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GUNDAM EXSEED_02

Last-modified: 2015-02-23 (月) 21:15:42

颯爽と歩く数人の人影があった。
「今回も見事な働きでした。坊ちゃん」
そう言ったのは大柄の男。
「坊ちゃんはやめてくれと言っているだろう、ニコラス」
答えるのは爽やかな容貌の少年だった。
「失礼しました、アッシュ・クライン大尉」
苦笑いしながら少年は
「改めて、そう呼ばれると何とも面映ゆいな」
「実際、すごいよ、アッシュは。俺と同期なのに、もう大尉なんて」
「なによ、そこらの雑魚部隊を狩ってきただけじゃない。いいわね、クラインの生まれは昇進も早くて」
男の方はリチャード・アマルフィ。女の方はシーエル・ミスティという。
「やめんか、ミスティ出世云々は上が決めること私たちがとやかくいうことではない」
「ふん、ニコラスはすぐにアッシュの味方。クラインゆかりの者だからかしら」
「やめろよ、ミスティ。ニコラスさんにまで突っかかるのは」
「あら、リチャードもアッシュの味方?」
「俺は全員の味方だよ。アッシュもミスティも同期なんだから仲良くやろうよ」
リチャードがそういうとミスティはフンと鼻を鳴らし、1人別の方向に進んでいった。
「すいません。ニコラスさん、じゃあアッシュもここで」
それだけ言うと、リチャードもミスティを追いかけていった。
「なかなか、上手くいかないな」
「人の上に立つ以上、嫉妬はしかたありません。それにたえねば」
アッシュ・クラインそしてニコラスという名の男はそのまま真っ直ぐ進んでいた。
辿り着いた場所は総団長室。
「アッシュ・クライン大尉入ります」
「同じく、ニコラス・ラインバー大尉入ります」
二人が入った先の部屋に待っていたのは一人の男、クライン公国軍のエリート集団、聖クライン騎士団を率いる男、ビクトル・シュバイツァーである。
「二人とも、楽にしてくれ。先の任務はご苦労だった。クライン大尉の実力も見せてもらえた。」
アッシュとニコラスの両名は休めの姿勢をとる。
「クライン大尉は今後、騎士団のみではなく、公国を背負って立つ人物と確信している。そんな君にはこの様な任務は不適切なのかもしれないが、我々のスポンサーを考えると君に任せるしかなくてな。頼まれてくれるかな?」
そう言うと総団長ビクトルは1枚の書類をアッシュに渡す。そこに書かれた任務は極めて端的な物、少女の写真とともに添えられた文章。
「右の少女リーザ・アインを誘拐犯の手から奪還せよ」

 
 

「戦艦てあまりすることないのね」
「そりゃそうだ。戦うための艦だからな」
ハルドは適当に本を眺めながら、リーザの相手をしていた。
「自由があるのはいいけど。働くの嫌ね」
皿洗いと廊下掃除のことを言っているのだ。
「何言ってんだい!働かざるもの食うべからずだよ」
聞き耳を立てていた食堂のばぁ様がどなる。
「うるせぇ」
ぼそりと活字を眺めるハルドは言う。
「なんか言ったかい!」
「うるせぇって言ってんだよ」
ハルドもキレはじめる。モンゴルに入ってから多くなっている。
「なんかあんだったら、この女に縄つけて延々皿洗いやらせてろ」
結果的にモンゴルのルートは正解だった。
地球連合軍の所属だと分かると通してくれるところも多く、食料品を分けてくれる人々も多い。
だが、羊やら何やらの遊牧民たちがどこかしこにもいるせいで、思ったようなスピードではモンゴルを抜けられていない。
さすがのハルドも無視して羊やらを轢いていくわけにはいかなかった。
「まぁ予定通りの速度だ」
ベンジャミン・グレイソン艦長は心配していない様子だった。
「俺もこの程度のスピードだとは思ってたけどさ。MS乗りになるとスピードってのは、けっこう気になるんだよ」
「イラつくなら、空に向けてでも射撃訓練するんだな」
ベン艦長はそれきりハルドの相手をしない。
「かったりぃなぁ」
ハルドは甲板上に寝そべっていた。近くにはライナス機が警戒にあたっていた。
「ヒマなの?」
リーザはハルドに恐れず近づく。
「ヒマが嫌?」
「ああ、お前に言うことじゃないけど、なんかずっと戦い続けの人生だからこういうのは嫌だ」
嫌だというのは周りののどかな世界のことだ。
「もっと殺伐としていないと落ち着かない」
「病気だね」
「我ながらそう思う」
よくよく考えてみると正気ではないとハルドは思う。殺伐とした戦いの世界を求めるなど。
とりあえず、忘れてくれ、そうリーザに言おうと思いリーザを見るハルド。
その時、リーザは空を見ていた。

 
 

「もうすぐ来るよ。輝く人が」
ハルドは全てを思い出し、リーザを抱え上げると艦内に走りこんだ。
「こちら、ハルド。総員戦闘用意!」
リーザの人間感知能力だ。
「空から来る、艦は対空戦闘用意。パイロットも空戦用意だ」
「なんですか急に、レーダーには……あ、レーダー来ました。真上からです」
オペレーターがおっとり言う。遅いんだよ。と思いながらハルドも急いでパイロット用のスーツに着替える。
「ライナス機。準備できてますけど、やばいです。マーク付き。騎士団(ナイツ)です」
「俺が良いと言うまで交戦するな。前のクソと違って礼儀は知っているはずだ」
聖クライン騎士団かよ。とハルドは悪態交じりに思う。エリートじゃねぇか。
「聞こえるか、そちらの部隊。こちらは聖クライン騎士団クライン小隊、隊長のアッシュ・クラインだ。目的は貴隊が拉致した少女のみだ。
少女をこちらに引き渡せば、貴隊に危害を加えることはしない。貴隊も目的があり行動していることは察するが、どうか少女をこちらに引き渡してくれないだろうか」
いいね、敬意を感じる勧告だ。だが従うことはできない。
「ライナス。甲板から対応は?」
「無理な気がします」
OK、上等だ。
「1機やばそうなのがいます。ガンダムタイプです」
じゃあ、それは俺がやるしかないなとハルドは思った。
「ガンダム型は俺がやる、サマーはギークをサポートして機動戦闘だ。騎士団相手に甲板上から狙撃は無理だ」
「了解」
「じい様、俺の装備は両肩、両足スラスターパック。バックはフライトブースターだ」
「いつもと同じでいいってことじゃな」
「そういうことで」
格納庫のハッチが開き、ストライクΔが発進する。
「あたしはスナイパーパックをバックに両肩にフライトパック。足にはスラスターパックで!」
「両脚ともか?」
「そうだよ!」
装備を終えたサマーのグラディアルが出る。
次には
「バックは電子戦型それ以外はサマーの姐さんと同じで!」
「同じじゃわからんぞ?」
「意地悪しないで頼むから!」
ギーク機が遅れて出る。

 
 

