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GUNDAM EXSEED_B_27

Last-modified: 2015-04-28 (火) 20:22:13

「ベケットさん。恋ってなんなんでしょう?」
昼の人魚と海の男亭の二階ではセインがベケットを前に、神妙な顔で尋ねていた。取り敢えず、ベケットは、最初は何も言わず、セインに話すことを促すのだった。
「最近、前は何とも思ってなかった女の子に対して急にドキドキするようになったんです。これって恋なんでしょうか?」
ベケットは頷くだけで何も言わず、セインに続きを促す。
「でも、その子にドキドキすると何だか罪悪感が……なんていうか変な話なんですけど、幼馴染の顔が思い浮かんで申し訳なくなるっていうか、別にただの幼馴染なのに、変じゃないですか……?」
そこまでセインが話し終わってベケットはようやく口を開く。
「幼馴染は女の子?」
「はい」
セインはすぐに返事をする。その返事を聞くと、ベケットはうんうんと頷く。
「結構、難しい問題だね。まぁ簡単といえば簡単だけど。とりあえず俺が思ったのはセイン君の感受性というか、気持ちの分析力が弱い?すごく簡単に言えば、きみが鈍感ということで全てカタがつく話だね」
鈍感と言われ、セインは何とも言えない表情になる。ベケットは面倒なので全て説明してしまおうと思った。
「セイン君。きみは心の奥では幼馴染のことも女性として好意を持っているんだよ」
そう言われて、セインは、はぁ……?という感じになり、ベケットの言っていることが信用できない気がしてきた。
「ミシィは只の幼馴染ですよ」
「セイン君。幼馴染という性別はないよ。あるのは男と女とその中間か、それらに当てはまらないかだ。きみはキミ自身では意識してないかもしれないが、その幼馴染に対して女性を感じているんだよ」
女性を感じる……そう言われてセインはミシィのことを思い浮かべてみた。
「きみの主観じゃなく、客観的にその子のことを考えてごらん」
客観的にミシィを考える。顔は……間違いなく美少女だ。黒くて長い髪も綺麗だし。それにスタイルだって良い。この間、海で遊んだ時だってしっかりとくびれがあったし、肌もきれいだった。
そこまでセインは考え、あれ自分はなんでこんな美少女と一緒にいて平気だったんだ?と思ってきた。
「あ、ちょっとヤバいです。ミシィが女の子に思えてきました。ていうか、ミシィのことを考えるとなんだか頭がボーっとしてきます」
しまった、とベケットは思った。鈍感な少年には情報量が多すぎたのだ。だが別に自分が困ることでもないので放っておくことにした。
「うわあああああああ!どうしようどうしよう。すっごく恥ずかしい。今までの自分が恥ずかしい!」
セインは今までの行動を省みてみる。全てではなくミシィとのやり取りに限ってだが。そうすると自分は美少女の前で相当恥ずかしいことをしていたぞ、と自己嫌悪に陥ってきた。
「どうしましょう、僕なんだか、ミシィにも恋をしているのかもしれません」
ベケットは良くなかったな。と反省する気持ちになっていた。自分が困らないとはいえ、この純情な鈍感少年を自己嫌悪で苦しめさせてしまったことについてである。

 
 

