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GUNDAM EXSEED_B_12

Last-modified: 2015-04-17 (金) 21:58:01

クライン公国の首都アレクサンダリアの公園、そのベンチに座りドロテス・エコーは煙草に火をつけ一服ついていた。
「あー、くそ……」
煙を吐きながら、出てくるのはそんな言葉ばかりだった。現在のドロテスは謹慎中の身であった。それもこれも月の強制収容所の警備に失敗しながらも、おめおめと1人生き残って帰って来たからだ。
聖クライン騎士団の上層部ではドロテスの処罰を検討しており、処罰が決まるまで、ドロテスは謹慎という扱いだった。
「もう少し頑張れば良かったか?でもなぁ……」
ドロテスは月面の戦いを思い出しながら呟く。赤いガンダムだけだったら、何とでもなったが、もう一機のほうは無理だ。絶対に無理だとドロテスは感じた。長いこと戦場にいた結果、身に着けた勘だが、もう一機の方にはドロテスは絶対に勝てないという直感があった。
「逃げて正解だったよな……」
一本を吸い終え、吸い殻を携帯灰皿に入れると、ドロテスは、もう一本煙草を取り出し、口に咥え火をつける。すると、壮年の男性がドロテスに近寄り、
「公園は禁煙ですよ」
と注意した。
「あ、すんません」
火をつけたばかりだというのに、とドロテスは思い、まだ一口も吸っていない煙草を携帯灰皿に突っ込もうとした。しかし、その時、上のほうから手が伸び、ドロテスの煙草が自然な動作で奪い去られた。
「煙草ぐらいで目くじら立てなくてもいいじゃあないですか?」
ドロテスは手の主と、その声がした方を見ると、ドロテスの後ろには、ある男がいた。ドロテスがなるべく関わり合いになりたくない男、ロウマ・アンドー大佐であった。
ロウマが着る騎士団の制服を見て、壮年の男性は怯えた表情になる。いまや騎士団は民衆からは殺し屋か誘拐犯と同じような目で見られているのだ。
「俺は別に煙草吸ってもいいと思うけど。おじさんは駄目か。どうしようかな、こういう場合」
ロウマはヘラヘラとした態度で言う。その態度でロウマを軽く見たのか、壮年の男性は何かを言おうとした。その瞬間、ロウマは男性の額に煙草の先端を押し付けた。煙草の先端は高熱なので火傷は免れられない。
「はは、今度はもっと酷いことしちゃうぞ。消えろ消えろ」
壮年の男性は悲鳴をあげながら去って行った。こういう暴力的な所も、ドロテスがロウマを嫌う理由だ。そして――
「よう、元気?」
妙に馴れ馴れしいのも嫌いな点だ。
「ボチボチです」
年齢はドロテスが30を過ぎたばかり、ロウマは30手前確か28ぐらいと聞いた憶えがドロテスはあった。年齢ではドロテスが上だが、階級はドロテスが大尉でロウマが大佐である。階級の差がある以上、ドロテスは敬語を使う必要があった。

 
 

「なにか、ご用ですかね」
ドロテスはどうにも敬意をもって振る舞うということが出来ない人間であった特に嫌いな相手には。
「別に大した用じゃないよ。キミの処罰が決まっただけ」
ロウマは言って、ドロテスから奪った煙草を吸い、その吸い殻を地面に捨てる。ドロテスとしては色々と無視できないことだった。地面に落ちた吸い殻も含めて。
「どうなったんです?」
「別にどうも、ただの降格だけ。取り敢えず明日からドロテス・エコー中尉ということで、よろしく」
なんだ、とドロテスは思った。降格は辛いが、まぁ何とかなるだろう。ドロテスはもっと重い処罰が下ると思っていたからだ。
ドロテスは安心した気分でいたが、不意にロウマを見ると、ロウマはやけにニヤニヤとしていた。安心が一気に不安に変わった。
「お前さぁ、処罰がそんなに軽く済むわけがないだろ?」
ああ、そういうことかとドロテスは理解した。
「俺がとりなしてやったんだよ。分かるか、俺がお前のために減刑を働きかけたわけだ」
この先もだいたい分かる、一時期、この男の下で働いていたのだから。そして思い出したくなかった時代を思い出す。
「俺は見返りが欲しいわけよ。ドロテス君。キミのために頑張ったご褒美が」
ああ、もう関わり合いになりたくない人物の筆頭だというのに、それももう無理だ。ドロテスは色々と諦めた。
「というわけで、俺のために働いてね。ドロテス・エコー君。じゃ、さよなら」
言うだけ言ったら、ロウマは去って行った。ドロテスはウンザリして天を見上げる。しかし、何か解決するわけでもない。ドロテスは煙草でも吸わなければ、やってられない気分になり、禁煙だということも無視して煙草に火を付けるのだった。
こうして褐色の悪鬼と呼ばれる男は蛇の舌先で転がされる身となったのだった。

