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Fortune×Destiny_第28話

Last-modified: 2008-01-08 (火) 09:42:10

28 アロンダイト

 

拠点に戻った7人は作戦の報告するため、ラディスロウの司令部に向かった。
地上軍上層部の決定は「アトワイトの救出は作戦会議にかけてから決める」だった。
軍としては正しい、そして冷静な判断である。
しかし、カイルはそれを納得できなかったらしい。尤も、それはカイルだけではない。
シャルティエも自分の無力さを嘆いていた。
イクティノスは軍の決定は正しいとしながらも、どこか割り切れていないように見える。
クレメンテ老など、自分が代わりになっていれば、と漏らしたほどだが、言っても意味のないことだ。
だが、何といってもディムロスの気落ち振りは激しかった。軍の決定と感情に挟まれ、身動きが取れない。
そんな顔だった。
それを知っているからこそ、カイルは今すぐにでも助けに行こう、と主張する。
しかし、ディムロスは軍の決定には逆らえない、と言った。
なおも食い下がった彼を、ついにシンが鎮圧することにした。
「いい加減にしないか。ちょっと来てくれ。」
彼はカイルの手をやや強引に掴み、ラディスロウの外へと連れ出した。
冷たい空気が二人の顔を一撫でし、シンの肌が寒さで紅潮する。
「カイル。ディムロス中将も辛いと思う。けど、彼は地上軍の要なんだ。
 彼の判断一つで数万単位の兵士の命が失われたりする。人の命は天秤にかけられない。
 でも、軍人はそれを無理にかけなきゃいけないんだよ。」
かつての自分もそうだった。感情に任せて突撃するなど、決して少なくなく、そのために余計な被害を出したこともあった。
だからこそである。同じ過ちを、天地戦争時代の英雄たるディムロスにはしてほしくないのだ。
「けど……!」
「だから俺たちがやる。そもそもアトワイト大佐が捕まったままだと歴史が変わってしまう。
 それを処理するのが俺たちの仕事だ。違うか、カイル?」
カイルの顔が明るくなった。彼はそれを言ってほしかったのかも知れない。
「うん、そうだね。わかった。けど、手がかりが何にもなければ……。」
「あのバルバトスが何考えてるか、俺には大体の見当がつく。
 あいつはディムロス中将を罠にかけて殺害する気だ。
 そのためにはアトワイト大佐を生かしておく必要がある。彼女をネタに誘き寄せるつもりだ。」
「それじゃあ……!」
「どこかで必ずメッセージか何かを寄越すはずだ。それまでは何も手出しできないさ、俺たちは。」
冷静に物事を処理できるようになってきた。
戦闘中の狂気が生み出したギャップのようなものかも知れないが、シン自身はそれをらしくない、と思い、自分に苦笑する。
背後でラディスロウの自動ドアが開き、ハロルドが顔を出した。
「はいはーい、あんたたち話し終わった? 
 これからソーディアンの調整があるから物資保管所の研究室にいくんだけど。連れてってくんない? 
 シンはあたしと一緒に来てもらうわよ。」
それは確かに必要なことだ。しかし、シンには気がかりなことがある。
「……来たよ解剖。ああ、こうまで不幸か俺の人生……。」
「根暗なことぼやいてないで、さっさと行くわよ。」
カイルは残る4人の仲間を呼び、全員が揃ったところで物資保管所へと向かった。

 
 

