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DEMONBANE-SEED_種死逆十字_04_3

Last-modified: 2013-12-22 (日) 05:23:49

 ユニウスセブンを砕こうとしているザフト軍、ジュール隊は押されていた。

 小惑星破砕用爆破装置メテオブレイカーの設置を開始した直後、彼等は多数のジンハイマニューバ2型による襲撃を受けた。本来同じザフト軍の機体による襲撃からくる動揺、そして旧式とは思えないジンの練度の高い動きに、ゲイツRはじわじわと追い詰められ一機、また一機と落とされていく。

「腑抜けおって! それでもザフトの兵か!」

 また一機のゲイツRをビームカービンで撃ち抜いたジンのパイロット、サトーは忌々しげに吐き捨てた。

「やはりこの世界、一度焼かねば何も変わらぬ……ナチュラルに死を!コーディネーターに繁栄を! 我等に……我等に我等の欲する世界を!」







 襲撃を受けたのはジュール隊だけではない。ユニウスの宙域へと入ったミネルバのMS隊もまた、ジン部隊にその幾手を阻まれていた。

「……やりよるわ」

 ジンの振り回すレアメタルで造られた刀──斬機刀の切っ先をツヴァイにかわさせながら、ティトゥスは少々鬱陶しげに呟いた。

 周囲を見ればシン達もまた苦戦している。数の差に加え相手パイロットの腕が高く、一機落とすのにもかなり手間取っているようだ。旧式のジンで最新鋭の機体と渡り合っているその技量に、ティトゥスは敵が一筋縄でいかぬ存在であることを再認識する。

 機体の性能を最大限に引き出せる、熟練した腕を持つベテランパイロット──ティトゥスにとっては、この種の手合いが一番厄介な相手だった。性能に振り回されるパイロットが乗る高性能機などより、隙が少なく性能と特性を100%引き出された量産機の方がよほど怖い。

 ティトゥス自身そういうタイプのパイロットだからこそよく分かる。お互い機体スペックを最大に引き出している状態で、かつ性能差がないのなら勝負を決するのはパイロットの判断能力のみになる。どちらかに隙が出来た一瞬、その瞬間に全てが決する。

「とはいえ、ここで手間取るわけにはいかぬ、か」

 目の前のジンが横薙ぎに振るった刀を紙一重で避ける。一見単に刀を振り回しているように見えるが、どれも装甲の薄い部位を狙う正確な太刀筋だ。この機体のパイロットもまた相当の手練れなのだろう。

「だが、今はそれが煩わしい……!」

 普段なら感じるであろう強者との戦いによる高揚感──ティトゥスは何故か、今回それを微塵も感じることが出来なかった。

 ただ時間が過ぎていく度に大きくなる、正体不明の不快感だけが胸中を荒れ狂っていた。

「死中に活、少々の生傷は覚悟……いざ!」

 掛け声と共にツヴァイが背のシュベルトゲベール二振りを抜き、構える。眼前のジンはそれを見ると刀を鞘に収め、今度は後退しながらビームカービンを構えて──

「──御免」

 その銃口を正面に向けた直後、大剣の切っ先がジンの胸を突き潰す。遅れて銃口から飛び出たビームが頭部の横をかすめると同時に、前のめりでかつ限界まで右腕を前に伸ばしきっていたツヴァイは右手の握りを緩め、殆ど体勢を変えぬままフルスロットルで無理矢理後退。直後、大剣と一緒にジンが爆発する。

「一人」

 呟くと同時に左側面から飛んできたビームがツヴァイの周囲をかすめていく。視界をそちらに移せば右手に刀、左手にカービンを持ったジンが全速力で突っ込んでくるのが見える。

 ツヴァイの動きを封じるようにカービンで牽制しながら、刺突の構えを取ったジンは突進の勢いを乗せた突きでツヴァイのコクピットを狙う。

 だがその切っ先のベクトルが、突然ツヴァイから逸れた向きに傾く。ツヴァイが左手に持った大剣の実体部分で刀の腹を弾いたのだ。刀の切っ先は、左肩のアーマー先端を貫くだけに終わる。

「飛び込んでくる勇気は天晴。だが運が無かったな……」

 そのまま機体の勢いを止められず相手の懐へ飛び込んでしまったジンの腹に、ツヴァイの膝蹴りが入る。後方に飛ばされるジンのモノアイとツヴァイのバイザーアイが交差し──何も持っていなかったツヴァイの右手が、腰のビームサーベルを掴む。

