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GUNDAM EXSEED_B_1

Last-modified: 2015-04-17 (金) 14:31:25

C.E.152 地球連合とクライン公国の戦いはクライン公国の優勢となっていた。宇宙のコロニーの大半がクライン公国に領有され、コロニーに住む人々は公国の圧政に苦しんでいた。そんな時代の物語。

 

機動戦士ガンダムEXSEEDブレイズ

 

夢を見ていた。少女の夢だ。すぐに夢だと分かる。なぜなら、その少女はもういないからだ。
幸せな夢だった。少女との穏やかな暮らし。今はもう絶対に叶わないものだ。
だから夢なのだ。夢である以上、現実に戻らないといけない。どこからか、自分を呼ぶ声がし、目を覚ました。
「起きてくださいよ、グレンの大将。仕事の時間です」
目の前にはむさ苦しい男がいた無精ひげの30くらいの歳の男だ。髭を剃り、身なりを整えれば、精悍な容姿と言えなくもない男だ。
「グレンの大将、そろそろ予定の時間なんですから行ってくださいよ」
そう言われて、1人の男が身を起こした。若い端整な容姿の男である。俳優かモデルと言われても誰も不思議に思わないような顔立ちだ。
男は立ち上がる。すると、より際立つ姿だった。長身に細身だが均整の取れた体躯、服の上からでも良く鍛えられていることが分かった。
見た目だけならば、街を歩けば異性の目を奪わずにはおかない男だった。中身は、というと、それはこれからのこの男の行動で分かる。
男の名前はハルド・グレンといった。

 

アッシュ・クラインはいつもと変わらぬ日常を過ごしていた。昼か夜かも分からぬ暗い部屋で、一日一回の死なない最低限の量の食事を摂ると、
動けなくならないように最低限のトレーニングと、喋れなくならないように発声練習をし、その後はひたすら木の板のベッドらしきものの上に座るか、横になるかして、ただ時間が過ぎていくのを待っていた。
正直、自分の気が狂わないのが不思議だったが、なんとかまだ正気を保っていた。

 

しかし、その日はいつもと違うことが起こった。自分を閉じ込める部屋の扉が開いたのだ。
そして、銃を持った男が飛び込んできた。暗がりではっきりとは分からないが、男の自分でも惚れ惚れするような色男だった。
「よう、久しぶり」
色男はアッシュにそう言ったが、アッシュには覚えが無い。そもそも、この三年間、人の顔を見ていないのだ。
「おいおい、随分と痩せたな?」
色男が、そう言うが、アッシュは当然だと思う。食事の量的に死なない程度しか食べていないのだから。おそらく今の自分はガリガリで色白を通り越し蒼白の顔色の不健康な見た目の男だろうとアッシュは思った。
上手く声が出るか不安だったが、アッシュは言ってみた。
「キミはだれだ?」
良かった、声は出たとアッシュは思った。
「ハルド・グレンだよ。忘れたか?」
色男は、そういったがアッシュは、名前をすぐには思い出せなかった。
そんな中、外からは銃声が聞こえてくる。

 
 

「おいおい、アンタがいるのに撃ってくるぞ。アンタが死んでもいいみたいだぞ」
それはそうだろう。こんなところに監禁しているくらいなんだから、死んでも構わないつもりのはずだ。
色男は尋ねる。
「殺してもいい方向性?」
アッシュは答えた。
「なるべく殺さない方向性で頼めるか?」
そう言うと、色男は、あいよ。と言って部屋から出ていった。部屋の外からは銃声が聞こえてくるが、やがて静かになった。
そして色男は戻ってきてアッシュに尋ねる。
「俺のこと、思い出したか?」
言われても、アッシュは思い出せない。監禁生活で記憶力が落ちているのかもしれないと思った。
アッシュが思い出せないで男はイラついたように、さらにヒントを出した。
「ハルド・グレンだよ。ストライクΔのパイロット!三年前にアンタに投降した奴」
そこまで言われ、アッシュはようやく、ああ、と思い出した。
「キミか、あの凄腕パイロットだった」
「そう。いまはパイロットはやってないけど」
そう言うとハルドはアッシュを引っ張り上げた。
「軽いなアンタ。メシ食ってる?」
食ってないと言おうと思ったが、その前にハルドという男は、アッシュを引っ張り、部屋から連れ出す。
「おい、キミは一体なんなんだ!何をしに来た!」
アッシュは抵抗しようとするが、このハルドという色男は力が強く、全くビクともせずにアッシュは連れていかれる。
「誘拐、拉致、人さらい、古い言い方だと、かどわかし。それをしに来た」
と言うと、ハルドはアッシュを見て言う。
「狙いはアンタ」
言いながらハルドは急に銃を撃った。撃った先には黒服の男が倒れている。
アッシュは何もできないまま、ハルドという男が乗って来た車に押し込まれる。
「だから、キミはなんなんだ」
訳が分からずアッシュはそう言うしかなかった。車は発進してしまった。
「自分がなんなのか分かる奴はいねぇよ」
ハルドはそう言うと車を急加速させる。
「そういうことを言っているんじゃない!」
アッシュは抵抗しようと思うが、監禁生活で体力が落ちているため、何もできない。
「怒るなよ。せっかく助けてやったのによ」
確かに、それは感謝する面もあるが……とアッシュは思いかけたが、反論もある。
「僕は罪を償っている最中だったんだぞ!」
「無実の罪じゃん」
それはそうだが……とアッシュは思う。実際は嵌められて、あんな監禁生活を送ることになったのだ。
「しかし、耐えていればいずれは解放され……」
「ないね、あのまま、じっくり殺されてた」
確かにその可能性は高いが、とアッシュも思うが、少しは希望があったのだ。いずれは妹が自分を許し、解放してくれるという希望が。
「もう良いだろう。外に出たことを喜べよ」
ハルドはウンザリしたように言うと、車をさらに加速させる。

