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Fortune×Destiny_第18話

Last-modified: 2007-12-05 (水) 09:42:18

18 二人の聖女、二人の英雄

 

「はああああああああ!」
幾多の兵士たちを屠り、突撃していくシンは既に血まみれだった。
だが、その返り血を拭おうともせずに突き進んでいく。
「邪魔するなああああああ!」
ソード形態に入れ替え、クレイモアを振るった。
槍は使い手ごと両断され、剣は弾かれ、矢は叩き落される。
「死にたくなかったらさっさと道を開けろ! 俺は仲間を傷つけるやつは誰一人として容赦しない!」
弓を構える女性兵もいるが、そんなことは知ったことではない。
シンの瞳に写る、敵意を持った相手は全て排除する対象だ。
さらにシンはブラスト形態へと姿を変えた。
「バーンストライク! ファイヤーフライ!」
詠唱時間などないに等しい。
次々と各所で爆発が起き、その度に怒号と悲鳴が谺する。最早人間の所業ではない。
「シン、あまり飛ばすな。エルレインとやりあうことになった時に、疲労していては意味がないんだぞ。」
ジューダスの冷静な言葉を聞き、シンは攻撃の手を緩める。正気を取り戻したらしい。
一度スイッチが入ると自分では抑えきれないのだ。
しかも、シンが戦う力を伸ばせば伸ばすほど狂気も増していく。
確かに強力な力だが、代償はあまりにも大きいものだ。
「……そうだな。抑えておこう。」
攻撃の手を緩めようと何をしようと、ストレイライズ大神殿の護衛兵は後から後から攻撃を仕掛けてくる。
「くっ、閃光衝! そこだ!」
カイルはその小柄な体格を利用して剣を持った兵士の懐に飛び込み、光を纏った剣で突き上げた。
一瞬のうちに吹き飛ばされ、完全に伸した。
そのカイルに槍兵が接近し、突きを放とうと構える。
「させるか! 放墜鐘! さらにっ!」
この放墜鐘は、対象を使い手から見て前方へ大きく弾き飛ばす技だ。
さらに放墜砲鎚によって一筋の衝撃波を放ってさらに遠くへと吹き飛ばす。
連携には向かないが、この手の乱戦で敵を排除するだけなら大きな意味を持つ。
「よし、あたしもいくよ! 牙連閃! まだまだ! 烈火閃!」
ナナリーが素早く矢を連射し、さらに続けて火矢を放つ。
彼女を相手に弓の撃ち合いで勝てる者などまずいない。
カイルを狙った弓兵をあっさり討ち取った。
カイルはそのまま突撃し、剣を持つ護衛兵を斬りつけた。さらに、蒼破刃を放って仕留める。
善戦してはいるのだが、このままでは消耗してしまう。早めに片付けなくてはならない。
「面倒だ、俺が後衛を荒らす。カイル、ジューダス、ロニはそのまま! ナナリーも援護射撃してくれ!」
シンはフォース形態をとり、一気に護衛兵の後方に位置する弓兵部隊、そして晶術部隊の真ん中に降り立った。
素早くソード形態に入れ替え、大剣で周囲を薙ぎ払う。
「はああああっ!」
弓で防ごうが障壁を作ろうが、もう止められはしない。
ジューダスのお陰で狂気を押さえ込むことはできたが、それだけだ。
死ねない。死にたくない。死なせたくない。
その思いが剣を振るう力に変わる。
「このっ……!」
時折矢が飛来して体にぶつかるが、刺さりはしない。ソード形態故の圧倒的防御力だ。
「でやああああああ!」
斬衝刃を使い、まとめて弓兵を吹き飛ばし、徹底的に後衛の連携を乱す。
その間に前衛部隊はカイルたちが仕留めていく。
時間が経つにつれて逃亡兵が増えだした。
たった5人しかいないのにもう50人近くは討ち取られた。勝ち目などない。
「逃げる兵士は追わなくていいよな?」
「勿論! 目的はリアラの救出とレンズの奪還! それ以外目をくれるな!」
ロニとジューダスが言い合う。その通りだ。
目的を見失ってはいけない。

 
 