「まぁ、きみが二人の女の子に恋をしているってのは間違いないね」
事態はこの鈍感少年に解決できるようなものでもないが、それでもベケットは一応、話に付き合ってやることにしたのだった。
「二人の女の子に恋をするって不誠実じゃありませんか?」
「付き合っているわけでもないのに、何を言っているんだいセイン君?」
ベケットはセインの肩を掴み、その目を見る。
「例えは悪いが、きみは今レストランでメニューを眺めている段階なんだよ。メニューを見ている段階で目移りすることを咎める人がいるかい?いないだろ」
「はぁ……そうですけど」
「だけど、ここで良く考えないといけないのが、そのレストランに入る資格がキミにはあるかってことだ」
そう言われて、セインはキョトンとしている。ベケットは察しの悪い鈍感少年であることを忘れていたので、ザックリと説明することにした。
「きみが好きでも相手がキミを選ばないことだってあるってことだよ。それは大丈夫?」
「……わかりません……」
セインは急にうなだれた。これでは駄目だと思い、ベケットは掴んだ肩をゆする。
「逆にどうぞ食べてって場合もあるんだ。プラスに考えよう。若いんだから」
そう言うベケットも若いほうであり20代半ばであるが、それはどうでもよかった。問題はセインである。
「あとは、タイミングとか時間だ。運の悪いことにキミの行っているレストランは料理がメニュー1つにつき1人分しか用意されてない。
キミがメニューを考えている間に他の人がキミが頼みたかったメニューを頼んで美味しく食べてしまうことだってあるし、レストランの閉店時間もある。頼むのが遅れれば遅れるだけ、きみが美味しい物を食べ損なう可能性が高まるんだ」
ベケットはここまで言って、やはり、この年頃の少年にレストランの例えは良くなかったことに気づいた。ちょっとしたワードでも性的な方向に捉えてしまう年頃の少年に食べられてしまうは良くなかった。
セインの顔面は蒼白である。おそらく愛しの幼馴染が見ず知らずの男に美味しくいただかれるところを想像してしまったのだろう。
「落ち着け、セイン君。まだ大丈夫だ」
ベケットはセインの肩を揺らし正気を取り戻させる。
「レストランは開店準備がまだ整っていない。女の子は早く食べて欲しいと思っていても、ゆっくり時間をかけて欲しいとも思っている臆病な存在なんだ。きみはレストランが開店した瞬間を狙うんだ」
セインはギリギリだが、ベケットの言うことが分かった。まだミシィもマリアも恋に本気になるには臆病だということがわかった。
「では、僕はどうすれば良いんでしょうか?」
そんなのは簡単だ。ベケットは一言で済ませる。
「カッコ良くなれば良い」
それが問題なんだとセインは思ったが、それしかないのかと絶望的な気分になってきた。
「大丈夫、時間はある。俺も協力するから、頑張って彼女をつくるんだ。少年!そして青春を楽しむんだ!」
ベケットは力強くセインの肩を握った。実際のところ、この鈍感少年に一人で努力させるのは危険すぎると思ったため、ベケットは協力を申し出たのだった。
ベケット自身、努力してもこの鈍感少年からじゃ何やっても無理だろうなぁ、という感じはしていた。おそらく、この鈍感な少年のことを好きな女の方からアプローチをしてくるだろうとベケットは考えるのだった。
セインは結局マトモな答えを得られなかったので、どうにもこのベケットは信用ならないと考えるようになっていたのだが、この人物しか頼れる相手がいない以上仕方ないと思うことにした。
そんなこんなでセインの恋の問題は解決を見ずにセインの悶々とした思いが増すだけでおわったのだった。

 
 

ロウマ・アンドーは面倒を感じていた。とにかく休みたい、サボりたいという気持ちしかなかった。
ロウマ・アンドーは気づいたら、海賊討伐の艦隊の司令官になっていたのだ。艦隊といっても大きな規模ではなく、戦艦一隻に巡洋艦が二隻だ。戦艦はエミル・クラインの好意により、新造の戦艦であり、海賊討伐が処女航海である。
「海賊相手にヴァージンを差し向けるって、すごいフラグだと思わない?」
ロウマは戦艦の艦長に話しかけてみたが、艦長はロウマの言葉の意味が分からず、怪訝な表情を浮かべるだけであった。
しかし、どうしたものかとロウマは思う。最近では海賊船が二隻になったという話しを聞いている。となると、無理だろうなという気分しか湧いてこないのでやる気も無かった。
艦長はロウマのことが嫌いなようで、ロウマの言うことなど聞く気はなさそうだった。三隻の軍艦の艦長全員がそんな調子である。これだから二線級の兵隊は嫌なんだよなぁ、とロウマは思う。
ロウマのこれまでの感覚だと、前線に近い一線級の兵隊のほうが忠実であり、逆に後方の二線級の部隊の方がプライドやら何やらがあるような感じで頭が硬直しており、こちらの言うこと聞かないことが多いと感じていた。
まぁ、今回は失敗でいいかとロウマは思った。失点もある程度ないと偉い人間からは好かれない。完璧な人間は案外好まれないとロウマは組織に対してそんな認識を持っていた。
それでなくとも、エミル・クラインの後ろ盾が自分にはあるのだから、たまの失敗もご愛嬌で済まされるだろうとロウマは考えていた。
それに地球のアフリカでは自分の麾下にあるガルム機兵隊が凄まじい戦果を挙げているので、聖クライン騎士団でのロウマの評価は連日うなぎ上りであるからして、今回の海賊討伐が失敗しようとも、ロウマはどうでも良かった。
「俺は寝るから戦闘が始まったら起こしてね」
ロウマは艦長にそう言うと、ブリッジの指令席に座ったまま寝息を立てはじめた。艦長がそれを見て露骨に舌打ちをしたのは言うまでもない。
……戦闘が始まったら起こせって言ったのになぁ、ロウマはこんな簡単な言いつけも守れない艦長に辟易としていた。
そしてブリッジのモニターに映る外の映像に目をやると、艦載機が海賊のMSと戦闘中の場面だった。
艦載機の動き悪いなぁ……ロウマは寝起きのボーっとした頭でぼんやり、そう思った。海賊のMSは殺す気がない戦い方だ。まぁ、スマートな海賊を気取っているのだろうとロウマは予想した。
殺す気が無いなら、こちらはいくらでも適当にしていられる。戦闘は艦長に全部任せることにし、ロウマは今のうちに小説を書いておくことにした。
『責任の所在は全て三隻の軍艦の艦長にあり、艦長らの戦術的な能力は極めて低く、艦隊司令ロウマ・アンドーの指揮を無視して独断で艦隊を動かし、艦隊を自滅に追い込んだ』
話しの大まかな流れはこんな感じでいいかとロウマは思った。後は、この小説をしかるべきところに提出すれば、自分は責任を問われず、軍艦三隻の艦長らに責任が行くという仕組みだ。
ロウマは小説を粗方書き終えるとブリッジのモニターに目をやった。すると、噂のブラッディ・レイヴンがまさに迫ってきている最中だった。黒の塗装の上に血を思わせるような赤を塗っている。なるほど血塗れカラスという異名はここからきたかとロウマは納得した。
そして噂になるだけの腕だと思った。ロウマの見ている間、その一瞬の間に四機の艦載機を戦闘不能にして、ブリッジまで到着していた。ロウマはブリッジまで到着されたことより、艦載機を戦闘不能にした方法に目を丸くした。

