Top > EVAcrossOO_寝腐◆PRhLx3NK8g氏_05話
HTML convert time to 0.035 sec.


EVAcrossOO_寝腐◆PRhLx3NK8g氏_05話

Last-modified: 2014-04-12 (土) 20:09:05
 

第伍話前編「四人目の適格者」 Edit

 
 

―元葛城ミサトの自室、現伊吹マヤが管理する部屋の夕食時にて

 

「ふーん。家事分担してるんだ。意外とこき使ってるのね」
「そ、そんなんじゃないわよ。そのほら、刹那君ってそのなんていうか
 生活観がないじゃない? 何やってるか解んないっていうか」
「……うん。確かに」
「あー、まぁーねぇ」
「だから、一応その日常感がないと駄目かなぁって思って。
 その、少しずつ慣らせるには良いんじゃないと思ったんだけど」

 

 女三人集まれば姦しい。文字の如く、伊吹マヤ宅の食卓は久し振りの談笑が
 飛び交っていた。クリスティナ・シエラ、フェルト・グレイスが同席するテーブルには
 エスニックな雰囲気で名前がなんなのか良く解らない煮込み料理や
 羊肉を焼いた料理が並べていた。料理名を聞かれたらカタカナの羅列になるので
 大体、香草焼だの煮込み料理だの日本語的解釈で済ませば、腑に落ちそうな雰囲気だ。
 それを作っていたのは現在進行形で台所で家事に従事している刹那・F・セイエイである。
 マヤは彼が台所に立っている事情を説明しながらも、フェルトはふぅんっとそのまま受け取り
 クリスはニヤニヤとした顔でへぇーっと返している。
 深読み気味なクリスの表情にマヤは一瞬むっとするがそれをみてクリスは更に笑いを深めている。

 

「でもその……ああ見えて、意外と手際良いのよね。
 料理とかも良く出来るし。むしろ、私が教えて貰ってるレベルで」
「あちゃ、そりゃなんか色々とご愁傷様ね」
「彼のクラスメイトで筑前煮が上手く作れる子も居てね。
 私、今まで女として何遣ってたんだろって感じで」
「だ、誰でも得手不得手は」
「……不得手か」

 

 よく分からないが取り敢えず魚が煮込まれたスープをすすりつつもマヤは
 若干自虐気味に言葉を連ねていた。料理下手なのは自覚していたがそれでも
 女としてのプライドなんてものが潜在的に植え付けられていた訳で
 それをフォローするフェルトの言葉は更に深く突き刺さり、より一層暗くなり
 頭の中ではネガティブな言語が飛び交っている。
 その様子を缶チューハイ片手に膝をたたきながら笑い飛ばしているクリスに
 ジト目でフェルトは視線を注いでいたが、そんな視線に酔いが回り始めているクリスが
 気が付く訳もなく、その視線の行き場を失ってしまっていた。

 

「あははは、まぁー仕事柄仕方ないでしょ。
 私たちの仕事じゃ、冷蔵庫に食材なんて入れてたら腐らせちゃうわよ?
 フェルトが来る前はうちの冷蔵庫はドリンク保管庫になってたし」
「そういうものなのかなぁ」
「特にフェルトが煩くてねぇ。賞味期限とか色々と。
 もう、将来良いお嫁さんになる気バリバリなのよ? ほんと」
「だ、だってクリスは適当に色々買ってくるから」
「食べたいときに食べたいもん買うのがフツーなのよぅー?
 フェルトは良い子過ぎるのよぅー?」

 

 クリスはよく分からない羊肉らしき焼き物にフォークを伸ばしつつも投げやりに言葉を吐く。
 酒で顔が赤らんでおり、缶チューハイの上の方を持ち
 手首をくねらせて揺らしながらも矛先をフェルトへと向けてなじり絡む。
 フェルトはなんでばらすの?と言わんばかりにジト目でクリスを見た後、顔を赤らめたまま俯くが
 その表情すらもかぁいぃっと猫かわいがりで抱きしめて敢えて空気を読まないクリス。
 その空気に釣られてマヤの表情も緩やかになってくる。
 ふと、気配が一つ増えている事にクリスは気付くと石像の様につったっている刹那が視線にはいる。
 会話が丁度途切れた間を縫って両手に抱えた鍋をテーブルの中央へと配膳する。
 種の緊張感を醸し出しながらも、青魚とご飯辺り煮込んだのであろうリゾット的なモノが椀に盛っている。
 主食及びメインらしきそれを運び終えれば、エプロンを折りたたみ席へと着く。

 

「これで終わりだ」
「ご苦労様。刹那君」
「しっかし意外よね! ネズミとかトカゲとかそのまんま焼いて食べてそうなのに」
「クリス、そういう言い方は失礼だよ」
「ネズミもトカゲも食べられる」
「……食べた事あるの?」
「たんぱく質は貴重だ」

 

 日本の慣例に倣い、仰々しくも両手を合わせて仏教式の祈りを捧げると刹那もフォークを伸ばしていく。
 ちょっとした空気を揉んでやろうとクリスはちょっと高めのテンションで話題を降ってくる。
 手を止めることもなく、聞いていた中フェルトが良心的にも途中で割って入るが
 刹那は斜め上の返答を返す。止まる空気。マヤだけは手を止めておらずどこか
 現実逃避をした様な視線の置き方をしていた。
 しばしの沈黙、フェルトの質問にYES、NOではなく理屈で返す。
 その返答には感情とか気分とか言う配慮の要素が無く相手への納得ではなく
 本人の確信のみが伝えられていく。
 大抵、刹那との会話が続かないのはこのパターンが殆どに限られる。
 己の経験と理屈による自分はこうするという表明。
 別に同意や説得する意志も無く、何を強要したり、理解を求めることも無い。
 その上に普段から押し黙っているので染まる事も無ければ相手も染まらない。
 何時までも認識と理解の溝が埋まらず、”よく分からない”という印象が根づいてしまう。

 

「……まさか、入ってないよね?」
「以前、捕獲した野生動物を材料として使ったら伊吹マヤが卒倒。その後、指導が入った」
「まさか、公園の鳩が食卓に並ぶとは思わない……でしょ?」
「…………うわぁっ」
「此処はまだ動植物が多いのだが衛生面の配慮からダメらしい」
「御腹壊して任務に支障が出るのは困るからね」
「………………あははははっ」
「ひぅっ!」

 

 フェルトの手がふと止まる。ぎぎぎっと油をさし忘れた機械の様に
 首を曲げつつも確認と否定される事を懇願を含めた視線と共に問いを投げ掛ける。
 マヤの視線は遠く宙空のはるか別次元へと投げかけられて回想と共に語られる。
 想像をするだけでスプーンを落としそうになるクリスとフェルト。
 乾いた笑いで場を濁している中、フェルトの小動物の様な悲鳴とともに手が止まる。
 何事かと三人が視線を向ければ、そこにはスプーンの上にやや大きい魚の頭が
 丁度フェルトと顔をにらみ合う様な形で置かれていた。
 視線を逸らしたまま、煮込み料理らしきモノを掬った結果、掘り返してしまった様だ。

 

「あはははっ、その位で。まだまだ、子供ねぇ。
 まぁ、最近は切り身と本でしか見たことない子も多いか」
「私達の世代ですら、解剖実験も中々やらなかったしね。高校からだっけかなぁ」
「頭が入ってたか。残してくれていい」
「あ……うん。ごめんなさい」
「謝る必要はないと俺は思うが。この国の人間は残すのが慣例と伊吹マヤに聞いた」
「いや、うん。こっちが本来正解っちゃ正解なのかもなんだけどねぇ。
 文化のギャップっていうのかしら? 優劣関係なしに」

 

 スプーンの行き場を失っている中、ようやく刹那の言葉でフェルトはそれを下ろす事が出来た。
 クリスはそれを笑い飛ばしつつもマヤも学生時代の回想が脳裏をよぎっていた。
 刹那のスプーンにも頭が入っており、それを骨ごとがりごりと軽く音を立てつつも噛み砕いている。
 それが目に入ったのでおずおずと頭を下げるフェルトを刹那は理解が出来なかった。
 保護者二名はそれを苦笑気味に漏らしつつも肴に箸を進めている。
 まさか、自分達がこんな大きい子供。しかも全く生まれも育ちも違う子達を預かるなど
 人生のプランに当然組み込んでいる訳でもない。クリスもクリスなりのフェルトとの回想が頭を過ぎる。
 経験者という部分もあるがそれでもわずか経験は2年。
 物分りが良い子ではあるが、それゆえに繊細でもある。
 まして、両親が亡くなってすぐのことであった事もあり、メンタルケアも担わされていた。
 それらの気遣いや今こうやって気さくに話せる事も目の前で試行錯誤するマヤの姿にも
 しみじみと心に感じ入るのか今日はクリスの酒が進んでいる。

 

「意外と大きいよねー、習慣の壁って。フェルトが最初来た時も色々あったわ、ほんと」
「ハァ……今度、ヒリングも復帰するし大丈夫かしら?」
「弱音吐いちゃダメって言いたいところだけど
 協調性という言葉から一番遠い位置にいるからね、あの娘」
「あ……う、うん」
「? 任務は任務だ。やるべき事をやればいい筈じゃないのか?」
「理屈はね?」
「……そう理屈ならね」

 

 まるで思い出のアルバムを一枚ずつめくっているかの様なクリスの感嘆に
 マヤはこれからの苦労と心配をちらりと覗かせる。
 クリスもフォローの言葉を入れようとするが相手が悪かった様子で
 頭の中の辞書とワードソフトをフル活用しても適切な言葉を綴ることが出来なかった。
 フェルトもフォローへの増援へ続こうとするがあえなく返り討ちにあい、苦々しい同意の言葉しか出なかった。
 その一連の応答から刹那だけが一人ぽつんっと取り残されていた。
 刹那は珍しく不思議そうな視線を三人に向けた後、口を開く。
 それに対して、クリスはどこか諦めたかの様な言葉をぽつりと吐いて、マヤもそれに続く。
 フェルトもどこか視線を逸らしたまま、刹那だけが頭にクエスチョンマークを浮かべていた。

 

「あーそうそう。Drモノレから新しいパス預かってたんだったっけ。
 明日届けて欲しいんだけど……どしよ?」
「えーと、学校に行く前が良いわね。ヒリングが学校来るか分からないし」
「……あの、えと」
「案内次第で行けるなら俺が行く」
「そう? じゃ、刹那君に頼むわね。ま、いざという時に家を知ってるのはいいことだろうし」

 

 ふとその空気からはっと思い出したかの様にクリスががさごそと一枚のIDを取り出す。
 それを聞いただけでフェルトは既に私はダメですよという視線をがっつりクリスに向けており
 言葉にそれを出すのか迷うほどであり、マヤも遠まわしに選択肢を狭めようとする。
 逆に刹那はそれくらいで何を戸惑っているのか解らなかった。
 届けに行くだけの簡単な仕事。郵送などにしないのは事故を防ぐための手渡し。
 理屈も道理も通っているし、忌避すべき部分などどこにもない。
 感情や苦手意識による忌避などという選択肢が欠落した刹那は当然率先してそれに名乗り出る事になった。
 続くクリスの言葉にはどこか背徳感の漂う語気ではあったり
 マヤも罪悪感からか大きなため息をこぼしていた。

 
 

―第三新東京市公共住宅にて

 

 案内のとおり進んだ場所は本部から近い集合住宅。鉄筋コンクリートむき出しで
 おそらく午後二時位になれば、床で生肉がそこそこ火が通りそうなほどの簡素な作りであった。
 郵便桶にはダイレクトメールや通販のカタログが無造作に突っ込まれており
 整理整頓という概念が抜け落ちているかの様に散乱された状態を維持されていた。
 インターフォンを一度おせば、ブザーの様な音が反響しているのが僅かに聞こえる。
 反応が無かったので数秒後もう一度インターフォンをおせば、ピッと音を立てて声だけが返ってくる。

 

「あら、六番目? 鍵開いてるから上がって良いわよー。少し待っててー」

 

