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Fortune×Destiny_第13話

Last-modified: 2007-12-04 (火) 09:56:27

13 孤軍奮戦

 

シンは外に放り出されていた。冷たい石畳の上に転がっているのを感じる。
「うっ……どうやら転移魔法だったらしいな。にしても……。」
彼は周囲の様子を見ることにした。雪が降り頻る、石造りの町並み。
間違いなくハイデルベルグだ。ただし、何とも言えない違和感がある。
通行人の衣服のデザインが少し違う。それに、住民達の様子もおかしい。
どこか無気力だ。それなりに背筋を伸ばして歩いているのは聖職者の服を着ている人間ばかりだ。
それに、聖職者の数が多いのも気になる。
「妙だな、ハイデルベルグでは聖職者がわんさかいるってことはなかったはずだぞ。」
宗教というものは心の支えとなるものだ。
だが、ハイデルベルグではウッドロウが心の支えだったはずだ。つまり、宗教を必要としない。
「けど、この様子は……。」
何かがおかしい。ふと、城の方角を見てみた。飛行竜の姿はない。
ただそれだけなら撤退したと思うだろうが、鐘を吊るす塔の規模が縮小された上に、崩れた部分が修復されている。
鐘もない、どちらかといえば見張り台のような形状になっている。
「どういうことだ……?」
ハイデルベルグ城に近づいてみると、衛兵がアタモニ神団の兵士だ。ファンダリア兵ではない。
「時間が経っている……と考えるべきだろうか。ここまできたら何でもありだろうしな。」
つまり、あの後制圧され、そのまま時間が経過した世界に放り出されたという意味だ。
念のため歴史の経過を調べることにしよう。シンはそう思った。
「まずは図書館、だな。」
彼は記憶を辿り、図書館へと足を向けた。最新の歴史の情報を洗いざらい探した。
「神……が降臨したのか。そして、その降臨を手伝ったのがエルレイン……ろくなことになりそうにないな。
それに……ウッドロウ王は5年前に亡くなった。10年前の傷が原因……。
 同時にレンズは全て強奪された……。」
考えられる可能性は一つ。
10年後の世界ではないかということだ。レンズを強奪される機会があるとすれば、それは今見たばかりの飛行竜による襲撃だ。
さらに、そのときに負傷もしている。
「しかし、これで住民の無気力の理由がわかった。アイグレッテに行けば神が何でもしてくれるし、残った住民も心の支えだった王家が断絶したからなんだな。」
そして、ハイデルベルグはかつてのアタモニ神団、この時代のフォルトゥナ神団の管理下におかれたらしい。
全ての希望をフォルトゥナ神団に奪われた、絶望の無気力だったのだ。
「無茶苦茶やってる。ウッドロウ王を殺したも同然の癖に、平気で管理下におくなんて占領もいいところだ。」
時代背景はわかった。戻るあてなどまずないが、とにかくカイルたちと合流しなければいけない。
エルレインによってまとめて時空転移させられたのだから、同じ時代にいるはずだ。
ただし、仲間達とタイミングが違ったことを考えると、違う場所にいる可能性が高い。
「とりあえず、情報収集だな。」
道行く人に、
「すみません、金髪のハリネズミと、幼い感じでピンク色のワンピースを着た女の子、色黒で銀髪の長身の男、それに骨の仮面を被った人を見かけませんでしたか?」
と声をかけ続けた。
大抵は無視されたが、最初から数えて57人目にして、やっと有力な情報に出会えた。
「ハリネズミと女の子なら、つい数日前、アイグレッテに行ったときに、チェリクに向かったのを見たよ。随分とテンションの高い男の子だったねえ。」
あの目立ちまくる人間はそういない。カイルとリアラに相違ない。話によれば3人連れだったという。
カイルたちを手伝う人間がこの時代にいるのかと思うと嬉しくなったが、まずは合流だ。
「それじゃ、チェリクに行くか……って考えてみたら俺、金ないんだよな。」
ロニとジューダス、それにカイルに分割したのがまずかった。
どうせなら全員に均等に分けるべきだったのだ。
だが、後悔したところで無駄だ。後悔先に立たず。金銭を手に入れる方法を考えねばならない。
「参ったなあ……。」
この無気力な街では稼げまい。まずはスノーフリアに向かおう。
シンはそう思い、出口へと足を向けた。