 
 

ブラッディ・レイヴンはコックピット部分のごくわずかな装甲だけを切って、コックピットの中身を露出させ、そこに指を突っ込むとパイロットをつまんで外に放り出していた。
このレベルの操縦技術を持つパイロットがごろごろしているわけがない。ロウマはブラッディ・レイヴンの正体に見当がついたのだった。
「艦長、予定変更。艦長は相手の言うこと聞いて大人しく捕まっててちょうだいな。俺はかってにやるから」
そう言うとロウマはブリッジを出ていった。艦長はロウマのあまりに勝手な行動に唖然とするしかなかった。
「とりあえず、隠れっかな」
海賊の仕事の手順は話しを聞いてだいたい分かっている。ロウマは抵抗しない代わりに、隠れてやり過ごそうと思った。ロウマは艦内で適当な通気口を見つけ、その中に隠れることにした。
「さて、これで見逃してくれるかどうかね」
まぁ、そんなに上手く行くはずはないだろうとロウマが思った直後、艦内が大きく揺れた。おそらく接舷用の道を作っているのだろう。この後は海賊が艦に乗り込んでくる。乗り込まれると、だいたい終わりというのが海賊を相手にした人間の話しである。
どうやら海賊は相当に強いらしいのでロウマは戦いたくなかった。だから、やり過ごそうと考えたのだ。
通気口の中に隠れていると、外では戦闘が繰り広げられている音が聞こえた。
「粗方片付けたぞー」
すぐにそんな声が聞こえてきた。あとは艦長が余計なことを言わずに気絶でもしてくれていれば自分の存在は気づかれず、このまま戦艦に隠れて、海賊のアジトまで行けるのだが、とロウマは考えた。しかし、世の中そんなに甘くないと思い知らされるのだった。
「カクレテル、デテコイ」
片言の声が聞こえた。ロウマはもう少し誤魔化そうと思った。だが、
「カクレテル、ヤツ、デナイ、コロス」
出ていかないと殺すと言われたら出ていくしかない、ロウマは渋々通気口から出てきた。
ロウマに気づいたのは東洋系の顔立ちをした男であった。ロウマにとって幸いと思えたのはこの男が1人で探索をしていたことであり、仲間に自分の存在を教えていないこと、つまりはこの男を黙らせるなりすれば、ロウマの存在は露見しないということだ。
「オーケー、オーケー、そっちに従うから暴力はやめてちょうだいよ」
ロウマは両手を軽く上げ、男にゆっくりと近寄る。その瞬間、ロウマの姿が消えた。そして消えたと思ったロウマの姿が現れたと同時にロウマは腰に帯びた軍刀を居合抜きの要領で抜き放った。
だが、軍刀を抜いたはずのロウマの方が逆に吹き飛ばされていた。ロウマは人生において初めて文字通り吹っ飛ばされるという体験をした。
「くそが……」
思わず毒づくが問題ない、こんなこともあろうかと軍服の下には緩衝素材のインナーを何枚も重ねてきている。衝撃は問題ない。
おそらく、この男はこの一撃で倒せなかった相手はいなかったのだろう。明らかに油断してロウマに近づきながら歩いてくる。
ロウマは相手が油断していると確信し、急に立ち上がると拳銃を連射した。しかし、ロウマは驚愕するしかなかった。男は銃弾を全て避けて見せたのだ。
「人間じゃないね」
ロウマは手に持っていた銃を捨てた。役に立たない以上持っていても、しょうがないからだ。
「ナゼ、タテル?ゼンリョク、ナグッタ」
世の中には便利な物があるということを知らないらしい、このカンフーマスターは。防御の手段がある以上、なんとでもなるかとロウマは思った。戦っている場所は戦艦内でも数少ない、1G区画、重力があるのはお互いにメリットがある。

