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Fortune×Destiny_第22話

Last-modified: 2007-12-05 (水) 09:51:41

22 明かされた真実

 

一行はレアルタに到着した。
一休みした後、彼らは足をせっせと動かし、日が暮れる前に到着したのだった。
黄昏都市レアルタというだけあり、ドームの壁面は黄色い。
ヴァンジェロにしろスペランツァにしろ、こうも原色の壁面では目が痛い。
「とりあえず、中に入ろうか。中はどうなっていることやら。」
シンは相変わらずのエアロックに似た構造を操作し、自動ドアを開けた。
「ここも二重扉なのか。」
ヴァンジェロやスペランツァでもあったように、薬品の噴霧が行われ、内側の扉が開いた。
外は氷点下に達しているはずだ。
こんな環境では大抵の病原体は生きてはいられないはずである。
にも拘らず薬品の噴霧を行うというのは些か過剰な防衛策であろう。
「やれやれ、この薬品も中の人間を弱体化させた要因なんじゃないのか?」
シンはそうぼやいた。
それに、過剰な薬品の使用は細菌やウイルスの突然変異を促す要因にもなる。
薬品に対する耐性が生じ、薬で殺滅できなくなるのだ。
そのせいで病気が流行したこともあるらしい。
この世界でも同じことが起きるかもしれないのだ。
そのあたりはエルレインがコントロールしているのだろうが、いずれ限界が出てくるはずだ。
「そうならないうちに、歴史の改変がどうなっているのかを確認しないと。」
手掛かりというものがあるかどうかはわからない。
しかし、もう後がないのだ。無理でも探すしかない。
「レアルタって、元の歴史の流れだとハイデルベルグと同じ場所にあるんだよね? だったらウッドロウさんがいたりして?」
「そんなわけがあるか。とにかく、歴史を確認できる施設を探すぞ。」
相変わらずこのドームの中は快適な気温と湿度、そして塵のない清浄な空気で満たされている。
変化のないものが3つあるだけの世界は、やはり気分が悪い。
中で生活している人間には悪いが、ドームを叩き壊して寒くしたい。
多少寒くてもいい。焚き火の暖かくなる感触が恋しいのだ。

 
 

