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GUNDAM EXSEED_B_10

Last-modified: 2015-04-17 (金) 21:51:37

輸送艦は何事もなく、クランマイヤー王国に到着した。ハルドが事情を説明すると、輸送艦はすんなりとコロニー内に入ることができた。
しかし、本当にちょっとしたことだが問題もあった。新しく手に入れたMSをどうするかということである。
ハルドはとりあえず宇宙港に置いておくこと暫定的な措置としたが、宇宙港内には既に、以前に貰った2機のMSもある、いくらクランマイヤー王国の宇宙港が閑散としているとはいえ、4機もMSを置いておくには問題があった。
一応、宇宙港は公共の施設で平和的な利用がされる場所である。そこに兵器であるMSを置いておくのは利用者の不安を煽る。なので、ハルド達としてはなるべく早く、MSを置ける場所、なるべくならば整備なども可能な環境を用意したかった。
しかし、そういうのはこれから考えれば良い問題であって、ハルドもセインも目先にある大きな問題に気づいてなかった。
宇宙港へと降り立った、ハルド達を迎えたのは、姫、アッシュ、ミシィ、セーレであった。無事に帰って来たことを歓迎される。そう思っていたのはセインだけだった。
「ただいま」
セインが迎えに来たと思った幼馴染のミシィにそう言うと、ミシィは何も言わずセインに近寄り、その顔面にパンチを叩き込んだ。
平手ではなく、グーで握ったコブシである。思った以上に威力があったのか、セインの身体がよろめく。ミシィは拳を叩き込んだら、それきり背を向けて去って行った。
「はは、だっせぇ」
ハルドは指さしてセインを笑っていたが、ハルドも笑っていられない状況になる。気づくとハルドの目の前には姫が立っていた。その顔は明らかに怒っている様子だった。
「ていっ!」
姫がハルドの腹にパンチする。それも一発ではなく、ていっていっと何発もだ。痛くもかゆくもないパンチを食らいながら、ハルドとしては訳が分からないので、アッシュを見る。するとアッシュは肩をすくめ言うのだった。
「大事な人が勝手にいなくなったら怒りたくもなるだろう」
アッシュはミシィと姫の気持ちを両方とも代弁したのだった。
ハルドとしては、どうしたものかと思い、ひたすらに姫の痛くもないパンチをくらっていた。が、急に尻に痛みが走った。立っていられなくなりそうだったが、必死に耐えた。蹴ったのは虎(フー)だった。
「コドモ、イジメル、ヨクナイナ」
余計なお世話だし、蹴ることはないだろうとハルドは虎に言ってやりたかったが、先に片付けなければならない問題がある。それは目の前にいるひたすらパンチをする幼い少女である。
「すみませんでした、姫様」
ハルドは素直に頭を下げた。これが一番の解決法だと思ったからだ。すると姫はパンチを止めてハルドの目を見ながら言う。
「もう、勝手にどこかに行きませんね?」
ガキではないんだから、どこへ行こうと俺の勝手だろうという思いもハルドにはあったが、本音と建て前という物が世の中にはある。
「ええ、これからは勝手にどこかに行ったりはしませんよ」
言いながら、ハルドはしゃがみ姫の頭を撫でる。すると、姫の顔は明るくなった。
「なら、いいのです」
少し胸を張りながら、姫はハルドに背を向けて歩き出す。ハルドは苦笑しながら、その後を追っていく。
「オマエ、イロイロ、ダメダナ」
ハルドの後ろではセインが虎にそんなことを言われながら、ハルドの後ろを歩いていくのだった。

 
 

「また、厄介そうな物を持ち込んでくるなぁ……」
アッシュは、とりあえず姫の問題が片付いたので次にMSを見る。ガンダムタイプのように見える2機だ。アッシュはその機体の足元にいる二人にも注意を向けたが、セーレが対応をするなら大丈夫だろうと、ハルドら皆の後を追うのだった。

 