 
 

「まぁ、こんなもんか」
ハルドは草地に倒れ伏したセインを見下ろしながら言う。とにかく時間がないので、体に動きを叩き込み、夜中はひたすらシミュレーターである。
実機に乗せる余裕はなかったが、とりあえず現状で戦力になる程度には完成させた。とハルドはセインを見て満足を覚える。
「ほら、起きろ。次はレビーたちから呼び出しだ」
返事もできないほど疲労したセインを引きずり起こし無理矢理に立たせる。こうすれば立って歩ける。そんな風に体に仕込んだのだ。セインはようやくといった様子で歩く。
うん、満足な出来だとハルドは思った。とにかく、セインは暴力や苦痛とは縁のない人生だったのだ。
ハルドは、セインにあえてそれらを叩き込んで暴力や苦痛に対する恐れを消すことに成功したのだ。
あとは、徹底的に我慢が出来る体作りもした。これは精神的なものに含まれるが、多少のことでは、へこたれない精神に鍛え上げた。
現状で一般的なパイロットと同じくらいの働きはできるという確信がハルドにはあった。よたよたと歩くセインの姿からは想像が出来ないが、ハルドには鍛えあげたという自信がある。
ハルドとセインは、工業コロニーへと向かった。目的地はMS製造工場だった。
工場は数日見ないうちに、きちんと工場らしくなっていた。しかし。セインにとってはそれよりも気になることがあった。それは自分の機体の姿である。
ブレイズガンダムの表面にはいたるところ、というかほぼ全身に装甲板が貼られていた。
「なんですか、これは!?」
乗機の変わり果てた姿にセインは疲労も忘れて叫ぶ。その叫びに答えたのはマクバレルだった。
「フルアーマー(仮)ブレイズガンダムだ」
淡々と言うが、それだけ言われてもセインは理解できない。
「なんで、こんなんなっちゃったんですか!?」
その答えは単純だった。
「貴様の操縦が下手くそだからだ」
マクバレルは歯に衣着せぬ物言いだった。ハルドも、まぁ仕方ないと思う。実際セインの腕はまだまだなわけで、防御を重視する必要があるからだ。
「装甲板が破損し、本体が露出した部分だけバリアが発生する仕組みになっている。気休め程度にはバリアの持続時間が上がったと思え」
それだけ言うと、マクバレルは去って行った。呆然と自分の機体を見上げるセインに対し、ハルドは肩を叩き、言う。
「とりあえず補助輪だ。これが取れたら一人前ってことでな」
セインがハルドの物言いに釈然としないもの感じていると、次はレビーがやって来た。
「とりあえず、追加の装備で2機ともアンチビームコーティングのシールドを用意したから。シールドの内側にグレネードランチャーを装着させてあるから、取扱いに注意ということで」
レビーが指さした先には同じ形のシールドが二つ並んでいた。
「あと、ブレイズガンダムには専用のバックパックを用意する計画があったんだけど、現状ではしばらく無理なので勘弁してね。代わりに大容量エネルギーパックを無理矢理接続してあるから、これでバリアの持続時間も伸びるはずだから、安心して」

 
 

