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Fortune×Destiny_第32話

Last-modified: 2007-12-04 (火) 18:41:58

32 さよならシャルティエ

 

7人は暗い通路を駆けていく。その辿る道はわずかな懐かしさを感じさせてくれた。
アトワイトを救出する際に突入した格納庫。ベルクラント制御室の前。ラディスロウが突き破った壁の穴が残る部屋。
そして、ソーディアンチームが駆けて行き、その後自分たちが疾走した玉座の間へと続く通路。
1000年の間に各所が腐蝕したり脆くなったりはしているが、ほぼ原形をとどめている。
「なんか、懐かしい感じがするね。俺たちの時間にしてみたら、そんなに経ってないけど。」
「カイルも感じていたんだな。俺も同じだよ。」
時折防衛マシンが現れるが、ロニやジューダスが手を出す間もなく白と黒の刀身が一瞬のうちに破壊していた。
アロンダイトもなかなか強力な武器だが、ピュアブライトはアロンダイトに勝るとも劣らない切れ味を誇る。
性能だけなら仲間の持つ武器の中では最高度のものであろう。
「しっかし、カイルも成長したよなあ。お前、スタンさんに会ったらもっと泣きまくって、あれこれ話すだろうと思ってたんだけどよ。」
「話したかったけどさ、歴史変えちゃいけないし。ほんとのこと言うと、結構辛かった。けど、父さんからこんな凄い剣貰えたし、結局嬉しい方が勝っちゃった。」
「それが成長というものだ。ここまで苦労してついてきたかいがあったな。」
ジューダスも少し嬉しそうだった。かつて裏切ってしまった仲間の息子が、頼もしく成長したからだ。
「そりゃ、あれか、叔父さんとしてか?」
ロニがからかうように言う。リオン・マグナスがルーティの弟なのだから、確かに立場としてはそうなるのだが。
「仲間としてだ!」
ジューダスがむきになっている。ロニはさらにからかいたい気分になったが、その前にカイルが口を挟んだ。
「まあ、俺としてはどっちでもいいよ。俺、ジューダスには助けられてばっかりだし。勿論、ロニやリアラ、ナナリーにハロルド、それからシンも。」
「カイルの無謀さは確かに大変だけど、その無謀さのおかげでここまで来れたんだ。少なくとも俺はその手助けが楽しいしな。」
それはシンの本音だ。オリジナルでは体感できなかった、険しくも楽しい毎日。
カイルたちと一緒にいて飽きないし、笑顔を見せる機会も増えたように思う。
元の世界では眉間に皺を寄せてばかりだったが、こちらでは違った。
カイルは自分がここまで笑えるということを気づかせてくれたのだ。
シンには、この仲間たちといると自分たちの弱点を庇いあえるように思える。そして、守りたいと思う。
守ることに拘るシンにとっては、最上の環境かもしれない。
「さて、神の眼の間に到着だ! 様子を窺おうか。」
ロニは物陰から様子を見守ることにした。どうやら復活したミクトランは既にスタンたちの手で斃されたらしい。
後はソーディアンを神の眼に突き刺すだけだ。
ソーディアンは物言う剣だが、晶術の素質がなければその声を聞くことはできない。
幸いなことに、7人全員が晶術を使える。そのため、ソーディアンとソーディアンマスターとの会話が、全て聞こえてくる。
『神の眼を砕くためには、我々ソーディアンを神の眼に刺せばいい。そうすれば制御下における。』
ディムロスの声だ。ソーディアンになる前の声を知っているのですぐにわかった。ただし、脳内に響くような声ではあるが。
「けど、そんなことしたらディムロスは!」
『いいのだよ、スタン。我らは長く生き過ぎた。未来の礎となれるなら、これ以上のことはない。』
スタンが俯いている。しかし、他に方法がないと悟ったらしい。スタンはゆっくりと頷いた。
『ウッドロウ殿、王らしく、あなたから。』
