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GUNDAM EXSEED_B_31

Last-modified: 2015-06-26 (金) 13:48:41

知り合いなのか?セインはハルドが名前を呼んだことを疑問に思った。その瞬間だった、セインの目の前からカスタマイズされたゼクゥドが異常な速さで動き、フレイドに向かっていく。
「……私の名を……呼ぶな!」
長い槍の一撃が高速で放たれ、ハルドのフレイドを襲うが、ハルドのフレイドは海賊の仕事で使う、フレイド・プライベーティアのヒートサーベルを抜き放ち。槍の一撃を細身の剣で受け流す。
「腕が落ちたな、騎士野郎……腕というよりは心かな」
ハルドのフレイドは剣一本で相手をするつもりにセインは見えた。しかし、それで、この相手が倒せるのかという疑問があった。
やべぇな、とハルドは思う、腕は落ちているような気がするが、殺気と殺意が3年前とは別物に鋭い。接近戦はなるべくしたくなかったが、ヘタな遠距離戦はクランマイヤー王国の国土に傷をつけることになる。
とりあえず、このイオニスという名前らしい、パイロットを何とかすれば状況は解決のようだが、それにしたってこの男と格闘戦は……さすがのハルドもイオニスの実力を3年前に戦って知っている以上、迂闊なことはしたくなかった。
ハルドのフレイドはヒートサーベルを片手にゆっくりと間合いを整える。そもそも武器が悪いとハルドは思う。フレイドの手に持っているのは海賊らしく見えるように作られたサーベルで見た目はいいが強度が不安だった。
ハルドのフレイドとイオニスのゼクゥド・クルセイダーは二機ともに軽い動きで間合いを調整していた。だが、不意に、ゼクゥド・クルセイダーの方が動き出した。
ハルドは間合いを読み違えた!?と錯覚したが、実際にはゼクゥド・クルセイダーは強引に距離を詰めて、槍――セインがそう誤解していた武器、ビームハルバードを大きく横に薙ぎ払う。
「こえー」
ハルドのフレイドはしゃがみこんで、その薙ぎ払いを潜り抜けて回避し、反撃にヒートサーベルの突きを放つが、シールドで防がれる。
ハルドはここまで誘いだと感じ、迷わず、機体を大きく後ろに跳躍させる。すると、その直前まで、ハルドのフレイドがいた場所を短く持ったビームハルバードが下方向への突きで貫いた。
しかし、イオニスの攻撃はこれで終わりではなかった、地面に突き刺さったハルバードを思いきり振り上げて見せる。するとその勢いでハルバードが刺さった場所の土が飛び、飛んだ土はフレイドのメインカメラにも直撃した。
「やべ!」
ハルドは久しぶりに戦闘で驚いた。MS戦でこんな原始的な目つぶしを食らうとは思っていなかったのだ。ハルドのフレイドのメインカメラには土が付着し、一時的に視界が悪くなっていた。
「……貰ったぞ……勇者……」
一瞬の動きの乱れ、それをイオニスは狙ったのだろうが、ハルドはまだ余裕がある。見えなくとも、何となくは相手の姿がわかる。
それに勇者というセリフを聞いた、3年前の昔も戦った時に聞いたセリフだ。そのセリフを聞いてハルドはまだ、相手が正気であると考えた。
イオニスのゼクゥド・クルセイダーはハルバードの突きを放つ。セインが全く対応できなかった高速の突きである。ハルドはかろうじて見えた軌道を頼りに、その突きを回避した。そ
れが精一杯であり、反撃は出来なかった。
「きっつー」
フレイドで高スキルの格闘特化型パイロットとやるのがこんなにきついとはハルドは思わなかった。機体の大きさが邪魔になって、軽快な動きで相手に付いていくということが、このフレイドのサイズだと難しかった。
「機体変えてー」
と今更言っても仕方ないできるならば、相手を変わってもらいたかった。できることなら、アッシュにだ。

 
 