 
 

「おい、どうしたんだ!」
後ろを見ると、黒塗りの車が数台追ってくる。直後に、その車の中の男から銃撃された。
「おい、まずいぞ!」
「別に余裕」
言うとハルドは車を反対車線へと、移動させる。つまりは逆走状態だ。
「おい、正気か!?」
「医者からはクスリを飲むことを勧められている」
ハルドは道路を逆走させながらも余裕の表情だ。
「ちなみに、そう言ってきた医者を俺は……話してもしかたないな」
「おい!」
道路を逆走するハルドの車は確かに、余裕で向かってくる車を避けて走っている。
「昔を思い出せよ。MSに乗ってた時はこんな状況、何度も有ったろ?」
確かに、デブリを回避するのに比べれば楽だが、そうアッシュが思った直後に後ろでは盛大な衝突音が鳴り響いていた。
後ろを見ると黒塗りの車は、もう追ってこなかった。
「ほら、余裕」
こともなげに言うと、ハルドはまだ逆走を続けるのだった。
「もういい、どうにでもしてくれ……」
疲れ切って、アッシュはそういうしかなかった。体力が無いのも原因の一つだが。何より、監禁生活から一転して今の状況は刺激が強すぎて、疲弊してしまったというのが大きな原因だった。

 

車はその後、何ごともなく宇宙港に辿り着いた。アッシュはここでも嫌な予感がしたのだ。
人にあふれた宇宙港。そこであろうことか、ハルドという男は、いきなり発砲したのだ。
「狙われてた。仕方ない」
こともなげに言うハルド。しかし、宇宙港の人々は突然の銃声に狂乱状態だ。
「むしろ、都合がいいね」
そう言うと、ハルドはアッシュを引っ張り、航宙用のシャトルの停泊所まで走る。
「おい!」
アッシュが言うが聞きやしなかった。そしてハルドは時々振り返ると、狂乱する人混みに向けて何度か発砲する。
「おい、民間人にあたるぞ!」
「そんな腕はしてねぇよ」
ハルドは追手を撃っていると言うが、この狂人の言うことをどこまで信じていいのか、アッシュには分からなかった。
ほどなくして、シャトルの停泊所に辿り着くが、そこにも黒服は待ち受けていた。相手は三人だったが、ハルドは瞬時に二人を撃って倒し、最後の1人の2メートルはありそうな大男を一発で殴り倒した。
「弾切れだった」
ハルドは殴った理由を言った。アッシュは思った。
「キミと生身で戦うことがなくてよかったよ」
「そしたら死んでたな」
やはり、こともなげに言うのだった。
アッシュはハルドに連れられ、民間のシャトルに連れ込まれた。完全に拉致が成功した瞬間だった。
「コナーズ。出していいぞ」
ハルドは無精ひげの男に言った。
「いや、グレンの大将。港の入口が閉じてるんで無理です」
「開けないと入り口にぶつけると言え。あと、危険な化学物質を積んでるから大変なことになるぞってな」
「了解です」
アッシュは今日、何度目かは分からないが、このハルドという男の正気を疑うことになった。
「グレンの大将。なんかグダグダ言ってますが?」
「実際に動いて見せりゃ良い」
「いや、そりゃ無茶でしょう!?」
と無精ひげの男、名前はコナーズと言うらしい男をどけると。ハルドはシャトルの操縦席に座り、シャトルを動かしはじめた。

