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EVAcrossOO_寝腐◆PRhLx3NK8g氏_EX_5話

Last-modified: 2014-04-12 (土) 20:28:47
 

    閑話窮題「レイクダイバー 前編」 Edit

 

 少女が苦悶し葛藤する。それは偏重したサディスティックな嗜好から見れば
 とてもとても美味しいご褒美に見えるが生憎、現場の人間の主要な人物はだれしも
 そういった嗜好を持つ者がおらず、おろおろと心配そうに見つめるばかりである。
 EVA仮設伍号機パイロットのアレルヤ・ハプティズムと
 ロシアの荒熊の異名を持つ男セルゲイ・スミルノフはどうしたものかと
 瞼を閉じて寡黙に考えていた。二人ともその言動によって答えが出ないのは解っているが
 当人と少女にとってはそういう姿勢がとても大事なのだと判断しているからだったりする。
 そんな重苦しい空気の原因は何かと問われれば、皆の視線の先に映るのは二人の人物。
 背の高いスラリとした青年と年端もいかないアジア人らしき少女へと視線が注がれる。

 

「マナ。今日の俺を見て、どう思う?」
「……凄く、スペシャルです」
「よっしゃ! じゃ、今日も上手くいくな。間違いない」
「はい♪ 少尉は昨日にも増して、とってもスペシャルですから大丈夫です♪
 少尉の格好良さは天井知らずですね!」

 

 シベリアの極寒の如き殺伐とした空気を物ともしないAEU所属の
AKY(敢えて空気を読まない)少女、霧島マナと
KYB(空気を読むという事象を知らない馬鹿)エース、パトリック・コーラサワーは
 背景を暖色に染め上げ、高らかに笑い声を上げてキャッキャウフフな光景を繰り広げていた。
 この二人は毎朝顔を合わせる度にこの様なやり取りをして程よくテンションを上げて
 任務を敢行している。故に洞窟を抜ける道中、暗い穴倉の中をさまよっていても尚
 はつらつに明るく、ムードメーカー(当人達限定)を担っており、今日も元気に
 茶番を繰り広げてはミーティングの時間を待ちわびていた。

 

「中佐、あれはどうにかならないものでしょうくぁっ!」
「大尉、何度も言うが我々とは軍規も命令系統も違う。
まして、あちら側が指導すべき最上級上官があの男なのだ」
「くっ、AEUはなんであんな奴を送ってきたのだ」
「嫌がらせかな? ……ぐっ!」

 

 ベースキャンプにもなっている陸送輸送艦のロビーで
少女は手を震わせて、ぶちりっと程よく良い擬音が聞こえそうなほどの剣幕を
携えながらも、血の涙が出そうな程に目を見開き、セルゲイへと詰め寄る。
“うざい“という言葉を知らずに育ち、今もその感情の発露をどう昇華していいか分からない
超兵であり、EVA仮説伍号機パイロットのソーマ・ピーリス大尉の申し出にうむっと小さく頷いた。
続く言葉は当然ソーマの求める回答を得られる訳もない。
本来、合同任務というのはとてもデリケートなものである。お互いの機密にも触れるし
軍規の異なる相手とも些細なトラブルなど起きては外交問題にもなる。
しかして、AEUが送り出したのは自己流のスペシャルデリカシーを持つ男と
デリカシーよりも少尉が大事な乙女を送り込むという時点で
アレルヤのいう嫌がらせという観点はあながち間違いではないかも知れない。
その事実を鑑みた苛立ちをソーマはそのまま、アレルヤの腹部へと拳を打ち込む。

 
 

「それなら尚の事、性質が悪い!」
「ピーリス大尉、ドメスティックバイオレンスも性質が悪いよ」
「アレルヤ少尉! お前と家庭を作った覚えはない! これはパワーハラスメントだ!」
「はぐっ!? いや、それもそれで性質悪いから!」
「……はぁ。私には五十歩百歩に見えるがね」

 