イクティノスの声だ。ケルヴィン王家に代々伝えられてきたと、本に書いてあったのをシンは思い出していた。
「長くに渡って我が王家を助けてくれたこと、感謝する。」
ウッドロウは巨大レンズの神の眼にイクティノスを突き刺す。
僅かなエネルギーのスパークが起きたようだったが、そのままイクティノスは刺さったままだ。
「クレメンテ……。」
次はフィリアだ。彼女は雷の文様が入った剣の柄にあるコアクリスタルに悲しげな目を向けていた。
『強くなったのう、フィリア。』
フィリアは泣いていた。コアクリスタルに雫が零れる。クレメンテはあくまでも優しく語りかけている。
『さあ、世界を救うためじゃて。頼む。お前さんにしかできんことじゃ。』
「……はいっ!」
イクティノスと同じようにして、クレメンテが神の眼に飲み込まれるように突き刺さった。
『それじゃ、ルーティ。』
アトワイトのようだった。アトワイトのマスターがルーティであることは、カイルたちから聞いていた。
「アトワイト、あたし、色々あんたにやなこと言ってばっかりで……。」
その様子を窺っていたロニが言葉を漏らした。
「あ……ルーティさんが泣いてる……!」
ロニの言うとおりだった。シンから見ても、ルーティの頬に涙が伝っているのが見える。
彼女は孤児院の近くに捨てられたとき、アトワイトと一緒だったらしい。
生まれたときからずっと一緒にいるアトワイトとは、他のマスターは比較にならないほど絆が強い。
その涙なのだろう。
『いいのよ、気にしないで。それにね、私はあなたのお母さんから頼まれていたの。』
「……母さんから?」
『あなたを守ってって。私はその役目を果たせたと思うわ。だって、もう、私が守らなくても、大事な人が守ってくれる。それまであなたを守れたって誇りに思っているから。』
「うん……うん……アトワイト、大好きよ!」
彼女は全ての感情を振り払うように、アトワイトを神の眼に突き刺す。やはり、スパークを起こして飲み込まれるように刺さった。
『さあ、スタン。私を刺せば全てが終わる。人々を絶望の淵に陥れている外殻を破壊するために、私を刺すのだ。』
「くっ……皆、皆ごめんよ!」
スタンもまた目に涙を溜めながら神の眼にディムロスを突き刺した。これで神の眼はソーディアンの制御下におかれるはずだ。
そうすればダイクロフトも外殻もなくなる。スタンたちソーディアンマスターは神の眼の間から立ち去った。
それを確認したシンたちは、神の眼の前に立つ。しかし、何の変化も起こらない。
「どういうことだ? ソーディアンを刺したら外殻はなくなるんじゃなかったのかよ!?」
「神の眼のエネルギーがソーディアンのエネルギーをわずかに上回ってる……だから制御下に置けないんだわ。」
恐れていた事態が起きた。
歴史の流れから考えれば、このようなことはまず起きないはずだ。エネルギーの量などから見ても、十分に制御可能だろう。
しかし、それが出来ないということは。
「エルレインか! 神の眼にレンズのエネルギーを幾らか足していったんだ! 念のための保険として! 外殻が残ればドームの世界だって作れる。地上の荒廃が必須条件だからな。」
「んなことできるのかよ!?」
「ハロルドがコアクリスタルをどうやって作ったか知ってるか? レンズのエネルギーを集中させて作るんだ。エルレインも同じことをしたに違いない!」
予想はしていたが、実際にその状況となるとどうすればいいのかわからない。
どこかでエネルギーを浪費させる方法もあるが、この状況ではソーディアンのエネルギーをも無駄遣いしてしまう。そうなっては元の木阿弥だ。
「どうすりゃいいんだよ、何か方法があるはずだ!」
「俺のアロンダイトはどうだ!? エネルギーは十分だろ、ハロルド!」
「無理ね。人格投影してないから制御することはできないわ。」
「くそっ!」
方法はないわけではない。しかし、それを「彼」に強いることは、今のシンにはできなかった。
ソーディアンの別れを惜しむ4人を見た後では、尚更である。