屋上から礼拝堂へと廊下を突き進む。
5人の姿を見るだけで兵士達は逃げてくれた。だが、礼拝堂だけは違う。
「これ以上エルレイン様の邪魔をさせるな!」
ハイデルベルグ城でロニの攻撃を阻んだエルレインの部下、ガープが指揮を執っていた。
兵士達が一斉に矢の嵐を巻き起こす。さすがにこの密度では接近できない。慌てて5人は建物の陰に隠れた。
「チッ、あれでは近づけんぞ。」
「対象地点で発生するタイプの晶術で攻撃するしかないだろうな、これは。」
ただし、その方法の場合、まともに狙いをつけられない。
当てずっぽうに晶術を放ったところで打撃を与えられないのではレンズの無駄だ。
「……シン、お前の飛翔能力を使えないか?」
「俺の? ああ、弓の射程範囲外の上空から晶術で攻撃しろってことか?」
「他にどんな方法がある? 正確に攻撃しようとすればそれしかない。」
「無茶言うなよ。俺はフォース形態だと下級晶術しか使えないんだ。いや、待てよ……。」
ジューダスとの遣り取りで何かを思いついたらしい。
「いけるかも知れない。今から俺はバーンストライクとファイヤーフライを使う。ファイヤーフライを放ったら皆突撃してくれ。俺も続く。」
未だ矢の雨は降り続いている。この状況で突撃しろと言うのは無茶な話だ。
「大丈夫? それに、正確に攻撃できるの?」
「やれる。任せてくれ。」
彼は素早く詠唱し、バーンストライクを放った。ただの盲撃ちだ。全く命中しない。
「やけでも起こしたのか?」
だが、追加晶術のファイヤーフライは違った。建物の影からカーブを描き、正確に兵士達を襲った。
ファイヤーフライはミサイルを模した晶術であることは既に述べた。
この晶術は使い手であるシンの意志で進路をコントロール出来る。故に障害物が存在しても正確に狙えるのだ。
強烈な火炎弾が兵士たちを火達磨にしていく。
それが合図だった。弓の攻撃が一時的に停止したその瞬間を狙い、一斉にカイルたちが突撃した。
さらに、その後方からシンがフォース形態に切り替えて飛来し、ガープに直接上空から攻撃を仕掛けた。
「穿風牙!」
ガープは上空から飛来した風の槍を回避したが、次の瞬間にはシンに間合いを詰められた。
「でやあ!」
サーベルを杖で受け止めた。ガープはシンを打ちのめそうとするが、すぐにシンはソード形態に入れ替え、鍔迫り合いになる。
「お前たち……エルレイン様の救いを無にしようとするとは……。」
「黙れ! 幸福に暮らしていた人々を不幸にして何が救いだ! お前たちの目は節穴か!?」
「過渡期には多少の犠牲は付き物だろう!?」
「そういうやり方が気に食わない! 確かに何かを為すときには犠牲も出るだろう。だがな、意図的に生贄にするような真似を見せられて、見過ごせるほど俺は人格者じゃない!」
「そんなことでは何も実行できん!」
「実行しなくていい! お前たちは害にしかならない。この世界はほっとけばそれでいいんだ、お前たちはさっさと消えろ!」
シンはフォース形態に入れ替え、空中に舞い上がって鏡影剣を放った。ガープの身動きが封じられ、さらに影を纏うサーベルが切り裂いた。
「ぬう!」
「まだまだ! 鏡影閃翔! 飛天千裂破!」
飛翔能力を使った突撃、さらに急降下しての刺突、それに連携しての12連続の突きにはさすがのガープも耐えられなかったらしい。
「くっ……全力を出すことができれば……已むを得ん、撤退する!」
ガープは光に包まれてどこかへ転移した。それを見た兵士たちもあっさりと逃げ去る。
「シン、消耗してない? 大丈夫?」
