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Fortune×Destiny_第15話

Last-modified: 2007-12-05 (水) 09:35:19

15 ヒートリバー

 

シンを逃がし、自分が辿るであろう末路を予想しながら輸送船に戻った血飛沫の騎士は、兵士たちに拘束された。
「やつは始末したが。死体は消し飛んだから、証拠はない。
 それで、一度逃げられた責任を取れということか。」
「はい、エルレイン様に連絡したところ、今すぐ処刑せよ、とのお達しです。どうかお覚悟を。」
「わかっている。それが私の責というものだ。面倒だろう、私が自分で始末する。」
彼はもう覚悟を決めていた。
兜を脱ぎ、赤い瞳に驚く兵士たちを退かせると大剣を出現させ、自らの首筋に当てる。
「さらばだ、シン・アスカ。後は……頼む。」
誰にも聞こえぬように呟くと、自らの手で首を刎ねた。
血飛沫が上がり、黒い鎧を汚していく。
船の甲板に、何か堅いものが、落ちる音がした。

 
 

そんなことがあったとは知らないシンは、ブラスト形態のホバー能力を使い、
カルバレイスを目指していた。
高速輸送船と10年後のシンの爆風のおかげで何とか必要航続距離は縮んだものの、気を抜けば魚の餌になることは必至だ。
「うー、なかなか疲れる……。モンスターが出てこなきゃいいんだけどな。今こられたら死ぬ……。」
足の裏から火を噴きながら移動するのは、なかなか大変だ。
飛行能力と違い、噴射方向を自分の足で調整しなくてはならない。
間違えると転倒したり、最悪の場合はネズミ花火のように弾け飛ぶ可能性もある。
最初の加速性がよいとはいえ、意外と不便な能力なのだ。
ただし、飛行する場合よりは時間換算でこちらの方が持続するのだが。
「ああ、運命を覆すためとはいえ、これは……。」
文句を言っても、このままカイルを殺すという未来は変わらない。
何でもいいから未来を変えよう。その言葉を支えにカルバレイスのチェリクを目指す。
夜を徹してブーストを吹かし続け、どうにか陸地にたどり着いた。
リーネに寄ったときにコンパスをリリスから貰っておいて助かった。
「に、してもここはどこなんだろう……?」
ふらつく足を叱咤し、辺りを見回した。
カルバレイスは話に聞いたとおりの砂漠と火山の大陸だが、今は岩陰に身を置くことができるので暑さは凌げる。
しかし、いつかは日の当たる場所を歩かねばならない。
そうなったら暑さで倒れるばかりか、水がないために干乾びるかもしれない。
水の調達が、全てに勝る急務だった。
「……う……暑い……。」
ちょうどいいサイズの岩があった。
一休みしようと座ったが、もう足が動かない。疲労が限界まで達していたらしい。
そんなときだ。
「あー、シン! シンじゃないか!」
カイルだった。今からロニとジューダスが留まっているホープタウンに向かうところだったのだ。
「ん、誰だい、シンって。」
聞きなれない声だ。どうやらカイルと一緒にいるという、この時代の人間なのだろう。
赤い髪をツインテールにし、左手には弓を持っている。
少々露出の多い服装だが、腰に布を巻きつけているあたり、肌の保護に関してはそれなりにしているらしい。
顔立ちは自信に溢れ、年上の女という印象を振りまいていた。
「あそこに座ってる赤い服の人だよ、ナナリー。俺たちの仲間なんだ。」
「そうなの。行方が全くわからなかったけど、カルバレイスに来てたんだわ。シーン!」
リアラがこちらに向かっている。
シンは返事をしようとしたが、極度の疲労と安堵のためか、そのまま何も言えずにその場に倒れてしまった。

 
 

