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GUNDAM EXSEED_B_25

Last-modified: 2015-04-27 (月) 20:45:44

ガルム機兵隊がアフリカを蹂躙していたころ、クランマイヤー王国のハルド達は海賊稼業に勤しんでいた。と言うよりはハルド達が海賊仕事に味を占めていたのだ。
もう私掠船作戦などどうでも良くなっており、ハルド達は純粋に海賊を楽しんでいた。海賊仕事の最中、ハルドは海賊ブラッディ・レイヴンであり、ベンジャミンはキャプテン・ベンジャミン・ドレイク船長である。
今日も今日とて、獲物を探して、宇宙を漂っていた。
「ドレイク船長、前方に地球連合の艦隊があります!」
ブリッジクルーやその他の船員はクランマイヤー王国の若い衆の中から、ろくでなしと呼ばれている連中を集めて、使っていた。
海賊稼業はクランマイヤー王国の公然の秘密となっていた。
「艦は何隻だ?」
ベンジャミンもドレイク船長として、堂に入った物になっていた。もう過去を振り返るということはせずに前向きになっていた。
「輸送艦が1に護衛の巡洋艦が2です」
ベンジャミンは悪い獲物ではないと考えた。自分たちが乗っている輸送艦を改装した亡者の箱舟号では、まともな戦闘は行えないが、代わりに優秀な戦闘要員がいる。
「レイヴン、獲物だ。出てくれ」
通信をMSハンガーにつなぐと、ブラッディ・レイヴンになったハルドから返事が返ってくる。
「くくく、ちょうど獲物を頂きたかったところだ……」
ハルド本人が楽しそうにやっているので、ベンジャミンは特に何も言うことはなかった。
MS隊はすぐに出撃する。ハルドの機体は専用にカスタマイズされた機体、その名もフレイド・ブラッディ・レイヴンである。
今回はセインとジェイコブ、ペテロ、マリア、そして誰だか忘れたがクランマイヤー王国の若い男のパイロットが乗っている機体が出撃しているので、合計で6機のMSだ。
軍艦3席を相手にするには普通ならば、物足りない数だが、海賊ブラッディ・レイヴンなら造作もない仕事だろうとベンジャミンことドレイク船長は思った。

 

「所属不明のMSが接近してきています!」
地球連合の軍艦のブリッジ内は、その報告だけで大騒ぎになった。
「ブラッディ・レイヴンか!?」
艦長が思わず、その名を呼んでしまった。その瞬間、ブリッジ内が静まり返った。
ブラッディ・レイヴンまたの名を血塗れガラス。その名は地球連合でも知れ渡っていた。クライン公国、地球連合どちらの所属かを問わずに襲い掛かる、狂気の怪人。民間人の間でも最近は知られるようになってきている。
敵の血で染めた真っ赤な赤い服に、ただれた顔面を隠すために顔に巻いた包帯も敵の血で真っ赤だという。
「所詮は噂だ。それにまだ確認も取れておらんMS隊、発進!」
艦長の指令に応じて、MS隊が発進し、フォーメーションを組みながら所属不明機に向かっていく。
その直後だった、MS隊の隊長から、恐怖に駆られたような叫びが艦長の元に届いた。
「奴です。ブラッディ・レイヴンです!真っ黒に血塗れの姿、奴だブラッディ・レイヴンだ!畜生!当たらない、一発も当たらないぞ!どうなってる!?なんだ?まて!やめてくれ!やめ――」
「おい、どうした、応答しろ!?」
艦長の叫びも虚しく、発進したMS隊の隊員からの連絡は全て途絶えた。そしてそれと同時に艦長の肉眼も捉えた、黒くそして血に濡れたような赤い色を帯びた機体を。
「海賊ブラッディ・レイヴン参上……」
くぐもった声が通信で艦長の元に届いた。
「なにが海賊だ。ならず者め!艦砲射撃、奴を近づけるな!」
艦長の叫びと同時に巡洋艦は弾幕を張り、ブラッディ・レイヴンを近づけないようにするが、放たれる砲弾はことごとく躱され、ブラッディ・レイヴンを捉えることはできない。

 
 