 
 

『久しいな、カイル君。1000年ぶりだな。いや、君たちからすれば大した時の流れではなかっただろうが。』
神の眼に刺さったディムロスが一行に語りかける。
歴史改変阻止をするために旅をしていたが、どうやら自分達の存在も歴史に微妙な狂いをもたらしたらしい。
ディムロスが自分たちのことを覚えているのだから。
しかし、彼らのことだから自分達の存在には蓋をしているはずだ。歴史改変阻止という目的を知っていたようだったのだから。
「ディムロスさん!」
『残念ながら我々ではこれ以上、どうすることも出来ない。』
「そんな……何か方法はないんですか!?」
『ないわけではない。だが、その方法は既に不可能なのだ。』
ジューダスが無言のまま前に出る。そして、シャルティエの鞘を払った。シャルティエが人を食ったような声で「言う」。
『やあ、皆。待たせてすまないね。』
旅の間、ずっとシャルティエは黙っていた。ジューダスの正体が露見しないようにと。
天地戦争のときも余計な混乱を招くからと、ほとんど喋らなかった。
喋ったのは一度だけ、アトワイトとクレメンテが捕まったことなどなかったと言ったときだけだ。
しかし、もうその必要はない。この仲間達はシャルティエのマスターであるジューダスを傷つけることはない。
そして、何よりも自分の役目を果たす時だ。
この時代のシャルティエはリオン・マグナスを守るためにソーディアンの使命を放棄した。それだけリオンのことが大事だった。
人間だった頃からソーディアンチームの中で劣等感に苛まれてきた、というのもある。
しかし、それ以上に大きかったのはリオンの成長を見守ってきたからだ。
赤ん坊の頃の、エミリオ・カトレットとしての姿を見ている。父親を父親として呼ぶことに出来ないリオンの苦しさも知っている。
シャルティエにとっては息子も同然の存在だった。
その彼が、いるべき場所を見つけた。誰一人としてジューダスを傷つけない仲間がいる。保護者である自分がいなくなっても大丈夫だ。
『シャルティエ!』
『ヒネクレ者のお前さんらしい現れ方じゃの。』
『しかし、これでソーディアンが揃いました。これで制御下に置けます。』
そこにバルバトスが闇を生み出しながら現れた。眼が血走り、狂気に満ちている。闘争本能に支配されすぎ、完全に狂ってしまったように見えた。
「カイル・デュナミス……。ここで俺と戦え! そして、ここで共に死ぬのだあああああ!」
そのバルバトスの前に、ジューダスがマントを翻しながら立ちはだかる。
「この世界はスタンたちの手によって救われねばならない。その邪魔をお前にさせない!」
「もう歴史改変はたくさんだ。今度こそ、歴史の闇に消えろ、バルバトス!」
シンもまたデスティニー形態をとり、全長2.5メートルの大剣を振りかざす。
願望の声が恐ろしいが、そんなことを気にしていては戦いにならない。
「シャル、今回はお前を全力で使う。いいな!」
『はいっ!』
今まで正体を隠すために、剣として使うことはあってもソーディアンとして使うことはなかったシャルティエを、ジューダスはその真価を発揮させるらしい。
「さあ、来いよ! 貴様ら全員、微塵切りにしてやるぜ!」
「グレイブ!」
バルバトスの機先を制した。バルバトスが斧を構える前に足元から岩の槍が突き出し、バルバトスの姿勢が崩れた。
そこを狙ってシンが上空から大剣を振るって攻撃する。
「ふっ、はっ、せいっ!」
しかし、空中から仕掛けると体重をかけて攻撃できないため、強いダメージを与えることが出来ない。そのまま彼は弾き飛ばされた。
「虫けらがあああ!」
弾き飛ばされたシンに向かってバルバトスが殺到し、斧を振り下ろした。その重い一撃を素早く体勢を立て直して受け止める。
「これ以上お前にやらせるか!」

 
 