「悪いが渡せないな。こっちも仕事でな!」
ストライクΔがライフルを敵の機体に連射する。
「後悔するぞ」
ハルドの視点ではガンダムタイプの機体が自分の機体に狙いを定めてきた。
「ストライクΔ!? そんな古い機体で!」
アッシュは自分の機体に向かってくる敵に驚愕する。10年以上前の機体じゃないかと。
「ライナス!他を頼む!俺はこれで精一杯だ」
冗談じゃないと思いながらライナスは残り三機を見る。
ゼクゥド・パラディン。詳しく知らないがスペックではグラディアルとどっこいのはずだ。
見ると三機のうち1機が突出し、そのカバーにもう1機が出ている。それをサマーとギークの機体が相手している。ということは自分の相手はこの残り1機だとライナスは察したが、嫌な予感しかしなかった。その数十秒後。
「死ぬ!死ぬ!マジで死ぬ!隊長、サマー、ギーク、誰でもいいから助けて!」
ライナスは死の淵を味わうこととなるのだった。
「く、しぶといな。坊ちゃんの心配はいらんと思うがコイツは」
ライナスの相手のゼクゥド・パラディンにはニコラスが乗っていた。並の腕ではないニコラス。それを必死に防ぐライナス。その技量はいかほどか。
「無理無理無理!死ぬぞ、これ!」
必死の極致だった。

 

「さて、どうするか」
アッシュ・クラインは考えていた。自分の機体は当代最高クラスのイージス・パラディン対して相手は、10年以上前の機体。スペック差は明らかである。何とか穏便に降伏を勧める手段はないかとアッシュは考えていた。傷つけることに意味はないはず。だが、相手は発砲してきた。
撃ってきた以上回避するしかない。盾で防げる弾か分からないからだ。
「いい反応だな」
そんな声が聞こえた気がしてアッシュは思わず打ち返していた。しかし、捉えたと思った先に敵はいない。
「速いな、くそ」
とアッシュは思い。敵を探し、
「くそ速い」
ハルドは直感的にそう感じた。いい反応だな?余計なセリフだ。我ながら上から目線すぎる。
実際のところ人間の反応速度じゃねぇぞ化け物め!
これだからコーディネイターは!と頭の中に大量の悪態が思いつくが、根本的な思考はクールだった。

 
 

「ライフルを、よくもやる」
可変しMSの形態になりながらビームサーベルを抜くイージス・パラディン。
対して、ストライクΔは真っ直ぐ突っ込んでいた。
「それでも遅い!」
ストライクΔのライフルの銃身からビームの刃が発生していた。予めライフルに装備していたアタッチメントパーツのシュベルトゲベール・ツヴァイ。
その機能は銃身にビームの刃を発生させること。サーベルを抜くという動作を省き近接戦闘をする武装であり、この瞬間がそれであった。
ビームの刃がイージス・パラディンの腕を切り裂く。シュベルトゲベール・ツヴァイ。ライフルのアタッチメントパーツが効果を発揮した瞬間だった。
「く、どうする?」
アッシュは考える、まだやれるとも、撤退すべきだとも。
片腕がなくともイージス・パラディンはやれる。最悪、アレを使えば。
いや、駄目だ。アッシュの騎士道が最後の武装の使用を踏みとどまらせた。それで良かったのだ。
「坊ちゃん。これ以上は」
通信でニコラスの声が聞こえた不思議な安心感を覚える
「撤退か?」
「はい、ミスティもリチャードも想像以上に消耗しています。
当然、坊ちゃんも。敵はエース、それ以上と思っていいでしょう。撤退もやむなしです」
「ふざけるな。まだ私はやれる!」
「無理だよ、ミスティ。相手が悪かった。今日は戻ろう」
暴れる一機のゼクゥドを抑えつけて、騎士団のMSは去って行った。
それを見届けハルドは各機に通信を送る。
「生きてるやつは?」
「ライナス機かろうじて」
「サマー機ギリギリ」
「ギーク機あと一歩です」
全員生きているのを確認してハルドは言う。
「とりあえず、全員早いうちに葬式の見積もりしとけ。次は殺されっから」

 
 

その後、襲撃はなくベルゲミールは無事に海へとでることが出来た。
ギークのクソが今時、海賊版DVDに嵌って艦の金に手を出そうとしたこと。
サマーのアホがこれは私の故郷では食える虫だという虫を食って便所から出られなくなったり。
ユイ・カトーがヘマして色々吹っかけすぎて地元の奴らに目を付けられて艦から一歩も出られなくなったり。
ライナスのバカが身の程知らずに美女と仲よくなって、
そのトラブル処理にハルドがホテルの部屋にアサルトライフルの弾をばら撒き、
とどめに手榴弾を投げ込んだのもアジアの良い思い出だろう。
特に、印象深いのが、艦の通気口に気持ちよくなる粉を尋常ではない量流し込んだ謎のイカレ野郎の存在であり、
正体不明だが最高にハッピーな目にあったり色々あったが、何とかアジアは抜けられた。

 

「まぁ、色々あったが、アジアは抜けられたわけで、正直これからどうするか本気で決める必要があると思うわけだ」
そう言ったのは、ハルド・グレン。場所は食堂であり、その場のメンツはベンジャミン・グレイソン、じぃ様にばぁ様である。ある意味ベルゲミールの最高権力者たちが揃っていた。そして端にリーザ・アイン。
「前置きは置いといて、リーザの処遇についてだ。ぶっちゃけ、俺は騎士団に渡すという選択肢も無しではないと思っている」
どういうことだという視線がハルドに一斉に突き刺さる。
「リスクの話しさ。正直、俺らは失敗しましたの一言で済む。そう言う部隊なんだよ。女一人に命を懸ける価値があるか再考してもらわんとな、皆さんには」
「リーザちゃんが酷いことされるとは思わないかい!?」
ばぁ様が怒鳴る。
「ぶっちゃけカリフォルニアに行けば、エルザになにされるか分からない以上騎士団に渡してもリーザのリスクは変わらんよ」
「漢気の話しはどうだ。女を守るという」
じぃ様が言う。その言葉はハルドが一番うんざりする言葉だ。
「女を守るって俺らが言っちゃいけないことでしょ。
民族浄化をどんだけシカトしてきたか思い出してくれよ。じぃ様。
レイプされてる女をどんだけ見捨てたか、今更一人の女を見捨てても変わんねぇよ。いや、あんたの罪悪感が変わるか」
結局のところ、とハルドは話しをまとめる。
「今後、騎士団とガチでことを構えることになるかもしれないから、どうすっかって話だ」
そう言って、ハルドはリーザの方を見る。
「まぁ、本人の意思というのも聞かんといかんわけだが、リーザとしてはどうしたいかだ」
気遣うような様子もなく、ハルドは尋ねた。言葉の響きは好きにしていいよという響きだ。
「私としては……この艦の方がいいけど。今のところ楽しいし」
「お前が楽しいって理由でここにいられると、やばい奴らに襲われて殺されそうになるけどな、俺らは」
間髪入れずにハルドは言う。だが、
「まぁ、いいよ。別に騎士団くらい何とでもしてやる。好きなようにすりゃいい。
ここにいる連中――マスクド・ハウンドの馬鹿どもは、みんな好き勝手やって生きてる連中だ。
それが1人増えたってどうってこたぁない」
並ぶメンツは皆頷いている。
「ほんとにやばくなったら、見捨てるかもしれねぇけど。それまでは俺らの仲間、好き勝手やっても守ってやるよ。だから、まぁそうだな」
正直に言えば答えは最初から出ているのだ。
「ここにいてもいいぜ。リーザ・アイン」