「くそ、怪物め!」
艦長が悪態をついた瞬間、ブラッディ・レイヴンは巡洋艦のブリッジに張り付いていた。そしてブラッディ・レイヴンはいつものように、胸元のホルスターからビームガンを抜くと、それをブリッジに突きつける。
「さて、賢明な艦長殿。艦砲射撃を止めてもらおうか?」
ブラッディ・レイヴンのくぐもった声が艦長の元に通信を通して届く。
「止めなければ、こちらは手間が省けて楽だが、どうだろうな。艦長殿の周りのクルーはビームで消し飛ばされて死にたいと思っている者たちばかりかな?」
ブラッディ・レイヴン得意の脅しである。艦長はブラッディ・レイヴンの噂を聞いている。言うことを聞いておけば、ブラッディ・レイヴンはむやみな殺生はしない。だが、逆らったら最後、逆らった人間の家族まで探し出して殺すという。
実際、クライン公国ではブラッディ・レイヴンに逆らったために、乗組員全員とその家族全員が殺されたという噂がある。噂であるため確証はないが、そんな噂が出回るほど凶暴な存在だと艦長はブラッディ・レイヴンを認識していた。
「艦砲射撃止め……」
艦長は仕方なし艦砲射撃を止めた。艦長としては軍人としてのキャリアに傷がつくとは思ったがクルーと自分の命そして、もしかしたら家族の命に関わるかもしれないのだから、無謀な選択は出来なかった。
「賢明な判断に感謝するよ」
くぐもった声が聞こえると同時に遠方から髑髏のマークを付けた輸送艦が近づいてくる。
「接舷用意及び、突入準備」
輸送艦は、ブラッディ・レイヴンの活躍により、MS隊の邪魔や艦砲射撃を受けずに、巡洋艦の横に機体をつけることに成功した。
そして艦を横につけたらやることは一つ。接舷と突入だ。海賊船亡者の箱舟号の横から貫通パイルが撃ちだされ、巡洋艦の横腹に突き刺さると同時に、貫通パイルは突入用のトンネルとなる。
そして突入するのは虎(フー)達、肉弾戦闘組である。
虎が突入したのなら安心である。もうブリッジに銃を突きつける必要もないのだが、格好とインパクトの問題でハルドは機体の動きを変えずにブリッジにビームガンを突きつけたままにしていた。
しかし、いつまでもこうしているというのも飽きるし、心配事はハルドにもあった。
「セイン、そっちはどうだ?」
セインとジェイコブ3兄弟はもう一隻の巡洋艦から発進したMS隊の相手をしていた。
「なかなか大変です」
セインは、今回はフレイドに乗っていた。ロウマにプロメテウス機関の話しを聞かされ、そして“ギフト”という訳の分からない技術が使われていると聞いてから何となくブレイズガンダムに乗ることにセインは抵抗を覚えていた。
セインのフレイドがビームガンで相手の機体、地球連合軍の量産機であるグラディアルの肩を貫いた。
「実際、大変だよなセイン。なるべく壊さず、パイロットを殺さないように相手を無力化しろって」
セインに通信で話しかけたのはジェイコブだった。
ジェイコブのフレイドがセインの機体が肩を撃ちぬいたグラディアルに後ろから接近し、細身の刀身を持ちナックルガードの付いたヒートサーベルで、撃ちぬかれたのとは反対側の肩を切り落とす。
「そうだなぁ。ハルドさんみたくはできないよ」
セインはジェイコブに同意するのだった。この海賊仕事を始めてからはジェイコブたち3兄弟とセインは仲良くなった。ジェイコブは2歳年上だが、話しやすく兄のように感じる時があった。
「何事も経験だ。不殺やってりゃ嫌でも、それなりに腕が上がる。不殺はパイロットスキル上げるためだ」
ハルドはセインとジェイコブにそう言うが、そうは言っても殺さずに戦うことはセインとジェイコブの3兄弟にはまだ難しい部分があり、それぞれ何人かパイロットを殺傷している。

 
 

