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Fortune×Destiny_第11話

Last-modified: 2007-12-04 (火) 09:50:34

11 寒い道

 

アルジャーノン号も無事修理が終わり、一行はスノーフリアに向かう船の上にいた。
シンは笑いを噛み殺していた。ノイシュタットの商人の無念そうな顔を思い出したからだ。
見つけ出した宝が石ころだと知り、他に何もなかったかと自分達に問う商人の必死さ、そして、報酬のガルドを渡すあの残念そうな顔が滑稽でたまらなかった。
欲ボケをした罰だとシンは思った。イレーヌのことは伏せておいた。
あれはあの手の汚い商人に見せるべきものではない。
ノイシュタットの住民に見せるべきものである。
勿論、鉱石の用途も伏せた。本当に精錬法を見つけ出されてはまずい。
とはいえ、金に汚いだけの商人にそんなことが出来るとは思わないが。
「これでよし、と。スノーフリアは寒いって話だから、コートが必要だな。
俺はともかく、へそ出しルックのカイルとロニ、それに薄着のリアラは……。」
シンの着込んでいる軍服は耐熱性も断熱性もある。
とはいえ、氷点下まで冷え込むだろう寒冷地の夜は耐えられまい。
まずはスノーフリアに着いたら衣料店に向かい、それぞれに見合った防寒具を買い込もう。
シンはそう思った。金銭の心配はない。
何しろあの商人から巻き上げた分で賄えそうだからだ。
「……イレーヌのこともオベロン社のことももう18年も前の話だ。やけに詳しいから、ちょっと気になっただけで……。」
ロニの声だ。またトラブルらしい。
「だから僕のことが信用できない、と? 遠まわしな表現はやめたらどうだ。」
「あのなあ、ジューダス。しまいにゃ怒るぞ。単に歳の話をしてただけなのに、どうしてそういう信用するとかしないとかの話になるんだよ。」
そこに慌ててカイルが割り込んだ。
「待って待って。ロニはジューダスの歳が知りたいんだよね? んで、ジューダスは言いたくないんでしょ。だったらこの話はおしまい!」
「だが、そう言うわけにもいかないようだ。そこに隠れているのも、どうやら僕に聞きたいことがあるらしいからな。」
柱の陰から姿を現したのはリアラだった。
リアラもジューダスに何か言いたいらしい。この状況で出て行くのはまずい。
このまま状況を見ておくことにした。
「……どうして……。」
「どうして私の力について知っているのか、だろう。リアラ、お前が何者かを明かすことが出来るのなら僕も理由を言おう。どうだ?」
それは聞きたいところだが、リアラは黙ってしまった。
それほど黙っていたいものなのだろう、とシンは思う。誰にでも隠したい部分はあるからだ。
「僕のことが信用できないのならスノーフリアで別れる。荷物をまとめておく。」
ジューダスはカイルたちのいる甲板から船内に入ったが、扉の陰に隠れたシンの目の前で立ち止まった。
「お前は僕に自分の力について聞かなかったな? 僕がそれなりに知っているような素振りを見せたというのに。」
「自分で何とか調べてみるつもりだからな。それに、あの程度のことで別れるとか、ちょっと言い過ぎだぞジューダス。」
シンの目は真剣だ。赤い瞳の色合いが濃くなっており、彼の感情がはっきりと浮き出る。
「ジューダスは確かに不審人物にしか見えないさ。隠しておきたいところもある。
 けど、あの地下牢だの大神殿だの散々助けてくれたし、本当に危害を加える気なら霧の中で始末してもよかった。」
「……。」
「それだけじゃない。俺たちははっきり言って隙だらけだった。
 でも、何の危害も加えないし、むしろアドバイスもくれる。剣の修行だってそうさ。
 俺はジューダスを信用してる。」
「何の正体も明かそうとしない僕をか?」
「あのさ、ジューダス。ジューダスは相手の秘密を全部知ったらその人を好きになるの?」
ジューダスを追ってきたカイルが言った。ジューダスはいきなり言われたことに驚いたのもあるが、この質問には答えられないらしい。
「それは……。」
「俺、ジューダスのこと好きだよ。秘密があるとことか、そういうのをふくめて全部好きなんだ。だから、一緒に旅を続けようよ。」
「カイルの言うとおりだと思う。秘密なんて防寒具着込んでるのと同じさ。外が寒いのなら、自分が寒く感じるなら着込んでおけばいいんだ。無理に脱いだら凍えてしまう。無理強いしてもいいことないしな。」
先程考えていた防寒具を引き合いに出してみた。
何やら誰かの二番煎じの気もしたが、まあ、それはいいだろう。
「……。」
「防寒具は脱ぐ気が起きたら脱げばいい。秘密は見せる気があるなら見せればいい。それだけさ、ジューダス。」
シンとカイルはロニとリアラのいる甲板に向かった。ジューダスは呟く。
「あの時とは違うと思っていた。だが、今も同じことを繰り返している……。
 それでも、それでもだ、僕はやり遂げなくてはならない。
 知られぬままに……気付かれることなく……。」
ジューダスは怯えていた。決してカイルたちには見せない怯えだ。
仮面を被っているのもそうだが、その態度も内面を押し隠す「道具」である。
彼は知っていた。カイルたちが自分を大切な仲間だと思っていることを。
だが、ジューダスはその「仲間」で苦い経験をしている。
再び過去のようになりはしないか、その苦い過去が浮きではしないか。
ジューダスにとって、この旅は償いなのだ。
かつて、自らのエゴで裏切った友への贖罪。傷つけてしまった血を分けた存在への贖罪。
ジューダスは背中からする「声」を聞き、返事を返す。誰にも聞けない声だ。小声での返事だ。
「わかっている。僕はあいつらの面倒を見なければならない。それが僕の仕事だ。」
彼は全ての感情を心の奥底に押し隠し、甲板に向かった。

