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Fortune×Destiny_第02話

Last-modified: 2007-12-04 (火) 09:28:43

2 明日への一歩

 

3人は地下水路を脱出し、カイルとロニが育った孤児院があるクレスタに向かっていた。
クレスタは3人が閉じ込められていたダリルシェイドの東にある。
しかも、真っ直ぐ東ならば話は早いのだが、南東にある山を回っていかねばならない。
真っ直ぐ向かおうとすると崩れやすい崖の縁を歩いていかねばならないのだ。
「あー、じれったい! 真っ直ぐ進めない上に結構離れてるなんて、どれだけ時間がかかるんだ!」
「嘆いても距離は縮まないんだ。急いで帰らないとな。」
ロニの言は正しい。
この世界の地理など全くわからないのだから、急いでついて行くしかない。
「カイル。クレスタってどんなところだ?」
「はっきり言って田舎だよ。でも、俺はあそこが好きなんだ。のどかだしさ。」
「田舎かあ。都市で暮らしてたから、逆に憧れるかもな。」
「結構生活は苦しいんだぜ? 金がないから孤児院の修理もできないからさ。だから俺たちはラグナ遺跡ってところにある巨大レンズを取りに行ったんだけど……。」
カイルの後を受け、ロニが続ける。
「ところがそのレンズから英雄を探してる女の子が出てきてな。その後レンズ泥棒として捕まってたってわけだ。カイルといると退屈しねえよ、全く。」
話の筋から、どうやらその女の子が出てきたときにレンズは壊れたらしい。
その後事情を知らない者に捕らわれた、ということだろう。
「ああー、ロニ酷いじゃないか。全部俺が悪いみたいな言い方して。」
「違うのか? そもそも一緒に行くって言ったのはお前の方だぜ?」
「むぅぅぅ……。」
空気が悪くなりそうだと判断したシンは、無理やり誤魔化すことにした。
これくらいしかできない。
「とにかく、孤児院に帰らなきゃならないんだろ? 急ごう。」

 
 

彼らがクレスタに到着した時には23時を過ぎていた。
シンは孤児院に行こうと2人に誘われた。
が、ただでさえ事態が紛糾しているのだから部外者がいるとこじれるから、と断った。
孤児院についていくつもりだったが、カイルの家庭事情を乱すくらいなら風邪を引いた方がマシだ。
この世界の金銭は持っていないのだから野宿しかない。
カイルを待つ孤児院の主が、彼を待つためにまだ孤児院の明かりを灯したままだ。
余程心配しているのだろう、とシンは思った。
とりあえず孤児院の入り口が橋なので、その袂で寝ることにした。
これなら万が一雨が降ってもやり過ごせる。実際、雲行きは怪しい。
尤も、本当に雨が降ってきて増水したらまずい。
近くの海まで押し流されてしまう。
とはいえ、自分で決めたことだ。文句は言えない。
シンは「デュナミス孤児院 院長 スタン・エルロン ルーティ・カトレット」と書かれた、
やや老朽化した木製の看板を眺めながら橋の下に潜り込んだ。
「これでよし、と。カイルに雷でも落ちるのかな。」
程なく、孤児院の方向から凄まじい怒鳴り声が聞こえる。
「カイル! 今何時だと思ってるの! あんたに冒険なんてまだ早いって言ったじゃない!」
今の声の主は院長の一人、ルーティ・カトレットなる人物のものだろう。
あの反応は本物の親子そのものだ。
いや、本当に親子なのかも知れない、とシンは思う。
「いい親子だな……。仮に本当の親子でないにしても……。」
実際にはカイルとルーティは血の繋がった親子なのだが、また彼はそれを知らない。
「今日はいい夢を見られるかな……。」
できれば過去の夢がいい。
それも、家族がいたあの頃の夢が。
彼は目を閉じ、意識を沈めていく。
「……もう、カイルって酷いのよ……。」
遠のいていく意識の中で、シンはルーティの声を聞いている気がした。
どうやら外に出ての独り言のようだ。
「……あ、今笑ったでしょ? …………はできてるつもり。………………あの子が……私は……。」
その言い方は、まるで死者への言葉のように聞こえる。
そこまで考えたところで意識は夢の世界へと沈んでいった。

