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G-Seed_?氏_第十話(後編)

Last-modified: 2008-09-16 (火) 13:59:14

「――で、どうするんだ? カガリ。ガンダムファイト条約は」
 顔に大きな傷を持つ男の発言で、夕食後のリラックスした雰囲気は、
一気に重いものになった。
「ドモンさんの乗っているゴッドガンダム。私達は一般に公開された部分
しか見ることができないけど、あの技術は確かに私達の世界の物とは次元が
違うほど進んでいるわ」
「そう! オーブの『売り』は他よりすすんだ工業技術だ。そいつが、他より
立ち遅れちまうと、こいつはコトだぞ。カガリ」
「分かっている! それは分かっている!」
 黒髪の女性と顔に傷のある男のやり取りを効いたカガリが、苦渋に満ちた
声を上げた。
「俺が言うのも何だが、一体何が引っかかるんだ? あんた達の話を総合
すると、ガンダムファイト条約に加盟して他国の技術について行かないと、
この国は傾きかねないんだろう?」
 困惑したドモンは、割って入った。
「そうなん・・・だがね」
 傷のある男は手元のコーヒーをすすった。
 ドモンは次第に苛立ちがつのりだすのを感じた。
「国が貧しくなれば国は荒れる。そうなれば一番被害を受けるのは
そこに住んでいいる 人間だ!」
 ドモンの脳裏に、荒廃したドモンの世界の地球の光景が目に浮かんだ。世界の流れ
から取り残された国の辿る末路とは悲惨なものである。
 そして最も悲惨なのは、その国から逃れるすべもない貧しい人間なのだ。
「分かっている!」
「・・・何故加盟しないか、俺に説明してくれるか?」
「オーブの理念が、他国との争いに介入することを禁じているからだ。オーブの理念とは
他国を侵略せず・他国の侵略を許さず・他国の争いに介入しない。・・・以上だ」
 どこか誇らしげに、カガリは朗々とオーブの理念を歌い上げた。
 だが、別にドモンは感銘を受けたりせず、
「・・・なるほど、要は憲法か? だが、それなら変えればいいだろうに」
「変えればいい、だと!?」
 カガリの態度が豹変した。金色の瞳に、はっきりと怒りの炎が燃えている。
あまりの豹変ぶりに、ドモンは面食らう思いがした。
「前大戦で、お父様が命をかけて守りぬいた理念を変えろというのか!?
何も知らない人間が勝手なことを言うな!」
「その時は、中立が最善だったのかもしれん。だが、状況が変われば最善な行動
も変わる・・・」
 宥めるように言いかけて、ドモンは引っ掛かりを覚えた。
「命をかけて、と言ったな?」
「お父様は、最後までオーブの理念を貫こうとしたんだ。なのに、連合の奴等が
無理矢理オーブに侵攻してきて・・・」
 カガリはそこまで言って言葉を詰まらせた。
「僕達も戦ったけど、力の差がありすぎて防ぎきれなくて・・・。ウズミ
さんは、マスドライバーを爆破して、亡くなられました。その後、オーブは
連合に占領されたんです」
 それまで会話に加わらなかったキラが後を引き取り、黒髪の女性が、当時
を思い出したか、沈痛な面持ちをする。
 だが、ドモンは苛立ちと困惑を益々つのらせていた。
「前大戦が地球連合とプラントの全面戦争だったことは知っている。何故、
連合の侵攻が具体化した時点で、プラントと組まなかった?」
「だから、オーブの理念があったからだと言っている。陣営を定めぬために、
地球連合に抗しておいて、プラントについてしまったら、何の意味もなくなっ
てしまうじゃないか!」
 頬を高潮させ、理念と繰り返すカガリとは対照的に、ドモンは自分の心が
冷めていくのを感じた。
「・・・つまり、お前の父親は状況がどれほど変わっても理念を押し通し、その
結果連合の侵攻を招き、その時点でもまだ理念に拘ってプラントと結ばず、
戦力差を無視して単独で連合と戦い、当然の如く敗れて連合の支配を許したと、
そういうことか? ・・・信じがたい馬鹿だな。馬鹿でなければ途中で頭が