 
 

「大将っ!?」
シャトルは動き出し、宇宙港の入り口に真っ直ぐ向かっている。
「いや、ぶつかりますって、これ!」
「じゃあ、ぶつけちまえ」
と二人がやり取りしていると港の入口はゆっくりだが、開き始めた。
「ほらな」
ハルドの言う通りに、港の入口は開き、シャトルは宇宙に出た。だが、それで済むわけが無かった。
「大将、前方にMSです」
宇宙空間にはクライン公国の量産型MSであるゼクゥドが待ち構えていた。
「見りゃ分かるよ。デルタを出す。後ろのハッチを開けろ」
「MSを積んでいるのか!?」
民間船にMSを積み込むなど犯罪行為だ。しかし、ハルドは当たり前だろ。という表情をアッシュに返すのだった。
シャトルの後方部。積み荷置き場にハルドはストライクΔを駐機させていた。慣れた動作で、よじ登りコックピットに収まるハルド。
ストライクΔは今から10年以上前に開発されたが、ストライクガンダムの系譜に連なる名機であり、今も実戦で使える。そうハルドは思っていた。
しかし、実際のところは完全に時代遅れの機体であり、現行の量産機と比べると全てのスペックで劣るのだ。なので、今は軍で使われることもない。
ハルドはこの機体をジャンク屋から格安で買い取った。正直ポンコツでまともに動かない時があるが、ハルドはこの機体で良いのだと思っていた。
「大将、ハッチ開けます、どうぞ」
シャトルの後方部のハッチが開き、宇宙空間が見える。
「オーケー、行ってくる」
そう言うとハルドは、ストライクΔを宇宙空間へと飛び立たせた。

 

「ストライクΔ?まだ乗ってるのか!」
アッシュは驚愕して、シャトルから飛び立っていった機体を見た。
「武装はあるのか?」
「ナイフが二本あるみたいですぜ」
ナイフだけで……いや、あの男の腕なら充分すぎる装備だ。

 

「こいつ、速すぎます!」
ゼクゥドのパイロットたちは驚愕していた。カビの生えたような古い機体を全く捉えられないのだ。そして、一瞬で撃墜される。
何が起きたか、全く分からなかった。ただ、やられたという事実しか理解できなかった。

 

「強いな、変わらずに」
「にいさん、大将の昔をしっているんで?」
「知っていると言えるほどでもないがな」
アッシュがそう口にした時だった。ハルドが戻ってきたのは。
「これで邪魔はないだろ。早く出せ、コナーズ」
そう言うと、ハルドはどっしりとシャトルの船長席に座った。
「パイロットはやってないというのは嘘か?」
アッシュは尋ねる。
「やってねぇよ。今の俺は只のMS乗りで何でも屋。パイロットなんて大きな声で言えねぇよ」
「だが、乗ったろう」
「乗っただけ。パイロットみたいな誇りは無く、日銭稼ぎのためにMSを動かすだけの只のMS乗りだ」
矜持も何にもないと付け加え、ハルドは大きな欠伸をした。
「まぁ、これで誘拐完了だ。快適な旅とは言えないが、しばらく、この船での旅を楽しんでくれ」
それだけ言うと、ハルドはすぐに寝息をたてはじめた。
アッシュは起こそうとも思ったが、正直な話し自分も体力の限界だった。もう何も言う気もやる気も起きない、監禁生活で、そうとうに衰えていたらしい。アッシュは思わず言った。
「コナーズさんと言ったかな、少し休めるところはあるかな?」
そう言うと、もうアッシュはどうにでもなれという気分になるのだった。

 
 

セイン・リベルターはごく普通の少年だった。普通の家庭に生まれ、普通の成長を遂げ、普通に学校に通うという日々。
しかし、それは両親が反体制主義者と見なされるまでだった。

 