 
 

そのシンが細い路地に入ったところで、路地の入り口と出口を塞がれた。塞いでいる連中を見た。
見たところ聖職者の服を着ているが、人相が悪い。明らかに害意を持っている。
「よお、兄ちゃん。ここは俺らの縄張りでなあ。通行料くれや。」
「お金、持ってないんだ。これから働いて稼ごうと思うんだけど。働き口紹介してくれる? まあ、払う気なんかないけど。」
「てめえ、ふざけんなよ!」
手にした棍棒で殴りかかってきた。そのまま殴られる趣味は持ち合わせていないので、避けて足を引っ掛けてこかした。
「あれ? 雪が積もってて滑った?」
「おい、兄ちゃんよ。俺らフォルトゥナさまに仕えてるんだ。俺らに逆らうと碌なことにならないぜ!」
シンの頭に血が上った。神の名を騙り、自分の力以上のことをしようとする連中が大嫌いなのだ。
「ああ、そうだな。あんたたちみたいな下衆が神団に入ってる時点で碌なことがない!」
彼はフォース形態をとった。次々と殴りかかってくるごろつきたちをかわし、サーベルで斬りつけた。
「悪いけど俺は殺さずなんか出来ないからな!」
技を使うまでもない。殺す気はない。技など使えば即死してしまう。
軽く袈裟懸けに撫で斬るくらいしかできない。
「ぐえっ!」
「ぐふっ!」
「うわっ!」
手加減と言うものは難しいものだ。
モビルスーツなどであれば、まだ頭部を吹き飛ばそうが腕を切り飛ばそうが、胴体さえ残ればパイロットはその瞬間は助かる。
だが、人間相手だと、下手に腕を切り飛ばすのもまずい。
人間と言うものは高等生物へと進化を遂げる過程で神経を発達させた。
ところが、そのせいでショック死というものが出来てしまった。
ショック死とは、簡単に言えば「驚いて死ぬ」ことだ。
過剰な神経からもたらされる情報、またはそれまであった神経の信号の急な途絶により、脳の情報系統が混乱し、本来自律神経でコントロールされている心臓を停止させてしまうのだ。
シンが知る限り、一番したくないショック死は、手術中に屁が溜まった腸に電気メスが刺さることで起きる爆発によるものだ。
屁で死ぬというのも情けないものだが、これも神経が発達した生物ゆえの宿命だ。
ともかく、全力は出せない。棍棒を掻い潜りながら切り傷をつけ、無能力化するほかない。
だが、そう簡単にはいかない。
ダメージを与えすぎるのを恐れるあまり、軽傷しか与えられていないのだ。
「おい、ノビス! 晶術使え! あの野郎を何としても仕留めるんだ!」
ノビスと呼ばれたごろつきの一人が晶術を詠唱し始めた。シンは止めようとしたが、ほかのごろつきたちが立ち塞がってうまくいかない。
「フレイムドライブ!」
3発放たれた火炎弾をシンは避けきった。一歩間違えば殺されていたかもしれない。
「……なら、容赦しない!」
シンは全力で立ち塞がった者の一人を斬り殺した。
それがスイッチだったらしい。シンの目付きが変わった。
「はああああああああああああああ!」
さらに襲ってくるごろつきを斬り、背後から来る敵も振り向き様に殺害した。
一度殺しだすと止まらない。
おそらくは仲間がいれば止めることもできるのだろうが、今シンは一人だ。止めることなどできない。
「火炎斬!」
火を纏った剣が炸裂し、ごろつきの体を切り裂きながら炎上させる。
生き物が焦げる嫌な臭いが周囲に漂うが、シンは眉一つ動かさない。
「飛天千裂破!」
一番体格のよいごろつきに向かって奥義を放った。
だが、それだけでは済まさなかった。シンの中で何かが弾けた。
「風に舞い散れ! 剣時雨……風葬!」
無数の風の剣が放たれ、周囲の取り巻きを纏めて刺殺する。
さらに、エックス字に切り裂く風を受け、体格のいいごろつきが、まるで紙人形のように千切れた。