セインは人を殺すことに抵抗はなくなっていた。ジェイコブたち3兄弟は元々、そういう殺人などで悩むタチではなく精神面でもセインよりパイロット向きだった。
「私は輸送艦の推進システム潰してきますね」
マリアが気が付いて機体を動かす。確かに、劣勢と見て地球連合の輸送艦は撤退しようとしていた。マリアは3兄弟の末の妹だが、状況を読む能力は兄たちよりは高かった。
「あんまり派手にやるなよ。推進器周りは誘爆率が高いんだ。中のお宝が傷つくのと人が死ぬのは勘弁だからな」
ハルドはマリアに注意をした。ハルドが人死にを嫌がるのは人道主義に目覚めたわけではなく、人死にが多いと、軍が本気で動き出すし、それに海賊としてスマートさに欠けるからだ。
ハルドの理想としては誰も殺さず、大きく傷をつけることもなくスマートに獲物をかっさらっていくというのが理想だった。
「あ……!あ、大丈夫だったぁ」
ペテロの、のんびりとした声がハルドの耳に届いた。
「ペテロてめぇ!なんかしたな!?」
「いや、してないです。してないです。コックピットに当たりそうだったけど、敵がよけてくれて肩に当たったんです!」
ペテロは必死の弁解をしている。これでもジェイコブたち3兄弟の中ではパイロットとしては1番の腕だった。
ハルドが気づくと、もう一隻の巡洋艦から発進したMS隊も戦闘能力を失っていた。
ジェイコブの機体が艦砲射撃を潜り抜け、ハルドの機体と同じようにビームガンをブリッジに突きつける。すると艦砲射撃は止んだ。マリアの機体も輸送艦の推進システムを破壊すると、ブリッジに銃を突き付けている。
セインとペテロの機体は両手にビームガンを持ち、戦闘能力を失った機体相手に動いたら撃つと、脅しをかけている。
ハルドは手際が良くなったと感心した。特にセインはこの海賊仕事で実戦経験を積むことによってパイロットとしての腕が上がっているし、ジェイコブたち3兄弟も同様に腕を上げた。エースとは言えないが、それなりの成長を遂げたとハルドは思った。
そんなことを考えている内にハルドが抑えている一隻目の巡洋艦では虎が仕事を終えたようだ。虎からの合図がハルドの元に届く。
なので、亡者の箱舟号にくくりつけておいた巡洋艦から発進したMS隊のパイロットを艦内に戻してやり、巡洋艦の乗組員全員と一緒に脱出艇で宇宙に放り出した。
「巡洋艦一隻ゲットと」
ハルドは機体を操り、突きつけていたビームガンをホルスターに納めさせる。
その間も亡者の箱舟号は次の船を制圧するために動いていたし、ハルドにも仕事があった。
ハルドのフレイドが腰のヒートサーベルを抜きながら、セインが動きを抑え込んでいる、グラディアルに近づいた。

 
 

「さて、機体とはオサラバしてもらおうか」
グラディアルのパイロットにブラッディ・レイヴンとして通信を送ると明らかに怯えたような声が返って来たがハルドは無視してコックピットにヒートサーベルを突き刺した。だがパイロットは死んではいない。
ハルドの機体が刺したのは正確にはコックピットではなく、コックピットの真横当たりであり、そこに刃を突き刺したまま、刃を僅かに走らせる。
そうしたら、サーベルをグラディアルから抜き、もう一度刺す。今度もコックピットのすぐそばである。そして刺したまま、また僅かに刃を走らせると、驚いたことにコックピット前の装甲が剥がされ、コックピット内部が露出しパイロットの姿が露わになる。
ハルドのフレイドは露わになったパイロットを指でつまむと、セインの機体にパスした。
これと同様の作業を全ての機体に行い、パイロットは全員回収したことになる。
「あいかわらず、すごいなぁ」
ペテロはハルドの技術に感動していた。機体の損傷を最小限にパイロットだけを取り出すという技術は普通に見ても驚異的だが、ペテロが真に驚くのはハルドがこれを普通の戦闘中でもこなせるということだった。
敵がビームサーベルで切りかかってこようが、何をしようが、ペテロの見た感じではコックピットの辺りをちょちょっと切っただけで、後はパイロットを指でつまんで、終わりという。
信じられない戦い方をハルドはいつもしており、ペテロはハルドを人間ではないと思っていた。実際、ほとんどの人間が見ても信じられない戦い方だが、ハルドにとっては楽な部類の作業であった。
ハルドがパイロットをコックピットから引きずり出す作業をしていると、二隻目の巡洋艦も制圧が完了したようだった。セインがハルドから渡されたパイロットを船に戻し脱出艇で乗組員全員と一緒に宇宙に放流させる。
そして最後は輸送艦である。輸送艦も同じように制圧し、乗組員全員を脱出艇に乗せて宇宙に流す。脱出艇がその後どうなったかハルド達は知らなかったし、興味もなかった。
とにもくにも、これでハルド達は今日の獲物を手にしたわけだ。巡洋艦二隻と輸送艦一隻とその積み荷、そしてMS、傷物もあればそうでないのもあるが12機という大量の成果だった。
「海賊、ブラッディ・レイヴンは今日も絶好調ってな」
ハルドは息苦しくなってきたので、顔に巻いていた包帯を外した。コックピットの中の空気が良いもののわけはないが、だいぶ楽になった。あとはいつも通り獲物を連れて帰るだけだ。
「では、亡者の箱舟号は帰港のために発進する。各自、獲物は忘れるなよ!」
ベンジャミンが号令をかけると亡者の箱舟号の中ではオー!という雄たけびが続いた。クランマイヤー王国の海賊稼業もとい私掠船作戦は順調であった。

 
 