クライン公国の首都、アレクサンダリア。
プラントがユウキ・クラインという大人物によってクライン公国へと変わってから建造された新たなコロニーである。
セイン・リベルターはこの大都市の下町に住んでいた。
歳は16歳。高校に通う少年であった。しかし、それはある日を境に終わってしまったのだが――
それはある日の夜だった。家族で食事をし、その後自室で明日の学校の課題をしていると、部屋の外がにわかに騒がしくなってきた。そして父が急に部屋へと飛び込んできた。
「セイン!今すぐ隠れなさい!」
父は急に、そんなことを言ってきた。セインにはわけがわからなかった。だが、父はセインが何かを言おうとする前に、セインをクローゼットの奥に無理やり押し込んだ。
「どうも、秘密警察の者でーす。リベルターさんのお家ですよねー?開けてくださーい。ご協力おねがいしまーす」
玄関の方から声が聞こえてきた。父の顔色は蒼白になっていた。
「いいな、セイン。何があっても声をあげるんじゃないぞ。何があってもだ」
父の様子は必死でセインは声を出すこともできず、ただ頷くことしかできなかった。
そして父はセインに、
「愛しているよ、息子よ」
そう言うと、クローゼットの扉を閉めていった。
クローゼットの奥に取り残されたセインしかし、そこは漆黒ではなかった。僅かに光が入ってきていた。それはクローゼットのさらに奥側であり、壁からであった。クローゼットの奥の壁には、極めて小さな穴が開いていた。
セインはその穴を覗いてみると。穴からは自分の家のリビングの様子が見えた。
「いやー、こんな時間にお邪魔して申し訳ない」
声がし、リビングに誰かが入ってこようとしていた。セインの一度も聞いたことのない声であった。
リビングにはすでに母がいるが、母の顔面も蒼白であった。やがて、父が蒼白の顔色でリビングに入り、次に誰かを招きいれていた。
それは制服を着た男だ。その男が着ている制服はセインも知っていた。聖クライン騎士団のものだ。つまり男は聖クライン騎士団の人間であるということだとセインは理解した。
騎士団の男は勝手にリビングのソファーに座る。そこは普段はセインの定位置の場所だった。
「いやー、こんな時間に悪いですね。お休みのところだったでしょうに」
騎士団の男は、申し訳なさそうな感じも無く言う。
「いえ、構いませんよ……」
父が応対するが、声には若干の震えが混じっていた。
「そうですか、なら良かった」
騎士団の男はそう言うと、多少改まった様子で続けるのだった。

 
 

「聖クライン騎士団のロウマ・アンドーというものです。どうぞよろしく」
騎士団の男が名乗ったので父と母も名乗ろうとするが、騎士団の男は、それを手で制した。
「いえいえ、それには及びませんよ。ここが、リベルターさんのお家と分かれば良いんです」
そう言われ、父と母は怪訝な表情をするが、騎士団のロウマという名の男は無視して続ける。
「面倒ですし、説明も省きましょうか」
そう言った直後、男は母を撃った。
セインは何が何だか分からず、声も上げられなかった。そして、男は次に父の足を撃った。
「男は労働力になるんで、まぁ……ね」
「貴様……!」
父は床に倒れ伏しているのか、セインからは見えなかったが怒りの声は聞こえた。
騎士団の男は愉快さを隠さずに父を見下ろしていた。
「あのなぁ、俺を恨むのは筋違いだよ。こうなったのはキミらが器用に賢く生きなかった結果なんだ。恨むなら自分を恨んでくれよ」
ロウマという男は自分が世界の真理を語っているように言うのだった。
セインの心には怒りの感情があるが、それでも父との約束を守り、一声も漏らさなかった。
「ディレックスくん。連れてって」
ロウマという男がそう言うと、新たに騎士団の男が現れ、父を引きずり、どこかへ連れていく。
その男は去り際、こう言った。
「この家には、子どもがいるようですが?」
「そうだね」
ロウマという男は、そう言うとソファーに座ったまま、少し考える様子を見せ、そして――
「いるんだろ。セイン・リベルター君」
ロウマという男は気づいていた。ハッとし思わず口を塞ぐセインだったが、ロウマという男の視線は確実に、リビングを覗いているセインを捉えている。
「キミをどうこうしようという気はないから、安心していいよ」
ロウマという男はセインがいる方を見ながら笑みを浮かべている。その笑みは蛇を思わせるものだった。
「俺は今日だけ、キミを見逃してあげよう。俺は子ども好きだからね。両親がこんな風になった子どもがどんな風に育っていくのか想像するのが好きなんだ。
反体制の過激派に育つのか、それとも臆病な平和主義者になるのか、キミがどんなふうに育つのか俺の想像力を刺激してやまないよ。歳を取って、出世して、自分のオフィスで穏やかに仕事をしているさなかに不意に思い出す。
そういえば、あの時の子どもはどうしたろうかなってね。そういうのが良いんだよ」
ロウマは長々と述べると、ソファーから立ち上がった。
「じゃ、がんばって」
最後まで、セインが隠れている場所を見たまま、ロウマという男は立ち去って行った。
――と思ったら、ひょいと顔を出し、ロウマという男は付け加えるのだった。
「言っておくけど、キミも逮捕の対象だからね。見つからないように賢く生きろよ。それじゃ、さようなら」
ロウマという男は、それだけ言うと今度こそ立ち去った。
セインは、自分がどうすれば良いのかなにも分からず、ただ一人、生きたまま家に取り残された。
セインはしばらくの間、何も出来なかった。ただ、クローゼットの奥で呆然としているしかなかった。