カイル、リアラ、ナナリーの三人は、倒れたシンを休ませることにした。
リアラが晶術で出した水を含ませたタオルを彼の頭に乗せ、岩陰に寝かしつけて回復するのを待つ。
「随分とぼろぼろだねえ、シンって子。何があったんだろう?」
「多分、いろいろあったんだよ、いろいろ。だってシンは別れたときにお金持ってなかったし、チェリクじゃシンみたいな人は見かけなかったって言うし。」
「きっと、別の場所に飛ばされたんだわ。私たちやロニ、ジューダスは二人ずつだったからいいけど、シンは……。」
カイルとリアラは暗い顔を見せている。
無理もない。シンと出会ってからそれほど時間は経っていないが、信頼に値する人間なのだ。
カイルがお金を掏られたときや、フォルネウス相手に戦ったときに、彼の決断の速さに助けられている。
そのシンが倒れるまでに疲労したのだ。心配もして当然だ。
「そっか……。よし、カイル。シンの上着、貸してくれる?」
シンの赤いザフト軍制服は、切り傷や穴ができていた。
ナナリーは針と糸を取り出し、指をせっせと動かして繕っていく。
「ふんふん、いい布地だねえ。それでいて……熱を通さないし、表面は燃えにくい素材みたいだね。いったい、何でできているんだろ?」
合成繊維などこの世界に存在しないので、ナナリーは魔法がかけられた服だと思ったらしい。
ただし、本当に合成繊維かどうかもわからないのだが。
何しろ、拳銃を失っていたのだ。転移する都合で別の物質に変わっていてもおかしくない。
「ま、いいさ。シンが起きるまでに直しておくよ。」
ナナリーは慣れた手つきで縫い合わせていく。目の前でほつれや切れ目が消えていく様子を見たカイルが感心する。
「ナナリー、器用なんだなあ。すっげー。」
「あははははは、ホープタウンじゃなんでも自分でしなきゃいけないしね。このくらいできて当然なんだよ。」
「私にも……教えてくれない?」
リアラもナナリーの手つきに感心したらしい。自分もできた方がいいと思ったのだろう。
「んん、オッケー、任せな。まずはシンの服を直してから。ホープタウンに着いたら教えたげる。」
一時間ほどでシンの制服は新品同様になった。どこを繕ったのか、それすらわからない。
「ここまでできるんだ、はあああああ……。」
カイルは改めてナナリーの腕に感心する。ルーティも縫い物はするが、ここまではいかない。
「後はシンが目覚めるのを待つだけね。」
リアラは先程から何度もかけている回復晶術を使い、シンの傷を癒した。
確かにシンは傷ついていた。
手加減されていたとはいえ、エクセキューションの直撃と秘奥義の剣時雨風葬を受けている。
死んだように見せかけるため、怪我の回復をしていないのだ。
それだけではない。
彼はごろつきに絡まれ、自分の能力に恐れ、売り飛ばされそうになり、殺人犯として追われ、挙句にはカイルを殺す事になるかも知れないと言われたのだ。
体以上に心が傷ついている。心自体が起きることを拒否しているらしい。
「うう……カイル……皆……許してくれ……。」
カイルたちにはわからないが、シンは悪夢を見ていた。
エルレインに向かってシンが剣を構えて突撃し、彼女を斬りつけた。
そのはずだったのに、いつの間にか斬りつけた対象がカイルに入れ替わっていた。
血を流して倒れたカイルが目の前に転がっている。シンは自分の血塗れの手を見つめた。
ふと、上を見ると、そこには自分の体に繋がれた糸をマリオネットを操るようにするエルレインの姿があった。
「お前は自分の運命には逆らえない。そうだ、逆らってはならないのだ。
これからお前は私の手駒にならなければならない……。カイルたちを殺さなくてはならない……。」
感情こそこもっているが、どこか無機質で善悪のない、それでいて狂った調子のエルレインの声が脳に響く。
エコーがかかり、山彦のように繰り返される。
それがカイルを殺すところから何度もリピート再生される。想像とはいえ、あまりにも生々しい。
「あ……うああああああああああ!」
絶叫しながらシンは弾かれるように起きた。息が上がっている。

 
 