 撃ち込まれた拳に悶絶しながらも、アレルヤは消え入りそうな声で
 ソーマの八つ当たりに抗議の意を示すが、それに北極の氷の様な瞳を向けられつつ
 両手を握りしめて上から後頭部へと叩きつけてアレルヤを艦内の床へと突っ伏させる。
 超兵とはいえ、女の細腕故に加減容赦のない攻撃手段を見たセルゲイはため息と共に
 現状を客観視すれば、対して違いが見えないことにどう言葉をかけていいか迷っていた。
 端的にいえば、元々尻に敷かれ気味であったアレルヤは、今作戦のソーマの苛立ちにより
 軽くサンドバックになっている現状はいい意味でも悪い意味でも変化があったのだと
結論付けてはいる。が、若者二人に対する未来を鑑みると複雑な心境であり
誰に向けてもいない、独り言の感想を呟く。

 

「いやぁ、怖いですねぇ少尉。暴力女って」
「はははっ、女の子は元気があるほうがいいけどな!」
「ハッ!? 大佐と同じヴァイオレンスっぷりに心をときめいてないですよね? 少尉!」
「ん? 心配するな、マナ。今日もお前は抜群に可愛いぜ!」
「ほんとですか? 嬉しいです♪」

 

 一方、AEU側のすちゃらかバカップルもそのやり取りを見ており、怯えた演技をしながらも
 腕を組み、後ろへと隠れるマナ。ん?と意図に気付かずに頭をなでなでしながらも答える
 コーラサワーに対して、更に意図的に斜め上の発言を飛び出させれば
 ばちこーんっと片目ウィンクとサムズアップを貰っていた。
 ここで赤面しているのが演技ではない点においてマナの幸福感に嘘偽りは無く
 “人間”として幸せになるという当然の権利を行使しているに過ぎない事になる。
 故に人革連の男性二人においてもそれを咎める事が出来ないのであった。
 彼らは若くしてこんな作戦へと駆り立てられなければならない少女への同情心と
 そういう充実感に大して爆破を願わない程に大人であった。
 大人以外はこの四名に対して末永く爆ぜる事を願っている。

 

「相変わらず朝から憂鬱にさせてくれて何よりだ。では、ミーティングを始める」
「「「はっ」」」
「「了解であります!」」
「……はぁ。とりあえず我々は昨日見つかったこの地底湖の調査を行う。
 この任務の為にAEU及び人革連の“優秀“な軍人を派遣して貰っているのは解るね?」

 

 ドツキ漫才と惚気のカップルとそれを見つめる保護者の空間を見て呆れ返りながらも
 その空間に参加することになる紫の短髪の少年、リヴァイヴ・リバイバルは号令を掛ける。
 人革連の人間は一応軍規に沿った敬礼をするがAEUはそれに比べて雰囲気的に軽い。
 むしろ、甘い。ただ、そんな些細なことを一々気にしている程、リヴァイヴは他人に興味はなく
 スクリーンに映し出される巨大な湖の映像に目をやる。人工的に出来たにしては
 あまりに奇麗に刳り抜かれている球形のドーム。中央には生物の気配が感じられない
 巨大な地底湖が広がっていた。照明が照らされているが岸の反対側が視認できない程の
 広さであり、また、鍾乳石の長さから比較的新しい時代に作られた場所だというのが推察出来る。

 

「以前説明したとおり、今回の任務は人類が小競り合いや縄張り争いの意義など
 路傍の石に等しいほどの大偉業になる。機関から直接僕が陣頭指揮をとっている意義を
 重々承知して探索任務にあたって貰いたい」
「地底洞窟でドキドキ宝探しって感じですね」
「うん、そうだな。20世紀的なロマンだぜ」
「AEUの軍人というのは人のを話を聞かない訓練でも受けている様だな」
「ははは……ピーリス大尉も習得すれば楽になるんじゃ、ぐっ!?」

 

