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DEMONBANE-SEED_種死逆十字_06_1

Last-modified: 2013-12-22 (日) 05:30:29

「アスラン!」

 アスハ邸の裏にある専用へリポートへ向かう道を歩いていたアスランの背に、今にも泣きそうな声がかけられた。

「カガリ……」

「どうしてだ! どうしてお前がプラントに行かなきゃいけない!? お前はもうプラントとは関係ない、唯の私の護衛なんだぞっ!?」

 『唯の』……詰め寄ってくるカガリ自身は何の自覚も無しに言っただであろう言葉が、アスランの心をチクリと痛ませた。

「……そう、『アレックス・ディノ』は何の力も持ってない唯の男だ。

 今オーブに居ても何一つ出来やしない……でも、『アスラン・ザラ』なら違う。ザラの名はまだ強い影響力を持つ。

 特に、プラントでは」

 泣きそうな顔をしたカガリの肩を掴む。かつてのお転婆の賜物か、カガリの身体は同年代の女性にしてはガッチリしていた。

 だが政治に関わり、悪意と策謀の渦に飛び込んでからの彼女の身体は徐々に疲れ果て、やせ細り始めている。今感じられるのは弱さと、脆弱さだ。

「プラントに行き、デュランダル議長と面会する。そして連合との同盟に加入せざるを得ない オーブの事情を説明し、オーブへの悪感情を少しでも抑える……可能ならば俺を架け橋としてオーブとプラントに秘密裏の繋がりを保つ。それがアスランである俺に出来る、いや俺がやらなきゃいけない事なんだ。ユウナからもう聞いてるんだろう?」


「でも、だからって、そんな……うっ、うう……」

「おっ、おいおい泣くなよこんな所で……」

 とうとう泣き出したカガリにアスランは気まずそうにしつつ彼女を宥めようとする。カガリをこんな時に一人にしてしまう、もしかしたら不安にさせてしまうかもしれない……そういう想像はしていたが、


 ここまで取り乱されるとは予想外だった。いくらなんでも其処までヤワな神経ではな……もとい、繊細さを見せる人間ではなかった筈なのだが──

 ──そこまできてやっと、アスランはカガリがここまで不安がっている理由に思い当たった……

 否、アスラン自身今までその事を無意識に考えないようにしていたのだ。

「……ユウナ・ロマとの結婚の件か」

「ッッ!」

 流石に表情を硬くするアスランが言った言葉に、カガリはわずかに身を震わせた。





 ボク、カガリと結婚するから──それは先日ユウナに呼び出された際、帰り際にもののついでのような感じでアッサリ言われた言葉だった。

 かつて国を焼いた国との同盟による国民の不安を抑える為、首長の結婚という明るい話題を同盟締結と前後して行うということらしい。

 これ見よがしではあるが、それなりに有効な手段ではある。人間というものはどんな時も嫌な話を避け、めでたい話を求めるものだ。

 こんなご時世でも首長の結婚となればお祭り騒ぎとなり、ある程度不安も消えるだろう、効果に対してリスクもほとんどない……結婚に関わる人間達の心情を考慮に入れなければ、だが。