「はー疲れる」
セインは機体を艦に戻し、コックピットから降りるとため息をつきながら、そう言った。最近、自分でもパイロットとしての技量は上がっている感じがするがまだまだであるともセインは思っていた。
「よ、セイン。お疲れ」
ジェイコブもコックピットから降りてきていた。ジェイコブはセインの姿を見つけると近付き肩を組み、ひそひそと話し始める。
「今日も“お宝”は中々らしいぞ」
「ほんとかい?この間もそう言ったけど、最悪だったじゃないか」
セインは眉をひそめてジェイコブに小声で言う。
「なんの話し?」
ペテロも近づいてくるとジェイコブは3人で肩を組んで円陣を組んだ。
「“お宝”だよ。“お宝”俺ら若者にとっての」
「なんだ、それかぁ。俺はいいかなぁ、別に」
ペテロは乗り気ではない。この間の“お宝で”ひどい目にあったからだ。
「一回くらい最悪でも、次は良いかもしれないだろ、挑戦だペテロ」
「そうは言ってもなぁ」
ペテロが乗り気ではない表情であるのと同じように、セインも若干乗り気ではなかった。セインがジェイコブの話しに乗るか悩んでいると、男3人の円陣に対して声がかかる。
「なにやってんの、兄さん?」
声をかけたのはマリアである。セインはなんとなくマリアの方を見ると、ドキッとした、マリアはノーマルスーツをはだけて着ており、上半身はアンダーウェアだけだった。アンダーウェアだけだと身体のラインが丸分かりになりセインはそれにドキドキしたのだ。
「また下らないメモリー漁りの相談?趣味悪いからやめた方が良いと思うよ」
マリアはそれだけ言うと、去って行った。
「うるさい。メモリー漁りは俺たちの楽しみなんだ。他人が残してったメモリーファイルの中身を覗いて何が悪い。そしてその中のエロ画像やエロ動画を鑑賞して何が悪いんだ!」
ジェイコブはマリアに怒鳴るが、マリアはクールに返す。
「そのセリフ、父さんとかの前でも言える?」
そう言い返されるとジェイコブは弱り、縮こまるしかなかった。そんなジェイコブのことは気にならず、セインはマリアのことばかり考えていた。なんというか、最近ドキドキするぞ、と。
先ほども通り過ぎていった時の汗の匂いとそれに混じったシャンプーの匂いにドキドキした。アンダーウェアの件も変だとセインは思った。
少し前に水着姿のマリアを見ているのにもかかわらず、それより露出が低いはずのアンダーウェアのマリアに何故か今日はドキドキしてしまった
マリアは小麦色の肌にショートカットの健康的な見た目の少女である。セインはそういうタイプが好みだったかというと、また違ったはずだが、なぜだかマリアを見るとドキドキする回数が増えた。
そしてドキドキすると同時に胸にチクリとした罪悪感の痛みが走るのだ。その時、頭に思い浮かぶのはミシィの顔であり、セインとしては何が何だか分からなかった。ミシィは只の幼馴染だぞ。と思うがドキドキと同時の罪悪感を覚えた時は必ずミシィの顔が浮かんだ。
ああ、もう自分はどうしてしまったのだろうか、セインは1人で悶々とするしかなかった。
ペテロは弱気になっている兄と、悶々としている態度が表に出ているセインを見て、この2人は大変そうなぁと、人生に全く悩みの無いペテロは思うのだった。
そんな若者たちを乗せ、海賊船は今日も無事に獲物と共にクランマイヤー王国に帰って来たのだった。

 
 

