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Episode 0.1 “Rise of The Fifty”

Last-modified: 2008-07-05 (土) 18:33:10

Episode 0.1 “Rise of The Fifty”

 
 

 C.E.70年4月1日。後にエイプリルフール・クライシスと呼ばれるザフトの一大作戦に
よって、地球圏は未曾有のエネルギー危機に見舞われた。プラントに対して強硬な姿勢を
取っていた連合だけでなく、地球全土に存在する全ての国家に対する無差別攻撃によって
地球に住まう人々の反プラント、反コーディネイター感情は最高潮に達し、親プラント派、
親コーディネイター勢力は大きくその発言力を弱められる事となった。

 

「ユニウスセブンへの核攻撃は間違っていた。何故、全コロニーを破壊しなかったのか」
「コーディネイターはもはや人間と呼べない」
「奴らが我々を滅ぼすか、我々が奴らを滅ぼすかだ」

 

 過激な反コーディネイター活動によって人道的見地から批判を浴びていたブルーコスモス
を置いてきぼりにして、多くの人々は正義感と復讐心に突き動かされ、立ち上がった。
プラント側も、ニュートロンジャマーによって発生したエネルギー危機については領内で
公表せず、ナチュラルを危険で不安定な原子力発電から卒業させたと伝え、その恩を忘れ
て尚も我々を迫害し、搾取しようとする愚か者に再度の鉄槌を打ち下ろすと、「優良種教育」
を施されたプラント市民の感情を煽った。
 皮肉にも地球連合の結束を強め、プラントに対する徹底抗戦の姿勢を確立してしまった
この全地球規模の災害は、魔物の群を産み落とした。ナチュラルからは化物の同類と、
コーディネイターからは臆病者と拒絶され、飢餓、凍死、私刑によって身も心も擦り切れ、
命に代えても守りきらねばならなかったものを目の前で失った、ごく平凡な人々。
 最早自分の命しか無く、黙して背負うには重過ぎる哀しみと憎しみを抱えた彼らは、敢
えてかつての迫害者であるブルーコスモスを訪ね、構成員となる事を望んだ。人間爆弾で
も何でも構わない。地上に降りたザフト兵を、どんな方法でも良いから苦しめ、傷つけさ
せてくれと訴える彼らを見て、盟主ムルタ=アズラエルは首を縦に振った。

 

「良いでしょう。しかし使い捨てる事はしませんよ。そんな余裕はありませんから」

 

 2ヶ月足らずの訓練で、彼らは人から兵器へと生まれ変わった。最新の装備を与えられ、
苦戦を強いられていた連合軍の下に増援として送り込まれたコーディネイター部隊は疑い
ようもなく精兵だった。コーディネイターの長所である適応能力に加え、物事の後先や自
身の安全を省みない鬼気迫る戦いぶりは友軍の兵士さえ怯えさせた。

 

 C.E.70年10月25日。プラント最高議長シーゲル=クラインと、地球連合事務総長オル
バーニとの極秘交渉が決裂した後、ムルタ=アズラエルから直接の指示を受け、ブルーコ
スモスのコーディネイター部隊はザフトの奇襲によって占領された東欧に送り込まれた。
 作戦の遂行と成功は連合軍高官を恐怖させ、以降、当該部隊の運用を避けるようになる。
後のザフトも70年10月時点で東欧には進出していなかったとし、正式記録を、抹消した。

 
 

 猛吹雪によって白く染まった大地を、4台の装甲車が静音モードで進む。それらに随行し、
手にしたマルチパーパスランチャーを周囲に向けて進んでいるのは、全長2メートル超の
パワードスーツ達。アクタイオン社が開発した『グティ』の改造版である。

 

『40メートル先におよそ30度の傾斜あり。先行し偵察する』
「了解。停車を」

 

 装甲車の中で、ヘルメット以外のスーツを着用した褐色肌の女性がドライバーに指示を
出す。操縦していた男が頷いて、通信回線を開き他の3台に伝えた。
「回線はそのまま。……地図が正しければ、間も無く私達は作戦エリアに到達する。基地
には少なくとも6機のモビルスーツが配備されているけれども、恐らく戦闘配置について
いるのは2機ないし3機よ。バッテリーで動くジンは、長期の警戒任務に向かない」
 彼女の横に、最低限の防寒、防弾装備しか身に着けていない男が腰掛けていた。手にし
たPDAには、モノアイを鶏冠付きの頭部を持った機械人間が映っている。左手が操縦桿
を握るように形作られ、手首を捻り、親指と人差し指を時折曲げた。

 

『地図通りだ。崖下にザフトの基地が見える。前進して構わん……配置につく』

 