「あ、シン! 起きた?」
ぼんやりする頭を振り、シンは現実に意識を引き戻した。現在の状況を確認する。
カイルとリアラ、それにナナリーと呼ばれた女戦士がいる。
「……カイル……俺はいったい……?」
「君はさっきまで倒れて寝てたんだ。よっぽど疲れてたんだね。」
「あ、ああ……。」
「水、飲むかい? 汗かいてるだろ?」
ナナリーがシンに水筒を渡した。
シンは受け取ってからあることに気づいた。まだ自己紹介をしていない。
「あ、カイルたちが世話になったみたいですが、ありがとうございます。俺、シン・アスカって言います。」
「ああ、言葉遣いは堅苦しいのは嫌いだから、普通でいいよ。あたしはホープタウンのナナリー。ナナリー・フレッチさ。よろしく。」
ナナリーは快活に笑い、シンもそれにつられて笑顔を見せた。
そして、水筒からコップ一杯分の水を注ぎ、一気に飲み干した。
「……ふう。」
ぼんやりしていた意識がはっきりし出した。
同時に、神経をぴりぴりさせていたせいで気づかなかった不安がシンを襲いだした。
「運命なんか自分でぶっ壊す」と息巻いたものの、そう簡単に解決できるような問題ではない。
今のところ99%くらいはカイルを殺すことになるだろう。
残る1%を掴み取りたいのは当たり前なのだが、向こうの方法がわからない以上、アドリブで解決するしかない。
だが、アドリブだけでは限界がある。
シンの持つ力はエルレインやリアラの持つものと違い、かなり限定的な行動しかとれないのだ。
マニュアル戦闘などでは勝てないのだが、今のところはどうするかわからない。
ただ、どんな方法でコントロールしてくるのかは複数パターン考えてある。
その対抗策が完成していない。どうするべきか。ずっと悩んでいた。
「……シン?」
考え事をしているのを不審そうに思ったカイルがシンに声をかけた。
「あ、いや、なんでもない。なんでも。お互いの事情はロニとジューダスと合流してからにしよう。でも、どこに行ったんだろう?」
言いたいことが混在して、わけのわからない発言になってしまった。
しかし、それでもカイルたちは意図を汲み取ってくれたらしい。
「う、うん。あ、ロニとジューダスはナナリーのすんでるとこで待ってるらしいよ。だから、これからホープタウンに行くんだ。」
「あ、なるほど。それじゃ、行こうか。」
シンは立ち上がった。
急に立つことで起きる血圧の低下を感じたが、早く合流したほうがいい。彼はそう思った。
「あの二人に会いたいのかい?」
ナナリーがそう言った。シンは当たり前だと言わんばかりの口調で返す。
「勿論。あの二人ほど頼りになる人間はそういないから。」
ずっと一人で行動してきた。元の世界では仲間に囲まれていても孤独を感じていた。
しかし、こちらの世界での仲間はいてくれると嬉しい、いてくれると楽しい。そんな感覚がある。
それが急にいなくなったとき、かつて以上に孤独を感じた。
以前の孤独はそれなりに心地よかったが、今度の孤独はひたすらに寂しく、心細い。
しかも、この後にはさらなる孤独を味わうかもしれない。それがシンには恐ろしかった。
「じゃ、行こう。ナナリー、この先の川を渡るんだよね?」
「ああ、ヒートリバーっていうんだ。そこを越えたら、ホープタウンはすぐそこだよ。」
名前と火山の多い土地柄からして、温泉の流れる川なのだろう、とシンは思った。
ただの温泉ならいいが、ひどいものになると危険な物質が含まれていることもある。
「気にしても詮無い事か。」
シンは十分に休めた足を動かし始めた。

 
 