 散乱する買ったばかりと思われる衣服が壁一面に吊るされてに並べられたり
 食べた後そのまま突っ込んだと思われる菓子とコンビ二弁当やファーストフードの紙袋と
 プラスチックのカップが詰め込まれたゴミ袋。詰まれていた名残がある、崩れて散乱している女性ファッション雑誌。
 質素な部屋には不釣合いなほどの大型のテレビが鎮座し、最新型のゲーム機器がずらりと並んでいる。
 その場に訪れた刹那にはゲーム機器の存在以前にゲームを遊ぶという概念すらよくわからないレベルであり
 無表情ながら不思議そうにおかれた機器を眺めていた。シャワーの反響音混じりの
 家主からの質問が飛ぶまで刹那は何をするでもなく、置物の様に部屋の中央で立ち尽くしていた。

 

「で、何の用ー? こんな朝一に」
「IDカードを届けに来た。新しく発行し直しらしい。何処におけばいい?」
「はいはい。お使いごくろーさまー。ちょっとまってねー」

 

 水音が止むとがらっとおくの扉が開く音がする。声が反響しており
 風呂場からの声だというの刹那にも理解出来た。
 そういって、部屋の主がシャワーから出る。
 それに振り返れば、刹那の視界に共に飛び込んできたのはヒリング・ケアの半裸体であった。
 下のショーツは履いているが首にはタオルを掛けており
 真珠の様に白い色と水滴をわずかに残した肢体はさらされており
 頬はわずかにシャワーの熱でほてり、クセッ毛のある髪もやや濡れてまっすぐになっていた。

 

「で、IDカードだが――」
「あんた、存外に失礼ねっ!」
「なっ!?」

 

 対峙したまま、数刻の沈黙と静寂が部屋を支配する。
 ふむっとわずかに頷いた後、手に持っていたIDカードを差し出そうとする中
 目を細め、睨みつけている中、ヒリングの左回し蹴りが刹那の顎を狙ってくる。
 すんのでわずかに背をそらそうとする中、蹴りの途中で僅かに膝を曲げつつも
 軌道をぴたりっと止めた後、そのまま、刹那の腹部に向けて蹴り飛ばす。
 もろにくらってしまった刹那はそのままよろめきそうになった後、そのまま足を下げたと同時に
 後ろに振りかぶっていた右手がまっすぐに刹那に向かって延びてくる。
 繰り出された右手の掌打によりベットへと押し倒され、衝撃で脱ぎ散らかした下着が散乱している中
 ヒリングは近くにあったデニムのホットパンツを見つけ、刹那の右手に通した後、一度ひねった後
 パイプベットの横につけらた格子に通した後、左手も同様に嵌めて両手の自由を奪う。
 口調では怒っていたがヒリングはその一連の動作を嬉々とした表情で行っていた。

 
 

「ま、死にはしないと思うけど、一応大丈夫っぽいわね」
「がっ、ゲホッ」
「デニムだから簡単にはいかないだろうけど、結構気に入ってるから千切ったら弁償ね?」
「はぁっ、んっ……くっ」
「鈍ってんじゃないのぅ? ま、そんな事はどうでもいいわ。さて質問、あんたゲイ?」
「お前が何をしたいか、質問の意図が理解出来ない」
「同性愛者かって聞いてるのよ。男に抱かれるのは好き?」
「いや、そんな趣味はない」
「なら、”反応したら勝ち”ね」
「なっ、何をする!?」

 

 刹那の上にまたがる様に座り込んだ後、まるで新しいおもちゃを与えられた子供の様な
 表情にんりつつもつんつんっと刹那の鼻先を指で突っついているヒリング。
 同じ年頃の相手一人にこうもやり込められてしまっている事に刹那は自分の不甲斐なさを感じていた。
 その感情が僅かに顔に見えただけでもヒリングはくすくすっと小さく微笑を漏らしたまま、顔を覗き込む様にして
 その心理を抉る様な言葉をぶつけていくが、続いた質問には相手に動揺と疑問の衝撃を与えていた。
 数刻の沈黙を待った後、ようやく頭が整理出来た。状況の把握、安否の確認から殺意がある訳ではないと理解する。
 何か失礼があったのか?と刹那は考えたが本人の考えうる中で出された該当は無し。
 そもそも、ヒリング・ケアという人物に対して情報量が少なすぎるという判断から降参に等しい言葉を差し出す。
 けれど、ヒリングはそんな事を気にする事もなく、質問を断行。
 話が進まないと思い、ため息を漏らしつつも刹那は回答する。それを聞けばにんまりと口元を歪めつつも
 鼻歌交じりにまるで着せ替え人形を扱うかの様に刹那のYシャツのボタンを上から外していく。
 困惑を隠せないまま声も荒くなるがヒリングは全く関することもなく作業をすすめていく。

 

「理屈って私、嫌いなの。正しい正しくない以前に口先でやり込められるのってムカつくじゃない」
「質問に答えろ」
「私は女なのよ? 裸を見たのに顔も赤らめも逸らしもせずってのは
 ちょっと反応として失礼じゃない?」
「……んっ」
「あ? 今、胸無い癖にと思ったわね?」
「ああ。……だが」
「そう、ココはないでしょ?」

 

 手を止めること無く、手前勝手な言葉を並べ立てるヒリングに刹那は眉間に皺を刻んでいく。
 その眉間を人さし指でぐりぐりともみほぐす様にして目は笑ってない笑みをこぼしている。
 言葉に対して、僅かに揺れるタオルの向こう側に見えるヒリングの胸板へと視線を注ぐ。
 腹部の薄い脂肪から胸元へと上がるにつれて全くの隆起のないそれは刹那が知っている
 女子の肉つきと断定することは出来ず
 どちらに近いかと言われれば自分の様な男子に近いという印象さえあった。
 ヒリングはそんな視線の移動を見る事もなく、まっすぐに刹那の瞳の奥底を覗き込む様な視線を注ぐ。
 見ずともに経験則からその判断はよくわかる。だから、自然と次に動くべき行動に写っていた。
 ズボンをおろしたトランクス越しにヒリングのショーツが重なる。
 刹那の垂れ下がったモノが感じとった触感から
 布越しにヒリングのその場所に男子特有のモノがないことが確認される。
 認識は半ば疑問のまま、立証されていく。無いモノはない。だから、特定は可能な筈だ。
 しかし、断定が出来ない。混乱と感じ取られる状態から刹那の理性がぐらぐらと揺ら付き始める。

 
 

「”体質なのよ”っ、理屈はあるの。けどさ、口先だけでハイそうですか納得されても嬉しくない。
 しかも大抵そういうのって言葉で解ったフリをしてるだけだから」
「言いたいことは大体解るが」
「だから、六番目の体と脳が如何認識するかが重要なのよ。
 あんたが反応したら私は女、しなかったら男。シンプルでしょ?」
「……いや、ちょっと……まっ」
「ま、しなかったらこのまま絞め殺してやるんだけどね」

 

 ヒリングはわざと難しい単語を避けて、アラビア語で刹那に跨ったまま語りかける。
 経験則から来る言葉、判断、心境はその手の事に疎い刹那でも解る。
 理論よりも実力、実績、証拠、それら全てが折り重なって実証という筋を通し
 物事は判断される。突きつけられる検証は実に合理的だったが、刹那にとっては
 まず、それらにこだわる心理は理解への道筋が早すぎて承認を得る前に着々と行動が行われている。
 最後の言葉と共に、ヒリングの白い手が刹那の首筋に触れる。粗暴な性格や行動とは裏腹
 その手は正に女性の手であった。しっとりとした手触り、柔らかい指の動きと手つき。
 触れる体温はシャワー上がりの所為なのか、少し暖かく感じられる。
 締め付ける様な手の動きと共に近づく顔、囁かれる声は刹那の唇をなぞり、頬
 そして、耳元へと舐める様に這いずっていく。

 

 刹那はその行動以外について心が揺さぶられている。
 その手、その声、そして手に包み込まれている既視感が全身の血の巡りを荒らげていく。
 心と記憶が錯乱して、オーバーヒートしてしまいそうだった。
 自分が知っているあの人はこんなに生白い肌ではない。
 自分が知っているあの人は自分とそっくりのタールの様な黒髪だった。
 自分の知っているあの人はもっと手は大きく、体の起伏もそれなりにあった。
 自分の知っているあの人はこんなギラついた獣の様な目をしていない。
 検証、判定、否決。それを繰り返し繰り返している。
 だが、幾ら繰り返しても刹那は否定を断定出来ない。
 血流が蠢き、刹那の雄の部分血が溜まり、筋肉が隆起してしまう。
 張り詰められるそれを目の前の人物に知られてしまう。感じられてしまう。
 恥辱。それは刹那の羞恥心に対してではなく、目の前の人に対するモノではない。
 遥か彼方の向こう側に逝ってしまったあの人へ向けての罪悪感。

 

「あらぁぁ? 六番目、あんたそーいう趣味? 、マニアックゥねぇ」
「ち、ちがっ……お前は少し考えが淫売過ぎる!」
「売るって感じ取ったなら、買いなさいよ?」
「なっ!?」
「あんたに説教されるほどガキじゃないのよ?」
「……だ、ダメだ」
「それにこの国には据え膳食わぬは男の恥ってのがある――は、ハックッシュンゥッ!」

 

 今まで自重気味だったそれの硬直を感じ取ったヒリングは僅かに頬を染めつつもニヤニヤとしている。
 誤解。否、正確にいうなら理解以外の何物でも無いのだが刹那としては誤解であると認識していた。
 故に刹那の少ない語彙のおもちゃ箱をひっくり返して、手近にあった一番汚い言葉で罵ろうとする。
 まるで、牙がようやく尖ってきた仔犬が必死になって噛み付こうとする様な
 その牙の意味すらもわからず、噛み付くという動作の見よう見まね。
 そんな稚拙な一撃などヒリングに効く訳もなく、噛み付くその体を絡みつくかの様な言葉の応酬。
 突き立てた牙に螺旋を描くかの様に絡みつき蛇の舌が歯茎へと舐め上げていく様な心理であった。
 ヒリングは左手で体重を支えながらも刹那の体を愛撫する。
 手が進む度にずらされていくシャツ、白い大蛇の様に褐色の肌を舐める様に這いずり上がる。
 近づけたヒリングの吐息が刹那唇を僅かに濡らし、鼻先をくすぐっていく。
 顔を逸らし、視線をそらそうとしても尚、近づいてくそれ、頬をなぞる右腕は顎を持って
 顔を真正面へと向けさせていく。いよいよと言ったところで豪快な破裂音が耳元をつんざく。
 べとべととした唾液とか鼻水とかの体液の混合物が刹那の顔におもいっきりぶっかけられて
 濡らされていく。刹那は眼を閉じていたが、ちっと言う舌打ちの音が聞こえたと同時に
 体にのしかかっていた僅かな重しが取れた様に感じられた。

「ぁー。サブィ。冷房効かせ過ぎたわね。ごめんごめん。興が醒めたわね、こりゃ。
 ま、反応したから私の勝ちって事で」
「もがっ……や、やめ」
「抜け出せるでしょ、そん位? あんたも意外と付き合いいいわね。
 あ、それとも結構楽しんでたぁ? やっぱりおっとこの子ーって奴ね」
「ちがうっ!」

 

 目を開けた瞬間、真っ白い布が顔に覆いかぶさってくる。
 おそらく先程までヒリングの首筋に掛かっていたタオルだと思われる。
 僅かに湿っており、おそらく体の水滴や髪を吸い取ったそれを顔に押し付けられて
 粗雑にそれで顔を拭かれていた。思わず足をばたつかせながらも
 それが終わればその布越しの手の感触も無くなっていった。
 首をおもいっきり左右に降れば、底には着替えを始めていたヒリングの背中が映る。
 背中越しに投げかけられた言葉。僅かに体をずらし、少しひねる様にすれば
 先程まで鋼鉄製の手枷の様に感じられたホットパンツによる拘束がするりと抜けた。
 手首は僅かに赤くなっていたが、そもそもそんなに抜けるのに力は要らなかった。
 状況による混乱だと判断付けた瞬間にそれを崩される言葉に刹那の顔が真っ赤になる。
 ヒリングは振り返ってその真っ赤な顔を眺めておもしろーいっとつぶやきつつも
 下着を付けて、ブラウスに袖を通していた。刹那の必死の否定などどこ吹く風だ。
 くらくらとした頭を支える様に刹那は額に手を当てたまま、鞄の中に入っていたIDカードを取り出す。