 リヴァイヴはどうせ、解らないだろうという態度と意識の中、せめてプレッシャーと緊張感を
 取り戻そうと尊大に大っぴらに言葉を並べていく。それを粉砕爆破してくるマナの発言に
 瞼を閉じて青筋を立てる中、更にコーラサワーが感慨深くうなずくのを見れば、脱力。
 ソーマは視線をまっすぐどこか虚空の彼方に向けて、毒付いたの言葉の槍を放り投げる。
 ぴしりっと直立したまま、横目にソーマの見事な槍の不法投擲を乾いた笑いとともに
 成功確率皆無のフォローをするアレルヤ。当然、無言無表情のひじ打ちが腹部へと叩き込まれる。
 それを見かねてか、セルゲイが一人シリアスな空気を吹きいれる様に言葉を発し始める。

 

「質問がしたいのだが宜しいかね?」
「許可しよう、セルゲイ中佐」
「具体的にどんなモノを探すのかね?
 我々はまだそのモノについては具体的な説明を受けていないのだが」
「ああ、そういやぁそうだな」
「君まで理解力が足らない事に僕は失望を禁じ得ない訳だがまぁ、説明はしよう」
「あ、機密事項だから言えないのかと思ってました」

 

 敢えて今までの作戦中触れていなかった(約一名は素で気付いていなかった)事項へと
 足を踏み入れる。彼ほどの軍歴を持つ人間なら深入りは厳禁というのは重々承知している筈。
 故にその場の誰もが(約一名を除く)が緊張感と危険な気配を感じ取りつつも
 その問いを掛けられたリヴァイヴへの一挙一動に視線が集まる。
リヴァイヴは溜息交じりになりつつもふと周りの面子の今までの言動を見るに
どこかやるせない視線を左斜め下に向けたまま、軽く肩をすくめる。
そして、当然の如くその約一名は思い出した様子で声をあげて
マナもそれに続いて道化を演じていた。一瞬、マナへと鋭い視線を
リヴァイヴは向けるがそれも面倒そうに途中で止めてしまう。

 

「勿論、君達に機密事項である対象の説明の義務もない上に
 現状はどんな形状及び状態になっているか不明だ。
 故に僕が派遣されて目視及び確認を行うという任務を機関から承っている」
「わからないという事ですか?」
「常人にはね。無論、超兵とかいう強化を促してもエヴァに乗れたとしてもだ。
 ま、ここからはサービスという事だから、聞いたらすぐに忘れてくれ。
 これはお願いではなく、命令だ」

 

 相変わらずのもったいぶった言い方をしているが、それを端的にアレルヤに
 総括されてしまえば、少しむっとした表情をリヴァイヴは返す。
 それを憂さ晴らしをするかの様ににこやかな笑顔とともに厭味と皮肉を織り交ぜながら
 命令を行使する。見た目の通り、子供っぽいところがあるものだとセルゲイは思いつつも
 ようやくリヴァイヴのご機嫌が直りつつ、じろりっと並び立つ軍人たちに睨みを利かせる。
 そして、その言葉は一同の全員に想定以上のプレッシャーを与えられることになる。

 

「これはセカンドインパクトにおいて飛散した、とても貴重なモノの回収任務にある。
 そして、それは使徒と呼ばれる化け物も狙っている可能性が高い。
 調査、回収、護送と色々とやることが多いんだよ。今回の任務はね」
「マジかよ」
「セカンドインパクだと?」
「ようやく、理解の到達に近づいてくれて、僕は感涙を禁じ得ないね。
 ま、泣いたりはしないが」
「故にエヴァ、更にはAEUの特殊兵器まで引っ張ってきている訳か」

 

 脳裏には各々の17年前の悲劇の記録、もしくは経験が瞼の裏から蘇ってくる。
 世界の勢力地図を塗り替え、統合、廃棄、破壊、復興のすべての原因となったとされる
 世界規模の災害の“一因“を見つけるとなる。まして、未だ実戦を経験していない
 EVAパイロット2名と特殊兵器の搭乗員1名には使徒との戦闘までを示唆され
 緊張が隠せなかった。約1名、武勲と誉れの機会を獲得できる好機と考えて
 胸高鳴らす者も居たが、それでもその重圧にいつもの笑顔に若干の引きつりを刻んでいる。
 その様子にようやく満足をしたのか、リヴァイヴからの任務の説明が始まった。
 皆の気持ちは上の空とまではいなくとも漠然とした何かに支配されていた。
それは来るべき災厄への予感だったのかも知れない。