 元はといえばこのカガリとユウナの許婚は、カガリの父ウズミとユウナの父ウナトとの間で決められた事らしい。

 カガリ自身はユウナとは幼い頃からの顔見知りとはいえ乗り気ではなかったが、亡き父の遺言を無碍には出来ず、更にユウナの方は何故かカガリにゾッコンときている。


「カガリ、何度も話し合って決めただろう? これはいずれ訪れる、仕方ない事だって」

 この件が発覚して以来、二人は何度も話し合い己の考えをまとめ……結局、アスランとカガリは添い遂げることを諦めていた。

 お互いが望む未来の為に、選んだ今の立場。それを捨ててまで一緒になろうという思いを、二人は持てなかった。結局の所、この結末は遅かれ早かれ既に決まっていた事なのだ。


 しかし、例え添い遂げられずともこの思いは変わらない──それだけは本当だと、二人はお互い誓っていた。

「けどっ!……何で、よりによって、お前のっ……居ない、時にっ……」

 そう、悲しい事にこの結婚は、下手をするとアスランがプラントに留まっている時に行われる可能性が高い。

 どれだけ早く連合がプラントに宣戦布告するかどうかによるが、既に月の戦力が動いているという情報もある。そう遅い話ではないだろう。

 そしていくらアスランの名の力が大きくても、議長との面会が一日二日でまかり通るなど有り得ないし、更にその後の交渉ともなれば言わずもがな。

 本来の思い人のアスランの居ない場所で、カガリは他の男に娶られる事になる。

「カガリ……」

「分かってるさっ、今更駄々をこねても仕方ないって──けど……けどッッッ!」

 すっかり涙で目を腫らし、泣きじゃくるカガリ。結局は強がっていただけなんだろう、問題が目の前に来てやっと、その不安に襲われた……ハッキリ言ってしまえば、もうどうしようもない。今更な話だ。


 ──それでも、それが自分がまだ思われている証な事も確か。泣きじゃくるカガリを見つめるアスランの心は、愛しさで満たされていた。



「ハァ……馬鹿だな、カガリは」

「んなっ!? お、おまぇ……! ん、んんっ!?」

 アスランの発言にカガリが面食らい、食って掛かろうとした直後──開いた口は、アスランの口に塞がれた。

 一瞬触れるだけのキスだが、それでもカガリを黙らせるには十分だった。

「カガリ、よく聞いてくれ」

 唇を離し、アスランが真っ直ぐカガリの潤んだ視線を見つめる。

「例えどれだけ離れ離れでも……君の隣に俺以外の男が居たとしても。俺のこの思いはもう一生変わらない。

 君を助け続ける。君を支え続ける。君を思い続ける……君を、愛し続ける。何があっても、俺は君の為だけに全てを賭けられる。君を裏切るようなことは絶対にしない。

 俺はもう、君の物だ。

 だから泣かないでくれ。何処にいても、何をしていても……俺の全ては、君の為にあるんだから」

「ッッ! アス……ランッ……!」

 大粒の涙を流すカガリに、アスランは優しく微笑む。そして懐に手を入れ、其処から小さな小箱を取り出した。

「本当は渡すか渡さないか、迷ってたんだけど……ユウナだけにカッコつけられるのは、やっぱり悔しいから」

 小箱を開ける。其処にあったのは、指輪だ。小さな宝石の付いた、中々凝ったデザインの指輪……それの示す意味は考えるまでもない。

「アスラン、お前……!」

「持っていてくれるだけで、受け取ってくれるだけでいい……俺の思いの証明、みたいなものかな。

 結婚式の時俺は一緒に居られないけど、俺の思いは君の傍にある……だから」

 受け取ってくれるか、と差し出された指輪を、カガリは右手に取り、掌を握りながらその手を胸に当てる。

それを嬉しそうに微笑んで見届けたアスランは、カガリに背を向け歩き出した。

「……それじゃ、行って来る」

「……行ってらっしゃい」

 歩いていくアスランを、泣き笑いで送り出すカガリ。その顔には涙の後は残っていても、もう憂いや不安はほとんど残っていない。

 最後にわずかな悲しみが、最後に一筋流れた涙と一緒に消えていった──



 そしてアスランがオーブを経って一両日もしない内に、地球連合はプラントに対し、ほとんどこじつけのような理由を突きつけ宣戦を布告。即座に月からプラント本国へ戦力を派兵すると同時に、それを囮とした核による奇襲を行った。


 だがプラントは核分裂を誘発し核ミサイルを強制的に爆発させる新兵器『ニュートロンスタンピーダー』を使用。核攻撃部隊は母艦、機動兵器共に自らの核ミサイルにより全滅、それを受け月からの本隊も撤退し、その場はプラントの勝利に終わった。


