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G-Seed_?氏_第十話(前編)

Last-modified: 2007-11-10 (土) 19:44:34

「これは一体どういうことだ!」
 目の前の金髪が少女が怒声を上げるのを、
「いや、どういうことだと言われても・・・」
 ドモンは顔をしかめた。
 ミナの催促を受け、ドモンは一人オーブへ先行していた。幸いなことに、
ドモン・カッシュに師事できた――つまりは、どの国も実現できなかった、
ドモン・カッシュを顧問として迎えることに成功した――功績により、三人
の弟子には公用機が与えられるそうであるから、合流は思ったより早まり
そうである。
 弟子達が来る前に、要件をすませ、良さそうな修行場所を探しておく
つもりであったが・・・
 書状を渡し、さっさと帰ろうとした所を止められ、目の前にいる国家元首の
前に――驚くべきことにルナマリアと同じくらいの少女であった――連れて
こられ、そして今の状況に至るわけである。
(長引くかもしれないな、これは)
 ドモンは心中で舌打ちした。
「我々オーブは、アメノミハシラの独立を認めないと何度も通告してきた。
それに対し何の回答も寄越さず、『特別扱いは認めないから、ガンダムファイト条約
に加盟するならば早く通告されたし』とは一体どういう了見だと聞いているんだ!?
「・・・そういうことは、俺に言わず、他のヤツに言うべきではないのか?」
 使いっ走りの俺に言ってもしょうがないだろう、という思いを言外に込めて、
ドモンは答えた。
 無礼な言い方かもしれないが、年端もいかぬ少女にいきなり怒鳴り散らされ、
ドモンも少々腹が立っていたのである。
「・・・失礼ながら、ドモン・カッシュ全権大使に言わずして誰に言えというのか、
こちらも伺いたいものだ」
 皮肉のこもった言葉にドモンは驚愕した。
(ミナのやつめ!)
 楽しげな笑みを浮かべたミナの顔が浮かんできて、ドモンは顔をしかめた。
 それにしても。
(政治ことなど何も分からん俺を行かせるとは、この国は、よほどどうでもいい
弱小国ということなのか?)
 しかし、ドモンの知るロンド・ミナ・サハクという人間は、力の強弱によって
礼を尽くさないというような、傲慢な真似をする人間ではないのである。
(どういうことだ、これは・・・)
 ドモンは混乱し、しばらく考えた末、
「すまない。本当に何も知らない。俺は、サハク元首に書状を行政府に届けろ
と言われたから持ってきただけだ。全権大使になっているなど、始めて知った」
 正直に話すことにした。
(全権というからには、俺に全部任せたということ。ならば好きにさせて
もらうだけだよ!)
「なっ!」
「おのれ・・・」
「舐めた真似を・・・。サハク家ごときが・・・」
 場に怒気が充満するのをドモンは感じた。
 しかし、これがドモンなりの誠意であった。事情も何も分からない人間が
適当なことを言うのは、どちらにとっても良くないはず。

 ――こりゃまた、嫌味だなあ・・・
 
 小さな呟きがドモンの耳に届いた。ドモンは声の主を探った。
(・・・奴か?)
 紫の髪をした、大柄な青年。この部屋でただ一人、怒気をあらわさずヘラヘラと
軽薄な笑みを浮かべている。
 しかし。
(いい眼をしている。眼だけならファイターとして一流だ)
 冷徹に自己と他者を見つめ、決して己が意を相手に悟らせぬ眼だ。
 ドモンの視線に気づいたのか、紫色の男は軽く肩をすくめてみせた。
「アメノミハシラの姿勢は良く分かった!」
 金髪の少女が立ち上がり、手を差し出した。
「大使の方、ご苦労だった!」
「・・・すまなかった。無駄な時間を取らせたようだ」
 相手にすれば災難であったろう。元首というものが忙しいものであろうことは、
ドモンにとて分かる。それをこんな実りの無い時間で浪費させられたのだから・・・
(ん?)
 手に妙な感触を感じたが、ドモンは何食わぬ顔でそれを受け取った。
(なるほど、こういうことか)
 会見自体は茶番だが、本題はコレだったということだ。
(それにしても、他のやり方だってあるだろうに。何故こんな回りくどいことをする?)
 などと思いつつもドモンは、まったく意を悟らせぬ表情で行政府を出ると、
気配でつけてくる人間、監視している人間がいないかを探った。
 誰もいないと判断。ドモンは紙を開いた。
 紙には――
「住所だけ・・・。ということは、ここに来いということか?」
 どうやら、本当にこの要件は長引きそうである。
 ため息をつき、ドモンはタクシーを拾うべく、大通りに向かって歩き出した。