物資保管所は相変わらずの荒れようだった。
こんなところにソーディアンの研究室があるというのだから不思議な話である。
しかし、よくよく考えてみるとベルクラントの直撃からややそれたほどの攻撃を受けても、それなりに原形をとどめている建物だ。
元はしっかりした造りに相違ない。 それならば何とか納得できる。
シンはソーディアンの元となる刀剣本体を入れたザックを担ぎながらそう思った。
「さてと、入り口まで来たことだし、ここまででいいわ。シン、行きましょうか。」
「ハロルド……アトワイトさんのこと……。」
「あんた、まだ諦めてないわけ? 懲りないわねえ。」
ハロルドはむしろカイルの諦めない粘り強さに感心したらしい。彼女の目が怪しく光るのを、シンは見た。
「そういえばあの二人、恋人同士なのよね。ディムロスとアトワイト。」
「えっ!?」
「さてと、解剖解剖。ぎゅふふふふふ……。」
シンは凄まじい寒気を感じながらもハロルドの後について保管所の中へと向かった。
彼は思った。この後おそらくカイルは、仲間たちを連れてアトワイトの救出に向かうはずである。
そもそも、それを仕向けたのは自分だ。
ならば、せめて彼らの手助けができるようにしておきたい。
そのために力を制御する方法を見つけなくては、と。
「あんた、どうしてそこまで助けたいわけ? ぼろぼろになっても何しても守ろうとするの、異常よ?」
「守りたいものを守れなかったから、かな。失うことへの恐れがあるんだと思う。」
「あんまりいい傾向じゃないわね。でもまあ、それがあんたのいいところでもあるわけだし。
 それに、その自己犠牲の精神のおかげであたしはあんたを解剖できるんだもの。感謝しないとね。」
「うう……。」
先ほどから解剖という言葉を繰り返しているが、悪気はないだろうことはわかる。
基本的に彼女は子供だ。興味があるものを繰り返し言うのが、その証拠である。
それに、リアラがこの場にいなくても大丈夫のはずだ。ハロルドのことだ、死ぬようなことはするまい。
しかし、自分の体に何らかの器具を入れられるというのはなかなかに勇気がいることだ。
たとえ自分を知るためでも、だ。
「研究室に到着ー。シン、あそこのケーブルつながったケースあるでしょ? 
 あれの中にソーディアンの刀剣本体放り込んで。」
研究室の中は意外と広く、そして損傷もない。奇麗なものだ。どうやらここが本来の研究室なのだろう。
ベルクラント開発チームがすでに到着しており、どうやらは彼らが片付けたようだ。
「了解。スイッチは右下にある、この黄色いボタンか?」
「うん、それ。まずはそのケースの中でレンズエネルギー処理を行うの。その間に……ぎゅふふふふ。」
ハロルドは楽しそうだ。いい玩具が手に入り、これから存分に楽しめるのだから。
「……ああ……。」
一本一本丁寧にケースに入れ、蓋をしていく。
ハロルドはそれを確認するとケース内部にエネルギーを注ぎ始めた。
鉄琴を鳴らしたような音が響き、中の剣がエネルギーの海に飲み込まれていく。
「これで5時間放置。シン、こっちにきて。」
連れて行かれた場所は何やら医療器具がおかれている。
ヘルメットのようなものや、核磁気共鳴によって輪切り撮影を行うMRIと思われる装置、ほかにもよくわからないものがたくさんある。
「いろいろ同時進行でやるから。MRIは少し調整があるから後回しにして、まずは簡単なソナーから。
 これなら麻酔も必要ないしね。シン、あんた素っ裸になりなさい。」
ハロルドには微塵も恥ずかしさが見られない。しかし、シンはそれなりにまともな思考回路の持ち主だ。
彼は顔を赤くしながら応える。
「……恥ずかしいんだけど。」
「あたしの胸触ったあんたが言うことじゃないわねー。それに、これは研究のためなのよ。
 服着てたらソナー使えないじゃない。全身隈なく調べるんだから素っ裸になりなさい。」
これ以上口答えするとブロックワードを使われるばかりか、本当に「死刑執行」しかねない。
シンはためらいつつも全て服を脱ぎ、用意された籠に着衣を入れた。その間にハロルドは白衣を身に纏う。
用意が整ったらしいハロルドが、シンの全身をじろじろと眺め、平然とした調子で言葉を放った。
「んん、あんたってほんとに色白いわね。顔だけかと思った。」
「い、いいから。さっさとすませてくれよ。恥ずかしいから。」
「んじゃ、そこのベッドに寝て。」
彼女が指差した先には、手術用のベッドがある。あの特徴的なライトが不安を増幅する。
「それじゃ、はじめましょうか。」
ハロルドはヘッドがやや大きい電動剃刀機のようなソナーをシンの腹に当て、モニターを見る。
「ふんふん……いたって普通の人体ね。特に変わったところはないわ。
 しいて言うならちょっと頑丈そうなつくりになってるってことくらいで。」
それはおそらくコーディネイターだからだろうが、それを言うとまたブロックワードを口にするかもしれないので、彼は黙っておいた。
しかし、彼女は恐ろしいことを口にした。
「まあ、それはあんたの遺伝子から見て、元の世界のあんたが遺伝子コントロールされて生まれてきた人間だからなんだろうけど。」
寝ている間に小さな注射器か何かで血を抜かれたか、髪の毛を抜き取られたらしい。油断も隙もない。

 
 

