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DEMONBANE-SEED_種死逆十字_05_1

Last-modified: 2013-12-22 (日) 05:26:35

 ユニウスセブンの破片が地上に落下してから、早数時間。既にザフト郡の影は周辺宙域になく、残っているのは落下しても燃え尽きるだけと判断された小さなデブリと、二機のMS──片方はMSに分類していいのか少々疑問だが──のみだ。

『……もう大丈夫だな。やばそうなデブリもないし、ザフトも引いたみたいだ。お疲れお二人さん、戻ろうぜ』

 一つ目のマッシブなシルエットを持ったMSからの通信に、バカデカイドリル二基を背負ったレイスタの中に居る男はフンッ、と不機嫌そうに鼻を鳴らした。一つ目MSはすぐにその場を離れ、大気圏ギリギリに待機している筈の母艦へと戻っていく。

 パイロットスーツなどは着ず、纏っているのは割と筋肉質な体格が映えるボディスーツと白コートのみ。緑の髪は先端に近いほど白く脱色されており、頭頂部にはピョンと立った一本のアホ毛。意味もなく立ち上がると、横に置いていたエレキギターを手に取り、意味もなく激しく掻き鳴らす。

 そう、彼こそ世紀の天才! 狂気の天才! 紙一重の壁を飛び越えた挙句ぶち壊して戻ってきた超! 天! 才!

「ドォクタァァァァァァァァ、ウェェェェェェストッゴブォワッ!」

 その叫びを上げた■■■■の腹に、並みのプロボクサーの比ではない素晴らしい右フックが叩き込まれる。

「博士、うっせーロボ。こんな狭いコクピットで叫びすぎロボ。また外に放り出されて酸素欠乏症になりたくなかったら黙ってろロボ」

「エ、エェルザァァァァァァァァァッ!? ゴフッ」

 エルザ──ドクターウェストの最高傑作たる人造人間。ちょいとロボット三原則〔慎み〕を忘れたどころか華麗にスルーしているのが玉にキズだが。

「……どうしたロボか博士? テストは上手くいったのに、全然嬉しそうじゃないロボ」

 とはいえ、流石に製作者の心の機微をある程度察することは出来るらしい。そもそも二人が此処に居るのは、この世界に『跳んで来て』から最初に手を加えたメカ──レイスタこと『スーパーウェスト無敵ロボverレイスタ──だからドリルは付けろと言ったのだ──』のテストのためだった。だがその結果が完璧と言ってもいい仕上がりだったにも関わらず、当のウェストは渋い顔だ。

「気に入らんのである」

「え?」

「この傍迷惑な隕石落としである。隕石頼みの破壊なぞ我輩の美学に反するのである。自らの力と知恵と覚悟を持ってして行う破壊こそ真の破壊、このような方法は破壊などではなく単なる大量虐殺なのである。そもそもギャラリーを全員退場させてしまっては我輩の天才っぷりを愚民どもに見せてやることも出来なくなるではないか。全く不愉快な、これだから道理の何たるかを理解できぬ凡人は……おかげで柄にも無い人助けをしてしまったのである」

 彼とて破壊活動が日常茶飯事の犯罪者で悪人で■■■■ではあるが、自分なりの信念、美学は持ち合わせている。今回の件に、ウェストは同じ破壊者としての共感をひとかけらすら感じなかった。まあそれ以前に落とした当人たちは破壊というより復讐が目的だったのだが、そんな事はウェストの
知ったこっちゃない。

 そしてもう一つ、ウェストを不機嫌にさせたもの──それは自分達の世界では何度も見た、しかしこの世界には存在しない筈だった、あの──

「……ロボ?」

「ん? どうしたであるか、エルザ?」

「気のせいロボか……あ、やっぱりロボ! 博士、魔力レーダーに反応ありだロボ!」

「にゃ、にゃにぃ!?」

 ウェストがレイスタに魔力レーダーをつけたのはほんのついで、というか習慣のようなものだった。この世界に魔力がないことは分かっていたが、これまでの破壊ロボに標準装備していたものだったのでついつい作って付けてしまった、その程度の扱い。反応があるなどとは、ほんの少しも思っていなかった……あの二体を見るまでは。