 
 

自分のメリットは動きやすいということ、そして軍刀を使った普通の剣術が使えること、相手のメリットも自分と同じだ。いつもと同じ動きが出来るうえ拳法なんかに必要な踏み込む動きが出来る。デメリットは相手のメリットがそのまま当たる。
ロウマはクルクルと軍刀を回しながら、相手との間合いを測る。ふりをして懐に手を突っ込みスローイングナイフを握ると、男に投げた。
男は虚を突かれたようで動きが若干、遅れたが、飛んできたナイフは全て避けてみせる。
なるほど面白いなとロウマは思った。明らかに不意を突いた上に速く撃った銃の方が簡単に回避できて、投げナイフの方が避けるのに手間取るか。
銃弾を回避するところを見ると、身体的な能力に絶望的な差がありそうに感じるが、どうやらそうではないとロウマは気づいたのだった。身体能力は間違いなく相手が上だが、それでも人間の身体能力の範疇だろう。
銃弾を避けるのは単純に見切りが並はずれているだけだとロウマは考えた。おそらく銃を相当に警戒し、研究し、銃の気配に対し神経を極限まで研ぎ澄まし、それで銃弾を避けているのだとロウマは考えた。
ならばいくらでもやりようはあると、ロウマは考え、動く。ロウマは相手に見えないように服のボタンをむしるとそれを掌に隠し、軍刀で切りかかる。
男はロウマの動きに若干の警戒をしているのか慎重な動きである。男はロウマの剣を躱した。その瞬間、ロウマは掌のボタンを指で弾き高速で撃ちだした。
一瞬、男はそれが弾丸に見えた。そして、弾丸ならばと常日頃からの癖で無理な体勢からでも回避の動作に移る。それがロウマの狙いだった。
「汚い手には弱いなカンフーマスターさん♪」
無理な体勢での回避動作で出来た隙をロウマは見逃さなかった。ロウマの軍刀の鋭い刃が男を襲う。回避は不可能だった。だが。深くは無かった。
「まぁ、こんなもんかしら。俺の腕じゃあな」
ロウマはヘラヘラと笑いながら軍刀を担ぐ。
男は鼻の上、目の下の部分に横一文字の傷がつけられ、そこからは止まることがなく血が流れている。
「……虎(フー)ダ……」
男は構えながらゆっくりと喋る。おそらく名前だろうとロウマは思った。まぁ久しぶりに
本気で戦っている相手だ名を名乗るのも悪くないだろうとロウマは思い、自らの名を告げる。
「ロウマ・アンドーだ」
ロウマは軍刀を下げ、手をだらんとゆったりした構えでいる。
「オマエ、ナマエ、オボエタ、ハカ、キザム!」
そう虎(フー)という名の男が言った瞬間、虎が消えたようにロウマは見えた。だが、これは大丈夫だという確信があった。おそらくは拳による打突。だが、それは防具が防ぐから問題はない。
直後、凄まじい音がロウマの腹部で鳴ったが、これは耐えられる。ロウマは衝撃にふらつきそうになったが、耐えた。そして、拳による打突の直後の虎の衣服を左手で掴むと、頭突きを虎の頭に叩き付けようとした。
だが、そんな見え見えの攻撃に虎が当たるわけはない。衣服を掴む手を叩き落とし、手刀をロウマの顔面に撃ち込み、迎撃しようとする。
「だから、正直すぎるね虎さん」
パンパンと乾いた音が二度鳴った。それは紛れもなく銃声、ロウマは叩き落されたはずの左手に銃を握っていた。
「銃が一丁だなんて、だれも言ってないでしょうに」
ロウマは虎を小馬鹿にするように言った。虎の両脚には銃弾によってつけられた傷痕があり、そこから血が流れ、虎の履くズボンを赤く染めていた。

