Top > G-Seed_?氏_第十一話(前編)
HTML convert time to 0.003 sec.


G-Seed_?氏_第十一話(前編)

Last-modified: 2007-11-10 (土) 19:44:56

「カガリ。今日はこんな夜更けに何の用だい? こんな時間に、呼びださ
されるってことは・・・。ひょっとして期待しちゃっていいのかな?」
 何をだ! という元気いっぱいの声が返ってくるのを紫髪の青年は予想したが、
「ユウナ・・・。話がある」
 返ってきたのは沈痛な声だった。
「何だ〜い?」
 紫色の青年は陽気に訊ねた。カラ陽気でも出さなければやってられない
気分である。夜中に呼び出されて、何か火急の用かと思ったら、悩み相談ときたものだ。
「・・・ユウナ。政治家が国民のためにすべきこととは、何だ!?」
 椅子ごと後ろにひっくり返りたい衝動に駆られたユウナは、その衝動との
戦いに勝利した自分を褒めてやりたいと思った。
(コレが国家元首やってるんだから、ちょっとすごいことだなあ・・・)
 ユウナは、呆れるのを通り越して、笑い出したい気分になった。
「基礎に立ち戻るのはいいことだって思うけど、ちょっと戻りすぎじゃないかな?
「誤魔化さずに答えてくれ!」
「今日は一体どうしたの? 夜中に人を呼びつけておいて、禅問答かい?」
 必死に懇願するカガリを、ユウナは酷薄な眼で見据えた。
「ドモン大使と話した・・・」
「ふ〜ん、それで?」
「大使は、お父様の事を馬鹿者だと、理念に囚われすぎて頭がおかしくなったと評した」
「そりゃまたスゴイこと言われたねえ」
 その通りなんだけどね、とユウナは思う。オーブの政治家の中には、そう
考えている者もかなりいるはずだが、一言でもウズミを批判すると、カガリが
目の色を変えるため、口を噤んでいるのだ。
「大使に抗議でもしておこうか?」
 しかし、カガリはユウナがその場にいるのを忘れたかのように、話し続ける。
「腹が立った。殴ってやろうかと思った。でも、でも・・・・」
 握り締められたカガリの拳の震えが大きくなった。
 ミネルバで、あの黒髪の少年から投げつけられた言葉が、その憎悪に満ちた
真紅の目が、ドモンの言葉を聞いて以来、何度も頭に蘇ってくるのだ。
「大使の言った事は・・・。正しいんじゃないかって、思えてならないんだ!
だからユウナ、教えてくれ! 政治家が国民のためになすべきこととは、何だ!?」
「そうだねえ・・・」
 ユウナの目は、病人を診断する際に医師が放つ、透徹するような眼光を放ち
始めていた。
(外から来た人間に批判されたことで、ようやく、ちょっとは視野が広がった・・・か?)
 少し考えてユウナは、
「国民の生命と財産を守る事だと思うね、僕は。言っておくけど、これは最低ラインだからね?
これが出来ない政治家は、未来永劫、無能のそしりを受けても文句を言えないと思うね」
「・・・つまり、お父様は・・・・」
 噛み締めたカガリの唇から、赤い鮮血が流れる。
「統治期間の9割までは間違いなく、名君だよ。内政手腕は勿論、兎にも角
にもあの段階まで立ち回って中立を貫いた外交手腕も、僕は参考にさせて頂
いている。ただ、最後の最後で、理念という名の楊貴妃に心を奪われちゃった・・・」
「何故だ!?」
 羅刹なような形相で、カガリはユウナの胸倉を掴みあげた。
「何故、それを今まで黙っていた!?」
「・・・言ったとして、君は聞く耳持ったかい? 僕達を、自分の意見を
聞き入れない邪魔者としてしか見ていなかったのは、君だろ?」
 カガリの腕から力が抜けた。
「はっきり言うけどね。自分は未熟だ、未熟だ、といいつつ、何であそこ
まで自分の意見に固執できるか不思議だったよ。だけど、そのうちに分かった。
君の言う『未熟』は、自分の意思を通せない事を指しているんだってね。
いや、自分の意思じゃないな。君の弟。今はいないけど、アスラン・ザラ
ラクス・クライン、アンドリュー・バルトフェルド、マリュー・ラミアス・・・」
「もういい! 私は・・・。私は一体、何をやってきたんだ!!」
 拳をカガリは思い切り叩き付けた。もう一撃、さらにもう一撃。
 様々な感情がカガリの中で暴れ狂っているのがユウナには見て取れた。
この奇行も、その表れだろう。
(しっかし、すごいねえ)
 今まさに、彼女はのた打ち回りながらも脱皮している最中なのだ。ただ、
本当にのたうって備品を破壊するのはやめた方がいいと思うが・・・。
「そろそろ哀れな机君を許してやる気はないの?」
「これが最後の一発だ!」
 がごっ、という今までで一番大きい音を残し、机が砕け散った。
「自傷行為は好きじゃないなあ。自己憐憫と一体だ。生産性ゼロだよ」
 荒い息を吐きながら、拳から血を流すカガリに、ユウナは容赦のない言葉
を叩き付けた。
 カガリが顔を上げた。
「ユウナよ。セイラン家が無能だと知りつつ、私を廃さなかった理由は何だ?」
「・・・神輿は綺麗な方がいいからね。君の容姿と飾らない性格は客寄せパンダ
には持ってこいだ。僕達じゃ無理だからね、君と同じ事は」
 直球を投げてくるカガリに、ユウナは直球で返し、
(それはカリスマといって、得がたい才能ではあるんだ。だから、僕は君に
期待しているんだよ、カガリ)
 心の中でそう続けながらも、ユウナはその言葉を飲み込んだ。
 今はまだ言う時ではない。
「・・・良くもまあ、国家元首を捕まえてそこまで言ってくれたな」
 カガリの声が低音を帯びた。
 今度は左手でユウナの胸倉を掴み寄せる。
「殴られるのは嫌いなんだけどなあ」
「心配するな。事実を言われても今更腹は立たん。それに、客寄せパンタ程度の
役にはたっていると分かって、ホッとしている」
「さすが元首様。それくらい太っ腹じゃないと」
 カガリは金色の瞳に紅蓮の輝きを宿し、ユウナの目を正面から覗き込んだ。
「ユウナ。・・・私はモノになると思うか?」
「さあねえ? やっと居心地のいい王宮から半歩踏み出しただけだからなあ・・・。
これからだよ、全ては」
 飄然とユウナは言い放った。
「・・・とりあえず、半歩分踏み出した証を見せようと思う」
 カガリが左手を離し、
「準備を頼むぞ! ユウナ・ロマ」
「御意!」
 ユウナは恭しく礼をしてみせたのであった。