 

―巨大地底湖沿岸にて

 

 機械の駆動音と共にハンガーからは3機の巨大な機影がゆっくりと地に足をつけて
 降り立っていく。一機は巨大な四脚に片手は道中の道を確保するための破砕用をする為と
技術者たちのロマンを体現する為につけられたドリル。もう片手のマニュピレーターには
巨大なつりざおの様なモノがアタッチメントとして付けられていた。EVA仮設伍号機。
人革連が勝手に名乗りを上げて、後から追認する形となったそのEVAは人型とはほど遠く
汎用性という概念とは全く別物の作りとなっている。
 それに遅れて弐体同時にハンガーから音をたてて歩いてくる機体。
 元戦略自衛隊試作、現AEU軍所属トライデント級陸上軽巡洋艦“雷電”、“震電”。
 AEU軍内ではLAND CRUISER T・RAIDEN・T、LAND CRUISER T・SHINDEN・T
 呼ばれるれている(以下、震電、雷電と呼称する)。
震電には霧島マナ、雷電にはパトリック・コーラサワーがそれぞれ搭乗している。

「うし、今日も雷電、震電はご機嫌だな」
「震電起動。オールクリア。GNドライブ、出力安定。潜水形態へと移行します。」
「全く、ユニオンもこれが要らねぇなんざ贅沢なことだな」
「垂直式使徒キャッチャー先端部。装着準備完了した」
「お、釣餌は俺のほうだな。レディーにこういう事はさせられない」
「そんな事は聞いてない。雷電へ先端部取り付け作業に入る」

 

 言葉のとおり、ご機嫌に乗りこなしている(?)コーラサワーの三歩ほど後を
 追従するマナの震電。陸上走行は可能とは言え、身長はEVAの2/3、前後は
 大柄なこの機体の足は重く、怪獣の様にのしりのしりと洞窟を響かせながらも
 地底湖の端へと歩いていく。伍号機もまた、四足で近付く様も相成って
 とても現代科学の粋を集めた機械化部隊の行軍とは思えない歩みであった。
 地底湖の端へと付いた、雷電、震電は細かい変形を繰り返しつつも
 関節を固定及び防水化をしていく。伍号機は手に持っていた釣り竿の釣り針部分に
 当たる部分を雷電の左手のマニュピレーターに装着する。

 

「ドッキングを確認」
「水中用ライトとカメラ視認を水中モードへ切り替えます」
「さーって、未知の地底湖へダイブだ!」
「ソナー起動開始、周囲に反応なし」
「意外と深いなぁ。しっかし、魚一匹いねーってのも寂しいもんだぜ」

 

 確認する様にモード展開をいちいち告げるマナに対して、コーラサワーは
 気の知った相手という事であくまで先行するマナの作業工程の注視のみをする。
 おかげで一人だけあほっぽい掛声や感想が響くのを聞いてか瞼を閉じつつも
 軽く眉間のしわを刻み始めるソーマとその後方できりきりと胃を痛めるアレルヤ。
 流線型のフォルムに丁寧に淡い寒色で彩られた機体が
 移動車両の照らすライトが描く透明度のきれいな水へと沈んでいく。
 最初は仄暗い水溜まり程度に思えていた地底湖の深さに二名とも
 驚嘆を隠せないでいた。そのまま、奈落に飲み込まれてしまうかと疑う程に
 深く、闇が溶け込んだかの様に暗く見えない水底を眺めれば、自然と
 恐怖を本能に訴えかけてくる。中心部へと潜っている訳ではない事と
 同伴する同型機がいなければ、正に奈落か深淵へと沈み落ちている
 錯覚を覚えるほどである。コーラサワーが言う様にカメラ越しからスクリーンに
映し出される水中の映像は生命の影どころか下手したら
プランクトンの一匹もいないのではないかと思われる程の静けさを見せつけていた。

