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Fortune×Destiny_第31話

Last-modified: 2007-12-04 (火) 18:39:13

31 時の糸を手繰って

 

シンたち6人はメルクリウス・リトラーの終戦宣言を聞いていた。
ハロルドは別の場所にいる。ソーディアンチームの隣だ。
彼女は技術仕官とはいえ、あれでも大佐である。軍の重要幹部として並ばねばならない。末端兵員である6人とはわけが違うのだ。
「……非情なる暴君ミクトランは死んだ! 我らの勝利である!」
拠点に設えられた演壇の上で、リトラーは叫ぶ。その様子を離れたところから聞いているジューダスが呟く。
「これがかの有名なリトラーの終戦宣言だ。しかし……。」
「こんな形で、こんな気持ちで聞くことになるとはな……。」
シンは辛かった。ハロルドを傷つけたかもしれない。誰かを傷つけることは、自分が傷つく以上に苦しい。カーレルに守ってほしいと言われていたために、その思いはなおさら強い。
「俺は……ハロルドを守れなかったのかもしれないな。」
紅の瞳が雪の積もった地面に向く。そんな中、ハロルドがやってくる。手にはソーディアン6本が抱えられていた。
「どこまでも真面目ねえ、あんたは。あんたは歴史改変防ぐために来たんでしょうが。あんたはそれを達成したんでしょ。だったらもっと背筋伸ばしなさい。」
「……。」
「それに、兄貴もあれで満足してるはずよ。大体、兄貴の死を悲しむ人間が少しでもいるってことが、あたしには誇らしいわ。それだけ慕われてたってことだから。」
リトラーの演説はカーレルの死に触れていた。カーレルの名が出されたとき、地上軍の兵士たちは悼む叫びを上げていた。
ハロルドには、それがいくらか慰めになったらしい。
自分を守るために傷ついてきた双子の兄が、多くの人間に認められたのだから、と。
「そう、か。」
シンが少しだけ表情を明るくしたのを見て、ハロルドは切り出した。
「それで、あんたたちはこれから時間転移するんでしょ?」
「そういうことになるな。俺たちの元いた時代から18年前の世界に向かう必要がある。バルバトスの言いようなら、多分そこになる。」
極限状態での死闘に相応しい舞台で、「神の眼の前」といえば、スタンたちが戦ったあのダイクロフトくらいしか思い当たるものがない。
バルバトスの趣味が多少理解できるというのが不本意だったが、嘆いても仕方のないことだ。
これでハロルドともお別れだ。シンは少し寂しい気もしたが、やむを得まい。自分たちの仕事を片付けなくてはならないのだから。
「けど、レンズが足りないわ。皆を送り届けるだけの……。」
これが問題だ。リアラの時間転移には大量のレンズのエネルギーが必要なのだ。エルレインのようにはいかない。
「そうだろうと思って用意してきたのよ、ソーディアンを。ソーディアンのコアクリスタルは超高密度のエネルギーを含んだレンズだから、6本から少しずつエネルギー取り出せば大丈夫でしょ。」
ハロルドは雪上にソーディアンを突き刺して円陣を組んでいく。そして、組み終わると自分も円陣の中に入った。
「ん? ハロルド、そんなところにいたら一緒に飛んじまうぜ。」
「あたしもついてく。あんたたち神様と喧嘩してるんでしょ? 面白そうじゃない。あたしの頭脳が神をも越えること、皆の目の前で証明してあげるわ!」
ということは、まだしばらくの間はハロルドとともに行動することになるらしい。どうやら彼女との因縁は尽きないらしい。
「もう階級関係ないからな、ハロルド。」
「んん、いいわよ。でも、あんたがあたしの助手であることは変わらないから。」
「助手兼実験台兼お守り係、だろ。やれやれ……。」
そうは言ってもシンは少々楽しそうだった。