 
 

「さてとこれからどうするか……。」
ロニが今後のことについて考える。
ジューダスには悪いことをしたと思うが、くよくよしていても始まらない。そんな口調だった。
「そろそろスノーフリア港に着く。荷物をまとめる準備をしろ。」
ジューダスだった。いつも通りの口調である。
「ジューダス……。あ、さっきはすまなかったな……。」
「いや、ロニ。僕の方こそ大人気なかった。」
「な、なんだよいきなり。らしくねえな。」
「実年齢はともかく、精神年齢はお前より僕の方が上だ。その僕としたことがうっかりしていた。」
最初は感激していたロニも、段々と元のロニに戻りつつあった。
「ジューダス……てめえ……!」
「あはっ、あはははははははは……。」
「うふっ……あはははははははは……。」
「あははは、ははははははははは……。」
カイル、リアラ、シンが笑い出したので、ロニは矛先を三人に向けた。
「こら、お前らも笑うな!」
シンは笑いながら思った。
これでいい。これがいつも通りなのだと。

 
 

スノーフリア港からスノーフリアの街に入った5人は、まず衣料品店に向かった。
防寒具の購入だ。ジューダスはいらないと言ったので、4人がそれぞれに選び、着込んだ。
一撃で商人から受け取った報酬が吹き飛び、さらにアルバイトで稼いだお金も少し削られたが、凍死するよりはマシだ。
寒いと震えていたカイルとロニ、そしてリアラは防寒具を身につけた途端に元気になった。
「うわー、雪だぁ。一面真っ白だあ。ねえ、雪合戦しようよ。」
スノーフリアの外に出たカイルは大はしゃぎだ。
一面に降り積もった雪など目にした事がないのだろう。
「そいつぁいいなあ。……ほれ!」
ロニものりのりだ。カイルがスタートの合図をかける前に雪玉をカイルにぶつけた。
「うわっ、ロニ、後ろからなんてひどいじゃないか! えいっ!」
カイルがロニを狙って投げた雪玉が、ロニが避けたことでリアラにぶつかった。
「きゃっ、ひっどーい、カイル!」
「あ、ごめんリアラ。でも今のはロニが……っぷぇ!」
「へっへーん。おかえしですよーだ。」
リアラも負けじとカイルに雪玉を投げつけた。
ルールも何もない、仁義なき雪玉の応酬だ。
「俺もやるか。赤道付近で暮らしてたから、天然の雪は馴染みがないんだよなぁ。」
シンも少し童心に返ったつもりで、この仁義なき戦いに乱入した。
「うお、シンか! お前もなかなか好きなんだな、うりゃ!」
「当たらなければ、ってね。それ!」
「うわ、いきなり俺? 負けるか!」
「私も負けないわよ。それっ!」
「あてっ、リアラに当てられたか。まだまだ!」
その様子を眺めていたジューダスは呆れているようだ。
普段ならジューダスと共に突っ込みに回るシンが、一緒になってふざけているからだ。
「僕はやらないぞ。そんな子供じみた遊びはとっくに卒業し……。」
流れ弾がジューダスの仮面に当たった。それでもジューダスはクールに決めようとする。
「フッ……聞こえなかったらしいな。僕は……誰だ、今石を入れたものを投げたのは!」
さすがに怒ったらしい。ジューダスは背に隠した剣を抜き払った。
「わー、ジューダスが剣を抜いた! 逃げろ!」
「貴様らそこになおれ!」
4人は慌てて逃げ出した。シンはさすがにまずいと思った。
フォース形態をとり、カイルとリアラを抱えて飛んで逃げた。
「あ、こら、お前らずるいぞ!」
ロニが雪に足を取られながら逃げたが、ジューダスにあっさり捕まった。
足を払われ、肩を踏まれたのだ。
「ストーンザッパー!」
ジューダスが放った石飛礫がシンを襲った。
シンの脳天に炸裂し、シンはふらつきながら雪が積もった地面に倒れ、やはり3人まとめてジューダスに捕まった。
「お前達……。いいか。勝手にふざけるのは結構だ。
 だが、参加したくもない人間を引き込もうとするのはどういうことか。
 いや、そんな意図がないとしてもだ。周りを巻き込まない方法を考えないのか。」
ジューダスは4人を雪の上に正座させてお説教だ。
このメンバーの中で二番目に若い彼が説教をする姿は、何ともシュールな限りである。
「特にシン! お前は普段そこの馬鹿どもを止める立場の人間だろう。お前までふざけていてどうする。」