 

「はぁーー、取り敢えずIDカードはココに置いておく」
「あ、六番目。アナタ、面白そうだから今日付き合いなさい」
「学校がある。今日は休日ではないぞ?」
「ぁ? サボる……って解んないか。えーと、サボタージュ。休むに決まってるじゃない」
「何故だ?」
「私と遊ぶからよ」
「理由になっていない。休んでいい訳がない」

 
 

 大きなため息。まるで肺の空気を全て搾り出していそうな程の量を吐き出した後
 刹那はベットにIDカードを投げて帰ろうとする瞬間、生白い肌の足が刹那の首筋でピタリと止まる。
 ヒリングによる脅迫。掲げられたナマ足を下ろそうと手に触れると振り子の運動の様に軌道を戻し
 ぴたりっと足は床に着地した。そのまま、入り口を塞ぐかの様にヒリングは手に壁をついて
 寄りかかるかの様に立ちふさがる。一応、ヒリングの中では理屈は通しているのだが
 刹那にとってそれは理由の体を為していなかった。そもそも、ワガママなどという言葉と概念は
 幼少の頃うち捨ててしまった刹那に取ってもはや奇行に近い物言いであった。
 その言葉にふーんっと呟きつつ、目を細めたヒリングが口を開けば、予想外の角度からの攻撃が飛んできた。

 

「アンタ、授業全然解ってないでしょ? そもそも、先生の言う事理解できてる?」
「まだ、難しい」
「アハハハっ、やっぱりー? そーいうのを時間の無駄って言うのよ」
「しかし、行かない訳にはいかない」
「どうせ、私達は授業で出なきゃいけない日なんて満たせる訳無いんだから何日休んだって関係ないでしょ。
 理解も出来ない授業、満たせない授業日数に時間潰して何が楽しいの?」

 

 まるで刹那の通学及び授業中の態度を全て見ていたかの様な言葉。
 それに僅かに衝撃を受けながらも、刹那は言葉を返す。
 それを一蹴し、ヒリングは刹那の生真面目な行動及び今までの時間を笑い飛ばす。
 僅かに眉間に皺を寄せつつも、続けられる言葉にやれやれっと手を外側へと振り払いつつも
 その態度の価値を換算、蹴り飛ばしている。刹那の既視感は先程と似通っていた。
 容易に口を出せばまた、ヒリングの口車に飲まれていしまう。
 刹那は僅かな沈黙の間を置いた後、慎重に言葉を選んでいく。
 次はどんな言い訳をするのかむしろ、それを一蹴することがゲームの一種かである様に
 ヒリングは黙ってその続く言葉を待ち構えていた。

 

「普段の学校生活の態度から色々と評価されると聞いてる。
 まして、俺達パイロットにもきちんと通学を推奨しているのはNERVの方針だ」
「私達は世界と全人類を守るため、命張ってるの。これ以上の優等生って世の中に居ると思う?
 それに方針は方針。NERVにとって一番なのは使徒を倒す事でしょ?」
「……それはそうだが」
「第一あんた、勉強して何したいの? 進学? 就職? 何かやりたい事でもある?」
「…………解答に応じられない……だが」
「だが? で?」
「………しかし……いや」

 
 

 口から紡がれた言葉を聞けば、思考時間の割にそれぇ?と言わんばかりに
 やれやれっと肩をすくめてヒリングは首を左右に降る。
 無論、刹那のひねり出し、精査した言葉など敢え無く一蹴される。
 内申書に”世界を救いました”、”街を守りました”と堂々と書かれた人間が評価されない訳がない。
 自問自答気味に刹那は次の言葉を探している中、それを見かねたヒリングの追撃。
 混乱。未来など考えたことのない刹那に取ってその問いはどんな数学定理より難しかった。
 ”将来?” ”やりたい事?” まるで魔法の言葉の様に現実感を感じられず
 再びぐらぐらと視界が淀み、頭が重くなる。刹那に取ってそんなモノは無いに等しい。
 明日死ぬかも知れない。けど、それを認めてしまったら目の前の人物にどう言えばいいのだろう。
 休む理由どころかまるでその時の一時一時の快楽を優先させた方が良いかの様な判断になってしまう。
 本能的にそれはダメだと感じ取っていたが理由が解らない。
 底なし沼に落とし物を探す為、手を突っ込んでいるかの様な感覚。
 どんな形だったか、どんな大きさだったか、どんな色だったかすら解らない落とし物。
 ただ、落としたという記憶だけを頼りに探している。否……探させられている。
 そんな感覚に刹那の思考はどろどろと溶けていく。 

 

「ぁーーっ、もぅ! 理屈で言うのはやっぱ面倒だわ。
 今日は私と遊ぶ! 命令! 上に怒られたら私の責任。OK?
 NOって言ったらまた蹴り倒すから」
「…………解った。付き合う」
「最初からそーいえば良いのよ」
「お前は変わっているな。ヒリング・ケア」
「六番目に言われたか無いわね。さーてっと、ゲームでもしましょーか」

 

 大声を出して、だんっと床を踏みつけた後、人さし指でそのまま顔面に突き刺しそうになるほど
 間近に持ってきて、命令という名のワガママを叩きつける。
 助けられた。ワガママという体を為しているが、それは助け舟に等しかった。
 あのまま、ずるずると自我が崩壊しそうになるまで悩み抜いてしまう方が辛い。
 ただただ、ヒリングはその刹那の思考時間すら面倒だったという判断だった。
 屈した刹那の返事を聞けば、ふんっと僅かに鼻で笑いながらもがちゃがちゃとコード類を繋ぎ始める。
 ヒリングは後ろで珍しく安堵かおかしさからか笑みをこぼしている刹那を見ることはなかった。

 
 

次回予告
 なんとか貞操を守り切る事に成功した刹那。
 それとは一方、少女は怒気と不機嫌で吹きこぼれそうな渦中に居た。
 少女と刹那、邂逅に繋がる言葉と視線は未来をどう紡いでいくのだろうか?

 

第伍話中編「繋がる世界」

 

次回はガンダム登場で、サービスゥサービス♪

 
 
 

第伍話中編「繋がる世界」 Edit

 

―エーカー邸、元アスカの部屋にて

 

 惣流・アスカ・ラングレーはいらつきながらも懐かしいホームステイ先の部屋へ戻っていた。
 気分は最悪だ。せっかく、グラハムがディナーをおごってくれるというのでめかし込んで行ったのだが
 その店はSUSHIバー、日本で言う回転寿司屋であった。それだけならまだいい。
 彼女にとって日本で数度食べてきた事のある寿司にはあんなにマヨネーズは山盛りに盛られないし
 オリーブオイルも掛かってない。無論、一部のメニューはあったがそれが全部とか狂気の沙汰だ。
 知らないとはいえ、こういうバッタモンを掴まされた悔しさとかそれで済まされた感覚とか
 諸々の細かいストレスが蓄積しており、それをグラハム当人に言ったところであのド天然に解る訳もなく
 やり場の無い怒りを枕にぶつけていた中、更に煮え切った油に火を注ぐ様な相手の名前が表示されいていた。
 表記上は”BITCH”と書かれている着信、携帯を取れば唇をひくつかせながらも既に臨戦態勢であった。

 

「アスカセンパァ〜イ、こーんーばんーはー」
「ぁ? あんた、なめてんの? 今、何時だと思ってるのよ?」
「えーと、日本との時差で、ざくっと夜九〜十時位かなぁー?」
「糞ビッチ、人が疲れてまったりしたい時にナニ掛けてきてる訳ぇ。デートの途中だったらどうするのよ?」
「ぇー? だって、センパイは高嶺の花だから男からのお誘いなんて無いでしょー?
 あ、それとも似非日本通か、AEUのスペシャル様〈笑〉辺りで妥協しましたぁ?」

 

―ブチッ

 

「「どぅああれが、あんなポンコツ似非ザムライを好きになるかボケェ!
  おまけに最近は変な小娘がスペシャル様〈笑〉に近づいて大佐の機嫌が悪くなって
  私に八つ当たりするし、あんたらが東京でちんたらやってる間にこちとら南米くんだりまで行って
 白ウナギ相手にどろんこレスリングやるわ、今夜誘われたディナーが
 似非日本通オススメのカロリーと油分こってりの寿司モドキだったわで今、サイコーーに機嫌が悪いのよ!
  ……次、要件言わなかったら切るわよ、マ・ジ・で!」」

 

 電話の向こうから猫なで声に近いあまったるい声が聞こえてくる。
 わざと上げられた音程や虫酸の走る男にこびた言い回しにサブイボが出来そうで
 握りしめた携帯がフルフルと震えている。だが、アスカはそれが相手の狙いなのは
 理解するほどの冷静さは”あった”。過去形である。
 電話越しのヒリングはにんまりと笑いつつも、相手の地雷をわざと踏みに行けば、見事に大爆発。
 こうかはばつぐんだ! 烈火の如く、たまった不満を全て弾倉に詰めて、マシンガンの様に
 ヒリングへと言葉をぶつけていくアスカ。思うつぼなのは解っているがそれを御せる程
 アスカの怒りの限界突破線との距離は保たれておらず、見事にぶちまけてしまった。
 きっと向こうでは手をバンバンと叩いているのが通話越しにも見えるがそんなことすらどうでもいい。
 もはや、覚醒に近いほどの怒りにアスカは身を任せていた。

 

「いえ、ちょっと遊んでやろうかと思って。ガン×ガンつなげる?」
「あんた学校は? 今、日本って朝10時位でしょ?」
「休んだけど何か? 遊ぶ方が大事に決まってるじゃない」
「さらっと言いやがるわね、この不良が。ま、いーけど」

 

 ヒリングも満足したのか猫なで声をやめて、普段通りの口調に戻る。
 あいかわらずの上から目線とその言葉にアスカは逆に落ち着きを取り戻し
 続いた言葉にやっぱり、ヒリングはヒリングだったと溜息と共に納得を強要されていた。
 電話越しなので青筋と引きつった口元が見えないのが幸いだったと思いつつ
 アスカはホームステイ時に置いてきたゲーム機のセット配線を始めている。
 屈みながらも、きちんと奥の方まで掃除が行き届いているのを見れば
 グラハムの評価がコンマ数ミリ上がったりしたり、しなかったりする。
 が、そんな最中ヒリング側から届いてきた音声に石像の様にぴたりと止まっている。

 

「よかったわね、六番目。アスカセンパイ相手してくれるって」
「そうか」
「…………………ぇ? ちょっと待ちなさい。誰か居るの?」

 

 電話越しのヒリングが別の第三者に声を掛けるのが勿論、アスカにも聞こえた。
 それと、ほぼ同時。小さくではあるが少年の声が耳元へと届けられる。
 アスカの脳裏でヒリングが言った言葉がゆっくりと情報を連結させていく。
 ヒリングはアスカのマネをしてチルドレンを番号で呼ぶ様にしていた。
 アスカは二番目。だが、ある一件を境に皮肉も込めてセンパイと呼ぶことになっている。
 フェルトは五番目。一番目と三番目は欠番だがそれを会話で指す時も番号で呼ぶ。
 今度入ってきたのも勿論その慣例に習い六番目と呼ぶ筈。
 ということは、今現在その傍らにはその六番目が居ることがほぼ間違いないわけで
 アスカの脳がコンマ数秒で恐るべき事実を推理してしまう。

 

「初めましてだな。先日、本部に赴任されたEVAパイロット。刹那・F・セイエイだ」
「………どこから聞いてた?」
「電話を掛けていた最初から。ヒリング・ケアが面白いからと言って
 最初からスピーカーで流していた」

 