ロウマ・アンドーは、ロウマにとって下らなく、意味のない話しを延々と聞かされていた。目の前にいるのはクライン公国の公王エミル・クラインであるが、ロウマはそんなことはどうでも良かった。
エミル・クラインから急な呼び出しがあったと思って、アフリカから急いでアレクサンダリアに帰ってきて、その上で公王の宮殿に来てみれば、お茶会と下らない話しである。ロウマは、エミル・クラインを殺してやろうかと思ったが、我慢していた。
「――それで、最近は、海賊が現れるという話しですの。ブラッディ・レイヴンという名前で、もう何千人も罪なき人々を手にかけているという噂を聞きましたわ」
ロウマとしてはそれが、どうしたという感じだった。お前は直接、手を下していないが何千人じゃ済まない数の人間を苦しめているぞ。と言ってやりたかったが我慢した。
エミル・クラインは客観的に見れば美しい容姿の部類に入る、ピンクの髪も容姿も、あのラクス・クラインにそっくりだと言われているが、ロウマは見た目で判断するタイプではないので、エミル・クラインの能力を客観的に見ることが出来た。
ロウマの見立てでは、エミル・クラインは、レジ打ちのパートをやっているのがお似合の能力だと思っていた。
そう思って心の中では馬鹿にしているが、肩書が公王なので、そんなバカ女にも従わなければいけない。屈辱は慣れており我慢はできるが、限界はある。ロウマは限界が来る前にさっさと、このピンク髪のバカ女の話しが終わらないかと思っていた。
「海賊なんて怖い時代ですわね。わたくし、怖くて夜も眠れませんわ……」
そうエミル・クラインが言うと、脇からそっとエミル・クラインの手を握る存在がいた。
「大丈夫だよ。キミのことは僕が守るから心配いらないよ」
エミル・クラインの手を握るのは男である。茶色の髪をした穏やかな顔の男。
「ユリアス殿がいれば安心でしょう」
ロウマは適当にそう言った。言ったものの誰の耳にも入ってないだろうと思ったが。
茶会に参加しているのは、ロウマ、エミル・クライン、そしてユリアスという男だけだが、今は、エミルとユリアスはお互い手を握り見つめ合い二人だけの世界に入っている。
ロウマは改めてユリアスを見た。名前と階級を合わせるとユリアス・ヒビキ近衛騎士長。聖クライン騎士団でも特別な存在である、近衛騎士その長。そしてロウマが知っている範囲では世界最強のMSパイロットだ。
そして、エミル・クライン公王陛下とは相思相愛の関係である。だが、ロウマからすればユリアスがマトモに恋愛など、ちゃんちゃら可笑しかった。
「海賊のことはアンドー大佐にお願いするのはどうだろう?」
ユリアスは全く悪気なく言った。ユリアスと言う男も、エミルもだが、この2人には悪意というものが無い。基本的に鈍感で頭が悪いから、人の気持ちや悪意にまで気が回らないのだ。
「それはいいですわね。きっと、アンドー大佐なら、解決してくれますわ!」
エミルは、はしゃぎながらユリアスの手を握っている。
ロウマとしては断りたかった。さっさとアフリカに戻って片付けないといけない仕事があるのだと言いたかった。

 
 

「騎士団の方には、わたくしの方からお話しをしておきますので、海賊討伐の件、お願いしますわ」
お願いすると言っている割には頭の1つも下げない。この傲慢さがロウマは嫌だった。そして、どうせこのバカ女は、連絡するのを忘れるだろう。しかし、なぜか任務の指令はきちんと下される。
ユリアスが気を回して、騎士団に連絡するからだ。その連絡も不備が多いので、ロウマはこの2人からの頼みごとの際は、常に本来必要とされる量以上の仕事をしなければならない。もう、ウンザリだったが、公王陛下の頼みなら受けなければいけない。
なんのコネもなかったロウマが20代で大佐という地位に登りつめることができたのも、この公王と懇意にしているからだ。最大限に利用するためには、我慢するべき時は我慢しなければならない。ロウマはそんな心境に至っていた。
「それでは、アンドー大佐。頼むよ」
ユリアスがにこやかに言う。ロウマはこちらのことを無意識に下に見ているなとユリアスの笑みから察した。馬鹿にしやがって。幼い時に捨てたはずの言葉が蘇って来る気がした。
「ええ、公王陛下からのご依頼、謹んでお受けします」
ロウマは座ったまま一礼をして言った。依頼された方が頭を下げるというのも変な話だと思った。
そしてロウマはアフリカのこと考えた。アフリカに戻るのは遅くなるだろうが、人員は遅れるだけ送る準備はしているし、イザラも上手くやるだろうから心配はないと考えた。そして、騎士団の本部で海賊討伐の件を説明しなければならない、これが一番面倒である。
「では、私は海賊討伐に向かいますので、この場は失礼させていただきます。またの機会がありましたら、その時もお誘いください」
ロウマはそれだけ言って、席を立った。
「残念ですわ、アンドー大佐とはもっとお話しをしたかったのに……」
俺は話したくないよバカ女、とロウマは思った。
「仕方ないよ、アンドー大佐は任務なんだ。キミの寂しさは僕が埋めるよ……」
気持ち悪い男だとロウマはユリアスのセリフを聞いて思った。そしてそのセリフにときめくエミル・クラインの頭の悪さも相当だと思った。
ロウマはいい加減、この2人の顔を見たくなかったのでさっさとこの場から失礼することにした。
「それでは失礼します」
ロウマは椅子から立ち、一礼をすると、その場から立ち去った。ユリアスとエミルはロウマが去った後も、のんびりと2人だけのお茶会を楽しむのだった。

 