「……拙者は今、機嫌がすこぶる悪い」

 サーベルの一閃で中心から真っ二つに分かたれるジン。サーベルと大剣を両手に持って佇むツヴァイは、こちらを見て呆然としている別のジンに大剣の切っ先を向けた。

「これで二人……さて、次は誰が来る?」







(強い……これほどとは)

 流れるような動きで二体の敵を駆逐し、更に別の敵に飛び掛るツヴァイの姿を、アスランはビームトマホークをジンに突き立てつつ横目で確認していた。自分はこれが二機目、とはいえ撃破まで至る過程で相当手間取っている、ダメージもそこそこにある。

 正直現時点では、ティトゥスの腕は自分より上手だろう──MSの操縦技術は勿論、護衛としても劣っていることをアーモリーワンで見せ付けられた。

 情けない、と思う。二年前からまるで成長していないかのような感覚に襲われる。オーブに亡命してまで、祖国を捨てて選んだ、カガリと共に歩む道。しかしこの二年間、自分は一体何をやってきたのだろう?

 カガリを支えたいと思った、その気持ちがあったのは本当だ、疑う余地はない。けど思い返してみれば、実際に自分は支えることが出来ていただろうか?プライベートの相談役は出来ても、政治に口を出すことは殆ど出来ないし、しない。彼女の為にならないと思ったから。壁にぶつかっている彼女を見ることもあれば、他の氏族達の反対意見に言い返せず苦い顔をしている彼女を見たことも、時に彼女の言が政治家としては軽はずみであると思った事も幾度かある……しかしどんな時でも、結局自分は見ているだけ。なのに挙句

『護衛』という仕事すら満足に出来やしない。

 もしかしたら、自分も彼女も、お互い慰め合っていただけではないのか?愛してるだのなんだのと、お互い何一つ否定し合わない、生温い関係に甘えていたかっただけで──

(──違う!そんなことはない!そんな……)

『アスラン、右側面から三機来ます! 迎撃を!』

 レイの声に意識を現実に引き戻す。すぐさまライフルを向けて乱射し、二機の足を止める。が、すばしっこくビームを避けた一機が刀を抜いてザクに迫る。

「チィッ!」

 ショルダータックルの形で左肩のシールドを突き出し、刀を受け止める。鋭利な刃がシールドに亀裂を入れ、同時に弾かれるように互いに距離を取り、仕切りなおし。ザクはシールドから再びトマホークを取り出し、ジンは刀を上段に構えて斬りかかる。

 ジンが刀を振り下ろそうとした瞬間──高出力のビームの奔流が、ジンの腹に大穴を空けた。

「っ?!」

 アスランが反射的にザクを後退させた直後、ジンは爆発を起こす。その後方にいた二機のジンも一機は通常のライフルの光に貫かれ、もう一機は雨の如く降り注いだビームに体中を穴だらけにされた直後、爆散した。

『ミネルバのMS隊! 貴様等こんな所で何をモタついてるかぁ!』

『た、隊長、幾らなんでも救援に来てもらっていきなりそれはないんじゃないでしょうか?』

『言うだけ無駄だってシホ、分かってるだろ? こいつのこういうところはもう一生直んねーって』

 水色のスラッシュザクファントム、藍色のブレイズザクウォーリア、そして一般カラーのガナーザクウォーリア──味方の識別信号を発する三機から放たれた声の内二つは、アスランにとって馴染み深いかつての戦友の声だった。

「イザーク、ディアッカ!」

『『っ!アスラン!?』』







 落下するユニウスセブンから少し離れた位置で、本来月基地に帰還する筈だったガーティー・ルーがミラージュコロイドで身を隠しながら事の次第を見守っていた。

「……どうしたもんかねえ、これは」

 ゲイツやザク、それにミネルバのMS部隊がジンと戦っている様子をブリッジのモニター越しに見ながら、ネオは首を傾けた。戦闘の様子は、彼から見ればザフト同士が争っているのようにしか見えない──見たことのない黒いダガータイプのMSが一機だけ混じっているが、多分傭兵か何かだろう、と捨て置くことにした。

「片方はユニウスセブンを落とそうと、もう片方はそれを阻止しようとしているようですな。いや面白い、いやはや面白いですな。コーディネーターも一枚岩ではないということですかな」

「何が面白いもんですか。地球の一大事ですよウェスパシアヌス卿」

 流石に厳しい表情で注意するネオに、ウェスパシアヌスはこれは失礼、と言いながら笑みを消して髭を撫でる──実際、さっきの笑みの半分は作り笑いだ。無表情の下に焦りを隠し、彼は思考を巡らせる。