 たどたどしい英語ならがもきちんと返事を返す少年の声。続く言葉でアスカは状況が理解できた。
 先程まで行われていた会話は行っていた相手の状況を察するに
 携帯電話はスタンドか何かに立てられており、スピーカーとマイクでの広域に会話。
 アスカの声はヒリングの居る場所に響き渡り、その傍らには噂の六番目がいた事。
 資料上でしか知らない六番目の子供達、刹那・F・セイエイと初めて声を交わす。
 それはアスカにとってはとんでもない羞恥であり、度し難い現実でもあった。
 抜き身の自分。ヒリングの安い挑発に乗り、色々なモノが剥げ落ちたままの状態。
 大声でヒステリー気味に叫んだ稚拙な内容。喧嘩腰にヒリングに大層お上品なご挨拶をかましてしまった自分。
 それをいいようにあしらわれていた自分。何もかもが晒されてしまい
 素の自分を見ず知らずの少年に見られたのだ。テレビ台の中に屈みこみ
 配線を差し込んでいる姿勢でアスカの動きはぴたりと止まったまま、わなわなと震えていた。
 かたんっと携帯を落としても反応すらせずに、その暗がりから表に出たくないオーラを全身から滲ませている。

 
 

「…………ん? 音声が途絶えたぞ、ヒリング・ケア」
「六番目と話せた嬉しさに携帯落としちゃったのかしらねぇ?」
「そうなのか?」
「きっとそうでしょ? ほら、センパイ、感受性豊かだから〜」
「そうなのか」

 

 落ちた携帯電話から話し声が聞こえる。アスカの耳にその言葉は入らない。
 否、正確には聞き入れたくない。拒絶、何も聞こえず、何も見えず、何もしゃべらず。
 猿の彫刻の様に今はだた、この部屋のオブジェのひとつとして存在したいほどの虚無感。
 心を殺す。嗚呼、そんな現実は夢であって欲しいと切望していた。
 そんな事は杞憂であり、そもそもドイツ語で会話をされていたヒリングとアスカの会話は
 刹那に解るわけもなく、なんだか大声で元気があるな程度の印象しか持たれていなかった事を
 アスカは当然知る由もなかった。そして、その沈黙は一人の来訪者によって憤怒と共に打ち破られる。

 

「アスカ、シャワーが空いたぞ。……ん? どうした、尻がつかえて出れなくなったか?」
「んんなぁあわけあるかぁあああーーーっ!
 後、アタシの部屋に入る時はノックしろっていってんでしょうががあああああっっ!」
「ぐぅっ! 相変わらず激しいなアスカは!」

 

 携帯電話越しに聞こえたのはドアを開ける音、青年男性の声、アスカの絶叫
 人が絨毯から助走を付けて飛ぶ音、打撃音にそれに対する痛みを耐える為の嗚咽。
 刹那は状況が全く理解出来ていない中、その向こうで行われていた惨事を
 手に取る様に解るヒリングはベットの上で笑い転げていた。

 

―ヒリング邸テレビ前にて

 

 壁を埋め尽くす程の大画面。ヒリングの部屋に置かれていた部屋に不釣合いな程の薄型テレビには
 広大な砂漠の荒廃地のど真ん中に建設された市街地が映し出されていた。
 更に画面端にテレビのワイプ画像の様に映し出されるのは対戦相手の顔。
 専用の3Dゴーグルを掛けている為、目元や顔は正確には認識できないが
 オレンジの長い髪を二つの髪飾りで止めている健康的な肌の少女と
 金髪で笑うときの白い歯が眩しい快活そうな男性が映っている。
 それらはテレビ台の前に置かれた小型のカメラの顔認証システムによる映像であった。
 これらの映像が地球半周した先にある大都会のマンションビルの一室から届けられているとは
 思えない程の鮮明な画像と音声。刹那に遠隔通信や通話の経験が無い訳ではないが
 それが一般家庭、まして余興の品でのクオリティとはとても思えないシロモノであった。

 

「フィールドはダカール? ま、私はどこでもいいけど」
「ヒリング。今日”も”こてんぱんにぶっ潰してやるから覚悟なさい」
「おー、やる気満々〜♪ まぁ、センパイってコレくらいしか私に勝てないですもんね」
「……潰す」
「おお、久しいな少年! 噂はこっちにも届いているぞ」
「その声はグラハム・エーカーか? 何故そこにいる」

 
 

 四人がが遊んでいるソフトは”ガンダムVSガンダム”と呼ばれるアクション型対戦ゲームシリーズの最新作である。
 富野由悠季という人物が数十年前に繰り出したアニメーションを発端に続編や外伝
 色々な解釈を用いた作品を出されていた一連のガンダムシリーズを
 全てごった煮で単純に対戦アクションという形にしたゲームでかなりの人気がある作品であった。
 刹那にも馴染みのある荒廃した砂漠の風景とそれとは違和感のある発展した都市が混在した場所ダカール。
 そんなデジタルのフィールドに視線をさ迷わせているとワイプ画像に映る青年男性の声がかすかに聞き覚えがある事に
 刹那はようやく気づく。口に出す名前と共に、最初に第3新東京市についた際の記憶がフラッシュバックする。
 あの時は音声越しだったのでどんな顔かは知らなかった為、改めて顔を合わせるというのも変な気分ではあった。
 そんな中、相変わらずヒリングはアスカに挑発を続けており、酷く低い声で行われた宣戦布告ににやにやとした笑みを返していた。

 

「ああ、センパイはこいつと同棲中なのよ。全く、妬かせてくれるわ」
「ちがーーーうっ! 今、AEUは大変なの! 私はこいつの家で足止め食らってるだけよ!」
「だってさ、六番目。センパイ、説明乙であります!」
「了解した」
「HAHAHA、ヒリングも相変わらず元気な様だな」
「潰す。絶対潰す」

 

 初めて音声と映像でアスカという人物を確認する刹那。
 相手の語学も中々ある様で、ヒリングがわざと英語に切り替えてホラを吹けば
 アスカもそれに対して、英語で言葉を返してくる。
 刹那にもようやく会話のあらましが解る中、ヒリングは敬意のない敬礼を
 台上に置かれたWebカメラに向かって返す。
 そのやりとりを笑いながら見ているグラハムも機体の選択を終えた様で
 いよいよゲームが始められようとしていた。
 2分割された画面に刹那、ヒリングの選択した機体が映り
 フィールドへと放り出されていく。同じくレーダーには相手方の二機も映る。
 専用の3Dゴーグルは画面を立体的に見せるだけではなく
 手元や足元をまるでコックピットの様に計器や手足の細かい機器の演出表示をしてくれている。
 実戦さながらという程ではないが刹那も僅かに緊張の度合いを高めていった。
 無論、ヒリングはそんな様子を気にする事はさらさらなさそうに鼻歌交じりで
 ゲームコントローラーを握っていた。

 

「ペアでの対人は六番目は初めてだからねぇ。ま、軽くもんでやってよ」
「心得た!」
「相変わらず悪趣味ねぇ。アタシ相手に素人ぶつけるなんて」
「視界はクリーン……どう出る?」

 
 

 このゲームは各々の機体にコストが掛けられている。
 コストの高い機体は強力だが、その分何度も戦場に出ることが出来ず
 撃墜されたらポイントを大きく削られて敗北へと近付く。
 コストの低い機体は武装が少なかったり、高コスト機体よりは少し劣るが
 何度も戦場に出て戦闘が行われるなどのバランスを保つシステムになっているが
 やはり登場作品と機体が多い事とネットによるランキングや特典機体
 度重なるアップデートによる能力調整もあるので
 正確な優劣は開発者すら把握し切れていないと言われている。
 最終的に相手に撃墜されて自軍が持つ一定のポイントを0にされたら負けとなる。
 刹那の駆る機体はGP-01Fb〈ゼフィランサス〉。
 青と白のカラーリングを基調とし、武装は極めてシンプルだがコストに対して
 機体の機動力が極めて高い。刹那は実勢経験も踏まえた動作で対応する。
 ビルの物陰に隠れて、レーダーで相手の位置を確認。動きをつぶさに観察する。
 映る敵対マーカーは二つ。アスカとグラハムであるのは解る。
 ひとつは直線的にまっすぐ突っ込んできて、もう一つはあまり安定しない機動でゆっくりと近づいて来る。
 対する味方の機体であるヒリングのマーカーは地図上から全く動かずにどうやら静観をする様だ。

 

「……六番目〈シックスゥ〉〜。FPSかなんかと勘違いしてるんじゃないのぅ?」
「なっ! しまっ――」
「はい! 一オチ!」

 

 刹那が隠れている物陰からなにやら小さいマーカーが急速接近してくるのが解る。
 それに対して、反応し、機体を僅かに下がらせるとそこにはビームの一斉射撃。
 画面上にはふよふよと浮かぶ青い色の鋭利な欠片の様なモノが浮いていた。
 ドラグーンと呼ばれる遠隔操作によってあらゆる角度から攻撃する兵装。
 それが執拗に刹那に迫ってくる。アスカのくぐもった声と共に
 物陰から回避運動をこまめに行うがそれでも何発か食らってしまう。
 振り切る様に移動を繰り返しているといつの間にか刹那の機体は大通りへと出ていく。
 次の瞬間、極太の多色のビームがGP-01Fbを焼き尽くす。
 構えたシールドも貫通し、どろどろと足と構えたシールドの手が溶けて機体が爆ぜる。
 まるでそこが出るのが計算づくだったかの様な動きと射撃。
 最後の映った映像には遠方から僅かに浮かび上がる、青い翼を広げた機体がみえた。
 アスカの駆る機体はストライクフリーダムガンダム。
 先程のドラグーンと呼ばれる武装と多数の射撃武器を備えた
 このゲーム切っての高コスト機体であり、大会の特典機体の内の一つである。

 
 

「あーあ、センパイ大人気なーい」
「ふん、高見の見物してるあんたに言われたかないわねぇ」

 

 刹那の機体は落とされてしまい、スタート地点へと再び機体が搬入される。
 刹那は焦る。そう、目の前、丁度ビル一つ越しに敵のおそらくグラハムと思われるマーカーが接近していた。
 どちらから回りこんでくるのか? 一瞬の緊張、音を立てて地面へと着地した刹那のGP-01Fb。
 これは少し変わった機体であり、一度撃破されると追加で機動ブースターが装備され
 コストと機動力が大幅に上がり武装も変化する。故に今度はそう安々と落とすわけにはいかない。
 既に刹那側のポイントは1000削られて敗北まで残り5000ポイント。
 刹那のGP-01Fbは2000にコストが倍増する。残り3回落とされたら負ける。
 そんな計算を吹き飛ばすかの様に目の前のビルが吹き飛ぶ。
 その崩壊した瓦礫の向こう側から巨大な竜巻が刹那へと迫っていた。

 

「シュツルム! ウントゥ!! ドゥランクゥゥッ!!!」
「なっ」
「逃がさん! アイアンネットゥ!」

 

 グラハムの駆る機体はガンダムシュピーゲル。
 両手にブレードを備えた、近接格闘を得意とするMF〈モビルファイター〉と呼ばれる機体部類に属するモノで
 黒と白のカラーリングに軍用のヘルメットの様な頭部パーツを持つ忍者をモチーフとした機体である。
 高速回転して竜巻を起こし、広い当たり判定を持つその攻撃に思わず、後ろへと飛び去ろうとするが
 グラハムのシュピーゲルはそれを逃さない。ぴたりと回転が緩くなった途端、機体の袖口から
 網が放射状に降りかかってくる。逃げ切れず、刹那のGP-01Fbはそのまま地面へと落下。
 網にかかって身動きがとれない中、再び小型のマーカーが接近してくるのが解る。
 アスカのドラグーンの接近にもがきつつも硬直がまだ終わらない。
 ブレードからの格闘態勢に入り、グラハムのシュピーゲルがにじり寄っていく中
 間を割る様にして光の輪がガリガリと地面をえぐりながらも突っ込んできて網を切り裂き
 グラハムと刹那の間合いを空ける。グラハムが其方の方へと振り向く前に
 光の輪による連撃、猫が柱を引っかいたかの様にアスファルトには生々しい爪痕を残しつつも
 刹那の機体は離脱しつつ射撃による応戦。一気に形勢は逆転され、今度はグラハムが追い詰められる形になった。