「しかし、ユリアスも邪魔になってきたな」
ロウマは気配で周囲に誰もいないと分かっていたので、独り言を言いながら歩いていた。本当にイライラしている時、ロウマは独り言を言いたくなるのだった。
「消すわけにいかないし、ああ面倒だ」
そもそも、あそこまでエミル・クラインと懇ろになるとはロウマの計算違いであったのである。男女の仲というのは予測できないものだとロウマはつくづく思った。
そもそも、ユリアスは気づいているだろうか、自分がマトモな人間でないことに、そう考えてロウマは我ながらバカなことを考えると思った。気づくはずはない。ユリアスの出生について知っているのはプロメテウス機関の人間だけだ。
別に隠すほどたいしたものでもない。ユリアスがキラ・ヤマトという伝説的存在の遺伝子をベースに他の優秀なパイロットの遺伝子データを組み込んで作られた合成人間だということ。

 
 

そして誕生の際にさらにスーパーコーディネーターというカビの生えたような技術も使って能力を限界まで向上させた存在であること。成長を促進させて、10代後半の状態で産まれたこと。記憶は全部、偽物であること。
別にどれもたいしたことではないが、本人にばれれば簡単に精神崩壊するだろうなぁとロウマは思った。できれば、それを言う機会が欲しいと思った。
最近のユリアスは調子に乗りすぎである。作り物の分際で度が過ぎているとロウマは思っていたが、現状、利用価値があるため処分することができないのが歯がゆかった。
本人は作り物だと気づいていないから調子に乗っているが、自分が作り物だと知ったら、どんな反応をするのだろうか、そんなことを考えながらロウマは歩いていた。目的地は聖クライン騎士団の本部である。
ロウマはそこを目指して歩いていたが、公王の宮殿を出た直後に嫌な奴に出会った。
「今日も公王陛下におべっかを言いに来るとは忙しい身だな。アンドー大佐」
出会った相手はシーラ・カーンズ准将であった。聖クライン騎士団でも上層部に属する人間であり、ロウマを徹底的に嫌っている人間だった。
「申し訳ありません。准将閣下、今は任務を受けたばかりで忙しいため、お話しはご遠慮させていただきます」
ロウマは一応、階級が上の相手には敬意があるように見せていた。本心では馬鹿にしていたが。
「蛇が忙しいか。また悪巧みか?いい加減にしなければ、私もその長い舌を引っこ抜く羽目になるな」
シーラは堂々とした女性だった。女だてらに戦場で武勲をあげ、階級があがってからは政治的な駆け引きでも優秀であり、なおかつ清廉潔白な人格を評価されている騎士団としては文句のない人材であった。
「いやいや、悪巧みなんてそんな……」
ロウマは卑屈な笑みを浮かべながらペコペコとしていた。ロウマはこういう態度を取ることに抵抗は無かった。
「まぁいい、貴様の存在が騎士団いや、騎士団のみならず公国全体の毒になっていることは察しがついている。直にその身に裁きが下る。それまで好きにしていろ」
ロウマは何も言わず頭を下げていた。だが、最後にロウマが黙っていられない一言が聞こえた。
「田舎者で成り上がり者か、汚い手を使わなければ、美談にもなったろうが、残念だよ。貴様の存在は」
ロウマは頭を上げなかった。頭を下げたまま、シーラが去って行くのを待った。顔を上げなかったのは礼儀からではない、この時、ロウマはとても人に見せられないような凶悪な表情になっていたからだ。
「俺を田舎者と、成り上がり者と言ったな……」
ロウマは肩を震わせていた。
「殺す。絶対に殺す」
エミル・クラインの茶会から溜まっていたストレスがロウマにとっての禁句を聞かされたことによって爆発した。
この瞬間、ロウマ・アンドーは絶対にシーラ・カーンズを殺すと心に決めた。

 

ロウマの行動は迅速だった。敵と決めた以上は敵が何を知ろうとしているのか知る必要がある。ロウマは騎士団内のツテを使い情報を集めた。その結果、シーラ・カーンズは明らかに自分を追い落とそうという意思があるとロウマには感じられた。
ロウマが関与している使途不明金の行方や、ロウマが行った残虐な私刑、政治家への賄賂疑惑など、シーラはロウマの悪事を事細かに調べ挙げているとロウマは知った。
そして極めつけは北アフリカの制圧作戦にロウマを推薦したのがシーラ・カーンズということだ。ロウマはだいたいシーラの狙いが読めた。ロウマがアレクサンダリアにいては、ロウマは悪事をもみ消すだろうとシーラは考えた。
だからロウマをアフリカへ送り、その間にことを進め、ロウマの悪事を暴露しようという考えなのだろう。だが、シーラの思い通りにはいかなかった。