アッシュ・クラインは久々に戦闘に参加していた。搭乗する機体はキャリヴァーである。キャリヴァーはアッシュの思い通りに動き、それを駆って戦場となっている場所までたどり着いたわけだが、状況は良く分からなくなっていた。
ただのゼクゥドがジャンク屋崩れだということは何となく理解した。そしてイオニスは用心棒というところなのだろうが、そのイオニスは雇い主が敗れたのに戦いをやめようとしていなかった。
アッシュが知る限り、イオニス・レーレ・ヴィリアスという男は、正気かどうかは怪しいが、このような集団に加わる男ではなかったはずだった。
何よりも騎士の誇りを――そう思い、アッシュはある種の納得を得た。おそらく自分と同じだろう誇り高き聖クライン騎士団が崩壊していくの目の当たりにし、心が耐えられなくなり、今のようになってしまったのだろうとアッシュは予想した。
アッシュの予想は間違いなく事実であり、イオニス・レーレ・ヴィリアスは騎士団の堕落とともに心を病んでしまっていた。もはや生きる価値なしと死を求める屍の戦士と成り果てていたのだった。
アッシュは状況を変えるには、どうするべきか考え、とりあえずイオニスの侍従のグリューネルトとエルスバッハの動きを止めること考えた。
「僕が変わろう」
アッシュはグリューネルトと戦っている、ジェイコブの機体に通信で下がるように言うと、アッシュのキャリヴァーはグリューネルトのゼクゥドと対峙した。
「さて、久しぶりだが、行けるか?」
問題はないとアッシュは感じていた。秘密にやっているハルドとの模擬戦も、何とか互角にはやれている。能力的にはリハビリは完了して元通りのはず。
ならば、グリューネルトの相手など、どうということはないはずとアッシュは思う。
「止めます」
アッシュとしてはどうぞという感じだ。グリューネルトの機体にはこちらを落とそうという殺気が感じられない、アッシュからすれば全く怖くない相手だった。
アッシュの機体はグリューネルトのゼクゥドに真っ直ぐ突っ込んでいく、グリューネルトのゼクゥドはビームライフルで、アッシュのキャリヴァーをけん制するがアッシュは避けることもせず、突っ込む。所詮は時間稼ぎの牽制射撃にすぎないと思ったからだ。
突進したアッシュのキャリヴァーは、思い切りグリューネルトのゼクゥドが持つシールドを蹴り飛ばした。衝撃でグリューネルトのゼクゥドは後ずさるが、防御の姿勢はそのままだった。
そこにアッシュのキャリヴァーの追撃が入る。アッシュのキャリヴァーはグリューネルトのゼクゥドを飛びこし、背後を取ろうと動くが、グリューネルトのゼクゥドの対応も速く、即座に背後にシールドを構えた。
その時だった、空中に飛び上った瞬間にキャリヴァーが変形を始め、無理やりに減速を始め、結局は跳躍せずに、元の位置に立つ。そこはグリューネルトが背後に警戒を感じ、後ろを振り向いたため、今はグリューネルトのゼクゥドの背後となっていた。
「詰みだ」
背中を向けているグリューネルトのゼクゥドを背後からアッシュのキャリヴァーはビームサーベルで、めった切りにする。コックピットを除いてだ。それでグリューネルトのゼクゥドは完全に機能を停止した。
「お見事です」
「貴方も相変わらずの忠臣ぶりだ」
アッシュはグリューネルトにそれだけを伝えると、ジェイコブにグリューネルトの介抱を頼み、この戦闘地帯から去り、機体を可変し、エルスバッハの元へと向かった。

 
 

「……えーと、出てくれますか」
ジェイコブは何だか良く分からなかったが、とりあえずビームライフルをコックピットに向けたまま、パイロットに降りるように言った。
すると降りてきたのはメイド服の女性であった。まだまだ若いジェイコブはメイド服にやられてしまい、それからずっとメイド服に悶々とした日々を過ごすことになるのだった。

