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Fortune×Destiny_第26話

Last-modified: 2007-12-04 (火) 10:27:46

26 守るべきもの

 

シンが多大なる犠牲を払ってくれたお陰で、一行は後にソーディアンチームと呼ばれる面々と、地上軍総司令と対面することができることになった。
仲間に何が起きたかは、シンは言わなかった。当たり前である。
意図しなかったとはいえ、ハロルドの胸を掴み、そのために闇の具現結晶の直撃を受けたのだから。
ハロルドはシンが何か逆らおうとするたびに、
「裁きのとき来たれり……。」
と口にして彼を脅した。何しろ、この一言でシンは沈黙する以上に、パニックに陥るのだ。
ハロルドの方もそれが楽しいらしく、適当にこの台詞でからかう事にしたらしい。
このやり取りのせいで、闇の上級晶術の詠唱の冒頭部は、シンのブロックワードと化してしまった。
「でも、実験はこれからよー。死なないように解剖するからね。」
「……本当に大丈夫なんだろうな、ハロルド。」
「シン、あたしを誰だと思ってるの? あたしは大天才科学者ハロルドよ。五体満足で終わらせてあげるから。ぎゅふ、ぎゅふふふふふ……。」
とりあえず信用することにした。
考えてみれば自分が死んだらデータ採取できなくなってしまう。
生かしておくつもりはあるはずだ。
それに、この世界の科学者としても、技術者としても、トップクラス、というより彼女の技術力に勝てる者は皆無のはずである。
人体用のソナーやバチスタ手術に用いるケーブルのようなものを使えば、安全に「解剖」に近いことができる。
その上、ハロルドは回復晶術であるキュアを使用できるのだ。
死ぬようなことはない、と思いたいところだ。
「しかしシン、お前ハロルドの助手になったと言ったな。大丈夫なのか?」
ジューダスがシンに問いかける。当然だろう。ハロルドの奇人ぶりは尋常ではない。
「……あそこまですごい人はなかなかいないけど、まあ、大丈夫だよ、多分……。」
命は惜しいが、自分一人の犠牲で済むならそれに越したことはない。
仲間たちも比較実験対象にはなるだろうが、おそらくは採血くらいであろう。
「けど、シン。あの歴史的な大科学者、ハロルド・ベルセリオスの助手に選ばれるなんてすげえよなあ。だってよ、文献じゃあ何か作るときも、助手つけずに一人だけでやってたって書いてたぜ。」
「じゃあ、シンって凄いんだ!」
「その凄さのせいでハロルドに捕まって、あたしたちを実験対象にしないようにしてるんだから。シン、無理すんじゃないよ。」
「何とかなるよ。一応これでも機械に関してはそれなりに知識あるし。整備だって簡単なのはできるから。……解剖されるかもしれないけど。」
「あ……そのときは私がどこかで見張っておくわ。危なくなったらレイズデッドかけるから。」
「リアラ、ありがとう。まあ、ハロルドのことだから死ぬようなことはしないと思うから、うん。」
そんな遣り取りをしている間に地上軍旗艦、ラディスロウの入り口に到着した。
ハロルドは自動ドアを操作し、6人を招きいれた。
「あー、皆いるみたいね。ちょうどよかったわ。」
この態度は、彼女のいつもの調子なのだろう。
司令室と思われる場にいた全員が、やれやれという表情になった。
この司令室には演壇のような場があり、その前に長い楕円形の机がある。
この場で天地戦争の数々の作戦が講じられたのだ。シンは少々軍人としての血が騒いだ。
「えーと、まずは地上軍の上層部の紹介をするわね。まず演壇に立ってる偉そうなのがリトラー。リトラーの右手にいる茶色い髪した彫りの深い顔のがイクティノス、その隣にいる線の細そうな金髪がシャルティエ。」
ジューダスの眉が動いたようだった。彼が所持するソーディアンのオリジナルがその場にいるのだ。
ある意味では自分にとって一番身近にいる人物の過去を見ているのだから、多少興奮するのだろう。
しかし、ハロルドはお構いなしに続ける。
「シャルティエに向かい合ってる、青い長髪の白い服がディムロス。一番手前が兄貴のカーレルよ。」
彼女はそう言うと、今度はリトラーの方に向き直った。
「今度からあたしの工兵隊に所属することになった6人よ。さ、皆名乗って。」
「カイル・デュナミスです。」
「同じく、ロニ・デュナミス。」
「リアラと申します。」
「ジューダスと名乗っている。」
「ナナリー・フレッチさ。」
「シン・アスカであります!」