この狂科学者に付き合うのは大変だが、その分見ていて飽きないし、新しい知識を見せてくれる。
それに、カーレルとの約束もある。これから挽回しようと彼は思った。
「素直じゃないんだな、シンは。ものすんごく楽しそうだぜ?」
「……お互い様だっ。」
にやけるロニを少々睨みながら返事をするが、ロニはまだからかうような笑みを浮かべたままだ。
「さてと、あとはこのメモを貼り付けて、と。」
ハロルドはソーディアン・ディムロスに「ちょっと時間旅行してくるから。後始末はよろしくー。」と書かれた紙を貼り付け、リアラの傍に寄る。
「さあ、時間転移はあんたの力だったわよね? 見させてもらうわ。」
意図したのか偶然なのか、シンの目の前にあるソーディアンはソーディアン・ベルセリオスだった。カーレルの形見といえるソーディアンだ。
彼はこの剣に投影した人格がハロルドのものであり、妹とは常にいるのだ、と言っていた。今は破損してしまい、一切喋ることはない。
ハロルドはカーレルが死んだ時、泣きじゃくりながら言っていた。
ここに自分ではなく、カーレルを閉じ込めればよかった。そうしていればずっと一緒にいられたのに、と。
気持ちは理解できる。しかし、死別はいつかは起きるものだ。
いかに理不尽であろうとなんだろうと、それは必ず訪れる。シンはそう言って聞かせた。
それは家族を失った自分も同じだった。そして、いつかは自分も死んでいく。
ただし、エルレインの思い通りに死ぬつもりはなかったが。
「どこまでも俺と、俺たちの我がまま押し通してやろうじゃないか。エルレインのやってることは気に食わないんだよ。」
いつかシンは仲間にそう言ったことがある。独善になりかねない自分たちの行動を、シンは理解していた。
それを仲間たちは認めてくれた。彼らも同じような思いだったらしい。
シンたちのしていることは、自由の名の下に幸せに暮らしている人々の生活を破壊しかねない。
それは、シンがずっと敵対してきたラクス・クライン一党と同じことをすることになる。
しかし、シンは知っていた。あの時この世界は既に安定状態だったことを。
そこに割り込んで自分の信じる幸福を押し付けるエルレインの姿勢を許すわけにはいかない。
しかも、それを奇跡の力と歴史改変という、二つの理不尽な力を行使して行っている。相当に悪質だと言わざるを得ない。
幸福など人それぞれなのだ。エルレインのしていることはそれを無理に画一化していることになる。
デュランダル議長の提唱した、遺伝子による職業適性を国家レベルの事業にするという、デスティニープランも似たようなものだ。
だが、あれは荒廃した世界を安定へと導くための、過渡的なものに過ぎなかったはずだ。
議長が意図的に戦争を引き起こしたわけではなさそうだから、エルレインの歴史改変ほど理不尽なものではないはずだ。
それをどう勘違いしたのか、ラクス・クライン一党はデスティニープランを恒久的なものだと思ったらしい。
確かに恒久的なものだとすれば、あまりにも危険だ。それこそ「幸福の画一化」になりかねない。
そうだとしても、方法はいくらでもあったはずだ。
恒久的なものにする、と宣言した時点で政治的手段を用いて退陣させる、などの方法が。
この手の宣言は平和でなければできないのだから。それを待ちきれなかったのだ。
結局、物事を全て武力のみで解決させようとするあたりは、あのバルバトスやエルレインと何の変わりもないのだ、とシンは思った。
そして、敗北したとはいえ、彼らを拒絶した自分の姿勢が正しかったことを再認識した。
「それじゃ、未来にレッツゴー!」
リアラは力を解放し、約1000年後、カイルたちの時代から18年前の世界へと向かった。

 
 

7人は土の上にいた。しかも、どこまでもそれは広がり、ところどころに切れ目がある。そこを覗き込むと、街や山がまるでジオラマのように広がっていた。