 
 

自分の平和な生活が壊されたということを理解するのには、少し長い時間を要した。30分ほどしてからだろうか、セインは呆然とした状態から、ハッと気づいた。
逃げなければ、と。
何を準備すればいいのかも分からず、セインは何も持たず動き出した。しかし、リビングの母の死体を見た瞬間、再び呆然とし、今度は涙があふれてきた。
なぜ、自分がこんな目に、そう思い、涙が止まらなくなったのだ。全ての幸せで平穏な生活を奪われたことも、あふれ出る涙の原因ではある。
しかし、泣きながらも、セインは母の死体の横を通り抜け、家の外へ出た。
その瞬間、両親がよく言っていたことを思い出す。
「困った時は隣のレイアさんのお家を頼りなさいと」
セインはその言葉の通り、走り、急いで隣の家のレイア家を訪れた。
しかし、レイア家も頼れるような状態ではなかった。レイア家の玄関の扉は開けっ放しであり、セインは不思議に思いながらも、躊躇わず、中に入った。
すると、レイア家のリビングでは一人の少女が泣き崩れていた。
黒い髪の利発そうな少女である。セインの幼馴染のミシィ・レイアであった。
ミシィは涙をあふれさせながらも、家にやってきたセインの姿を確認すると、泣きながら、こう言うのだった。
「お父さんと、お母さんが……」
それだけで、セインは状況を察した、ミシィの両親も連れ去られたのだと。
セインはミシィの境遇と、そして自分の境遇を思い、再び涙した。レイア家のリビングには少年と少女のすすり泣く声が満ちていた。

 

「地球に行こう」
唐突にセインはそう切り出した。レイア家のリビングでセインとミシィは既に泣き止み、今後のことを考えている最中だった。
「僕らは、もうクライン公国にいられないんだ!」
そう、さっきのロウマという男が言っていた。クライン公国にいれば、逮捕されてしまう。
「だったら、逃げるしかない!」
そう、そして逃げるなら、なるべく遠くだ。
「逃げるなら、遠く、地球まで逃げれば絶対に安全だ」
それに、他の目的もセインにはあった。
「僕は地球連合軍に入ってクライン公国に復讐してやる!」
突然、そんなことを言いだしたセインを、ミシィは付いていけない思いで見つめるのだったが、現状では、たった一人の境遇を共にする仲間である以上、大きく反対するわけにも行かなかった。
「でも、どうやって、地球までいくの?」
ミシィは現実的なことを考える方が有益だと思い、冷静になってほしくてセインに言ったのだが、セインは。
「そんなの密航すればいいさ!」
そんなのは無理だとミシィは考えていた。宇宙港は軍などの監視も強いし、自分たちのような子どもなど、すぐに見つかってしまうとかんがえたのだが、セインはそんなこと僅かにも思っていないようだった。

 
 