 そして、今この場で反応するものといえば……

「エルザ、座標はどこであるか?」

「すぐ近くロボ、って博士っ!? 近付く気ロボか!?」

「当然である! この大! 天! 才! ドクターウェストがビビってたまるかである! さあ行くのであ〜る!」

「うう〜、もし死んだら夜な夜な枕元に立ってやるロボ〜!」

 文句を言いつつも、デブリを避けながらレイスタを反応がある場所へ向かわせるエルザ。ちなみにこの機体の操縦はドリル操作:ウェスト、その他:エルザという分担である。

「もうすぐ見える筈ロボ……ロボッ!?」

「こ、これはっ!」

 二人が見つけたもの──それは正に、骸そのものだった。両手両足は完全に吹き飛び、残った部分はヒビだらけ。その残った頭部も身体も半分以上が消し飛んだ、皇餓の残骸がデブリに紛れて其処にあった。

「こ、このような状態の鬼械神を見たのは初めてである、と言うか何故このようなことが……」

 通常、こんな半端な状態で鬼械神の残骸が残ることは在り得ない。鬼械神は術者の魔力によって形作られる物であり、術者が倒され意識を失う、または生命活動が停止した場合、その構成は解けて消える。このように残骸が残る場合があるとしたら術者が意図的に残しているのか、あるいは──

 その時、それまで沈黙していた皇餓の右目が突然光を灯し、ギョロリと動いてレイスタ、引いてはその中の二人と視線を交差させた。

 蛇に睨まれた蛙の様に身を竦ませるウェストとエルザ。ほぼ全ての戦闘能力を失っている筈なのに、その血走った丸い眼から刃のような威圧感と警戒心を二人にぶつけて来る皇餓。そのまま皇餓の眼は、値踏みするかのようにレイスタを見渡す。

 そして一分も過ぎた頃、威圧感が突如として消え、皇餓の眼から光が消えた──消える寸前、睨みつけていた眼が一瞬、安心したように緩められた気がした。

「ぬなっ!?」

「ロボっ!?」

 直後、皇餓の残骸が消えていく。機体を形作っていた魔力が、淡い光となって散っていく。皇餓が完全に光となって消えた後、その場に残っていたのは皇餓と同様の状態まで大破した、ツヴァイダガーのみだった。





第五話『一時の休息、蠢く影』





「外装の三割弱損傷、エンジン出力20%近くダウン……クルーに死者無し、ただしゲスト一名がMIA。それとMS一機が大破、その他は小破未満。とりあえず被害はそんなものかしらね」

「そうですね。となると当面の問題は……カーペンタリアまでの距離と補給ですか。やはりアスハ代表の申し出は有難かったですね」

 艦長室でプラント本国へのレポートを作成しながら、タリアとアーサーは今後について話し合っていた。

 ミネルバはなんとか地球への降下に成功した。だが破砕作業を優先した結果降下地点が大幅にずれてしまい、予定していたカーペンタリア基地近辺からは大分離れた、太平洋のど真ん中に落下してしまったのだ。無茶な降下で船体に無視できない被害が出ているし、クルーの疲れも大きい。さてどうしたものかというところで、カガリからオーブのドッグへ入港しないかという申し出があったのだ。遅かれ早かれ彼女を送り届けないといけないし、この提案は渡りに船だった。

「ええ、彼女も色々と大変でしょうに……彼のMIA、随分と気にしていた様だし」

「そうですよね……艦長はどうお思いなんですか?シンとアス、じゃないアレックス氏の報告について」

 アーサーが言っているのはティトゥスについてのことだ。シンとアスランは、剣を持った巨人が現れる直前、魔法陣のようなものの中心にツヴァイダガーが居たのを見たというのだ。二人はティトゥスがあの巨人に乗っていたのでは、という疑惑を持っているようだった。

 何を馬鹿なとタリアは最初思ったが、正体不明なティトゥス、巨人の出現と同時に反応が消えたというツヴァイのビーコン記録、ティトゥスと巨人の戦闘スタイルの酷似、等等の点から完全否定を出来ずにいた。

 そしてタリアには『その手』の信じがたい知識にやけに詳しい『知り合い』が一人いる。

「魔術……まさかね」

「は? 何か仰いましたか?」

「あ、いいえなんでもないわ。正直、私も何が何だか分からないっていうのが本心よ。理解の範疇を超えた事象が短い間に立て続けだもの。何もかも投げ捨ててしまいたい気分よ……ごめんなさいアーサー、忘れて頂戴。艦長として最低よね、こんなことじゃ」