「しかし、どうしましょうかね、この子たちは?」
レビー・シカードはブレイズガンダムとネックスの足元で機体を見上げながら、隣に立つマクバレルに尋ねる。
「そんなの私は知らん。MSの置き場などそこらの凡人が適当に考えればいいのだ。私にはもっと考えなければなら――がっ」
マクバレルが話しかけている途中でレビーはスパナで教授を殴った。殴れば反省するのでマクバレルの相手は楽だとレビーは思った。
「ま、まぁ。色々と整備の問題もあるからな、天才たるものそういうことにも気を配るべきだな」
「そうですね」
レビーはニコリと頷いた。そしてマクバレルと2機のMSの扱いについて相談を始めたのだが。そこに1人の女性が現れる。
レビーはわりと綺麗な人だと思ったが、マクバレルの様子を横目で見ると、特に関心が無い様子だった。
「あの、私を憶えているか?」
女性はマクバレルに向かって言う。これは、色々あるなと思いレビーは身を引く。だが
「いや、憶えていない」
あ、これは駄目だと思ったレビーはマクバレルから距離を取った。何ための距離かというと助走距離である突撃のための。
「私はセーレ・ディアスだ。ほら、幼馴染の!」
言われてマクバレルは、ああ、と言った感じで思い出して言った。
「ああ、あのバカ女か」
直後、レビーが車椅子で突撃して、マクバレルを轢いた。
「なぜ轢く!キミは知らんだろうが、この女は、相当頭が悪かったんだぞ。だからバカ女だろうが!」
レビーは無言でもう一度轢いた。ダメージが足りなかったから暴言を吐いたのだと考えたからだ。見るとセーレという女性も心にダメージを受けたようで、床にしゃがみこんでいた。
レビーとしては見過ごすことができなかったので、大丈夫か尋ねるが、セーレは曇った表情で言う。
「大丈夫です。クソ女と、バカ女とかは言われ慣れているので」
わりと綺麗な顔をしているのに可哀想な人生を送っているとレビーは思った。セーレは気丈にも立ち上がりレビーとマクバレルに言うのだった。
「お二人とも屋敷へご案内します」
今回の出来事の発端はセーレのハルドへの依頼だったにも関わらず、セーレは特に重要視されず、最終的には曇った表情の案内役という役柄で終わったのだった。

 
 

クランマイヤー王国の移動手段は相変わらず馬車であった。しかも農家が使うような荷台の馬車である。馬車が向かう先はクランマイヤー王家邸であるが、そこにはある程度の主要メンバーを決めて向かう。
レビーの車椅子などがあるのでかなり窮屈ではあったが、全員が乗ることができた。全員というメンツは宇宙港に迎えに来た4人とハルド、セイン、虎、マクバレル、レビー、そしてちゃっかり乗っているユイ・カトーである。
馬車の御者台にはセーレが座っている。彼女が話さなければならないことは1つもないからである。そしてセインの顔も見たくないのかミシィも御者台に座っている。
「しかし、無茶をしすぎたな。クライン公国にばれてはいないのか?」
アッシュは露骨に心配を表情に出していた。アッシュが心配しているのは強制収容所の一件である。まさか収容所を1つ潰してくるとは思わなかった。
そして潰したのがクランマイヤー王国に関係のある人間だと身元が判明すれば、このコロニーに危害が及ぶ。それがアッシュの心配だった。
「収容所でもクランマイヤーの名前が出るようなことはしなかったし、輸送艦での移動中の追跡もされてないから、収容所の件とクランマイヤー王国を結びつける奴はいないと思うが」
ハルドも100%大丈夫だとは自信を持って言うことは出来なかった。
「いいことをしたんだから、きっと良いことがありますよ」
ハルドの隣に座る姫は状況が分かっているのかどうか定かではないが、にこやかにそう言うのだった。もうこの話はこれでいい気がハルドとアッシュはしていた。
よくよく考えれば、ハルドもアッシュもクランマイヤー王国の人間ではないのだから、真剣に考える必要もないのだが。なんとなく二人とも真剣に考えてしまっていた。
他にもアッシュはハッキリさせておきたいことがあった。
「あの2機のMSはどうする?一応、クライン公国の物だろう、このままだと窃盗だぞ?」
それに関してはレビーが答えた。
「別に大丈夫ですよ。適当に型式番号を弄ったり、フレームの刻印や塗装を変えれば、誤魔化せます。堂々としてれば、ばれません」
そしてレビーの後に続くのがハルドだ。
「まぁ、あれだ。嘘もばれなきゃなんとやらって」
あまり良い解決策に思えなかった。アッシュは頭を抱えて言う。
「キミらはあれだな。海賊とかの方が向いているな」
実際、そうなのだろうが、現状はそうではないので何とも言えない。ハルドもレビーも肩をすくめるだけだ。
アッシュが聞くばかりでなく、馬車に乗っている間にでもハルドは聞いておきたいことがあった。
「収容所にいた人間はどうすりゃいいかね?」
それについてはアッシュが答えられる範囲だった。
「バーリ大臣が大まかに準備中だ。第一農業コロニーに人が住める大型の建物があるらしい、食糧に関しては、充分以上の備蓄がある。
それは僕も急いで確認したが問題はない。衣類については少し時間が必要だ。コロニーの住人の寄付に頼るのが良いかもしれないが、あまり善意に期待しすぎるのも問題だと思う」