セインは色々思ったが、自分はよっぽど撃墜されそうな感じなのだろうかと思った。とにかく、みんなが撃墜されないようにしてくれている。ありがたいのはありがたいが、少し自分が情けなくなるセインだった。
「補助輪、補助輪。気楽に考えろ。最初はそういうの付けて腕が上がったら外せばいい」
ハルドはニヤニヤしながら言う。それはどうみても装甲板で覆われて着膨れしたブレイズガンダムを見ての笑いだ。
「クソ」
セインはハルドに殴りかかった。この数日間は何かあったらハルドに殴りかかっていいというルールをセインに課している。
しかし、セインのパンチは軽く躱され、ハルドの軽い足払いでセインは床に転がされる。
「多少は闘争本能が身についてきたな」
ハルドは床に倒れたセインを見下ろしながら言う。
「とにかく暴力、戦いになることにビビるな。それがお前の第一目標だ」
レビーはその光景を見ながら、この師弟関係は大丈夫なんだろうかという不安しかわかなかった。そして、そのさなかに思い出したのだ。
ハルドに渡すものがあることを、ハルドがいるうちに渡さなければと思い、急いで取りに戻り、そしてハルドの前に戻る。
「頼まれてた品です。こっちとしては専門外の物なので性能は保証できませんが」
そう言いながらレビーはハルドに袋に包まれた物を渡す。ハルドはその場で袋を開いた。すると中から出てきたのは、二本の小ぶりの剣である。
ナイフよりは明らかに長いが普通に剣として見ると短いものだった。二本のの内の片方は真っ直ぐ反りが無い、もう片方は僅かに湾曲している。
「今の時代に剣なんてどういう用途で使うんですか?」
レビーが尋ねるがハルドは秘密と言って明かさなかった。どうせロクなことには使わないだろうとレビーは思い、とりあえずハルドらへの用事は全部済ませたので他の仕事へ向かうことにした。
ハルドはというと、二本の剣の鞘をベルトに差して、二本の剣を一息に抜いて見せる。片方は両刃の直剣だが、片方は片刃の僅かに湾曲した剣である。
ハルドは両方を適当に振り回してみると、両刃の方を鞘に納め、セインに投げ渡した。
「そっちはいいや」
ハルドはそれだけしか言わなかった。くれるとも何とも言わず、その後もいらないと言うだけでやるとは一言も言わないのだ。
セインとしてはどうしようもなく、その後、その剣は、とりあえず部屋に飾っておくだけに留めておいた。
セインの訓練の日々は続く、ある日は急に虎先生と組手ということになった。
気づくと虎(フー)は虎先生と呼ばれるようになっていた。理由は誰も知らないが、用心棒だからだそうだ。
本格的な組手と言うのもセインは初めてだった。ハルドと訓練する時、ハルドは、はたくか小突くか、転ばせるかでセインにダメージがいかないようにしていた。
「ワタシ、ウツ、ケル、イイナ?」
はい。としかセインは言えなかった。
その直後、セインの人生で最大の衝撃が腹部を襲った。何をされたかも分からない。動きが速すぎて理解が追い付かない。
「おら、立て、ヘタれるな!」
ハルドが外野から言っているが、これは無理だとセインは思った。というかこのまま死ぬと思った。口から内蔵が全部出そうだった。

 
 