 
 

なんとなく艦内では茶番をしながら、ベルゲミールは日本海を経由して沖縄に向かっていた。
日本は地球連合の同盟関係だが基本的に非武装中立地帯なので列島に近付きすぎてはいけなかったし、
大陸側によりすぎるとチャイナの哨戒艦に発見されるため、絶妙なラインを通って沖縄に向かうしかなかった。
「ああ、イライラする……」
操舵手のリック・リーが気を使いながらホバー走行で陸上海上どちらもOKのベルゲミールを操舵しながら、いつものボヤキをしていた。
脇ではユイ・カトーが菓子を食いながらレーダーを見ている。
「ちょっと日本に寄りすぎ、スクランブルで海上艦が発進しちゃうよー」
「俺は艦をブッ飛ばして走りたいのに……」
「今度はチャイナ寄りー、巡視船来るよー」
「うっさい……」
リック・リーが繊細な操艦を要求されている時、格納庫では――
「ぬぁぁぁ、機体がガタガタで、どうしようもならん」
じぃ様が頭を抱えていた。
「どういう戦闘機動したら、こんなに関節やら何やらが消耗するんじゃ!?おい、ハルド!」
「UFOと戦ってました。以上」
「ふざけるな。ただでさえ貴様のデルタは過労死寸前の機体なのに貴様は!」
じぃ様の怒りは収まらない。
「わかっとるのか、お前は70か80のじじいにフルマラソンさせてるのと同じぐらい消耗させとるのじゃぞ!」
「ぶっちゃけ、そうしねぇと勝てない相手だったんだよ。少しは察してくれ」
ハルドもさすがにバツが悪そうに言う。
「ガンダム型の新型だ。こっちの装備を把握してなかったからやれたが、次は騙し手なしでやらなきゃならねぇ」
ハルドの言葉にじぃ様も少し落ち着いた様子になる。
「そんなに厳しい相手か?」
「正直、今まで会った中で一番だ。化け物じゃねぇが、本物の天才だ。
腕が立つ化け物みたいな奴は何人も会ったし、ぶっ殺してきたが。あんな綺麗な天才肌は見たことがねぇよ」
じぃ様の感覚としてはパイロットの腕の表現について理解ができなかった危険な相手だという気がしていた。
それを察したのかハルドは補足する。
「どんなヘボでも血を吸い続ければいつかは腕が上がって最後は化け物になる。
俺が戦ったのは血の汚れが全く無いのに化け物みたいな腕。だから天才だ」
そしてハルドは言う。
「俺は血を吸いまくって鍛えあげた化け物。色々と差があるのさ。才能は無い方だしな」
そう言うハルドはじぃ様に背を向ける。
「沖縄に着けば、本格的に補給ができる。デルタはそん時に頼むよ。
それまでは、何かあった時には、しょうがねえからギークのグラディアルに乗るから」
あいつの臭いから嫌だけど。ぼそりとつぶやきながらハルドは背を向けたまま手を挙げて去って行った。

 

「あの人は鷹かな?どこまでも高く宇宙まで飛べる鷹。だけど籠の中にいる」
ハルドはあのガンダムと戦った後、そのパイロットについて聞いてみた。ハルドの予想通りだったが、そしてリーザ曰くあのパイロットは輝く人だそうだ。
「俺は仔犬で奴は鷹か。さて、勝負はどうなんだろうな」
ハルドは自分がリーザに言われた仔犬という表現を思い出し、ひとり呟くのだった。

 
 

沖縄――地球連合の同盟国である日本。その南にある島。そして日本で唯一非武装中立がされておらず、地球連合軍の基地がある島。
「きれいな海だね」
リーザ・アインは甲板上に出て歓声を上げていた。
その様子を見ながら、楽しそうなのはいいが、ハルドはやることがあることを思い出していた。
身分証が無い。
研究所から拉致して以降リーザは身分証なしだが艦の仲間としてやってきたが、それは事情を知っている身内ばかりであるからである。
気づいたハルドはすぐにリーザを艦内に引っ込め、こういう時に頼りになる人材を使うことにした。
「いや、ほんとにいつか捕まりますよ。隊長」
オペレーターのユイ・カトーはこの手の偽造はお手のものだった。
偽の軍籍の用意。身分証の作成なんでもプロ級だ。
「階級は?」
「一等兵あたりでいいだろ」
「一等兵だと艦船勤務は少ないですよ、特殊部隊の場合。上等兵あたりがお勧めですかね。私としては」
「じゃあ、それで」
やばい仕事の時は、ほんとに役に立つなコイツはと改めてハルドは思う。
リーザの身分を確保できたので心配はなくなったハルドはハウンド各員に言う。
「これから沖縄基地に入港する。全員行儀よく振る舞え。すぐにフけるから問題を起こしても構わないが、拘束されるような大問題は起こすな。以上」
ハルドの予定では、三日程度の寄港だった。

 

ベルゲミールが沖縄基地に近づくにつれ、周囲にMSの姿が見える。
大型のローターユニットが二基付いた大型のバックパックを装備した低空飛行戦闘用グラディアルだ。
「いいですね、あれ」
ライナスが歓声を上げる。
「あのバックパックって積載量を多くしても動きが鈍くならないって有名なんですよ」
俺らは高空戦闘も多いからいらないなと、ハルドは思った。
そんなふうにパイロットがMSの装備に感想を言っている時、ブリッジでは事務作業が行われていた。
「こちら、沖縄基地第一防衛隊第一小隊隊長リュウジ・テヅカ少尉。貴艦の所属をお伝え願います」
基地へ入る際の返答をするのはベンジャミンの役目だ。
「こちら地球連合軍特務遊撃隊マスクド・ハウンド所属艦船ベルゲミール、すぐに艦船コードを送る。管制室、コードの照会を頼む」
「了解…………コード照会完了しました。ベルゲミールと認められました。基地内への入港が許可されました。失礼な対応申し訳ありません」
「いや、そちらも任務だろうから仕方ない。海上艦用のドックを使いたいが構わないか?