 この理不尽極まる宣戦布告と攻撃に対し、プラント側は積極的自衛権の行使を決定、地上への降下およびカーペンタリアを中心とした地上での戦力を整え始めた。

 ここに再び、地球とプラント間における戦いの火蓋は切って落とされたのである。







第六話『DEAD RISING』











「……正直、あまり良い結果は望めませんぞ」

『構いません、あくまで成功すればいい、という程度です、正規部隊には被害もない……では頼みますよ、

 ウェスパシアヌス卿……結果を出したなら、貴方のレギオンの正規採用も考えましょう』

「ええ、ではやるだけやらせて頂きましょうジブリール卿、では……全く、愚か者が」

 先日月経由でやっとこさ、ユーラシア西部の辺境にある自らの『根城』に戻ったウェスパシアヌスは、大型モニターからやけに顔色の悪い男が消えた瞬間慇懃だった態度を崩し、侮蔑の表情を浮かべた。


 先程の男こそ、ロゴスの一員にしてブルーコスモスの盟主、ロード・ジブリールだ。アズラエル亡き後のブルーコスモスを立て直した手腕と資産家としての豊富な資源、そして巧妙極まる口の上手さでロゴス内の地位を確立している男である。


 同時に権力を傘に来た強引さ、強硬さを持つ事でもロゴス内で知られており、その例として挙げられる最もたるものが地球軍への第81独立機動群──通称『ファントムペイン』と呼ばれるブルーコスモス私兵部隊の創設と編入である。


 そして先日行われたプラントへの核による奇襲。これもまたジブリールが大西洋連邦大統領

ジョセフ・コープランドへ脅迫まがいの方法で受諾させたことである。最もこれはジブリールの力というより背景にあるロゴスの影響力が大きく関わっているのだが、その権力を使ったのがジブリールであるのは違いない。


「愚かしい、実に愚かしい。コーディネーター憎し以上に、あの小物ぶりは度し難いにもほどがある。

 用はイライラを見当違いな嫌がらせで晴らしたいだけだろうに……私を巻き込まないで欲しいものだ」

 ウェスパシアヌスは嫌悪、というより呆れに満ちた愚痴をつく。

 ジブリールがウェスパシアヌスに言ってきた頼み、それはウェスパシアヌスにアメノミハシラを攻めて欲しいというものだった。

 元々アメノミハシラは非常に戦略価値のある要塞及び軍事工廠として連合、ザフト双方から狙われ、幾度となく攻撃を受けてきた。

 それをアメノミハシラがこれまで防げてきた理由にはその戦力とロンド・サハクの手腕、そして表向きオーブのものであるアメノミハシラに正規部隊を送り込むことは出来ず、連合もザフトも本腰で攻撃を仕掛けることはなかったというのがある。


 今回の件がウェスパシアヌスに回ってきたのはそういう点もある。ある程度の戦力を有しているウェスパシアヌスを、レギオンの正規採用を餌に利用する。

 成功すれば正規部隊に被害を出さずアメノミハシラを手に入れられ、失敗すればそれをネタにロゴスでの地位を下げる事が出来る、とでも考えているのだろう。 

 成功しなくても構わん、というところがいかにもだ。

 しかし、ジブリールの本音が更に別のものである事も、ウェスパシアヌスは気付いていた。

 この攻撃の表向きの理由は軍事工廠の奪取と成層圏でのザフトへの警戒強化のためだが、実際のところは実にくだらない。

 未だに同盟を先延ばしにしているオーブへのジブリールの苛立ちが、名目上はオーブの物であるアメノミハシラに向けられたというだけ……要は八つ当たりである、しかもかなり見当ハズレな。

 その方法にたまたま利用できそうだったウェスパシアヌスが選ばれたというわけだ。





 そんなアホな理由で、と普通なら思うところだが、ジブリールにそういう常識は通用しない。

 彼はブルーコスモスのナチュラル至上主義とかそういうレベル以前の問題──己こそが最も優秀であり、己の行いこそが絶対という考えに微塵の疑問すら持たない、天上天下唯我独尊を悪い意味で極端に体現したような男なのである。