 
 

背筋を伸ばして名乗るだけのほかの5人と違い、シンだけはザフト式の敬礼をした。ハロルドを含む6人はぎょっとしたが、そのまま話は続く。
「ハロルド、私はそんな話を聞いていないが?」
低い大人の男の声が聞こえる。ディムロスだった。
「それに、まだ子供ではないか! 子供を戦争に参加させるなど……。」
今度はスマートな声のイクティノスが異を唱える。彼は元情報将校である。
何度も少年兵が徴用され、そのまま死していくという報告を耳にしている。いたたまれないのだろう。
「あたしの製作したHRX−2型を斃した、と言えば問題ないかしら? それに機械の知識もなかなかのものよ。」
「あのHRX−2型をですか!? それはすごい!」
シャルティエが驚嘆の声を上げた。彼はこの面々の中で最年少である。
戦士としての素質も乏しく、ソーディアンチームに所属していても劣等感がある。
彼はそんな自分が悔しく、何度かハロルドが製作したHRXシリーズと戦い、何度もぼろぼろにされている。
それを6人がかりとはいえ破壊してしまったのだ。
戦う者としての技量を素直に認めたらしい。しかし、ディムロスはにべもなく言う。
「だが、子供は子供だ。許可できん。」
「工兵隊の人事権はあたしにあるはずだけど?」
「全軍の人事権は私にある。」
「んじゃ、あたしは地上軍を辞めるわ。ソーディアン抜きでダイクロフトに突入してらっしゃい。
 全滅しても知らないわよ。」
これがいつもの脅し文句なのだろう。全員は深いため息を吐いた。
「ま、まあ、ディムロス中将。ハロルドもこう言っていることですし、いいではありませんか。
 それに、工兵隊に必要な機械の知識と言うのもなかなか。
 ハロルドがそこまで認めるのです、許してやってはもらえないでしょうか。」
ハロルドの袖口についている毛皮のようなものを、同じように袖口につけたコートを身に着けた人物がなだめるように言う。
赤茶けた髪と穏やかそうな顔立ちが特徴的だが、どこかハロルドに似ているようにも見える。
「さっすが兄貴、よくわかってるぅ!」
この人物こそが地上軍軍師、カーレル・ベルセリオスだった。23歳という若さで、これだけの重要なポストについているのだ。兄妹揃って只者ではない。
「カーレル!」
なおも言い募るディムロスを、淡い茶色い髪をした壮年の男、メルクリウス・リトラーが止めた。
「そこまでだディムロス中将。ハロルド、私が許可しよう。」
「司令!」
「軍の最高責任者は私だ。
 それに、ハロルドのことだ、戦力としては申し分ない者たちを連れて来たに違いない。」
言外の、いつものことだから言っても無駄だ、という色がにじみ出ていた。
それに、6人にハロルドを任せておけば少しは負担が軽減されるはずである。
リトラーは自分にそう言い聞かせているようでもあった。
それを見て取ったディムロスは、了解しました、と疲れたような表情でアイコンタクトを取る。
「……わかった、許可しよう。ただし、これから君たちは軍属になる。
 くれぐれも勝手な行動を慎むように。」
「了解であります!」
シンは再びザフト式の敬礼をし、返事をした。
ハロルドを除けば、この中で軍の経験があるのはシン一人である。
この手の返事ははっきりしなくてはならない。自分が返事をすべきだと思ったのだ。
「リトラー司令。それじゃああたしは例の物取ってきますんで。兄貴、あたしはこの6人と行くから、頑張って作戦立てといて。」
「ああ、気をつけてな、ハロルド。」
穏やかに言うカーレルを、ハロルドは少し眩しげに見たようだった。
彼女はすぐにラディスロウから出ようとする。しかし、ディムロスが声をかけた。
「おっと、シン・アスカ君。君はちょっと残ってくれ。話がある。」
「は、はい。」
「ハロルドと他の皆は少し外してくれ。我々のチームと司令だけで話したいことがある。」