 
 

シンは座り込んでいた。目の前には宙に浮かぶ人影がある。
顔立ちがはっきりわからない。
「……ン・アスカ……お前を……いに呼んだのは……のためです。」
朦朧とする意識の中、彼は辺りを見回しながら返事をする。
「何故……らんだ? 俺に……なことができるわけが……。」
どうやらどこかの神殿らしい。
ひんやりと落ち着いた空気や、今いる部屋の雰囲気からの想像だが。
「おま……んだのは、その……さを生かしてほ……です。お前が何を……でいたのか、どうすれば人は……のか。よく知っているはずです。」
無茶を言う、と感じた。
会話の内容を把握できない割に、どこかでわかっているらしい。
「俺……んなことについて詳し……けじゃないんだぞ。……なことになら……まっている。」
その人物はあくまで優しく語りかけてくる。
人の望みを掻き立てるように。
「いいえ、そ……とはありません。お前に……レ……や……ラ……うようの奇…………を与えます。このちか……かって……とを……に導くのです!」
シンの体が光に包まれ、浮いた。
そして、強い衝撃と共に脳天から真っ逆さまに落ちていく感覚がした。

 
 

「はっ……ゆ……夢?」
そこでシンは目が覚めた。夢の内容が思い出せない。
霞みがかった意識の中で頭を振り、周囲を見渡す。
クレスタでは雨が降らなかったらしい。川が増水した形跡もない。
大雨が降って増水していれば命がなかった。危ういところだ。
まあ、昨日の雲行きから考えればそこまでにはならないだろうが。
ダリルシェイドで同じことをしていれば間違いなく死んでいる。
かはたれ時の冷たい空気を頬に受けて、睡眠の世界から現実世界へと意識が戻ってきた。
現実と言ってもかなりふざけた世界だ。何しろ剣と魔法の世界なのだから。
「悩んでいても仕方がない。自分に何かできるか考えないと。せめて剣くらいはなあ……。」
晶術を使えることがわかったとはいえ、接近戦の時に使える武器がナイフだけというのは心許ない。
リーチが短い分剣や槍を使う相手に対して、思い切り間合いを詰めさえすればそれですむ。
だが、モンスター相手にはそれなりの刃渡りと重量が必要だ。
しかも、シンの勝気な体質がカイルやロニの陰に隠れて晶術を放つ、などという真似を許さなかった。
「このままだと本当にお荷物になる。それだけは避けないとな。はあ、『力を寄越せ!』とかで剣が手に入ったらいいんだけどな。」
冗談のつもりだった。
だが、その言葉に反応するかのように左手首に巻かれたブレスレットの結晶が光り、いつの間にかサーベル二振りが両腰に吊るされていた。
「……へ?」
わけがわからない。
ついでだからとあることを念じてみた。
できそうにないことの代表格、「浮け」と。
シンの体が浮いた。橋の陰から飛び出し、クレスタを出た。勿論浮いたままで。
「俺の望みに反応するのか、この結晶……。もしかして!」
帰れるかも知れない。よし、と彼は「元の世界に俺を戻らせてくれ!」と念じてみた。
だが、反応はない。
「うーん、情けない。比較的小さな望みを叶えられるだけか……。」
ふと結晶に目をやると、文字が浮かんでいた。

 
 

ZGMF−X56S/α

 
 