 しかもそんな人間が、周りを納得させ操る話術に秀でているとはどれほど最悪なのか。政治家なんぞより詐欺師のほうが向いているのではないか、とウェスパシアヌスは割と本気で思っていた。


「まあいい、まあいいさ。ロゴスでの地位は今となってはどうでもよいし、元々アメノミハシラはちと邪魔だったのだ。それに……あやつの機体の実戦テストには丁度いいだろうさ」




「あらあら、ようやくアタシの出番かしら〜?」



 突然、ウェスパシアヌスの背から投げかけられる声。ウェスパシアヌスは特に気にした風もなく、振り返りもせずに声の主に話し掛けた。

「おお丁度いい、いいタイミングで来てくれたな。アメノミハシラへの攻撃、お主に頼もうと思っておったのだ。完成した『アレ』のテストにもちょうど良かろう」

「いや〜ん嬉しいじゃな〜い♪アタシ、あのロンド・ミナ・サハクとかいう美女、ずっと前から一度イタダキたかったのよ〜ん。あのお高くとまった顔が歪む様……ああん想像だけでたまんないわ〜♪」


「艦やMSの手配はしておく。何体かレギオンも連れて行くといい、改良が済んだ個体も幾つかある」

「あらあら、随分な念の入れようね。たかだか人間相手、アタシ一人で十分だっていうのに。まっいいわ、アタシは最後にしっかり調整しておくことにするわね。それじゃ」


 ウェスパシアヌスの背後から気配が掻き消える。ウェスパシアヌスはしばしの沈黙の後、その貌に邪悪な笑みを浮かべた。

(まったく、まったく他の二人といい扱い易い。脳味噌まで腐っているのだから当然といえば当然だが。

 まあおかげで私は助かっているのだ、有効に使わせてもらおうか……さてさて、これから忙しくなるぞ)

 戦争はもう、始まった。地球、プラント共に多くの人命が失われ、世界は混迷の度合いを深めるだろう……だが、それがどうした。

 戦況がどう転ぼうが、誰が何処でどれだけ死のうが、そんな事はウェスパシアヌスの知ったことではない。

 問題はどれだけ、この状況を自分が有効に使えるかということだけだ。

 自分の目的の達成こそが、ウェスパシアヌスの全て。己の目的をどれだけ早く、完全に、徹底的に、完璧に成す事が出来るか。

 その過程で必要ないモノがどれだけ失われようと構いはしない。それを成す為ならどんな事でもやる。

 彼の全ての行動は、そのためだけにあるのだから。

「私の目的の為に、芸術[アート]の為に!私は今度こそ、今度こそ成し遂げて魅せるぞ!そして……」

 ギリ、と噛み締めた歯を鳴らし、血走った目を見開くウェスパシアヌス。その脳裏に浮かぶのは忌々しきあの魔人、聖書の獣。 

 金色の闇を眼に宿した異形の少年の、退屈気で儚い嘲笑……そして、紅い鬼械神。

「今度こそ完全に、徹底的に、完璧に、油断無く、容赦無く、際限なく! 世界から、宇宙から、この私の記憶から! 欠片も残さず貴様を消し去ってくれるぞ……マスターテリオンッ!」