 
 

仲間達とハロルドがラディスロウの外に出て行った。
シンは少々不安になった。まともに返答できるかどうか。
「君は軍の経験があるのかい?」
カーレルが相変わらずの穏やかさで言う。
ただ、どこか返答を拒むような真似は許さない、という雰囲気があった。
「はい、あります。」
「君の出身地は?」
「ありません。しいて言うならこの世界そのものが俺、いえ、私の出身地です。」
「ふむ……。君のような少年が軍経験者か。止むを得ないとはいえ、ひどい世の中になったものだ。」
「でも、私が戦うことを決めたのは、自分の意思です。強制されたわけではありません。
 そして、この選択は間違っていないと思っています!」
嘘は一言も言っていない。
出身地が存在しないことも、この世界そのものが出身地であることも、そして、自分の意思で軍の道を歩んだことも、本当のことだ。
その曇りのない言葉に、カーレルは言葉を続けた。
「そうか、わかった。もう一つ聞きたい。ハロルドが言っていた、機械に詳しい人物は君か?」
「はい、私です。助手になるように言われました。」
「助手ですか! あのハロルド博士の!?」
シャルティエが再び驚いた。これは冷静なイクティノスも同じようだ。
「絶対に助手を必要としないハロルドが……珍しいこともあるものです。」
「それだけ機械に強いということなのだろう。我が軍が有利となる要素がまた一つ増えたな。」
ディムロスの言葉には、どこか切実さがあった。
少しでも有利な要素がほしい。そして、そのためには何でもする。そう言っているように聞こえる。
そんなことを考えていると、カーレルが口を開いた。言いにくそうなことらしい。
「シン君。君にはお願いしたいことがある。ハロルドを……守ってやってほしい。」
「はい?」
「ハロルドはああ見えて人を寄せ付けない。そして、あまり他人を信用しないのだ。
 そんな妹が助手として君を選んだ。普通のことじゃない。」
シンの口からは乾いた笑いしか出てこない。少々頬を引きつらせている。
「あはははは……ああ、その、言いにくいのですが、私は実験対象みたいなものですから……。」
「実験対象であっても、君を殺すつもりはないはずだ。君に興味を持っているのは間違いないんだからね。」
「それは……そうですが。」
「だから、守ってやってほしい。私は幼い頃からハロルド守ってきた。
 あれだけその、何というか変わり者の上に少々優秀なもので、苛められていてね。」
よくある話だ。持たざる者は持つ者を妬む。
コーディネイターとナチュラルの争いもそうだ。いやと言うほど見ている。
しかし、持たざる者でも何らかの取り柄があるように、シンには思える。
むしろシンは根暗でありながら熱くなりがちという、不思議な性格を持っていることで、それが多くの局面でマイナスに働いている。
彼はポジティブに見せているが、実はかなりネガティブな性格である。自分の欠点を見つけては、毎度自分のことが嫌になる。
だが、それが嫌いなのでポジティブな態度を取るようになっただけなのだ。
思考がそれたらしい。シンは先程の持つ者と持たざる者に思考を引き戻した。
例えば、コーディネイターでも冷静さを失うことはある。
しかし、ナチュラルはコーディネイターが常に冷静だと思っている。
この食い違いも溝を作っているように思っている。
実のところ、意外なほどコーディネイターとナチュラルには差がない。
ファーストコーディネイターであるジョージ・グレンがいい例だ。
遺伝子の改造を受け、陸上競技のメダリストであり、エースパイロットになり、著名な科学者としても活躍した。
しかし、陸上競技は「銀メダル」である。一位ではなかった。
空軍のエースパイロットといっても「最強」だったわけでもない。
著名な科学者といっても「歴史的に彼を越える人間」がいなかったかといえば、そうでもない。
結局は努力の差である。コーディネイター用モビルスーツのOSを扱えるナチュラルもいるのだから。
そもそも、努力で埋められない差があること自体がおかしいのだ。
しかも、現実に存在するそれはほとんどの場合が、政府の失策によって生み出されることの方が多い。
それがいつの間にか、コーディネイターとナチュラルの差に入れ替わってしまった。
これはある意味で、政府同士が煽り合った結果である。
ナチュラル側は「コーディネイターは不正で力を手にした者たちだ」といい、コーディネイター側は「自分達を虐げたナチュラルは野蛮で劣っている」という。
そんなに差はなかったはずなのに、いつの間にか差があるように思わされているのである。
実はこの認識そのものは、政府の政策によるものだったのだ。自分たちの失策を押し隠す材料として、だ。
そして、コーディネイターは増長し、ナチュラルは諦めてしまい、お互いに努力しないまま両者の差は大きくなっていく。
負の連鎖もいいところである。
別世界に来て、そして自分がコピーだと知ったからこそ、一歩離れた視点から見て考えられたことだ。
とはいえ、こんな考えを元の世界に持って帰れないのだから意味はないのだが。
「……シン君?」
「あ、いえ。ハロルドが苛められていた、でしたね?」
「ああ、そうだ。しかし、もう二人とも23歳だ。兄である私が守るのも妹にはよくない。だから、君に頼みたいのだ。」
「あ、はい、やってみます。」
むしろ、この方がありがたい。
必要になったらカーレルの名前を出して、実験で自分を死なせないようにすることも出来そうだ。
しかし、気がかりなことがある。
「でも、私がそんなことしていたら……いいのですか? 私は……男、であります。」
シンは少々言いにくそうだった。しかし、カーレルは言外にあるものを感じ取ったらしい。
「構わんよ。それくらいの方が私にはね。信頼できる異性があった方がいいのだ、ハロルドには。」
自分が言ったことを思い返し、彼は顔を赤くした。口から出る言葉も詰まっている。
「あ、いや、その、お、俺、いえ、私は、そんなつもりで言ったのでは……。」
「ふふ、わかっているよ。君は優しいんだな。なら、尚のことだ。頼む。」
紅潮する顔を擦りながらシンは何とか取り繕い、敬礼した。
「りょ、了解であります!」
「うむ。カーレル、いいか?」
ディムロスはカーレルに向かって言う。そろそろ作戦を立てなければ、と。
「ああ、ありがとう、私の用事はそれだけだ。シン君、下がっていい。」
「はい、失礼しました!」
シンはブーツを鳴らしてラディスロウの外に出た。