彼にとってシンは突っ込み仲間のようなものだ。だからこその説教なのだろう。
4人は足が冷たいのと痛いのとで、反省せざるを得なかった。
1時間ほど続いた説教も終わり、一行はハイデルベルグに向けて再出発だ。
雪が降り出した。
スノーフリアに到着したのは早朝のことだから、今のペースを維持できればハイデルベルグには夕方に着くだろう。
「ハイデルベルグってどんなところだろう?」
「英雄王ウッドロウが治めるファンダリアの首都だ。アイグレッテの次に発展している街で、18年前の騒乱から早い段階で立ち直ったところだ。」
シンの問いにジューダスが即答する。どこか憮然とした口調だ。
「こんな気候なのに、よく立ち直れたよな。」
「こんな気候だからだ。早い段階で立ち直れなければ凍死するのは自分だ。
 それに、この地方の人間は雪に慣れている。
 お前達のように無意味にはしゃぐこともなければ、寒いからと引き篭もることもない。」
「……まだ怒ってる?」
「当たり前だ。」
そんな一行の前にモンスターが立ち塞がった。スノウだ。5体いる。
スノウは所謂雪霊で、凍てつく風を巻き起こし、通行人を凍死させる。
「来たか!」
シンはフォース形態をとった。滑りやすい地面を踏みしめるソード形態ではまずい。
「でやああああ!」
飛翔力に任せてスノウに切りかかった。
だが、スノウは小柄なモンスターだ。簡単に攻撃は当たらない。
「くっ、火炎斬! 炎衝対閃! 飛天千裂破!」
フォース形態には似つかわしくない力任せの戦法だ。スノウに攻撃を避けられ、コールドブレスを受けた。
防寒具を通して冷気が体を冷やす。
「うっ……。」
「シン! 何をしている! その形態は支援攻撃のためのものだろう、自分で忘れてどうする。」
どうかしている。ここ最近は戦闘に突入すると自分を抑えられなくなっている。
まるで、あのバルバトスのように。
「……いや、俺はああなりはしない。俺はあいつのようには!」
彼は着地し、ソード形態をとった。スノウ相手には火による攻撃が一番だ。
双炎輪と双輪還元を使い、まず一体のスノウを仕留めた。
その間にカイルも別のスノウと戦っている。
「はっ、てっ、てっ! 閃光衝!」
カイルは身長が低いため、小柄なスノウに対しても攻撃できる。
本人は小柄であることを悩んでいるようだが、十分な敏捷性と力を持っているのなら小柄な方が有利なのだ。
故に、閃光衝のような突き上げ技もスノウに当てることが出来るのだ。ある意味でこれは才能である。
「カイル! 援護する! 穿風牙!」
シンのクレイモアが風の槍を生み出した。スノウは巻き込まれて仰け反る。
さらにカイルは追撃の爆炎剣を叩き込んでスノウを撃破する。
「まだまだあ!」
シンは再びフォース形態をとった。
スノウのいる箇所目掛けて飛んでいき、ソード形態に入れ替えた。
「でやああああ!」
落下する勢いそのままにスノウに斬撃を与えたが、着地に失敗して、その場に倒れてしまった。
スノウはそれを狙ってコールドブレスを吹きかける。
「ちいっ!」
だが、シンはフォース形態に入れ替え、コールドブレスを避けた。
上空に舞い上がったシンは晶術の詠唱に取り掛かる。さらにジューダスがシンが攻撃していたスノウに間合いを詰める。
「はっ、はっ、はっ! 月閃光!」
光を放つ斬り上げと共にスノウをジューダスは仕留めた。素早いの一言だ。
「フレイムドライブ!」
シンはジューダスが仕留めることくらい予測していた。
だから、このフレイムドライブはリアラを狙ったスノウへの攻撃だった。
「ありがとう、シン! バーンストライク! ヴォルカニックレイ!」
多数の火炎弾と吹き上がる火炎によって、リアラはスノウを仕留めた。
「お、やべえ、俺全然仕留められてねえ!」
ロニが慌てた。大柄な彼はスノウのような小柄なモンスター相手は苦手なのだ。
こればかりはどうしようもないだろう。
「ええい、爆灰鐘!」
地面を打ち砕きながらスノウを叩きのめしにかかるが、なかなか当たらない。
ロニは最近使えるようになった奥義を使った。
「空破特攻弾!」
ハルバードを両手で持ちながら回転してスノウに向かう。
この攻撃に巻き込まれればただではすまない。このスノウもついに斃れた。