「そんなこと、俺の知ったことじゃねえ! 俺は戦いたいのだああああ!」
斧に込められた力がさらに増加する。この大剣が片刃なのが唯一の救いだ。肩で峰を支えて持ちこたえているのだから。
そのシンの苦境を救うべく、さらにジューダスがシャルティエに力を解放した。
「ピコハン!」
バルバトスの頭上に赤いピコピコハンマーが出現し、それが頭にぶつかる。
どう見てもダメージを期待できるようなものではないが、晶術で脳を揺さぶって気絶を引き起こす作用がある。
一瞬、バルバトスの動きが鈍った。その隙を突いてシンは離脱する。さらに、それを狙ったように光の晶術が放たれた。
「プリズムフラッシャ!」
ロニだった。シンとジューダスの援護のために、詠唱をどうにか押し留め、巻き込まないようにシンが離脱するのを待っていたのだ。
「ロニ、すまない! 穿風牙! ぶっ壊れろ!」
離脱したシンが風の槍を放ち、さらに荒れ狂うカマイタチの嵐をバルバトスに炸裂させた。
この暴風抉空は技というより詠唱を要しない術に近い。バルバトスのように物理攻撃に強い敵には有効な技だ。
ただし、その後僅かな間体が硬直するのと巻き込みの可能性がある、という欠点がある。
そのため、タイミングを間違えると反撃にあう。仲間との連係が鍵となる技だ。
それを理解しているらしいカイルが、暴風抉風がなくなったところで突撃する。
「はっ! てっ! てっ! 爆炎剣! 燃えろ!」
ピュアブライトの三連撃と、足元から吹き出る炎、さらに火炎を纏った一撃をバルバトスに叩きつける。
しかし、バルバトスも黙って攻撃を受けているばかりではない。
「断罪のエクセキューション!」
逃げる間もあらばこそ、詠唱を完全に無視してエクセキューションを発動させた。
シンとカイルが巻き込まれ、闇の魔法陣によって体力を奪われる。
「貴様らの死に場所は……ここだぁ! ここだ、ここだ、ここだああああああああぁぁぁ!」
さらにバルバトスは、このエクセキューションを具現結晶ルナシェイドへと昇華させた。
暗黒の剣が二人を滅多切りにする。外傷はつかないとはいえ、体力を大幅に削られるのは間違いない。
しかし、シンはすぐさま立ち上がった。
「この程度……ハロルドのに比べたら大したことない!」
2メートルある刀身で空を斬り、猛然とバルバトスに斬りかかる。晶術発動の隙を突いた。斧で防ぐ暇などない。そのまま袈裟懸けにダメージを与える。
「閃翔牙! こいつを食らえ!」
シンはさらに腰溜めにアロンダイトを構え、飛翔力をたたき付けるように突進する。
それに連係して飛翔力を回転力に変え、時計回りに回転しながら斬りつけた。追加特技、閃翔旋刃だ。
しかし、この攻撃もバルバトスには通じなかったらしい。そのままバルバトスは奥義三連殺を繰り出す。
「ぬっ……死ぬかあ! 消えるかあ! 土下座してでも生き延びるのかあ!」
火炎を纏った一撃、上昇気流を伴うカチ上げ、さらに床への叩き付けと、凄まじい破壊力だ。
骨が折れなかったのが幸いだったと言えるが、体が軋んでいる。
「お前の力は面白いが、ここまでだあああ!」
「まだ終わらせないよ! 虚空閃!」
猛然と斧を振り上げたバルバトスに、ナナリーが跳躍を交えた矢を命中させた。バルバトスの動きが鈍る。
「ええい、邪魔を……!」
「聖なる意志よ、我が仇なす敵を討て! ディバインセイバー!」
ナナリーの矢に気を取られた隙に、ハロルドのディバインセイバーが炸裂した。
強烈な電撃を振り払い、脱出してきたバルバトスに更なる晶術が襲いかかる。
「恐怖と共に消えよ、哭け! 極限の嵐! フィアフルストーム!」
リアラの持つ風の上級晶術、フィアフルストームだ。恐慌の嵐の名を持つこの晶術にバルバトスは巻き上げられ、きりきり舞った。
長い時間をかけて信頼関係を築き上げた彼らの連係攻撃は、他の如何なる攻撃をも上回る。一人一人の破壊力は大きくなくても、全員がカバーしあえる。
ただ一人で闘争本能の赴くままに戦い続けるバルバトスが、決して持ち得ぬ力だ。

 
 

