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DEMONBANE-SEED_種死逆十字_07_3

Last-modified: 2013-12-22 (日) 06:10:00

「答えは出たかね、アスラン?」

 プラント首都、アプリリウス。そこにあるデュランダル議長の執務室でアレックス──否、オーブ特使アスラン・ザラは議長と向かい合っていた。デュランダルがアスランに差し出した手の中には、特務部隊『FAITH』の徽章が収められたケースがある。





 数日前プラントに到着したアスランは、ユウナの手回しもあり比較的すぐにデュランダルとの対面する事が出来た。だがそこでアスランに突きつけられたのは連合からプラントへの宣戦布告、及び同時に行われた核を含む先制攻撃という事実。そして、それに対して怒りを露わにする民衆の姿だった。

 連合、ひいてはナチュラルに対してのプラント国民の憤怒は爆発し一気に燃え広がったものの、議長の用意していた偽のラクス・クライン──ミーア・キャンベルという隠し玉により何とか沈静化を見た。しかしそれでも、民の怒りを見たアスランは平静ではいられなかった。

 怒りと憎しみだけでただ撃ちあってはいけないと自分は分かっている、いや本当は誰だって分かっている筈だ。しかし、それでも、どうしても……怒りと憎しみの感情はそう易々と御する事が出来るものではない。プラント国民の姿は、アスランにそれを認識させた。

「俺は……俺はアスラン・ザラです!二年前、どうしようもないまでに戦争を拡大させ、愚かとしか言いようのない憎悪を世界中に撒き散らした、あのパトリックの息子です!」

 しかも今回の戦争のキッカケはユニウスセブンを落とそうとしたテロリスト、更に言うならその標となる思想と行動を体現してきた自分の父、パトリックである。アスランが重すぎる責任を錯覚し、その重圧に取り乱すのは無理からぬ事だった。

「彼等は行き場のない、自分達の想いを正当化する為にザラ前議長の言葉を利用しただけだ。自分達は間違っていない、何故ならパトリック・ザラもそう言っていただろう、と。それは単なる責任の転嫁に過ぎない、前議長の実際の考えがどうだったであれね。

 テロリストはテロリスト、パトリック・ザラはパトリック・ザラ……そして君は君だ、君が負い目を感じる必要は無い」

 そんなアスランをデュランダルは優しく、かつ毅然とした態度で諭した。そして見せたい物があると、アスランをある場所へと連れて行った。

「ZGMF−X23S『セイバー』……この機体を君に託したいと言ったら、君はどうするね?」

 突然工廠に連れて来られて見せられたMS、そしてデュランダルが告げた言葉にアスランは絶句する。

「どういう事ですか?オーブの特使である俺にザフトに戻れと?」

「……確かに、結果としてはそういう事になるのだろうね」

 ──志を同じくする者としてアスランに共に立って欲しい。かつて大戦を収めた時のように、大きな力を持った存在として──はっきり言うなら、万一の場合の抑止力として──というのが、デュランダルがアスランに伝えた考えだった。

「先の戦争を体験し、父上の事で悩み苦しんだ君ならば、どんな状況になっても道を誤ることはないだろう。我等が誤った道を行こうとした場合、君にそれを正して欲しい。だが残念ながら、そうするにも力が必要だろう?」

 動く事も言葉を発する事も出来ず、アスランはデュランダルの前でただ狼狽するばかりだった。

 頭の中で、考えが何一つ纏まらない。

 ──ザフトに復帰出来る?そうすれば俺はまたプラントの為に闘える……また、闘えるのか?

 故郷の為に、友の為に、プラントの同胞達の為に──裏切り者の自分が。

 そしてそれは……今まで逃げてきた、父の残した罪を償う事になるのではないだろうか?

「急な話だ、すぐ心を決めてくれとは言わんよ」

 デュランダルの言葉に現実に返る。しかし相変わらず考えはグルグルと頭の中で回り続けたままだ。

 結局その場では答えを出せず、アスランはその日宿泊先のホテルに戻る事になった。

「君に出来る事、君が望む事……それは君自身が一番よく知っている筈だ」

 最後に投げ掛けられた言葉に、アスランはプラントへの思いを強く揺さぶられ……自分がそもそも何故ザフトに戻るか否かを迷っているのか、その理由を忘却していた。







 そして今、アスランは選択を迫られていた。ここでデュランダルの手の中の徽章を取れば、アスランは特務隊としてザフトに復帰する事になる。

「……俺は……」

 アスランの脳裏に、この数日に出会った人達の顔と言葉が浮かぶ。

(あたしなんかにラクスさんの代わりが出来るなら、少しでもプラントのみんなの役に立つならって思ったから。あたしの歌で少しでも誰かを安心させたり、勇気付ける事が出来るんなら……それだけで、あたしはとても嬉しいから!)