 
 

「すっかり足止めを食っちまった。こりゃ、ハイデルベルグに到着するのが遅れるな。」
到着予定は19時以降になるだろう。
スノーフリアとハイデルベルグを繋ぐ街道は整備されているが、雪が本格的に降ってきたら埋もれてしまう。
5人は足早に歩いた。何度かモンスターの襲撃を受けたが、その度に迎撃して退けた。
「このままこんなところで夜を明かすのはごめんだぜ? いくら防寒具を身につけていても死ぬって、この気温。」
「俺のフレイムドライブで暖を取ってみる?」
シンの冗談めかした発言に、ロニは苦笑しながら応えた。
「遠慮させてもらうぜ。当たったら痛いじゃすみそうになさそうだ。」
「とにかく急ごうよ。結構寒い……。」
予定時刻より大幅に遅れ、結局到着したのは21時を回っていた。
何とか宿屋を見つけ、そこで休むことにした。
しかし、シンはこの寒いのに出かけるという。
「おいおい、こんなときに何しに行くんだよ。おとなしく寝てようぜ。」
「風邪でも引かれたら迷惑だ。止めておけ。」
ロニとジューダスがそれぞれに止めたが、シンはそれでも出かけるつもりだ。
「ちょっと図書館に。断片的にしか知らないから、この世界のこと。もう少し知っておきたいんだ。」
歴史については特に知らなければいけない要素だ。歴史は過去の人間が積み重ねてきた結果なのだ。
過去があるから現在があり、さらに未来がある。
この世界を知るのに一番適しているのは、やはり歴史である。
正直なところ、シンはあまり得意ではない。だが、知る必要がある。生き延びたいのなら尚更だ。
幸い、図書館はまだ開いていた。
歴史関連の棚から適当に本を選んで借りると、カイルたちが待つ宿に戻った。
「えーと、『天地戦争の謎』『レンズの歴史』『神の眼を巡る騒乱』『ケルヴィン王家の起源』『アタモニ神団に神はなし』……借りすぎたかな。」
ぼやきながらシンは、「神の眼を巡る騒乱」のページをめくった。
その内容はほとんどゲームのシナリオのようなものだった。
いや、神話と言う方が正しいかもしれない。あるいは中世の英雄譚とも。
ただ、彼は気になったページを見つけた。
「ソーディアンマスターは6人いた。そのうちの4人が世間で知られる四英雄だが、残る2人は敵となった。
 一人はヒューゴ・ジルクリスト。もう一人は裏切り者リオン・マグナス。」
「リオン……マグナス?」
この本には落書などなかったが、リオン・マグナスの挿絵だけがやたらと爪の跡がついている。それだけ彼は恨まれているのだろう。
それにしても、この絵で見る限りはリオン・マグナスなる人物は相当な美男子である。黒い髪がさらりと額にかかっており、手にはやや湾曲した剣が握られている。
解説によればこの剣はソーディアン・シャルティエというものらしい。
ソーディアンが如何なるものなのかはこれから調べるとして、シンは少し気になった。
「このシャルティエって剣……どこかで見たような……?」
それも、かなり身近な人物が使っているように感じたが、気のせいだと思った。
この本では、そのシャルティエは使い手であるリオンと共に海の底に沈んだと書いてある。
「せめてこの本くらいは読んでしまわないとな。」
ぱらぱらとページをめくり、順番に読んでいく。シンは全員が寝付いたと思っていた。
だが、実際には違っていた。ジューダスは起きていた。
シンが歴史を知ることに反対はしなかったが、彼は少々不安だったのだ。
そのシンが少しばかり気付きかけたときジューダスは焦ったが、別の方向に気持ちを向けたとき、胸を撫で下ろした。
一方のシンはそんなジューダスの様子など気付かずに読みふけっている。興味深い内容が次々と出てくる。
続きが気になって仕方がないのだが、眠気には勝てないらしい。
「俺も寝よう。明日はこれを読むことだけ考えることにしよう……。」
シンは栞を本に挟みこみ、布団を被った。外では静かに雪が降っている。全ての音を吸い込むように。静かな夜が更けていく。
「ハイデルベルグか……ここもいい街だな。」
静けさが眠気を増幅させ、シンは眠りの淵へと沈んでいく。
深い眠りは夢を覚えさせないというが、今日は夢も見ずに眠れそうだ。
シンはそんなことを考えながら眠りに就いた。