途中、一行は不思議な壁画を見つけた。
浮き彫りにされたそれは、長い髪を振り乱し、大振りな斧を振りかざして、人々に襲い掛かるモンスターを追い払っているように見える、大男の絵だった。
「これは……。」
シンは嫌な予感がした。この絵姿には見覚えがある。
それも、背筋に寒気がするような相手だ。
「下に名前が彫ってあるな。英雄バルバトス……。人を守りしエルレインの使徒……。」
「バルバトスだって!? あいつが英雄!?」
冷静さに驚きを含んだ声でバルバトスの名を読み上げるジューダスと、怒りを含ませて叫ぶカイル。
この反応は当然だろう。
「バルバトスが英雄になっている、ということはエルレインに何らかの手助けをしたということだな。」
歴史の一部がわかった。
しかし、それは断片に過ぎない。
住民達に歴史の記録を伝えるようなものはないかと聞いて回るが、あったらしいが場所はわからない、という返事ばかりだ。
「歴史を学ぶ意味がなくなった、ということか。歴史を学ぶということは、過去の失敗を後世に伝え、後の世で同じ過ちを繰り返さないようにするという意味がある。」
「それが失われている、ということはつまり、天地戦争のあとに起きた何かでずっと安定して、変化といえるものがなくなったってところか。」
保護者コンビの言葉は間違いではあるまい。
歴史は繰り返されるというが、繰り返されるのは人が歴史を忘れてしまうから、という問題だけではない。
忘れないようにすれば繰り返されることはないはず、というのが理想論である。
しかし、人は「わかっていてもその方向に引っ張られてしまう」傾向がある。
故に歴史を繰り返す。それも、愚かだと思われる方向にだ。
だが、その法則性がわかっていれば多少は結果回避をできなくもない。
戦争が起きることを予知できれば住民を逃がすことも出来る。
経済の動きにしても、人間の欲求や自然の動向などから金銭の動きを読み取ることもできる。
金銭及び人命、そして精神の面において被害の軽減を行えるということが、歴史を学ぶ最大の恩恵なのだ。
しかし、エルレインによって作り出された箱庭の世界は争いごとがない。
それは幸福なのかも知れないが、知らないことは今まで生きてきた、そしてその犠牲のもとに生み出された教訓を蔑ろにすることになる。
これを幸福と認めることは、シンには出来なかった。
しかし、彼はそれを言うことが出来ない。
「でも、それはこの世界が幸せだったってことよね……。」
リアラはそう呟いた。それを聞き逃すカイルではない。
「どうしちゃったんだよ、リアラ。リアラは元の世界に戻れなくてもいいの?」
「うん、でも……もし、もしもよ、私達が最初からこの世界で平和に暮らしていたとしたら……。そうしたら……。」
「それはありえない。俺がちょっとした冒険に出ようと思ったからこそ、ラグナ遺跡で君と出会えたんだ。この世界にはどう見たって冒険なんて言葉はないよ。ドームから出られないんだし。だから、俺たちの出会いそのものがなかったことになるんだ。」
「……そう、そうね。」
「それに、ここには父さんも母さんも、フィリアさんもウッドロウさんもいない。俺たちと出会って、色々助けてくれた人たちがいない世界なんて、俺は嫌だ!」
論理的な説明が苦手なカイルにしては、なかなかの名演説だ。
感情が強く出ているのは仕方ない。シンもおそらくはあのくらい感情が強く浮き出ることだろう。
「うん、わかった。あなたの言うとおりだわ。人々を幸福に導くのが私の使命……この世界が幸せなら私の使命も終わりだと思った。けど、確かにあなたの言う通りよ。過去を否定してしまうこの世界は、やっぱり駄目なんだよね。」
「ありがとう、リアラ。わかってくれて。」
カイルは目を輝かせてリアラの手を取った。彼女も微笑み返す。
何とも熱い関係だ。見ていてこちらが恥ずかしくなる。
「シン、お前も何かありそうだな? この世界に来て、肝心なときに黙っていたようだが。」
ジューダスはシンの態度に気付いていたらしい。
ロニも同意するように口を開く。
「そういや、そうだよな。結構感情的になるお前が、やたら冷静にヴァンジェロの様子を語ったり、スペランツァじゃ全く喋らなくなったり。ここに来てもそうだ。エルレインへの批判の言葉が全然ねえ。」