「このまま好きにさせるかあああああああ! 微塵に砕けろおぅ!」
バルバトスの眼が血走った。斧を一振りし、蛇のようにくねる闇、ジェノサイドブレイバーを放った。逃げられない。
7人全員が巻き込まれ、吹き飛ばされる。その中で、未だ軋む体に鞭打ち、シンがロングソード状態のアロンダイトを杖代わりにして立ち上がる。
「まだ立ち上がれるかああああ!」
大きく振りかぶった斧をシンに叩き付けようと構えるバルバトスの横を、シンが駆け抜けた。
アロンダイトがバルバトスの脇腹を浅く切り裂き、切っ先から血の雫が飛ぶ。
「俺はデスティニー形態に拘る気はないぜ! あんたを討つ。それだけだ!」
いつの間にかシンの服が赤いものに戻り、マントも消えている。彼の言葉を借りるとするなら、形態入れ替えはシン・アスカのお家芸だ。
現在使用しているフォース形態はデスティニー形態に比して破壊力が小さいが、小回りの利く技が揃っている。扱いやすいのだ。
「鏡影剣! 鏡影閃翔!」
素早く影を射抜いて身動きを封じ、影を纏った一撃を与える。
さらに、飛翔力を使って刺突しながらの突撃を行い、バルバトスを突き飛ばした。
「貴様……!」
敵が味方の行動に気を取られている隙に詠唱するのは、晶術使いの基本である。
リアラとハロルドが急ぎ回復詠唱し、その時間を稼ぐべくジューダスが再びシャルティエの晶術を使った。
「ピコハン!」
間抜けな攻撃に見えるが、実に効果的な技だ。脳を振動させられてはさすがのバルバトスも動きが鈍る。
その瞬間、リアラとハロルドの詠唱が完了した。
「リザレクション!」
「リザレクション!」
カイルとシンの周囲に癒しの魔法陣が出現する。7人全員が効果範囲にいたため、一度に全員回復できた。全員がさらなる反撃を行おうと身構えたその瞬間。
「破滅のグランヴァニッシュ!」
今まで攻撃に晒され続けていたはずのバルバトスが、急に晶術を放った。地のエネルギーを海に全員が叩き込まれ、受けたダメージが再び戻ってくる。
「くっ、詠唱を止められないのか!」
何とかして回復する時間を稼がねばならない。シンが採るべき方法はただ一つだった。
「はああああああっ!」
彼の軍服が黒衣に変わり、赤い襤褸切れのようなマントを羽織る。
そして、手にしたロングソードが大剣へと姿を変えた。
赤いマントがはためいて、逆立ち、血光を発する。これで視界を塞ぐ算段だ。
1000年前のダイクロフトでの戦いではうまくいったのだ。今度も、と思ったその矢先。
「回復晶術だと!? 貧弱すぎるわ! 断罪のエクセキューション!」
バルバトスの感覚が研ぎ澄まされているのか、野生の嗅覚が鋭くなったのか──おそらくは後者だろう──回復晶術をシンに唱えたハロルドにエクセキューションが命中した。
ハロルドはそんな素振りも見せず、視界もシンが塞いだというのに、探知されてしまった。
「ハロルド! ……この方法も駄目か! なら、突撃あるのみ!」
シンは左スライディングタックル、右足のキック、さらに水面蹴りの三連攻撃を仕掛け、さらにシンがフィオキーナ系と呼んでいる技の一つを繰り出す。
「闇縛掌! でやあああっ!」
3連攻撃と同時に、既に剣は鞘の中に収めた。フリーになった右手に闇を生み出し、それをバルバトスに張り手でもするかのように叩き付ける。
続けて左アッパーカットを入れ、さらに闇を纏った左膝蹴りと、同様に闇を纏う右の手刀を同時に炸裂させた。この追加特技は闇縛交叉という。
どう見ても剣を使う人間が使う技ではないが、彼の乗機だったデスティニーのパルマ・フィオキーナを考えると格闘を行えたかもしれない。
何にしても、かなり乱暴な技だ。しかし、それで終わらせない。
「獄炎掌鎗撃!」
そのまま左の掌から火を吹かせながら突撃し、闇を纏う右の掌をぶつけた。あのバルバトスをダイクロフトの壁際まで追い込んでいる。
パルマ・フィオキーナは「掌の槍」という意味だ。その名前をそのまま含むこの奥義は、シンの持つ奥義の中でも強力な部類に入る。

 
 