「キョウ、モウ、ムリダ」
言うと虎先生は自分の鍛錬に戻った。セインはしばらくの間、地面をのたうちまわっていた。
翌日も虎先生との組手だった。セインはとにかく憂鬱だった。またアレをくらうのかと思った。だが、違った。今度は気づいたらセインの意識は飛んでいた。意識を取り戻すと、腹は痛くないが頭がクラクラした。
「虎先生、趣旨が違う。痛い思いをしてもヘタレない根性をつけさせるためなんだから、意識を飛ばしちゃ駄目だ」
ハルドは虎先生に文句をつけているのをセインは見た。そういうことかとセインは理解した。するとふつふつと怒りが湧いてきたハルドへの。
「僕はハルドさんと組手でいいんですけど」
まだ、頭がクラクラするがセインは立ち上がった。一発ぶん殴ってやる。そんな闘争心がセインを支配していた。
「お、いい感じだな」
ハルドは別に構わないといった感じで、上着を脱ぎもしない。なめられているのだとセインは思った。
「だぁぁぁ!」
セインはハルドに殴りかかる。がカウンターで先に顔面を殴られ、セインのパンチは空振りする。
だが、セインは負けずにハルドに掴みかかろうとするが、逆に服を掴まれ投げ飛ばされる。受け身を取ったからそこまでダメージは無い。
セインはひるまずハルドに向かっていく。しかし、ジャブで顔面を殴られ、セインはふらつく。それをもう一発、二発とジャブを重ね、そしてハルドはローキックをセインの太ももに打ち込む。
打たれることに慣れてないセインの太ももはそれ一発で限界であり、足が、がくがくとなり崩れ落ちそうになるが、セインはハルドの上着を掴み、必死で立っていた。
「もういいよ。合格だ」
ハルドはそう言って、防御もせずにセインのパンチを受けてやった。そのパンチを放つところまでがセインの限界だった。
セインはハルドの上着を離し、地面に倒れこむ。顔面を何発か殴ったから明日のセインの顔は酷いことになるぞとハルドは思う。
「チョウド、ヨシ、ナカナオリ」
虎先生が横から急に言い出し、そうかとハルドは思いだした。セインはまだミシィと険悪な関係なのだった。
腫れたセインの顔を見ればミシィも態度を軟化させるだろう。
しかし、翌日、王家邸での朝食時、腫れたセインの顔を見てもミシィは心配そうな顔を見せるだけで、声まではかけなかった。
「意地になった女はめんどくせぇんだよなぁ」
その光景を見てハルドが言うとアッシュは意外といった感じでいうのだった。
「お前に男女の関係についての知識があるのは少し意外だな」
ハルドは、まぁ人生色々なもんでな。そう言うだけで、アッシュの言葉は適当に流したのだった。そして、その話は終わりである。
とりあえずハルドとセインは今日も訓練であった。王家邸の傍の草原の上にハルドとセインは立つ。
「今日から第2段階ってことで……な」
言いながらハルドはセインに、木の棒を投げ渡す。
「とにかく剣戦の感覚を知っておくといいぞ。ビームサーベル戦になった時有利になるから」
そう言いながら、ハルドはセインに木の棒で軽く打ち込んだ。セインは反応し、自分の手にある棒で防いだ。棒と棒がぶつかり、鍔迫り合いの体勢になる。
「これに、反応できてるってことは、少しは反応速度が上がったってことだ」
言いながら、ハルドはトンとセインの腹を蹴った。というか押した。ダメージは無いが、勢いに負けてセインは尻餅をつく。
「密着すると、こうやって足を出す奴がいる。まぁ、現状お前じゃ回避は無理だから、リカバリーを速く、とにかく体勢を元に戻すことを最重要視しろ」
ハルドは説明をしながらも、尻餅をついたままのセインに棒で殴りかかる。セインはみっともないが、転がるようにして逃げ、そのまま這いつくばった姿勢で急いでハルドから離れる。

 
 