 
 

「胴体への攻撃は怖くなかった。ヤバいのは頭と脚だ。防具がないからね。だけどまぁ頭は腕でガードできるから何とかなる。結局一番の問題は脚への攻撃、だから脚を潰したかった。脚を狙う攻撃は脚を使うのが多いしね」
ロウマは左手の銃を虎に向ける。
「さて、虎さんの真価が問われる時だ。その脚で頑張って避けてくれよ」
ロウマは虎に向けて、銃を連射する。考えが甘いのはお前も一緒だと虎は思った。この程度の傷で動きが鈍ると?舐めすぎだという怒りが虎にはあった。
ロウマは死んだろ、と思った。だが、そんなことは全くない。虎は銃弾を全て躱して、ロウマの元まで駆け抜ける。
防具で何とかなると?私が鍛えた拳はそんな生温い物ではないと、この男に教えてやらなければならなかった。
虎はロウマの懐深くまで踏み込むと、全身全霊の一打をロウマの腹に叩き込んだ。その直前までのロウマの表情は馬鹿を見るようなものであった。だが、その顔は一瞬で消え、一打とともに壁まで叩き付けられ、苦悶の表情に変わるのだった。
「っざっけんな!クソ野郎!片言喋りの土人野郎が俺の腹にパンチ!?ふざけんな、くそ、いてぇ、いてぇ、いってぇぇぇぇぇぇっ!」
ロウマは床をのたうち回っていた。ロウマは心の中で畜生っ、畜生っと連呼していた。痛い思いをしたくなくて偉くなったし、強くなったはずなのにこれか?ふざけんな土人野郎、ぶち殺してやる、俺に痛みを思い出させやがった。絶対に殺してやるぞ!
ロウマの頭の中は痛みで冷静さを失い、狂乱していた。だが、それも一瞬だった。
「いてえいてえいてえ、え、え、え、えーとクソ、もう嫌だ」
ロウマは冷静な表情に戻り、大きくため息をついた。
「きみとやんのはもう嫌だね」
そうは言っても付き合ってもらう。虎はそういうつもりだった。だが、急に体がふらついた。脚の怪我のせいか?
いや、そんなやわな鍛え方はしていない。ではなぜ、体が言うことを聞かない?気づくと虎は尻餅をついていた。尻餅をつくまでに何があったか頭がはっきりしなかった。
「いや、ほんと単純だな虎さん。最後のパンチの威力には驚いたけど、予想通りの所をなぐってくれた」
ロウマは余裕の表情に戻っていたが、額には脂汗が浮いている。まだダメージがある証拠だった。
「人間には意地があるからさ、同じ所を殴ってくると思ったの。だからさ」
そういうとロウマは軍服の上着を脱いで見せる。すると、ロウマの腹部分には明らかな工作がなされていた。それは小さな針である。小さな針が腹部にテープで張り付けてあったのだ。
「最初に殴られた時から、ちまちまと工作してね。こういうの作ったのよ。神経毒が塗ってある針の山みたいなものを。虎さんはそんなの殴ったわけ。
そんなの作る隙はなかったって思うかもしれないけど。俺は手先が器用だからね。こういうのは得意分野なのよ」
ロウマの顔から苦痛が段々と消えていく。痛みが去って行ったようだった。対して虎は尻餅をついた状態からさらに床に倒れこんでいた。

 
 