おかしくなったとしか思えん」
 氷点を下回る声音で放たれた言葉に、カガリは凍りついた。これほどまでに
父を悪し様に言われたのは、始めてだった。
「狂っていたのは世界だ! ウズミさんも僕たちも、戦いを止めたかっただ
けなんだ。これ以上誰にも悲しい思いをして欲しくなかった。 撃たれたか
ら撃って、撃たれたから撃ち返して・・・。そんなの、もう絶対嫌だって思った。
連合に味方しても、プラントに味方しても、結局誰かを撃って、撃ち返される。
だから!」
 キラがドモンを睨みつけた。だが、ドモンはキラを逆にねめつけた。
「連合に支配されたということは、オーブは結局その後の戦争において、
連合に加担したということだ。その点から見ても、ウズミとやらは失敗したと
何故気づかん!? 戦いが悲惨なことぐらい誰でも知っている! だから、
俺の世界ではガンダムファイトなんてことをやっているんだ。ガンダムファイト
にも問題は多い。だが、人が死ぬよりはいい! しかるに!  そのウズミとやらは
理念を通すために人を死なせ続けた。そのオーブの理念とは一体、誰のためのものだ!
その理念を守りぬいたことでオーブの国民の中に、一人でも幸福になった奴がいるのか!? 」
 ドモンの怒声はすさまじく、窓ガラスがビリビリと震えた。
「お、お父様だって・・・。悩み・・・苦しんで、決断を・・・」
 目に涙を浮かべ、身体を震わせながらカガリが言葉を搾り出す。
「悩み苦しんで出したからといって、それが正しい決断とは限らん!」
 ドモンは一言の元に斬って捨てた。
 ドモンは師を思った。
 東方不敗とて、人類抹殺は悩み苦しんで出した結論であったろう。だが、
その結論は間違っていた。
「いかに、尊敬し、敬愛する人間の行動でも、それが間違っていれば、こち
らも命をかけて正さなくてはならないこともある! どれほどの人間でも所
詮は人。人は、間違いを犯すものだ!」
 ドモンは苦い声で吐き捨てた。
 最強にして最高の武道家である東方不敗ですら間違いを犯したのだ。
間違いを犯さぬ人間など、常に正しい人間などいるものか! 
 カガリが呆然とイスに座り込んだ。その目は空ろで、彼女の受けた衝撃の
大きさを物語っていた。
 しばらくの間、深海よりも深い静寂が満ちた。
 疲労を感じたドモンは立ち上がった。激情に駆られて、やりあってしまったが
そもそも議論はドモンの得意分野ではないし、好きでもない。
 その時。
「・・・今の、ガンダムファイトをすすめているサハク首長は、本当に平和
を望んでいるんですか?」
 キラ・ヤマトが視線を向けてきた。その表情は硬い。
 ドモンはキラの顔を一瞥すると、
「――答える前に聞きたい。お前は、人の話を聞く気があるのか?」
「え? どういう・・・」
 この答えは予想していなかったのか、キラは驚きの声を発する。
 それには応えず、
「・・・『ガンダムファイトに参加する国家は、ガンダム・ファイトへの参
加を表明した地域への武力侵攻を行ってはならない。行った場合はアメノミ
ハシラへの宣戦布告とみなす』・・・酔狂でこんな条項を作る人間がいると
思うか?」
 ドモンはそっけなく言った。
「・・・アメノミハシラに覚悟があるのは、分かります。でも、じゃあ、ど
うしてプラントと手を組んでいるんです?」
「組んでいけない理由があるのか? プラントの政策は、デュランダル議長
の下、平和的かつ理性的なものだ。そして十分な力を有してもいる。プラン
トとの軍事条約なくして、アメノミハシラは抑止力たりえん」
 ドモンとゴッドガンダムの存在、そしてプラントとの軍事条約があるから
こそ、地球連合各国は国力から言えば、吹けば飛ぶ、と形容しても差し支えない
アメノミハシラとことを構えようとしない。
 だが、この程度のことは誰でも分かるはずだ。
 いい加減ドモンは馬鹿馬鹿しくなり、同時に怒りが込み上げてきた。
「・・・だが、貴様が聞きたいのはそういうことではないのだろう!? 