 

「まったく、女の子を助けるのが男子の本懐でしょー? 一方的にぼこられちゃって、しっかたないわねぇ」
「助かった」
「なら、次は助けなさいよっ? ほらっ、反撃開始〜♪」
「ちっ、ようやくおいでなすったわね!」
「くぅっ、近接機体二機では荷が重いか」

 
 

 機体のマーカーがあっという間に刹那のすぐ傍に着ていた。
 思わず、その機動性にたたずを飲む中、ヒリングの駆る機体が姿を現すと同時
 ドロップキックをグラハムのシュピーゲルの頭部へと叩き込む。
 その場へと着地してからの足技の追撃、細くしなやかな機体のシルエットから繰り出される
 格闘の連打はとても機械による動きとは思えなかった。
 刹那も距離をとりつつもバルカンとビームライフルで
 近づいて来るドラグーンを沈めつつも、シュピーゲルの反撃のタイミングをカットしていく。
 猛攻を終えてグラハムのシュピーゲルは爆散する事によってようやくヒリングの機体の全貌が解った。
 しなやかな女性の様なシルエットライン。まるで長いブロンドヘアーを思わせる黄色の頭部パーツ
 リボンをあしらった様なデザインの胸元を持つMFノーベルガンダム。
 女性らしいデザインの割には攻撃的な動きを印象づけており
 見た目の愛らしさとはイマイチ一致していない様に刹那は感じていた。

 

「足止めするからさっさと復帰しなさい!」
「あいや、解った!」
「パートナーを失った奴をのこのこ生かす訳ないでしょ?」
「ちぃっ、二人ともすばしっこいわね!」

 

 前線近くに出ていたアスカのストライクフリーダムガンダムに刹那とヒリングの両機が肉薄する。
 ドラグーンと両肩、両脇に抱えられたビーム砲、両手のビームライフルをフル導入で一人で火線と弾幕を撃ってくる。
 じゅっとシールドの表面を焦がしたていく中、刹那のGP-01Fbはスラスターをふかして
 ビルとビルの合間を縫う様に飛んでいく。それよりも驚異的なのはヒリングのノーベルガンダムである。
 ビルの側面、屋上を駆け上あがり、時にスラスターをふかしつつもまっすぐに突っ走ってくる。
 跳躍、体のひねりを加えられた回避は細身のシルエットが更に細く絞られており、アスカから見れば
 まるで揺れ落ちる木の葉に狙いを定めているかの様な感覚。嘲笑う様に火線をくぐり抜ける様子に気を取られている内に
 刹那の機体が突撃してくる。まっすぐにブースターを最大出力でふかし上げて、ビームライフルを撃ち込みながらも
 既にライフルの先には銃剣の様にビームサーベルが発光する。
 突き刺すことに成功したと思われる瞬間、目の前に黒い影が現れる。

 

「くっ!」
「男子の本懐とはこういうモノだ! 捉えたぞ、少年! シュツルムゥッ! ウント――」
「あらぁ! 忘れてるんじゃないかしらっと!?」
「はい、貸し2つ目!」
「なんとぅっ!?」
「それを見過ごすほどアタシだって甘くないわよ!」

 
 

 復帰したグラハムのガンダムシュピーゲルが肩から突っ込んで来てサーベルでえぐられながらも不敵に笑う。
 刹那は仕留め損ねた事に慌てる事もなく、サーベルを引きぬき、後ろに飛び退くがそれすらが不覚にも隙を与えていしまう。
 じゃこっと両手に備えられたブレードを展開し、機体にひねりを加えていく。刹那は予備動作を見ていないので
 僅かに反応が遅れるが、グラハムの音声から先ほどと同じ技だということが解る。
 まっすぐに後ろに下がる入力をしてしまったので今更軌道を変えられない。ビームライフルを向けるが間に合わない。 
 再び、撃墜されるかと思ったが、グラハムの機体にまっすぐ黄色に発光した布状のモノが見え、足元に絡み付いてくる。
 その正体はノーベルガンダムのビームリボン。手には棒状の発生装置が既に握られており、回転を加えて軸足になっていた
 機体の右足を絡めとったまま、ずるっと引っ張ればすっ転ぶ様にグラハムの機体が刹那の画面から消える。
 そのまま、グラハムの機体は遠くへと飛ばされてビルへと叩き付けられていく。
 形勢が変わったと思われた瞬間、目の前でアスカのストライクフリーダムガンダムがヒリングの機体に火線を巡らせ、一斉発射。
 大破に等しい惨状、ノーベルガンダムは左腕とその長いロングへアーの様な後頭部のパーツの半分を失った。
 幽鬼の様にあちこちに煙を上げたまま、ゆらりっとアスカの機体の方向へと顔を向け、跳躍。
 右手が発光する事と機体全身が僅かに黄金に輝く。

 

「ゴッド・フィンガーーァアアッてね!」
「追撃する!」
「ヒィィトゥエ――ぁっ、こら、馬鹿!」
「……ぁ〜、駄目ねぇーあんたたち。アタシの機体が格闘出来ないって何時言った?」
「ぬっ?!」

 

 ヒリングのノーベルガンダムの手がアスカのストライクフリーダムガンダムの頭部を捉え
 表面を焼き焦がしていく。止めを刺さんと刹那のGP-01Fbも急接近する中、ヒリングの機体の動きが止まる。
 顔をつかまれたと同時、腹部にサーベルが突き刺され、貫通する。また、右方向から来る刹那の機体からなる
 サーベルをもう片手で持っていたサーベルで霧払いをし、その突撃を止めた。
 まるで、格闘機体の様な美しい連撃。ダメージこそは多くないが、両手に構えられたサーベルで
 片方は刹那の斬撃を牽制し、必殺技の硬直から抜け出せないヒリングの機体を切り刻んでいく。
 満身創痍だったヒリングの機体は四肢と頭を切り取られて爆散し、搬入エリアへと戻る。
 すっ飛ばされていたグラハムの機体も急接近してくる。
 挟み撃ちをされるのはその場に取り残された刹那の機体。

 

「六番目! 私が来るまで生き残りなさいよ!」
「了解した」
「隙を付かせてもらうぞ少年ゥッ!」

 

 ”一番難しいことを”。内心ぽつりと呟いた刹那はすぐ隣に居るのに離れてしまっている
 ヒリングに対して僅か肩を竦めたまま、その場の離脱を始める。
 離れ過ぎてもアスカの機体の的になり、近づき過ぎたらグラハムの機体に切り刻まれる。
 高機動とビルの合間に逃げようにもビルごと吹き飛ばす斬撃に回り込みをする遠隔兵器。
 それでも刹那はするりと斬撃と射線の縫い目を掻い潜る様に切り抜けていく。
 傍から見れば、回避するだけでも手一杯な状況。忠実に指示を遂行してる様に見え
 実際に肩や足元のパーツは削られ、ビームの熱で焼け焦げて、徐々に機体の色を汚していた。
 じりじりと削り誰の目で見ても優勢が確かなのにアスカは沈黙を貫いている。
 復帰エリアから猛追する移動速度を観察しつつも僅かにヒリングの移動速度が増したことにアスカは気付く。

 

「ち、またか。あの馬鹿」
「ぬぅっ」
「毎度パターン過ぎるのよ、飛んで火に居る夏の蟲って奴ね」
「そんなんじゃカトンボも落とせないわよ? さぁセンパイ、あーそ−びーまっしょっと!」
「少年は任せろ!」
「任させてあげるんだから感謝しなさいよ!」

 

 アスファルトをえぐる様に踵に重心を置いて横道から姿を現すヒリングの機体は紅々と輝いていた。
 その様子を見て、ため息と共に露骨に舌打ちをするアスカ。
 憎まれ口と共に火線はいっせいにヒリングの機体へと向けられる。
 今度は避けようともせずに低く頭を下げて、両腕を真後ろへと向けたままの突進を行う。
 その異変を察知してかグラハムは刹那の機体の前に立ちはだかる。
 刹那は二人の経験則からの動きに戸惑いを感じながらも目の前のグラハムの機体との
 一騎打ちの挑戦を受けていた。ヒリングから指示が無いという事はそれに集中すべきと判断したからだ。

 

 そして、ヒリングの機体を真紅に染めたモノは”バーサーカーモード”。
 ヒリングの駆るノーベルガンダムに備えられた特殊なシステム。
 一定以上のダメージと時間が経過すると解放される。
 攻撃の威力上昇、機動性の大幅な上昇、被弾してもダウンをしないなどが与えられる。
 それを利用しての直進と連撃は大抵の機体を沈める事をアスカは知っている。
 故に躍起になって先手を取りにかかった。
 アスカの機体から出た紅黒い極太のビームにより頭をへし折るほどの威力。
 一度進行が止まるかと思われたがそれもむなしい憶測に終わる。
 ヒリングの機体は音を立てて道路を抉り、両手を左右のビルへと伸ばせば
 ガラス窓と枠をぶち破りながらもブレーキを掛け
 ダメージからの反動を殺して尚、前へと進んでいく。
 一気につめられる距離感、機体の顔部分が融解して機械の部分と
 赤いパーツがだらりと熱で垂れ下がるのはさながらホラー映画のワンシーンである。 

 

「だから、言ったでしょ? ワンパターンだって!」
「六番目!」
「了解した」
「勝負の最中に背を向けるとは笑止!」

 

 次の攻撃へのチャージを待つ筈へもこのままダメージを受けて沈められると思われた瞬間
 アスカの機体は腰からビームライフルを抜き出す。予備射撃の武器の準備。
 撃墜には至らないがそれでも射撃による迎撃とあのビームサーベルの連撃が入れば、無事ではすまないだろう。
 それまで壮絶な距離の取り合いをしていた両名だったが今度はアスカがヒリングを迎え撃つ形になる。
 それとほぼ同時、ヒリングの呼び掛けに刹那はグラハムを目の前にして背を向けて離脱する。
 直進するのはアスカの駆るストライクフリーダムガンダムへと向かっている。
 が、そんなことを許すわけも無く、グラハムの機体も
 スラスターを吹かし追い縋るが機体性能の違いからか若干速度が遅れていた。
 それでもグラハムは気負う事も無く機体の右手を前へと突き出す。

 

「させんぞ! アイアンネットゥ!」
「脚部着脱」
「むっ!? そう使うか」

 

 先ほど見せた同じ技ではあったが、まっすぐに進む刹那の機体に対して狙いを外すとは思えなかった。
 事実、そで下から吐き出された網は獲物を捕らえて、引き寄せている。
 しかし、それは刹那の機体の下半身部分だけであった。
 むしろ、下半身のパーツのブースターを後ろ向きにふかしており
 グラハムの機体へぶち当てられて相手ごと地面に叩きつける。
 上半身だけの機体となった刹那の機体は更に速度を上げて、アスカの機体へと切りかかる。 
 ヒリングを七面鳥撃ちにしようとしてた構えられたライフルは刹那の機体のビームサーベルに
 真っ二つにされて目の前で爆発する。

 

「ライフルが! 邪魔すんじゃないわよ!」
「センパイ、これでおーっわりっぅぅっとぉっ!」
「ちっ!」

 

 上半身だけになった刹那の機体は更に半分に兜割りをされて綺麗に4分の1のサイズになり
 ずるりっとそれが僅かにずれ落ちた後爆発する。
 ヒリングと刹那のチームの残りポイントは1000となり、どちらかが落ちれば負ける。
 が、圧倒的劣勢など気にする事も無く、ヒリングの機体は紅く輝く両手を後ろ手にしたまま
 アスカの機体へと飛び掛る。まるで、跳び箱を飛ぶかの様に両手を紅く輝かせ
 アスカの機体の頭部パーツへと掴みかかり、そのまま爆発。
 頭部パーツは勿論、コックピットと肩、腹部の一部を焼け爛れさせて
 上下逆さのΩ形の風穴を開け、アスカの機体をしとめる。
 露骨なしたうちと共に、初めてアスカの機体が落ちた事により、ほぼ残りポイントは同数。
 どちらのチームも後、一機落ちれば、負けという状況であった。