 先程傾斜があると報告した男から通信が入り、スーツの『眼』を通した映像が、装甲車
内のディスプレイに投影される。吹雪の為に視界が悪いが、小型のサーチライトを右肩に
増設したジン2機が、2つのゲートに1機ずつ立っている。機体の上半身が動く度に光が
揺れて、白い雪面を丸く照らしていた。

 

「何故こうも無防備なんだ?此処に来るまで一度も陸上トラップに遭遇しなかった」

 

 唐突に声を上げたのは、『モビルジン』のデータをチェックていた男だった。何処か不満
げに呟いて、PDAの画面を消す。

 

「対空砲台も見えるが、あれで墜とせるのは爆撃機か輸送機くらいだろう」
「……あなたは何時もそうだけれど、敵の心配はその辺りで止めて貰えないかしら?」
「私は罠を警戒しているだけだ。作戦は万全を期さねばならない」

 

 褐色肌の女性が冷え切った声音を向け、それを真正面から見返した男も抗弁する。聞い
ている周囲は、特に反応を返さない。興味が無いし、作戦前に幾度も繰り返されてきたや
りとりだからである。

 

「ザフトの増援部隊が付近にいないのは、事前調査で解っているわ。それに、彼らは奇襲
する事に慣れているけれども、奇襲された経験は殆ど無い。守勢に回ると脆弱なのは、こ
れまでの経験で知っているでしょう?……貴方を見ていると、不安よ」

 

 PDAを防寒コートのポケットに滑り込ませ、30半ばの男は目を細めた。

 

「何がだ。私のスコアと実戦記録は把握していると思ったが?」
「ええ。それにMSの操縦適性が、私達の中で一番高い事もね。けれど、一番感情を制御
できない。戦闘を楽しみ、流血に酔う。貴方はいずれ、私達の何もかもを台無しにするわ」
「またその話か。くだらん……言いがかり以外の何物でもない」

 

 6年後に全く同じ会話を繰り返すとは知る筈のない2人が、其処で睨み合った。

 

『配置についた。突入のタイミングはどうする?』
「90秒後。総員、降車」

 

 口論の最中にもディスプレイを確認していた女性は、車外からの報告に答えると席を立
った。後部のハッチが開き、暴風と共に雪片が飛び込んでくる。ヘルメットを被り、彼女
は通信回線を開いた。

 

『事前の打ち合わせ通りに動いて。向こうが反撃態勢を取る前に終わらせる』

 

 ザフト兵の平均年齢は17、8歳である。必要な能力や技能だけを詰め込まれた彼らは精
神が未熟な者が多く、それは戦場で敵を撃つ事の躊躇いを軽減させる事に役立っていた。
プラント議会が発信する正義を疑わず、英雄への憧れも強い。加えて、彼らは強力なモビ
ルスーツで武装している。状況判断さえ誤らなければあらゆる既存兵器に対し優位に立つ
事が出来るジンは、何よりザフト兵達を勇気付けていた。
 しかし、若さによる欠点を補う事は出来ない。常に有利な状況で勢いに乗って戦う彼ら
は、その突進力が殺された時、自分達のペースを崩された時の対処に不慣れだった。
 致命的な程に。

 

「……あれ?」

 

 まだ少年と言って良い緑服の兵士が、欠伸交じりに声を発する。雪で覆われた崖を何か
が滑り落ち、途中で光った。崩れた雪がサーチライトで照らされるのは良くある事だった。

 

「どうした?」
「いや、何でもない……腹減ったなあ」
「この辺りは取り尽くしたからな」

 

 同僚の言葉に首を振って、少年はぼやいた。ザフトでは常に食料不足である。プラント
での食料生産は未だ試行錯誤の段階であり、糧秣の補給ペースは心もとないの一言に尽き
ないので、現地調達が主である。エネルギー危機によってゴーストタウンと化した沢山の
街に出向いて、無人の店舗からかき集めてくるのだ。
 急過ぎる地球進出の代償なのだが、あらゆる意味で余力のないプラントは他に手が無い。
自分達が戦略的に不利である事を隠す為、プラントでは一般的に自然食材が出回っている。
その不均衡を脱する為、ザフトは更に突き進み、略奪を繰り返さねばならなくなっていた。

 

「食べてみたいよね、海鮮ジョンゴルとかいうの」
「ほんとにな……っ?」

 

 崖下のあちこちが白く光る。放物線を描く沢山の花火に似たそれらは、全て基地を目指
していた。双眼鏡で確認する。光る何かから放たれた物体が風切り音を上げ、サーチライ
トを取り付けた監視塔を破壊した。

 

「パワードスーツ!?……数が多すぎる!」

 

