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GUNDAM EXSEED_05

Last-modified: 2015-02-26 (木) 13:18:13

カリフォルニア基地地球連合軍の普通の基地である。
ただ、打ち上げ用のマスドライバー設備がある以外はいたって平和な基地であり、特に問題らしい問題も無い。
しかし、それは一般兵にとってであり、マスクド・ハウンド・それも隊長である、ハルドには決死の地であった。
なぜなら、エルザ・リーバスがいるからである。
「じゃあ、行ってくる」
それだけ言うと。ハルドはカリフォルニア基地に入港したベルゲミールから降りた。クルーは艦を降りるハルドに対して口々に「幸運を」と伝えていた。
「なにか大変なことでもあるの?」
なにも事情を知らないリーザは呑気にそう言った。
「帰ってくれば分かるよ」
誰ともなくそう言うだけだった。

 

ハルドはエルザ・リーバスの執務室の前にいた。決死の覚悟を決めていた。毎度こうである。エルザに報告をする時は、死の覚悟を決めるのだ。
ハルドは扉のチャイムを押す。もう覚悟は決まっている。
「入れ」
低い女の声が聞こえた。エルザ・リーバス准将の声である。ハルドは言われた通りに入室して、言う。
「ハルド・グレン特務少尉。ただいま帰還しました」
ハルドが最大限に行儀よく挨拶してもリーバス准将は微動だにしない。ただ、
「挨拶が違わないかな?」
リーバス准将が立ち上がる。その背丈は、180cmをゆうに超えている。歩き、自然な動作でハルドに近づき、その鳩尾に拳を打ち込む。
「挨拶が違うっていってるよなぁ、いつも!」
床にうずくまるハルド。そしてリーバス准将は微笑みながら、右手を出す。
「ほら、いつもの通りやって見せろ」
そしてハルドは屈辱のままにするのだった。そう、
「お手」
ハルドは左手を差し出し、エルザの手の上に乗せていた。
「そうそう、いい子だな。ハルド」
エルザは機嫌よく、笑みを浮かべ、立ち上がる。そして、自身のデスクの上に腰掛ける
その間もハルドは四つん這いのままだ。エルザが良いと言うまで、動いてはいけない。頭を上げてはいけない、そういう躾を受けていた。
「立っていいぞ。報告書をここへ」
そう言われて、ようやくハルドは立つことが許される。そして予め用意していた任務の報告書を提出する。
「休め」
エルザがそう言えば、ハルドは立っていることが許される。エルザは渡された報告書を特に興味もなさそうに眺めているだけだった。
「つまらんな」
エルザの感想はそれだけだった。
「今回の任務では誰も死ななかったのか?」
エルザは腰かけていたデスクから降りると、ハルドに近づき、
「誰も死ななかったのかと聞いたんだが!」
再び、鳩尾に拳を打ち込んだ。
「え?どうなんだ?」
倒れこむハルドの頭に足を乗せ、エルザは言葉を続ける。
「仲間が死んでビービー喚く奴や、クルー同士の絆が深まったりする気持ちの悪いイベントは無かったか聞いているんだ!」
カスが!といって、エルザはハルドの顔に蹴りを入れる。ダメージはほとんどない。が思わず体を起こしてしまう。
「犬は犬らしくしろと言ってるだろうが、イヌぅぅぅっ!」
ローキック気味の角度で、エルザの蹴りがハルドの顔面に直撃する。
「オマエに部隊を任しているのは、お前が辛い思いをしたり、傷ついたりするためだろうが!何を安易なルートを選んでいるんだ、イヌぅ!」
倒れこんだハルドの顔面を踏みつけエルザは続ける。

 
 