「そういう感じでいい。中途半端な距離が一番危ないからな」
言うとハルドは棒を左手に持ち替える。
「ま、俺らがMSに乗ってるときはだいたい右手にはライフル持ってるから、サーベルは左手で使うわな」
ハルドは左手の棒を軽く振り回した。
「まぁ、筋力的な問題もあるから、生身の時は、お前に俺と同じことは求めねぇけど、そういうことも頭に入れておけ、というわけで。今日は棒で殴り合いという訓練だから」
そう言うとハルドが動き出す。対してセインは防御の姿勢を取るのだった。そして十数分後。滅多打ちにされた、セインが地面に転がっていた。
「殴り合いよりはセンスを感じるよ」
ハルドにそう言われても全くうれしく感じないのはなぜだろうとセインは思った。とにかく全身がすさまじく痛い。正直、立てないほどだ。
「とにかく、数日はこの訓練だ。痛い思いをすりゃ上達も早い。目標は……特にないな。俺が止めって言ったら止めだ」
そう言うと、ハルドは地面に倒れたままのセインを置き去りにし、自分は帰った。
冷たいようにも見えるがハルドも色々と気を使ったのだ。訓練中に、訓練を覗いている人間の気配を感じたからだ。こういう場合、覗くような人物は1人しかいないのだから、いつまでも自分がいては邪魔になるとハルドは思ったのだった。
そして、セインが全身の苦痛に苛まれている時、その人物は出てきた。
「大丈夫?」
現れたのはミシィである。訓練中から、ずっとセインの様子を伺っていたのだ。
セインの頭のそばにしゃがみ込み、セインの顔を上から覗き込むミシィの顔は心配を通り越して泣きそうだった。
「ねぇ、もうやめようよ。殺されちゃうよ」
ミシィの目頭には涙が溜まっている。あ、泣くだろうなとセインはぼんやりと思った。ダメージでイマイチ頭が働かないため、セインは素直な気持ちを言うことが出来た。
「強くなりたいんだ……」
それしかセインは思いつかなかった。
「あの人みたいに強くて自由で、誰にも負けない人間になるんだ……」
一番最初にあの人――ハルド・グレンを見たのはいつだろうか、ずいぶん昔のように思える。そうだ、あの人は大男を一撃で殴り倒していた。
そして、そのあとも自分勝手なことを言うし、自由気ままに見えるが、強いということだけはセインはわかった。
「ああなるんだ。そのためだったら、なんだって……」
そう言った瞬間、ミシィは泣きながら、セインの手を握る。
「そんなのセインらしくないよ!」
ミシィの知っているセインは。無茶はやるけど臆病だから途中で考え直す。強がって見せる癖に弱虫ですぐに逃げ出すような情けない男。だけど優しいのだ。それにまだまだ上手くいかないけれど皆の心配をするようなところだってある。
「駄目だよ、セインはあの人とは違うんだから!」
ミシィがハルドに対して悪意を抱いているわけではない。ただ、人間としてのタイプが違うと思うのだ。大多数の人間は協力して生きていくミシィは自分もそうだし、セインもそうだと思う。身近な大人ではアッシュなんかもそうだとミシィは思う。
だが、ハルドは違うとミシィは感じていた。1人でも生きていける人間だという風に感じた。どんな問題があっても自分の才覚、能力だけで切り抜けられるような天才的な人間、ミシィはハルドをそんなタイプだと思っていた。

 
 

「もう、あの人になろうとするのは止めてよ……私を心配させないでよ……」
強制収容所へ潜入したことだって、ハルドの影響だとミシィは思っていた。セインはハルドにどんどんと影響されていっているとミシィは思った。このままでは、どんな無茶をして命を落とすか分からない。
「私たち二人だけなんだよ、お互いを分かるのは……」
「違うよ、みんな仲間だ。みんな互いを理解している」
セインは言うが、違う。そうではないのだとミシィは大声で叫びたかった。互いの境遇、お互いに起こった不幸を理解しているのは自分とセインの二人だけだと言いたかった。
だが、セインはもう過去の不幸を忘れようとしていた。もう不幸はどうでも良い、戦うための仲間同士で理解ができてれば良い、そういうことなのだろうとミシィは察した。
「どうしてそうなっちゃうの、私はただセインと一緒に平和に……」
そこまで言って、ミシィは思いついた。この場所がいけないのだと、クランマイヤー王国はいいところだが、セインを戦いに引き込むものが多すぎる。
もう充分だ。平和は堪能した。ミシィはセインに言う。
「ねぇ、二人で地球に行こうよ」
地球に行ったところで、すぐに軍隊に入れるわけでもない。軍に入れるようになるまでの間にセインも心変わりし、平和な日常を望むかもしれない。
「いや、僕はもう地球には行かないよ。ここで戦う」
ミシィの期待は完全に打ち砕かれた。やはり、クランマイヤー王国はセインを戦いに引き込む場所になってしまっていたのだった。
「ミシィが地球に行きたいというなら、僕は止めないけど。ミシィにはここにいて欲しいな。僕の大切な人だから」
ホントに大切だった自分の言うことを聞いて欲しかった。だけど、どうしようもないのだとミシィは理解してしまった。涙があふれ、止めようがなく、セインを身体を起こし、その身体に抱き付く。
「もういいよ……」
ミシィは言う。ミシィにとってもセインは大切な人だからだ。大切、その意味はいくつもあり、全てを言い表せない。
「許してあげる。けど、これからは私に何も言わずに危ないことはしないで……」
ミシィは思う。セインは何を許してもらったのか分かってないし、多分、これからも自分に何も言わず無茶をするだろうということを、それでも許すのだ。自分に出来ることはそれしかないと思って。
「ありがとう」
セインは良く分かってなかった。けれど、ミシィが許してくれたならそれで充分だと思った。なぜなら大切な幼馴染だからだ。
こんなにも自分を心配してくれる幼馴染を大切にしないわけにはいかない。必ず守って見せるとセインは心に誓うのだった。