一体、何が引っかかるのか言ってみろ!」
 今日は怒ってばかりだと自覚はあるのだが、どうにもこの空間の
人間達は、ドモンを苛立たせるのだ。
「・・・ラクスは、プラントにいるラクスは、偽者なんです!」
「おい、キラ!」
「キラ君!」
 顔に傷のある男と黒髪の女性が明らかに慌てたように大声を上げた。
「でもっ! ミハシラを支えているのはドモンさんです。ドモンさんに分かって
もらえば・・・」
 ドモンは一つため息をついた。
「まず、その『ラクス』という人間がどういう人間かを教えてくれ・・・」

*         *

「なるほど・・・。で、ラクスクラインはプラントの動向を探るためと、危険
から身を隠すために宇宙へ上った、と・・・」
 長い話を聞き終え、ドモンは呆れと疲れと他もろもろが混じりあった息を
盛大に吐き出した。
「彼女が、誰に、どうして、狙われたのか、それがはっきりしないうちは、
僕はプラントを信じられないんです」
「ちょっと待て・・・」
 ドモンはどっと疲れが込み上げるのを感じた。
「何故議長がやったと決め付ける? 確かにその『偽ラクス』とやらのこと
を考えれば辻褄が合うのは分かる。だが、お前達はどれだけの勢力から恨み
を買っているのか、自覚がないのか?」
 目の前の少年達やそのラクスクラインが前大戦でやった『凶行』を考える
と、どれだけの勢力に恨みを買っているか見当もつかない。
「そうなんだけどねえ。ザフトの新型MSを使い、特殊部隊を動かすことが
できる勢力となると、流石に限られてくるんじゃないかな?」
 バルトフェルドがそう言って肩をすくめると、キラが暗い顔で頷いた。
(何故そうも被害者ぶった顔ができる。自分で撒いた種だろう!)
 沸々と湧き上がる怒りを必死で抑え付け、
「バルトフェルド。あんたは、一つ間違っている」
 ドモンは指摘した。
「え? 僕がかい?」
「『特殊部隊』だ。あんた方は、ザフトの特殊部隊に襲われた、と言う。
しかし、コーディネーターの軍人を、俺は三人ほど知っているが・・・」
 ドモンはその場にいる全員を見渡した。
「仮にその3人とあんた達が戦った場合、あんた達は1分も持たずに皆殺し
にされる。特殊部隊ならその3人よりも更に腕は立つだろう。そんなのと戦
って何であんた達は生きてられるんだ?」
 その場にいた人間達が顔を見合わせる。その反応に、ドモンの疲労感はさ
らにつのった。
 残る精神エネルギーをかき集め、ドモンは口を開いた。
「・・・あんた達はその偽ラクスが登場して以来、議長が本物を消しにかか
るというストーリーを無意識に頭の中で思い描いてたんじゃないか? だから、
襲われた時、『議長の命を受けたコーディネータの特殊部隊に襲われた』
と思い込んでしまった。俺はそう思うんだがな」
「で、でも・・・」
 動揺の色を浮かべつつ、キラが反論しようとするが、
「とにかく、犯人がプラントの議長だと決め付けるのはやめたほうがいい。
ただ、個人的にはプラントの議長はシロだと思う。あんた達が生きてられるのが
その証拠だ。国ってものの本気はそんなに甘くない」
 黙殺してドモンは戸口へ向かった。これ以上、この空間で話していると
頭がどうにかなりそうだった。
「あんた達は、もっと仲間以外の人間の話を聞くべきだ。同じような考え
と思想に凝り固まった人間とばかり相談していても、堂々巡りがいいとこだ。
それじゃまずいんじゃないか?」
 まだイスに座ったまま、空ろな目でテーブルを見ているカガリに目をやり、
ドモンは孤児院を後にしたのだった。