彼らは外殻の上にいるのだ。この先におそらくはダイクロフトがある。
「なんか、ふわふわして気持ち悪いねえ。それにちょっと息苦しくない?」
ナナリーの言は尤もだ。上空にいるせいで酸素濃度が低い、というだけではなさそうだ。
「外殻はダイクロフトから放たれる浮遊力で浮いている。息苦しさはおそらく、エネルギーアブゾーバーのせいだろう。」
「エネルギー……アブゾーバー?」
カイルが首を傾げるので、ジューダスは説明した。
「エネルギーアブゾーバーはレンズのエネルギーは勿論、生体エネルギーを吸収する。これのせいで多くの小動物や弱った人々の命が奪われた。スタンたちもこれのせいで外殻に穴を開けられず、ラディスロウとリトラーの犠牲を払って乗り込んだんだ。」
ジューダスは淡々と言い放った。そこにハロルドが口を差し挟む。
「そんなもんついてなかったのにね。この時代にダイクロフト復活させたやつがつけたのかしら?」
「そういうことになる。いや、正確にはミクトランがヒューゴを操ってさせたのだから、必ずしも……。」
ジューダスの発言は、カイルたちも知らない知識が含まれていた。
「ちょ、ちょっと待ってよ、ジューダス! ヒューゴがしたことじゃないの?」
「ヒューゴは元はただの考古学者でしかない。そのヒューゴを一大企業人にし、天上世界の復活を目論んだのは、ソーディアン・ベルセリオスに自らの人格を移したミクトランだ。」
ジューダス自身、それを知ったのはエルレインによって復活させられてからだ。
リオン・マグナスとしての彼を利用するために、その恐るべき事実を突きつけ、自らの駒にせんがためにである。
しかし、それを知ってもジューダスはエルレインに従わなかった。
「過去は否定しない。今ある世界が存在するだけで十分だ。」
それが彼の出した結論だった。
「そ、そうだったのか。俺、ずっとヒューゴの企みだとばっかり……。」
「お前の祖父であるヒューゴも被害者の一人だ。あのミクトランの選民思想のな。」
カイルは時々忘れそうになるが、ルーティとリオンの父親はヒューゴであり、ルーティの息子であるカイルからすると、ヒューゴは祖父に当たる。
世間では大罪人になっているヒューゴの血が流れているのだ。
ジューダスの夢をきっかけに、最初にそれを考えたとき、カイルは悩んだ。だが、自分は自分だ、という結論に至った。
そして、ここにきてカイルはヒューゴが被害者であることを知った。
カイルはヒューゴが世間でどう思われていたかを気にせず、自分の祖父を考えることにしよう、と思った。
「ジューダス、ありがとう、本当のことを教えてくれて。」
カイルはジューダスの目を真剣に見ながらそう言った。ジューダスは口を開く。
「世間ではヒューゴが大罪人にされている。事実ではないことが広がっているのでは、ヒューゴがあまりにも哀れだったからな、お前たちにくらいは本当の人となりを教えておきたかったんだ。」
「父親だから、か? ジューダスがもし、なんて思うことはないと俺は思ってるが、少しその仮定の質問をしてみたいな。そのときにミクトランに操られていると知ったとしたら、さ。」
「シン。僕はリオンではない。だが、そうだな。もしがあるとするなら、僕がそのとき知っていれば……。」
ジューダスらしくない、後ろ向きの考え方だ。しかし、彼は続ける。
「おそらくはソーディアン・ベルセリオスを破壊しようとしただろう。そして、そのままミクトランに殺されていたはずだ。リオン・マグナスが死ぬ未来は、避けられなかったと僕は思っている。」
「死ぬ場所が変わっただけ、か。どっちにしろリオン・マグナスは四英雄に斃されてよかったと俺は思う。その方が彼らの心に刻み込めたことだろうしな。ミクトランの手にかかって死ぬよりは、よほどいい。」
良し悪しはともかく、リオン・マグナスの離反とその死はスタンたちの記憶の奥深くに刻み込まれ、そして彼らの行動にすら影響を与えた。