「ああ、もう、なんで、ちゃんと攻撃してこないのよ!」
マリアの苛立ちは限界だった。相手のゼクゥドはこちらの攻撃を軽く回避する癖に、攻撃は適当な時間稼ぎである。
ちゃんと攻撃してきたなら、相討ち覚悟で仕留めてやるのにとマリアは、いささか危険な考えを持って戦っていた。その時だった。
「マリア、僕と変われ」
アッシュの声が聞こえ、マリアはすぐさま、機体を後退させると、その前を、MA形態のキャリヴァーが地面ギリギリを飛んでいった。
「アッシュ大臣ですか」
「そうだが、大臣はやめてくれ」
本当に大臣はやめてくれとアッシュは思いながらエルスバッハのゼクゥドを見据え、キャリヴァーを低空軌道のまま、突っ込ませた。
地面ギリギリを飛ぶのにアッシュも恐怖感がないわけではないが、それでもアッシュのキャリヴァーは地面ギリギリを飛びながら、エルスバッハのゼクゥドに向けて加速する。
エルスバッハのゼクゥドは大型のシールドを構え、受け止める体勢だ。心意気はいいとアッシュは思うが、考え方が甘い。アッシュはそう思いながら、機体を操作した。
アッシュのキャリヴァーがMA形態のまま激突するかと、見えた瞬間、キャリヴァーは変形しながら、シールドを構えるエルスバッハのゼクゥドを飛び越え、それと同時にビームサーベルを抜き放つ。
そして、すれ違いざまにエルスバッハのゼクゥドの両腕を切り落としたのだった。
「これで終わりですが、どうしますか?」
着地したキャリヴァーのコックピットからアッシュが尋ねる。返ってきた言葉は簡潔だった。
「降参する」
それが聞ければアッシュは十分だった。
「マリア、後は頼む」
そう言うと、アッシュはキャリヴァーを変形させて、最後の戦いが行われている所へと向かった。残されたマリアは、呟いた。
「かっこいい……」
飛び去っていくキャリヴァーとそのパイロットであるアッシュに向けて。

 

「うらぁ!」
ハルドのフレイドはヒートサーベルを思い切り、叩き付けていた。そして同時に蹴りであり、さらに蹴りの後にヒートサーベルの一撃が飛ぶ。
セインはそれを観戦していたが、化け物じみた速度の攻撃であるが、それを全て捌くカスタマイズされたゼクゥドのパイロットも相当だと思った。
「いいねぇ、少し、本気出すぞ」
ハルドは戦いながら、頭の中で血が通ってはいけない場所に血が通るような感じがしていた。久しぶりに手加減なしで、充分以上に満足に殺せる相手だとハルドはイオニスを認識していた。
「うらああああああああああっ!!」
ハルドは叫び声を出す、全周波通信、誰にも聞こえる通信だった、セインはその声は獣の咆哮のようにしか思えず、アッシュは危険の兆候だと思った。アッシュは急ぎ機体をハルドとイオニスの戦場に向かわせた。
「しゃあっ」
フレイドがあり得ない速さで動く、MSには決められたスペックがあるはずなのにとセインは思うが、エースパイロットその一部の怪物たちはそれを軽く凌駕していく。
フレイドの動きは速すぎた。この時初めて、ゼクゥド・クルセイダーは盾ではなく槍を使って防御をした。

 
 