「はい………問題ないそうです。本機がドックまで案内します」
そう言うとリュウジと名乗る少尉が乗るグラディアルはベルゲミールを先導し、艦用のドックへ案内したのだった。
「あの少尉、グラディアルに乗ってるってことは腕が立つのかしら?」
アジアでのトラブル以降、食事に気を使うようになったサマーが疑問を持つ。
「沖縄はチャイナとの最前線だからな。高性能のグラディアルは結構配備されてるはずだ。といっても安いアンヴァルを大量に置いとく方が今は効率がいいが」
本を読みながら答えるのはハルドである。
「でも、けっこう丁寧な動きしていたし、やるほうなんじゃないですかね」
アジアのトラブルの傷が癒えていないライナスは控えめに言う。
「沖縄は小競り合いも多い上スクランブルも絶えない土地だ。実戦経験も少なくないんだろうよ」

 
 

ある程度の事情を語ったハルドは本を閉じ立ち上がる。
「基地の指令に会ってくる。お前らはいつもの仕事をしてろ。仕事が終わったら夜はフリーだ。酒でも飲んで来い。
ただし、サマーは虫を食うな。ライナスは女と関わるな。ギークに金を持たすな。全員アジアでの反省を活かすように。以上、楽しい夜を」
「隊長はどうするんですかあ?」
「俺は仕事が残ってる。お前らだけで楽しめ。じゃあな」

 

「あれ、ハルドくんは遊ばないの」
ベンジャミンと合流する途中。ハルドはリーザに出会う。
「悲しいことに仕事なのさ」
「へぇー。大変だ」
なんだか最近リーザが子どもっぽく見えるようになってきた。肩肘はってたのがとれて今が素なのか。
「私はカトーさんとレビーちゃんでお出かけ」
「危険だから護衛を付けてけ、変な奴にナンパされるぞ」
「良いじゃない。ひと夏の思い出。素敵かもよ」
「俺がイラつくから駄目だし。お前とひと夏の思い出を築いた奴は問答無用で殺すから。色んな奴の身を守るために誰か男を付けろ、リック・リーでいいから」
どうせ、船を操舵するしか役に立たん男だ。ここらで女を守るナイト役をやってもらうのも良い。
「ええ!リックさんがいたら楽しめないよ」
「楽しくなくていいよ。リックを連れてけ。命令だ」
それだけ言い残すと、ハルドはベンジャミンの元に向かう。
女はめんどくさい。なぜ俺が気を使ったりイライラしなければならんのだとハルドは思うのだった。
「嫉妬か?」
艦のブリッジで会って、そうそうにベンジャミンはそう言った。
「何の話しだよ」
「意外にブリッジの入り口あたりの音はブリッジに聞こえるものなんだよ」
正直、ハルドはベンが何を言いたいのかわからなかった。
「まぁいい、これは私がするような話題ではないからな。ばぁ様あたりが好きな話だ」
「だから、何の話だ」
「お前が、年齢よりもガキだということに気づいただけだ。以上。話すことは無い」
それだけ言うとベンは艦長席を立ち、ハルドの先を歩く。
「吐かせるぞ」
「吐いても構わんが、お前にとって面白くはないぞ」
なんなんだよ。いらつきながら、ハルドはベンの後ろを歩くのだった。

 

沖縄基地は思った以上に広い。そして問題がつきまとっているのが、始めて訪れたハルドの目にもはっきりと分かった。
ベンの運転するジープに乗るハルドが見たのは、基地の入り口にたたずむ民間人。
旗を持って何かを訴えている。色々あるんだろうとハルドは思うことにした。
別にすぐに消える自分が気にすることではないと。
「非武装中立のはずの日本の領土に軍事基地があるのが問題なんだろう」
わざわざ、ベンが言う。どうでもいいことだ。
「主張したいことがあるなら主張すればいい。主張が通るかは別の問題だ」
世の中、民意で動くかないこともあるとハルドは感じていた。
「若いんだから、世の中に夢と希望を持て」
ベンは言う。
「若いから、銃と鉛玉のほうが楽でいいよ」
ハルドは言う。シンプルな解決の方が自分には良いのだ。

 
 

ほどなく司令部にたどり着く。立派な建物である。
「血税の産物かな」
「それでビームが防げるなら安いもんだぜ」
実際、金でビームが防げるならそれに越したことはない。こういう司令部がある基地はそれだけで最高の代物だ。
司令部内は兵士が穏やかに歩いている。だが歩調は遅くない。
「鍛えられてるな」
ベンがハルドの隣で感心したように言う。
有事の際の動きは冷静に素早く動くことが想像できた。
「ぶっちゃけ日本の軍隊じゃないな」
正式には日本軍及び地球連合軍共同基地だったはずだが、今では誰もが沖縄基地としか呼ばない。
兵の動きを見ても全員が地球連合軍式に動いている。日本軍の制服を着ている者もだ。
「最初の少尉も、沖縄基地としか言わなかった。
つまりは日本軍の日本人パイロットですら、ここが日本のものじゃないって、認めて喜んで働いてんだよ」
ハルドは小声でベンに伝えた。
「悪いが、俺の見た目じゃ通りが悪い。上官として振る舞ってくれ」
「わかった」
ベンは居住まいを正し受付にて、よく通る声で言った。
「こちらは特務遊撃隊マスクド・ハウンド。寄港のご挨拶と、種々のお願いのため、この基地の司令官殿にお目通りを願いたい」
すぐに受付の者が対応する。
「少々お待ち下さい。………はい、オオハラ中将はすぐに、お会いするとのことです」
ハルドはベンを周りから見えないように小突き、
「体と声がでかいのは得だな」
「関係ないだろう。それに体は貴様も同じようなものになっているぞ」
そうか?と思い改めて見るとベンとの身長差は明らかに縮まっていた。
「俺も180cmてところか。そろそろガチガチに筋肉つける頃だな」
ハルドがぼんやりとトレーニングのプランを考えようとすると、それを遮るように声がした。
「お待たせしました。グレイソン大尉に…」
「ハルド・グレン少尉です」
「そうでしたか、失礼。グレン少尉。リュウジ・テヅカ少尉であります。先ほどは通信で失礼しました」
爽やかな容貌の黒髪を刈り上げた男であった。敬礼をするのでこちらも敬礼する。
そういえば、マスクド・ハウンドにいると敬礼することなど全くないなとハルドは思った。
「中将のオフィスまでご案内します」
テヅカ少尉は敬意を持っていたがハルドには解せない。
「パイロットの少尉が案内係ですか?」
明らかに階級に不相応だろうとハルドは思ったのだ。
「中将閣下には特別に目をかけてもらっていて、こういう用事も任されるのですよ」
そう言って、テヅカ少尉は、ハハハと笑っていたがハルドには誤魔化しにしか見えなかった。
三人は階段を上っていくが、途中から何階かわからなくなった。
「いい構造ですね。これじゃフロアが分からなくて攻めづらい」
後は階段傍に窓が無くて自分がいる高さが分かりづらいのも、何かしらの不安感をあおる。
「この基地はとにかく防衛拠点であることを重視しているので、皆多少の不便はがまんしているのですよ」
さわやかな笑顔でテヅカ少尉は言う。顔のつくりは自分が上だと確信しているが、こういう笑顔はできないなとハルドは思った。

 
 