「次は胸、と。心臓や肺も頑丈にできてるわね。
 でも脳に向かう血圧の調整がされてる……脳細胞へのダメージを考慮されてるわね。
 この遺伝子改造技術、使ったことはともかくとして、よくできてるわ。」
まさしくコーディネイターは「設計」されて生まれてくる。
人体をどこか強化すると、他の部分の強化も余儀なくされる。
しかし、そのせいで本来の機能が失われることも少なくない。
全身のパワーバランスはそう簡単にとれるものではない。
それこそ人間が人間として進化してきた、この数百万年の間に獲得してきたものである。
それを人間がコントロールするというのは、多くの犠牲を払ったからこそなし得た事なのだ。
ジョージ・グレンは自分を作り出した技術を公表したが、彼が成功例だからこそ公表できたのだ。
その間にどれだけの屍の山が築き上げられたことか、それを知るすべは最早存在しないのだが。
「ふんふん……中々興味深いわね。でも、神様があんたを作ったのって、どんな感じ? 
 方法は聞いておきたいのよね。」
「確か、高密度のレンズを核にして、それから肉体が形成されていった、って感じだった。」
「ふーん、でもソナーで見る限りあんたの体内にはレンズはないわ。
 ソナーはこれでいいから……次はお腹をちょっとだけ開くか。」
「……ちょっとだけ?」
「うん、ちょっとだけ。切り込みいれて、そこから内視鏡みたいな細いケーブル入れるから。麻酔注射麻酔注射ー。」
恥ずかしいのをまだ我慢しなければならないらしい。
しかし、寝ている間に済ませてもらえるならそれに越したことはない。
「はーい、用意できたわよー。しばらく意識が朦朧とするだろうけど、その間に簡単な触診ね。」
「触診……。」
全身麻酔の注射を受けながら、シンはげんなりした。
この狂科学者には恥ずかしさというものがないのか、と。
「正直言うとあたしだって恥ずかしいわよー。でも興味の方が大きいのよねえ。」
足やら腕やらを触られているようだが、徐々に感覚がなくなっていく。
ハロルドが自分の顔を触ったことまではわかったが、そこから後に何をされているかは全くわからなかった。

 
 

彼が目を覚ますと、いつの間にか全ての調査が終わっていたらしい。服も着せられている。
どこか腹部に穴を開けると言っていたが、そんな痕はどこにもない。
どうやら研究室の仮眠ベッドに移されていたようだ。まだ重い体をゆっくりと起こす。
「うーん……。」
「おはよう、シン。別にあんたの体そのものは普通の人間とあんまり変わりなかったわ。
 ちょっと時間に余裕があったらいろいろ別のもの調査したけど。」
どの程度時間が経過したのかわからないが、研究員たちがケースからソーディアンを取り出しているところを見る限り、5時間が経過していることだろう。
「あんたの行動パターンや採血の結果から言うわね。あんたが持ってる属性は闇、火、地、風。
 そのうちの地と風はそれほど強くなくて、闇だけが極端に強いみたい。火も少し強めね。」
「……根暗な熱血漢だからな。」
「言い得て妙ねえ。とりあえず話を続けるわ。
 あんたの場合、主体となるこの二つの属性の対になる属性が欠けてるから、この性質を抑え切れてないのよ。」
シンには思い当たることがいくつもある。自分自身をコントロールできないことなど、決して少なくない。
「しかも、あんたのブレスレットは狂気をあんたに送り込んでる。
 闇と火は狂気に物凄く関わりのある属性だから、ますます増幅されちゃうのよね。」
「つまり、どうすればいい?」
「まず、あんたの主体属性を含む人間を近くに配置する。そうすればあんたの精神は安定する。
 でも、それだけだと増幅効果で暴走するから、主体属性の対になる属性を持つ人間も配置する必要があるわ。」
「最低二人は必要か……仲間がたくさんいてくれて助かる……。」
「何言ってんの。あたし一人で事足りるわよ。あたしは闇、光、水、火。要件全部満たしてるわ。」
シンは沈黙するしかなかった。言っている意味はわかる。間違ったことをハロルドが言うはずがない。
しかし、である。
「ハロルドは……俺がいることで属性が暴走したりはしないのか……?」
「あたしは自分の属性を全て相殺しあっているから安定してる。だから問題ないわ。
 別にあんたが近くにいてあたしが暴走したりすることはないわよ。」

 
 