 
 

そういえばバーリ大臣がいないと思ったら、そういうことか。
「大臣は元囚人の人達を先導中だ。他にも諸々の手配をしてくれているから今日は屋敷に戻らないらしい」
アッシュがそう言うと、姫は少し嬉しそうだった。
「大臣が戻らないなら、ちょっと夜更かししても大丈夫ですね!」
なんというか子供らしい理由での喜びだ。ハルドやアッシュからすれば、夜更かしなんぞせずにさっさと寝たいものだが、子どもはそういうところが違うなと、多少大人になったのを寂しく思った。
「じゃあ、晩飯には期待できないな」
ハルドが食事の用意は全てバーリ大臣がやっていたこと思い出して言った。そしてハルドは急に言いだす。
「じゃあ、たまには俺が作ってやるかな?」
そう言うと姫は嬉しそうな顔を浮かべる。
「ハルドさんが作ってくれるんですか?」
「ああ、たいしたものは作れないけどな」
姫とそしてレビー、ユイ・カトー以外の皆が一様に不安そうな表情を浮かべる。特にセインは心配そうな顔だった。
「大丈夫なんですか?」
セインが言うと痛烈な反撃が返る。
「お前の操縦よりはマシだよ」
ハルドの料理の腕を知っているのはレビーとユイ・カトーだったが、二人は別に心配するような様子もなかった。
そして、現状、特に話すこともないなと思うとハルドは黙るし、アッシュも口をつぐんだ。姫はハルドの隣で楽しそうなのが印象的である。
そして、事務的な会話が無ければ雑談になる。雑談は主に収容所がどうであったかをハルドとセインが話すというものであったが、ミシィは御者台に座ったまま絶対にセインの方を見なかった。
セーレは馬車を操りながらも隣に座るミシィの様子が気になっていた。
「なぁ、事情は分からないが、許してやってもいいんじゃないか?」
セーレが言うと、ミシィの表情は怒りに満ちたものだった。
「事情が分からないなら黙っていてください。同じ女性なのに私の気持ちが分からないんですか!」
セーレは怒鳴られて終わった。なんだかアービルのコロニー以来自分はこういう目にあいすぎな気がしているとセーレは思った。何がだめなのかはセーレには分からなかったが、何となく自分はずっとこんな役回りなのではないかという気がした。

 

雑談は続いていた。だが虎(フー)は誰と話すこともなく、ただ王国の風景を眺めていた。すると不意にリンゴが差し出された。リンゴを差し出したのは姫である。
「あなたは何だか悲しい目をしてます。大切な物に裏切られた人の目だと私は思います。これを食べて元気を出してください」
姫はそう言ってリンゴを差し出した。王家のリンゴ農園で取れたものである。虎(フー)は臣下の礼を尽くすように両手で受け取る。
「カンシャ」
そう言って、すぐに食べた。
「あなたはきっと良い人だと思うんです。きっと次はもっとあなたを大切にしてくれる人を見つけられます。良い人には必ず良いことがあるんですから」
姫は虎にそう言う。ハルドにすれば子供だましの言葉だが、虎には何か感じ入ったものがあったようだった。
虎は馬車の荷台の上で姫に恭しく頭を下げた。ハルドとしては二つの予感がした。ありがたいことになるのと、面倒くさいことになることの二つだ。
そうこうしている内に、馬車はクランマイヤー王家邸に辿り着く。
辿り着くと真っ先に迎えに来たのはヴィクトリオだった。
「アニキー、お土産はー?」
おかえりなさいも言わない奴に渡す土産は無いとハルドは言いたかった。実際に土産らしいものはないので、何とも言えないが、取り敢えずハルドは子供だましにこう言った。
「港に面白い物があるからあとで見に行って来い」
子どもの相手はこれで充分だろうとハルドは思った。幸いヴィクトリオは単純だったので、ハルドの言葉を鵜呑みにした。
離れていた期間は少しだが、クランマイヤー王家邸は久しぶりのようにハルドとセインも感じた。