 
 

「あ、シン。どんな用事だったの?」
カイルは待ちくたびれたと言わんばかりの調子で聞く。シンは笑いながら応えた。
「ああ、俺が軍出身なのか、とか、ハロルドの助手になったのは凄い、とか、いろいろだな。」
「ふーん、結構長いからもっと大事な話だと思ってたけど。まあいいわ。それじゃ、皆出かけるわよ。」
ハロルドは長く待たされても全く調子が変わっていない。
カイルは少々ハロルドのペースについていきづらそうに問う。
「どこに?」
「ここから何キロか離れたところに物資保管所があるの。
物資保管所といってもベルクラントの攻撃食らって、今じゃ廃墟だけど。」
「その廃墟に何の用だ? ゴミ漁りにでも行くのか?」
ジューダスの言葉はどうやら的を射ていたらしい。
「あたり。これからベルクラント開発チームと、彼らを迎えに行って捕まったアトワイトとクレメンテの爺さんを助けるために、強襲作戦をやるんだけど……。」
シンにはハロルドが何を言おうとしているのかがわかった。
彼女の考えがわかったというより、軍人としての知識の問題である。
「そのために強襲揚陸艇が必要で、その材料をこれから取りに行くってわけか。
 まあ、ハロルドならできるかもしれないけど。やっぱり俺たちが持たなきゃいけないのかな、その資材。」
「シン、あんたは察しがいいわねえ。」
「軍人やってた俺だぞ。それくらいはわかるって。それにこの数時間の間にハロルドの性格は大体把握できたから。能力のほうは……把握し切れないな、さすがに。」
「あんたに把握し切れるわけないじゃない。いくらあんたが助手でも無理無理。だってあたしは天才よ? ぎゅふ、ぎゅふふふふふ。」
相変わらずの怪しい笑いだ。
とりあえずはその物資保管所に向かうことにした。
道中、ジューダスはハロルドに聞こえないように、残る5人に話をする。
「妙なんだ、この事態は。
 僕は少なくともアトワイトとクレメンテが捕まったという記録を見たことがないんだ。」
歴史に詳しいジューダスも知らない。
そして、彼のソーディアンのシャルティエも、そんなことが起きた記憶はないらしい。
「つまり、これはエルレインによる歴史改変のせいってことか?」
ロニの言っていることは正しいだろう。
歴史を知っていたからこそ、出迎えのアトワイトとクレメンテを容易に捕らえることができたのだ。
「じゃあ、俺たちは手遅れだったのか?」
カイルの不安そうな気持ちを抑えるようにシンが言う。
「改変阻止そのものは、歴史の大筋が変わらなければいいはずだよ。
 つまり、最終決戦でミクトランが6人のソーディアンチームに敗れればいい。」
歴史は必要なターニングポイントを抑えれば、そう変化することはない。
ただし、生存しないはずの人間が残っていれば、相当に大きく変化するのだが。
「とにかく、アトワイトさんとクレメンテさんを助け出せばいいのよね?」
「んで、そのために必要な物資を取りにいくってわけだね。」
「そのとおりだ。この作戦を成功させることは、そのまま歴史改変阻止につながると思え。いいな。」
ジューダスが静かに檄を飛ばす。
リオン・マグナスは冷たい性格だったという話を聞いているが、エルレインによって蘇らされてから熱血さも身につけようだ。
「わかってるよ、ジューダス。俺たちはそのために来たんだからな。」
「やるしかない。歴史を取り戻さなければならないんだ。」
明暗熱血コンビが締めくくり、一行は黙って物資保管所に向かった。

 
 