二人の鋭さに半分感心し、半分呆れながらシンは言った。
「いや、俺は未来の俺から話聞いて皆を助けたわけだろ。だから、俺がしたことはエルレインと同じじゃないかって、そう思ってさ。人のこと、言えないから……。」
「あ、そりゃそうだがよ、けど俺たちを助けたことは変わりないんだし。」
「ああ、確かに。助けられたことは嬉しい。ただ、未来を知ってから、その結果変えようとしたこと自体は何の変わりもないわけだから。俺は判断を皆に任せるだけにしようと思ったんだ。」
主体性がないのもわかっている。
しかし、彼にはそうすることしか出来なかった。自分のために結果を変えたのだから。
そして、それが起きることを10年後の自分から聞いていたのだから。
「シン、お前の気持ちもわかる。だが、よく考えてみろ。お前は10年後の自分から話を聞いたと言っていたな。では、その10年後のお前はどうしていた? 僕の想像が正しければ、やはり10年後のお前もそれより未来のお前から聞いていたはずだ。」
ジューダスが何を言いたいのか、よくわからない。
たが、カイルは内容がわかったらしい。
「そうだよ。きっと未来の君はそのまた未来の自分から聞いた情報を基に行動してたんだ。けど、皆失敗して俺たちを殺してた。でも、シンは違った。他の、それまでのシンができなかったことを、シンはできたんだ。」
「そういうことだ。むしろ誇るべきことだ。変えられないはずの巡る時の流れをお前は断ち切ったんだ。エルレインは変えられないはずだということを知っていた。やつはお前の未来を変える力を恐れたんだ。」
「でも、俺が未来を変えたからエルレインは強硬手段に出たのかも……。」
なおも言い募るシンに、カイルはシンの頬に拳をぶつけた。シンは下から抉りこむ鉄拳に対応できなかった。姿勢を崩し、レアルタの清潔な床に倒れこむ。
「ぐっ……!」
「シン! 何でもかんでも自分のせいだって思わないでくれよ! 確かにシンが未来を変えたことはきっかけだったかも知れない。けどさ、俺、思うんだよ。エルレインは結局、こういうことをしてたんだって。」
「……。」
「エルレインの言ってる幸せってのが、結局どこにあるのか知らないけどさ、多分俺たちが辿ってきた歴史の中ではエルレインの目的は果たせなかったんだと思う。だから、きっといつかどこかでこういう歴史の改変をやってたよ。」
シンは黙るしかなかった。反論できない。言われてみれば確かにそうだ。
「…………確かにそうだな。カイルの言っていることは正しいだろう。エルレインがここまで元の世界と違ったものを作り上げるとなると、今までの歴史の流れでは不可能だったはずだ。いつかはこうなったのは間違いない。」
ジューダスは一度言葉を切り、続けた。それが一番彼の言いたいことなのだろう。
「僕たちがシンに救われようと、そうでなかろうとな。」
シンの心が、急に温かくなった気がした。目に水分が集中した気がしたが、それをぐっと堪える。
「ジューダス……。」
ジューダスに続き、カイルも言う。
「だからさ、シンは何も悪くないんだ。だから、一緒に行こう。君が元の世界に戻るまで、俺たちはずっと、ずっとシンの仲間だからさ。」
仲間であること。シンは何よりもそれを言われたかった。
孤独な戦いをする必要がないことを、改めて思い知らされた。
「カイル……すまない。わかった。俺は皆の仲間で皆の英雄だ。俺が立ち直らないわけにはいかない。何が何でも歴史を戻す。これで、いいんだな? カイル。」
「うん、それでこそ俺の知ってるシンだよ!」
正直、カイルとジューダスには感謝しなければいけない。
人の心にダイレクトに光を照射するカイルと、冷静かつ論理的に物事を説明するジューダスのコンビなら、大抵の人間は説得されるだろう。
そして、彼らには一切の打算がなく、相手を労わってアクションを起こしている。
シンはそんな二人に出会えて、本当に幸せだと思う。
それこそ、悩み苦しんだ上で出会えた本物の幸せだ。
その本物の幸せを奪おうとし、別のものを押し付けようとするエルレインを許せない。
そう、許すわけにはいかないのだ。