「おっせぇ!」
ハルドのフレイドはサーベルを持たない手で思い切り相手を殴り、体勢を崩させると、同時にヒートサーベルがゼクゥドを襲う。
放たれた攻撃は突きだった。それをゼクゥドはハルバードを手放し、手のひらで受け止める。
「クソが!命がそんなに大事か!?」
ハルドのフレイドはヒートサーベルを手のひらから引き抜き、再度、相手を突き殺そうと狙っていた。だが、その横合いからハルドのフレイドに一機のMAが激突する。
「選手交代だ、ハルド」
激突したMAはアッシュのキャリヴァーであった。アッシュのキャリヴァーはハルドのフレイドを無理矢理に戦場から弾き飛ばすと、MS形態に変形し、イオニスのゼクゥド・クルセイダーに並び立つのだった。
「思い出しませんか、イオニスさん。僕はその機体を見ると思いだします。騎士団にいたころの無垢な自分を、正義に殉じていた頃の自分を。あなたはそうではないのですか」
「……言うな……アッシュ……私は、耐えられなかったよ、今の騎士団の任務に……」
それで良いとアッシュは思った。アッシュが知るイオニスはそれをしてはいけない男だ。
「やり直しましょう!ここでだったら、やり直せる!」
そうアッシュが言った直後だった。貫かれた手にハルバードを持ち、ゼクゥド・クルセイダーが動き出す。
対して、アッシュのキャリヴァーはシールドを捨てビームサーベルを二刀流に構えていた。
「最後まで戦う。それでいいんだな!」
勝手な奴だとアッシュは思う、騎士団の時代の頃から勝手な人間だと思っていたが、ここでそれを見せるなとアッシュは憤り、脳内が覚醒しSEEDの力が解放される。
SEEDの力の感じ方には色々な種類があるというがアッシュは世界を遅く感じるタイプのSEEDだった。
突きで放たれるハルバードもゆっくりと見え、そして、その動きに合わせるようにビームサーベルを振るう。
そしてゼクゥド・クルセイダーの片手は斬り飛ばされ、ハルバードごと遠くへと飛んでいった。
勝負はついた。これでいいのだ。殺す必要は無い。アッシュがそう思うと、ゼクゥドのパイロット、イオニスは憑き物が落ちたような晴れやかな顔でハンカチを使い白旗を振っていた。そうこれで良かったのだとアッシュは思った。こうして戦闘は終結した。

 

終結したあとには問題が色々あるわけだが、アッシュは久々の戦闘で疲れたこともあり、ハルドに面倒を任せた。
面倒を任せた相手は、今回クランマイヤー王国を襲ったジャンク屋であり、ハルドは適当に拷問をして、二度クランマイヤー王国の名前が言えなくなるようにトラウマを刻んだという。
アッシュは気持ちや戦力的にイオニス、グリューネルト、エルスバッハの三人を手放したくなかったので、とりあえず姫に面会をさせた。
「大変な道のりでしたね」
姫はそう言って、イオニスの頭を撫でた。それだけでイオニスは号泣し、お供の二人も涙を露わにした。
そして直後にアリッサ・クランマイヤー姫とクランマイヤー王国に忠誠を誓ったのだった。
アッシュは単純な決着だと思ったが、イオニスの性格を考えれば姫など高貴な女性に説得させれば簡単に落ちるだろうことは予測できた。
まぁ、そんな単純な人間でも頼りにはなる。騎士道精神がいささか斜め上に行っていて、思い込みも激しい狂人ではあるが、戦力としても裏切りをしない人間としても、充分以上に信頼できるのがイオニスという男であるとアッシュは思ったのだった。

 

イオニスとの戦いを終えた後、ハルドはマクバレルの元に直行した。
「それで、色々と不満があると聞いたが」
マクバレルは不機嫌な顔をして色々と面倒な客を迎えていた。ハルドは機体に対する様々な不満と、ある注文をマクバレルに伝えた。
「まぁ分かるがな、貴様用の機体を開発するとなると時間がかかるぞ」
マクバレルは背を向け言った。
「時間は任せる。アンタが考えた俺用の最高の機体を造ってくれ」
ハルドはマクバレルに完全に任せることにした。自分専用の最高のMSの開発というもの。そうやって、水面下でクランマイヤー王国の軍備は次第にすすんでいくのだった。

 
 