最初から暴走しているような気もするが、それを言うとエクセキューションどころかディバインセイバー、ソルブライトの連撃を受けることになるので、黙っておくことにした。
シンは君子ではないが、「君子危うきに近寄らず」である。
「それなら……いいんだが……。」
ハロルドは次が本題、と居住まいを正した。
「それからあんたのブレスレット、改造しといたわ。
 さっき言ったように狂気に関わりがあるのは闇と火だから、あたしが持ってる属性を封じた小型の高密度レンズで取り囲めば制御できるみたいよ。」
「それは助かる……。で、今どこに?」
「あんたの左手見てみなさい。」
シンの左手にはブレスレットはなかった。代わりに、手の甲の部分にブレスレットの結晶体がはめ込まれたガントレットが、左手に収まっている。
さらに、よく見てみると結晶体の周囲を等間隔で8つの小型高密度レンズが取り囲んでいる。これがハロルドの言っていた制御装置らしい。
「ありがとう、ハロルド。大事にするよ。」
シンは心からの笑みをハロルドに見せた。ハロルドも楽しそうだ。
「あとね、あんたの形態変更能力見てると、それぞれの属性に合わせて形態が存在してるでしょ。
 フォース形態は風、ソード形態は地。ブラストはいろいろ混在してるけど基本は火。そうよね。」
「ああ、そうだけど。」
「シンの暴走見てたけど、あんたはブラスト形態で闇の晶術使ってたの。どういう意味かわかる?」
晶術関連なら属性論でものを言うべきだろう。彼はそう思いながら未だ麻酔の効果が残る頭を捻る。
「……んー、火も闇も俺の中では強い属性だな。
 強い属性が体の中にたまっているから、それを体外に放出しようとした……?」
「当たり。あんたは優秀で話しやすいわあ。つまりそういうこと。
 あんたの中に闇の力が残されすぎてるってわけ。
 つまり、闇を強調した形態が存在するってことよ、あんたに。」
「闇の……形態。」
「そう。そして、それがあんたの持てる最強の形態。心当たり、ない? 
 それ出せたら狂気はもっと収まるわよ。闇の力消費すれば増幅効果なくなるし。」
闇に関する、そして形態が自分の乗機に関連があることを考えてみた。一つだけ心当たりがある。
「デスティニー……デスティニー形態か。」
「デスティニー?」
「俺の乗ってた機体の名前だよ。フォース、ソード、ブラストはインパルスっていう機体の装備の名前だ。
 けど、それぞれをインパルスの前につけることで一つの機体の名前として取り扱っていたんだ。」
「ふむふむ。」
「けど、インパルスは俺の反応速度に合わなくなっていった。
 そして、俺は新しい機体を与えられたんだ。ZGMF−X42Sデスティニーを。」
「つまり、あんたが使ってた機体に合わせた能力を、あんた自身が使ってたわけね。
 んで、残されてるのがそのデスティニー、と。」
「そういうことになるな。」
実際、10年後の自分である血飛沫の騎士はデスティニー形態を使っていたはずだ。
巨大な片刃の剣、そして技の数々は彼の乗機のデスティニーに酷似していた。
あれを自分が再現する。今の自分にできるのかはわからないが、やるしかなさそうだ。
「ふーん、あんたの顔見てたらデスティニー形態とやらを使いたいみたいね。そんなあんたにこれあげる。」
ハロルドは長剣を一本取り出した。棒状の鍔が刀身に対して直角に伸びている。
鞘を払うと、その刀身は黒い。黒い塗料で錆止めを施し、さらに硬質の高分子でコーティングしているらしい。
その上、よく見ると鍔や刃根元に高密度レンズの結晶がはめ込まれているらしい。
何の目的でつけているのかわからないが、かなり強力な武器であることは間違いなさそうだ。
しかし、それを無視すればオーソドックスなロングソードである。
「名前は決めてないわ。ただ、あんたの属性考えて闇の力を使えるようにしてあるの。
 ソーディアン開発の、まあ失敗作だけどあんたにはちょうどいいんじゃない?」
伝説の剣、ソーディアンより劣るとしても、ハロルドが作った武器だけに、かなりのものだろう。
シンは刀身を眺めてみる。高分子の膜の上に、さらに何かがあるように見える。
「この剣……刃こぼれっていう概念がないんじゃないか? 
 レンズのエネルギーで刀身をコーティングしてる感じがする。」
「そうよ。他のソーディアンもそういう加工がなされているわ。
 ただ、あんたのはコーティングしてるエネルギーには属性が付加されてないから。
 あんたにはその方がいいでしょ? この闇の力は晶術を増幅させるためのものだし。」
「それに、俺のデスティニー形態の起動条件になってくれるかもしれない。
 俺は何度かデスティニー形態をとろうとしたんだが、うまくいかなかった。
 けど、外と中から闇の力を呼応させればできるかも知れない。」
「ふーん、あんた、あたしが意図してたこと理解できたわけ? やるじゃないの。」
どうやらこれもハロルドが仕組んだことだったらしい。やれやれ、とシンは頭を掻いた。
「じゃあ、この剣の名前を決めるよ。……アロンダイトにする。
 俺の機体、デスティニーのメインの武器の名前だけど。」
「アロンダイトって確かアーサー王の話に出てくる円卓の騎士ランスロットの剣よね。
 でもランスロットは忠誠心のせいでアーサー裏切って、友人殺しちゃった上に主人も死なせた男よ。
 それでいいわけ?」
「ああ。俺はカイルたちを殺しかけた。エルレインに操られてね。だから、この名前は俺自身の決意なんだ。
 この剣を手にした以上は二度と仲間に剣を向けたくない、向けてはならない。そういう意味があるんだ。」
シンの紅の瞳は強い光が宿っていた。強い決意に満ちている。さすがのハロルドもこれには参ったらしい。
「わかったわよー。んじゃ後で銘彫っとくから。とりあえず実戦における実験に付き合ってくんない? 
 ディムロスも誘わないとねー。」
ハロルドはソーディアン・ディムロスの試作品を取り出して超高密度レンズ、コアクリスタルをはめ込むと、シンを連れて地上軍拠点に戻った。