 

「さて、絶滅を免れた恐竜とか出てきたりな?」
「ん〜、どうせなら人魚とかの方がロマンチックじゃないですか?」
「麗しの人魚なら俺の隣に何時も居るだろ? 珍しくもないぜ」
「少尉! 人魚姫だとバットエンドだから却下です!」
「お、なるほど。そりゃ駄目だな、ハハハハッ」

 

 ほどなくして、二機は湖底へと降り立つ。
 真っ白な岩と堆積された砂が静かにその場を演出しているだけの
 うすら寒い風景であり、ここに至っても尚、生き物の影も見えない。
砂煙をスクリューで巻き起こしつつも和気あいあいとした会話のキャッチボールを続けている。
いい加減、怒るのにも疲れたのと途中から自身の知識の範疇を超えた為、ソーマも計器の
数値を眺める作業へと専念していく中、二機は地底湖の中心部へと向かっていく。
すると途中、地響きと共に水面が波紋を描き、ぱらぱらと鍾乳石のかけらや
天井部分のかけらが落ちてきて、地底湖に小さい波紋を描いていく。
小さい水音が反響し、音楽ホールの様に心地よい演奏を提供している中
3機を載せてきた輸送艦とそれぞれの機体は警報を鳴り響かせて、人類に異常を知らせていた。

 

「水中に未確認の反応を探知! これは……通常の生物のサイズではありません!」
「ネッシーか!?」
「パターン青、使徒です!」
「くそっ……って、使徒か!」
「やっぱり、来たね。作戦内容を変更。使徒の殲滅最優先。
 後は、発見次第、捜索物の回収及び確保も継続! 中佐、後は任せましたよ」

 

 オペレーターの発言に皆が耳を傾けている中、どんな事態に陥っても
 少年の心を忘れないコーラサワーのリアクションを颯爽にスルーする一同
 ――というほど楽観視できる状況は余裕がなかった。
 誰もがそんな些細なことに構うほどの余裕もなく、リヴァイヴも唇をゆがめたまま
 じろりっとセルゲイの方を見て、指示を飛ばす。現場の主導権と指揮権が変わり
 冒険から戦場へと認識を改めさせられることになる。
 相手はそのまま水中から来るか、それとも湖面や沿岸を沿って地上から来るかも不明。
 あくまで遠方から巨大な機影とパターンが使徒であることしか分らない。

 

「了解しました。伍号機は沿岸にて待機!
潜航中の雷電、震電の両機は目標探索と接触次第報告を怠らぬ様!
雷電はそのまま浮上し先行! 震電はそのまま湖底にて少尉と距離をとりつつ随行せよ!」
「よし、雷電は先行する! マナ、後方は任せた」
「了解です、少尉!」

 

 コーラサワーが駆る雷電が威勢よく前に飛び出せば、それをマナが追う様に
 あとに続いていく。湖底を静かに滑走していた二機は一旦別れていく。
 水泡をまき散らしながらも先行する雷電のやや後ろから
 こちらも砂煙を巻き上げながらも進んでいく震電。
 真っ暗な水中遊泳が途端、さながらパニック映画の人食いモンスターの
 出待ち繋ぎの様に感じていく。緊張感の中、レーダーが捉えたソレが
 水中ではありえない速度で接近してくる事からオペレーターが声を張り上げる。

 

「機影急速接近!」
「少尉来ました!」
「で、でっけぇな!?!」
「こちらも目視で敵使徒を視認!」
「くっ、どうやって入ってきたんだ? アレ」

 