 崖からの降下という侵入コースを予想したザフト兵がいなかったわけではない。しかし、
数で押すしか能の無い連合軍という強烈過ぎるイメージが、彼らの判断を鈍らせた。
 自分達コーディネイターはナチュラルと比べて圧倒的に優れているというザフトでの
教育は、実戦経験に乏しい兵士に恐るべき偏見を植え付けていた。
 自分達は常に先手を取る。ナチュラルは後手に回るしかない。つまり、自分達が想像し
ない、あるいは準備していない行動は敵も思いつけない、と。

 

「30機以上いる!聞こえるか!こちら南側!全員、ボディアーマーを着るんだ!」
「嘘だ……ナチュラルにあんな動き、出来るわけが無い!」

 

 ライトを破壊され、パワードスーツ背部のジェットパックから噴射炎が消えると、周囲
を闇が閉ざす。しばし静寂が戻り、豆を煎るような連続した銃声が沈黙を破る。あちこち
でマズルフラッシュが走っては直ぐに消え、悲鳴が風に乗って流れてきた。
 フルアーマー型のパワードスーツは、悲鳴や苦痛の声を漏らさない。通信機に怒鳴って
いた少年が、窓に拳を叩き付ける。

 

「ナチュラルの癖に……!パイロットはジンに乗り込め!踏み潰してや」

 

 彼らの背後でガラスが割れた。振り返った2人の少年の前で、バックパックにレーダー
を増設したパワードスーツ兵が手にした重火器を室内に突っ込む。
 銃声と発射光が狭い監視塔のトップブロックに跳ね回り、反対側の窓が砕け散った。

 

「…………」

 

 眉一つ動かさない褐色肌の女性は、銃撃を外したコンソールに歩み寄る。右手のグロー
ブが上部に持ち上がり、細い指先でキーを叩く。背部の羽状アンテナが電子音と共に動き、
4対のユニットがX字を形作る。壁の時計が、午前3時を刻んでいた。

 

「基地内部の情報を確認したわ。……配備されているMSは6機で、全てジンよ」
『こちらパック1。基地食堂から宿舎まで捜索し、ザフト兵を無力化している』

 

 シングルファイアの音が、通信に紛れ込んでくる。抵抗を受けていない事が推測された。

 

『現在、36人目。そちらで兵士の総数を確かめてくれ』
『パック2だ。2機のジンは騒動に気付いているものの、踏み込む気は無いらしい』
「やはりね。彼らが思い切る前に、片付けましょう。パック3?」

 

 グローブを戻し、彼女は足早に歩み去る。物言わぬ歳若い身体を踏みつけてドアを開け
た。膝を折って中空に飛び出す。

 

『天井を破って格納庫に侵入した。4機のジンがある……数が合うな』

 

 先程口論していた男の声に、落下する彼女が頷く。直後、ジンから放たれた重突撃銃
による斉射が塔を半ばから撃ち砕いた。辺りが一瞬、昼間のように明るくなってスーツに
影が落ちた。最小限のジェット噴射で雪が積もる地面に降り立ち、走り出す。直ぐ真上で
76ミリ弾が跳ね回り、塔の残骸が降り注いだ。

 

「速やかに確保して」
『ジンが動いている。1機取られたぞ』
「解った」

 

 コクピットハッチ脇の整備点検孔からハッキングツールを抜き取り、男が頷いた。

 
 

 開いたコクピットに飛び込み、ハッチを閉めて事前の訓練通りメインモニターを点灯さ
せた。OSのアイコンが表示され、それが消えると格納庫の天井が映し出される。

 

『システムのハックに何秒かかる?ジンは身体を起こしているが』
「もう終わった。何時でも動く」

 

 ピンク色のモノアイを輝かせ、メンテナンスベッドから上体を起こすジン。それを見上
げつつ、通路に向けて小銃弾を叩き込むパワードスーツ兵の1人が、クレーンの根元に
身を隠した。

 

『何だと?』
「ジンには何のプロテクトもかかっていなかった。ナチュラルにはろくに動かせないから、
なのか解らないが、乗っ取られるとか基地内部で反乱が起こるとか、そういう考えは無か
ったらしい……よし、いけるぞ」

 

 キーを叩いて各ステータスをチェックする男。カメラを調整し、既に膝を折り曲げて直
立しつつあるジンを見遣った。システムは掌握したが、起動時間に変化は無い。

 

「クレーンの……そう、そこだ。クレーンに隠れていろ」
『どうするつもりだ?』
「スラスターを噴かす」

 

 操縦桿を右に捻り、男はペダルを踏み込んだ。ベッドから立ち上がりかけていたジンが、
その両肩のノズルから青白い炎を吐き出す。格納庫内に焼け付く熱風が吹き荒れ、破った
天井の穴へ殺到して屋根を剥ぎ取った。立ち上がり、重突撃銃を構えかけたジンへと飛び
かかった。機体全身でぶつかり、壁を破壊しつつ突き倒す。