 

「むっ、タイムオーバーかしら?」
「しとめさせて貰う!」

 

 アスカの機体を撃沈したヒリングのノーベルガンダムの紅い輝きは終わり
 関節の節々から蒸気を吐き出していた。それの霞に潜むかの様に
 何時の間にか距離を詰めていたグラハムの機体による一刺しにより
 ヒリングは二度目の撃墜を経験する。勝負は意外にもあっさりと決まってしまった。
 撃墜後、搬入された箇所から追う事もままならないアスカと刹那。
 WINとLOSEと書かれた画面に変わり勝敗が決したことを表している。

 

「んー、負けちゃった。やっぱり厳しかったかしらねぇ」
「アタシ相手に勝とうなんて100年早いのよ」
「さすがセンパイ他に遣る事が―」
「うむ。しかし、御美事であったぞ? 少年、結構遣りこんでいたのだろうか?」

 
 

 各自ゴーグルを上げればお互いの顔がようやく確認できた。
 刹那にとってグラハムという男は予想より、目鼻が整ったすっきりとした顔つきであり
 アスカにとって刹那は声と態度の印象に比べて、童顔であり
 グラハムにとって刹那は書類上の年齢より5歳は年下に見えた。
 責任感も後悔も微塵に感じさせない負け犬の遠吠えをヒリングは零せば
 ふんっとアスカは当然と言わんばかりにわずかに鼻息を荒らげて誇らしげにしていた。
 頬杖をついて目を細めつつも続く言葉を続けようとした中、グラハムに言葉を遮られる。
 相変わらず会話に参加する機会の少ない刹那へと注目が集まれば
 グラハムの英語を上手く咀嚼する様に聞き取った後、ゆっくりと口を開いた。

 

「……いや、その推測ははずれている」
「ほぅ?」
「二時間よ」
「ぇ?」
「今日初めてこのゲームを触った。機体選択も性能も全ては把握していない」
「こいつが選んだ奴を私も選んで簡単に動かし方を見せただけよ。
 結構筋良いでしょ〜? あ、私の指導が良かったのかな?」
「ふむ。まぁ、成果は結果を物語っているな」
「へ、へぇ」

 

 淡々とした言葉に感慨深げにうなづいた後、ヒリングは言葉を割り込ませ
 アスカは最初その意味を掴めなかった。刹那による淡々とした説明に
 押し黙りつつもヒリングは自慢げに語っていく。
 アスカにはその言葉もグラハムの頷きも半分程度にしか耳に入っておらず
 二時間の経験であの動きを見せた刹那への興味の視線を注いでいた。
 が、それはヒリングの部屋から大音量のジャズなんだかロックなんだよくわからない楽曲が流れてくる。
 それに驚いたのか会話が一瞬で静止。ヒリングのワイプだけマイクからがさごそとした音と
 背景が動いているのがわかる。かちっとゴーグルのロックが外れる音がすれば
 ヒリングのみSOUNDONLYと黒い背景に赤文字のみの画面になっている。

 

「あ、アリーのおっさんからメールが着てる」
「連絡をとっているのか?」
「時々ね。あ、えーと六番目を本部に連れてこいってさ。バレちゃってたわね」
「お説教食らいにのこのこ行くの? だっさーい」
「ふたりとも休日ではなかったのか。まったく」

 

 手にとった携帯を眺めれて一人でいじりまわしているヒリング。
 すぐ近くにいるのにわざわざライブチャットを通しての報告。
 むぅとしかめっ面になるグラハとは対照的にアスカは口元をにやりと歪めたまま
 視線をそらして肩をすくめる。軽蔑を込めた視線。
 すでに食べて文句の塊を生み出していた夕飯ですら美味く感じる程の悦楽を感じていた。

 
 

「じゃ、六番目しょっぴいてくるわ。全く、世話の焼けるわねぇ」
「……」
「ふんっ、まぁこってり絞られてらっしゃい」
「まぁ規則だからな。仕方あるまい。次は怒られない時間にあいてをしてもらおうか少年」
「了解した」

 

 そういって、細いケーブル線一本で海と山を飛び越えての邂逅は終わる。
 不服申立てをしたそうな表情が一瞬見られた刹那ではあったが今はそれよりも
 本部に向かうほうが重要だと思考を切り替える……というのは意識の建前。
 刹那の心理の中ではアリーと久しぶりに対峙する事への懸念と
 シュミレートなどに意識のほとんどを占領されていた。

 

 次回予告
 スメラギ・李・ノリエガ。怒号と殴打音と共に
 彼女は少年と少女の現実をまざまざと見せつけられる。
 二年の現実逃避の暗がりから眩しく焼けつきそうな流れに
 彼女を待つことなく、第六使徒の襲来を告げるアナウンスが本部に響く。
 スメラギは立ち向かうことが出来るのだろうか?

 

第五話後編「戦闘命令、撤退禁止」

 

次回も遅れそうだけど、サービス、サービスぅ!

 
 
 

第五話後編「戦闘命令、撤退禁止」 Edit

 

―NERV本部司令部にて

 

「■■■■■■っ!!!」
「参号機、敵の加粒子砲を胸部に被弾!」
「参号機を退避させ――」
「ぁ!? 誰がそんな命令だした? 駄目だ。
 ヒリング、N-3地点へ! 青葉! 四号機に例の銃を渡せ!
フェルトは二射目急げ!」
「ぇ? あ、はい!」

 

 響き渡る絶叫がインカムとスピーカーからその場に居る職員の鼓膜へとたたきつけられていく。
 目の前の巨大スクリーンには蒼い水晶の塊の様なモノが陣形を作り
 浮遊して、超出力の粒子砲を赤い球体から吐き出しているという事を数値と映像が示している。
 その光の線は眼に見えない速度で注がれている為、肉眼では確認できないが
 参号機の胸部の装甲を徐々に溶かして、真っ黒い核をむき出しにし、じりじりと焼き焦がしている。
 その痛みは刹那へと連動し、激痛、衝撃、すべてが脳へと伝えられていた。
 当然のごとく、その場に居たマヤは撤退を指示しようとする……がその声をアリーは遮る。
 職員一同戸惑いを隠せない中、サーシェスは狼狽するフェルトへと一括。
 次の武装の準備をしているヒリングへ向けて声を張り上げる。

 

「アレならざっと1分はもつな。ヒリング、フェルト。その間に倒せ!
 じゃねぇと参号機パイロットが死ぬぞ!」
「えと……は、はいっ!」
「りょーかい!」
「ちょっ、ちょっと待って。刹那君が!?」

 

 装甲の溶け具合と粒子砲の照射が徐々に衰えているのが解れば
 一撃で参号機のコアを砕くことが出来ないとサーシェスは判断する。
 その命令にフェルトは戸惑いながらも初号機に狙撃銃を構え直させていく。
 思考は既にパニックと絶望と哀しみの坩堝に陥り、ガチガチと奥歯を鳴らせ
 それでも僅かに残る意識で祈る様に充電を終えるのを震えながら待っていた。
 ヒリングは射出された銃器を四号機に取らせて、ビルの合間から飛び出る。
 リロードをした後、吐出される粒子の飛沫を紅い塗料の様に浴びせかけられる。
 蒼い鏡の様な使徒の壁面が文字通り、蜂の巣の様な跡が付けられていく。
 それに反応して、使徒も粒子砲を照射したまま形状を変えようとするが
 それが不用意であることを使徒は思い知らされる。
 形状が変化し、コアが露出した瞬間、四号機の第二射が浴びせかけられれば
 まるで、ガラスをひっかいた様な音が木霊をする。
 宙空に浮いていた青い水晶の塊が乱れ、周囲のビルを引っ掻き回していく。
 再びリロードをし、車が潰れるほどの大きな薬莢を地面へと転がしながらも
 四号機は後ろに飛び退きつつも第三射を放つが
 回転した水晶に阻まれコア表面を爛れさせる程度の損害しか与えられない。
 現場は迅速に処理を進めている中、司令部は混沌の極みであった。
 実質的な権限が無いとはいえ、技術部のトップであるマヤの言葉を無視する訳には
 立場上いけない。しかし、サーシェスの直感が既に警鐘を鳴らし、覚悟を決めさせていた。
 ”この使徒は強敵であり、エヴァ一機位失ってでも倒さねばならない”と。

 

「サイボーグ! 参号機の床のパージ及び救護班の手配! エントリープラグ強制排出後
 お前が直接救護に迎える準備をしておけ!」
「はい! ……手配完了! 失礼します!」
「このままでは参号機が持ちません! 見殺しにするつもりですか!」
「敵は攻撃してるつー事はATフィールドも弱くなってる。これはさっきまでの戦いでほぼ確定だ。
 だから、あの使徒が参号機にかまけてる間に潰すんだよ!」
「しかし、それでは参号機が! 仮に参号機は修復出来たとしてもパイロットが!」
「俺はソランに戦えと言った。逃げるなとも言った。それを実行しているのは奴の判断だ。
 だから、今あいつは自分の意志でああやって殺され掛けてるんだ!」
「で、でも!」
「黙れ! ほんとに死ぬぞ? お前は銃の実戦データでも取っておけ!」
「……っ! 碇司令! あのままでは参号機が!」

 

 サーシェスの指示にクリスは席を立ち上がりモニター画面の向こうへと飛ぶ。
 人が落ちる音と金属音が僅かに聞こえているがその後の忙しない靴音から
 クリス専用と言ってもいいスクリーン下の緊急通路へと抜けていくのが解る。
 サーシェスの言うことにマヤは反論出来ない。自分たちの目的は使徒と戦うことではない。
 使徒を殲滅することである。だから、犠牲は少ない方がいいが
 それでも殲滅することが最優先課題であり、参号機の価値が一戦力と見なすなら妥当である。
 だが、残念ながらマヤ及び二年前を知っている人物にとって参号機は”兵器”としての
 認識を超えた思い入れがあることをサーシェスは知らない。
 すがる様な声と視線をマヤは最上段に構える碇ゲンドウへと向ける。
 一番、それを受け入れられないと思える人物にこの望みを賭けてしまう
 マヤの絶望と逼迫感は並のモノではなかった。マヤは主張する。
 参号機の喪失が何を意味をするかを。

 

「……落ちて!」
「初号機の第二射、目標に命中!」

 

 初号機が構えた銃口から光線状のモノが吐出されて、まっすぐに使徒へと伸びていく。
 被弾、爆散。八面体の左斜め上の部分がごっそりとえぐられる様に割れ砕けていく。
 土煙と共に機器が一時停止。映像が再開されるともうもうと立ち込める煙の絵を
 食い入る様に職員たちが見つめている。煙が晴れていく中、まだ加粒子砲が途絶えない。
 倒れれば、それが途切れる筈。そうすれば、参号機が回収できてパイロットも助かる。
 刹那の絶叫が悪い意味で止まる事を恐れ
 刹那の絶叫がいい意味で終わる事をその場の全員が願っていた。

 

「……嘘っ」
「ちっ!」
「目標確認! 活動停止の兆候なし!」
「落ちねぇか。参号機回収! 初号機、四号機も撤退だ!」

 

 フェルトの絞り上げる様な泣き声、悲壮な願いは届かずヒリングの舌打ちも大きく響く。
 モニターには陽電子砲でえぐれた部分、蜂の巣になった部分を修復しつつも
 加粒子砲の第二射の発射準備に入る使徒の姿が映っていた。
 参号機が再び焼かれぬ様に通路はパージされ回収。入り口近くを焼かれるが
 なんとか回収は間に合った模様。初号機、四号機もまた迅速に回収され
 悠然と使徒は丁度、NERV本部直上へと再び向かうのが確認される。
 完全な敗北。損害は参号機中破、四号機小破、参号機パイロット重症という現実に
 アリーは奥歯が砕けそうになるほどのいらだちを隠せないで居た。