 
 

ラディスロウに到着するなり、ハロルドは自室で一人沈んでいたディムロスを連れ出した。
「んで、あの5人は軍辞めるって言って出てっちゃったわけ? シンをほっぽりだしてよくそんなこと……。
 まあいいわ。どーせあの子達はシンを放置するわけないし、そのうち戻ってくるでしょ。」
「しかし、ハロルド。彼らは……。」
「いいからいいから。とりあえず実戦データ録るからついてきて。いい場所があるのよ。」
ハロルドはディムロスを引っ張り、雪の中を歩いていく。
そしてたどり着いたのは拠点から北西にある洞穴だった。
「ここはスパイラルケイブ! ハロルド、騙したな!?」
ディムロスの叫びから察するに、どうやらここにアトワイトが監禁されているようことを知っているようだった。
つまり、バルバトスからここに来るよう何らかのメッセージを受け取ったらしい。
「さあ、あたしはそんなこと知らないわ。でもいいデータ取れるんじゃない? 相手があれだし。」
ハロルドはこの近辺で監禁できる場所がどこにあるかを調査していたのかも知れない。
あるいは、どこかでディムロスが受け取った挑戦状の中身を盗み見たという可能性もある。
どちらにしろ食えない科学者だ。
しかし、ディムロスはどこかハロルドに感謝しているような顔をしていた。
「俺は俺で自分の力を知らなきゃな。けど、アロンダイトがあれば負ける気はしない!」
シンはアロンダイトの収まった鞘を腰の後ろに回していた。
左手で鞘を掴んで右手で抜き払えるようにしたらしい。
「うんうん、その意気よ。さあ、デスティニー形態とやらを見せてもらうわ。
 そしてあたしのデータを充実させるのよ!」
「ハロルドの目的に添えるかはわからないけど、ハロルドが満足できればそれでいい。」
彼は新たに設えられた左手のガントレットを握り締め、スパイラルケイブの奥へと歩を進めた。

 
 