「孤児院・・・か?」
 ドモンは呆然と目の前にある建物を見つめた。
(こんな所で何をしようというんだ?)
 立ち尽くすドモンに、
「すげー、ドモン・カッシュだ!!」
「せかいさいきょーの男だ!」
 子供達が群がってくる。
 名実共に世界最強の男、ドモン・カッシュは世の少年達の憧れであった。
「コラ! お前達、その人は私の客人だ」
 闊達さを感じさせる声が飛んだ。その声に聞き覚えがある気がして、ドモンは
声のした方を見る。
 赤いTシャツに長ズボンというラフな格好をした少女が一人、車から降り、
近づいてくる。
 ドモンは目を丸くした。
「アスハ代表・・・か?」
「カガリでいい。先程は、失礼した。お会いできて光栄だ、ドモン・カッシュどの」
 年頃の少女に戻った若き国家元首は、そう言って笑った。

*         *

「――そういうことだったのか」
 オーブとアメノミハシラの関係を聞かされたドモンには、ようやく先程の行政府
での政治家達の怒りに合点がいった。
 確かに、国家の兵器生産になくてはならないステーションの一つが、勝手に独立し、
しかもガンダムファイト条約を利用して、世界から承認を勝ち取ってしまったと
なれば、オーブとしては憤懣やるかたないのは当然である。
 そんな所にあんな書状を持った人間がノコノコやってくれば、ああなるだろう。
(ミナの奴め!)
 ドモンは心の中で、今日何度目か分からない悪態をついた。
「私は、別に良いと思っているんだ」
「・・・何がだ?」
「アメノミハシラが独立しても、だ。アメノミハシラが、オーブの言う事を聞き
たくないというのなら、それは仕方ない。アメノミハシラにいるオーブからの
避難民もミナの統治を望んでいるようだしな」
「・・・その通りかもしれん。だが、オーブはそれでいいのか?」
「勿論困るさ。でも、仕方ないだろ?」
 ドモンは絶句した。
(国家元首がそんなに、物分りが良くていいのか?)
 カガリの考えはアメノミハシラにとって有難いが、逆にそれはオーブに
とって不利だということだ。
(まあ、こうは言っていても、何か他に考えがあるに決まっている、か)
 目の前にいるのは政治家である。
 政治家の言う事を鵜呑みにすることなかれ。
 これがガンダムファイトで散々政治に翻弄されたドモンの学んだ教訓で
あった。
「それを言うために、あのメモを?」
「ああ。私は、代表などと祭り上げられていても、何の決定権もない。だが、
とにかく私の考えを伝えたかったんだ」
「つまり、代表はアメノミハシラと内々に――」
 その時
「カガリ! 夕食ができたって・・・」
 褐色の髪の少年が近寄ってくる。
「分かった。今、行く! あっ・・・。ちょっと待て! 紹介したい」
 カガリは褐色の髪の少年を手招きした。
「ドモン。こいつが私の弟、キラ・ヤマトだ。キラ、こちらが・・・」
「知ってるよ、カガリ。ドモンさんを知らない人なんて、世界には誰もいないって。
始めまして。お会いできて光栄です、ドモン・カッシュさん」
 少年は柔らかな笑顔を浮かべ、手を差し出した。
「ドモン・カッシュだ」
 少年の手を握り返しながらドモンは、
(カンに触る目をした奴だな)
 あまり友好的とはいえないことを考えていた。