「さてと、イザラちゃん。進捗状況はどうなのか、説明してちょうだいな」
ロウマ・アンドーは久しぶりにアフリカの土を踏んでいた。今は間借りしている武装勢力のアジトを会議室として、ガルム機兵隊の面々を集めていた。
「北と西アフリカの七割の武装勢力を壊滅させました」
イザラが答えると、ロウマはつまらなさそうな表情をありありと浮かべていた。
「何、順調なのつまんねー。俺はキミらが失敗して俺に泣きついてくるのを期待してたんだけどな」
ロウマはガルム機兵隊の面々にはとにかく士気を下げるセリフを言い続けていた。
「まぁ、いいや。ところでキミら悪いことやってない?」
ロウマは急に態度を変えると、ガルム機兵隊の面々を見回した。ガルム機兵隊の面々には何も身に覚えがない。
「いや、俺は悪いことやってんだよね。NPOとかからの支援物資の食糧を毒入りの奴と交換してみた。そしたら、キミらが制圧してない残り三割の土地の人間?ていうか土人か。そこの奴らバタバタ死んでるらしいぜ」
ロウマは平然と最悪なことを言ってのけた。ガルム機兵隊の面々は善悪の問題以前にロウマを見て、コイツは頭がおかしい……としか思えなかった。
「でさぁ、交換した支援物資の食糧、こっちは毒入りじゃないやつね。それを地元の有力者に横流ししたら、大儲けで俺の懐は潤いまくり」
つくづく最悪だとガルム機兵隊の面々は自分たちの指揮官を見て思った。ロウマの方は、もっと受けるかと思っていたため、何か面白くない様子だった。
「まぁ、いいよ。やったのは俺じゃなくてキミらってことになってるから」
ロウマの最後の言葉に、ガルム機兵隊の面々は全員が、訳の分からないといった表情になる。
「書類とか見てたらさぁ、この悪事を主導したのはイザラちゃんで、他のガルム機兵隊の面々も関わってることになってんのよ。いやぁ、怖いねぇイザラちゃんがこんなことするなんて」
ロウマは飄々と言ってのけるが、その場にいたものたちは冷静ではいられない。
「アンドー!貴様!」
イザラがロウマを怒鳴りつけ睨むが、ロウマはヘラヘラと笑っていた。
「なんだよ、殴らない程度の分別はあるのか。つまんね。イザラちゃんの綺麗な顔をボコボコにできるとワクワクしてたのになぁ」
ロウマは、言うことは言ったという体で立ち上がる。ガルム機兵隊の面々が睨みつけているのも完全に無視してだ。
「とりあえずキミらには、これで戦争犯罪を犯している疑惑が生まれたわけだ。まずいよね、民間人を無差別に毒殺とか、死刑レベルだよ。まぁ、俺の言う通りに動いてればこれが表に出ることもないわけで、だから俺の言うことを聞いてみんな頑張ってね」
そう言うと、ロウマはさっさと部屋を出ていくために歩き出そうとしたが、あ、と言って立ち止まる。
「今度、ナイロビで地球連合の代表者たちが集まる会議があるんで、キミらはその会議に際して色々と仕事があるから、よろしく。俺は宇宙で作戦を高みの見物という立場だから、適当に頑張ってね。じゃ、さよなら」
そう言うと、ロウマはガルム機兵隊の面々の視線など気にもせず、さっさと部屋から出ていってしまった。
部屋に残されたガルム機兵隊の面々の間には重苦しい空気が漂っていた。
「言っても仕方ないが、弱みを握られ、奴の下についたが、弱みがどんどんと累積していくぞ」
ドロテスが煙草を携帯灰皿に押し付けながら言う。イザラは何も言わず机を叩いた。
「私たち詰んでませんかー?」
アリスが軽い声で絶望的な一言を言う。ガルム機兵隊の面々はその通りだと理解していたが、口に出したくはなかった。
「……給料とか休みとかいっぱいあって、いいけどよ。ロウマの旦那に完全に弄ばれてるよな」
ギルベールも流石にウンザリした様子だった。とにかくロウマ・アンドーのタチが悪すぎるのがガルム機兵隊の抱えている問題だった。
「……ロウマ・アンドーに死んで欲しいと思っている者は手を挙げろ」
イザラは取り敢えず聞いてみた。当然のごとくゼロ以外の全員が手を挙げる。部隊の統率は取れている、それだけが彼らの救いだった。