「いえ、艦長も人間ですから仕方ありません。自分で良ければ幾らでも愚痴を聞きますよ。発言は全て自分の胸の内のみに仕舞っておきますから」

「……ありがとう」

 胸を張るアーサーに優しく笑いかけるタリア。戦闘中もこれくらいしっかりしてくれれば安心なのだけどとも少し思ったが、そこはまあ今は言うまい。

「ところで、当のアスハ代表は今何処にいるのかしら?」







「ハア……」

 シンは少しやつれた顔で、甲板へと足を進めていた。守れなかったショックは今は少し落ち着いている。だがそれでもティトゥスのMIAや人々を守れなかったという事実が、未だシンの心に陰を落としていた。

 引きこもっているわけには行かない、落ち込んでても何一つ変わらない……だが分かってはいても気分はネガティブになるばかり。レイやルナに愚痴るのは避けたい、しかし一人でいても何が変わるわけでもない。アスランと少し話をしたかったのだが、あてがわれた部屋には居なかった。

 仕方なくほんのわずかな気晴らしを期待しながら、シンは外の空気を吸いたくて甲板へと向かう。

 やがて解放されている甲板の入り口へと辿り着いたシンは足を踏み入れようとしたところで、其処に先客が居るのに気が付いた。

「カガリ、大丈夫なのか?少し顔色が優れないようだが……ティトゥスのことは気にするな、君のせいじゃない」

「うん、分かってる……大丈夫だ。むしろ心配なのはこっちだ、お前のほうがヒドイ顔してるぞ」

「そ、そうか?」

 即座に入り口から飛び退いて壁に背を付ける。一番顔を見たくない奴と、一番話をしたかった人間が其処に居た。

(アスハッ……それにアスラン、さん)

 なんで、と一瞬思ったがよく考えれば当然だ。アスランはカガリの護衛、そのことをすっかり忘れていた。

 なんであんな人もオーブなんかに──それが今のシンの率直な感想だった。

「無理するなよ、今は私達しか居ないんだから」

「本当に大丈夫さ。大体あの戦闘は俺が自分で参加したことで……」

「とぼけるなよ。パトリック・ザラ……御父上のこと、気にしてるんだろ?」

「なっ! なんで……」

「全周波通信だったからな、ミネルバにも全部聞こえてた。ちなみにあいつ……シンの切った啖呵も丸聞こえだったけどな」

 ゲッ、と顔を顰めるシン。そういやあれも全周波で叫んだのだ、聞かれて当然だった。今思えば随分とこっ恥ずかしいこと叫んだなあと、少し自己嫌悪する。

「あのテロリスト達はアスランのお父様の名を旗印にあんなことをした。それの責任が自分にもあるんじゃないかとかどうだとか、そんなこと考えて悩んでるんだろ?」

「あ、ああ」

「バカ」

「んなっ!?」

「前に言ったろ、ハツカネズミになるなって。そうやってすぐ自分の頭の中だけでグルグル考えるから分からなくなるんだ。何度言っても分からないな、このバカ」

 絶句するアスラン。それを見ているシンはアスランへの軽い同情とカガリへの憤りを感じる。

(あのアマ、言うに事欠いてなんて言い草だ!)

 思わず飛び出て散散に罵倒してやろうとしたシンだが、直後のカガリの言葉にその行動を止めた。

「あれはお前のせいなんかじゃない、絶対に。少なくとも私はそう思っているぞ」

 アスランがハッと驚いた顔でカガリを見る。カガリはそんなアスランに笑いかける……その笑顔は活発なカガリには似合わないくらい、儚げだ。

「それにシンも、だろうな。あいつも言ってただろう、『適当な理由つけて』って。あの連中はただ、自分達に都合のいい言い訳に御父上の名前を使っただけだ。お前が責任を感じることなんて無い、むしろ勝手に肉親の名前を使われたんだ、怒るところだと思うぞ」