「ハワイでもアラスカでも通ってこい、カスが!」
言って、エルザは一段落し、再びデスクに腰掛ける。倒れたまま立たないハルドはどうでも良いといった様子だった。
「でもまぁ良いとするか。土産は確実に持ってきてくれたみたいだしな」
座るエルザの表情が段々と歪んでくる。ハルドの観点からすれば、極めて邪悪な笑みである。
「リーザ・アインちゃんだっけか。いいじゃないか」
言いながら、エルザは報告書、その中からリーザの顔写真が写っているページを開き、ハルドに見せる。
「何より、顔が良いのが良いねぇ。私の好きな顔だ」
この女は、まさか――とハルドは不意に思う。
「うん。そうだな。ここに連れてこい。1人でな」
やはりか――確信に至った瞬間、ハルドの中に何か強い気持ちが生まれる。
「お、少しは良い目になったじゃないか、イヌ」
エルザもハルドの変化に何かに気づいた様子だった。
「いいぞ。任務達成のご褒美だ。少し遊んでやる」
そう言って、エルザはデスクから離れるとファイティングポーズをとる。対するハルドも、
「殺してやる……」
そう言いながら、立ち上がりファイティングポーズをとる。
「大きく出たなイヌ。でもな――」
言葉の瞬間、エルザが消える――と同時にハルドの前に現れる。そして、衝撃がハルドの左顔面を捉えた。
その正体をハルドは知っている。ただの右フックだ。しかし、尋常ではない速度と威力を持った。
ハルドは昔、エルザがこの一撃だけで人間の首を180度回転させた所を見ている。
エルザはコーディネイターではない。コーディネイターは遺伝子調整された人間で身体能力は通常の人間であるナチュラルを上回る。
しかし、エルザはナチュラルであり、身体的なスペックはハルドと極端な差はないはずだった。
しかし、放たれる拳は、現実には下手な鈍器を軽く上回る殺傷力を得ている。どれだけ鍛えればこうなるのか、ハルドには想像が付かなかった。
ハルドは現在の自分が可能な極限まで鍛えた筋肉と、幼少時代からの健康生活によって恵まれた成長を遂げた首の骨格で、かろうじて拳で殺害されることから免れた。
だが、エルザの攻撃はそれだけではない。右フックの直後の左ボディブロー。こちらも見えない速度で放たれたパンチであった。
ガードも出来ず、その衝撃はハルドの腹部を捉えた。
内蔵全体が、潰されるような感覚がハルドを襲い、肉体が立っていることを拒否して倒れこむ。
それでも、エルザは追撃の手を緩めない。倒れたハルドの鳩尾に二度、三度とトゥーキックを叩き込む。
かろうじてハルドの腕が動き、腹を守ろうとした瞬間だった。エルザは狙いを変え、ハルドの顔面をサッカーボールのように蹴り飛ばす。
血やら何やらのハルドの体液が宙に舞う。死んでもおかしくない一撃だが、ハルドかろうじて耐えられていた。
なぜなら、耐えられるようにエルザ・リーバスに作られているからだ。

 
 

「まぁ、これが現実ってやつだ。イヌ」
一転して冷めたようにエルザは言う。ハルドはかろうじて生きている。すぐには動けないが。
「私のオフィスの床が汚れてしまったぞ、イヌ。こういう時はどうする?」
エルザはハルドを見下ろし、言う。ハルドはほんの僅かに回復していた。
「イヌらしく綺麗にしろ、イヌ」
言われ、ハルドは床に付いた自分の血を舌で舐めとる。
「うん、それでいいぞ」
言って、エルザは再びデスクに戻る。今度はデスクに腰掛けるのではなく、ちゃんと椅子に座った。
エルザはハルドが床を舐めるのを見ながら、言う
「オマエに次の任務をやる。リーザ・アインを連れて、オーブに行け。オーブに着いた後は向こうが勝手にやる」
どういうことだ。とハルドは思う。
「ここの研究設備じゃ、あの娘のデータは取れんからな。だからオーブだ」
ハルドの考えを読みエルザは言う。
「いつも通り、命令書は無し」
命令書がないということはハルド達の行動の正当性を証明するものが何一つないということである。
場合によって味方に撃たれても仕方ないし、エルザに責任が行くこともない。
こういう扱いをされるからマスクド・ハウンドは使い捨て部隊なのである。
「以上だ、帰っていいぞ」
それだけ言うと、エルザはハルドに興味を無くしたように、別の事務仕事に取り掛かるのだった。
ハルドも何とか回復し立ち上がる。
「失礼します――」
それだけ言って、ハルドも退室しようとした時だった。
「リーザ・アインを連れてくるのを忘れるなよ」
最後に最悪の命令を聞いて、ハルドは部屋を出た。

 