ヒートリバーに架かる橋の前までやってきた。
ところが、その橋が水没している。しかも、異様な暑さだ。
「な、何て暑さだ……。何とか耐えられるけど……。」
シンは右目を瞑り、左手で汗を拭いながら呟いた。どうやら熱源は川らしい。
熱源が川と言うのは問題だ。流れているのは熱水だろう。
ということは、水分が蒸発している。湿度が高いのだ。
湿度が高いと汗が乾かず、体の温度はいっこうに下がらない。
汗だけかいて、結局体温調節できていないことになる。
普通に火の側に行くより酷い。
「おかしいねえ、普段この川はこんなに水がないんだけど。」
ナナリーはそう言った。つまり、何らかの理由で増水しているのだ。
それさえ解決すればいいらしい。勿論、放置という選択もある。
「カイル、今回は俺の飛行能力で川を越えることは出来るぞ。でも、放って置いたら後でこの橋を渡る人が困る。どうする?」
「決まってるじゃん、原因を調べて元通りにする! 英雄を目指してる俺には避けられない!」
いつのもカイルだ。シンは微笑み、口を開いた。
「言うと思ったよ。それじゃあ、上流に行こうか。リアラはしんどそうだな? カイルに手を引っ張ってもらったらどうだろう?」
自分の飛行能力を持ってすれば、もっと楽に移動できる。
それでもそんなことを言わなかったのは、ちょっとしたお節介だ。
シンに言われて、リアラはびくりとする。カイルに手を引いて貰えたら嬉しい。
けれど、という表情だ。
「俺は気にしないからな。さくさく進んで元通りにしないと。」
彼はできるだけ振り返らないようにして早足で上流へと向かい、ナナリーも慌ててシンをガイドする。
取り残された形となった二人は少しだけ顔を赤くしたが、シンの言うとおりにはしなかった。
急いでシンとナナリーを追いかける。
「ぐっ! 何だここは!?」
少し上流に向かうと、強烈な熱波地帯に突入した。
「この辺りの地熱は強いんだ。時々風が吹いてくるんだけど、その風も焼けるほど熱いから気をつけて。
 あっちこっちに岩陰があるだろ? あれに隠れながら進むんだよ。」
「地熱か……。」
彼の故郷であるオーブは火山島である。
ニュートロンジャマーを撒布されても電力を確保できたのは、地熱発電が主力だったからだ。
地熱の恩恵で育ったシンだが、この熱には参る。
「ふう、あつー……。」
「本当に……。」
カイルとリアラは辛そうだ。
シンは耐熱服を着ているようなものだから、ある程度は耐えられる。だが、二人はそうもいかない。
「リアラ、俺の服を貸そうか? 耐熱処理されてるはずだし。」
「あ、ありがとう……。」
シンは自分の赤い制服を脱ぎ、リアラに渡した。彼女は躊躇いがちに着込む。少しサイズが大きかったらしい。
「このシャツでどれだけ耐えられるか……まあ、俺はコーディネイターだし大丈夫か。……ん?」
何やらカイルが自分を見ている。少々嫉妬の視線のような感じだ。
「お、おいおい! 俺は別にリアラを狙ってなんかいないぞ!」
「でもさー、シンがもしリアラの英雄だったら俺、ショックだからさ……。」
「俺はカイルが英雄になるのを楽しみにしてるんだからな。そんな俺が英雄になることはないさ。」
正直なところ、英雄などという称号ほど自分に似合わないものはない。
どうせ呼ばれるなら殺戮者の方だろう。彼はそう思った。

 
 

時折襲い来る熱波を避けつつ、カイルはナナリーに話しかける。
「そういえばさ、ナナリー。カイル・デュナミスって英雄の話を聞いたことない?」
シンの胸に強い痛みが走った。
「そうだねえ、聞いたことないねえ。」
「あちゃー、何やってるんだよ、未来の俺!」
カイルが悪いのではない。自分がカイルを殺したからだ。
だから、この10年後の世界に存在していないのだ。
普段なら馬鹿な話だと笑い飛ばせるのに、全く意味が違う。
おそらく、10年後の自分から話を聞かなければ笑い飛ばしていたことだろう。
だが、今のシンにはできなかった。表情が暗くなり、俯いてしまう。
「いや、英雄になった時点で名前を変えたのかも。スタンジュニア……なんかなー、デュナミス将軍……
 もう一つだな、デュナミス王とか言って、いまや一国一城の主だったりして!」
「何、このテンション……。」
ナナリーが呆れ果てている。それが自然な反応だ。
「あ、いつものことなの。病気……みたいなものよ、うん……。」
リアラのこの反応も、かなり自然な反応だ。
しかし、シンには呆れることもできなかった。ただ、不安だった。カイルを殺したくない。
リアラもロニもジューダスも、そして出会ったばかりのナナリーも。
「……そうなると、いいな……。」
シンはそう言った。ナナリーとリアラがシンの方を向く。カイルも同じ反応だ。
「シン……普段だったら『調子に乗るな!』って頭を叩くところでしょ?」
「そうなるといいなって……シン、何か今日は変だよ?」
「あ……。」
自分の不自然さに気づいた。ツッコミ担当である自分らしくないのだ。
「疲れてるのかな……俺。でも、先に行かないと。無理してでも早く合流しないとな。」
シンは無理やり誤魔化した。
自分がカイルたちを殺すかもしれないということなど、口が裂けても言えないのだ。
阻止できたら言おう。彼はそう思った。