 
 

「ホントに駄目だなアイツは」
「アア、ダメダナ」
ハルドと虎先生は完全に気配を消した状態で二人の成り行きを見守っていたのだが、正直、呆れた。
「なんで好意に気づかないかな……」
「ワカイ、レンアイ、キヅク、ムズカシイ」
ハルドだったら、あそこまで好感度が高まっていたら、いろんな行為に及ぶというのに。そのためにも、訓練を終えた後、さっさと消えたというのに。
「せめてキスは……」
と言いかけて、ハルドはなんともいえない顔になっていた。
「ドウシタ?」
虎先生が心配して尋ねるが、ハルドは急に笑い始め、答えを返す。
「いや、俺も似たようなもんだったと思いだしてな。両思いだった癖に何もしなかったよ」
「ソレハ、マタ」
大切すぎて手が出せなかったのだ。ハルドが思い出すのは白銀の髪の少女。自分の命を捨て、世界を捨ててもいいと思った少女だ。
「ただ、まぁ、お互いに色々溜まってたみたいで、始まったら凄かったよ」
これ以上は、昼間に言うのは無理な話だ。酒を飲みながらでもハルドは絶対に話したくない話だ。別に悪い思い出ではない。それどころか良い思い出だが、話したい話ではない。
「ま、帰りましょう。虎先生」
ハルドはそう言うと虎先生の肩を組み歩き出した。
「ま、仲直りができたってだけで、今日は大収穫ということにしときましょうや」
ハルドは笑いながら、さっさとその場を去るのだった。急に肩を組まれ戸惑った様子の虎先生を伴って。

 

ある日の夜である。真面目な話となった。揃っているメンバーはハルド、アッシュ、ユイ・カトー、レビー・シカードにマクバレルである。
「一応、相談しておきたいことがある」
メンバーを集めたのはアッシュである。
「クランマイヤー王国の防衛についての話しだ」
多少は真面目に言ったつもりだが、メンバーに緊張感は感じられない。まぁ仕方ないと思いアッシュは続ける。
「色々と調べて分かったが、このコロニーにはある程度の耐弾性がある」
そう言うとすぐに手が挙がる。挙げたのはレビーであった。
「ビーム、実弾両方ですか?あと、耐えられる程度が知りたいですね。現行機のビームライフルの連射数十発に耐えられるなら、こっちの心配は解決ですが」
早速、突っ込んできたなとアッシュは思った。それにしても、ちゃんと手を挙げて発言するのは良いことだと思った。アッシュはハルドをチラリと見る。
「俺の部隊では手を挙げないで発言する奴は、肩を潰した上で、ずっと腕が上を向くっていう刑に処していたから」
聞かなければ良かったとアッシュは思いながら、レビーの質問に答える。
「それに関しては実験した結果、レビーさんの考えるほどの強度は有していないとわかった。ただ、コロニーに穴が開いても自動修復システムがあるので、極端に大きな被害にはなりにくいと思う。ただ、問題が……」
「陽電子砲とかの要塞兵器に対する対策だろ」
ハルドは手を挙げずに言った。過去に部下には手を挙げることを強制していたが自分は違うらしい。
すると、意外なことにマクバレルが手を挙げた。アッシュとしてはMS以外、興味のない男だと思っていたが。

 
 