「カイル……大丈夫だよ。十分戦える。それよりカイル、頼みがある。」
シンはカイルの目を真剣に見、言った。
カイルはその様子がただ事ではないことに気づいた。
「?」
「もし、もし仮にだ、俺がカイルに斬りかかるようなことがあったら、その時は……迷わず俺を斬ってくれ。頼む。」
「そんなこと、あるわけないだろ?」
「だから、仮にと言ったんだ。ただ、エルレインの力は底知れない。そういうことだってあるかもしれないってことさ。」
シンはあくまで真剣だ。
こうなったらカイルたちだけでも生かしておかなくてはならない。
何としても未来を変えなくてはならないのだ。
「まあ、そういうことが起きたら俺がぶん殴って正気に戻してやるよ。何しろお前はよく暴走するからな。」
どこまでも明るく言い放つロニの言葉を聴き、彼は幾分気が楽になった。
こうしていてもリアラは助けられない。
「さあ、行くぞ、みんな!」
カイルの声を合図に、礼拝堂の扉を押し開け、5人は中へと雪崩れ込んだ。
「……お前たちも……苦痛を選ぶというのか……。」
エルレインだった。
ゆっくりと振り返り、5人を見遣る。憎悪も怒りもない。
ただ、どこか見下すような色合いの瞳だった。
「リアラもレンズも返してもらうぞ! エルレイン!」
「わからない、お前たちは何故苦痛を味わってまで行動するのだ……? その先には悲しみしかないというのに。シン・アスカ。特にお前はな。」
「やかましい。俺の未来は俺が決める。あんたたちに勝手に決められはしない! ここで俺自身の宿業を破壊してやる!」
シンはフォース形態の機動性を使い、床を滑るようにエルレインに斬りかかる。
だが、エルレインもシンと同様に武器を出現させた。
「愚かな……。私からお前たちに与えられる幸福は……これのようだ。」
虹色に輝く、柄の両端に刃が存在する武器。アンビデクストラスハルバード、両刃剣だ。
シンのサーベルを軽々と受け止め、それをバトントワラーのように軽く振り回しただけでシンは弾き飛ばされてしまった。
「ちっ……下手したら自分を斬りかねないあんな武器を……!」
何度かこの手の武器は試みに作られているが、全て正式採用されなかった。
乱戦時、敵陣にただ一人で特攻するだけならともかく、正規の兵士が使おうとすると自分だけでなく味方まで攻撃してしまうからだ。
だが、エルレインは一人で複数の敵を相手取る。しかも、外観以上に強い。
両刃剣を平然と扱えるのだ。かなりのものであろう。
「くっ、墜陽閃!」
追尾能力のある矢がナナリーの弓から放たれた。
だが、エルレインはあっさりとその攻撃を両刃剣の回転で無効化してしまう。
「射撃や晶術では埒が明かん、直接斬り込むぞ!」
ジューダスとロニが左右からエルレインに向かっていく。
エルレインは詠唱を二人が自分に到達する前に終えた。
「トリニティスパーク……!」
エルレインの左手から放たれた電撃が二人を襲う。
ダメージを受けた二人は已む無く引き下がった。しかし、エルレインはさらに晶術を使う。
「プリズムフラッシャ……!」
光り輝く剣が落下してくる。ロニとジューダスはさらに深手を負った。
「くっ……貴様ぁっ!」
「死ぬって! ……回復だ!」
ロニは走って戻り、回復晶術の詠唱を開始する。ジューダスは再びエルレインの方へと向かった。
「俺も行く!」
「ジューダス! 無理はするな!」
カイルとシンもジューダスの後に続いてエルレインへと向かっていく。
ジューダスは剣で斬りかかり、それを受け止められたのを見て、すぐさま左手の短剣で下から抉り込むように刺そうとする。
「無駄を知れ……。」