 カメラとライトの向こう側からは大きく生白い巨体が接近してきた。
 流線型の生物的なフォルムでこれが通常の水族館で見るサイズなら
 エイか何かの一種だろうと片付けられるのだろうが、明らかに迫り来るその生命体は大きかった。
 水流を掻き分けて真っ白い体はクジラ一体を丸まる飲み込めるのではないかと思われる
 鋤歯の様な口を大きく開けて、コーラサワーの雷電へと食らい付こうとする。
 水生生物的なフォルムを持つこの使徒に対して、何とか機体を捩りつつも一回目の体当たりを回避する。
 といっても、回避と言えるほど寸の出ではない。
 ガコンっと機体の一部がぶち当たってきりもみ状態のまま、なんとか姿勢制御を行う。
 溢れる水泡と水の動きが湖の外からでも解る程にその巨体は大きい。
 そして、その巨体は再び湖の暗い中へと溶けて行く。
 静寂を取り戻した水中であったが、かき乱された水流が湖底を荒らしていく。

 

「如何なさいますか?」
「捜索物との接触阻止を第一。戦術は一任する。適当にやれ!」
「〈捜索物=使徒ではないのか?〉……了解しました」

 

 リヴァイヴは神妙な面持ちでモニターを見る。正確に言えば、驚愕を隠そうと
 瞼を閉じているがわずかな手の振るえを既にセルゲイに見ぬかれている。
 彼は使徒の襲撃に関しては想定されていたのだろうが、この状況は想定してなかった。
 そう、あんな”巨大に成長し切ったフォルムの使徒"の襲来は聞いていない。
 コンソールを叩き通信網を開く振りをする。実際に彼にはそういう事は本来必要ない。
 通信機器でいかにもな言葉で地上との連絡をとりつつも、念話に等しい能力を用いて
 ある人物と会話を始める。

 

『どういうことだリボンズ!』
『おや、そんな地下でも案外通じるモノなんだね。使徒接触の情報は今、入ったよ』
『話が違うぞ! 聞いていたのはまだ再生中の使徒だ!
 あんなデカい奴は僕は聞いてない!』
『相当大きい奴みたいだね。魚っぽいから多分、ガギエルって名付けられると思うよ』
『名前なんてどうでもいい。どういうつもりなんだい?』
『いや、僕は確かに再生中の使徒だと言ったけど、一体だなんて一言も言ってないしね』
『……なっ!? それは……まずいぞ!? こんなところで起こすなんて聞いてない』
『もちろん、そんな予定はこっちのプランにも死海文書にもない。
 だから死んでも止めてくれないと困るね。ま、その為のエヴァ伍号機でもあるし』

 

 静かな激昂。顔と態度は無表情ながらも今回の作戦立案者に声無き声を荒げる。
 相手のリボンズと呼ばれた少年の様な声の男はそれをどこ吹く風と言った風情で
 その声を往なしていく。リヴァイヴにとって今回の任務は言葉通り
 ある使徒を生け捕りにすることだ。生きた使徒のサンプル。
 是が非でも手に入れたい貴重なものであり、敵を一体消すことと同意義でもある。
 ただ、事態は大きく変わっていた。目の前の使徒は聞いていたモノとは違う。
 すなわち、あの巨大な使徒はイレギュラーであり、現場で鉢合わせたことになる。
 最悪のシナリオがリヴァイヴの脳裏を過る。
 もし、その再生中の使徒がそれを終えて戦いに加わった場合、圧倒的な状況の不利。
 それで済まされれば良いが、それよりももっと恐ろしい事すら想定できる。
 漫画的な表現をするならリヴァイヴの背景と造詣がぐにゃりと曲がる程の
 逼迫した状況。其の時、割って入る会話。女の声。
 不可解と不愉快と我儘と傍若無人さと面倒臭さを混ぜて化学反応させた声が
 二人の脳裏へと突き刺さる。

 

『あー、ピーピー煩い! ぐちぐち言ってないでさっさと倒す為に頭使いなさいよ』
『な! もし、例のアレが此処にあったらサードインパクトが――』
『起こさない為にあんたが大口叩いて動いてるんでしょ? それが出来ない無能なら
 無駄口叩いてないで無能なりに身体張ってでも何とかしやがりなさいよ』
『はは、これは一本取られたね。ま、そういうことだ。そろそろ君も結果を出してくれると嬉しいね。
 ま、最悪君たちが自爆すれば、使徒一体位は葬れるだろう?
 回収ついでに死体も掘り起こすさ』
『くっ! 勝てば、いいんだね!? ……っ勝てば!』
『最初からそういっているんだけどね』

