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G-Seed_?氏_第六話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 19:43:36

「なるほど。俺に弟子入りしたいと・・・」
 少年達の身のこなしからして、予想はついていた。
 正直うんざりとしつつも、ドモンは目の前に腰を下ろしている、少年少女
の顔を順々に見た。
(コーディネーターが美形ぞろいというのは本当だな・・・)
 ネオ・フランスのジョルジュ・ド・サンドの整った顔を思い出しながら、
ドモンはそんなことを思った。
「俺がなぜ、アメノミハシラを離れたか、知っているか?」
「『ドモン・カッシュはガンダムファイト本選には参戦しない。その代わりに
アメノミハシラが第一回大会は運営を務める』この取り決めがなされて以来、
アメノミハシラに、あなたを選手として雇いたいという人間、顧問として雇いたい
という人間、更に弟子入り志願者が、あなたが断っても断っても押し寄せ、
その数が減ることがなかったのが理由である、と聞き及んでいます」
 自分もまた弟子入り志願者であることは、どこか遠くの棚に放り投げ、
三人の中でも際立った美貌の少年が一ミリたりとも表情を崩すことなく
答えた。
 名工によって彫り上げられたような鼻梁と唇、切れ長の目。だが、儚げな
美少年と形容するには、少年のアイスブルーの瞳に宿る輝きは鋭すぎるであろう。
まるで研磨された剣のように人を射ぬくその輝きは鋼の意志を感じさせた。
「では、俺が何と答えるか分かるだろう?」
「見当は付きますが、実際に耳にしてもいないのに諦めるのは、自分の主義
ではありません」
 即座に少年は言葉を返してきた。
 あまりの即答に、ドモンは一瞬言葉に詰まる。
「お聞きしてよろしいでしょうか!?」
 その隙をつくように、紅い髪とアメシスト色の瞳の少女が、元気一杯に
挙手をした。
「・・・何だ?」
「どうして、ドモンさんは弟子をお取りにならないんですか?」
 無邪気な口調で少女が尋ねてくる。
 きらきらした瞳と生気にあふれた表情が、新緑のようなさわやかさを感じさせた。
「・・・弟子を取ったことがないのでな」
 憮然とした表情でドモンは言った。
 自分が人に物を教えられるのかどうか、正直分からない。
「何にでも始めてってありますよ! それに、初物って美味しいじゃないですか!」

 ――美味しい?
 
 ドモンは目をしばたかせた。
(なぜ、女というのは、直接関係のない話と話をつなげられるんだ?)
 レインとアレンビーの会話を聞いていて、頭が痛くなったことがあるのを
思い出しつつ、
「・・・時間をおいた方が美味くなるものだってある」
 ドモンは何とか切り返した。
「資源を死蔵するのは、良くないって思います!」
 ドモンは頭を抱え込みたい衝動にかかられた。
「・・・あれだけ断っておいて、今更、君達だけを弟子にするというのは不公平だ」
 少女は無視をして、ドモンは金髪の少年に向き直った。
「それはどうでしょう? 自分はそうは思いません」
 しれっと金髪の少年は言い放った。
「選ぶ側にふるいをかける権利があるのは当然です。ふるいにかけられて
諦めてしまう人間にの方に問題があるのです。あなたがお気になさる必要はない、
と自分は思います」
 口ではどうにも分が悪いと感じて、ドモンは黙り込んだ。
 考えてみれば、口喧嘩でレインに勝った事はなかったような気がする。
 もっとも『取らんといったら取らん! 帰れ!』と一声怒鳴ればすむことなの
ではあるが、ギアナ高地まではるばるやってきた少年達にそれをやるのは、
どうにも気が引けた。
「あの!!」
 唐突に響いた大声に、反射的にドモンは声のした方に視線を送る。視線の
先では、会話に加わる糸口が掴めずもどかしそうにしていた、真紅の瞳が
特徴的な少年が、前のめりになり、頬を上気させていた。
「お、俺! 強くなりたいんです! だから! ・・・お願いします!!」
 叫ぶと同時に少年は、頭を地面に叩き付けた。
 口下手ではあったが、少年の声には看過できないひたむきさと一途さがあ
った。
 またも音がした。
 振り向くと、金髪の少年も少女も、地面に額がつくまで頭を下げている。
(困ったな・・・)
 と思いつつ、三者三様の性格をしている彼等を、面白い奴等であると
ドモンは思い始めていた。
 それに、ギアナ高地まで追いかけてきたのは、確かにこの3人だけであるし、
――この一月わざと場所を転々としていたのだ――待遇がどうこうとか、
謝礼がどうこう、と言わないところにも、ドモンは好感をもった。
「分かった」
 三人の顔がバネ仕掛けのように跳ね上がった。
「何度も言うが、俺は弟子を取ったことがない。ゆえに、どう人に教えてよいのか
良く分からん。それでもいいんだな?」
「勿論です!」
「ありがとうございます!」
「どうぞ、ご指導ご鞭撻よろしくお願いいたします!」
 三人の少年少女の顔が喜色で輝く。
「まあ、待て!」
 ため息を一つついてドモンは三人を制した。
「・・・正式な弟子にする前に、一つ条件がある」