この記号の配列には見覚えがある。
かつての愛機、インパルスの型番だ。
「……何でこんなのが浮かんでるんだ? ……待てよ、飛行能力、それにサーベル……インパルスの能力を俺自体が再現しているのか?」
彼は思い返してみた。
確か「力を寄越せ」と願ったはずだ。
つまり、これは自分が一番わかりやすい力の形態がこのインパルスの能力だったのだろう。
ある意味当然かもしれない。
シンが家族を失い、ザフトに入り、パイロットとして戦うために与えられた機体がインパルスだったのだから。
しかも、型番からわかるように、これはフォース形態なのだから、最低でもソードとブラストの2形態は残っているはずだ。
着地して試してみたが、どうも今はこの形態しか取れないらしい。
「今は、フォースだけということなんだな。これから残りも使えるようになるといいんだけどな。」
この世界ではおそらく、法が自分の身を守ってはくれまい。
まともな法が存在するなら、まず戸籍登録から国民を把握し、人権を保障するはずである。
だが、彼はいきなりこの世界に放り出されたのだ。
戸籍が存在しない上に、そもそもこの世界の人間の定義に当てはまるかわからない。
何しろシンはコーディネイターなのだから。
晶術が使える人間よりも余程化け物だ。
遺伝子のコントロールで普通の人間よりも不自然な能力を持っている。
レンズを埋め込んだ負傷兵から生まれる、ゾンビなどと同じ扱いをされるかもしれない。
人権がないというのはあまりに危険なことだ。
問答無用で殺されても文句を言えない。人権がなければ物になる。物を壊しても殺人にはならない。
自分を殺した相手が、器物破損の罪に問われるかどうかすら怪しい。
彼は誰かの所有物ではないのだ。
法がないほうがマシだといいたいところだが、そうでもない。
今度は治安の悪さから、自分の人権があったとしても助けてもらえない。
要するに、法律の観点から言えばシンは物扱いになるかもしれないし、その辺りが整備されていないと治安が極端に悪くなる。
どちらにしてもいい方向には向かない。
誰も守ってくれないなら自分で身を守るしかない。
故に、単純な力を必要とした。
「力を与えてくれる結晶か。まあ、いろいろと試してみるか。まだカイルが出てくる様子はないし。」
クレスタ周辺のモンスター相手に戦闘だ。
自分に何ができるかくらいは把握しておく必要がある。
左手の剣を投擲して影を刺し、身動きを封じて右手の剣で斬る「鏡影剣」。
離れた位置から突きを繰り出し、風の槍を発生させる「穿風牙」。
地面を突き刺して岩の槍を足元から出現させる「地竜閃」。
大きく振りかぶって斬撃と共に炎を放つ「火炎斬」。
両手の剣を交互に突きを放ち、計6回相手を刺す「六連衝」。
今のところ、これだけ使えるらしい。
他にも晶術を試してみるとフレイムドライブ、ウィンドスラッシュ、ストーンザッパーが使えた。
「ということは、俺の4つの属性は闇、火、風、地か。バランスがいいんだか悪いんだか。まあ、ぼやいても仕方ないけど。」
そろそろシンの感覚では7時を回った頃だ。
カイルが孤児院から出てきてもおかしくない時間である。
クレスタの孤児院前に架かる橋を渡ると、シンはカイルとロニに会った。
今話が終わって出てきたところらしい。
「昨日は怒られていたみたいだけど、大丈夫だったか?」
「ああ、大丈夫。母さん俺のこと心配してたみたいだけど、でも今日になって許してくれたよ。それに、お金まで。」
カイルは皮袋を取り出して振って見せた。
シンは許可を得て受け取ると、それはずっしりと重たい。
「俺たち、ルーティさんにばれないように金をためて孤児院に『寄付』してたんだが……カイルの癖字でばれちまってな。」
「しかも、母さんに渡した分より多く戻ってきたし……。」
シンは思う。あの怒鳴り声から、本当はカイルを冒険の旅には出したくなかったはずだ。
だが、それでも承知したのはカイルの並々ならぬ思いがあったからだろう。
英雄になる。英雄を探す少女に自分を認めさせる。
その一途な思いがルーティを折れさせたのだろう。孤児院という特殊な環境で育ったが故の責任能力、そして強い意志。
確かにこれだけなら英雄として相応しいかもしれない。ただし。
「さあ、あの女の子を追いかけよう! 俺が英雄になるために!」
シンは大きく溜息をついた。
「これさえなければなあ……。」
英雄になるための一歩を踏み出したカイル。
それを見守ることを自らに誓うロニ。
自分の世界に戻るという目的を持つシン。
それぞれの目的を持ち、三人はクレスタを旅立つ。
長く遠い旅路の始まりだった。

 
 
 
 

TIPS

 
 

鏡影剣:キョウエイケン 闇
穿風牙:センプウガ 風
地竜閃:チリュウセン 地
火炎斬:カエンザン 火
六連衝:リクレンショウ 武器依存