 
 

「やっぱり、良いところです」
「そうだな」
セインもハルドも久しぶりのクランマイヤー王家邸に感慨を覚えていた。
「で、夕食だが……」
感慨に浸るハルド達を邪魔するように、アッシュが言う。自分で言った手前、ハルドは動くしかなかった。
他のものは皆、休憩である。その間にアッシュが3年間、収容所にいたレビーとユイ・カトーに世の情勢などを説明する。
ハルドが懸命に料理をする中、皆は、アッシュによって世の中の情勢やクランマイヤー王国が晒されている現状などの説明をゆっくりと受けていた。
そしてある程度の時間が経ち、時間は夕食時である。
「出来たぞ!」
厨房から死にそうな顔のハルドが出てきた。そしてテーブルには全員分の料理が並べられている。
「まずは定番のシーザーサラダだ」
緑の新鮮なレタスの上にみじん切りにしたうえでカリカリに焼いたベーコンとクルトン、そして大胆に削り下ろしたパルメザンチーズが乗り、その上にドレッシングがかかっていた。
「そしてオードブルにサーモンと白身魚のカルパッチョだ」
皿の上に朱色のサーモンと白身魚の刺身が交互に円形になるように並んでいる。その上にオリーブオイルを主体にしたソースがかかっていた。
「次に豆のトマトスープ」
様々な豆が入ったトマトの赤い色が鮮やかなスープであった。
「メインは牛肉の赤ワイン煮だ」
皿には大きな牛肉の塊が乗っているが、ナイフを使わずとも切れそうなほどに軟らかく煮こまれたものだ。付け合わせにはマッシュポテトと赤と黄のパプリカの炒め物が付けられている。
「主食は魚介のパエリア」
既に一人一人の皿に取り分けられていた。サフランによって色付けされスープで味付けされた米料理だ。上にはエビやイカ、アサリなどの魚貝類が乗っていた。乗っているだけでなく米にも混ざっており、全体に旨みが行きわたっていることを感じさせた。

 

とりあえず出てきた料理は完ぺきだった。しかし、いくつかの問題がある。それは女性陣から出てきた。
「量、多くないですか」
「なんで一気に出すんですか」
「なんか、切っただけ系と煮込み系で固めてませんか」
色々文句は出たが、みんなペロリと平らげた。特に、収容所の食事だった者たちは、凄まじい勢いで食べた。そして収容所に入っていたわけではないのにも関わらず、アッシュは平気で二人前を平らげた。
「おまえ、戻って来たな」
ハルドはアッシュの身体を見て言う。そろそろ食事の量を考えなければいけないと思ったが、ハルドは言うのをやめておいた。丸々と太ったアッシュを見るのも悪くないと思ったからだ。
食事を終えると皆、自由時間だった、ハルドは作っておいたデザートのティラミスを配り終えると、居間の適当なソファーに座りくつろいでいた。すると、くつろぐハルドに姫が近寄り、急にこんなことを言いだしたのだ。

 
 