 

 がちゃりっと音を立てて通信機を切る振りをし、その念話を終える。
 顔は真っ青に近く激情と葛藤と焦りが丸見えであった。
 切迫する表情と言葉がセルゲイのみならず、周りのオペレーター達からも
 見て取れるほどだ。瞼を閉じて、大きく鼻から息を吸う。口元をわずかに開き
 音が漏れる規則正しい深呼吸の動作。数度繰り返した後
 セルゲイを手招きで呼び寄せた後、耳打ちする。
 オペレーター達もそれに聞き耳を立てていたい気持ちは湧き立ってはいたが
 残念ながらそんな余裕がないほどに使徒の猛攻は激しい。
 特にコーラサワーの乗る雷電の損傷が増えていった。
 一見、雷電のみに攻撃を集中している様に見えていたのだがそれは違っていた。
 使徒の基本的な行動は震電をメインに主に湖底に体当たりをしようとしていた。
 しかし、それを阻むのがコーラーサワーの駆る雷電である。
 疑似餌の様に試作伍号機に指示を飛ばしては
 使徒のわずかの上方へと回避をしながらも魚雷と水中機雷をばらまいていく。
 途中、湖底をえぐるように進んでいた使徒はそれを嫌って水面近くへと移動する。

 

「使徒殲滅を命令されましたが……セルゲイ中佐」
「はっ」
「ここだけの話、捜索物と使徒の接触は人類の存亡に関わる。
 いざとなれば、エヴァ及び他二機の自爆を持って敵を排除する。
判断は中佐に任せますが、責任は機関が負います」
「……其れほどまでに」
「言わずともがなです。正直、僕を含めて
ここにいる人間が全員死んだとしてもその英断にはおつりがくる」
「ではそちらは何を?」
「私はその間、送られてくるモニターと情報から捜索物を探します。
 予備の探査機も動かして、なんとしても先に捜しモノを見つけないといけない。
パイロットによそ見運転できるほど使徒というのは油断できる相手ではないですから」
「解りました」

 

 耳打ちされる内容に思わず目を見開きつつもそれを気取られぬ様にする。
 目の前のこのプライドと自尊心の塊のような少年がその自らの命を賭して
 なさねばならぬと判断したことはセルゲイにとってそれが
 重々たる責務であることを理解するのは容易かった。
 苦々しくも少年を見た後、セルゲイは振り返ると同時に思考を切り替えて
 送信されてくるメインモニターの映像を流れる。
 通信から聞こえてくる低く張り上げる声には苛ついた様子を露見させた
 コーラサワーの返答が返って来る。
 咎める猶予すら無く淡々とセルゲイは命令を発していく。

 

「少尉、通信は生きているか? 今から私が指揮権を一任された」
「ぁ? あのエラソーなガキは何やってるんだ中佐? 逃げ出したのか?」
「少尉。彼は別任務に入った。彼はココに居るし、通信も聞こえている」
「ぇ? あ、ヤバッ」
「少尉! 損耗が激しいです!」

 

 『俺の口、軽過ぎ?』と言わんばかりに慌てて口元を抑えた結果
 使徒の体当たりを食らって後方に錐揉み回転をしつつも脳みそをシェイクされる。
 マナの声で何とか意識は引き戻されるも、ATフィールドも破れずこちらの攻撃は
 一切届かない現状はあいも変わらず絶望的であった。

 

「っーーー! よっしゃ、じゃぁとっとと畳んじまうか」
「何か活路が見えたか少尉?」
「当たり前だ! 俺はAEUのスペシャルエース、パトリック・コーラサワーだぜ!」

 

 高々と死亡フラグを掲げたコーラサワーを敬愛の感情を抱くのは一名。
 他全員は多分ダメだろうという諦めの下、彼の言葉を受け止めていた。

 
―後編に続く
 
 
 

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