ある意味で、彼は歴史を動かしたとも言える。それは人がその時代を生きた証だ。
「シン、お前……。」
「過去は否定しない。そうだろう、ジューダス。他の誰がリオン・マグナスとして貶そうが、俺たちは味方だ。」
シンは親指を立て、ウィンクして見せた。あくまでもシンは「皆の英雄」としての役割を果たそうとしているらしい。
「青臭い話ねえ。でも、あんたにはそういうの似合ってるわよ。可愛いし。」
「可愛いのか、俺は……。」
ジューダスを真面目に元気付けようとしたはずなのだが。このハロルドには相変わらずペースを崩される。
シンは頭を軽く掻きながら、口を開いた。
「それじゃ、バルバトスの招待だ。行こう。」
7人は外殻の上を歩き始めた。浮いているだけの土の上だ。
ともすれば沈み込んでそのまま真っ逆さま、という不安に駆られてしまう。
実際にはダイクロフトから放たれる脅威の浮遊力で問題なく沈み込まないのだが、この手のものは生理的な不安がどこかにあるものだ。
いざというときのために、と飛行可能な形態をとれるように注意しながらシンは口を開いた。
「バルバトスはどうせ戦闘狂みたいなものだから、単に雰囲気楽しむためにこの時代に来たんだろうけど。問題はエルレインだな。」
「バルバトスの行動を制御できなくなっているが、その代わりに行動を先読みしている、ってことか?」
ロニの言葉にシンは頷く。
「ああ。18年かそこらであんなドーム世界作ることは出来ないだろうけど。
保険として何らかの用意はしてると思う。」
何らかの方法で外殻が残るような状況を作り出せば、やはり地上は荒廃する。
そこを狙えばやはり、ドームの世界を作ることは可能だ。
しかし、現在考え得る一番懸念すべき問題は。
「それに、暇つぶしと称して、バルバトスがもしカイルの両親殺すようなことがあったら……まずいな。急いだ方がいいかもしれないぜ。」
ロニの色黒の顔に焦りの表情が浮かんだようだった。それを見て取ったカイルが漏らす。
「そんなの、俺悲しいよ。折角18年前に来たのに。会えなくなるなんて。」
「あんたアホね。今あんたの両親死んだら、あんた消滅することになるのよ。」
ハロルドはさらりと言ってのけた。
確かにそれは考慮すべきことである。カイルの両親を彼が生まれる前に殺せば消えてしまう。
因果律の基本とも言える概念だ。
「え、ええええっ!?」
慌てるカイルを横目に、シンが口を開いた。
「ハロルド。リアラがいるから。俺たちは改変世界に一度放り込まれてるんだ。その時に発生した大掛かりな因果律の変化からは守られてた。だから、多分大丈夫。」
「ふーん、さすがにシンと同質の力を使うリアラね。時間転移に使う力にも似たような作用があるのかしら?」
「で……結局俺はどうなるわけ……?」
少々怯えた様子のカイルに、ハロルドが説明する。
「まあ、別にここで消滅することはないだろうけど、どっちみち歴史的矛盾になっちゃうから、どこかで消えちゃうわね、きっと。具体的には歴史修正のやり直しが必要になるかな。バルバトスを止めるとこから。」
「そして、時間移動に使うレンズはダイクロフトの奥の方にある神の眼を使うしかない。そこにはバルバトスが待ち構えているから、奴を倒さないとやり直しは出来ない。」
ゲームならあっという間にリセットをかけられるが、この場合はそうもいかない。
限定条件付リセット、とでも言うのだろうか。とはいえ、現実の問題にリセットは存在しない。
歴史を修正する以上、「リセット」という歴史を改変するような真似はしたくないのが本音である。
この話題はカイルの処理能力を超えていたらしい。首を傾げつつ彼は口を開く。
「よくわかったような、わからないような。とにかく、父さんたちを殺させるわけにはいかない、そうだよね。」
心のままにカイルは動く。それが正しいのかはシンにはわからなかった。