「1月休まずにドモン・カッシュの修行メニューをこなすこと、かあ。
少し拍子抜けかって感じかしら・・・」
 寝袋に入りながら、ルナマリアが身支度をしているシンに声をかけた。
「うん。そうだよな。その修行についていけなけりゃ、そもそも弟子入りした
って意味ないわけだし」
「だが、油断は出来ん。なんといっても彼は超人を超えた超人だ。どれほ
どのものか見当もつかない」
 寝袋に入り込み、目を閉じてレイが言った。
「キツイのは望む所だけどな! どんな修行にだって、耐えてやる!」
 シンは自分を鼓舞するように言って、寝袋に飛び込んだ。

 ――8時間後

 朝日と共にシンは目を覚ました。
 午前6時。
 てっきり、朝の3時ぐらいに叩き起こされることを覚悟していたシンは、
拍子抜けの気分と共に身を起こした。
「起きたか、シン」
 既に身支度を整えたレイが、何やら身体をほぐしている。
「おはよ・・・。ルナは?」
「朝食の準備をしている。流派東方不敗では、弟子と師が同時に食事を取るの
が流儀だそうだ」
「へえ・・・」
 何だかなあ、と思いつつシンは大きく伸びをした。
「ルナの料理か・・・。大丈夫かな?」
「何がだ?」
「ルナって、そういうこと苦手そうっていうかさ・・・」
 料理の得意なルナマリアというのは、シンの脳内にある、活動的な彼女の
イメージと一致しないのである。
「そうか。では賭けてみないか? 俺はちゃんと食べられるものが出てくる
方に賭ける」
「・・・じゃ、俺は出てこない方に」
 何かやばいという予感を抱きつつも、シンは出てこない方を選択した。
 
 ――で、結果はというと

「美味い! 君はきっといい嫁さんになる。・・・すまん、こういうことを言うと
最近ではセクハラになるのか?」

 ――料理は大層美味であった。

「いえいえ。ドモンさんにそう言ってもらえると、嬉しいです!。それにし
ても調味料無しで良く今まで・・・。食事、大変だったんじゃないですか?」
「買出しに行くと目立ってしまってな。普段着で行っているのだが」
「え〜と・・・」
 その普段着が、マントに刀、では目立つに決まっている。ツッコミを入れ
ようかどうしようか・・・。ルナマリアはしばし迷った。
「俺の勝ちだ、シン。今度何か奢ってもらうぞ」
「わかった。だけど、何でわかったんだ?」
 小声でシンはレイに訊ねた。
「野外訓練の時、採取した野草を食するとき、刻みなれていたのを見なかったのか? 
包丁捌きの上手さと料理の上手さは大体一致しているものだ」
「気づかないだろ、普通」
「そうか? まあ、見解の相違だな」
 そういう問題か? と思いつつも、それ以上追求する気もおきず、シンは
目の前の料理に集中した。確かに美味い。
 空は遥か高く晴れ上がり、風も心地よく吹いて、土や草の混じりあった匂い
を運んでくる。
(思ったより穏やかな一日になりそうだな・・・)
 流れる雲を眺めながら、シンはふとそう思った。

――そんなものは、錯覚だった。

「は、はええ・・・」
 見る間にドモン・カッシュの姿が視界から遠ざかって行き、消える。この
最低の足場と木々を潜り抜けながら、どうやったらあのスピードで走れるのか?
 あそこの山の頂上とキャンプ地を二往復。
 そう言われて走り出してみたが・・・。
「ちょっとぉ・・・。全然山が近くなってる気がしないんだけど」
 ルナマリアが呻き声を上げた。
 コーディネーターである彼等は、かなりのスピードで走っているはずなのだが、
山はちっとも大きくならない。
「喋ると、余計に体力を消耗するぞ! これは・・・甘くなさそうだ」
 レイが前を見据えながら言った。