「地球に行って、連合軍に入って、MSのパイロットになる。それしかないよ、ミシィ!」
セインは昔から思い込みが強く、思い付きで行動する癖があるのをミシィは思い出していた。セインがそれで、失敗する度にミシィが尻拭いをしていたことも。
「ねぇ、もう少し冷静に考えてみようよ」
「いや、それじゃ遅いよ!」
そう言うと、セインはミシィの手を取り、走り出した。こうなるとセインは誰の言うことも聞かずに突っ走るのだ。
もう、どうしようもない。そういう諦めがミシィを襲った。そしてほどなく、自分たちも逮捕されるだろう。願わくば逮捕された後に収容所で家族と会えればいいとミシィは考えていた。
やがて、二人は宇宙港に辿り着いた。途中で、休憩をしたから夜は明けて昼になっている。
「ミシィが疲れたなんて言うから、こんな時間になっちゃったんだぞ」
「私だけじゃなくて、セインも疲れたって言ってたじゃない」
夜中、二人は疲れ、途中で24時間営業のファミレスで夜を明かしていた。
「いいかい、ミシィ。ここからは慎重に行動しないといけないよ」
あなたが言う?と、ミシィは思ったが、それを言いだすと互いに言い合いになってきりが無くなる。
そのことを幼いころからの付き合いで理解していたミシィは何も言わず。セインの言葉にうなずいた。
宇宙港は人でごった返している。確かにこれなら、見つかることは少ないかもしれない。ミシィが、そう考えた直後だった。発砲音が聞こえたのは。
「なに!?」
ミシィは思わずしゃがみこむ。隣にいたセインも同じだった。本質的にはセインは臆病なのだ。
「わからないけど……ついているよ、ミシィ。今の内だ!」
セインの声は震えていたが、立ち上がり、混乱するミシィを引っ張り走り出す。
「今の内って何!?」
「今なら、忍び込めるってことだよ」
確かに宇宙港の中は大混乱しており、人々は恐慌状態で大変なことになっている。セインの言う通り、今なら忍び込めるかもしれないとミシィは思った。
そして、結果はその通りとなり、セインたちは人の目を盗み、シャトルの停泊所に辿り着くことができた。
「ちゃんとしたのより、ぼろっちぃ奴のほうが忍び込みやすいはずだ!」
セインはそう言い切り、停泊しているなかで一番、おんぼろに見えた宇宙船に乗り込むことにした。幸いなことに入り口は開いており、セインたちは容易く乗り込むことができた。
乗り込んだ船は貨物船のようだった。セインたちは密航という都合上、見つかりにくい場所を見つけようとし、その結果、貨物船内の倉庫に隠れた。倉庫の中はガラクタだらけで、隠れるのは容易かった。
倉庫の奥には窓があり、セインたちはこっそりと、そこから外の様子を伺うことにした。
そうしたらタイミングが良いのか悪いのか、外では銃撃戦の真っ最中だった。
「カッケェ……」
「うわ、かっこいい……」
二人の美的感覚が共通するような端整な顔立ちの人物が、黒服の男二人を一瞬で撃ち倒し、大男を一撃で殴り倒したところを見た。
セインもミシィも、どちらもテレビや映画ですら見たことのないような美男子が悠々と歩き、その後ろをガリガリで顔面蒼白の男がよろよろと歩くさまを見届けた。

 
 

あの二人がどの船に乗るのかは知らないが、セインもミシィもできれば、この船には乗らないで欲しいと思った。
直感的にだが、あの美男子は危険人物な気がしたからだ。二人が見ている中、美男子と痩せた男はどこかの船の中に消えた。
直後、船内が少し騒がしくなってきた気がして、ミシィは少し震えた。するとすぐにセインが、その肩を抱く。
「なにすんの、スケベ!」
思わずミシィはセインの頬を叩いていた。いくら幼馴染でも男女の関係である以上、節度は大切。ボディタッチは厳禁なのだ。
「なんだよ、慰めようとしただけだろ!」
とセインは言い返したが、直後に二人は自分たちが密航者であることを思い出し、静かにすることにした。
黙っていると、どちらも心細かった。二人は両親を失ったのだ。その気持ちを簡単に埋めることは出来なかった。
しばらくすると、宇宙船は発進した。倉庫の窓からは宇宙の景色が見える。だが、なにかトラブルがあったようで倉庫の外が慌ただしいように二人は感じた。
直後、倉庫の窓にMSの姿が映った。
「あれ、ストライクガンダムΔだ」
セインは言った。ミシィの知る限り、セインはMSオタクであり、大抵のMSの名前は知っていた。
「嘘だろ。あんな古い機体が今も動いてるんだ」
セインは心底驚いた様子だったが、ミシィには何がすごいのか全く分からなかった。
少し経つとストライクガンダムΔという機体はすぐに戻って来た。
セインとミシィは二人とも、外でちょっとした作業をしてきただけだと結論付けた。
「ストライクΔなんて古い機体じゃ、今時のMSには絶対に勝てないんだ」
セインは確信を持って、そう言っていた。それからミシィは、ひたすらセインのMSに関する薀蓄を聞く羽目になった。
ミシィとしては、この船がどこへ向かっているのかの方が心配だったのだが、目の前にいるセインという幼馴染は、それに関しては全く心配してない様子に見え、ミシィはセインの薀蓄を聞き流しながら、ひたすら呆れる思いだった。

 
 

第17話 【戻】 GEB第2話

 

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