「どうだ!」
「まだまだだああああ! まだ戦いを楽しもうではないか、ええ!?」
バルバトスの斧が衝撃波を生み出す。今度は油断せず、発生させた闇の膜を流線型にして弾いた。波に対してはこれが一番の方法である。
しかし、それは囮だったらしい。そのままバルバトスは闇の膜ごとシンを斧で切り裂いた。
攻撃の大半が減殺されたが、避け損ねて袈裟懸けに深い傷が作られる。
「ぐあああっ!」
床に叩き付けられてバウンドする。いくら頑丈なシンでも、この攻撃は耐え切れない。
「くそっ、シン! ここは俺に任せろ!」
ロニがシンを庇うようにバルバトスとシンの間に立ち、ハルバードを振るってバルバトスの斧を弾いた。
「ぬっ、貴様!」
ロニはバルバトスと同様パワーファイターであり、力ずくの攻撃が多い。
しかし、今度の技は彼の持つものの中でもテクニックを要するものだった。
「霧氷翔! さらにっ!」
飛び上がりながら氷の槍を連射した。
それに続けて降下しながら突きを放ち、着地してハルバードの穂先で突き飛ばした。再びバルバトスを壁際にと追い込む。
「戦吼爆ッ破!」
蹴り上げと獣の頭の様な形の闘気そのものを放ち、さらなるダメージを与える。バルバトスの動きが封じられた。
ロニはこの奥義に続けて秘奥義を放った。
「叩きのめす!」
ハルバートの斧の部分をバルバトスに渾身の力を込めて叩き付けた。バルバトスがその勢いに飲まれて転倒する。
「まだのめす! さらにのめす!」
さらに連続して振り下ろし続ける。そして、ロニは顔の前で腕をクロスさせ、ジャンプした。
「それが……ファイナルプレイヤアアアアァ!」
シンは何から突っ込めばいいのかわからなかった。
交差した腕を広げると同時に、胴体というより臍下丹田、つまり臍を中心にした腹からエネルギーを放ったのだ。
臍下丹田は体内のエネルギーが集中する場所だと言われている。
とはいえ、そこからエネルギー化した闘気そのものを放出するのだ。戦闘において常識に囚われない発想を持つロニらしい技といえる。
ロニの臍を出した服装も、この技に合わせて設えたのだろう。
だが、この攻撃をもってしてもバルバトスを斃すことは出来なかったらしい。
ゆらりと立ち上がったバルバトスは、先程まで以上に戦意を漲らせ、斧を振るった。
空気の層そのものを切り裂かんばかりの衝撃波が発生し、ロニを打ちのめそうとする。しかし。
「ストーンウォール!」
ジューダスがシャルティエの力を解放した。
本来、石の壁を出現させてそれを倒れ込ませて敵を押しつぶす術だが、これをジューダスは防御に使った。
ロニの身代わりに石の壁が砕け散った。ジューダスは秘奥義を使って疲労しているロニに代わってバルバトスに向かう。
「すまねえ、ジューダス! 助かった!」
「僕たちは協力してこそだ。当然のことをしただけだ!」
ぶっきら棒で皮肉しか口から出てこないジューダス。だが、胸の内に熱いものがあると、この旅の中でロニは知った。
この二人は、自分と同じように大事なものを、最後まで自分の手で守ることが出来なかったという共通点がある。
しかし、ジューダスは結果的に守りきることが出来た。
ロニはそれが羨ましかった。
自分は結局、スタンを死なせる要因を作ってしまったのだから、と。だからこそ、ロニはカイルを守りたかった。
そしてジューダスも同じだった。
かつての仲間の息子を守り、成長を促すことが、せめてもの贖罪だ、と。性格は全く違ったが、いい信頼関係を築けているようにロニには思えた。
そのジューダスは、素早くシャルティエと短剣を捌き、技を繰り出す。
「はっ、はっ、はっ! 双連撃! まだだ!」

 
 