 
 

源流にたどり着いた。
溶岩が一部露出し、さらにその近くに湧き水があるために熱水になっているのだろう。
「こんな岩、なかったよ? ははあ、これが本流の方を塞き止めちゃったんだね。
んで、直接あの支流のヒートリバーの方に流れ込んだんだね。」
確かに塞いでいるらしい。いちいち持ち上げるのも面倒だ。
「皆、離れてくれないか? 俺がやるよ。」
シンはブラスト形態をとり、詠唱を始める。
「古より伝わりし浄化の炎よ……消し飛べ! エンシェントノヴァ!」
火柱が塞いでいた岩に直撃した。
それは爆発へと姿を変え、岩を原形すら残さず消し飛ばした。まさしく「消し飛べ!」だ。
「派手だなあ。シン、いつの間に覚えたの?」
「一人でふらついてるときだよ。なんでか使えてたんだ。」
「その晶術、覚えるのに苦労するもんなんだよ。
あたしも使おうと思ったら使えるけど、いまはちょっと無理だね。あんた何者なんだい。」
「俺自身もよくわからないんだ。気づいたらこんな力が使えるようになってただけで……。」
それは事実だ。
ただ、戦うごとに強くなってはいるし、その経験がブラスト形態を花開かせたのは間違いない。
何も努力せずに得たわけではないのだ。
ただし、力の正体はともかく、出自がわからないと言っているのだ。
「あっはっはっはっ……なんだかよくわかんないけど、あんた面白いねえ。うちの子たちにも紹介したいよ。」
別に子持ちと言うわけでもなさそうだから、おそらく近所の子供のことを言っているのだろう。
「近所の子供のことだよな? 念のために聞くけど。」
ナナリーは性別など吹き飛ばすように豪快に笑い、応えた。
「当たり前じゃないか。まあ、おしめが取れる前から面倒見てるから、本当の子供とあんまり変わらないけどね。」
「へええ、実は俺もさ、血の繋がってない弟や妹がいっぱいいてさ。」
「カイルは孤児院に暮らしてたの。お母さんが経営者なんだけどね。」
「それでさ、俺は皆と一緒に生活してるんだ。だから、俺はデュナミス孤児院のデュナミスを姓にしてるし……。」
全員が押し黙った。何かの振動を感じたのだ。源流の水溜りの中に何かいる。
「な、なんだ!?」
それはザリガニのような姿をしていた。しかし、大きさは比べ物にならないほどだ。
全長5メートルはあるだろうか。ヴェパールだ。
「早いとこ仕留めてホープタウンに行こう。はっ!」
カイルがヴェパールに一気に接近し、斬りかかる。だが、その衝撃と共にヴェパールは泡を吐き出した。
「ぐっ!」
泡が当たり、ダメージを引き起こす。直接殴ると泡を吐き出し、攻撃を阻むらしい。
「カイル、大丈夫か!?」
「何とか!」
こうなったら泡を叩き潰しながら攻撃するより他はない。シンはブラスト形態をとり、カイルに指示を出す。
「いいか、カイル! 俺がバーンストライクとその追加晶術で攻撃するから、攻撃している間に突っ込め! そうすれば泡を撃ち落せる! ナナリー! 矢で泡を撃ち落してくれ!」
「わかった。」
「りょーかい!」
「それから、リアラ! リアラはカイルの回復をしつつ、一緒に泡を破壊してくれ! リアラはスプラッシュだ。出来るよな?」
「任せて!」
「よし。……バーンストライク! 爆砕せよ、ファイヤーフライ!」
上空から降って来る火炎弾を受けてヴェパールが苦しむ。その隙を狙ってカイルが斬りつけた。
その吐き出される泡は誘導特性のあるミサイルを模した晶術、ファイヤーフライで破壊された。
さらに、リアラのスプラッシュが反撃を阻み、ヴェパールの動きを鈍らせた。
「今なら……牙連閃!」
ナナリーが素早く矢を連射し、さらなるダメージを与えるが、その度に泡が吐き出される。
カイルはその泡に攻撃を阻害された。