 
 

結果的にあの下らない茶会が救いとなってロウマは悪事をもみ消す時間を得ることができたのだ。たまにはエミル・クラインの馬鹿さ加減にも感謝すべきだとロウマは思った。
さて、だいたいの事情が分かったところでロウマはどうするかを考えようと思ったが、考えるまでもなかった。
「殺すか」
最初からそう決めていたのだ。別に難しいことではない。シーラ・カーンズなど簡単に殺せる。そう思いロウマは準備を始めた。と言ってもたいしたものではない。
ただ私服に着替え、消音機をつけた拳銃を懐に忍ばせておくだけだ。シーラ・カーンズの家の住所は分かっているし、家族構成も分かっているので問題はない。
ロウマはやることを決めたら、さっさと騎士団本部から出ていった。向かう先はシーラ・カーンズの家である。

 

夕方、シーラ・カーンズは自分のオフィスでデスクワークに没頭していた。彼女が没頭していたのはロウマ・アンドーの悪事を暴露するための準備である。ロウマ・アンドーが帰国していたのは予想外だったため、急がなければいけないとシーラは思っていた。
ロウマ・アンドーという男は危険な男である。今の騎士団がこうなってしまったことも、公国がこうなってしまったのもロウマ・アンドーの画策であるとシーラは分かっていた。だからこそロウマを排除しなければならない。
ロウマを排除すれば、元の公国に戻るそんな思いがシーラにはあった。そのためにはロウマが行ってきた悪事を明るみに出して奴を失脚させなければいけないシーラは正義感と義務感に突き動かされ、行動していた。
デスクワーク中、シーラは不意に時計を見る。時計の針は16時30分を指していた。ああ、こんな時間かとシーラは一息つくことにした。ロウマのことは重大事だが、それと同じ重大事がシーラにはある。それは息子のことだ。
この世で一番大切な存在である息子。16時台は息子に連絡をする時間だ。今日は遅くなるや早く帰れるなどを伝える時間だ。この時間がシーラにとっては心休まる瞬間でもある。シーラは電話を手に取り、家に電話をした。すぐに出るだろう。いつもそうだ。
「はい、カーンズです」
うん、よく言えました。シーラは息子の声を聞いた瞬間に顔がほころんだ。4歳になる息子でまだ、言葉はたどたどしい部分があるが、それも可愛げの一部だ。
「お母さんだけど。元気?」
「うん。元気」
「そうよかったわ。今日はちょっと遅くなるから、ベビーシッターの人に夕ご飯を作ってもらって」
「うん。わかった、今日はいつもと違う人だけど、凄く面白いんだよ」
いつもと違う人?シーラは怪訝に思った。自分には何も連絡が無い。普通、人を交代させるなら連絡があってしかるべきだが。
「ねぇ、わるいんだけど。お母さん、ベビーシッターの人と話したいんだけど変わってくれる?」
「うん、いいよ……」
なぜだろうかシーラは嫌な予感がした。
「はい、代理のベビーシッターです」
その声を聞いた瞬間、シーラの顔から血の気がサーッと引いた。
「ロウマ・アンドー……?」
「はい、そうです。良くご存じで」
シーラは訳が分からなかった、何故ロウマが自分の家にいるのか。だが、何にしてもいっておかなければならないことがある。

 
 