 
 

エルレインは少し自分の右手首を捻ったらしい。
それだけでジューダスの短剣を止めてしまった。
「ちっ……!」
ジューダスはバックステップを踏んで後退する。
同時に、シンの放った風の槍がエルレインへと向かっていく。
「愚かな……。」
しかし、穿風牙は再び旋回した両刃剣にナナリーの矢と同様叩き落された。
圧倒的過ぎる。しかし、それでも諦められない。
それがカイルだ。リアラを救う。それだけを胸にエルレインに挑む。
「無駄だというのがわからないのか……? お前たちの苦しみが増すだけだというのに……。」
エルレインはカイルの剣を受け止め、鍔迫り合いに持ち越した。
カイルは両手で剣を握り締めているが、エルレインは片手だ。
「俺が苦しんだって構わない。お前だけは許せない!」
「私は人々を救うための存在だ。私の邪魔をするということは、人々に苦しみを与えることになる。それでもいいと言うのだな?」
そこにシンが割って入った。エルレインの右から大剣で斬りかかる。
「あんたの救いとやらのせいで苦しんだ人間をこの目で見てきた! あんなのは救いなんかじゃない!」
しかし、エルレインは滑るように二人から離れた。
「あの者たちは少々幸せを独占しすぎた。辛酸を舐めてもらうのも悪くはあるまい……?」
「そんなわけがあるか! 努力とか理解とか、団結なんかの力で得た幸せだ! あんたの奇跡の力で得たものじゃない! 本物の幸せだ! 本物を奪って紛い物を押し付けるのが救いか、エルレイン!」
攻撃を避けられたシンはフォース形態に入れ替え、鏡影剣を使う。
しかし、エルレインはそれを回避した。
「だが、全ての人々がノイシュタットやハイデルベルグのようにはいかない。人間とは儚く弱い存在だ。紛い物であろうと人はそれを幸せと呼ぶ。」
シンはさらにエルレインにサーベルを振り下ろす。エルレインは攻撃を受け流し、またバトントワラーのように両刃剣を振り回した。
「本物知らないからそう言ってるだけだ! あんただって紛い物だって気づいているらしいな。
なら、本物がどうすれば手に入るかを教えれば済むことだ。楽していれば幸せだと、あんたに言わせやしない!」
彼は左手の剣を盾に変え、攻撃を受け止めた。
しかし、いつまでも持つものではない。回転の勢いは凄まじく、少しずつ削られていく。
「ならばお前が知らせてやればいい。他ならぬフォルトゥナの力を持つお前が!」
盾が崩壊した。シンは盾の崩壊直前に右にステップを踏み、エルレインに斬りかかる。
わずかながら切り傷を作ることに成功した。
「あんたを消してからやらせてもらう。俺自身の未来とともに!」
だが、エルレインは両刃剣で下からシンを薙ぎ払った。回避しきれず、胸に軽い傷を受けた。
「お前には変えられない。未来を変えることはできない。」
カウンターにシンは再び鏡影剣を使う。今度は影に命中し、エルレインの身動きが止まる。
「やってみなければわからないだろうが!」
影を纏った剣がエルレインに炸裂した。さすがのエルレインもこの攻撃には仰け反ったらしい。
そこを狙ってロニの回復晶術で立ち直ったジューダスが突っ込んでくる。
「粉塵裂破衝!」
床を少し抉り、その粉塵に剣と短剣をぶつけて火花を散らせてさらに仰け反らせる。
そして、ジューダスは更なる技を繰り出した。
「塵も残さん! いくぞ、浄破滅焼闇!」
もうもうたる黒い炎がエルレインを焼き払った。ジューダスは勝利を確信して剣を軽く振る。だが。
「闇の炎に抱かれて…………馬鹿なっ!」
エルレインは多少ダメージを受けたようだったが、ジューダスを背後から両刃剣で薙ぎ払った。