ハルドは肉体的なダメージのせいで何度もよろめきながら、ようやくベルゲミールにたどり着いた。
ベルゲミールは大騒ぎになる。医務室まで連れていける状態ではないと察したばぁ様が食堂で応急処置をする。
命に別状はないし、入院する必要がある怪我ではなかったが、ハルドは全く動けない状態だった。
そばではリーザが泣きそうな表情でハルドを見ている。ハルドはそんなリーザを見ると自分も泣きそうな気分で、こう言うしかなかった。
「すまん。守れなかった」
リーザには意味が分からない。だが、ハルドは言葉を続ける。
「エルザ・リーバス准将の部屋に行ってくれ。命令だ」
そこまで言うと、ハルドは気を失った。

 
 

艦のクルーは行くなと言いたかったがそういうわけにも行かなかった。命令である以上、仕方ない。
ばぁ様だけが必死に止めたが、リーザは行くことにした。その動機は怒りである。
ハルドをここまで痛めつけた文句を言ってやる。そう決心していたのだった。
リーザはエルザの部屋の前に立つと覚悟を決め、チャイムを押した。どんな怪物が出ても怯まない、そういう強い気持ちを持って押したのだ。
「どうぞ」
低めの女性の声がし、リーザは躊躇わず、ドアを開けた。居たのは、来客に対応するためのソファーに座る女性だった。
白髪に見える銀髪。グリーンの瞳、年齢は全く分からない不思議さがあるが、顔は間違いなく美人、凛々しいタイプと言った方がいいかもしれないと思った。
体型は180cmを超えているだろう。そのせいで威圧感を感じる。
「失礼します」
リーザは普通に挨拶をした。正直こんな人がハルドくんを、と思った瞬間だった。
強烈なイメージがリーザを襲った。リーザの人生で初めて見るタイプのイメージだった。
怪物である。今まで見えてきた人々は只の動物。だが、目の前のこの女性は違った。
首は狼。だが、ただの狼ではない、口からは絶えず血と毒が滴り落ちている。
体は人間だが、腕が何本もありそれぞれに武器を持っている。そして人間の首をネックレスにして巻いている。そして、下半身は蛇だが、小さな虫の足がいたるところから生えている。
そして、リーザの初めての体験として臭いを感じた、強烈な腐臭である。怪物は強烈な腐臭を放っているイメージをリーザに与えた。
文句を言ってやる?そんな気は、もうリーザには無かった。今のリーザには恐怖しかなかった。
「まぁ、座りなさい」
怪物が言った。リーザは従うしかなかった。
「名前も名乗らず、初対面の相手にまったく関係無い話をするのは、悪いと思うのだけれどもね」
エルザが急に切り出す。
「私には特殊な才能があってね。それは恐怖してる人間が分かるというものなんだ。これは戦場ではとても役に立つんだ。なぜなら恐怖している人間は弱いから」
リーザの視界から怪物のイメージが消えない。これも初めてのことだ。どんなイメージも今まではほんの少しで消えたというのに。
「きみは……恐怖してるね。リーザ・アインくん」
リーザが名乗る前に怪物はリーザの名前を呼ぶ。
「自己紹介は省くとしよう。私が、エルザ・リーバスだ。よろしく」
自己紹介しようと言っても、リーザには何も出来なかったろう。イメージの怪物が与える恐怖で。
「これでは、話しもできないか。では、こうしよう」
そう言った瞬間だった。リーザの視界から怪物は影も形もなく消えてしまった。
「どうやって……?」
リーザにはわけが分からないことばかりだった。疑問の表情を浮かべるリーザに対しエルザは何でもないことのように言う。
「きみの能力はSEED由来のものだからね、同じではないにしてもSEEDである私とは強く感じあう部分があるのだよ」
リーザは自分の力に関する部分を教えられ、驚愕の表情を浮かべる。
「私の力が何か知っているんですか……?」
「知らなかったら、君をここまで連れてこさせんよ。まぁ、私も詳しく知っているわけではないがね」
エルザは何ほどのこともない様子だった。そして言葉を続ける。
「まぁ、自分の力について、もっと知りたいならオーブに行くと良い。
ハルドらマスクド・ハウンドにもオーブへ行く命令を出しているから同乗していくといいだろう」
やはり、リーザも自分の力は気になる。オーブという場所については良く知らないが、そこえ向かうことには前向きだった。それが、目の前の怪物の言うことでもだ。
エルザは言うべきことは言ったという感じで、ゆったりとソファーに体を預けていた。
「ところで、話しは変わるが、きみは綺麗だね」
エルザが脈絡なく切り出す。
いきなり言いだした意味が分からず、リーザは困惑の表情を浮かべている。