 
 

「あ……ああ……。」
倒れ伏したごろつき達の内の一人が生き残っていたらしい。
シンは死体となったごろつきたちから金を漁っていた。
「それじゃ、強盗未遂と殺人未遂の示談金を貰っていくよ。俺にはいかなきゃならないところがある……。」
言い分は間違っていないのだが、あまりにも残酷すぎた。制御が効かない。
形態解除したというのにまだ戦意が昂揚する感覚がある。
「化け物め……お前に天罰を……。」
シンの神経に触れたらしい。シンはソード形態をとった。
「天罰が下されるべきはお前たちの方だ。お前達のような、威光を利用して暴虐を働く者を飼育しているフォルトゥナ神団にこそ……神罰が下るべきだ!」
最後の叫びと共に振り下ろされたクレイモアがごろつきの体を真っ二つにした。
元々感情が激しく、自分でコントロールしにくい体質だったが、ここまで暴走することはなかった。
単なる違和感では済まされない。
「まさか……この力のせいなのか?」
この力が願望を叶える力があることだけはわかっている。
それに、この戦意昂揚は形態をとっているときにだけ強く働く。
力を使っていないときは全くの無反応だ。
だが、エルレインやリアラのものは性格にまで干渉しなかったはずだ。
「俺自体に……殺人願望……戦闘願望でもあるっていうのか? そんなはずは……。」
悩んだところでチェリクに向かえるわけではない。
後味の悪さを押し隠し、彼はスノーフリアに急いだ。

 
 

幸い、道中が吹雪いていなかったため、フォース形態による飛行で時間短縮できた。
途中でオレンジグミを食べてはいたが。
巡航飛行可能距離が伸びている。
シン自体の力の器が広がったのは間違いなさそうだ。成長してはいるのだろう。
それでもハイデルベルグからチェリクまで飛ぶ力はないのだが。
だが、素直に喜べない。そのためにごろつきとはいえ、人間を手にかけた。
あまり気分のいいものではないのだ。
「合流しよう。この力は仲間のために振るわれるべきものだ。滅多なことで使えない……。」
奪った資金ではノイシュタットまで行くのが精一杯だ。
とはいえ、少しでもチェリクに向かって進むしかない。
「船の中で休もう。それから、ノイシュタットで何かして稼がないと。」
シンは殺人の証拠となる血塗れになったコートを始末し、ノイシュタット行きのチケットを買って船に乗り込んだ。
部屋に案内され、シンは腰を落ち着けた。
船員がノイシュタットに到着したことを伝えに来た時、彼は自分がベッドに突っ伏していたことに気づいていなかった。
知らぬ間に寝ていたらしい。
「もう着いたのか。いつの間に寝ていたんだろう?」
秘奥義を使い、飛び続けていたせいだろう。
前ほどではないのはエネルギー供給を行わなかったからだろう。
しかし、疲労自体は残っている感じがする。
「仕方ないな。どこかで雇ってもらうか。皿洗いでも何でもいいし。」
シンはノイシュタット港からノイシュタット市街に入った。
ここもハイデルベルグと同じで酷いものだ。浮浪者がよく見られる。
さらに、一部の小奇麗な格好をした者が歩いていく。
イレーヌが命を賭して格差を消し去ったというのに、再び格差が現れてしまった。
理由はおそらく、フォルトゥナ神団の介入のせいだろう。
アイグレッテでは公平な生活を送れるよう、ナンバーへの名前の変更、一定の食料と生活資金の供給、さらに教育まで行っているらしい。
徹底管理型の共産主義というわけだ。
しかし、どちらかといえば辺境であるフィッツガルドのノイシュタットまでその影響下に入れることは難しく、今までどおりレンズを納めた者に対して奇跡を与えるという方法のままなのだ。
そして、大抵レンズを保有できるのは金持ちだけであり、再び格差が現れてしまったというわけだ。
シンはその金持ちに雇われて働くしかなさそうなのだ。
何とも胃が荒れそうな気分になったが、どうにもならない。
「溜息を思い切り吐きたいところだけど……。まあいいか、吐こう。すっきりするかも知れないし。」
ふう、と一つ溜息を吐いた。
少しは気が楽になった気がしたが、おそらく気のせいだろう。
ここ最近感じたことのない心細さが、シンの精神を苛んでいた。
シンは早く合流しないとまずいな、と思い始めていた。