 
 

「騎士とは労働するもの!」
イオニス・レーレ・ヴィリアスは気が狂ったように畑を耕していた。
「いやぁ、労働は気持ちがいいなぁ!」
イオニスは晴れ晴れとした笑顔を浮かべながら、額の汗を拭いていた。
ハルドはその光景を見ながら、アッシュに、イオニスを指さして見せ、その後に自分の頭を指さして見せる。
「いや、イオニスさんは正気だ。ただ、まぁ、あんな感じだから、アレな人だと思って応対したほうが良いな」
アッシュはそう言うと、イオニスと関わりたくないので、ハルドを連れてその場を去った。
「それで、どうすんの?地球に行くわけ?」
ハルドとアッシュは歩きながら話しをしていた。
「まぁ、そうなるだろうな。色々とやらないといけないことは山積みだが、僕が行かないとどうにもならないしな」
「戦力的には俺も行った方が良いんだろうが、あいにくと脱走兵扱いなもんでな、地球連合の会議には流石に行けねぇよ」
ハルドとアッシュは地球へと行く話をしていたのだが、なぜこのような話となったかは、朝にさかのぼる。

 

「いろいろ考えたんですが、地球連合と仲良くしましょう」
クリスティアンが、朝っぱらから唐突にそんなセリフを吐いた。集まっていたのはクランマイヤー王国を動かしている人間たちであり、当然、アッシュとハルドも含まれていた。
「朝っぱらから随分と楽しそうだな、クリス」
ハルドがクリスに皮肉交じりで言うが、クリスは一向に気にした様子は見せなかった。
「ええ、楽しいですよ。皆さんには内緒で地球連合に打診していた事柄についての返事が、ついに帰って来たんですよ!」
そう言われても、集まったほとんどが、はぁ……?という感じにしかならなかったし、アッシュに至っては色々と言いたいことがあった。
「クリス君は何を勝手にやっているんだ!そういうことは、報告・連絡・相談をして行うようにと、いつも言っているだろう!」
アッシュが怒ると、クリスはまぁまぁと手でアッシュをなだめる仕草を始めた。ハルドは何となくその態度がむかついたので、常備しているナイフをクリスに向かって、当たらないように投げた。
「ひぃ!」
クリスは必死になって避ける。すると、いつの間にかクランマイヤー王国の一員となっていた。ストームがハルドの真似をしてナイフを投げる。
「ひぃ!ってなんでアンタまで!」
クリスは避けながら叫ぶが、ストームはキョトンとしていた。
「あれ、これって、そういう流れじゃないの?」
ストームの常識ではナイフが投げられたら、自分も投げて良いということになっているようだった。
「昔を思い出すぜ。ロシアで公国のクソヤローにダーツしようぜ。的はオマエってやってたころが懐かしい……」
ストームは1人で昔を思い出す状態になっていたので、流してクリスは話しを進めることにした。
「まぁ、報告しなかった、僕が悪かったです。すみませんでした」
謝って済む問題なのかとセインは思ったが、アッシュは頷いているので許される問題なのだろうとセインは思うことにした。
「悪いと思ってんなら死ね」
「騎士なら腹を切るぞ!切腹の準備だグリューネルト、エルスバッハ!」
ハルドとイオニスがとんでもないことを言いだす。セインはふとエースパイロットになるには頭がおかしくないとなれないのかと、ハルドとイオニスの二人を見て思い、それならエースになれなくても良いかもしれないと思った。
「皆さん、悪口はダメですよ。いじめは見過ごしません!」
最終的に姫が、とりなしたのでハルドとイオニスは黙り、ストームも現実に戻ってきた。クリスは本気で切腹をさせられそうになり、半泣き状態になっていたが、姫が助け一命を取りとめた。