物資保管所はかなり荒れ果てていた。しかし、半壊ですんだのはベルクラントの攻撃が逸れたからだという。
直撃していれば物資もろとも、保管所そのものが消し飛んでいる。
内部に化学物質が充満しているらしく、かなり危険な状態だ。
そして、防毒マスクなどという気の利いたものはない。
唯一の救いは青酸ガスの甘酸っぱい臭いがしないことだ。
こんなものを微量でも吸い込めば呼吸器が犯されて死に至る。
結局、シンの提案でソーサラーリングで雪を融解させ、その水で湿らせた布で鼻と口を覆うことにした。
これで水溶性の化学物質は遮断できる。
それでも害毒があることには違いない。ハロルドが言うには10分が限界らしい。
「いい? まずはバイオチップ、セルチップ、ジーンチップの低レベルプロテクト解除キーを探すの。
 それを使ってマスターキーを取り出すのよ。まずはそれだけを考えて。
 それから、この三つのチップは温度変化に弱いから。外に持ち出さないでよ。」
「どうして持ち出しちゃいけないの?」
「この三つのチップを外に持ち出すと、熱収縮起こして破損するのよ。
 勝手に持ち出されて悪用されないためにね。ああ、マスターキーは大丈夫だけど。」
「やれやれ、用意のいいこった。だったら手分けして探そうぜ。
 カイルとリアラ、俺とジューダスとナナリー、それからシンとハロルドでいいな?」
「俺は別にそれでいいよ。集合場所は……そうだな、入り口付近で。突入から7分でここに戻ってこよう。
 何も見つからなくてもだ。その後マスターキーを探そう。」
軍人の血が騒ぐ。現場で必要な簡単な作戦くらいは立案できる。
というより、これくらいなら誰でも思いつくだろうが。
「じゃあ、皆行こう!」
カイルの号令とともに、危険な化学物質が満ちた物資保管所へと足を踏み入れた。
「くっ、目がひりひりする。目を開けていられないかもしれないな。」
目元は皮膚が薄い。その分刺激にも弱いのだ。この反応は当然と言える。
「ぼやぼやしているとタイムリミットになるぞ。急げ!」
ジューダスがそう言い、注意深く周囲を見渡している。あわててロニとナナリーも同じように探し始めた。
「俺たちはあっちを探してみよう! リアラ。」
「うん。」
カイルたちはさらに奥の方へと向かっていく。
「俺とハロルドは、そこの崩れた階段から上を探してみようか。」
「いいけど飛ぶわけ?」
「フォース形態を持ってすればあの程度の段差は何とかなる。さあ、時間がない、俺の左手に……。」
言い終わる前にハロルドはシンの背中に飛びついていた。
「あんた、あたしをおぶりなさい。あたしの乗り物になるのよ!」
どうやらシンを空飛ぶ馬か何かと勘違いしているらしい。
深くため息を吐きつつ、シンはフォース形態をとり、ふわりと浮いて崩れた段差を飛び越えた。
「でも低レベルのプロテクト解除キーってどんな形をしてるんだ?」
「んー? 小さくて薄っぺらいシリコン製の板に、導線が何本も飛び出してる形してる。」
シンはその形を頭の中で描いてみた。どこかで見知った形状だ。彼は独り言として口から漏れていた。
「過去のコンピュータの集積回路みたいなものか……。」
「何か言った?」
「い、いや。けど、ジューダスはともかくとしてカイルたちは大丈夫かな?」