シャルティエと短剣による4連撃、さらに2発の斬撃でダメージを与える。ジューダスはこの技に続け、奥義を放った。
『坊ちゃん、行きますよ!』
「わかっている! 散れ! 魔人滅殺闇!」
軽い斬撃を加えると同時に、バルバトスの足元に闇の魔法陣が広がる。
そこから突き上げるような闇により、バルバトスの意識が彼の岸へと追いやられかける。
「ぐがぁっ……!」
この奥義はかつての魔人闇をベースに作られたものだ。
魔人闇と書いて「マリアン」と呼ぶこの技は、母の面影を残した愛する人、マリアン・フュステルを守るために編み出した。
しかし、もうマリアンを守る必要はない。スタンたちが守ってくれたのだ。
新たな技へと進化を遂げたこの技は、今度はカイルたちを守るために振るわれる。
そのために、立ちはだかる全ての敵を滅殺する。その意志が刻まれた奥義だ。
「バルバトス! これ以上お前に誰も傷つけさせはしない! 食らえ! 双地輪!」
ジューダスが後退したのを確認し、シンは天井付近まで舞い上がったまま、両手に出現させた小太刀をバルバトスに向かって投げ付けた。
小太刀は回転しながら床すれすれを飛び、グランヴァニッシュやストーンウォールで出現した石の破片を巻き上げながら、バルバトスの足元で浮上して額に命中した。
曲線軌道を描き、巡航ミサイルのように地面すれすれを飛んで攻撃する。それが双地輪だ。
直線的に飛行する双炎輪と似た技だが、こちらの方が敵に対する「嫌がらせ」になるだろう。
「シン・アスカ……貴様!」
これだけ時間を稼げば晶術など詠唱したい放題だった。すでにハロルドの詠唱により、全員に回復が行き届いている。
もうバルバトスの反撃は遅すぎた。リアラの詠唱が完了する。
「大地に秘められし破壊の力よ! グランヴァニッシュ!」
バルバトスがカイルたちに放ち続けた地属性上級晶術が、逆にリアラの手で放たれた。
バルバトスが追い詰められていた壁が崩壊し、隣の部屋への穴が出来る。
さらにリアラはこの技の発動と同時に、味方全員の疲労を取り除く力を解放していた。
タイミングさえ合わせれば秘奥義すら放てる。そんな力だ。
そのタイミングに合わせたのはこの漢だった。バルバトスを討ち、スタンの敵を取りたいと思うロニだ。
「あの世に逝きな! 神空割砕人!」
地面叩き割りながらハルバードを振り下ろし、そのまま振り上げてバルバトスを打ち上げる。
上空に舞い上がったところで跳び蹴りを炸裂させて、渾身の力で斬り落とした。
バルバトスがダイクロフトの床に叩き付けられたのを確認する間もなく、ロニは再び秘奥義を使った。
「続けて食らえ! 震天裂空斬光旋風……」
斬り上げと同時に落雷を発生させ、右肩から袈裟懸けに振り下ろし、強烈な突きを放つ。
「滅砕神罰割殺撃ぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
同時に床が砕けて、破片が飛び散る。
だが、そんなことを構わずにロニは全身の捻りを加えた最大限の力を振り絞り、右手のハルバードに全てをかけてバルバトスを叩きのめした。
バルバトスの最後の気力が途切れた。バルバトスの手から、スタンを含む、多くの命と血を吸った斧が離れた。
「もうどこにも逃げ場はない、覚悟しろ、バルバトス!」
抵抗する素振りを見せるなら斬る、とカイルがピュアブライトを構える。
「ふっ……ハッハッハッハッ、覚悟しろだと? 貴様のような小僧が俺を斃すだと……?」
バルバトスは狂ったように笑い、そして、血走った目をカイルたち7人に向けた。
「誰も……俺は斃せない……斃せないのだあぁぁっ!」
7人が気付く間もあらばこそ、バルバトスは神の眼の上に飛び乗っていた。
神の眼に直接触れると強烈なエネルギーが体を駆け巡り、圧倒的な力で飲み込まれてしまう。
バルバトスの体もやはり、神の眼のエネルギーで侵されていた。
「バ、バルバトス!?」
「勘違いするなよ、カイル。俺は貴様に斃されたのではない! 俺は、俺の手で死を選ぶ! くっくっくっくっくっ、ぶぅっはっはっはっはっ……!」
バルバトスが発光しているように見えた。彼の凶暴な咆哮すら、すでに飲み込まれて変質しているようだった。
「ま、待て、バルバトス!」
「ぶああああああああああああああああああああああああ!」
バルバトスの体が砕け散った。
英雄と呼ばれるに相応しい力量を持ちながら己の本能を抑えきれずに暴走し、その結果歴史から抹消されたバルバトス。
その行動は英雄を求め続けた、かつてのカイルやリアラにも重なる部分があった。
どう見ても同情できるような人間ではなかったが、その壮絶な死は7人全員の心に響く。
『死に場所すら自分の意思で選ぶか……最後まで自分勝手な奴だ。』
ディムロスは呆れたような口調で言う。かつての戦友であり、自らの手で殺した男。
どうでもいいとは思わなかったが、その行動には呆れるしかなかったらしい。
『感傷に浸っている暇はないぞ、このままでは我々は神の眼の力に取り込まれてしまう!』