 ようやく二往復を終え、息も絶え絶えになってキャンプ地に戻ると、
ドモンは既に残像が残りかねないスピードでヒンズースクワットをしていた。
 水のボトルを掴みながら、シンは手元のブレスレットを操作する。
 ミカムラ博士が作ったそうで、未消化のメニューが表示されるだけでなく
スクワットや腕立て伏せの回数をカウントしてくれるという機能がある。
しかもありがたいことに、きちんとした姿勢で行わないと一回とカウント
しないという優れものである。
「ん?」
 シンは眉を寄せた。
 次のメニューは、『片手拳立て伏せ左右1000回ずつ』であった。
 嫌な予感がして更に操作すると、その次のメニューは『腹筋1000回』
その次は・・・。
 シンの背中に嫌な汗が流れた。
 ドモンは、スクワットを終えたらしく、さっさと次のメニューに移っている。
 休んでる暇はない! 全部こなさないと、一日目でいきなり脱落だ。
 シンは大慌てで、拳立て伏せを始めた。
「昼食の時間だ」
 どうやら、『クロールで対岸から対岸まで50往復』を消化してきたらし
く、濡れた髪を拭きながらドモンが、汗とドロにまみれながら筋トレをやって
いる三人に声をかけた。
「す、すいません。食欲が・・・」
 シンは汗でぼやける目でドモンを見上げた。
「ダメだ。食べなければ、何のための鍛錬か分からん。食べることも修行だ。
早く用意しろ! まさか、師に食事の準備をさせるつもりではあるまいな?」
「あの、食事の用意をする人間は、メニューの項目が減ったり・・・しません
よね・・・」
 ジロリと睨まれ、ルナマリアの声は尻すぼみになって消えた。
 修行を開始して以来、ドモンの顔から不器用な好青年、という印象は完全に
消えている。
 ため息をついて、彼女はふらふらと支度に向かおうとする。
「メニューの方は大丈夫か? ルナマリア」
「大丈夫じゃないわよ・・・。でも、こういうのって慣れた人間がやらないと
時間かかっちゃうから、仕方ないわ」
 シンはぐっと言葉に詰まった。
「ごめん・・・ルナ」
 ルナマリアは力なく笑うと、食事の準備をすべく立ち去り、シン達は修行を
再開した。

*         *

 驚くべきことに、疲れきった状態で作ったにもかかわらず、料理はちゃん
とした物であった。
 ドモンは内心、感心していたが、わざとそれを顔色に出さず、冷たい眼光
で三人を見据えた。
 三人ともまったく手をつけていない。レイなど、白い顔がさら白くなり、
病人のように見える。
「食べることも修行だと言ったはずだぞ!」
 ドモンの怒鳴り声に、レイは歯を食いしばってスプーンを持ち上げようとした。
しかし、午前中の筋トレで疲労しきった腕は感覚がおぼつかない。
 食べ物の匂いが鼻をついた瞬間、猛烈に胃から何かがせりあがって来る感覚! 
咄嗟に口をおさえてせりあがった物を嚥下する。
 余計に吐き気が酷くなった。
 横のルナマリアが立ち上がる気配。少し間があって、後ろの方の茂みで嫌な声と音。
「くっそぉ!」
 シンが怒りの声とともに、食事を掻き込み・・・。口を手で抑えながら飲み込む。
戻ってきたルナマリアも、青白い顔をしつつも、震える手で食事を口に運ぶ。
 食事という本来楽しむべき時間が、レイには新手の拷問のように感じられた。
午後からもトレーニングは続いた。
 そして夕食という拷問の後、夕食後の修行を終えたドモンは、
「では、また明日」
 眠るべく、コアランダーに戻っていった。
 シン、ルナマリア、レイの修行はそれからも延々と続いた。明日の6時までに
メニューをこなし終わらなければ脱落だ。
 
 ――午前4時半。

「終わった・・・」
 シンは地面に崩れ落ちた。身体は、睡眠を熱望しており、瞼は下の瞼と
添い遂げたがっていたが、シンは必死に身体を動かした。
「ルナ、しっかりしろ・・・」
 シンは朦朧として硬直しているルナマリアに水をぶっかけた。食事の用意
のために二度もトレーニングを中断したことが祟って、彼女は二人より遅れていた。
 驚いたように目を瞠った後、笑顔を浮かべようとしたことが辛うじて分かる程度
表情筋を動かし、ルナマリアはトレーニングを再開した。
 