だが、その素直さに好感が持てるのも確かだ。
妙な方向に向かおうとするなら、そのときは自分が止める。
ほかならぬ、仲間だけのための英雄として、そして何よりも、大事な友人としてだ。
「そういえばシン。あんたバルバトスと戦ったときに頭抱えてたでしょ。頭痛でもした?」
自分の手で歴史を書き換えたときにシンは、包み隠さず話す、と宣言している。
自分の言ったことを覆すのは嫌いな彼だ。言うことにした。
「あれは、そうだな。願望の声が聞こえてた、というべきかな。」
「願望?」
ハロルドの問いに、シンは真剣な表情で応える。
「そう。あれがほしい、苦しい、助けてくれ、とかな。大抵が切実で、それこそエルレインが力を行使しないと取り除かれないような悩みばっかりだ。バルバトスと戦ったとき、何とかねじ伏せたけどまたできるかわからないし。」
仮にこれをエルレインが聞いたところで、自分の目的を達するだけ、と感じるだろう。
しかし、シンは逆のことをしようとしているのだ。
その状況でこれを聞かされるというのは、苦痛以外の何物でもない。
しかも、自分の耳を塞いでも聞こえるのだから。
「私が力を使ってもそんなことにはならないのに……どうして?」
「俺が中途半端な存在だからだろうな。リアラには通用しなかった幻術も、俺には効いてた。脳に直接声を送り込んでるみたいだったから、多分、この願望の声は一種の幻術だと思う。」
昔あった、建築物の構造計算書偽造、つまり生成段階での手抜きのようなものか、とシンは思った。
もしくは、フォルトゥナにとってはコピーとして作り上げるのと、自分の分身を生み出すのとでは違うのかもしれない。
どちらにしろ、現在シンは存在しているのだ。迷惑なことこの上ない。
「ふむふむ。しかも、あんたの力の源だけに、引き出すと同時に声が聞こえる、しかも、力を極端に必要とするときにより強くなる、と。あんたの能力ってつくづく不便ねえ。」
「不便でも何でも、やるしかないんだよ。それに、狂気はともかくとして、今度のは自分で解決しなきゃいけない問題だからな。」
頼ってばかりはいられない。自分は仲間を守るための存在なのだから。
彼はそう思っている。この姿勢はどこまでも貫き通すつもりでいるのだ。
それが自分の存在意義だと言わんばかりに。
「でも、シン。無理するんじゃないよ? そのための仲間なんだからさ。」
「そうそう。俺たち、頼りにならないかもしれないけど。」
「ま、いつでも相談しろ。俺たちが何とかするからよ、適当にな。」
「……今度はちゃんと言えたな。どこまでも約束を守ろうとする、律儀なやつだ。だが、だからこそ信用がおける。」
どこまでも頼りになる仲間たちだ。ふっと笑みを漏らすと、外殻に取り囲まれたダイクロフトを目指す。
バルバトスが行動を起こす前に、行かねばならない。
「行こう。とりあえずここを何とかすれば、一応は歴史を取り戻せるはずだ。」

 
 

ダイクロフトに到着すると、スタンたちソーディアンマスター4人がバルバトスの足止めされているらしく、ソーディアンを構えて対峙している。
「こいつ、手ごわいわ! 皆気をつけて! 特にスタン、あんたはね。」
「わかってるよ! それにしても、どうしてこんなところにこんなやつが……!」
カイルはそれが、若かりしころの両親であることに気づいた。
ジューダスの記憶でその姿は見ているが、自分の目でスタンを見るのは記憶に残らぬ幼いとき以来だ。
「父さん、母さん……!」
バルバトスの実力は実際に戦ったから知っている。
いくらソーディアンを手にしたスタンたちでも、無事でいられる保証はないのだ。
「行こう、カイル。カイルの存在を消させないために、そして、歴史を守るために!」
「ああ!」
シンはアロンダイトを抜き放ち、デスティニー形態をとって背中から血光を放ちながらスタンたちの前に立った。
「助太刀する!」
「な、何なのよ、いきなり!」