「大丈夫よ、ちゃんと表面に名前書いてるし。」
しかし、ヒントは手に入った。その手の精密機器なら、保管できる場所は限られてくる。
埃を遮断できる、それもかなり頑丈なボディを持ち、内部に緩衝材を使っているはずのものだ。
適当に戸棚に入れておくわけにはいかないのだから、それこそコンテナのようなものか、そうでなければアタッシュケースに保存されているに違いない。
ほどなくして、それは見つかった。シンの予想通りコンテナの中に保存されていた。
「あった、これは……ジーンチップみたいだな。名前が書かれてる。」
「お見事! さっすがあたしの助手!」
「助手兼モルモット、だと思ったんだけど。」
「いいじゃない。それともただのモルモットにされたい?」
「……勘弁してください、お願いします。」
まだ時間に余裕はある。探索を続けることにした。
このジーンチップがあった二階に、もう一つのチップ、セルチップが置いてあった。
これもシンの思ったとおりアタッシュケースの中に入っていた。
時間が迫っている。後は合流予定の場所に戻るだけだ。
「うう、そろそろ呼吸が苦しくなってきたな……。」
「とにかくマスターキーを手に入れるためのチップは二つあるし。
 あのジューダスっていう仮面ちゃんなら、あんたと同じように見つけられそうだし。
 マスターキーはすぐね。」
合流地点には既に全員が揃っていた。
やはりジューダスが見つけたというバイオチップと合わせ、全ての低レベルプロテクト解除キーが揃った。
「全く、カイル。お前は一体どこを探していたんだ。」
何も見つけられなかったカイルに、ジューダスが説教をしている。
「いやあ、床に落ちてるかな、と思ってずっと床に張り付いて探してたんだよ。」
「この手のチップは精密機器だ。落ちているものが使えるわけがなかろう。」
低レベルのプロテクト解除キーの場所はわからなかったハロルドだが、マスターキーを保管しているコンテナの位置は知っていたらしい。
彼女はチップを嵌め込み、コンテナのロックを解除した。
「これがマスターキー。これは温度変化にも耐えられるから、一旦外の空気を吸いに行きましょ。」
彼女が取り出したのはカードキーだった。余計なことは考えない。早く外に出る必要がある。
全員駆け足で出口に向かい、外に出ると口を覆っていた布を取り外して深呼吸した。
「ふいいい、あー、死ぬかと思ったぜ。でもよ、またあの中突入しなきゃいけねえんだよな。
 ああ、俺の男が錆付いちまうぜ。」
「元から錆だらけの癖に何言ってんだい。」
「うるせー、オトコオンナ。あんな嫌な空気の中にいたら肌が荒れるだろうが。
 まあ、お前ならそんなこと気にする必要は……あぎゃああああああああああああ!」
毎度お馴染みの対ロニ専用格闘術、コブラツイストだ。
この遣り取りに苦笑しつつ、シンはソーサラーリングで雪を溶かし、新たに作った水溜りで布を再び濡らしていた。
「低レベルのチップは予備の場所がわかんなかったけど、高レベルプロテクト解除キーのセルキー、バイオキーはマスターキーでロックされてるから大丈夫のはずよ。それがあれば資材コンテナは開けられるわね。」
ハロルドはそう言いながら物資保管所の扉を開けた。
残る6人は溜息を吐きながらその後を追った。