「ナナリー! 人の話を聞いてるのか!? 下手に打撃を与えたらああなるって。頼むから泡だけ迎撃してくれ!」
シンは気が立っているというのもあるが、彼は本来赤服と呼ばれるエースパイロットだ。
アカデミーで指揮の勉強も勿論しているのだから、指示通りに動いてくれないと苛立つのだろう。
唯一の軍経験者故に戦術指揮官になってしまっている。
柄でもないが、カイルやロニの行動を見ていると、やるしかないと思ったらしい。
「悪かったよ。今度はちゃんと迎撃するからさ。」
「わかってくれてありがとう。それじゃ、今度は上空から仕掛ける。皆はそのまま!」
シンはフォース形態をとり、穿風牙を放った。また泡が吐き出されるが、今度はナナリーが撃ち落した。
「カイル、行け!」
「よし、爆炎剣! 燃えろ!」
火炎と共に強烈な斬撃が放たれ、ヴェパールの殻にめり込んだ。
同時に泡がカイルに迫るが、そこはシンの穿風牙で撃ち落す。
しかし、ヴェパールはそう甘くない。詠唱時間などほとんどかけずにヴォルカニックレイを放った。
カイルの足元から火が噴出し、彼は後方へと吹き飛ばされた。
「うっ!」
「くっ、リアラは回復! ナナリー、迎撃を続けてくれ!」
シンは上空でソード形態に入れ替え、クレイモアをアンビデクストラスフォームにしながら重量を増加させてヴェパールを突き刺した。
重量増加による最大威力を発揮できるだけでなく、泡の反撃を受けにくいのだ。
だが、ヴェパールに振り落とされ、口から発射された水で撃たれた。
「しまった……でやああああ!」
素早く起き上がったシンは、アンビデクストラスフォームのままヴェパールに斬りかかる。
泡の直撃を受けても構わずに突撃する。
さすがに防御が拡大した形態だけのことはある。
「なめるなああああああああ!」
元の二振りの剣に変え、斬衝刃を放ち、二つの鋏の内、一本を叩き潰した。
だが、同時に小型のザリガニの大群が一斉にシンを襲う。
さすがにこれは予想外の攻撃だ。
ダメージ自体は少ないが、目を攻撃されては厄介だ。やむなく引き下がる。
「っちい、どうする……。こうなったら徹底的に晶術で潰す!」
ブラスト形態をとり、詠唱を始める。
「ネガティブゲイト!」
歪んだ空間がヴェパールを苦しめる。だが、そのままヴェパールはシンに向かって鋏を振り下ろした。
ケルベロスを撃とうと構えていたところだ。全くの無防備である。
ソード形態と違い、ブラスト形態は攻撃力も防御力も少ない。
彼はそのまま溶岩が固まった岩場に叩き付けられた。
「ぐあ!」
しかし、シンの口元に笑みが浮かんだ。してやったり、と。
「空破! 絶風撃!」
シンはあくまでも囮だった。いつものことだ。
カイルは素早く突きを放ち、同時に突風で奥へと押しやった。
さらに秘奥義を放つ。
「空を断つ……! くらえ! 絶破! 滅焼撃!」
強烈な突きとともに、赤く輝くエネルギーでヴェパールを叩きのめす。
ついにヴェパールはその動きを止めた。

 
 

「さてと、これで橋も渡れるはずだし、もどろっか。」
ナナリーは自分の住処にやっと戻れる、という表情で言った。リアラも同調する。
「そうね、早くロニたちと合流しましょう。」
彼らには勿論会いたい。そして、現代に戻りたい。
しかし、これから自分がするかも知れないことを言えるわけがない。
隠すしかない。言えば余計な心配をかける。
シンは心掛かりなことを胸の中で増幅させながらそう思った。

 
 
 
 

TIPS
称号
 戦術指揮官
  似合いもしないのに何故かやっている。
  軍の経験者は自分だけという宿命なのか。
  シン「柄じゃない。絶対に柄じゃない」
   知性+0.5 クリティカル+1.0 SP軽減-1.5