ルーティはシンのいきなりの登場に驚いた。しかし、さらにルーティを押しのける形でロニが前に出る。
「ルーティさん、あいつ、バルバトスは俺たちが相手をします!」
さらに、仮面を被ったジューダスが無言のままシンの右に並んでスタンたちを庇うように立つ。
カイルも同じようにしてシンの左に立った。
「ほほう、待ちくたびれたぞ! 余興にとこいつらを相手にしていたのだが……こいつらでは物足りなくてなあ。」
バルバトスはさも楽しそうに言う。しかし、それがルーティの癇に障った。
「何よ、あたしたちが弱っちいとでもいいたいわけ!?」
「少なくとも、そこのカイル・デュナミスとシン・アスカよりはな。」
ということは、既にカイルの実力は親をも凌いでいることになる。
それはそれでいいことだが、バルバトスにそれを認められても面白くはない。
「まあいい。お前たちをまとめて殺すのも楽しそうだ!」
バルバトスの斧が衝撃波を生み出し、11人全員に攻撃が炸裂しようとする。
シンは左手のガントレットに嵌った結晶体をバルバトスに向け、叫んだ。
「守れ!」
闇の膜が出現し、それがシンの体よりもはるかに大きなものとなって全員を守る闇の盾となる。
直撃は防いだが、衝撃波はあくまでも「波」だ。波には回折というものがある。
これは、障害物をよけて進む、波の性質の一つだ。
電波がちょっとした障害物を回り込んで届くのも、この回折があってこそである。
ダメージを半分以上減殺したのだが、11人全員が打ちのめされ、その場に倒れた。
「く、くそっ……なんてパワーだ……!」
スタンがソーディアン・ディムロスを杖代わりにして立ち上がる。
カイルも回復は早かったらしい。飛び起きるように立ち上がった。
「とうさ……いえ、スタンさん。一緒に攻撃しましょう。そうすれば、きっと……!」
父と呼びたかった。
だが、歴史改変阻止は本来、誰にも気づかれてはならないものなのだ。自分の立場を名乗るわけにはいかない。
「わかった!」
一世一代、これが最初で最後の親子での共闘になるだろう。カイルはそう思い、剣を握り締める。
「いくぞバルバトス! 散葉塵!」
素早い連撃をバルバトスは斧で受け、攻撃を阻む。そこを狙い、スタンが突撃した。
「裂空斬!」
空中で回転しながら斬撃を与えるこの攻撃は、バルバトスの額に傷をつけた。
「こいつ……!」
一瞬、上空のスタンに気を取られたその隙に、カイルは晶術の詠唱をする。
それに気づいたバルバトスは、目の血管を浮き上がらせて咆哮した。
「術に頼るか雑魚どもが!」
カイルの周囲に強烈な重力場が発生する。
しかし、それを先読みしていたカイルは、すぐに晶術の詠唱を中断してその場から離脱する。
そして、バルバトスに向かってスタンがさらなる攻撃を加えた。
「空牙昇竜脚!」
足に火炎を纏いながら回し蹴りを連続して行う。バルバトスの姿勢が崩れた。
「今だ! 爆炎剣! 燃えろ!」
足元から火を噴く斬撃、そして火を纏った一撃を受け、バルバトスはさらに仰け反った。
しかし、カイルは攻撃の手を緩めない。
「疾空連殺剣!」
素早い連撃から斬り上げ、さらに叩き落しを加えていく。そして。
「同時に行こう、カイル君!」
「はい!」
スタンとカイルは同じ構えを見せる。全く同じ秘奥義を放とうとしている。
スタンはバルバトスの右から、カイルは左からだ。
「こいつで終わりだ! 斬空! 天翔剣!」
「見せてやる! 貫け! 斬! 空! 天! 翔! けええええええん!」
二人とも同じ動きだった。強烈な突きとともに衝撃波を放ち、振り下ろして斬りつけ、その勢いのまま斬り上げた。
さらに抉りこむように突き上げ、ジャンプとともに凄まじい斬り上げを炸裂させる。
バルバトスはダメージに耐えかねたか、どうやら転移して引き上げたらしい。
バルバトスを撃退したのはわずかな間だった。その間、残るソーディアンマスターやシンたちは何もできなかった。