「誰が来たかと思えばお前たちか。本来ならディムロスを殺すはずだったが……まあいい、お前たちだけでも俺を楽しませてくれ……。」
カイルたちはバルバトスの張った罠にかかっていた。
闇の晶術結界に閉じ込められており、しかも、強烈な瘴気が漂っている。触れば大ダメージは必至だ。
さらに、この結界は徐々に縮んでいく。このままでは5人全員がまとめてあの世行きになってしまう。
カイルは自分の判断ミスを呪った。
「俺が飛び出しさえしなければ……。」
護衛のゴーレムを撃破し、縛られていたアトワイトを発見したカイルはそのままアトワイトへと一直線に向かってしまった。その結果がこれである。
「全員まとめてあの世に送ってやる。その方が寂しくないだろう……?」
「そこまでだ、バルバトス!」
カイルはスパイラルケイブの入り口の方から来る声を聞き、振り向いた。そこにはシンがいる。
だが、いつも見知った姿をしていない。
軍服の赤かった部分は黒くなり、襟や袖の折り返しの黒かった部分は濃藍色に変化している。
左手に装備したガントレットとブーツは血を吸ったように赤く染まり、背にはぼろぼろの真ん中で真っ二つに裂けたマントがある。
これがデスティニー形態である。多くの点で血飛沫の騎士によく似た姿になっているが、微妙に違う。
黒い部分は「闇」を、赤い部分は「殺しの罪」を表している。ここまでは同じだ。
しかし、濃藍色は月夜の空の色であり、「闇の中の希望」を意味し、真っ二つに裂けたマントは「断ち切られた過去」を意味する。
シンなりの決意がそのまま姿へと昇華しているのだ。
手にした武器は片刃の大剣で、アロンダイトを核としてシンの力で作り上げられたものだ。
見るからに大振りで、それでいてシンに似合う。
「バルバトス! 覚悟しろ!」
破れたマントがはためいて血のような光を放ち、翼を成してシンが突撃する。
バルバトスはシンの剣を受け、弾こうとしたが、彼は着地して鍔迫り合いに持ち込んだ。
「貴様如きがここまでやるか。だが……ここまでだ!」
バルバトスの腕の筋肉が盛り上がり、力ずくでシンを弾き飛ばした。しかし。
「ぐっ……! ディムロスか!」
ディムロスの手にあるソーディアンが猛火を放つ。
さすがのバルバトスもこれは効果があったらしい。蜂の大群に取り囲まれたように火を振り払う。
その間にハロルドが結界を解除していた。
「あんたらもなかなか無茶してくれたけど、でもあたしの計算通りに動いてくれたわね。偉い偉い。」
「結局僕たちはハロルドの掌の上で踊らされていたというわけか。」
「何過去形にしてんのよ。これからもあんたたちはあたしの掌の上よ。ぎゅふふふふ。」
「そんなことよりジューダス、ハロルド! ディムロスさんの援護をしよう!」
リアラ、ロニ、ナナリーはすでに攻撃態勢を整えている。
シンもアロンダイトを構えてバルバトスの攻撃に備えている。
「人質とっといて、今更8人がかりが卑怯だとかいわねえよな、バルバトス!」
「ふん、今日のところは引き下がってやる。また会おう。くっくっくっくっくっ……。」
バルバトスは闇を生み出しながらその場から消え去った。
「アトワイト!」
ディムロスは急ぎ縄で縛られたアトワイトの元に駆け寄り、彼女の縛めを解く。どこも怪我はないらしい。
しかし、アトワイトはディムロスが目の前にいることを確認すると、彼の頬に平手打ちを叩き込んだ。
「あなたは地上軍中将という身でありながら、たかが衛生兵隊長である私を、それも私を一人の女として救出にきた。これは許されるべきことではありません! あなたは軍人としての道を踏み外すおつもりですか!?」
ディムロスはアトワイトにこのようなことを言われることを覚悟していたらしい。
だが、それに続くアトワイトの言葉は、まさに自分が言った「一人の女」としてのものだった。
「ですが、私はそんなあなたをお慕いしています、ディムロス……。」
バルバトスによる歴史改変は、一応は防げた。他ならぬディムロスの手によって。
実のところ、可能な限り未来の人間が行うべきではないのだ。
このようにして、その時代の人間が修正すべき部分もある。
それが及ばないときにそっと手助けをする。今回カイルとシンが行ったようなものが、まさにそれだ。
「よかった、ほんとに。」
カイルにとっては歴史の改変以前に、ディムロスが大事な人が失われるという事態を回避できたことを喜んでいるらしい。
その純粋さも、今回はプラスに働いたといえよう。
しかし、シンはその中で浮かない顔をしていた。
「空耳か……?」
デスティニー形態をとっている間、ずっと何かが聞こえていた。人の声のようなものがだ。
空耳だと思いたい。だが、どこかでそれを否定する。
聞こえていたものがいったい何なのか、今の彼にはわからなかった。

 
 
 
 

TIPS
 称号
  吸血鬼男
   赤い目、白い肌、黒い服、赤いマント。
   デスティニー形態をとったシンはまるで吸血鬼のよう。
   空も飛べるし……。
   命中+1.0 回避+0.5 SP回復+1.0