彼の体は簡単に弾き飛ばされ、礼拝堂の壁にたたきつけられ、そのまま動けない。
「お、おい、ジューダス!」
あわててロニがライフボトルを取り出したが、その瞬間にはエルレインが眼前に迫っていた。
「戯れもここまでだ。裁きを受けるがいい……。」
ロニはライフボトルを使う間もなかった。一瞬のうちにエルレインに斬られた。
「何だとっ……!」
この程度で死にはしないだろうが、そのままその場に倒れ伏した。
「くっ、牙連閃!」
無駄だとわかっていてもエルレインに攻撃するしかない。
ナナリーは弓を引き絞り、エルレインに向けて矢を連射した。
エルレインは両刃剣を旋回させながらナナリーの矢を叩き落し、そのまま彼女を弾き飛ばした。
「こんなところで……。」
仲間たちが次々と薙ぎ払われていく。
それも、目にも留まらぬうちにだ。
シンは抑え込んでいた、そして仲間によって抑え込まれていた狂気を表に出した。
「絶対……許さない! あんただけは絶対に討ち取ってやる!」
何が何でも勝たなくてはならない。そのために手段は選べない。
自分が悪魔になろうとどうなろうとも、これ以上傷つけさせるわけにはいかない。
「死ねええええええええええ! 火炎斬!」
シンのサーベルが火炎を纏い、エルレインに斬りかかる。
しかし、エルレインはあっさりと攻撃を受け止めた。
「無駄だ。デルタレイ、トリニティスパーク……!」
3つの光弾、さらにそれに伴う強烈な電撃がシンを襲う。
さらに、エルレインが間合いを詰め、シンの額に左の掌を当てて弾き飛ばした。
「シン、大丈夫か!?」
カイルはあわてて弾き飛ばされたシンの元へと駆け寄った。
しかし、そのシンのカイルを見る目は狂気と憎悪に溢れていた。
「はあああああああっ!」
凄まじい勢いでサーベルを振るった。カイルは剣でそれを止めたが、強烈な痺れが手に走る。
「ど、どうしちゃったんだよ、シン!」
「ぅぅうううう、がああああああああっ!」
獣じみた咆哮を放ち、シンは再びカイルに襲い掛かる。
今度はソード形態だ。先程よりもさらに威力を増した斬撃が迫る。
「シン、やめてくれ! 俺だよ、カイルだ!」
カイルはシンの重い一撃を回避したが、友誼を交わしたはずの赤い目の少年は殺意を剥き出しにして技を放つ。
「斬衝刃!」
扇状に広がる衝撃波がカイルを襲う。
この手の攻撃にしては広範囲に効果をもたらす。逃げ切れない。
「くっ……シン、どうしちゃったんだ? 俺のことがわからないのか? このままじゃ君を斬らなきゃいけなくなる!」
攻撃を受け、ふらつきながら迷うカイルにエルレインは言い放つ。
「その者は本来の任務を思い出しただけだ。そう、私の配下としての……。」
「そんなはずはない! 俺はシンのことを信じてる。シンが俺のことを殺そうとするはずがない!」
「信じる信じないは勝手だ。だが、この状況はどう説明するつもりだ……?」
シンはフォース形態に入れ替え、空中からカイルを斬ろうとしていた。
カイルはそれを避けたが、シンの殺意に満ちた瞳は間違いなくカイルに向けられている。
「ふぅうううううう、はあああああああああ!」
ジューダスに鍛えられた、素早く切断する力を強化した剣技が、本来の対象であるエルレインではなく、カイルに向けられてしまった。
彼はさらに鏡影剣を使う。左手の剣がシンの手から投擲された。
しかし、カイルが逃げたために影に刺さらず空振りに終わる。
「ええい、ちょこまかと……逃げるな……殺す!」
狂気に満ちた瞳がカイルを捕捉した。シンは猛然と斬りかかり、さらに穿風牙を放った。
「うっ!」