少々恥ずかしそうに残る9人が立ち上がる。
「すごいな、君は! 初めての相手にここまで合わせられるなんて!」
スタンがカイルを賞賛している。その喜びに満ちた表情を見て、カイルは少しだけ悲しくなった。
「初めてじゃ、ないです。」
「えっ?」
「それより、急がないと。神の眼を砕きにいくんでしょう?」
カイルはもっとスタンと話をしたかった。何しろ、死別した父親なのだから。
だが、これ以上引き止めると歴史が変わってしまいかねない。
断腸の思いだった。
「……どうしてそれを?」
「そんな話を聞いたことがあるからです。スタンさん、結構有名ですから。」
「そうなのか、あはははは……俺たちって有名なんだ。あ、そうだ。君たちは何故ここにいるんだ?」
「俺たちは俺たちの目的があって。その、俺たちとここで会ったことは誰にも言わないでください。お願いします!」
スタンはカイルが頭を下げるのを見て、諦めた。無理に聞きだすことはできないと。
「わかった。それじゃあ、君たちもがんばって。あ、そうそう! 皆、あれをこの子にあげていいかい?」
若かりしウッドロウ王はスタンに言われ、少々戸惑ったらしい。
「あれ、とは?」
「ほら、この間どっかの洞窟に潜ったときに見つけた剣だよ。俺たちはソーディアンがあるから使えないけど、一応取っといたやつ。なんて名前だったっけ?」
「ピュアブライト、でしょ。全く、物覚えが悪いんだから。」
「まあまあ、ルーティさん。そうですね、私たちを助けてくださったんですし、よろしいのでは?」
やんわりとフィリアが言う。その様子はかつて会ったときよりは若々しく感じられる。18年の歳月の違いだろう、とシンは思った。
「あーあ、金目のものなのに。でもまあ、命あっての金儲けだし。それに、あたしは孤児院建て直したから守銭奴は卒業したし。いいんじゃない?」
「そうだな、ソーディアンを使う我々よりは、彼にあげた方がいいだろう。その方が剣のためでもあることだ。」
全員の同意を受け、スタンは荷物入れから一本の剣を取り出した。白い、涙の雫のような形の刀身を持つ見事な剣だ。
カイルがそれを手に取ると、柄は暖かく、それでいて手になじむ。
初めて手にしたのにまるで、何年も使い込んだ剣のように手に吸い付く。
「こんな凄い剣を!? いいんですか、本当に。」
「ああ、俺たちが持ってても使えないし。それに、カイル君に似合ってる。何よりもお礼がしたくてさ。助けてくれたこと、感謝してる。ありがとう。」
カイルは涙ぐんだようだった。父から手渡されたもの。
それはどんなものにも変えがたい、暖かさが含まれているからだ。
死別した、そして憧れていた父親なら尚更である。
「それじゃあ、カイル君。またどこかで。」
スタンたちはダイクロフトの中へと駆け込んでいった。カイルはそれを見送りながら呟く。
「うん……あと数年したら会えるよ……父さん……。」
カイルはピュアブライトを握り締めていた。父を助けることができてよかった、と。
「よかったじゃねえか、カイル。」
「……うん。」
カイルは頷く。彼の胸には暖かいものが宿り、それは仲間全員に伝播した。
それが、歴史改変阻止の意志へと昇華する。
「さあ、俺たちも俺たちの戦いを終わらせよう。バルバトスと決着をつけるっていう、な。」
「シンの言うとおりだ。だが、僕はこそこそとスタンたちの後をつけるのはごめんだ、そこの通路を使って神の眼のある部屋まで行くぞ。」
ジューダスが指し示した通路は、細く暗い。
しかし、ジューダスの言うことも尤もだ。自分たちの力で道を切り開かなくてはならない。
スタンたちの後をつければ楽はできる。だが、それはカイルたちの進む道には相応しくない。
自力で前に進むという、前向きな姿勢の彼らには。
彼らは細く暗い道を、強い心の光で照らすように前に進んでいった。