やがて、三人はそんなに大きくもないスチール製の扉の前にたどり着いて足を止めた。
「ここが中将のオフィスになります」
テヅカ少尉は言うがドアの見た目は資料室かなにか窓際の部署のドアにしか見えなかった。
「テヅカ少尉、マスクド・ハウンドの両名をお連れしました」
そう言って、テヅカ少尉は扉を開けるが自分は先に入らない。ハルドはこういう所々にこの少尉の胡散臭さを感じていた。
入った部屋にいたのは2名。太った将校とその秘書だ。太った将校がオオハラ中将なのだろうが嫌な太り方をしていると思った。
過去に要人暗殺やらを何度もやってきたが、その時に一番手こずるタイプの奴らと同じ太り方だ。
思った以上に素早く、逃げ足速くしぶといし、何でもする。そんなタイプの奴らと太り方がそっくりだった。
そして入ってきたドアとは別にもう一つドアがあるのがハルドは気になった。
「ああ、どうもどうも遠い旅路をよく頑張って我が基地にたどり着いてくれたね。困ったことがあるなら何でも言ってくれたまえ、私に出来ることならなんでもするよ」
親切そうな笑みを浮かべているが、立って歓迎する様子もなく。そのままだ。
ベンが恭しく一例し前にでようとするが、オオハラ中将はそれを制する。
「ああ、堅苦しいのは面倒だ。要件だけにしようじゃないか」
「では、補給の申請についてお願いしたいのですが」
堅苦しいのをぬきに要件だけとなると簡単だった。ベンは補給をしてほしい物資が書かれたリストを中将に手渡す。
それに対して、中将はろくに見もせず、決のサインをし、隣に佇む秘書に渡した。
これで用事は済んだ。あまりにもあっけなかった。だが、本題はここからだった。
オオハラ中将はというとさっきまでの笑みに何か暗いものが混ざっていた。そしてこういった。
「ハルド・グレン特務少尉以外は少し部屋から出てもらえるかな?」
素性は、ばれていたということだ。
「ハルド」
ベンはハルドを見るが、ハルドは大したことないと言った様子で、
「艦に戻ってくれ、ベン。おそらくアッチの仕事だ」
それだけ言うと、ベンは何も言わず引き下がっていった。秘書と一緒に部屋から出る。
テヅカ少尉はというと、いつの間にか消えている。ハルドのカンではもう一つのドアから出たのだろう。
「私はリーバス准将とは懇意にしていてね。君への個人的な頼みごとについてもよく聞いているのだよ」
エルザ・リーバス繋がりとなると、ハルドがやらされることは1つ。
殺しだ。それも極めて個人的な感情が強いような。軍の任務とは違う殺し屋の仕事だ。
「ところで、仕事を頼む前に、少し聞きたいのだが、テヅカ少尉はどうかね?」
「どうかね?というのは?」
「あれは、君を参考にリーバス准将のアドバイスで作った兵士なんじゃが。
君を見た後だと、なんというか言葉にできないが、劣るというかね」
何を言っている、このジジイ。正気か?いや正気じゃないな、兵士を作るって……
「すこし真面目すぎますし、動きが露骨すぎです。パイロットやらせるぶんには良さそうですが、
ヤバい仕事には性格を含めて全体的に器用さが足りませんね」
率直な感想を言うと、中将はしょぼんとしてしまった。
「せっかく。何十日もかけて痛めつけたり、精神が壊れるような目に合わせたというのにのぉ」
やっぱりやばかった。エルザ・リーバスと懇意にできるという時点で精神異常者だ。
こんな奴に何をさせられるのかと思うと、ハルドはゾッとした。
「いや、君は怖がらんでくれていい。君には何もせんよ。わしが調教するのはテヅカ少尉だけだ」

 
 

調教って言葉だけでこっちは逃げ出したいんだよ、ジジイ。ハルドは声に出さず叫んだ。
「いや、ほんとに何もせん。君に頼みたいのは不良チャイニーズの片付けだけじゃ」
不良チャイニーズって何語だよ。
「君は知らんかもしれんが、沖縄にはチャイニーズが大勢おる。その中でちょっと過激な連中が大暴れしようしとるらしいんじゃ。
チャイナ本国と繋がってな。儂の城の沖縄でな、腐れチャイニーズが我が物顔で何かをしようとしている。許されんと思わんか?」
こいつはなんというか……
「勘違いしないで欲しいんじゃが、儂はレイシストではないぞ、断じて。
行きつけの店にチャイニーズが経営する中華料理屋だってあるくらいじゃ。
しかし、なんというかムカつくチャイニーズの数が人より多いだけであるし、チャイニーズと仲良くしてる日本人を見ると、
こうチャイニーズは切り捨て、もちろん物理的な話では無いぞ。
日本人は日本人と仲良くしたほうが良いと思うことがあるのじゃよ。しょっちゅう」
こいつは間違いなく、だが……
「大丈夫ですよ。中将がレイシストだなんて思ってませんから本題にもどりましょう」
「おお、そうじゃったな。最近、チャイニーズが過激な行動を起こそうとしているというのまでは話したな」
「それについて質問なんですが、軍が動いて対処すれば……」
「それはだめじゃ」
ハルドの話しを遮り、中将は話しを続ける。
「あれがある」
中将は窓から基地の入り口を指さす。軍事基地に対しての反対集団だ。
「軍が動くことでこと荒立てて、彼らの感情を悪化させたくない。
全く、誰のおかげで自分らが日本人でいられるのか分かっとらん腐れ脳みその半チャイニーズめ!
この基地がなければ、今頃、沖縄はチャイナで、貴様らなどチャイニーズになって儂が皆殺しにしとるところじゃ!」
駄目だ。いかれてる。話しをまとめなければ。
「とにかく、自分は怪しい行動しているチャイニーズを捕獲すればいいんですかね」
「捕獲じゃ嫌だ。殺せ!」
マジかよ。こんなイカレジジイに付き合うのか?ハルドは危険を感じていた。
「分かりました。善処しますが。
俺がそういう対応を取るのは武器を持ったチャイニーズに限定させてもらえますか。それが最低条件で」
「まぁ、良いチャイニーズもいるからしかたないじゃろ。諦めよう」
よし、条件は決まった。さっさと退散するに限る。そう思い、ハルドが若干、身を引いたところで最後に中将は言う。
「実は儂が1番嫌いなのって煩い半チャイニーズなんじゃよ。
そいつらはチャイニーズについても良く知ってるから念入りに話しを聞いてくれ。
それはもう念入り、話すことがなくなって話ができなくなるくらいにね。頼むよグレン少尉」

 
 

結局のところ殺しだ。それも最低レベルの。中将もといイカレジジイのお望みは簡単だ。
ハルドは大きめの車を借り運転する。
男性が1人歩いている。ハルドは車を停車させ、降りると、後ろから男性の頭に袋をかぶせ、鈍器で頭部を殴り気絶させる。
そして両手足を縛ると車に放り込んだ。
誰にも見られていない。
次は中年の女性だった。家を突き止め侵入し、女性が帰ると同時に暗がりの中で女性に睡眠薬を嗅がせ、眠らせる。
そして同じように車まで運び両手足を縛る。
最後も男性。家で寝ている所を気づかれないように車まで運んだ。気づかれたらスタンガンを使う予定だった。
取り敢えずハルドは三人を誰にも気づかれないように車に運び拉致した。
そして倉庫へ向かう。

 