 
 

巻き起こされた風がカイルの足を滑らせ、彼は倒れてしまった。
そのカイルにシンがサーベルに憎悪そのものを纏わせて斬ろうとした、まさにその瞬間。
「……?」
シンが攻撃を止めた。エルレインの様子がおかしい。
どこか戸惑っているようだ。一方のシンはカイルから少し離れ、その場で六連衝を放っている。
攻撃対象もないのに、だ。
「シン、何をしてるんだ?」
さらにシンはソード形態に入れ替え、双炎輪を全く関係ない方向に投げた。
そして、双輪還元を使って小太刀を手元に戻した。
シンの奇行はまだ続く。彼はフォース形態に入れ替え、空中でバック転をしている。
6回ほど行ったところで、シンはエルレインの方に向き直った。
「……このっ!」
シンはエルレインに右手のサーベルを振るい、斬撃を加える。
エルレインはシンのサーベルを両刃剣で受け止めた。
「まだまだあ!」
さらに彼は、左手のサーベルをやや下から抉り込むように斬り上げる。
丁度ジューダスがエルレインにしたようにだ。
「……!」
エルレインは同じように手首を捻り、シンの左のサーベルを受け止めた。
しかし、どうやらそれがシンにとって一番確かめたいことだったらしい。
「やっぱりそうか。ふざけた真似しやがって! だが、これで終わりだ!」
シンの中で何かが割れた。
彼はソード形態をとり、反応できない速度で斬衝刃と追衝双斬を繰り出し、エルレインに攻撃の暇を与えない。さらに奥義を放つ。
「飛礫戈矛撃!」
重力操作によって床が破壊され、さらに至近距離のエルレインの動きをも封じる。
そして、旋回するアンビデクストラスフォームのクレイモアによって飛礫を巻き上げ、それを放った。
「くっ……何故……何故わかった……?」
シンはそれを無視し、ある技を使おうとしている。
奥義からさらに繋いで放たれる秘奥義だ。何が何でもエルレインを斃さなくてはならないのだ。
「ぶちのめす! ……ぶった切る!」
シンの頭上でアンビデクストラスフォームの大剣を彼から見て反時計回りに旋回させ、それを回転させたまま体の左側に移動させた。
回転の勢いで床が抉れ、エルレインに破片が飛んでいく。
「鋼断劈地撃!」
さらにシンはエルレインの眼前に接近したところで回転方向を反転させ、回転の勢いと共にエルレインに大剣を叩き付けた。
攻撃力防御力ともに高いソード形態ならではの、力ずくの秘奥義だ。
フォース形態が有する秘奥義剣時雨風葬は連続攻撃を主体とするが、こちらは破壊力だけに特化している。
とにかく破壊力がほしいときには便利な技だ。しかし、それでは済まさない。
「カイル、頼む!」
「わかってる。牙連蒼破刃!」
カイルは素早い連撃とそれに続く飛ぶ斬撃を、シンの攻撃でダメージが色濃いエルレインに加えた。
そして、カイルもまた秘奥義を使う。
「それですむかよ! 裂衝! 蒼破塵!」
大きく振りかぶり、強烈な衝撃波をエルレインに炸裂させた。
さらに十字に空を切り、エネルギーを集中させて斬り上げと共にさらなる衝撃波を命中させた。
さすがのエルレインもこの攻撃には耐えかねたらしい。よろついている。
「未来を変えられるとは……まあいい、次の手は……既に打ってある……。今度こそ……完全なる世界を……。」
エルレインはどこかへと転移したらしい。そのまま姿を消した。
「……危ない危ない。もう少しでカイルを殺すところだった……。」
シンは最初、自分がコントロールされていると気づいていなかった。
何しろ、体の制御を無理矢理奪われたわけではなかったからだ。
エルレインはシンに幻覚を見せていた。
エルレインがカイルに見え、カイルがエルレインに見えるように。そして、矛盾を減らすために聴覚を封じていた。
この方法自体は単純極まりないが、シンが力を使うと狂気に取り憑かれ、些細な違いを判別できなくなるため、絶大な効果があった。
シンの力を把握した上でこの方法を採用したのだろう。

 
 