 

「さぁって、まぁこんな感じです。俺達は字の通り、死力を尽くした。
 ただ、”それでも敵わない”って奴がいつかは出ると思いましたがこんなに早いとはねぇ」
「……っ!」
「戦術予報士様の腕の見せ所ですな、スメラギ・李・ノリエガさん。
 自分が何のために呼ばれたか、解っていらっしゃいますな?」

 

 呆然と立ち尽くしていた一人の女性へとサーシェスは皮肉交じりに声をかけた。

 

刹那・F・セイエイを新世紀ヱヴァンゲリオンの主人公にしてみる
     第伍話後編「戦闘命令、撤退禁止」

 

―参号機被弾まで残り2時間59分13秒。NERV本部廊下にて

 

「いやはや、ノリエガさんが来てくれたおかげでこれで私の仕事も楽になる」
「は、はぃ。恐縮です」
「マルドゥーク御推薦の戦術予報士の派遣がどれだけ心強いか。
 全く、何時の時代も軍師様ってのは三顧の礼をせんと来て下さらないモノですな」

 

 スーツの姿のアリー・アル・サーシェスは廊下をにこやかな顔と普段ではありえない
 口調で一人の女性を案内している。年の頃は30になるかならないかの艶めかしい
 起伏の飛んだラインをスーツの下に隠している女性。
 本日付けでNERV/戦術作戦部作戦局第一課 課長代理になったスメラギ・李・ノリエガである。
 緊張した面持ちのまま長い長い廊下を歩いている中、談笑混じりで話すこの男に
 彼女はやや本能的な警戒心を抱いていた。この男の話しぶりからすれば
 自分以外にも人選をかけ、招致を促したのが初めてではないことが透けて見える。
 経験から出ているであろう軽口がこの職場、NERV本部における人材不足を如実に表していた。
 行き交う職員も20代の若いモノも多い上に、司令にも以前顔を合わせた事があるが
 40程度の年齢に見えた。妙齢の副司令と比べれば、まさに親子にも等しい程。
 様々な不安や予見は来る前から重々承知であった筈なのにいざ現場を見れば
 その覚悟も消し飛んでしまう。スメラギの顔色を気にすること無く
 アリーはつらつらとどこに視線を向けているかも分からずに話を進めている。

 
 

「今、手の空いてる二人も呼んでいます。午後には実験もしますので
 大体”どういうモノ”か。見て頂くには良い日取りですな」
「お気遣い感謝します」
「いえいえ。そういえば、ノリエガさんは二年前の実験を見学なさっていたとか。
 まぁ、アレは”失敗”でしたからね。ちゃんと動くのが今日は見れますよ」
「そ、そうですか」
「パイロットも優秀です。駒としてね」

 

 にこやかな笑みからは全てを知っていて尚、こういう話を持ってきた事をが透けてみる。
 うっすらとした視線は確実に自分の表情が観察、監視、評価されているかの様に
 感じていた。無論、サーシェスも全くそれらを意識していなかった訳でもないが明らかな過敏。
 彼にとって緊張しているというのは集中力の足りない証拠という実践論で済まされる為
 内心は既に期待は0に等しいことを無論、スメラギは知る筈もない。
 だから、二年前の話を振ったのもスメラギにとっては何かを試されているかの様に感じたが
 サーシェスにとってはどーでもいい雑談の話の種の一つであった。

 

―参号機被弾まで残り2時間47分33秒。NERV本部内長距離エスカレーターにて

 

「ねぇ、六番目。あんた人を殺したことある?」

 

 タンクトップにジャケットを羽織り、プリーツスカート姿という明らかに私服な姿で
 本部へとやってきたヒリングは学生服を着込んだままの刹那に対して
 後ろから声を掛けてくる。もちろん、わざとである。
 刹那が背中への意識や気配に対して訓練をしているのは当然、予見出来たので
 意識させる為にわざわざ刹那を先に進めさせた。
 曰く、”この国ではレディーは殿方の三歩後ろを歩くモノなのよ”との一言で論破。
 刹那にとって感情や意識云々もあるが、”風習”や”文化”という言葉に対しては
 ほぼ無条件に受け入れられるのをヒリングはなんとなく察していた。
 己の意志が無い訳ではないが、他者の意志に対して譲歩する。
 良くも悪くも対立を作らない、もしくは印象が残らない様にする。
 街中で下手に事を荒立てず、潜入するための訓練の賜なのであるが
 ヒリングにとっては格好の玩具でしかなかった。

 

「ああ。経験はある」
「初めてって誰だった? 訓練? 実戦? それとも私怨?」
「離れろ。命令で母親を殺した」
「へぇー、羨ましいなぁ」
「っ!!」

 
 

 刹那は最初訝しげに何を聞いているのかと呆れたまま、適当に頷きを返した。
 するとヒリングは刹那の予想以上の食いつきを見せる。後ろからヘッドロックを掛ける
 勢いのままに抱きついて、耳元で訪ねてくる。ただでさえ、あまり人に触られる事に
 慣れていない刹那に取って鬱陶しさは数倍に膨れ上がり、言葉を濁す事無く
 白状することを選択する。が、それをすぐに後悔する間もなく憤怒へと変わった。
 刹那の体はまるでその行動をする為に設計された機械の様にヒリングの手を振りほどき
 振り向き様、大ぶりの握りこぶし――から、わずかに理性が残った事による
 起動中に変化させた平手打ちを繰り出す。その振りかぶる瞬間、珍しく怒りの表情を
 刹那を晒してしまう。が、それはヒリングも想定済み。片手でその平手打ちを止めて、手首を掴む。
 ぐっぐっとその掴みから逃れようとするがまるで蛇かすっぽんにでも噛み付かれたかの様に
 ヒリングの手を振りほどく事が出来ない。しばし、にらみ合いが続く中刹那が折れ、力を抜く。
 だからといって離して貰う事はない為、手をぶらりと上げたまま刹那は
 僅かに不機嫌さを滲ませた言葉をぶつけていく。

 

「今のは失言だ。ヒリング・ケア」
「んっ、そこは怒るんだぁ? 意外とマザコン?
 まさか、殺す時やらしー事してないでしょーね?」
「お前っ! ……くっ!」 
「まぁまぁ、落ち着きなさい。なんでこーいう時だけせっかちさんなのよ」

 

 苦虫を噛み潰す顔を出さない様に繕いながらも刹那の糾弾の言葉に
 ヒリングはむしろ、それを更に逆撫る様に言葉を送り返してくる。
 平静さを保とうとするも一度出た綻びをしまい込む事は叶わず、刹那は再び怒りの顔を滲ませてしまう。
 羞恥というよりも自分の精神の脆さに苛立ちを隠せないが
 下手に言葉を漏らせば、目の前の存在にあれよあれよと喰われてしまうのは解っている。
 一方、その部分でからかうのはもう飽きたのか、掴んだ刹那の手首を離さずに親指で
 手のひらをぐりぐりとまさぐりつつも、ヒリングなりに刹那を落ち着かせようとする。
 はぁーっと大きなため息を吐いた後、普段どおりの無表情を繕っていく刹那。
 まるで”サービスなのよ”っと言わんばかりにヒリングはゆっくりと話し始めた。

 

「私ねぇ、物覚え悪いのよ。特に都合の悪いこととかなーんか、嫌な事があったりとか」
「何が言いたい」
「覚えてないの。特に二年前以降とか最近のことでもね。
 だから、私はひょっとしたら誰かを殺しているかも知れないし
 誰かに犯されてたり、誰かを抱いたりしてるのかも知れない。
 実は一回位死んでるかも知れないわね?」
「……」
「六番目。そんな辛い事もあんたはちゃんと覚えてる。
 けど、私は忘れちゃうかも知れない。
 こうやってあんたをからかって感じるこの体温とか匂いとか味とかもね?」
「っ! 自分から話の腰を折ろうとするな」

 
 

 語る言葉の意味を刹那は自分をバカにしているのかと思われたが
 先程の間を持った為、冷静に続きを聞き入れる事が出来た。
 ヒリングのどこか諦めきったかの様な表情からこれが嘘でもデタラメでもない事が解る。
 散々からかった後なので適当に聞き流すと思われた刹那が意外とクソ真面目に
 聞き入っているのを見れば、いたずら心が再燃してしまう。
 つかんだ手首をそのまま自らの頬へと撫で付けて、すぅっと僅かに呼吸の空気の流れを
 感じさせた後、ちろりと舌を出して、刹那の手の側面部分を舐め上げる。
 流石にそれを許容する事は出来なかったので慌てて手を離すが
 その反応すらもヒリングにとっては滑稽でいじり甲斐のあるアクションであった。

 

「こんな話、真面目に話すのも面倒なの。女心を察しなさいよ」
「解ったから続けろ」
「まぁーきっとね。六番目が死んだら六番目なんて居なかった事になってるわ。
 一々死んだ奴を覚えてるとは思えないし
 ああっ、もしかすると実は随分前に会ってるかも知れないしね。
 その位、私の性格と違って記憶が曖昧なのよねぇ」
「……」
「こら、六番目。此処笑う所。ま、笑ったら殴るけど」

 

 先程まで刹那の手を掴んでいた左手の人差し指と中指と薬指をうねうねと
 蛇の様に動かしてそれがそのまま、つーんっと刹那のおでこへと突き入れる。
 僅かに頭を仰け反らせなつつも刹那はじっと視線を戻したまま押し黙っていた。
 言葉を探していたが見つからない。そもそも、ヒリングが何故こんな事を言い出したのかも解らない。
 境遇への同情? 話を聞き出して怒らせた事への代償? 自分への理解と興味のため?
 気まぐれという言葉一言で片付ける選択肢しかない位に刹那はヒリングの人格を掴みかねていた。

 

「……」
「ったく、黙ってないでなんか言いなさいよ?」
「それはない」
「なんで? っていうか何が?」
「お前は一度逢ったら忘れる様な人格ではない。
 これから先も俺からは忘れる事はないだろう」
「……ふーん」

 

 暫くにやにやとその無表情に困った様子をヒリングは眺めているが
 流石に時間切れだったのかぐりぐりとおでこへとつけた指先を捻りつつも急かし始める。
 その後も僅かに沈黙の間を残した後、刹那は否定する。
 ヒリングは主語というか否定の対象を掴めないが適当に受け流して疑問を返す。
 続く言葉は在り来りな、誰もがそう思うだろう言葉。むしろ、忘れる事が難しい。
 そんな、誰もが思うであろう言葉を刹那は紡ぐ。
 そのまま、言葉を残した後、まっすぐ前へと刹那は向き直る。
 だから、彼は見逃してしまったのである。
 否、見ようとしたら蹴っとばされていたかも知れないのである意味命拾いをしていた。
 その後、ヒリングは押し黙っていたが刹那はそんな事を気にする事もなく
 施設内の目的地へと向かっていた。心地良い静寂、駆動音や他の職員の話し声など
 気にすることのないまま歩を進めている中、やはり沈黙を破ったのはヒリングであった。

 
 

「あ、アリーのおっさんが女連れだ」
「おー。来たか。よし、ソラン!