最初に痛めつけるのは男性にした。
椅子に縛り付け動けなくしている。他の二人は目隠しと両手足を拘束してある。
取り敢えず、大きな音が鳴るように殴る。
そういう方法がある。比較すれば痛くないが、基本的に殴られなれてない一般人にはそれなり以上に効く。
「やめてくれよ……なんなんだよ……」
最初は強気だったが、殴られている男性はこの調子になっている。
目隠しされている二人は音を聞いているだけで相当に恐怖して叫んでいるが、それは、今はどうでもいいことだ。
「別に……聞きたいことがあるだけだよ」
言いながらハルドは殴る手を止めない。しかし手加減はしている。
ハルドが本気で殴ったら、鍛えてない人間など即死だからだ。
「はなぶ、か……はなぶかりゃ」
「ごめん、聴こえないな」
もう一発だけ殴り、手を止める。
「はな、はぶ、なす、はなすか、やめて」
血と涙で顔がぐちゃぐちゃだ、一回りくらい腫れ上がっている。
「なんか、嘘つきそうなんだよな、あんたは」
「つかな、つかない絶対……!」
そうか、と言うとハルドは懐から地図とナイフを出す。
「じゃあ、これを咥えて」
ハルドは男性にナイフをくわえさせる。そして地図を見せ、
「チャイニーズのたまり場を指せ」
ハルドが言うと、男は三つのポイントを指した。
「うん、そうか。わかった」
ハルドは男のくわえたナイフを取り上げると拳銃を抜いて男の頭を撃った。
倉庫の中に発砲音がこだまする。

 
 

「あんた嘘つきかもな」
銃を収めながらハルドは言った。
残り二人、中年女性がヒステリックに叫ぶ。
「ちょっと、何、なんの音なの!銃なの!?」
ハルドは中年女性に近づくと目隠しをとる。
ヒステリックな叫びは続き、何を言っているか聞き取れない。だがハルドは興味が無かった。
「奥さん、落ち着いて!落ち着いて、奥さん」
ハルドは中年女性の肩を揺らし必死に落ち着かせようとした。何とかその甲斐あって、中年女性は冷静さをわずかに取り戻したように見えた。
「もう大丈夫だから、奥さん。ゆっくり深呼吸しよう。冷静になろう。真似して」
ハルドは口を開けて大きく深呼吸する何度かすると女性も同じように深呼吸のため口を大きく開けた。
直後ハルドは中年女性の大きく開けた口に猿ぐつわをし、太ももにナイフを突き刺した。
「俺はうるさいのは嫌いじゃないけど、何を言っているか分からないのは嫌なんだ」
絶叫は上がらない。猿ぐつわのおかげだ。
「痛いの嫌?」
ハルドは女性に聞く。泣きながら女性はうなずく。
「質問に答えたら痛くしないよ」
と言いながら、ハルドは太ももに刺したナイフをぐりぐりと動かす。
女性は声を上げられず悲鳴を出す。
「おっと、ごめんね。でも質問に答えてくれたらこんなことはしないよ。いいね」
女性は必死の形相で頷く。
ハルドは地図を見せて尋ねた。
「チャイニーズのたまり場はどこだ?視線で示せ」
ハルドが言うと、女性は必死で目を動かす。
「こことこことここ?」
ハルドが三つのポイントを指さすと女は頷いた。
「OKありがとう」
そう言うと、ハルドは女の首を抱きかかえ、へし折った。
「痛くしなかったろ?」
さて、最後に残った男性である。
「ど、どうせ、ころすんだろ?」
最後になりやけになっているようだった。
「そりゃ、今までの二人が嘘をついてたからだ。」
ハルドは優しく語り掛ける。
「正直者は救われる。嘘をつかず、俺に教えてくれたら君を解放する」
「ほ、ほんとうだな」
「ああ、もちろん。だから、チャイニーズのたまり場を教えてくれ」
ハルドは地図を見せ、舌で指し示すように指示する。
「うん、うん、うん。OKありがとう」
「これで解放してくれるんだよな!」
安堵した表情を浮かべる男に対して、ハルドはバツが悪そうだった。
「正直者のあんたにだから、俺も正直に言わないといけないことがあるんだ」
ハルドは銃を抜き、男の頭を撃った。
「正直に言うと最初から全員殺すつもりだった」

 
 

結局のところイカレジジイは活動家が邪魔だから、殺してくれと言いたかったのだ。イカレジジイの言う半チャイニーズというのは、基地に対する反対運動の中心人物だった。
「久しぶりに民間人を殺ってしまった」
ハルドにも罪悪感はある。だが仕事だからということで誤魔化している。
死体は完ぺきに処理した。全部、エルザ・リーバス准将閣下に教わったことだ。
拷問の仕方やら何やらも、エルザ・リーバス准将は毎日のように新鮮な人間を連れてきてはハルドに拷問やら殺し方を教えてくれた。
あそこまでイカレることができたら人生楽なんだろうか、もしくはそこまでいかなくても沖縄基地のイカレジジイのようになれば。
「いや、駄目だろ」
ハルドは考えることをやめた。まだイカレジジイの仕事は残っている。チャイニーズのたまり場を回ろう。
奇しくもというか当然なのか殺した三人は全員同じポイントを示していた。
最初は料理店が並ぶ道の裏通り、労働者は多いが危険は少なそうだった。
次はいわゆる、不良のたまり場。治安は悪くなるが直接の危険につながりそうなものはなかった。
ちなみに5人ほどに絡まれたのでハルドは全員を病院送りにした。数か月はベッドから出られないようにしてやった。
最後は倉庫である。ここが当たりだとすぐに分かった。チンピラが自分の銃を仲間に見せびらかしていたからだ。
ここに来てハルドは改めて考えてしまう。相手は所詮チンピラが軽く武装した程度、殺さずに制圧できる自信はある。
だが、イカレジジイもとい中将は殺せという命令だった。
民間人三人殺しておいて今更だが、ハルドは殺すべきか迷っていた。
「失敗したで通るよな……」
考える。が不意に思い出す。
「儂はリーバス准将とも懇意にしている」
イカレジジイの言葉だ。エルザ・リーバス!その名前だけでハルドの心臓は氷つく。
「失敗とエルザに届く。いや、大丈夫だろうべつに今更、ミステイクだって一度じゃないんだ」
失敗した時、どうなるかを考えようとしたらエルザ・リーバスの顔が浮かび、その瞬間、ハルドの思考はストップした。
なにがなんだかわからなくなったが楽な方を取ろう。殺す方が楽だ。
エルザは忘れて楽な方をとろう、殺せばハッピー、心の安全安心につながるのだ。
良いじゃないか殺しても。楽ちん楽ちんらくちんちんと♪
ハルドは鼻歌交じりに銃にサイレンサーをつける。手持ちは拳銃二丁。余裕余裕♪
ハルドは倉庫に扉から普通に入り、取り敢えず一番近くにいた奴の頭を撃ち、
ほぼ同時にハルドの方を振り向こうとした左の方にいた男の頭を撃った。
物音を聞いて1人出てくるがそいつの頭も撃つ。
奥の扉から二人出てきたが、それもほぼ同時の二連射で撃ち殺す。
倒れたタイミングは同時だった。やっぱり、殺す方が楽だと思った。
「こいつら一発も撃ってねぇ……」
宝の持ち腐れにもほどがある。
「銃ってのは弾を撃つ武器ですよーっと」
ハルドは五人を念入りに殺して回った。とりあえず、胴にもう一発程度はぶち込むことにした。