「それに関しては対策用の装甲板を私は作れるぞ」
こともなげにマクバレルは言うが、驚愕の技術である。理論上、陽電子砲を防ぐことは不可能に近いのだが、マクバレルはたいしたことではないという様子だった。
「MSにつけられるサイズに収まらないので、放っておいた研究成果だ」
瞬間、アッシュは聞くべきことを考えた。マクバレルの隣ではレビーがなんでそんなものを黙っていたのか首をゆすっている。
「装甲板を防壁に加工は可能かな。コロニー全体を覆うのは無理にしても砲の直撃を防ぐようにコロニーの周りに浮かせることは」
アッシュが真剣なまなざしで聞くと、何をそんなに真剣になっているのか不思議な様子でマクバレルは言う。
「全体は無理だが、バリケードとなるようにするのは可能だ。サイズは大きくせざるをおえない」
製造が可能となると、出番はユイ・カトーになる。
「1つおいくらぐらいかかります?」
クランマイヤー王国の金庫番となった女は遠慮なく聞く、するとマクバレルの出した装甲板一枚の価格は――
「悪くない額ですね。この額なら大量生産も可能だと思います」
そう言われてアッシュは、ほっとした。後はその装甲板の配置であるサイズが大きいのは問題ではなく、この状況ではむしろ長所だ。
若干、アッシュが喜びを覚えているとハルドが急に手を挙げた。
「条約は守れているか?」
技術開発に関するアプリリウス条約に関することだ。アッシュは忘れていたが。マクバレルは平気な顔で言う。
「別に既存技術の応用だから問題はないぞ。大学の教授連中は世紀の発見と大騒ぎしていたが」
マクバレルの答えに安心するアッシュだった。とにもかくにもこれで、防衛に関しては何とかなるかもしれないという希望が見えてきた。しかし、議題となるものは他にもある。
アッシュは次の話題を口に出した。
「防衛組織の設立だが」
そう言った瞬間にハルドが手を挙げ、言う。
「常備軍は無しだ」
同時にユイ・カトーも手を挙げ、言う。
「常備軍は無理です」
これに関してはアッシュもだいたい同じ意見だ。クランマイヤー王国で常備軍は無理である。
単純に説明すれば常備軍は常に存在している軍隊であり、そこに在籍するのは軍人だけをやって給料をもらっている人間となる。例としてクライン公国軍や地球連合軍は常備軍と言える。
そして、クランマイヤー王国がそれを行うのが無理なのは、ユイ・カトーが説明する。
「労働人口を減らせないんですよ。この国は!規模の割に人口が少ないんです。人を軍に取られたら産業が成り立たなくなって、軍がどうこうよりも国が崩壊しますよ」
それはアッシュも理解している。だから無理だと思っているのだ。しかし、人的資源は、国民だけではない。アッシュはハルドに尋ねる。
「収容所から解放してきた人々はどうだ?」
確か、元軍人やコロニーの警備隊出身のものもいたはずと思いハルドを見たが、ハルドは首を横に振る。
「使えそうななのは僅か、ほとんどがゴロツキだ。これを訓練してどうこうもな」
ハルドの口は重い。そして、ユイ・カトーが言うのだった。
「ぶっちゃけ、軍人を楽に養うってほど財政状況がよくないんですよ。考えてください。軍人が生産的なことをしますか?しないでしょう。
基本タダ飯食らいなんですよ。なんでタダ飯食いに金を払わなきゃいけないのか!ってのが私の本音です。つーか国の本音です。
実際、この国の財政状況は悪くないですよ!それは今までの通りやって来たからで、急に何かに公的な資金を大規模注入すると、この国の財政はぶっ壊れます!軍なんか金食うだけで、お金を生み出さないんですから、特に最悪です」
クランマイヤー王国の金庫番は本音を全部ぶちまけた。
アッシュらは、うん、わかった。と言うしかなかった。そんな中、ハルドは言う。

 
 