「…………」

 黒衣を纏った男が一人、喧騒溢れるガレージの一角に不自然に立てられ固定された鉄柱二本の間に立っていた。その腰に刺さっているのは、鞘に収められた二本の刀だ。


「…………」

 男の周囲の空気が張り詰めていく。仕事中の作業員達もそこから流れてくる空気に気付き、手を止め、注目が男に集まっていく。

 何時の間にか、ガレージの物音は普段より静かになっていた。

 男の周囲の空気は更に高まっていく。余りの重苦しさに野次馬の何人かが吐き気すら覚えだした時、閉じていた男の目がカッと見開かれる。



「斬ッ!」



 光が流れた──野次馬にはそう認識することしか出来なかった。目の前にあるのは変わらずそこにある二本の鉄柱と、両手に何時の間にか刀を抜いた男の姿のみ。

 男が素早い動きで刀を鞘に収める……パチン、と鍔が鳴った瞬間、二本の鉄柱は何本もの切れ目を浮かべ、幾つかの鉄塊となってガンガンと音を立て床に落ちた。

『オオーーーーッ!』

 歓声が響く中、パチパチと拍手の音が二つ鳴った。一つは歓声響く中でもハッキリと響き渡りつつ優雅さを持ち、もう一つは力いっぱいの惜しみない賞賛だ。

「見事だ。流石は魔術師殿といったところか」

「本当です、本当にスゴイです!」

 凛とした声とどこか幼い可愛げのある声に、野次馬たちが道を明け、それぞれの持ち場へと戻っていく。

 現れたのはこのアメノミハシラの総責任者であるミナと、12才前後といったところのピンクの髪をした美少女だ。

「拙者はもう魔術師に非ず。その呼び方は辞めていただきたいのだがなサハク殿」

「フフ、失礼した……ところでどうだ、ロウ・ギュールの鍛えた刀は」

「見事としか言えぬ出来だ。切れ味、強度、どれをとってもこれまでと遜色ないどころか上回っている……

 これほどの物を作れる職人がいようとは」

 男は再び刀を抜き、刃を見据える。刃には一片の刃こぼれもなく、その刀身に男の表情を鏡のように移し込む。

「ロウさまは本当に物を作るのがお上手ですから。あ、でもティトゥスさんもスゴイと思いますよ♪」

「う、うむ」

 直球の賞賛を送ってくる少女に、男──ティトゥスはどこか困った顔で答えた。

 彼女はセトナ・ウィンタース。ロウが地球権に戻る途中、ウェストやエルザと一緒に何故か破壊ロボに同乗していた少女だ。ウェスト達からの話だと彼等が此方の世界に来てすぐ、漂っていた救難カプセルの中から拾ったらしい。そのカプセルがどうやらアーモリーワンの物らしく、ティトゥスは最初聞いた時奇妙な縁を感じたものだった。


 今はアメノミハシラでロウやミナ、多くの人の手伝いをしているのだが、ティトゥスは彼女が何故か苦手だった。感情をストレートに表現してくるのも中々に困惑するが、どうにも彼女に何か苦手意識というか、近寄りがたい何かを感じてしまうのだ。








「と、所で当のロウ・ギュールはどうしたのだ?」

「いつも通りだ。ドクターやエルザと共に第八格納庫に篭っている」

「またか……ここに来て以来、暇を見つければいつもだな。何をしているのだあ奴等は?」

 ユニウスセブン落下後、それまでユニウスの管理を任されていたジャンク屋連盟にも批判の声が上がり、ジャンク屋連盟は本拠地であるジェネシスαを連合に攻撃された末解体、方々に名の知れ渡っていたロウに至っては指名手配までされる事になった。


 そんなバラバラになりかけていたジャンク屋達に助け舟を出したのがミナだった。彼女はアメノミハシラにジャンク屋達を受け入れ、技術提携を持ちかけた。

 利害の一致もありジャンク屋連盟の責任者であるリーアム・ガーフィールドは提案を受け入れ、多くのジャンク屋がアメノミハシラに集まっていた。

 そういうわけでリ・ホームもアメノミハシラに停泊し、ティトゥスやロウ、ウェストはそれからここに厄介になっていた。

 その際ティトゥス達はミナに自分達の事情を説明したのだが、ミナは疑うどころか逆に彼らに興味を持ち、行動に便宜を図られたりこうして直接顔を見に来る事がしょっちゅうとなっていた。