 顔を変え、名を偽って、それでもプラントの為に歌うという決意を、少し照れながらはにかんだ笑みで応えたミーア。

(戻って来いアスラン!文句を言う奴はオレが黙らせてやる!お前はオレ達と同じプラントの人間だろう!)

 前大戦で失った親友ニコルの墓前で、ザフトに戻るよう必死に訴えてくるイザーク。その後ろで言葉にこそしないが、その表情がイザークと同じ考えを物語っていたディアッカ。

(君に出来る事、君が望む事……それは君自身が一番よく知っている筈だ)

 そしてプラントを捨てた自分に真摯な態度で接し、更には信用して力を託そうとしてくれている眼前のデュランダル議長。

「俺は……俺は……」

 プラントは俺の故郷。そこで今故郷を守ろうとしている友がいる。今までの自分全てを捨てて、人々の為に歌おうとする少女が居る。不安にかられている民達が居る。裏切り者の自分を信じてくれている人が居る。

 そして目の前に、再び故郷の為に、彼等と共に闘う事が出来る道がある。

「俺は……!」

 ゆっくりと徽章の入ったケースへと手を伸ばす。これを手に取れば戻れる。故郷に、友の元に。今度こそ故郷の為に闘う事が出来る。

 そして父が残し、自分が捨てた罪を、ようやく清算する事が──







(アス……ランッ……)







「──っっ!」

 ケースの目と鼻の先まで伸びていた手をはっと握り締める。その手をゆっくりと引き戻し己の胸に当てながら、アスランは顔を俯けた。

 その様子を見て訝しげに顔を顰めるデュランダル。しばらくしてアスランは顔を上げ──その顔は迷いなど微塵もない、決意に満ちたものに変わっていた。

「──議長。申し訳ありませんが、今これを私が受け取るわけにはいきません」

 ハッキリと言い切る。突然変わったアスランの雰囲気にデュランダルが眉を顰めた。

「何故だね?理由を聞かせてもらいたい」

「……私はかつてプラントを裏切りました。任務を放棄し、国を捨て、同胞達と戦い……戦いが終わった後、その責任を取る事もなくそのままオーブへと亡命しました。そんな私がノコノコ戻ったところで何かが出来るどころか、変節漢と哂われるだけでしょう」

「そんなことはない。それにオーブへの亡命は当時の状況では仕方なく……」

「違います。オーブへの亡命は……いえ、プラントを捨てたのも、同胞に弓を引いたのも……全て私が自分で、自分の意思で選んだんです。

 私は……カガリと、アスハ代表と共に歩み、傍で彼女を守り続けると、決めたんです」

 自分はあえて、プラントを捨てる道を選んだ。あの時の父の、プラントの道が正しいとはどうしても思えなかったから──そして、それに気づく事が出来たのはどうしてか、父や同胞と戦う苦難の道に耐える事が出来たのは何故だったのか、どうして最後までその道を歩み続ける事が出来たのか──その理由を忘れていた。



 ──カガリに出会ったから、俺は間違いに気づく事が出来た。カガリが居たから、あの時俺は闘ってこれた。



 ──そして彼女を愛していると気がついた時、俺はこれからカガリの為闘うと決めたんじゃなかったのか!



「今の私の主は、アスハ代表唯一人です。確かにプラントの為に闘いたいという思いはあります、しかし……仮に戻るとしても、主であるアスハ代表に全てを話し、許可を得た上で決めるべきだと考えます」

「……今の君にとってはアスハ代表、ひいてはオーブが第一という訳か……ではもう一つ聞かせてくれ。仮に、もし仮にオーブが、アスハ代表が道を間違えた場合、君はどうする?ザラ前議長の時のように国を捨てるのかね?それとも間違いと分かっていても主に従い、オーブと共に間違いを犯すつもりかね?」