 
 

そんなシンに声をかける者がいた。
「失礼ですが、旅の武芸者とお見受けします。仕事を頼みたいのですが……。」
彼が振り向くと、商人がいた。かなり高価な衣服を身に付け、さらに口髭を伸ばしている。
「何でしょうか。」
シンはややぼんやりした調子で応える。それにつけ込むかのように、商人は畳み掛けた。
「実は私の土地に賊が住み着いてしまいまして。退治していただきたいのですが。」
資金繰りに困っていたシンだ。一も二もなく承知した。
「詳しい話は私の家で。こちらです。」
商人が案内した家は、10年前の時代にノイシュタットで宝探しを頼まれた家だった。そう言えば、あの商人が10年分年を取っているようにも見える。
何か嫌な予感がしたが、その時はその時だ。違約金をふんだくってやる。シンはそう結論付けた。
「では、ご説明いたします。
 私の土地と言うのは、ノイシュタットの北西にあります、かつてのオベロン社の廃坑です。
 5年ほど前に買い取り、鉱石を採っていたのですが、最近賊が住み着きまして。」
「ほう。」
「それのせいで仕事になりません。しかも、あろうことかノイシュタットの街にやってきては夜中に盗みに入るのです。私は何度か傭兵を送ったのですが……。」
「俺以外に雇われた人間はいるのですか?」
「はい、いますとも。既に向かっております。」
「で、足りないわけですね。」
「はい、少しでも戦力を、と。」
判断力が鈍っている。
まず、自分が武器も持っていないのに武芸者であると言われたこと。
ノイシュタットの格差はひどくなっていたが、盗賊被害を受けたという噂を耳にしなかったこと。
さらに傭兵を派遣しても返り討ちに遭うようならば、せめて領主が何らかの対策を打つだろうこと。
これらのことに気づいていない。
疲労と資金繰りの悪さ、仲間と離れて一人でいることへの心細さ、自分の能力に対する不安などがシンを押し潰してしまっている。
だから、シンは何の疑問も持たずに廃坑に向かった。
それが商人の張った罠だということに気づかずに。

 
 