 
 

「しかしカイル。お前、あんなに考えられたんだな。びっくりしたぜ。」
ロニの言うことは尤もだ。
普段の態度を考えれば、リアラやシンを納得させる台詞はカイルの口から出せるとは思えない。
カイルは少々頬を膨らませつつ言う。
「ひでえ。俺だって真剣に考えることだってあるんだからな!」
「カイルが真面目にもの考えるなんて、明日は雪の代わりに剣が降りそうだな。」
「全く、ロニ。あんたはカイルの成長を喜んだりしないのかい? あんたの弟分なんだろ!?」
ナナリーがロニにコブラツイストを仕掛けた。ロニは全く抵抗できずに悲鳴を上げる。
「いやあああああああぁぁああ! やめてくださいナナリーさん、俺の関節はそっちには曲がりません!」
つい先刻までシリアスな雰囲気だったのに、すぐに喜劇劇場と化すのだから、全く退屈しない。
そして、ストレスというものを感じない。
もうこの雰囲気で頭痛がすることはなくなった。だが、ふと思う。
「俺もこの喜劇劇場に引き込まれてないのか?」
と。既に引き込まれてツッコミ担当になっているわけだが、シンはまだ気付いていないらしい。
「俺はコメディアンにはなれないんだがな。」
シンは本来喜劇より悲劇役者の方が似合うのだが、周りにいるメンバーがこれだ。
どうやら喜劇役者に甘んじるしかなさそうだ。
「そんなことより、まずは探さないと。」
彼は馬鹿馬鹿しい不安を頭の中から追い出し、歴史の記録がないか探す。
先程の壁画では断片に過ぎない。もう少し大きな破片がほしいところだ。
「なあ、皆。ここ、何だと思う?」
カイルが何かに気付いたらしい。シンがそこを見てみた。
コケとツタが生えたただの壁に見えるが、確かに違和感がある。
何か、普通の壁にしては妙なところがある。ただ、それをはっきりと裏付けることが出来ない。
よくよく見ると壁に切れ目のようなものがある。これが違和感の正体らしい。
「扉、かな。蹴飛ばしてみるか!」
シンは壁の切れ目に思い切り回し蹴りを炸裂させようとした。
しかし、その必要はなかったらしい。シンの足が触れる直前、自動ドアだったその壁が開いた。
「うわっ!」
シンは無様にもその場で回転し、その勢いのまま転倒して強か膝を打った。
「無様だな。さあ、いくぞ!」
ジューダスは淡々と足を抱えて悶えるシンの横を抜けて中に入っていった。
「うう、自業自得か……。」
「シン、ヒールかけようか?」
リアラがそっと囁くが、シンは首を横に振った。
「いや、大丈夫。何ともないから。」
彼は優しい微笑を見せ、ジューダスの後を追った。
追ってから気付いた。ここまで自分は笑えるようになったのか、と。
「どうやらここらしいな。」
ジューダスはスペランツァにあったものに似た映写機を見つけた。どうやら映像資料らしい。
試しにボタンの一つを押してみた。
その瞬間、ホログラフィが6人の前に出現した。