イクティノスの叫びに、一同は我に返る。今、神の眼を抑えなくてはならない。そうしないと歴史が変わってしまう。
ジューダスは無言でシャルティエを構え、神の眼の前に立つ。
「ジューダス! 一体、何をする気なんだ。」
「シャルティエよ。あれを突き立てれば、ソーディアンの力が神の眼を上回り、制御下における。後は、神の眼をオーバーロードさせて外殻を破壊する、って寸法ね。」
「そうか、リオンであるジューダスもソーディアンを持っていたんだったな。ずっと使ってたから意識してなかったけどよ。」
「けど、それは……。」
リアラの言うことはわかる。ジューダスとシャルティエを引き離すことになるのだ。
それはディムロスもわかっているらしい。
『いいのか、リオン。君はシャルティエを失うことになるんだぞ。』
「言ったはずだ。この世界はスタンたちの手で救われなくてはならないと。」
ジューダスが決然と言うのを聞き、イクティノスが辛そうに漏らす。
自分達もマスターに強いたことを、ジューダスにさせるのが辛いのだ。
『ソーディアンとマスターは一心同体。それを……マスターの手で消さねばならんとは……!』
『運命とは……かくも酷なものか……。』
クレメンテも同じようだ。ジューダスはシャルティエのコアクリスタルに視線を向け、語りかける。
「許せ、シャル。僕は……。」
しかし、シャルティエはいつも通りの明るい声で返事をする。
『いいんですよ、坊ちゃん。さっきディムロスが言ってたでしょ。僕らは長く生き過ぎたんです。それに……正直言って坊ちゃんのお守りにも疲れましたし、ね。』
それが本音でないことは、シンにもわかる。
シャルティエにとってはジューダスは子供のようなものだ。どこまでも見守っていたかったのが彼には理解できた。
「丁度いい、僕もお前のお小言に付き合いきれないと思っていたところだ。」
『じゃ、そういうことで。早いとこ済ませましょう。』
シャルティエがそう口にした。ジューダスは神の眼に突き立てるべく、シャルティエを構えた。
しかし、シャルティエが慌てたように付け足そうと言葉を発した。
『ああ、それと!』
「まだ何かあるのか? 言うなら早くしろ、時間がない。」
このままではソーディアンが取り込まれてしまうのだ。急がねばならない。
『坊ちゃんと一緒にいて疲れはしましたけど……結構楽しかったですよ。』
「僕もだ……今までありがとう。」
シンは初めてジューダスの口から「ありがとう」という言葉が発せられるのを耳にした。
それだけシャルティエには感謝の念が込められているのだろう。
『らしくないです、坊ちゃん。』
「お前もな、シャル。」
似たもの同士のソーディアンとソーディアンマスター。その別れのときだった。
「いくぞ、シャル!」
『はいっ!』
「だああああああっ!」
躊躇いは許されない。ジューダスはシャルティエを構え、渾身の力を込めて神の眼にシャルティエを突き立てた。
「ジューダス、ここはじきに崩壊する。行こう! 行くしか、ないんだ!」
形態解除したシンがジューダスの肩を掴む。シンも辛かった。
いかに歴史改変阻止のためとはいえ、ジューダスとシャルティエの絆を引き裂くようなことはしたくなかった。
しかし、それしか方法がなかった。それに、この方法がシャルティエのためにもなる。
かつてソーディアンとしての任務を放棄した彼に、再びソーディアンチームとしての誇りを取り戻させるために。
ジューダスは仮面の奥の瞳をシンに向けた。
「わかっている。リアラ、少しでもソーディアンの負担を軽減するために神の眼のエネルギーだけ使え。」
神の眼はバルバトスの生体エネルギーを取り込み、シャルティエは少し消耗している。
うまくいく保障はない。少しでも可能性を広げるためのものだった。
「やってみる! 皆集まって!」
手は尽くした。最後のとどめがうまくいくか、保証はないがやるしかない。
リアラは意識を集中させ、神の眼からエネルギーを吸い取って時間転移の力へと昇華させる。
7人は光に包まれ、18年後へと向かっていく。その中でシンは誰かが叫んでいるのを聞いていた。

 
 

神の眼に突き刺さったシャルティエは、昔を思い返していた。
自分のことではなく、エミリオ、リオン、そしてジューダスのことだった。
傷つきやすい心を冷たい態度で押し隠し、ずっと心の中で泣いてきた彼を、シャルティエは全人生をかけて見届けようと思っていた。
しかし、それはもう叶わない。何故なら自分はここで散るのだから。もう彼の役に立てない。
『けど……僕は幸せでしたよ……僕の……僕だけの坊ちゃん……。』
意識が消えていく。だが、シャルティエの心は不思議と満たされていた。

 
 

18年前の空が開けた。絶望を呼んだ外殻が地上へと降りていく。
エルレインの企んだ歴史改変は、ここに潰えたのである。

 
 
 
 

TIPS

 閃翔旋刃 センショウセンジン 武器依存
 闇縛交叉 アンバクコウサ 物理→闇
 獄炎掌鎗撃 ゴクエンショウソウゲキ 火→闇