「常備軍は無理でも、義勇兵か民兵だな」
ハルドはアッシュが思っていたことを言ってくれた。
「とにかく、この国の国民の若い奴に軍事教練を施す。それしかないだろ」
国民皆兵かぁ……しかたないとはいえアッシュは精神的に抵抗がある。もともと学徒動員などにも抵抗があるタイプなので、こういう方向性の軍事は苦手だった。
「まぁ、最初はあまり本格的にやらず。遊び程度に行おうと思う。虎先生のところに集まる人も増えているし、それを利用しようと思う」
アッシュは姑息な手かとも思ったが、そうするしかないと思った。
何故か朝、虎(フー)が型の鍛錬している所に人が集まっていた。最初は姫とヴィクトリオが虎の真似をしていただけだったが、気づくと、年寄りが健康のための運動と勘違いし、段々と人が増え、今ではクランマイヤー王国の国民の朝の日課となっていた。
虎は気づくと、虎先生と呼ばれており、クランマイヤー王国の人々から尊敬を集める身となっていた。
アッシュはそこで、適当な若者を見つけ、訓練を施し民兵に仕立て上げようとしていたのだった。姑息だが、現状、兵力を用意するには、それしかなかったのだった。
とりあえず、夜の話し合いはそれで終了だった。他に特に話すこともない。皆、それぞれに帰って行った。
気づくと残るのは、ハルドとアッシュである。そうなると恒例のアレである。

 

いつものように二人は酒を酌み交わす。
二人ともウィスキーを飲んでいた。
「知ってるか?俺らが飲んでる酒は、全部、このコロニー産なんだぜ」
ハルドはウィスキーをショットグラスで飲んでいた。さっさと酔えるからこの方が良いという理由だ。
アッシュはウィスキーをロックで飲む。氷が解け時間と共に変わる味を楽しむのだ。
「僕は昔は酒は良くないものだとばかり思っていたが、いざ飲む立場となるとな」
グラスの中の輝く液体を口に含み、アッシュは言うのだった。
「まぁ冗談だと思ってほしいが、そんなにこの国のために頑張れるか?」
アッシュはハルドの目を見ず、グラスの中の氷を転がしなら言うのだった。
「無理かなぁ」
ハルドもアッシュを見ずに酒だけを見ながら言う。
「姫様が可哀想だから、それなりに頑張るが、まぁなんとも真剣にはなれんかなぁ」
そう言うと、アッシュはフフと笑うのだった。
「僕は防衛大臣でキミは勇者だぞ。階級に不満はないだろう」
「軍隊ごっこに階級もないだろ。俺だったらお前に参謀総長で、俺はあれだ元帥だ」
改めて口に出すと笑えてくる、そんな未来があったかもしれないのだ。しかし、ここにいる限りないし、ここを出ても無い。
「そろそろ本音を聞かせてくれ、もうどうでもいいんだろ。だから、さっさと死のうとしている」
アッシュはグラスだけを見ながら言う。

 
 

「そりゃ、もういいさ。疲れた。だけど約束があるから死なないだけだ」
ハルドもアッシュを見ずに酒だけを見ながら言う。
「約束?」
アッシュは尋ねる。深入りしすぎだと思うがそれでも聞いておいたほうが良いと思った。返ってくるハルドの声は思いのほか滑らかだった。
「じじいになるまで生きて欲しいってさ。けど俺は疲れたから、速くアッチへ行きたい。だけど、自殺は出来ない。自殺は彼女の人生への侮辱になる。だから、だれか俺を殺してくれないか待ってる。しかし、必死に生きることをしないことも彼女の人生への侮辱になる」
ハルドはグラスではなく、酒瓶を直接持ち、そこから一気に酒を飲んだ。
「俺は、俺が全力で生きようとしても、それを超えて俺をぶっ殺してくれる奴がいないかを探してるんだよ」
生き急いでいると感じたのはそういうためかとアッシュは思った。終わりにしたくても、終わりに出来る条件が厳しすぎるとアッシュは思った。このハルド・グレンを殺せる人間は――

 

夢を見る。穏やかな夢だ。彼女は笑う。そして無理を言う。夢だからだ。笑って自分は誤魔化した。死を選ぶこともなく、死が決まっても必死で生きた白銀の少女。彼女の元に行きたいと思うが、だれも連れて行ってくれないのだ。
死は選べない。彼女は死を選ぶことは無かったからだ。
死が決まっても必死に生きるしかない。彼女はそうしたからだ。
呪いかもしれないと思った。もう、疲れた、ウンザリだ。
人間の世界はもういい。そっちに連れて行ってくれ、だが、連れて行ってくる人間はいないのだ。ならば、耐え続けるしかないのだろうか。
では、耐えよう。迎えが来るまで。

 
 

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