 
 

「話しを続けますね」
クリスは平気な様子を装って言うが、体は震えているし、顔面には冷や汗が残っていた。
「打診した事柄は、クランマイヤー王国も地球連合の代表者会議に参加をお願いするというものです」
とりあえず、全員黙ってクリスの話しを聞いていた。
「簡単に説明すると、クランマイヤー王国も地球連合の会議にゲストとして参加して、地球連合の後ろ盾を得ようということです。会議の議題にクランマイヤー王国への支援も加えてもらいました」
ここで、セインが気になったのでクリスに質問をした。
「なんで、今更、地球連合の協力を得ようとするんだ?」
「単純にクランマイヤー王国だけだと、影響力が弱いからです」
そう言うと、クリスは自分の構想を皆に発表し始めた。
「クランマイヤー王国は現在、色々な人の協力によって、それなり以上の力を持つコロニーにはなりました。ですが、クライン公国からの防衛になった際にはたしてクランマイヤー王国だけの戦力で守り切れるのかという疑問は消えません。
僕は、場合によっては他のコロニーが保有している戦力をこちらに回してもらうということを考えています。戦いは数ですからね。本音を言えば地球連合軍が手を貸してくれるのが理想ですが、助けたところで旨みの無い田舎コロニーに兵力は回さないでしょう。
なので、クランマイヤー王国の周辺のコロニーと軍事的な協力関係を築き、有事の際には兵力を派遣してもらいたいのです。そのためにはクランマイヤー王国がただの田舎コロニーではいけません。助ける旨みがないですからね。
だから、地球連合の後ろ盾を得ることで、クランマイヤー王国はただの田舎コロニーではなく、地球連合の御墨付きある立派なコロニーであるということを周辺のコロニーに示し、助ける旨みがあると思わせるのです」
クリスは長々と説明したが、セインはいまいち分かっていなかった。あとで説明してあげるからと、隣に座るミシィがセインに言った。とりあえずセインはそれで良いことにした。
「地球連合の御墨付きを得るということは、クライン公国とガチで戦うことを表明することにもなるが、それに関しては?」
ハルドが質問するが、クリスは平然と答える。
「どうせ、いつか攻めてくる相手です。むしろ態度をはっきりさせた方が、周辺コロニーやその他の勢力に対してアクションを起こしやすくなると僕は重います」
その答えに対して、ハルドは興味なく、あっそう、と言って終わりにした。
アッシュは頭を抱えており、クリスに尋ねる。
「あのなぁ、こういうことは事前に行っておかないとダメだろう。一応僕に話しを通しておいてくれよ」
そうアッシュが言うとクリスは悪びれる様子なく、すいませんと言うのだった。
「と、まぁ、これが僕の伝えたいことですが、皆さん賛成してくれますか」
そう言うと、全員が手を挙げた。何人かは内容が全く頭に入ってなかったが、とりあえず手を挙げていた。
「では、ナイロビでの地球連合代表者会議には参加ということで、それでは姫様、よろしくお願いします」
「はい!」
勢いよく返事をしたが姫は何が何だかわかってなかったうちの1人であった。
「おいおい待ってくれ、姫様を会議に参加させるのか?無理だろう」
アッシュがそう言うとクリスは当然のように返す。
「そりゃそうです。会議に参加するのはアッシュさんですから」
アッシュは、はぁ?となった。冗談じゃないぞとアッシュは思う。そもそも自分は亡命の身のはずだと思ったが、そんなことは関係ないらしいと、アッシュは場の雰囲気で理解した。

 
 