 

『モビルスーツとは……』

 

スラスターで機体を下方に押し付け、男のジンは敵機に対し馬乗りになる。左手を伸ば
して右肩を押し付け、突撃銃の狙いをつけさせない。何時の間に入手したのか、右手に握
られた重斬刀が鈍い光を放った。逆手に構え直す。広域通信に乗った男の声が、組み敷か
れたジンに乗るザフト兵にも届いた。

 

『こう使うのだろう?』

 

 コクピットハッチの継ぎ目に、切っ先が突き下ろされる。大きく凹んだ所に2度目の
刺突を見舞い、胸部ハッチを突き破られた機体が1度痙攣した。
 ジンに乗るザフト兵が、光が消えた基地を見て震える声を絞り出す。

 

「こんな事が起きるなんて……」

 

 何も出来なかった。ザフト兵の主な地上任務は、防衛態勢の整っていない施設に突撃し
て手当たり次第に破壊する事だ。気付いた時には基地内部に踏み込まれ、建物の奥に入ら
れて思う様に蹂躙された事など無かったし、そういう報告も聞いた事が無かった。
 格納庫の扉が開き、ジンが1機現れた。左手に500ミリ無反動砲を、右手に76ミリ重
突撃銃を構えている。思わず安堵の吐息が漏れた。
 ナチュラルはMSを使えない。つまり、あれは地球連合軍ではない。そしてジンに乗れ
たのならば、もう大丈夫だ。MSがあれば、連合軍は数が多いだけの烏合の衆である。こ
の偏見は、多くのザフト兵を蝕む事となった。

 

「良かった……ジンに乗り込めたんだな!おい、こっちだ!」

 

 同じく何もできなかったもう1機に声をかけ、格納庫から出てきた機体へジンを近づける。
モノアイをぼんやりと輝かせたままの機体から、答えが返ってこない。

 

「みんなは!?基地の皆はどれくらい……生き残ったんだ!?」
『2人だ』

 

 年月と苦悩と憎悪が刻まれた声に、少年の言葉が止まる。炸薬の光が吐き出され、歩み
寄ろうとしていたジンの胴部が爆発した。両腕が雪に落ち、モノアイが砕けた頭部が緩や
かな放物線を描いて基地の外壁にぶつかり、転がる。

 

『今、1人になったな』
「う、ぁ……」

 

 焼け焦げた僚機の下半身が膝を突いて崩れ落ちる。砲口から煙を上げる無反動砲を構え、
ジンのモノアイが光を強めた。

 

「あああぁっ!!」

 

 怒りと恐怖と共に、最年少でジンのパイロットに選ばれた少年は叫び、引き金を引き絞
る。青白い輝きと共に、敵機の姿がモニターから掻き消えた。撃ちながら、其方に銃口を
向ける。機体に衝撃が走った。上空に飛び上がった機体が突撃銃を連射し、右肩の装甲と
左脚の膝を砕く。転倒する機体に、地上に降りたジンは尚も機銃弾を撃ち込んだ。
 連続して上がるマズルフラッシュがジンの頭部を照らし出し、焼けた空薬莢が雪に落ち
て水蒸気を上げる。吹雪は何時しか止み、もはや人型を留めていない残骸に銃を向ける
MSの姿を、月の光が照らし出していた。

 
 

 後日、連合軍広報は東欧のあるエリアにおける作戦結果について、大規模な爆撃機部隊
を編成し、ローラーシフト作戦によってザフト基地を完膚無きまでに叩き潰した事で、152
道路を奪還し、生活物資の輸送力を少なからず回復させたと発表した。
 東欧に進出して基地を築いた事自体、一部の白服による独断専行だったザフトとしては、
事態を全く把握していなかった為、連合軍の報告に追従する形で発表を行い、10機編成の
大型爆撃機のうち7機を撃ち落とし、連合軍の勝利が卑劣な不意打ちによるものだった事、
彼らが相変わらず物量に頼った愚かな作戦しか立てられない事を改めてプラント市民に向
け強調。その上で、未だ量産態勢が整っていなかった空戦用新型MS『ディン』の増産が
必要であると訴え、生産計画の全面見直し―つまり増税―を宣言した。
 なお、この戦闘において3機のジンが連合軍に鹵獲された事は、両陣営とも公表してい
ない。パワードスーツに乗った連合軍所属のコーディネイター兵士の噂を記者が持ち出す
と、連合軍の広報担当は失笑して発言原稿が書かれたファイルを閉じたという。