「──間違わせはしません」

 厳しい目を向けてくるデュランダルに、アスランは真正面からその瞳を見つめ返した。

「私はかつて父を止められませんでした。父が変わっていくのに気付かなかった。父の間違いを正す事が出来なかった──だからこそもう二度と、大切な人に過ちを犯させたりはしない」

 結局これは、父の残した責任から逃げる事になるのかもしれない……だが、構わない。

 裏切り者と呼びたければ呼べ。責任から逃げた臆病者と罵りたいなら罵ればいい。

 ──それでも、眼前の罪の意識から逃れる為に心に決めた思い人まで裏切るという罪を犯すというなら、それこそ人間として救いようがない……俺は、そんなクズにまで成り下がるのだけは御免だ!

「もしあの方が道を誤りそうになったならば、それを伝えて正しい方向へ導きます。それで意見がぶつかるなら、納得して頂けるまで言葉をかけ続けます……引き返せなくなる前に、絶対に止めます。それが私のアスハ代表への……忠誠の形です」

「……もしも、そこまでして出した答えが間違いだったとしたら、どうするね?」

「その時は貴方が討って下さい。私を、アスハ代表を──オーブを。しかし私は、彼女が誤った道を進む事は無いと、信じています」

 言い切った言葉には一片の淀みもない。それを聞いたデュランダルは目を伏せ、大きく溜息を付いた。

「どうやら、私の目は節穴だったようだ」

 アスランの表情が強張った。自分の言った事に後悔はない。しかし覚悟していたとはいえこれまで良くしてくれた議長の信頼を裏切り、失望させてしまったとあっては流石にショックを禁じ得ない。

 ──しかし顔を上げたデュランダルが浮かべた表情は失望ではなく、まるで悪戯を失敗した時の

少年のような、少々後ろめたさを含んだ苦笑だった。

「もっと決断力のない優柔不断な人間だと踏んでいたんだがね。なかなかどうしてしっかりとした考えを持っているじゃないか。上手く此方に引き込めればというのは甘かったか、いや残念残念」

 その発言にアスランは硬直し……その内容を脳内で理解した直後、目を見開いてデュランダルに迫った。

「決断力がなっ……議、議長ぉっ!?ど、どういう事ですかそれは!?」

「ああいや、そんなに怒らないでくれたまえアスラン」

 少し冷や汗をかきながら、コホンと咳払いしデュランダルが語り出す。

「アーモリーワンから君を見ていて、どうにも君が、なんというか……やりたい事が出来ないもどかしさを覚えているというか、オーブに居るべきか否か迷っているような、そんな風に感じてね。私の目には君が満足しているようには見えなかった……ならばいっその事もうプラントに戻ってもらって、その力を十分に活かしてくれた方が有益ではなかろうかと考えていたのだが……」

 やれやれと肩をすくめながら、デュランダルは力なく笑った。

「どうやら余計なお世話だったらしい。君は決して優柔不断な人間などではなかった。ちゃんと自分で考え、己のやるべき事を見据えていたようだ──他国の人間への分を弁えぬ度重なる干渉、どうかお許し願いたい、ザラ特使殿」

「は、はぁ……って、そんな!顔を上げて下さい、議長!」

 随分侮られていたんだなと複雑な思いを抱きながら、議長に慌てて頭を上げるよう言うアスラン。

 そして、同時に思う。これで議長にも『オーブの人間』と認識され、もうプラントへの帰還の道は

ほぼ断たれた──そう考えると胸に僅かばかりの痛みを感じる。

 ──けど、これが俺の望んで選んだ未来だ。

「長々と時間を取らせてすまなかったね──ああ、それと迷惑ついでになんだがあと少し、君に頼みたい事が幾つかあるのだよ」

 デュランダルが胸元から二通の書簡を取り出し、片方をアスランの手に握らせる。

「まず一つ、これがユウナ氏からの親書への返答だ。無事に彼の元に届けてくれ」

「はい、必ず」

「そしてこれが二つ目……と、三つ目かな」

 もう一つの書簡に、デュランダルは先ほどアスランに渡そうとしていた『FAITH』徽章入りケースを添えてアスランに差し出す。意図が読めずうろたえるアスランにデュランダルは笑う。

「ああ、これは君宛というわけではないよ。悪いがオーブに留まっているミネルバのグラディス艦長に、これを渡して欲しいのだ……」

 そこでデュランダルは顔を横に動かし、言った。

「……そしてこのセイバーでミネルバの元へ、つまりオーブへと戻ってもらいたい」

「はあっ!?」

 流石に全く意味が分からず、素っ頓狂な叫びを上げてしまうアスランだった。

「なんでそうなるんですか!俺は復帰を断ったんですから、ザフトの機体に乗るわけにはいかないでしょう!