「ハルドさんの今までの冒険の話しをしてください」
気づくと居間にはあらかたの人間が集まっていた。見ると、ユイ・カトーにレビーはニヤニヤとしている。
小さな子供じゃないんですから。と言って姫をたしなめるのは無しという雰囲気だった。ヴィクトリオも目を輝かせて話しを待っている。
仕方ないのでハルドは適当な話しをすることにした。
「じゃあ、砂漠の迷宮に囚われたお姫様の話しでもしましょう」
ハルドは何となく、言ってみた。するとレビーやユイ・カトーは気まずい顔をする。何をそんな顔をする必要があるのか。これは子ども向けの話なのだから。
「始まりはそうだな。俺がいつものように、旅に出たってところかな――」
そしてハルドは話しを始めるのだった。
『俺はある日、砂漠の迷宮に凄い宝があると聞いた。そういう話しを聞いて黙ってられるような男じゃない。このハルド・グレンはな。
だから、その砂漠へ行ったのさ。それはそれは大変な場所だった。暑いは砂ばっかりだ。って砂漠はだいたいそうか。まぁ、そんな砂漠を頑張って抜けたわけさ、俺はな。
いやー大変だった。だけどもっと大変だったのは砂漠を抜けた途端。急にロボットが襲って来たんだよ。だけど、俺はそんなの余裕、楽勝で倒してしまったわけだ。
で、そのロボットを倒した先にあったのは迷宮。なるほど、ここに宝があるというわけか、そう思って入った。すると驚いたことに迷宮は、一本道!
なんか騙された気がして、俺はとにかく歩いたのさ。そして一番奥に辿り着いた。そこで待っていたのは!?……』
「なんだと思う?」
途中で区切りハルドは姫とヴィクトリオに尋ねる。姫とヴィクトリオが考える中で、何となく察したアッシュは酒を取りに行った。
「お宝!」
ヴィクトリオは素直に答えたがハルドは不正解を出す。次は姫だった。
「お姫様でしょ!」
言われてハルドは少し困った。不正解なら一旦終わりにしようと思ったのだが、正解をされてしまった。すると、アッシュがハルドの傍らに酒を置いた。
酒を飲みながらなら話せるか、そう思い、ハルドはその酒に手を付ける。レビーとユイ・カトーの表情は痛々しいものを見るようになっていた。
『そう、姫様の言う通り、俺は美しい姫を見つけ救い出した……そう、救い出したんだ。砂漠の迷宮からな。姫はなんて言えばいいかな、こう白銀色に輝く髪を持っていたから白銀姫だ。白銀姫はすごく頭の良い人でな……』
一旦、ハルドの言葉が止まると。姫が言う。
「私よりもですか?」
そう言われ、ハルドは困った表情を浮かべた。
『いやーここの姫様には負けるけど、頭が良かったんだ白銀姫は。それに白銀姫は美人で何かすごい宝の秘密を握っていた。だから、いろんな奴に狙われていた。
まずは盗賊団。こいつらは楽勝だったね。このハルド・グレン様にかかれば、次に白銀姫を狙ったのは鷹の騎士。そいつは何を隠そう、そこにいるアッシュ・クラインなのだ!』
ハルドが大げさに言うと、姫もヴィクトリオもアッシュを見るが、アッシュは苦笑して肩をすくめるだけだった。
『まぁ、鷹の騎士は悪い奴じゃないよ。あとで仲直りしたしね。だが、大変なのはここからだ。流石のハルド・グレンも油断する時はある。その油断した瞬間を狙われて、悪い魔女に呪いをかけられてしまったんだ。魔女の言うことを聞くような呪いをね』

 
 