「虎さんは最初に俺の腹を殴った瞬間から罠にはまっていたわけだ。俺とやるにはオツムの出来に問題があったね」
ロウマは軍刀を鞘に納めると床に倒れ意識のない虎の身体を抱え上げる。
「殺して見つかると厄介だから殺さないし、きみはそれなりに面白いから殺さないでおいておくよ。聞こえてないと思うけど、エサが欲しくなったら俺の所に来ると良いよ、虎さんは」
そう言うと、ロウマは通気口に虎の身体を隠し、自分は別の場所に隠れることにした。幸い虎の所在が分からないということは大きな問題にならなかった。
「強すぎるってのも大変だ。信頼が強すぎてやられてるなんて心配されないからなぁ」
ロウマは結局のところ見つかることはなかった。そして海賊たちは艦内の探索を終えたと判断すると、艦長たちを乗せた脱出艇を艦から放り出した。海賊たちは一仕事を終えたといった感じで、艦を海賊船にワイヤーでつなげると海賊船で戦艦を引っ張っていく。
ロウマはこの先に海賊のアジトがあると確信し、そこにはある男もいるだろうという確信があったのだった。

 

ロウマはボンヤリと時を待った。通気口の中は狭く薄暗く、少年時代を思い出さずにはいられない場所だったが、隠れるにはここしかなかった。
そうして待つうちに、艦内がまた慌ただしくなってきた。ロウマの勘では港についたのだと思った。おそらく今は、戦艦内をかき回して金目の物を探している最中なのだろう。外へ出るなら今しかないかと考え、ロウマは動き出す。
細心の注意を払い、ロウマは誰にも見つからず戦艦の外へと出た。しかし、ここがどこだか想像がつかなかった。
「古いが整備された港、海賊らしい不潔さはなく清潔感があるな」
ロウマは通気口から甲板にでると、極力姿勢を低くしながら、周囲を警戒しつつ、戦艦が係留されている宇宙港の様子をみながら、ひとりごちた。
さて、ここからがロウマの活動の問題である。海賊のアジトの宇宙港を見つけたからそれで良しとはいかない。そもそもアジトがあることだけわかっても、アジトがどこの場所にあるのかわからなければ意味がない。
面倒ではあるが、このアジトの座標を示している機器を探すしかなかった。そう思った瞬間だった。ロウマの背後に濃密な殺気が感じられたのは。
ロウマは振り返りざまに居合い抜きで軍刀を抜き放つと同時に相手を斬ろうとした、だが、軍刀は金属がぶつかり合う音をだすだけで止まったのだった。
軍刀は片刃の剣によってその刃を止められており、ロウマの筋力と軍刀の強度ではこのまま力押しで斬ることは不可能と察したロウマは、その場からさっと飛び退く。
対して相手は追ってくる。片刃の剣を片手に持った男は剣を振り回してロウマに襲い掛かる。ロウマは相当な速度で襲い掛かってくる刃を躱しながら、反撃の一太刀を放つ。その刃も相手に届くことなく、剣によって防がれた。
その段に来てロウマはようやく相手を観察することができた。相手は血のように赤い上着に、血で染めたような真っ赤な包帯で顔を覆う男、つまりはブラッディ・レイヴン。そして――
「仮装が似合うじゃないか、ハルドくぅん!」
ロウマの軍刀が剣の防御をすり抜け、ブラッディ・レイヴンの顔面をかすめる。
はらりと落ちる包帯、その下にあった顔はロウマの言った通り、ハルド・グレンのものである。

 
 