 ――午前5時半。
 
 ようやく全員の修行が完了。崩れ落ちてそのまま睡眠。
 
 ――午前6時。

「起きろ」
 頭部を蹴られ、朦朧としながら目を開けると、ドモンが冷然と自分達を
見下ろしているのが目に映った。
(っの野郎・・・)
 怒りがシンの胸に沸々と湧き上がる。理不尽な怒りだと理性が叫ぶが、
疲れと寝不足と筋肉痛のせいで、理性はグロッキー同然であった。一方、
感情の獣は獰猛な唸り声をあげっぱなしである。
「朝食の準備をしろ」
「・・・少し待ってください」
 据わった目でルナマリアが、食事の支度をしにいく。
「今日は・・・組手が中心だったな」
 レイがボソッと呟いた。
 その眼光に剣呑なものが混じっていると感じたのは気のせいではないだろ
うと、シンは思った。
正拳、裏拳、縦拳、前蹴り、横蹴り、足刀、肘撃ち・・・。アカデミーで
は空手も叩き込まれたおかげで、基本稽古はそこそこスムーズに行ったが
問題はやはり、本数と筋肉疲労であった。
(全部1000本かよ・・・)
 寝不足と身体の疲労と痛みのせいで、正確なフォームが作れない。ミカム
ラ博士のブレスレットは、例によってちゃんとしたフォームで放たれない動
作をカウントしない。
「はっ!」
 気合と共にシンは虚空に拳を放った。
 だが、ブレスレットは一回とカウントしない。
「っんでだよ・・・」
 イラっとして、シンはブレスレットを睨む。
 その時。
「水、飲む?」
 横からペットボトルが差し出された。腕の先にはルナマリアの顔。
「ありがと」
 水は温かったが、少しだけ頭の中の霧が薄らいだ気がした。
「っとに、このブレスレット、壊れてんじゃないかって、思っちゃうわよね!
でも、そんな風に思ってると余計上手く行かないし・・・」
 肩をすくめて、ルナマリアは気合と共に虚空を蹴り上げた。
 シンも正面に向き直ると、もう一度虚空に拳を放つ。
 今度は、一回とカウントした。