話しながら、ハルドはアッシュの用意した酒を飲む。運悪くワインだった。酔いが弱いのでぶっ飛んだ話しを子どもにしづらいのだ。
だからだろうか、悪い魔女と自分で言っておきながら、ある一人の人物が浮かんできた。エルザ・リーバスだ。
いま思うとそんなにあの女が悪いのかとハルドは思う。狂人だが、狂っていても全てを無視できる力と強い意志を持っていた。自分にそんな真似ができるのかと思う。
「ねぇ、アニキ、続きは?」
ヴィクトリオがハルドの膝を揺らしながら話の続きをせがむ。ハルドとしても話しても面白いのはここまでだ。
振り返ると後悔しかない話なのだ。それでも子供に話すしかない、いまは。だからハルドはワインを一気に口に含み、飲み込んだ。
『じゃあ、話しを続けるか――流石のハルド・グレンも魔女の呪いには負けた。ちょっとだけな。だけど、そのちょっとが良くなかった。俺が、魔女に負けた瞬間、白銀姫の力が奪われた。
それは、こうなんていうか、兵士を操る力だ。敵の兵士は一杯、俺は1人。そう思ったけど違った、あの鷹の騎士が助けに来てくれたんだ。なにせ鷹の騎士は正義を愛する男だからな!』
ハルドが語ると、姫とヴィクトリオの視線をアッシュに向けられる。注目されてもしようがない。アッシュは肩をすくめるだけだった。
ハルドの話しは続く、その手に酒瓶を手に。
『俺は、鷹の騎士の手助けによって、白銀姫を助けることに成功した。だけど。これで終わるわけがなかった。悪い魔女は、俺に命令した。とある迷宮の宝を手に入れてこいと。呪いのかかっている俺は逆らうことが出来なかった。
白銀姫は魔女に奪われてしまったままだったけど、俺は魔女の言うことを聞くしかなかったんだ、白銀姫を救うために。そして、俺は迷宮へと進んだ。だけど迷宮に宝はなかった。全部、魔女の嘘だったんだ』
そこまで言って、ハルドは酒瓶を飲み干した。別に次を要求したつもりはなかったが、ユイ・カトーがいたたまれない表情で次の酒瓶を持ってきていた。
不思議と酔わずに話しが出来た。ハルドはそれがつらかった。最後はどうするのか。それを考えながら話しをした。
『魔女は気づくと白銀姫を連れ去っていた。俺は何てミスを犯したんだと思った。俺は姫を追いかけたかったしかし、呪いがかかっている。だが――』
姫もヴィクトリオも調子を合わせて言った。
「ハルド・グレンはそんなものに負けない」
そう言われ、ハルドは立ち上がり、芝居がかった調子で言うのだ。
『そう、ハルド・グレンは負けなかった!』
そして物語は続く。
『俺は白銀姫を追いかけた。だが、魔女は卑劣にも罠をしかけた。白銀姫を傷つけなければ解けない罠を。卑怯だと思うだろう。だが、俺には何の問題も無かった。なぜなら、悪だけを貫く剣を鷹の騎士から借りていたからだ!
俺は鷹の騎士から借りた剣を手に魔女に突撃した。そして魔女を剣で倒した。魔女は完全に油断していた何せ白銀姫を盾にしていたから、自分がやられると思ってなかったんだろう。
そして、俺は魔女を倒したわけだ』
そこまで言って区切ると、姫が食いついた。
「白銀姫はそのあとどうなったの?」
ハルドは躊躇いなく答える。
「自分の国に帰って幸せになったよ」
次はヴィクトリオの質問だった。
「アニキは白銀姫と結婚しないの?」
言われてハルドは苦笑を浮かべる。
「馬鹿野郎。相手は姫様だぞ。もっと活躍しなきゃ結婚なんかできるわけがないだろう」
姫とヴィクトリオはなんとなく腑に落ちない表情だった。だがアッシュが場を収めた。

 
 

「姫様もヴィクトリオも寝る時間だろう。ほら速くベッドに行きなさい」
ハルドはアッシュの、その言葉に感謝する思いだった。その言葉で結局は全員解散することになったのだ。

 

結局、いつものように、ハルドとアッシュは、クランマイヤー王家邸のテラスで酒を交わすことになった。
「どこまで、ホントだと思っている?」
さっきの子供向けの話しだ。
「だいたい全部が本当だと思ったな」
もちろん自分に関わること以外だが、アッシュはこともなげ言う。
別にハルドも気にしていたわけではなかった。ただ何となく聞いてみただけだ。
「アンタはどれだけ人生をやり直したいと思う?」
ハルドの声には生気が感じられないとアッシュは思うが、質問には答えた。
「ミスを犯した時だけだ。それ以降は仕方ないと思いミスの修正に努める」
アッシュは真面目に答えたつもりで、ハルドの答えも同じようなものだと思った。しかし、違った。ハルドは囚われているのだった。
「俺はリーザに会った頃に戻りたいよ。無理だと分かっていてもな」
1人の女性の名前が出てから、アッシュはそれ以上聞くことをやめた。それが礼儀だと思ったからだ。話したければ自分から話す、それがアッシュのハルドへの考えだった。
そして酒に酔っているから出た名前だとアッシュは思うことにした。そう考えてやるのが礼儀だとも思ったのだ。

 
 

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