「ロウマさんも長旅ご苦労さんですね。ドブネズミにみたいに隠れてたせいで、お召し物が汚れていますよ。そのままドブネズミと一緒に暮らしていた方が良かったんじゃないですかねぇ」
ハルドに言われて、ロウマは改めて自分の服装を見た。確かに誇りまみれで汚れてはいる。だが――
「戦艦にドブネズミはいないからねぇ、1人暮らしになっちゃうよ。寂しいのは嫌いなのよ、俺」
「あら、そうでしたか。じゃ、独房も嫌でしょうけど。我慢して今日はそこで寝てもらうか、1人で棺桶に入ってもらわないとなぁ」
ハルドもロウマも適当に話しをしながら間合いを詰めていた。お互い顔見知りで、そこまで嫌いでもないが、殺せないほど好きなわけでもない。つまりはハルドとロウマは両者にとってどうでも良い存在だった。
先にハルドが動く。剣を低くおろしたまま突っ込み、間合いに入ると同時にロウマに対して切り上げの一撃を打ち込む。
ロウマはそれを軽く回避し、軍刀での突きを放つが、ハルドは更に距離を詰めることで、突きの刃の内側、さらにそれを放った腕の内側にまで入ると、ロウマの身体に体当たりをする。1人が思いきりぶつかって来た衝撃は大きくロウマは倒れこんだ。
倒れこんだロウマに反撃するためハルドは剣を使わず、甲板上に転がるロウマに蹴りを入れようとした。だが、ロウマは軍刀を捨て、無手になると倒れた姿勢のまま両手でその蹴りを受け止め、ハルドの脚を取ると、取った脚を使いハルドを甲板上に転がす。
ハルドを転がした瞬間、ロウマは飛びかかりハルドの上に馬乗りになる。
「弱くなったね、ハルド君」
ロウマは左腕を振りかぶった。その瞬間、ハルドの頭を以前の記憶がよぎり、直感的にこの攻撃は危険だと脳が判断した。
ハルドは必死の体で両腕を使い首から頭にかけてをガードした。その瞬間ロウマの口からチッという言葉が漏れた。
ロウマの拳が振り下ろされる。その瞬間、ロウマの軍服の袖口の中から刃が飛び出した。飛び出した刃はガードするハルドの腕を貫通した。
「いってぇぇえぇぇっ!」
ハルドは叫びながら、馬乗りになっているロウマを力任せに蹴り飛ばし、距離を開ける。
「くそ、暗器仕込むなよ。普通の軍服にさ」
ハルドはロウマの手首、その袖口から伸びている刃に目をやった、刃渡りは正確には分からないが15センチはありそうだった。切れ味といい充分すぎるほどの凶器であると。ハルドは左腕に空けられた穴を見て思う。
「かっこいい武器だろ。仕事でも使える。そして、これで何人か殺してる」
ロウマはそう言いながら、落ちている軍刀を拾った。軍刀を拾うとロウマはくるくるとそれを回し始める。小休止といった感じだ。
「しかし、本当に弱くなったね、アービルで戦った時よりも弱くなってないかい?」
ハルドにそんな自覚はないがロウマは続ける。
「なんというか、イカレ具合が足りないね。一時期のきみは完全な自己中心主義者だった。自分のためなら何でもやる。躊躇いのない強さ。けど今の君はなんだか、ぬるい気がするね。昔のイカレっぷりを俺に見せてくれよ」
そう言うとロウマは身を低くして、ハルドに襲い掛かる。ハルドは躊躇った。ロウマの世迷言にではなく、ロウマの両手の武器に関してだ。
左手は手首のブレード、右手は軍刀だ。攻撃が明らかに速いのは左手、だが重いのは右手だ。どっちに対処する。そう思った瞬間、ロウマの蹴りがハルドの腹に直撃した。ハルドは衝撃に苦悶の表情を浮かべながら、ロウマから距離を取る。

 
 

「MS戦じゃ敵わないけど、生身じゃ俺の方が強いみたいだね」
ロウマは余裕の体で、軍刀を担いでいる。MS戦だったら、とっくにこっちがぶっ殺してやっているが、今は生身で斬りあいの最中なので、そういうことを考えても仕方ないとハルドは思った。
「ま、アンタが強いのはわかったけど。敵地ではしゃぎすぎだっつーの」
そうハルドが言うと、長い棒を持った海賊たちが続々と甲板の上にやって来た。
「あれ、男らしく一対一じゃないの?」
「んなわけあるかあるかボケ、今を何年だと思ってやがる。合理化の時代だぞ」
ハルドはそう言うと長い棒を持った海賊たちにロウマを叩けと命じた。
「あ、ごめん。降参。俺痛いの嫌だから」
そういうとロウマは甲板上で土下座を始めた。ハルドは別にそれが悪いことだとは思わなかった。まぁ降参といったなら降参なのだろう。だが、少しハルドは腹の虫がおさまらないこともある。
ハルドは土下座するロウマのそばにゆっくり近よると、自分もしゃがみ込んでロウマの肩に手を添え、
「顔を上げてくれよ、ロウマさん」
感動の場面になりそうだったが、それはハルドもロウマも願い下げだったのでこれで良かったのだ。ロウマが顔を上げた瞬間、ハルドの右拳がロウマの顔面を捉えた。
その一発でロウマは気絶した。とりあえずこれで、ロウマに追わされた怪我の分はチャラだとハルドは思った。
しかし、問題はこのロウマという男を始末するまで終わらない。そもそもロウマをここに引き入れてしまった時点で、こちらの負けとなっているかもしれないからだ。ハルドはウンザリとしながら、ロウマの処遇について考えるのだった。

 
 

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