「アッシュは防衛大臣から摂政にクラスチェンジな」
ハルドがそう言うと、満場一致で拍手が起きた。
「防衛大臣はクリスさんですね」
姫も訳が分かってないのに、そんなことを言いだす。
アッシュは本気で冗談ではないと思ったが、誰も冗談と思っている者はおらず、アッシュ・クラインは無事にクランマイヤー王国の摂政となったのだった。
「とりあえず、防衛大臣の初仕事で地球行きのメンバーを決めますね。姫様とアッシュ摂政は当然として、一応の護衛にセイン君とセーレさん、ジェイコブ三兄弟も行きますよ。あとコナーズさんに地球への降下艇を操縦してもらいます」
ハルドはいないのかと全員が思ったが、ハルドは苦笑して首を横に振って言う。
「俺、脱走兵だから、地球連合やつらが多いところはまずいんだよ」
つまりは、クランマイヤー王国は最強の戦力の1人を置いて出発するということになるのかと、多くのものが、不安を感じた瞬間だった。

 

そして、時は進み昼頃、ハルドとアッシュは連れ合って歩いていた。
「まぁ俺がいなくても大丈夫だろ、摂政様がいりゃあな」
「次に摂政と言ったら、怒るぞ」
アッシュは疲れ切ったように眉間を抑えていた。拉致されて気づいたら摂政とは訳が分からないな人生は、とアッシュは考えざるを得なかった。
「ま、複雑に考えずに、地球観光でもするつもりで行って来いよ。こっちはこっちで勝手にやってるからさ」
それが一番心配だとアッシュは思う。ブレーキ役がいないのを良いことに好き勝手をしそうな人間ばかりだからだ。
「僕は一応だが、各所の見回りをしてくる」
「そうか、俺は酒場でメシ食ってるから、終わったら来いよ」
そう言って、ハルドは去って行った。そしてアッシュは地球行き直前に色々と念を押しておかなければいけない人物の所へ行くことにした。

 

「どうも、アッシュ摂政」
ここでも摂政かとアッシュはウンザリする気分だった。
レビーとマクバレルは珍しく、MSを弄っていなかった。2人が眺めているのは、この間、鹵獲した戦艦である。
「とりあえず、これをウチの艦に直しときますね」
レビーが普通に言う。それに対してアッシュは、ああ頼む、と言いそうになったが、冷静に考えると窃盗である。
「くれぐれも、クライン公国の艦だとばれないように改修してくれ」
仕方ない仕方ないんだとアッシュは苦渋の思いで、そう言った。なにせクランマイヤー王国に戦艦を建造するような時間と予算は無いわけで、ある物を奪って使うしかないのだ。
「とりあえず、何事もやりすぎないように」
アッシュはレビーとマクバレルの二人にそう言って、去った。
次はユイ・カトーである。このゲス女は平気で公金を横領するからタチが悪い。
「横領?してませんよ」
平気な顔で嘘をつく、アッシュはどうしてやろうかと何度も思うが、ユイ・カトーがいないと国が回らないので、どうしようもない。必要悪というものだと思って見逃すことにした。
「とりあえず、何事もやりすぎないように」
「わかりました!」
返事だけは良いんだよなぁ、このゲス女とアッシュはウンザリしながら、その場を去った。
そして最後に向かったのは酒場である。よくよく考えたら一番マズい人間が自由の身になっていることを思い出したのだった。
ハルド・グレン。とりあえずヤバい人間である。そのヤバい人間は普通に食事をしていた。
「おう、早かったな」
ヤバい人間は気軽に挨拶をしてくるが、とりあえずアッシュは言っておかなければならないことがあった。
「とにかく、余計なことはするなよ」
アッシュは念押しのつもりで言ったが、ハルドは何言ってんだという感じであった。
とにかくアッシュは自分が帰って来るまで国がマトモであるといいなと思いながら、ヤケクソ気分で昼間からビールを頼んだのだった。

 

そして数日が経ち、アッシュと姫は護衛の何名かと一緒にクランマイヤー王国を出発した。アッシュは最後まで危険人物たちに、余計なことはするなと念を押したが、無駄だった。
アッシュがいなくなると同時にクランマイヤー王国の危険人物たちは好き放題を始めるのだった。

 
 

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