シンが気づいたのは「エルレイン」の戦い方が変化したからだ。
エルレイン自身は足を動かしてちょこまかと移動するタイプではないことは、戦いが始まった段階で明らかになっていた。
ところが、エルレインに額を掌で突き飛ばされてから「エルレイン」はやたらと動き回るようになった。
その上、戦闘がやけに消極的になってもいた。
違和感に気づいたシンは、自分の背後にいる「カイル」の様子もおかしいことに気づいた。
一緒になって攻撃しようとせず、その場に留まっていたからだ。
彼は自分の体がコントロールされているかどうかを確かめるために、六連衝を空振りさせた。
そして、別の形態も確認する意味で双炎輪と双輪還元も試した。どちらも自由に行動できた。
さらに、戦闘とは何の関係もない動作と言う意味で、空中バック転を試した。
これも問題なく出来た。
そして、自分の体ではなく、視覚、正確には脳の視覚野をコントロールされていることに気づいたのだ。
シンが両手のサーベルで斬りかかったのは、「カイル」が手にしている武器がただのロングソードに見えているが、見えない現実はどうなっているのかを確かめるためだ。
結果、シンには何もないところで攻撃を止められたように見えた。それで確証が持てたのだ。
エルレインの様子では、どうやら未来を変えることができたらしい。
シンが未来を変えられたのは特別な力があったからでも、狂気を乗り越えられたからでもない。実際、まだ狂気は残っている。
彼は自分がしようとしていることに対して疑問を持つことが出来た。
何の躊躇いもなく実行すれば、カイルを殺していた。
自分のしていることを一歩引いたところから見て、その他の情報からそれで正しいのかを確認する。それこそが未来を変えた力だった。
もっと言えば立ち止まる勇気を持てたことが最大の要因だろう。突き進むよりも勇気がいるときもある。
見事にシンはその勇気をもって未来を変えたのだ。
「カイル……すまない、エルレインに幻覚を見せられていたんだ。本当に……すまない。」
シンは心から詫びた。何とか思いとどまることは出来たが、殺そうとしたことには変わりない。しかし、カイルはいつもの明るさで応える。
「いいんだ、俺はこうして生きてるんだし。それより、皆を助けないと!」
「俺がライフボトルを使う。カイルはリアラのところに。」
リアラも結界の中にいたせいか、ぐったりとしている。シンは急ぎロニたちにライフボトルを使う。
「リアラ! よかった、間に合って。リアラにもしものことがあったら、俺……。」
来ないと思っていた、そして来てくれたら嬉しいと思っていたカイルがそこにいる。リアラはそれだけで感極まった。
「どうして?」
「えっ?」
「もう来てくれないと思ってた。あんなひどいこと言ったんだもの、嫌われて当然だって思ってた。
それなのに……どうしてカイル!? あなたはどうして私のことを!?」
「言ったろ、リアラに初めてあったとき、君が探している英雄は俺なんだって。
英雄は困っている女の子を助けるもんだからね。どんなことがあろうと、必ず。」
「カイル……。」
リアラの瞳から涙が零れた。
彼女は慌てて取り繕うように言う。
「あ、あれ、違うのカイル。私、悲しくなんてない……。悲しくなんて……ないのに……。」
おそらくは嬉し涙というものなのだろう。
自分の英雄であればよかったと望む相手が助けに来てくれたのだ。嬉しくないわけがない。
カイルは思わずリアラを抱き締めた。いとおしむように。何よりも守りたい相手を。
リアラも涙を零しながらカイルを抱き返す。
ペンダントが反応しなくてもいい、カイルが英雄であってほしい。
彼女がそう思った瞬間、ペンダントからオレンジ色の光が零れた。それは優しく暖かい光だった。
そして、それは英雄が見つかった証拠でもあった。
「これは……。」
「本当に、あなただったのね、カイル。」
「えっ?」
「あなたが私の……。」
心の底から嬉しかった。
自分の英雄が誰なのか、その手がかりが尽きたとき彼女は絶望した。
だが、本当はすぐ傍にいたのだ。
どこまでも明るく、どこまでもまっすぐな、眩しいほど輝く少年、カイル。
カイルが自分の英雄で、本当に嬉しい。
それはカイルも同じだった。
英雄を目指すカイルにとっては、リアラに認められることが目的になっていた。
彼女を助けようとしたときはそんなことは頭から消し飛んではいたが、リアラを助けようという姿勢は正しく英雄のものだった。
親から素質を受け継ごうと受け継いでいなかろうと、カイルは英雄としての道を歩めるだけの資格はあった。
そして、それはリアラによって開花したのだ。
「行こう、リアラ。エルレインを追いかけるんだ!」
「ええ、カイル!」
シンは二人の様子を見ていた。本当によかったと思う。
しかし、この光景はシンが未来を変えようとし、それを実行したからこそ存在する。
その意味ではシンもまた、英雄である。

 
 

この日、二人の英雄が誕生した。
一人は英雄を探すリアラに認められた、カイル・デュナミス。
そして、もう一人は自らの運命を打ち破り、仲間を守りきったシン・アスカ。
二人の英雄が織り成す運命は、さらに過酷なものへとなっていくことを、このとき誰も予測できなかった。

 
 
 
 
 

TIPS

 


鋼断劈地撃:コウダンヘキチゲキ 地

 

称号
 運命の破壊者
  自分に課せられた運命を打ち破った者。
  その鍵は「自分の行動を省みること」。
  何よりも大事で見落としがちなこと。
   命中+1.0 回避+1.5 攻撃-0.5