「ふ、まあ楽しみにしておけばいい、きっとお前も気に入るだろう」

「……?その口ぶり、貴殿は何か知っているのか?」

「さてな……と、噂をすれば来たぞ」

「やいやいやいロンド・ミナ・サハク!頼んでいたパーツが届いていないのであるぞ〜!」

「あ、ウェストさま」

 ギャンギャンとギターを鳴らしながら、何処からともなく現れた■■■■は猛ダッシュでミナに詰め寄る。

 だがミナは涼しい顔でその追求を切って捨てた。

「大方昨日送った分を貴様が既に使い尽くしただけだろう、発注しなおせばまた送ってやる……

 所で、そろそろ支払いをお願いしたいところなのだがな。貴様が潰した資材やパーツに、

 作業機械の使用料その他諸々……生半可な額では済まんぞ、私は慈善事業家ではないのだからな」

「な〜にを言うか。貴様が我輩の目を盗んで、我輩の破壊ロボの解析をしているのは分かっているのである。

 だがそれに文句を言う気はない、これはれっきとしたギブ&テイクである。貴様は我輩の、我輩は貴様の

 技術を調べ、利用する。次からはもっと堂々と調べればよいのである」

「……気付いていたか。まあならそれは良しとしよう」

 お互い一歩も退かず、ウェストとミナはそれぞれ不敵な笑みで相手を見据える。

 そんな二人をティトゥスは呆れて、セトナはいつも通りのニコニコ顔で眺めていた。





「……それで、完成の目処は立っているんだろうな? 必ず造る、というから貴様の好きにさせているのだぞ」

「当然である。既に全体の構築は済んでおる、後は回路への式の組み込み作業を残すのみ。まあ、そこが一番のキモであるが」

「ほう、予想以上に早いな。まだここに来て五日と経っていないのにか?」

「我輩をなめてもらっちゃあ〜困るのであ〜る!例え設備が劣っていようとこの大!天!才!

 ドクターウェストの手にかかればあのくらいのモノをちょっぱやで完成させる事なぞ造作もない

 ことなのであ〜る!」

 そう言いながらまたギターを掻き鳴らす。その騒音にウンザリしながら、ティトゥスはウェストに抱いていた疑問を聞いてみた。

「ドクター、一体御主等何をやっておるのだ?サハク殿の言葉からすると拙者にも何か関係しているようだが」

「ぬ……ロンド・ミナ、もしかして喋っちゃったのであるか?」

 ジト目で睨むウェストの視線を、ミナは表情一つ変えず受け流した。

「……まあいいであるか。そろそろ本人による調整が必要だったのである」

「調整?」

「うむ。実は、我輩のこのマーヴェラスかつエクセレントな頭脳が浪漫シングで性的な閃きによって……む?」

 ウェストの言葉は、物々しいアラームによって遮られた。周囲の作業員達も緊張を顔に浮かべ、慌しく動き回っている。

「何事だ?」

「……襲撃だ」

 またかといった感じの表情で、ミナは短くそれだけ告げた。

「襲撃だと?」

「うむ。大方ここを狙っている連合かザフト……今の情勢では連合だろうな」

 実にくだらん、と一言で切り捨てて、ミナは振り向き歩みを進める。

「だが所詮無駄な事。我の兵達が守るこのアメノミハシラはそう簡単には落とされぬ。それに今は

 傭兵達も居る、問題はあるまい……私は司令室に上がる。貴公等はまあ終わるのを待っておけ」

「あ、待ってくださいミナさまー!」

 ティトゥスに背を向け、ガレージから出て行く。それをセトナも追っていき、作業員達の喧騒の中ティトゥスとウェストが残された。

「……と言われても、居候の身で何もせんのは気が引ける。動かせる機体はないものだろうか」

「まあ待つのである。それなら……ってぬおおお脳天割りィィィッッ!?」

 突然の振動が、アメノミハシラを揺らした。ティトゥスは何とか体勢を崩さず踏ん張るが、ウェストは思いっきりこけた挙句先程ティトゥスが斬り落とした鉄塊に見事に後頭部をぶつけて白目をむいている。


「なんだなんだ!?」

「爆発っぽいぞ今の揺れ!」

 突然の揺れに作業員達にも困惑がすぐさま伝播していく。

(……!?)