 
 

「しかし、なんの倉庫なんだろうね」
改めて倉庫内を見回すと奥にカバーのかかったものがある。ハルドのカンではだいたい想像がついた。
けれども確認しないといけないためにカバーを外すと、そこにあったのは地球連合軍の量産型MSのアンヴァルである。
こいつで暴れて沖縄基地とか地球連合軍の印象を悪くでもさせようといったところだろうとハルドは察した。
「猿知恵だなぁ」
そういうことで、どうにかなる問題でもないと思うのだが、正直ハルドはこの手のことに興味はなかった。
なので軍に連絡して後始末をしてもらおうと思い、通信機を使い中将に連絡を取る。
「すぐに人をやろう」
中将がそう言って、それだけで終わりだった。
後は帰るだけ。
しかし、ことはそう上手くいかないのであった。
「オマエ、ナニシテル」
片言の共通語が倉庫の入り口から聞こえてきた。
ハルドは銃を構え、振り返ったのだが、思い切り蹴りを食らった。
ハルドにとっては久しぶりのクリーンヒットだった。
だが倒れず、相手を探し銃を向けようとした瞬間、向けた銃が解体され、
腕を取られ、かろうじて拳と分かる一撃を食らった。
よろめき、後ろに下がって、ようやく相手の姿を確認できた。切れ長の目をした細身の男である。
ハルドは解体された銃を一瞥すると放り捨てる。
「あんた、リーサルウェポンとか見たり、メタルギアシリーズはやったことある?」
ハルドが話しかけるが、反応は無い。反応があれば時間稼ぎで少しは回復できるのだが。
「どっちも名作だから見たり、やったりした方が良いよ」
と、ハルドが言った直後に男が動く。人間の速さじゃないと感じた。
普通のパンチと違う、れっきとした型のある拳打。かろうじてハルドは防ぐ。次に男の足が伸びる。これも軍隊式の格闘術とは違う、型のある動きだった。
それも防ぎ、何とか男から距離を取り、ハルドは言う。
「マジものの功夫使いかよ。やんなるぜ。あんた名前は?」
「虎(フー)」
実際のところ興味はないが世間話程度の感覚で聞いてみたのだ。どうせコードネームだろうしと、ハルドは思う。
虎と名乗った男が構えを取る。
ハルドは考える。カタコトの共通語からして沖縄住まいじゃないチャイニーズ。
多分、チャイナ本国の工作員だろう、おそらく殺しが生業の。そうハルドは考えた。
「イカレジジイに殺し屋功夫野郎か、良い出会いの多い日だな」
皮肉っぽく言いながら、勝機を狙うハルド。
虎が動く。同時にハルドは隠し持っていた、もう一丁の拳銃を抜いた。
殺し屋同士の勝負は始まったばかりだ。

 
 

ボロボロの体を引きずり、ベルゲミールへ戻ったハルド。時刻は深夜になっていた。
結果だけ言えば勝った。この世に銃弾を避ける化け物がいるとは思わなかったが。
使える格闘術やら何やらを駆使して、何とか拘束してやったのだ。
遅れて、軍の連中が来たのはハルドがマウントポジションを取り男の顔面を殴っている時だった。
ハルドは軍に虎(フー)という名前らしい男を引き渡し、その他の後始末を軍に全部任せて帰ってきたのだ。
虎は「オマエ、カナラズ、コロス!」と喚いていたが、もう出会うことはないだろう。
イカレジジイの仕事を終え、義理は果たした。ハルドは、さっさと補給を終えて沖縄とはオサラバしたかった。
ほんの僅かしか滞在していないのにヤバい奴らに会いすぎて、沖縄にはウンザリしていたのだ。
ベルゲミールに帰ると艦内は静まりかえっていた。皆、休息を楽しんでいるのだろう。
それで良いと思った。本当の汚れ仕事は自分だけの役割だからだ。
ハルドは虎に殴られた痕を冷やす氷を取りに食堂へ向かった。
意外なことに食堂には人がいた。ばぁ様である。ハルドは何も言わない。
ばぁ様も何も言わずにハルドに氷を渡す。今日のような仕事の日はいつもこうであった。
そして、ばぁ様はとびきり苦いコーヒーをハルドに淹れてくれるのだ。
患部、主に顔に氷を当てながら、苦いコーヒーを飲む。
よくある日常。これでハルドは日常に戻れる気がした。
ハルドは、拳銃を食堂の机の上に置き、ぼそりとつぶやく。
「今日は8人殺った。カタギが3人いた」
「そうかい」
こういう夜、ばぁ様は「そうかい」としか言わない。
もっと酷い殺しをしたときも「そうかい」としか言わなかった。
余計なことを言わない。かえってそれがありがたかった。
ガキの首を切り離して、それ以外をミンチにし、それら全部をプレゼントボックスに入れ、
『ハンバーグにどうぞ』というメッセージカードを添えて、軍の高官の家に送った時も、
ばぁ様は何も言わなかった。確かこの殺しはエルザの命令だった。
邪魔な奴がいるので、そいつの精神をズタズタにしてほしいと言われたのでやったのだ。
エルザはもっとプレゼントに残酷さが欲しいと言っていたのを覚えている。
気が狂う。
かろうじて、ばぁ様の苦いコーヒーが自分を正気に留めてくれている気が、ハルドはした。
コーヒーは苦い。だが、すぐに飲み干してしまう。
すると決まってばぁ様はこういうのだ。

 
 

「もう寝な」
それだけしか言わない。不思議とコーヒーを飲んだ後でも寝られるのだ。今日のような日は。
しかし、今日は多少違っていた。遠くから大騒ぎする声が、食堂に向かって近づいてくる。
大騒ぎしていたのはパイロット連中とリーザだった。酔っ払って楽しげに歩いている。
羽目を外すのも良いとハルドは思う。正直、今は何か言う気も無かった。
しかし、パイロット連中は食堂に入り、ハルドの姿を見つけると急に大人しくなった。
顔を冷やす氷と机の上の拳銃で察したのだろう。
ハルドの汚れ仕事はパイロット全員の知るところである。一度も手伝わせたことはないが。
しかし、リーザは知らない。
「あれぇ、ハルドくーん!どうしたのー?」
酔っ払っているようだった。パイロット連中がふざけて飲ましたのだろう。後できつく言っておかねば。
リーザはハルドの様子を察することもなく、楽しそうに笑っている。
頼むから、今日は構わないでくれ、そう言おうとした瞬間だった。
「あははは! ワンちゃんの殺し屋だぁ! すっごい怖いなぁ!」
「リーザちゃん、もう寝よう!」
ライナスが叫んだが、リーザは聞かない。
「すっごい真っ赤で、エサが欲しいって、哀しい声で鳴いてるぅ!かわいそー!」
その直後だった。ハルドは自分でも何故、こんなことをしたのかわからなかったが、何かが切れる音がして、
「やめな! ハルドっ!」
リーザの首を絞めていた……
「ライナスっ! ギークっ!」
ばぁ様が叫ぶ前に二人は動いてハルドを引きはがそうとし、サマーもそれに加わる。
尋常ではない力だと三人は思った。
まだ少年の彼にどうしてこれほどの力があるのか、その鍛錬の凄まじさを感じた。
「隊長、落ち着いて!」
「まずいですよ!」
もはや誰が叫んでいるのか分からない。
だが、三人がかりでようやく、ハルドを引きはがすことに成功した。
三人はハルドが暴れないよう抑えつけ、ばぁ様はリーザの様子を見ると。
「こっちは大丈夫だよ。痕は少しの間残るだろうけど」
ばぁ様が、そう言うと三人はハルドを抑えつけたまま、ほっと一息をつく。
抑えつけられているハルドは恐ろしいほどに静かにリーザを睨みつけていた。