 
 

世界はかつて二つに分かれていました。
一つは天空に浮かぶ都市ダイクロフトに住む天上人。
一つは地上に住み、ダイクロフトによって支配される地上人の世界です。
天上人の圧政に反旗を翻した地上人たちは地上軍を編成し、天上軍に戦争を挑みます。
これが人類史上最大にして最悪の戦争、天地戦争でした。
地上軍はダイクロフトに対抗すべく空中戦艦ラディスロウを建造、天上人たちに総攻撃をかけます。
しかし、天上軍の力の前に地上軍は敗れ去りました。
天地戦争は天上軍の勝利によって終結したのです。
戦争は終結したものの、天地戦争の爪痕は地上を修復できないほど蝕んでいました。
山は削られ、森は焼け、川は干上がりましり、最早地上は人間が住めないほどの痛手を受けていました。
その影響は地上からの物資を支えにしていた天上人の世界にも影響を与えました。
人々は絶望に嘆くしかなかったのです。
救いの手が差し伸べられたのは、そんなときでした。
神は一人の救世主を地上に遣わしました。その名は、エルレイン。
彼女は人々にレンズという希望を与えました。
それは、荒れ果てた世界でも生きていけるよう、特別な力が込められていました。
エルレインはドームを作り、人々が幸せに生きていけるようにしました。
そして、人々は自らの行いを悔い、神に感謝するようになったのです。
忘れてはなりません、今我々が生きているのは神があってこそであることを。
そして繰り返してはならないのです、我々が過去に犯した過ちを。

 
 

ラディスロウがベルクラントの攻撃を受けて吹き飛ばされるシーン、荒れ果てた大地、エルレインが地上に降り立って
レンズを人々に与える場面、そして、ドームの周囲の荒れ果てた光景。
どこまでも洗脳するもの、というよりも自分達にとって都合のいい情報ばかりを集めたもののように、シンには思えた。
おそらく、ここには嘘はない。しかし、その背後にはエルレインによる歴史の改変がある。
それを考えると、シンは苦虫を噛み潰したような表情になった。自分の都合のいいように歴史を作り変える。
五十歩百歩と言われるのは必至だが、自分がしたこととはあまりにも規模が違いすぎる。
「間違いないな。天地戦争の勝者と敗者を入れ替え、自分は混乱した世界にやってきて救いの手を差し伸べる、か。とんだ三文芝居だ。」
ジューダスも自分と同じ気持ちらしい。ロニも決意を固めながら言う。
「これでやつらのしたことははっきりした。次は時間移動に必要なレンズだな。」
「そうそう大量のレンズがあるとは思えないが。ただ、一つだけあてはあるぞ。」
シンの言葉に全員が振り向いた。
「こっちの世界に来た時に見たけど、ベルクラント使ってエネルギー送ってたろ? あんな大規模なエネルギー、どこから取り出してると思う?」
「そうか、ダイクロフトの神の眼だ。他にもレンズがあるかも知れない!」
「なら、ダイクロフトに行く方法を探さないと。」
そのとき、6人はエルレインの声を聞いた。
「人々よ、戸を開き、外においでなさい。」
どこからともなく聞こえる。
上というより、ドームの天井付近に設置されたスピーカーからではないかとシンは思った。
「外に出てみよう。何かわかるかもしれない。」
6人は資料室の外に出た。人々が全員外に出て、空、というよりもドームの天井を眺めているようだ。
何が始まるのかはわからなかったが、次の瞬間には何なのか理解できた。
ベルクラントからエネルギーが放射され、それがどこかにぶつかる。
そして、それが3方向に散っていき、その内の一つがレアルタのドームに命中した。
そして、天井から光の粒子が降ってくる。
それを人々は額のレンズに受けている。
どうやらあれを使って、定期的に健康管理や体力の回復を行っているのだろう。
「なるほど、こういう方法で人間を家畜化しているわけか。
何のために人間を飼育しているのかはわからないが、これではね。」
シンは吐き捨てるように言った。
ドームの中でしか暮らせず、定期的に適度な「世話」をする。
それも上から見るという態度でだ。まさしく飼育そのものだ。
「箱庭の次は飼育かい。まったく、あたしたちの仲間の学のある連中はすごいことを平気で言えるね。」
「だが、この現状はまさに飼育だな。この状況を少なくとも僕は許せない。」
しかし、一番の問題はというと。
「考えなきゃいけねえのは、どうやったってあのダイクロフトに行く方法、だよな。」
「この世界にもフォルトゥナ神団が存在することを考えると、おそらく普通の人間でもあそこに行く方法があるってことだよな。」
「その通りだ。あれこれ人事を行うためにはやはり、エルレインと直接対面する機会がなくてはならないだろう。そのための移動手段が必ず存在するはずだ。」
ロニ、シン、ジューダスがそれぞれに意見を出し、考える。
その間にカイルが方法を聞いてきた。
こういうときの情報収集はカイルが一番の適任者である。
「皆、行く方法がわかったよ。光のほこらって場所があるらしいんだ。このレアルタの北側にある山を登るんだって。」
「あの雪山をか。面倒だがそこしか道がないなら行くしかなさそうだな。」
「遭難したら大変だから、今日はここで休んでいこう。今回ばかりは外で寝たら凍死するから、ドームの中で一泊だな。」
「やれやれ、ここの空気は好きじゃないんだけどね。凍死はしたくないから、我慢だね。」