 
 

今度の高レベルプロテクト解除キーを保管しているものは、マスターキーがなければ開けることはできない。
よって、ばらばらになって探す必要もなく、全員固まって移動することになった。
「セルキーゲット! 次はバイオキーね。」
バイオキーはバイオチップがあった場所にある別のコンテナの中に置いてあった。
スリットにマスターキーのデータ読み込み部を差し込んで滑らせ、プロテクトを解除して取り出した。
「これでよし。後は物資保管所の一番奥にあるコンテナから適当に材料取ってくわよ。」
ハロルドは6人などそっちのけで階段を駆け下り、目的のコンテナに取り付いた。
「ここにキーを差し込んで、と。
 よし、必要な材料はバルブに断熱材に、あ、そうそう、このパイプもいるわねー。」
ハロルドの様子を察したシンが彼女の横につき、ハロルドが手にした材料をせっせと受け取る。
予想していたほど大荷物ではないが、意外と重い。
「とりあえずソード形態で楽させてもらおう……。」
シンはソード形態をとり、重力を調整して負担を軽減した。
嵩張るがどうにかなりそうだ。

 
 

道中足元が覚束なかったが、カイルやロニが適度に交代してくれたので、何とか拠点まで一つとして落とさずに持って帰ってこれた。
幸運なことに天上軍が派遣した殺人マシンにも出会わずにすんだ。
シンが、これでしばらく休めそうだ、と思った矢先。
「あ、シン。あんたはあたしと一緒に強襲揚陸艇の製作を手伝うのよ。
 カイル、あんたが責任持って兄貴に報告して。」
「え……。」
シンが返事をする前に、ハロルドはシンの左の袖口を掴み、楽しそうに歌いながら開発室へと向う。
「飛べー、飛べー、ロケットォ! 燃料噴出し火を上げてえ!」
音痴、というか独特音感様というか。シンは頭痛がする思いだった。
「俺には休みってものはないのか……。」
「あんたは普通の人間よりスタミナも体力もあるんだから。ほら、文句言ってないで荷物持って来なさい!」
ハロルドを守るように言われたのはいいが、当の本人がこれでは疲れる。
シンは目眩がしそうだった。

 
 
 
 

TIPS
称号
 ハロルドの助手
  歴史的天才科学者の助手にされてしまった。
  名誉かもしれないが、任命された本人はいい迷惑。
  しかし、任命された彼は義務感が強いから、きっと大丈夫!
   知性+1.5 詠唱+1.0