 そんな中、ウェストを助け起こそうとしたティトゥスの背に悪寒が走る。アーモリーワンと同じ、懐かしく忌まわしい感覚。闇の匂いを漂わせる、魔力の波動。

 だがあの時と決定的に違う点が二つ──あの時とは比べ物にならぬほどハッキリと感じられる強い魔力。

 そしてその魔力に混じり漂う、濃厚で醜悪な……腐臭。

「これは……真逆っ!?」





「ホンット、アメノミハシラの警備も大したことないわねー。囮とステルス有りとはいえ、こんなに簡単に内部に侵入されちゃダメダメよ?」

 破壊されたアメノミハシラ下層部の強固な壁──その向こうの宇宙空間から、宇宙服も着ていない奇妙な出で立ちの人間が、外に漏れる空気の流れに逆らい内部へと入って来る。

その背で緊急隔壁が降り、

破壊された壁は塞がり空気の流れも止まる。

 その人物は実に奇妙だった。巨体を全て黒いフード付きローブで覆い隠し、その顔は下卑た笑みを象った緑の仮面に覆われている──まるで、道化師だ。

「爆発の起きた区画はここかっ!?」

「っ!? 侵入者?」

 異変を察知した警備員達が、不審者に向けて銃を向ける。道化師はそれを見て身をすくめ、仮面をクルリと一回転させる。

「あら、対応だけは早い事。皆さん始めまして、元気してる〜?」

「動くな! 手を上げろ!従わないなら容赦なく射殺する!」

「つれないわね〜。もうちょっと方の力抜かないと人生楽しめないわよ?」

 銃口を向けられても全く動じていない風な道化師は、警備員たちにジワジワと近寄っていく。

その未知なる異様への恐怖も手伝い、警備員たちは戸惑いなくライフルの引き金を引く。

 弾丸の雨アラレが道化師の身を引き千切り、ミンチにしていく。数秒の一斉射のち、道化師はボロボロのローブとともに地面に倒れ伏す。

 ローブの内部は無残な状態となっていている筈だ。

 警備員達はまず、他に侵入者がいないかどうかを調べようと死体から背を向け……その背に、声がかかった。



「──痛いじゃないのよ」



 警備員の一人が振り返った瞬間、その顔が三枚に下ろされた。仮面を赤い憤怒の表情に変え、両腕に巨大な鉤爪を取り出した道化師はその巨体で飛び上がり

 ……虐殺が始まった。

 脳髄を砕かれ、内臓を抉られ、手足をバラバラにされ──道化師の周りには、モノの数秒で無残な死体の山が築かれた。

「だらしないわね、もうちょっと楽しませなさいよ……まあいいわ。アンタ達、出てらっしゃい!」

 呆れた声を出しながら、道化師は指をパチンと鳴らす。直後道化師の周囲に灰色の装甲を纏った異形──レギオンが四体、姿を現す。

「アンタ達は防衛機構を徹底的に破壊しなさい、抵抗する奴は殺しちゃっていいわよ。アタシはアタシで楽しませてもらうわ、久しぶりに気兼ねなく好き勝手出来るんだから……さあ、行ってらっしゃい!」


 道化師の号令と共に、レギオン達は散っていく。何時の間にか笑みに戻った仮面をケタケタと揺らしながら、道化師は仮面の奥で舌なめずりした。

「さあ待ってなさいロンド・ミナちゃん……このティベリウスがたっぷりしっぽり、文字通り死ぬほどヒィヒィ言わせてア・ゲ・ル♪ああもうガマン出来ない、想像するだけではちきれそうよ〜ん!」


 道化師は笑いながら歩みを進める。その後ろで、放置された死体がモゾモゾと動き始めていた……





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