 
 

「もう大丈夫だ。落ち着いた。離せ」
ハルドが言うが、すぐにばぁ様が叫ぶ。
「そんな眼をしている内はまだ駄目だよっ!三人とも離しちゃ!」
言われて三人はハルドを抑えつける手を緩めなかった。
「隊長だからって、関係ないよ!三人ともハルドを懲罰室にぶちこみな!ベンにはアタシから話しとくから急いでっ!」
ばぁ様に怒鳴られるがパイロットの三人は上官に対して、どうしていいか戸惑っていた。
「ばあ様の言う通りにしろ。俺もそっちの方がいい」
ハルドも自分から、そう言い出し、パイロット三人は戸惑いながらも隊長を懲罰室に入れ、外からカギをかけたのだった。
懲罰室には何もない。ベッドとトイレがあるだけだ。
「こっちの方が気楽でいい」
ベッドに倒れこみながら、なぜ自分はあんなことをしたのかハルドは自問する。
気が狂っていた。酔っ払いがウザくてキレた。理由は色々あるが、そんな問題なのか?
図星を突かれてキレたのが、最有力候補だ。
自分は犬で殺し屋で、血に濡れていて、ご主人様からちょっとのエサを貰ったら、尻尾振って喜ぶ畜生だ。
それを自覚させられキレたのだ、そして哀れみの言葉をかけられ耐えられなくなった。
だから、それをする奴を殺して安定を取り戻そうとした。
全部を無かったこととして忘れるためにリーザを殺そうとしたのだ。
「どこまでいっても畜生だ。俺は……」
自己嫌悪に陥りながら、ハルドはその夜は眠りについた。

 
 

制裁ではない私的な暴力。リーザ自身にも過度の飲酒によって酔っ払っていたという自制ができていなかったという非もあるということで。
ハルドの懲罰室入りは沖縄を出発するまでということに、隊で二番目の地位にあるベンジャミン・グレイソンは決定した。
隊長がいなくても艦の出港準備は淡々と進んでいく。艦のメンテナンス、MSのメンテナンス、補給物資の搬入、隊員の取り敢えずの休息。
だいたい1週間程度で全て済む仕事量だった。補給物資に関してはグレン少尉が活躍をしてくれた感謝の気持ちと言って、
オオハラ中将が色を付けて申請したよりも大目に支給された。

 

そして出港日。

 

ハルドは懲罰室から出た。
「お勤めご苦労様です」
ライナスが軽口を叩いたのでハルドは、頭に拳骨をくれてやった。
ハルドのしたことには誰も触れようとしなかった。
ハルドはブリッジに向かいベンジャミンと最後の打ち合わせをすることにした。
自分がいなくともベンが万事をうまく取り計らってくれるだろうという安心感はある。

 
 

「お勤めご苦労だったな」
ライナスと同じような軽口を言うが、ベンには何もしない。人によって対応が変わるのは当然のことだ。
「で、ルートだが」
「普通に太平洋を抜けよう。ハワイには近づかない方向性でなるべく北に寄りながらだな」
「妥当だな」
「敵の襲撃に関しては、完全に神のみぞ知るってところだ。騎士団の航空機動力を考えると、二回か三回の襲撃は覚悟しないとな」
「いっそ、アラスカまで抜けてみるか?」
「冗談だろ」
アラスカは地球連合の領土だが、激戦区でもあった。
「俺たちみたいな小所帯が行ったら、大部隊に吸収されて最前線送りだ」
「特務であると脅せばどうだ?」
「多分、通じねぇ。アラスカはエルザの息が全くかかってない土地だからな。任務内容を根掘り葉掘り聞かれて面倒が多くなる」
では、仕方ないなとベンは締める。
「普通に太平洋を横断するのみか」
「ああ、そうだ。心配の騎士団については、こっちに任せろ」
MS隊に任せておけということである。
「では、よろしく頼む。それとリーザのことだが……」
「そっちも何とかするよ」
バツの悪い表情で言いながら、ハルドはベンに背を向けてブリッジを去るのだった。

 
 

「さて、気まずいな」
ハルドは食堂でばぁ様と話していた。
「チューでもして仲直りすりゃいいじゃないかね」
「冗談はやめてくれ」
ウンザリした表情でハルドはコーヒーに口を付けていた。
「実際のところ、あん時はどっちも正気じゃ無かったんだからね。普通に謝りゃいいのさね。若いんだから回復も早いもんだ。アッチのほうもね」
「最後に下ネタを挟まなけりゃ良いアドバイスだと思うぜ」
ハルドはコーヒーを一気に飲みほすと、覚悟を決めることにした。
向かったのは甲板上。そこにリーザがいると聞いたからだ。
「チューでもして……」
というアドバイスをライナスがしたので、鳩尾に拳を打ち込んでおいてからやってきた。
リーザはぼんやりと海を見ていた。
「よう」
ハルドは普通に挨拶した。
「やぁ」
リーザも普通に挨拶を返した。ハルドに対して避ける様子はない。
ハルドは何も言わずリーザの隣に立つ。
「二人して立ってるのも間抜けだから、座ろうか」
リーザが言うと、甲板上にハルドは何も言わず座り、リーザも隣に座る。
最初に切り出したのはハルドだった。
「この間は悪かったな。すまん」
「いいよ、私も酷いこと言ったし。ごめんね」
極めて簡単な謝罪だった。
「許してくれるか?」
「私のことも許してくれるなら許すよ」
「じゃあ、許す」
「じゃあ、私も許した」
簡単に終わってしまった。ハルドは疑問に思う。
「普通はこんなに簡単に終わるもんなのか?」
「さぁねぇ、私が普通じゃないから良くわからないなぁ」
まぁ、と前置きをしてリーザは言う。
「ハルドくんは私が普通じゃないことに感謝したほうがいいかもね」
「じゃあ、感謝します」
「うん。それでいいよ」
リーザは立ち上がり背伸びをして言う。
「キミは幸せ者だね。こんな良い女の子と知り合いになれて」
座ったままハルドは言う。
「ああ。神様がいるとは思ってないけど、この出会いに感謝するよ」
それだけ言うと、二人は何を言うでもなく、ぼんやりと海を見ていた。
ハルドは、ばぁ様の言う通り簡単な話しなんだなと思ったし、リーザ自身にも感謝をしていた。
そして、なんだか少し自分がマトモな人間になれたような幸せな気分になったのだった。

 
 

第1話 【戻】 第3話

 

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