 
 

「私は綺麗な娘が好きなんだ。これは趣味にも関わっていてね」
「趣味……ですか」
よく分からず。ただ繰り返すリーザ。
「そう、趣味さ。あんまりもったいぶるような話しでもないから言うけど剥製づくりが趣味なんだ」
「剥製づくりですか?」
なんとなく物を作りそうな感じの人物には感じなかったので、リーザは若干、疑問に思う。
「そう剥製づくり。どんな剥製が好みかというとさ――」
不意にエルザが立ち上がり、その手がリーザの首筋を触る。
「――きみのような美少女」
触る手が急に締める手に変わり、リーザは苦しみ悶える。
「私は美少女の生首の剥製を集めるのが好きでさ!」
エルザの表情には狂気が現れていた。
「使うのは首から上だけだから、下は色々とね、使うんだよ!」
絶対に絞殺さない力加減であり、さらに失神しないように時々、気道を緩ませながらエルザはリーザに聞かせる。
「私も初心者の頃は『殺してください』って言わせるような下手くそだったんだけど、
最近は上手くなってきて、死ぬまで正気を保たせることが出来るようになったんだ!」
エルザはもういいかと思い、手を放す。途端にリーザが咳こむ。
「きみの場所も用意しておくから、全部終わったら飾ってあげるよ」
見下ろすエルザの目を見てリーザは戦慄する。狂気だ、狂気しか感じられない。
「きみ、いやハルドもか。きみらは大きな勘違いをしているけれども、きみらはきみら自身の物じゃない。全て私の所有物なんだ」
言いながら、エルザは考えこむ様子を見せる。リーザには嫌な予感しかしなかった。
「何か証を残しておこうと思う。きみにも。知っているかい?ハルドの左手の薬指には輪っか状の傷があるんだ」
怖い。リーザは逃げることすらできずにいた。
「その傷っていうのはね。私がハルドの指を噛みちぎった時についた傷なんだ」
エルザは、その時のことを思い出し恍惚とした表情を浮かべていた。
「ハルドはきみを好きみたいだし、左手の薬指ってのもちょうどがいいね」
エルザはリーザの左手を取る。尋常ではない力でありリーザには引きはがすことは出来ない。
そして、エルザは左手の中から薬指を選び出すと――
「少し早いがエンゲージリングをあげよう」
――リーザの薬指を噛みちぎった。
「ははははははは!急がないと、くっつかなくなっちゃうぞ」
激痛に顔をゆがめ、部屋から出ていくリーザの後ろ姿を見ながらエルザは心底、愉快に笑うのだった。
しかし、それも一瞬で平素の顔に戻る。口元に血が付いている以外は普段、基地の人間に見せている表情と全く変わらなかった。
「さて、退屈な仕事に戻るとするか」
エルザは誰もいなくなった部屋で日常と変わらない事務仕事を再開したのだった。

 

リーザの指は流石ばぁ様には治療できず、医務室でくっつける必要があった。医務官はおそらく傷跡が残ると言っていたが、取り敢えず指はくっついた。
しかし、リーザの体にはしっかりとエルザ・リーバスへの恐怖と彼女の持つ狂気が刻まれていた。
医者に直せるような部類の問題ではない。リーザはひたすら震えていた。あんな人間がいるとは思わなかった。
リーザのこれまでの人生は幸運にも人に恵まれていた。研究所の研究員は皆、優しかったし、
マスクド・ハウンドの面々も口は悪い人間は多いが、基本的にリーザには優しい。
リーザにとっては始めてだったのだ、あれほどの悪意をぶつけられたのは。
恐怖しかない。リーザは自分の部屋で震えているしかなかった。嵐が過ぎるのを待つのと同じように、自分の心に刻まれた悪意が去るのを待つしかなかった。

 
 

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