(ふむ、これは少々厄介だ、いやかなり厄介だな。今こんなモノを落とされては困る、いや実に困る。地球や連合にどれだけ被害が出ようと知ったことではないが、もし『ターゲット』にまで巻き添えで死なれたらたまったものではない。鬼械神が使えれば一人でどうにか出来たかもしれんが、私もあの連中もまだ完全に召喚出来るほど力を取り戻してはおらぬし……)

「偵察と映像の記録のみという指令でしたが……どうします?」

「どうするも何も、この状況で下手に手を出すと俺達が破砕の邪魔をしかねん。シャクではあるが、ザフトの方々に任せるしかないだろう」

 思考の片隅でネオとリーの会話を捉え、結局有効な解決案を見出せなかったウェスパシアヌスは、妥協案を行動にうつす事にした。

「おっと、失礼ながら進言させていただけますかな、大佐殿」

 ──とりあえず今、打てる手を打てるだけ打つとしよう。

「それは余りに効率が悪すぎませんかな?地球は我等の住む場所、ザフトにその運命を丸投げとはいかがなものでしょう? それに万一このままユニウスが落ちるのを眺めるだけになってしまっては、ファントムペインの名がすたるというものでは?」

 心にもないことを並べ立てるウェスパシアヌス。ネオは痛いところがあるのか、苦々しげに口元を歪める。

「む……仰ることは分かりますが、こちらには破砕に有効な装備がないのです。それに敵を判別する術が──」

「判別する術はある、あるのですよ……ミネルバです」

 突然飛び出た敵艦の名前にネオをリーは首を傾げる。人当たりのいい笑みを浮かべたウェスパシアヌスは、続けて信じられないようなことを口にした。

「何、あちらに簡単なメッセージを送ればいいだけです。こちらに今闘う意思がないこと、ユニウスを破壊する意思があることをね。もしあちらが落とす側なら邪魔してくるでしょうし、もし逆なら……まさかこんな時にケンカを売って来るほど愚かではありますまい」

 ウェスパシアヌスの言葉をネオは理解するのに数秒要し……即座に食ってかかった。つまり場合によっては、先日闘ったばかりの相手と共闘しろというのだ、この老紳士は。

「んな……馬鹿な!?ザフトと共闘しろと!?」

「今回ばかりは仕方ありますまい。地球の危機ともなれば盟主も納得してくださる」

「で、ですが……そう上手く事が運ぶとは思えません!それに共闘と見せかけて後ろから撃たれる危険もある!」

 もっともらしい理由を並べるネオだが、実際気乗りしないのは全く別の理由があった。彼はエクステンデットを戦場に出すのを嫌がったのだ。現在艦に残っているMSは強奪した三機のみ、つまり彼等だけで戦闘に参加することになる。どう転んでも負担は相当なものになるだろう。

 強化人間とはいえ10代半ばの彼等はネオにとっては可愛いもので、そしてそんな子供を危険に晒すのは抵抗があった──もっとも、あくまで『命令がなければ』という条件のもとで、だが。

「大佐。今回ウェスパシアヌス卿の意見は適切かと。既に記録映像は撮ってあります、盟主にはこれで顔が立つでしょう」

「リー、しかしな……」

「大丈夫、大丈夫ですよ大佐殿。あくまでこちらに出来るのは破砕作業の援護だけ。むやみやたらに闘う必要はないのですから。危なくなったら逃げればいいだけ、それだけです」

 煮え切らないネオの肩に、ウェスパシアヌスが馴れ馴れしく手をやりポンポンと叩く。その態度に不快感を覚えたネオは最低限の力でその手を振り払おうとして──

「これは地球の為、連合の為、ブルーコスモスの為、そして引いては君の為なのだよ……聞き入れてくれるだろう?『ネオ』」

「──っ!?」

 耳元で告げられた小さな声と共に、激痛がネオの頭を駆け抜ける。痛みは一瞬、だがその瞬間ネオの身体はビクンと震え、体中にジットリと汗をにじませながら荒い呼吸を始める。

「大佐?どうしました、大佐!?」

「……リー、スティング達に出撃命令。すぐに準備させろ!通信士、今から言う言葉をミネルバに電文で送れ!」

 突然テキパキと動き始めたネオに怪訝な顔をするも、すぐにその命令に従い動き出すブリッジクルー達。素知らぬ顔で素早くネオの後ろに下がったウェスパシアヌスは口元を押さえ……その唇を嘲笑の形に歪める。

 ウェスパシアヌスの言葉と共に心の奥から浮かんできた、義務感や使命感に似た何か──正体不明のその感情に、ネオは一切の疑問を抱くことはなかった。







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