「しかし! どう言い繕っても父がナチュラル根絶を図ったのは事実で」

「だからって死者の名前を語って虐殺なんて許されるものか! それに……例えそうだとしても、お前はそれが間違いだと分かって、抗ったじゃないか。御父上のやろうとしたことが間違ってたから、そんなこと許されないと分かっていたから、前の大戦でもユニウスでも戦った、止めようとした。そうだろう?」

 アスランの肩に手を置くカガリ。アスランとカガリの視線が交差する。

「お前は肉親だからって甘えに負けないで御父上と袂を分かった、間違いを正そうとした。もしそれを責める奴がいるなら、私は庇う。私はお前の傍で見てきたんだから。辛いのも悲しいのも、お前が御父上を看取った時も、全部。気にするなとは言えない、けど引きずる必要は無いってハッキリ言える……お前が悪いんじゃないって、私一人でも叫んでやる」

「カガリ……」

 感謝と愛しさに、そっとカガリの頬に手を添えるアスラン。だが当のカガリは唇を噛み締め、目に哀しみの色を浮かべる。

「……むしろ、お父様のことで責任を取らなきゃいけないのは、私だ」

「え?」

「私はお父様が正しかったとずっと思ってきた、それを疑いもしなかった……けど違ったんだ。そんなのはただの良い訳だったんだ。私はただお父様の娘として、お父様を否定するのが怖かった、お父様の理想に間違いがあることを認めるのが嫌だったんだ。シンやテロリスト達の言葉を聞いて気付いたんだ……首長になってからの私がやってきたことは、あのテロリスト達のしていたこととそう変わりはしないって」

「違う! カガリ、それは違う!」

「違うもんか!」

 アスランの手を払い、その胸に両手を何度も打ちつけるカガリ。大した力はこもっていないが、衝撃が何度もアスランの体と心を揺らす。

「私は、私はずっとお父様に甘えてた! お父様のやったことに間違いなんて無いって思ってた! それだけが正しいって、それが一番だって信じ込んでいた! 信じていたかった! ただ闇雲に理想を叫んで、誰彼構わず押し付けようとして! 実際はシンのような人間も生んでいた、ああいう人が居るかもしれないって分かっていた筈なのに、知らないフリをして! 己の理想で犠牲になる人間なんていないと目を背けて、誤魔化して! 何が違う! パトリック・ザラの理想を信じたテロリストと、ウズミ・ナラ・アスハの理想を信じた私の!」

「カガリ……」

「……分かってる、過ぎたことは今更どうしようもないって。出来るのは間違いを認めて、正すことだって。それが首長として私がすべき事だって。でも、私はまだ心の何処かでお父様の理想を信じたいって思ってる。お父様は何一つ間違ってなかったって思い込みたがってる。こんなことじゃいけないって分かってるのに。私は……私こそバカだ、大バカだ。こんなんじゃシンに罵られても仕方なっ……!」

 アスランの胸に置いていた手を強く掴まれる。気付いた時には、カガリの身体はアスランの胸の中に抱き込まれていた。

「アスラン、止めろ! 私はオーブ代表で、お前はただの護衛だ!大体此処は他国の船の上で」

「今は俺達だけだ……今だけは君はただのカガリだ。だから今は泣いていい。『アスハ代表』に戻るまでに、全部吐き出しておくんだ」

「アス、ラン……ウ、ウアァァ、ウワアアアアアアアアアアアアン! ゴメンナサイ、ゴメンナサイッ! ウアアアアアアアアアアアアアッッ!」

 堰を切れたかのように大粒の涙を流し、アスランの胸の中で泣き叫ぶカガリ。誰にとも知れぬ謝罪の言葉を繰り返すカガリを、アスランはただ優しく抱きしめる。

「…………チッ」

 舌打ちを小さく付いて、シンは甲板の扉を後にする。結局気分は晴れず、むしろ更に不愉快な方向に落ち込んでしまった。

 アスハに言ってやりたいことは山ほどあった。情けないとか、泣言言うなとか、んな弱気でどうするんだとか、それでも一国の国家元首かとか、そんなことで国を守っていけると思うのかとか、それはもう腐るほどに。だが、それでも今あそこで泣いている『ただの少女』に、心無い罵声を浴びせる気にはなれなかった。

 ──そして、その言ってやりたい言葉がある意味罵声ではなくなっている事に、シンは気付いていなかった。





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