「この間来たばっかりなんだが……様子が違うな。」
かつての廃坑は商人が引き取ってからレンズの力を増幅する鉱石の採掘場となっていた。
どうやらエルレインの奇跡によって精錬法を見つけ出したらしい。
自分がかつて爆破した跡を通ると、激しい憤りに燃えた。
「なっ……これは……!」
イレーヌの思いは無残にも壊されていた。石碑はどこかへ持ち去られ、美しかった花畑は踏みにじられ、岩の切れ目は大きく抉られている。
太陽の光を必要以上に当てるというのは、光を当てないことよりも悪い。
「レンズの歴史」で確認したところ、精錬法は書いていなかったが、あの鉱石は精錬する前に、かつての岩の切れ目ほどの光が当たることで、ほどよく生成すると記されていた。
ところが、これほど光を当てては、しかも雨ざらしでは確実に変質する。
鉱石が採れないわけではないが、良質の鉱石が採れなくなるのだ。
あの商人が己の欲のために荒らしたに違いない。
「ふざけた真似を! 戻ったらただじゃおかないからな!」
雇われの身であろうが何だろうが、許せないものは許せない。
しかし、その前に仕事だ。
賊だ。数はそういない。二十数名というところだろう。
「俺たちの住処にようこそ。金のために捕まってもらうぜ!」
今のところ援軍はない。この状況から考えて、どうやらあの商人の目的は自分らしい。
そこまで思考を引き戻すことが出来たが、遅すぎたかも知れない。
「俺は何があっても、どんな手段を使っても、カイルたちに会わなきゃならない! その邪魔をするのなら……消す!」
シンの瞳が真紅に燃えた。
ブレスレットが輝き、表面にZGMF−X56S/γの文字が浮かび上がった。
しかし、シンはそれを見ようとしない。
両手に柄の長さが1.5mほどの短めの鎗が出現した。ブラスト形態だ。
「……。バーンストライク!」
恐ろしく速い詠唱だ。
どうやら、シンはこの形態が如何なるものなのか、そして、この形態で出来ることが何なのか、全て把握しているらしい。
「ファイヤーフライ!」
バーンストライクの本来の追加晶術はヴォルカニックレイだが、この形態での中級晶術の追加晶術は、全てブラストインパルスの兵器に因んだものになる。
シンの肩の辺りから16発の火炎弾が放たれ、賊は慌てて逃げた。
「お、おい怯むな! どうせ晶術だけが取り柄だ、詠唱している間に縛れ!」
賊が喋っている間に詠唱は完了していた。
「エアプレッシャー! デリュージー!」
強烈な重力上昇に伴う気圧の増加、さらに地のエネルギーの塊がまたもシンの肩の辺りから放たれた。
重力変化に巻き込まれた賊は押し潰され、放たれたエネルギーが別の賊の胴体を抉る。
それでもなお、賊は短剣を構えて多方向から切りかかる。
「スラストファング! エアランサー!」
渦巻くカマイタチが広範囲に広がった。賊は風によって全身を切り裂かれ、さらに穿風牙に似た風の槍が放たれた。
今度は賊の脳天に命中し、頭部が弾け飛んだ。
あまりにも無残な殺し方に怯えた賊たちはこぞって逃げ出す。
だが、シンはまた戦意昂揚の作用を受けていた。
殺しても殺しても殺したりない。
「はあああああああ!」
シンのブーツの底から火が吹いた。それを推進力にし、追いかける。
この形態の特徴としては「やや火属性を強めにし、その他の属性も晶術として利用できる」ということになる。
「やや強めの火属性」を利用した推進システムは、速度こそ出ないが瞬発性に富む。
駆け出すのとほとんど同じ加速性だ。
賊たちは外に出ることはできたものの、あっという間に回り込まれ、ネガティブゲイトを放たれた。そして、その追加晶術も。
「ケルベロス!」
2つの鎗を小脇に抱え、穂先を賊に向けた。
闇の奔流が放たれ、賊は首領を残し、生気を失って倒れていく。
たった一人残された賊の首領は、その場にへたり込んでしまった。
シンは狂気を秘めた瞳を見せ、言った。
「お前たちの雇い主は誰だ? 賊などでっちあげだろう?」
「あ……あんたを雇った商人だ。俺たちは、あの商人があんたがこの10年で全く老けてないのを見て、興味があるから捕まえてくれと言われたんだ。」
「それだけじゃないだろう?」
「た、確かに。10年前は仲間がいたから出来なかったが、今は一人だから捕まえられるだろうって。
 赤い目なんて珍しいから売り飛ばせばいい金になると……!」
賊、否、商人の傭兵はそれ以上喋ることが出来なくなった。
シンの瞳がさらに怒りを増したように見えたからだ。
「古より伝わりし浄化の炎よ……消し飛べ! エンシェントノヴァ!」
上空より放たれた火柱が傭兵目掛けて降って来る。傭兵は慌てて逃げ、致命傷だけは避けた。だが。
「我が呼びかけに応えよ! 我が乗機よ! 我が前に来たれ!」
シンの背後に現れたのは暗緑色の装甲を持つモビルスーツ、ブラストインパルスだった。
緑色に輝くカメラアイが傭兵を睨んでいる。
「我が前の敵を全て打ち砕け!」
シンのその叫びに呼応して、ブラストインパルスがビームライフルを乱射する。
それだけでも十分なのに、さらなる指令をシンは出す。
「爆砕せし蛍! 地を駆け抜けしノアの洪水! 貪り尽くす地獄の番犬!」
ミサイルランチャーのファイヤーフライ、レールガンのデリュージー、高出力ビーム砲のケルベロスが次々と放たれた。
既に死体すら消し飛んでいる。全ての攻撃が終わった後には、クレーターしか残らなかった。