*         *
 
「遅い! 一体いつまでやっている!」
 ハッとしてシンは後ろを振り向いた。後ろにドモンが立っていた。
(もう終わったのかよ?)
 本当かよ、と思いつつもシンは基本稽古を再開した。
 しばらくして、
「そこまでだ! 組手に入る。・・・このままでは組手に入る前に日が暮れて
しまうからな」
 ドモンがため息を一つついて、言った。
 当然のことながら、こなせなかった分は負債となって後でのしかかってくる。
ドモンのため息が、今のささくれ立ったシンの心には恐ろしくカンに触った。
「プロテクターはあるか?」
「持っています」
 レイが答えた。
「つけろ。5分後に集合。時間厳守! 駆け足!」
 5分後。戻ってきたシン達の前には、拳にオープンフィンガーグローブを
つけた他は、まったく変わらぬドモンの姿があった。
「プロテクターは、つけないんですか?」
「必要ない」
 シンの問いかけを一言の元に切り捨て、ドモンは構えを取った。
三人も、思い思いに構えをとり、合図を待つ。
 突如、シンの視界の中でドモンが巨大化。
「がっ!」
 あっと思った瞬間には、もう体が浮いていた。胃に途方もない痛撃と衝撃。
地面に叩きつけられ、今度は背中から衝撃。
「ぐえぇ!」
 盛大に吐瀉物をぶちまけながらシンは地面でのたうった。
「なっ・・・。いきなり!」
 ルナマリアが抗議の声を上げるが、
「馬鹿者! 戦いに際して、開始の合図などあると思うか! 武道家なら
一時たりとも拳から気を抜くな!」
 ドモンは怒声で答えた。
「ああっ! そうかいっ!」
 シンの頭が激情で沸騰した。
「おらぁ!」
 跳ね起きると同時に、低空突進からいきなり上体を跳ね上げ、顔面に思い
きり拳を放つ。アカデミーで鍛え上げたシンの拳はナチュラルの顔面なら
容易く粉砕する。
 しかし。
 シンの視界がいきなり回転。一瞬の間のあと頭部に衝撃。ドモンに足払
いをかけられたのだとさらに一瞬遅れて脳が理解。
「感情にまかせて闇雲に突っ込むな! 腕の振りが大きい! ・・・お前も!」
 ルナマリアの横蹴りをあっさりとかわし、ドモンが、カウンターの肘を、
彼女の鳩尾に叩き込む。ルナマリアが声も出せずに悶絶。
「そんな大きい予備動作で、相手に当たると思うか!」
「くっ!」
 奥歯を噛み、レイが下段蹴りを放つ。
 だが、レイの足が弧を描ききるより早く、ドモンの直線の拳がガード
をすり抜け、レイの顔面を直撃。鼻先から脳に衝撃がつきぬけ、思考が飛び
去る。思考が戻る前に、レイの顎に衝撃。糸が切れるようにレイの身体が
崩れ落ちた。
「ガードが甘い!」
「っっ!」
 腕の力だけで跳ね上がり、シンは宙で身体を捻り、シンは胴回し回転蹴り
をドモンに叩き込んだ。
 足から衝撃。
当たった!
 心の中で歓声を上げたシンの心に突き刺さる、ドモンの冷徹な目。シンの
心が急速冷却。
「そんな不自然な体勢からの攻撃。よける必要もないわぁぁ!」
 ずんっという衝撃。シンの身体が派手に宙を舞った。4〜5メートル吹き飛
ばされ地面に激突。背骨が折れるかと思う衝撃。
「がはっ・・はっ・・・」
 息がつまりシンは激しく咳き込んだ。
 全身を強く打ってすぐにはおきられず、シンは上体だけを起こしてドモン
を睨んだ。
「どうしたどうした! お前達の強くなりたいという気持ちはその程度か!
違うというなら立ってみろ。足を踏んばり、腰を入れろ! そんなザマでは
猫の子1匹倒せんぞ!」
ふらつく足で必死にシンは立ち上がった。ルナマリア、レイも必死に立ち
上がろうとしている。
「うおおぉぉぉ!」
 シンが雄叫びを上げて突進すると同時に、ルナマリアとレイも地を蹴って
ドモンに襲い掛かった。
「感情のままに突進するなといったはずだ! この馬鹿どもが!!」
 鈍い打撃音と共に、ドモンの大音声がギアナ高地に轟いた。

 ――数時間後

「これで分かったろう! 基礎をおろそかにするものが実戦で強いということ
などありえんのだ! 疲れていようが敵が斟酌してくれるものか! どんな
状態でも、正確な動作が繰り出せるように身体に染み込ませろ! 目的を
見失うな。漫然と修行しても、時間の浪費ぞ! ・・・10分後に昼食を取る
準備をしろ!」
 完全に叩きのめされ、指の一本も動かすことも出来ない三人に、容赦のない
怒声を浴びせ、ドモンは去っていった。
「・・・ねえ、気づいた?」
 寝転がったままルナマリアが独白のように言う。数時間に及ぶ、ぶっ続け
の組手のせいで、身体がまったく動かない。
「ああ。あの人、インパクトの瞬間、無茶苦茶力を抑えて打ってるよな・・・」
「にもかかわらず、プロテクターをはめていてこのザマだ。お前達も知っての
通り、このプロテクターは最新式。対ショック性は抜群のはずだ」」
 レイがプロテクターをポンポンと叩いてみせた。
「ていうか、後ろにも目があるんじゃない? 四方八方から攻撃してるのに、
全部カウンター取られるってありえないんだけど・・・」
 今日の空も青い。そんな場違いなことを考えながらルナマリアは言った。
 やはり、ドモン・カッシュは強かった。強いと『知っている』のと『体感する』のとでは、
やはり圧倒的に違った。
「・・・間違ってなかったな。俺達」
 シンの言葉に、ルナマリアとレイは大きく頷いた。
 自分達が目指すのは、あの力。
 求めたのは、あの力。
 今一度、目標がはっきりと示された気分だった。
「私たちも、あんな風に強くなれるのかしら?」
「分からん。だが、まずはこのトレーニングを『強くなるため』にこなすことだろうな。
俺達には、それしかできない」
「やるしかない・・・よな」
 三人は疲労と眠気と痛みが混声合唱する身体を、なんとかなだめすかしながら、
歩き出したのであった。