「私の息子に手を出したら、タダではおかん!」
「何を言っているのやら、私はベビーシッターですよ。子どもに手をだすわけないじゃないですか」
ふざけるな、クソ野郎!シーラはそう叫びたかった。だが、相手を刺激してはいけないと自制した。
「そこを動くんじゃない、くれぐれも言っておくが、私の子どもに手を出したら殺してやる!」
「では、気をつけますよ」
電話は向こうから切られた。シーラは混乱していたが、とにかく早く家に帰らなければいけないと思い、デスクをそのままに、急いで家に帰った。
自宅の玄関に到着するとシーラは一旦冷静になることにした。そして武器として、拳銃を取り出し、ゆっくりと玄関のドアを開けた。シーラは一歩一歩慎重に歩き、ロウマと息子の存在を探す。だが、探すまでも無かった。
「これ、美味しいね」
「うん、お兄さんの得意料理だからね」
ダイニングから息子とロウマの声がした。シーラは急ぎ自分の家のダイニングへと向かった。
「そこまでだ!」
シーラは銃を構えた。銃は表彰もされたことのある腕前だ。決してロウマに後れを取るとは思わなかった。だが、シーラが銃を構えた瞬間、ロウマがシーラの銃を撃った。衝撃でシーラの銃は弾き飛ばされる。慌ててその銃を、拾うが銃は着弾の衝撃で壊れていた。
「お母さんも帰って来たみたいだね」
「うん!」
息子とロウマはのんびりと会話をしている。シーラは息子にその男から離れなさいと叫びたかったが、大声を出してロウマを刺激するのは危険と思い、シーラは思いきった行動が出来なかった。
「ご飯も食べたし、少しテレビでも見てきなよ。お兄さんはお母さんとちょっと、お話しがあるから」
ロウマはそう言ってシーラの息子をダイニングから遠ざけた。
「さて、座ってお話ししましょうよ。シーラ・カーンズ准将閣下?」
シーラはロウマの言う通り、ダイニングテーブルに座った。2人は向かいあって座った。
「何が目的だ?こんなバカなことをして、貴様は終わりだ」
シーラの厳しい物言いにロウマは困ったように肩をすくめ、頭をかく。
「別に終わらないと思うけどねぇ」
「終わらないわけがないだろう。こんな事件を起こして!」
シーラが怒鳴ると、ロウマは指を口に当てシーという仕草を見せる。
「子どもがテレビを見てるんだから静かにね」
ロウマは余裕といった態度だった。これがシーラを不安にさせる。
「なんだか大騒ぎしてるけど、俺は結構こういう仕事もしてるから割となれてるんで平気なんですが」
そう言うとロウマはとある新聞記事をシーラに見せた。内容は軍人家族皆殺しというショッキングな内容だった。
「これも俺の仕事。さて状況が読めてきましたかね。准将閣下」
「……誰からの依頼だ……」
ロウマはニヤリと笑い言う。
「別に……ただ俺個人の私怨。あんたが俺を追い落とそうと必死なのは知ってるけど、あんなものいくらでも揉み消せる。俺には悪い友達がいっぱいいるからね」
「では、なぜ……」
いくらでも揉み消せるなら、自分たちのことなど放っておいても良かったではないかとシーラは思う。
「放っておいても良かったけど、アンタは俺をキレさせることを言った。だから殺す」
それだけ、たったそれだけの理由で、私たち家族を殺すというのか。
「俺は大抵のことは許すよ。でもな、俺を田舎者と言ったり、成り上がり者と言った奴は殺す。絶対に殺す。そいつが一番大切にしているものをぶっ壊して、そいつも殺す」
シーラは初めて、ロウマの憎悪の表情そして怒りの表情を見た。この世の全てを憎んでいるような瞳に見えた。

 
 

「だから、アンタの大切な息子を殺すんだ」
そう言ってロウマは立ち上がった。同時にシーラも立ち上がる。息子を殺させるなど、そんなことはさせないと、ロウマの前に立ちふさがる。
「……まぁいいけど。確かアンタ格闘術でもなんか表彰されてたよな。いいよ、殴り合おうか」
そう言うとロウマは銃を懐にしまった。その瞬間、シーラはしめたと思った。格闘術に関しては聖クライン騎士団でも男女合わせた中で5本の指に入ると自負している。対して相手のロウマは荒事をしたことなどないように見える。
「プライドの壊れる瞬間は良いもんだな」
そう言った瞬間ロウマのジャブがシーラの顔面を捉えた。速すぎる!シーラは愕然とするしかなかった。
「たいしたことねぇな」
そう言ってロウマはシーラを一方的に殴り倒した。男女の体力差が問題ではなく、技術の差が圧倒的だった。ロウマの格闘技のレベルはシーラが考えていたものを遥かに超えていた。
「……なん……で、そんな……優秀なのに……こんなこ……と
「決まってるだろ、悪いことが好きだからだよ」
ロウマは微笑んでそう言うと、シーラの息子を呼んだ。そして懐から銃を取り出す。
「なーに?」
シーラの息子の最後の言葉はそれだった。ロウマはシーラの息子がダイニングに入った瞬間に頭を撃った。
息子が倒れ、頭から血を流した瞬間になってシーラは全てを理解したようだが、ロウマは面倒なので、さっさとシーラの頭も撃った。そして確実さを求め、更に胴に二発撃った。
「女の悲鳴はうるさいから嫌いだよ」
とりあえず殺したい相手は殺せたのでスッキリした。後はどうでも良い。自分の悪事を暴露しようとしている連中は他にもいるが、恨みが無いので、もっと楽に殺そうとロウマは思い、シーラ・カーンズの家を出た。
それから数日、聖クライン騎士団員の中から不審な死を遂げる者が5名ほど出た。その間、ロウマはスッキリとした表情であった。
「海賊討伐の件はもう少ししてからってことで」
色々と肩の荷がおり、それにストレスの解消に成功したロウマはのんびりとそう言うのだった。

 
 

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