 
 

一行はレアルタで一泊し、朝に改めて光のほこらに向けて出発することになった。
レアルタ北の山にある参拝道はそれなりに整備されていたが、険しい山であることには変わりない。
また、道を少しでも外れると滑りやすく崩れやすい雪に足をとられてしまう。
用心に越したことはない。シンはいざとなったら飛行体勢を取れるように身構えている。
「皆、大丈夫か? 苦しかったら俺が飛行能力で引っ張りあげるからな。」
「便利だよな、お前は。とりあえずオレンジグミ食ってたら飛び続けられるんだしよ。」
「そうでもないよ。飛び続けていたら血行が悪くなったりするし。
前も言ったけど空中で白兵戦なんかやったら威力が低下するんだからな。」
飛行能力は確かに便利といえば便利なのだが、地上にいるときよりも行動が制限されることもあるので不便でもある。
結局は二つをいかに切り替えるかというところにあるのだろう。
一行は何事もなく光のほこらに到着した。
天井板の抜けた円形の天井、というのだろうか。そんな構造物と円形の土台があるだけの簡素なものだ。
見張りの兵士らしき男が制止するが、彼らは知ったことではない、と言わんばかりに円形の土台へと足を踏み入れた。
「エルレイン! 聞いているんだろ! 俺たちをダイクロフトまで連れて行け!」
カイルの宣戦布告とも取れる発言は、どうやらエルレインに届いたらしい。
「いいでしょう、あなた方が望むままに。」
6人は光に包まれ、次の瞬間には猛烈な勢いで上昇していく感覚が襲っていた。
そして、彼らはそこに到着した。
歴史を改変した元凶であるエルレインのいる、ダイクロフトにだ。
天空都市ダイクロフトはエルレインの本拠地だけに、天使を模した像や神殿のような磨かれた床が輝いていた。
シンには悪趣味だと捉えられたが。
「わざわざ敵を呼び寄せるとは、大した自信家だな、エルレインはよ。」
「それだけ何かの仕掛けをしているんだろうな。注意するに越したことはないが……無駄か。」
ジューダスは自分の考えに苦笑した。
どれだけ注意を払おうと、結局はカイルの暴走で罠に引っかかる。それを処理するのは自分だ。
カイルの暴走はそれほど質が悪いものではないのだが、それだけに苦労する。
だが、ジューダスはそれでもいいのだと思った。
「さてと、お出迎えらしいぜ!」
ロニがハルバードを構えた。
その声にあわせてシンも素早くソード形態をとった。
「カイルさま、リアラさま。ここはお引き願えませんか。」
彼らの前に現れたのはダンタリオンという名前の老神官だった。
その後ろには弓箭兵一個小隊(15人程度)を引き連れている。
「俺たちはエルレインを止めなきゃならないんだ! そこをどけ!」
「やむを得ません、私も私の信じる道を選びましょう、エルレイン様の理想という道を! 撃て!」
ダンタリオンが叫ぶと同時に弓箭兵隊の後ろに隠れた。
一斉に弓箭兵隊が矢を放つ。今度は障害物も何もない。そのまま矢が接近する。しかし。
「黙れ、ついでに死ね!」
狂気に取り憑かれたシンが、斬衝刃を使ってまとめて矢を破壊した。
さらに、すぐさまフォース形態に入れ替えて弓箭兵隊に迫る。
「このおおおおおおおおおおおおおおおお!」
目が正気を失っている。敵意に反応して殺すことしかできない。
仲間を守りたいという意志が味方に攻撃をさせないが、放っておけば制止しようとする味方にすら剣を向けるかも知れない。
それはシンの力が伸びている証拠でもあるが、ここまで強い狂気に取り憑かれるのはまずい。
取り憑かれたくないが、今の自分ではどうしようもない。
そして、抑え込む術が見つからぬまま力とともに狂気だけが強くなる。
どこまでも狂気はついて回る。だが、使うことをやめることはできない。
これがないと仲間を守れないからだ。
「はああああああ、があああああああああ!」
弓箭兵たちが攻撃する暇もあらばこそ、彼はダンタリオンも全く反応できないまま、老神官の目の前に立ちはだかっていた。
ダンタリオンの戦術にも問題があった。
前衛部隊を配備せずに、弓箭兵だけで攻撃させたからだ。これでは飛び越えられて接近されればおしまいである。
シンの瞳がダンタリオンを捉えた。同時に彼の中で何かが割れる。
「斬衝刃!」
強烈な衝撃波がダンタリオンを襲った。
さらにシンはブラスト形態に入れ替え、鎗で攻撃を仕掛ける。
「ふっ、はっ、せいっ!」
ダンタリオンの武器は杖だ。鎗はその杖よりもリーチが長い。
離れた位置からダメージを与え、さらに接近戦に持ち込む。それが鉄則だ。
右手の鎗で突き、続けて左手の鎗で突きかかり、さらに右手の鎗で払う。
さらにシンはソード形態に入れ替えた。鎗が大剣に変わる。
「影殺撃!」
大剣が唸りを上げ、さらに影から黒い槍が襲った。
さらに続けて影殺狂鎗を使って包囲する黒い槍でダメージを与えていく。
さらに、シンはフォース形態に入れ替えて奥義を放つ。
「飛天千裂破!」
急降下しながらの突き、さらに12連続の刺突を放ち、ダンタリオンを仰け反らせた。
しかし、それで終わらせはしなかった。
「風に舞い散れ! 剣時雨……風葬!」
秘奥義、剣時雨風葬だ。破壊力が低いとはいえ、全ての形態をつぎ込んだ攻撃だ。
多少は効果がなくては困る。しかし。
