!

 

 ──それとも、所詮はこれが拙者の限界なのか?

 

 不意にティトゥスの体から、力が抜けた。
 構えを解き、剣呑さを潜めるティトゥス。その様子に周囲のメカニックはホッと息をつく。
 メカニックたちは気づかない。ティトゥスの苛立ちは消えたのではなく、別の感情に変化した事を。
 ティトゥス自身も気づいていない。己の中に燻りだした感情は、自分がもっとも唾棄するものであることに。
 ──それはティトゥスをかつて蝕んだ、『怠惰』の感情そのものだった。

 
 
 

「念入りに消してくれ。特にアウルに関してと、ここ暫くの記憶は」
「しかし、一度に大量の記憶を消すと精神の不安定さが増しますが……」
「仕方がない。暴れるだけでも動かないよりはマシだ」
 吐き捨てるように告げ、ネオは科学者達に背を向けた。一度だけ《ゆりかご》の中で眠るステラとスティングを振り返るが、すぐに踵を返して退室した。
「そうだ、動かなければ……戦わなければ何も変わらんのだ……」
 ブツブツと呟きながら基地の通路を歩くネオに、将兵たちは怪訝な顔をしながらも敬礼する。だがネオの視界には入っておらず、敬礼を返すこともない。
 やがてその足は、大きく広がった格納庫へと辿り着いた。
「戦って、敵を倒して……全てが終わった後なら、お前たちも幸せになれるはずだ」
 仮面で覆われた顔が持ち上がり、自嘲気な笑みが口元に浮かんだ。
「だからその為に戦え……なんて、所詮は身勝手な大人のいうことか」
 見上げた視線の先にあるのは、通常のMSよりも遥かに巨大な黒い影。
 四肢から胴体、頭部に至るまで全身に重火器を埋めこんだ、漆黒の巨人だった。

 
 
 

「──ああ、インパルスや他のセカンドシリーズに、誰を乗せるかは任せる……苦労をかけるが、頑張ってくれたまえ、タリア」
 用件を話し終え、デュランダルはミネルバとの通信を切った。何か言いたげだが言えないといった風なタリアの表情が心苦しくはあったが、仕方がない。
 タリアのことは一度頭の隅によせ、デュランダルはシンに付いて思考する。
 実に甘い、それがまず思った印象。直情的に過ぎ、ただ突き進めば物事が好転すると思っているのではなかろうか。およそ兵士としての資質には欠けているとしかいいようがない。
 ──にも関わらず、デュランダルはシンに対して少なからず好感を感じていた。命を尊く思う純粋さを持ち、現実の辛さを知りながらそれを捨てない。故に悩み苦しむ姿は滑稽で無様ではあるが、実に人間らしいと思える。
 プラントの議長として、またデュランダルの思い描く未来の構想においては、シンのような人間ははっきり言って不安要素でしかないというのに。
「自身の事ながら、随分と矛盾した話だな……」
『なんのことですかな、議長?』
「いいえ、なんでもありませんよ」
 苦笑しながら、デュランダルは繋がっていたもう一つの通信モニターに顔を向けた。そこに映っている人物は、濡れ烏の髪を流した麗人──オーブのロンド・ミナ・サハクだった。
「サハク司令、アメノミハシラの通信施設の貸し出しを含めた多数のご協力、感謝いたします」
『構いませぬ、興味深い話も聞けた……しかしあの小僧、敵の女にうつつを抜かすだけでなくあのように煮えきらぬ態度を……あれでオーブに生まれた男子というから情けない』
「私も少々呆れています……しかしあの甘さを、私は何故か好ましくも思うのです」
『ほう。随分とあの小僧を立てられる。何か特別な理由でも?』
「ははは、どうでしょうかな」
 勘繰るような言葉にデュランダルは嘯くが、ミナの言はあながち間違ってはいない。
 シンは、特別だ。今それに気づいているのはデュランダルを含め僅かだろう。おそらくは師も、シンの存在には未だ気づいてはいないはずだ。
『……しかし、実際に贔屓はされているようだ。あの機体の件がそれを物語っている』
 薄い笑みを浮かべていたミナの唇、それが真横に引き結ばれた。
「あれはそちらに届きましたか」
『滞りなく。しかし本当によろしかったのか? 最新鋭機を預けるだけでなく、最終調整やその機体を原型とした新型の開発などと……最新技術を丸ごと他国に渡しているのと変わらぬというのに』
「構いません。最新鋭機といっても製造の為の技術レベルはオーブとそう変わりありませんし、仮にコピーや量産に成功したとしても、簡単に運用できるものでもない。それに新型の開発については、正直そちらでしか出来ないのですよ。あまりに構想が突飛過ぎて、技術的にも体面的にも、ザフトの工廠で作れるものではない。独立した工廠を持ち、かつ魔術について多少なりとも造詣のあるアメノミハシラでなければ」
『送られてきた希望スペックと初期草案を見た時は、確かに我も目と議長の正気を疑ったが……しかし魔術については我々も素人に毛が生えた程度。最悪の場合ウェストに協力を願わねばならぬかもしれませぬ』
「分かりました、その場合はこちらからもドクターに連絡いたしましょう」
『……しかし、議長もお人の悪いこと』
 引き結んだミナの唇が微笑を取り戻したかと思うと、そのまま悪戯っぽい笑みに変わった。
『楽しみは後に取っておく意図で、小僧から機体を取り上げられたのか?』
「いえ、そのようなことは。あくまでザフトの兵として自覚を促すための処置ですよ。そこは個人のえり好みとは切り離して考えなければいけませんからね」
『ではそういうことにしておくとして……調整の終了とともに、共に来たパイロット共々直接ミネルバに送り出せばよろしいか?』
「お願いします。彼も地球に待ち人がいる身なのでね」
『承知しました……ではこの辺りで失礼を。デュランダル議長、いずれまた』
「ええ。ありがとうございました、サハク司令」
 通信モニターが消え、デュランダルは軽く目を伏せる。
 夢想するのは己が望む未来。その道を切り開く『剣』を、デュランダルは見出した。
「SEEDを持つもの……その強大な力は人の上に立ち導くためのではなく、人の前に立ち道を切り開くためにあるべきなのだ……しかし考えてみれば、私のやっていることはキラ・ヤマトを戦わせているラクス・クラインとそう変わらないのかもしれないな」
 自嘲気な笑みが零れる。少し前なら自分とラクスを比較はしても、同一視など絶対にしなかっただろう。
 だがウェスパシアヌスとの取引──あの時冒した選択で、自分もまたエゴに縛られた愚かな人間であったことを思い知らされた。少なくともあの瞬間は、自分はラクスに勝るとも劣らぬ愚者だったと断言できる。
 だが後悔する暇はない。失敗は取り戻せる──二度と戻らないものを失うまでは。
 打てる手は全て打つ。どれほどの代価を払おうとも、どれだけの人間を利用しようとも。
「そのためにも、君には戦い続けてもらわなければならないのだよ。シン・アスカ……」

 
 
 

to be continued──

 
 
 

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