 
 

シンは食品店で傭兵から奪った金で食料品を補給してから商人の家に向かった。
ノイシュタットに到着したときには、既に日が傾いている。
商人はシンが無事に帰ってきたことに驚き、それを押し隠すように美辞麗句でシンを称えた。
「いやあ、さすがです。あれほどいた賊を討伐なされるとは。」
黙って聞いていたシンは、その商人の態度に対して怒りを爆発させた。
「黙れ! お前が俺にしようとしたことくらい、全て確認済みだ! 10年経っても姿が変わらない上に、赤い目が珍しいからと売り飛ばそうとしたんだってな!?」
シンはフォース形態をとった。サーベルを抜き放ち、商人の喉元に切っ先を突きつける。
「ひっ……! い、命だけはおた、お助けを……!」
「二度と俺に手を出すな。あと、示談金を適当に払ってくれればそれでいい。」
商人はびくびくとしながら皮袋をシンに手渡した。
彼が中身を改めると、チェリクに向かえるだけの金は十分にあった。
「よし。」
シンが剣を降ろした、その瞬間。商人は手元にある置物をシンに投げ付け、外に向かって走り出した。
「ひいっ、人殺し! 殺される!」
「ふざけるな、待て!」
さすがのシンも虚を衝かれ、対応が遅れた。商人はすでに家の外に出ている。これ以上はまずい。
「くっ、鏡影剣!」
この選択が間違いだった。
手元が狂い、影ではなく商人自身を貫いた。
しかも、当たり所が悪く、即死状態だ。
「あ……。」
大勢の人間の前で殺人を犯してしまった。
だが、このままみすみす捕まるわけには行かない。それに、シンは身元不明の人間だ。
一度警察に捕まったら一生拘留されてしまうかもしれない。
そもそも人権ですら危ういのだ。拷問や裁判なしの死刑もあり得る。
「くっそおおおおおお!」
シンは商人を殺したことへの非難の視線と罵声から逃げた。空を飛び、悩む。
これからどうすればいいのか。カイルたちに会えるのかと。
ノイシュタットを飛び去っていくシンの姿は、普段の彼より小さく見えた。

 
 
 
 

TIPS
称号
 放浪者
  一人逸れてしまった。
  仲間と合流できるのか?
   回避+1.5 SP回復-1.0

 ロケット人間
  足の裏から火を噴いて移動できるブラスト形態。
  別に腰からマシンガンを撃てるわけではない。
   回避+1.0 命中+0.5

 お尋ね者
  ついに前科者となってしまった。
  「俺は悪くねえ!」と言わないのはさすが。
  でも、明らかに向こうの方が悪いような……。
   防御+0.5 回避+0.5