「ここまでやるとは。だが、やらせん!」
ダンタリオンが杖を振るい、シンの体を弾き飛ばす。
シンは狂気に取り憑かれたまま空中で体勢を立て直し、サーベルを構えて突撃する。
「エアプレッシャー!」
ダンタリオンはシンが接近する前に中級晶術の詠唱を完了させていた。
重力の変化とそれに伴う気圧の上昇を受け、シンは床に叩き付けられた。
「ぐっ……があああああああ!」
それは人の悲鳴ではない。獣の咆哮そのものだ。シンの瞳に宿る殺意も人が持ち得るものではない。
野獣、それも猫科の獰猛な捕食者のものだ。
「ふぅぅぅぅううう、があああああっ!」
狂気に満ちた目でダンタリオンを睨み、サーベルそのものにも狂気を纏わせるかのように剣を振るう。
しかし、ダンタリオンは仰け反るどころか、杖で殴り返した。
「がっ……!」
遠く離れた位置まで飛ばされた。
先程まで攻撃されたい放題だったというのに、この違いはあまりにも激しい。
さらに、倒れ込んだシンに弓矢の嵐が襲い掛かる。まだ弓箭兵は残っていたのだ。
「あ……うがああああああ!」
狂気と同時に極端な怯えを見せ、矢を剣で払い落とす。
しかし、それにも限界がある。右肩に矢が刺さってしまった。
「ぐっ……が……。」
獣じみた狂気に取り憑かれる以上、反応も獣のようなものとなってしまう。
猛獣は自分に対して敵意を持つものに果敢に襲い掛かるが、いざ自分が殺されそうになると怯えて逃げ出そうとする。
敵を斃せる内はいいが、負け始めると異常に脆い力なのだ。
以前に述べたようにシンの力の源であるブレスレットの半分は戦う者の意思から作られている。
何のことはない、つまりは本能を強めるものなのだ。
敵意を持つものに対しての攻撃性も怯えも「自己保存」という本能によって行動している故だ。
人間は理性を持ってこその生き物である。今のシンはそれを捨ててしまっているのだ。
「があああ……!」
右肩の矢を引き抜き、弓箭兵に斬りかかろうとするが、右手が動かない。
そのままシンに向って矢が刺さろうとした、そのとき、晶術が炸裂した。
ダンタリオンではない。リアラのスラストファングだ。
シンを襲った矢が全て切り裂かれ、攻撃を無効化した。
さらに、ロニの回復晶術がシンの右肩を癒す。
「シン、正気を取り戻せ! このままでは勝てん!」
「そうだ、狂気に取り憑かれたままじゃ、ぜってえ勝てねえよ!」
「シン、頼む、俺たちのためでも狂気に頼らないでくれ!」
「お願い、自分を見失わないで、シン!」
「誰もあんたを失いたくないんだ、正気を取り戻しておくれよ!」
仲間達の声がシンの頭の中で渦を巻く。
シンは一度だらりと空中で力をなくしたが、すぐに仲間達の元に戻ってきた。
「すまない、どうかしていたらしい。とにかく、落ち着けた。
今は散開して各個応戦! 晶術に巻き込まれるぞ!」
普段の調子が戻ってきた。何とか以前のように戦えそうだ。
ならば、とシンは弓箭兵隊の足元すれすれを飛行する。
「こいつでどうだ!」
シンは下から掬い上げるように斬りかかる。接近されては何も出来ないのだ。
即死させることは出来なかったが、深手を負ったことは間違いないだろう。
「今だ! 皆ダンタリオンに攻撃してくれ!」
今まで矢による攻撃でどうにも近づけなかった5人は、一斉にダンタリオンに襲い掛かる。
「くっ、スプラッシュ!」
ダンタリオンの晶術が5人を襲うが、彼らはばらばらに接近していた。
狙いを定めることが出来ず、誰にも当てることは出来なかった。
「空翔斬!」
カイルがジャンプし、上から押し切るようにダンタリオンに斬りかかる。
ダンタリオンはそれを杖で受けた。
「よっしゃ、行くぜ! うりゃ! 雷神招!」
カイルに動きを封じられている。避けられない。
ダンタリオンは雷を纏った斬り上げ、さらに叩き落しを食らった。
「ぐうっ!」
ナナリーはさらに追撃にと弓を引き絞る。
「まだまだ! 龍炎閃!」
竜の姿の炎を矢と共に放った。最早一度仰け反ると攻撃を止められない。
とどめにとジューダスが突撃してくる。
「幻影刃! まだだ!」
突きと共にジューダスの姿がまさに幻と化してすり抜け、さらに背後から突きを放ちながら戻ってくる。そして。
「粉塵裂破衝!」
床を抉って石飛礫を細かくしながら長剣と短剣をぶつけて粉塵爆発を起こした。
この爆発は地味ながら大きな衝撃をもたらす。ダンタリオンはついに斃れた。
時を同じくして、シンの手により弓箭兵部隊は全滅した。邪魔者は排除した。
後はエルレインの元に行き、そしてレンズを奪って1000年前に行くだけだ。
「よし、行こう!」
カイルは全員に号令をかける。シンは思う。
自分が仲間の中だけの英雄であろうとなんだろうと、カイルが中心になって集まった仲間達である。
カイルこそが自分達の英雄なのだろう、と。
頼もしいカイルに満足しながら、シンは仲間達と共にダイクロフト中心部へと足を踏み入れた。

 
 
 
 

TIPS

 

称号
 シルエットマスター
  フォース、ソード、ブラストの各形態を一続きの連係で繋いだ者に与えられる称号。
  普通はスタミナが持たないのに……スピリッツブラスターを使いましたか?
   攻撃+1.0 TP回復+0.5 TP軽減+0.5 回避+0.5