 

 ”避けるな"

 

命令だ」
「了かっ――っ!」
「……えっ、さ、サーシェスさん!?」
「――だぁっ!?」

 

 刹那も視認は出来ていたが敢えて声に出さなかった。
 遠くからスーツ姿の男女が一組見える。一人はアリー・アル・サーシェスであるが
 もう一人は二人が見知らぬ女性であった。ヒリングはまるで子どもが
 何か異端なモノを見つけて、その後母親に注意されるであろう流れをそのまま体現した様に
 指で二人を指し示す。無論、刹那にもそれが見えていたがその声によって
 実に実りのない雑談で適当に茶を濁していた二人は刹那とヒリングの存在を認識する。
 これ幸いと言わんばかりにサーシェスは手を上げた後、僅かに助走をつける。
 続く言葉に刹那は反射的に言葉を返すが全てを言い終わる前に、おもいっきり頬を殴りつけられた。
 大人、しかも格闘経験のある人物の体重の乗った拳に体重も足らず、命令によって
 無防備になっていた刹那はおもいっきり後ろへと仰け反らせる。傍にいた女性は
 思わず声を上げて困惑を表現するが誰もその言葉に反応を返すこともなく
 ふらついていた刹那の両肩を持った後、サーシェスはそのままみぞおちへと膝蹴りを入れる。

 

「何%だ?」
「ぐっ!」
「そうやって、少し悪ふざけをして、わざわざ俺が迎えに来るなり、気に掛けてやると
 頭の中で何%位の確率で期待した?」
「ち、ちがっ―」
「ガードを下ろせ! お前はエヴァに乗る為にこっちによこした。
 ソレ以外は一切なにしようが構わん。女孕ませようが酒を飲もうが薬に手を出そうがな!」
「っ!」
「だが、勘違いするな。確かにお前は俺の部下であり、俺はお前の上官だ。
 上の命令があれば尻拭いでも何でもしてやるが、それはこの本部の”仕事”の中だけだ」
「わかっ――」
「お前の理解なんざ知らねぇよ! 今、教えてんのは他の期待や展望を捨てろって言ってるんだ。
 そんなありえねぇ期待で非行に走ってエスカレートさせたところで俺は全く興味がねぇ。
 だが、それでてめえの性能が落ちたら、しわ寄せが来るのは俺達だ。
 だから、俺がわざわざ今、話してやってる」
「ぐっ」
「こういったじゃれ合いは金輪際ねぇ。俺が話す時は呼び出すがな。
 ソラン、てめえの仕事外の事で俺から何かリアクションしてやることはねぇから覚えておけ!
 てめぇが人生壊しても俺は一切関知しねぇからな!」

 
 

 質問。主語がない言葉に刹那は困惑をする暇も与えられず、崩れ落ちたそうになる中
 裏拳で刹那の体を本部の床へと叩きつける。刹那はぐりぐりと右肩を靴で踏みにじられ
 嗚咽を漏らす中、サーシェスは罵声と怒号を織りまぜた言葉を叩きつける。
 従軍経験がないモノならば、聞いただけでも震え上がりそうな地獄の底から搾り出した様な声。
 刹那は身を護る為に芋虫の様に丸くなろうとするがサーシェスの言葉にその動作が止まる。
 再び腹部への蹴り。一通り言い終わる度に刹那の嗚咽か、もしくは言葉を搾り出させるが
 それをわざと粉砕するかの様なタイミングで蹴りが続けられる。
 痛みが、意識を侵食していく。サーシェスの言う期待。もしかしたら、ひょっとしたら
 そんな想いが自分にはあったのだろうか? ヒリングに流された今日の行動
 その要因に全くそれが無かったと言い切れるのか? 痛みと共に意識は自問を繰り返す。
 が、それも徐々に痛みと言葉で踏みにじられていく。生命維持の本能がその思考回路を
 焼き切り、思考の拠り所としての機能を喪失していく。
 スメラギは絶句をしたまま、これは人を呼ぶべきか、呼ぶとしても誰に? どこへ?と思考が錯綜する。
 不安が入り交じっている為に正常な判断が、思考が遅れ始め
 それは自責や不安を更に駆り立て能力を麻痺させてくる。

 

「あー? ヒリング、どういうつもりだ」

 

 その状況に一石を投じるが如く、ヒリングは大きく弧を描いた右足の踵が
 サーシェスの背中を襲うが手首の骨をアキレス腱の位置に合わせて防がれる。
 その現状を把握したとともにサーシェスの思考が一気に流動する。
 何故、このガキはケリをかましてきたのか? ソラン(刹那)に懐いたか?
 独占欲でも湧いたのだろうか? 2対1なら自分に勝てる算段でもついたのか?
 そんな事をぼんやりと巡らせながらも振り返り腹部へと拳を打ち出すが
 細く白い腕の見た目に反した的確な防御で衝撃を殺される。
 が、それはフェイク。上から振りかぶる左手は拳を握りこめて頭部へと叩きつける。
 俗に言うげんこつを繰り出せば、ヒリングの脳は揺さぶられて蹲り、痛みに悶えている。

 

「つぅーっ。ん? どういうつもりって、忘れたの? ヤ・ク・ソ・ク♪」
「ぁ?」
「怪我治って一撃入れられたらエヴァ乗って良いって言ったのアリーのおっさんじゃん」
「……あぁ。そういやそんな事言ったな。ま、次からは出す予定だったからそれは無しだ。取り消す」
「え? ほんと? やった〜♪」
「ただし、四号機に積むのは量産型GNドライブの方だ。
 まだ、本物は出力が安定しねぇし、怪我されても面倒だからな」
「ちぇっー。ま、別にイイわ。量産型の色も結構好きだし」

 

 頭をぺたぺたと手のひらで輪郭を確かめ、たんこぶによる頭の膨らみを確認すれば
 大きくため息を吐きつつも、上目遣いに言葉を返す。
 約束?と言われてもアリーの記憶は再び洗い出される中、続けざまのヒリングの言葉に
 ようやく合点がいったのか過去の映像と共に記憶が蘇っていく。
 第四使徒襲来の非常時に病院から抜けだしたヒリングとの乱闘。
 叩き伏せた後、大人しくさせる為に言った口約束を後生大事に覚えていたのか
 ただ、蹴りたかった事に言い訳したいだけなのか解らないがこの約束の維持は
 ”うわぁ、めんどくせぇ”という瞬時の判断により、破棄撤回をサーシェスは決める。
 元々決まってきた事項を告げるだけでヒリングは文字通り、飛び跳ねる様に喜ぶ。

 

「あー、それよりあの女は誰? 放置プレイが好きみたいだけど」
「え!? あ、は、はい」 
「え? マジでそういう趣味? うわっ、やらしー」
「違うわよ! え、えーとサーシェスさん、これは」

 

 その跳ねる際に視界に入った人影にようやく意識が向いたのか
 先程まで狼狽えることしか出来ない置物になっていた女性に視線と言葉を投げる。
 思わぬ矛槍にやはり、おたつくしか出来なかったスメラギだが続く言葉には即時に否定をする。
 えぇ〜? ほんとー?と言わんばかりににたにたと顔と体を這いずり回る様な視線で観察しつつも
 ようやく砕けた表情と言葉にふぅーんっとサーシェスは暫く状況を放置する事にした。
 スメラギも困惑を隠せないが、埒が明かないと判断。サーシェスへと助け舟を出す。
 情け無いがなりふりを構えないと判断した模様。
 まだ、スメラギに関して掴みかねていたサーシェスにとって
 程良く化けの皮を剥がしに掛かってくれるヒリングの行動を淡々と観察をしていたがそれも中断。
 先程からずっと踏みつけていた刹那を抱え込めば、そのままヒリングの方へと背負い投げ
 大の字を逆にした体勢のまま、ヒリングの背中へとドミノ倒しの様に倒れ伏し、巻き込んでいく。

 

「あ、失礼。はははっ、うちの奴は跳ねっ返りばかりでしてね。
 ま、このくらいのガ……失礼。子供はコレくらい伸び伸びとやってもらいませんとな」
「は、はぁ」
「今、投げた奴が刹那・F・セイエイ。こっちのをふざけた奴はヒリング・ケア。
 それぞれ、参号機、四号機を担当してるパイロットです。
 ほら、てめぇらあいさつしとけ。新しい上官様だ」
「アリーのおっさん。六番目伸びたままなんだけど。私はそっちの上官様と違って
 公衆の面前でするとかそーいう趣味……うーん、今のところ無しかな?」
「私はそんな趣味無いわよ!」
「おらっ、そろそろ起きろ。押し倒すのは構わんがTPOを選べ」
「ぐっ……了解した」

 

 ぎろっとケモノの様な睨みを効かせた後、ぱんぱんっと手を軽く叩いて一仕事終えれば
 再びに快活で爽やかな笑顔を作り直す。その笑顔のままヒリングと刹那に対する
 口調が変わらないのは違和感と共に恐怖感を倍増させていた。
 刹那に押しつぶされたまま、片手を上げるヒリング。
 サーシェスは面倒くさそうに刹那の脇腹に軽くケリを入れて意識を覚醒させる。
 ダメージが残ったままなのか頭を振りつつも自分の真下にヒリングが居る事に
 若干戸惑いを隠せないまま、よろよろと立ち上がる刹那。
 ごほっ大きく咳き込むのを尻目に、ヒリングは軽く自分の服の
 埃を払いながらも立ち上がり、ぴしっと背筋を伸ばして自己紹介をする。 

 

「ヒリング・ケアよ。私は四号機担当」
「刹那・F……セ……イエイ参号機パイロ……ット……だ」
「そーいや、上官って言うけどあんた何出来んの?」
「こほんっ、スメラギ・李・ノリエガです。戦術予報士としてこちらに赴任しました。
 使徒の解析とそれにちなんだ戦略立案を行うのが仕事と聞いています」
「へー。ま、宜しくー」

 

 多少よろめいたままになっていたが刹那は途切れ途切れに名乗りをあげる。
 ヒリングの問いにスメラギはまるで面接をしに来た学生の様に
 つらつらと言葉を並べ立てている。ふーんっと再びスメラギのことを観察するが
 すぐに飽きたヒリングはまるで虫けらを見るかの様に軽薄な態度を取る。
 既に眼中に無いといった所か、視線と意識はサーシェスへと向きなおしていた。

 

「ヒリング。お前はコイツと飯を食った後は訓練を一三〇〇より始める」
「はいはい。了解。じゃいってきまーす」
「昼飯は一人で食べれる」
「ランチを一緒にってのも命令でしょー?」
「……了解した」

 

 訓練開始時刻伝達というお説教終了のお知らせを聞けば
 まだよろよろとしている刹那の手首をつかんで食堂へと向かおうとする。
 一瞬立ち止まり、僅かに思考。この場合、下手な質問は怒りを買うだろうと
 学習したのか先に回答を提示する。しかし、すかさずに返されるヒリングの言葉に
 閉口したまま、ふむっと頷きを返していく。ヒリングが”ちょろいわぁw”っと内心思っている
 事を知る由もなく、また仮にあったとしても知ろうとも思わぬ程に
 ダメージの回復と意識の集中に余念の無い刹那は幽鬼の様にヒリングの後をついていった。

 

「ノリエガさん。午後には初号機パイロットも来ます。
 そいつと逢って、跡は技術部の奴に顔を出しておいて、実験を一通り見れば初日は終わりです。
 何分広い施設ですからな。前任者もよく迷っていましたので道はよく覚えておいて下さい」
「あ、はい……えと、すいません」
「何か?」
「トイレの場所だけは早めに把握しておきたいです」
「ははっ、なるほど。コレは失礼を」

 

 排泄が目的ではない。何もかも吐き出したくてスメラギは逃げ場所を聞くことにした。

 

―参号機被弾まで残り2時間31分06秒

 

次回予告
 秒針の進みを追い抜くかの様なEVA三機による乱撃
 それぞれが死力を尽くしても尚、敗北の運命は変わらない
 少年と少女はそれを知ることは無く、ただひたすらに戦場で摩耗していく
 何故、少年はその命を死の間際に晒してしまったのか?

 

第六話前編「乱戦、第3新東京市」

 

 負けが決まっててもサービス、サービスゥorz

 
 

番外編次回予告
おーし、ココの予告はAEUのスペシャルエース! パトリック・コーラサワー様がお送りするぜ?
スペシャルな俺はAEU代表として人革連との合同調査部隊に配属、中東の小国へと派遣される。
そこで見つけたのはなんと巨大な地底湖! ソコに迫り来るは巨大な影と俺様は対峙する!
だが、そんな事はどうでもよく、今日も俺のスペシャルな相棒は抜群に可愛いぜ!

 

次回番外編予定 コーラサワー編「レイクダイバー」
うん、意外とそのまんまだが番外編でもスペシャル! スペシャルゥ!

 
 
 

  


URL B I U SIZE Black Maroon Green Olive Navy Purple Teal Gray Silver Red Lime Yellow Blue Fuchsia Aqua White