 それに『FEITH』の徽章といいこの新型といい、他国の人間にこんな重要な物を任してどうするんですか!」

「まあまあまあ、落ち着いてくれたまえアスラン……理由は、ちゃんとあるのだよ」

 今にも眼前に詰め寄ってきそうなアスランを宥めていたデュランダルの表情が、その理由を語りだすと途端に引き締まった。

「まず時間がないのだ。今の状況ではオーブは近々連合と同盟を結ばざるを得ない。君という繋がりを持つ事が出来たとはいえ、それはいかんともしがたい事実だ……『ミネルバは同盟締結前に必ず無事にカーペンタリアへと送り出す』と親書に記されていたのだが、となるとやはりそう長居は出来ないだろう。ならば君を急いでオーブにお返しせねばならんが、今の状況では下手なシャトルよりセイバーの方がずっと早く地球に戻れる筈だ」

 確かにアスランが此方に来た時とは違い、既に宣戦布告されている現在はプラント間は勿論、月や地球へのシャトルの行き来は厳しく制限されている。多少強引ではあるが、ある程度の持続力と機動力を持つMSの方が早く移動出来る場合があるのだ──勿論、それも数日コクピットにカンズメが前提ではあるが。

 ──かのフリーダムには、嘘か真かプラントから地球まで一日足らずで到達したという逸話があるがそれは余談である。

「そしてこれも時間がないという事なのだが、出来うる限り早くこの徽章とセイバーをタリア……コホン、グラディス艦長に届けておきたいのだ。詳しくは言えないが彼女とミネルバには色々と働いてもらわないといけないのでね。彼女の権限の拡大とミネルバの戦力強化は急務なのだよ。君が乗らない以上、セイバーはここに置いていても仕方ない。ならミネルバに回すのが妥当だろう」

 成る程、確かに分からない理由ではない。しかしアスランにはまだ、それだけでは納得が行かなかった。

「確かに議長の仰る事は分からなくもないのですが……しかし何故そのような重要な役割を、私の様な外部の人間に任せることが出来るのです?失礼ですが、私にはそこが理解出来ません」

「そうかね?その疑問の答えはとても単純な事なのだがね」

 再びアスランへと目を向け、デュランダルは奥の見えない、不敵な笑顔を向けた。

「君を信頼している……そういう理由だけでは君は納得してくれないかね?」







「システム、オールグリーン。異常無し」

 セイバーのコクピットの中で、借り物であるザフト一般兵用のパイロットスーツを着たアスランが機器のチェックを終える。外部モニターにはタラップや整備機器が移動し、セイバーの通り道が広がっていくのが見える。

『聞こえているかね』

 小型ディスプレイに管制室に居るデュランダルの顔が映る。結局ごり押しでアスランをセイバーに乗せた張本人は、それを悪びれもしないで普段通りの不敵な笑顔を浮かべていた。

『……アスラン。私はまだ君と共に戦う道を諦めた訳ではない』

 まだ言ってる、中々強情な人だな、とアスランは思った。数分前の、ほんの僅かな間の会合だけで、デュランダルへの認識はかなり大きく変わっていた──そういえば最近、他人に持っているイメージがコロコロ変わっているなとふと思い、バイザーの奥で苦笑した。 

『いつか君が再びプラントの、いや世界の平和の為に闘ってくれると信じているよ』

「……そうですね。そんな日が早く来る事を祈るばかりです……オーブとプラントが正式に、共に同じ道を歩む事が出来れば、それは可能ですから」

『……フッ。では気をつけて。アスハ代表やユウナ氏に宜しく伝えてくれたまえ、ザラ特使』

『了解しました。ご依頼も必ず果たしますのでご心配なく。そちらもご壮健で、デュランダル議長』

 VPS装甲を起動。流麗なラインを持つ灰色の装甲が赤く染まる。全身のスラスターが炎と唸りを上げ、

巨体が宙に浮き上がる。

「アスラン・ザラ、セイバー、発進する!」







to be continued──







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