 
 

翌日、一行はハイデルベルグ城に向かうことになった。
ジューダスは「あの甘ったれた男の言葉を聞く気にはなれない。」と言ってどこかへ行ってしまった。
シンも遠慮することにした。借りた本を全て読まなければならないから、と。残る3人は城へと足を向けた。
一般人の3人がどうやって王に会う気なのかはわからないが、ロニはやたら自信があった。
「よからぬことでも企んでるんじゃないだろうな。」
シンはそうぼやいて、図書館に向かい、借りた本を延々読み続けた。
「ケルヴィン王家の起源」はあまりにも伝説的な脚色が濃すぎて読めたものではなかったが、残りは違うらしい。
「天地戦争の謎」ではその戦争がいかなるものなのかを知ることができたし、ベルクラントがいったい何なのかを知ることもできた。
ソーディアンについても知ることができた。兵器6つごときで戦局を覆すなど無茶に等しいが、元の世界の兵器を考えると人のことは言えない。
さらに、「レンズの歴史」でソーディアンの開発記録や現在用いられているレンズの行方、そもそもレンズがいかなるものであり、どこから来たのかも知ることができた。
「なるほど、彗星に含まれていたのか。衝突したために粉塵が舞い上がって……ああ、そうか、それで空中都市群が必要だったのか。」
「アタモニ神団に神はなし」は完全にネタの本だと思っていたが、実はかなりハードな内容だった。
アタモニ神団は本来巨大レンズである神の眼を秘匿する存在として設立されたものだというのだ。
それが1000年かけて宗教として成立したものの、どうやら上層部は神の眼を秘匿する存在であることを知っているらしく、それが18年前の騒乱の起因となったらしい。
宗教が利用されること、さらに宗教が力を持つことの危険性がはっきり書かれた本だった。
「うん、意外と真面目な本だな。ネタで持ってきたけどネタじゃなかったのか。」
本当のことかどうかは知らないが、悪くはない。
正しいかどうかは自分で判断せざるを得ないのだが、この手の本は嘘を書いていないことも結構ある。
「信じるに足りる、かな?」
とりあえずは読めるだけは読んだ。本を返しておかなければならない。
「ええと、この棚のここだったな。それから……。」
すべての本を仕舞い、シンは図書館を出た。
ハイデルベルグ城にいるはずのカイルたちを迎えに行くために黒いコートを羽織り、城の方角に向いた。
「……あれ? カイル?」
城から飛び出してくる小柄な影は間違いなくカイルだった。どこか泣きそうな顔に見える。
「……ちょっと様子を伺うか。ああいうときは俺じゃない方がいい。慰められる人間がいるとすればそれは……。」
彼はフォース形態をとり、民家の屋根を踏みながらカイルを追った。
シンが適任だと思ったその人物がカイルを追っていくの確認しながら。