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GUNDAM EXSEED_B_32

Last-modified: 2015-06-26 (金) 13:50:52

「地球って楽しみです」
地球への降下艇の中、姫ははしゃいでいた。一度も行ったことのない場所は楽しみなのだろうとアッシュは思った。
「地球ってどんな感じの場所なんですか?」
セインもわくわくとした気分を抑えられないようでアッシュに尋ねる。他のものも聞き身を立てている。アッシュは地球へ行ったことがあるのが、自分とクリスだけなのかと気づいた。
「別に普通の場所だよ。そんなにコロニーと変わりないさ。ただ、地平線に沈む夕陽だけは、もう一度、見てみたいかな」
少しカッコをつけた物言いになってしまったが、アッシュの本心としてはそんなものである。アッシュ自身はコロニーと地球の違いをたいして気にしたことが無かった。
「やっぱりカッコいい……」
マリアがぼそりとアッシュを見て呟いた。それを横で聞いていたセーレもなんとなく同意した。
「確かにアッシュ殿は男前だな」
セーレは普通に言ったが、それが間違いである。
「セーレさん……まぁ、いいです」
マリアはセーレの鈍感さに付き合いきれなかった。女同士というのに理解力が無さ過ぎると言いたかった。しかし、言っても仕方ないのでマリアは諦めた。勝手に諦められたセーレはどうしようもなかったが、それにすら気づかなかった。
そんなこんなで数日が経つ。クランマイヤー王国から地球までは降下艇の速度では、数日がかかった。アッシュとしてはノンビリとした旅と考えるようにしたが、若者はそういう訳にも行かず飽きはじめていた。
しかし、そこへ、コナーズの艦内放送が入る。
「えー、もうすぐ地球、地球です。とりあえず降下するんでシートベルトをよろしくお願いしますね」
降下艇内の全員がシートベルトをして、降下に備える。圧力はすぐに来た。大気圏突入の圧迫感である。アッシュは別段何ともないが、初めてのものは少し慌てていた。
「少しの時間だよ」
アッシュが軽くそう言うと、慌てている者も落ち着いた。そして実際、少しの時間で、大気圏突入は終了した。
「はーい、地球でーす。シートベルト外していいですよ」
コナーズが船内放送で伝えると、皆がシートベルトをはずし、降下艇内の窓に駆け寄り、外の風景を見る。
こんな上空じゃ見えるものもないとアッシュは思ったが、初めて地球に来ればこうもなるかと思った。
「んじゃ、アフリカのナイロビに降下します」
ナイロビか、とアッシュは考える。会議を開くにはあまり良い場所ではないなと思った。
「ナイロビは下策ですね」
気づくと隣の席にはクリスが座っていた。クリスも地球生まれなので、外の景色には興味が無いようだった。
「キミもそう思うか」
「当然です。ナイロビは南アフリカ統一機構の首都で地球連合の重要な一画ではありますが、クライン公国の手が伸びてる北アフリカと西アフリカの現状を考えると、ナイロビは位置的に危険が大きいですよ」
アッシュは眉間に手を当て考える仕草を見せてから、クリスに言う。
「それでも、ナイロビの会議を選んだ理由があるんだろう?」
そう言うとクリスは肩をすくめる。
「残念ながらタイミング的にここしかなかったというだけです。僕の予想ではアフリカは近いうちに落ちますね。そうなると、クライン公国は宇宙の統一に動き出すので、早いうちに地球連合と話しをつけるにはこの会議しかなかったわけです」
となると、危険は大きいという訳か。そうアッシュが思った直後だった。降下艇を衝撃が襲った。

 
 

「ちょっと距離が遠すぎですねー、外しましたー」
アリスはノンビリとした声で、イザラに報告する。イザラは別に気にしなかった。
「まぁ、そういうこともある。外したなら無視でいいだろう」

 

アッシュは急いで降下艇の操縦席へと駆け込み、コナーズに尋ねる。
「何が起きた?」
「攻撃です!どこからは分かりませんが、航行には影響はないです!」
そうは言っても、攻撃を受けた以上、漫然と飛んでいるわけには行かない。
「上昇は?」
「――無理です!どっかが、いかれました!」
アッシュは操縦席の窓を見るが、段々と高度が落ちている気がした。

 

「あれ?かすったみたいですよー、あの船、高度が落ちてますねー」
「じゃあ、もう一発狙ってくれ」
イザラは取り敢えずの指示をアリスに出した。

 

「状況が悪いな……」
アッシュは現状を考え指示を出す。
「MS隊発進!ジェイコブ三兄弟は降下艇の護衛。僕とセーレ、セインは、砲撃してきた相手を仕留めるぞ!」
そう言ってアッシュは急ぎ、降下艇の格納庫へ向かった。

 

「あれ、MSが降りてきますねー」
アリスは、自機の強化されたメインカメラに映った映像を隊長代理へと報告する。
「ふむ、やはり戦闘部隊が乗っていたな。この時期にナイロビに来るならそうだろうと思ったよ」
イザラの乗るクライン公国のMSシャウトペイルが右肩の大型シールドとバックパックを連結させたサブフライトシステム“ブースターボード”に乗る。
「全機は揃ってないが、ガルム機兵隊、戦闘用意だ!」

 

「いけるか、セイン君?」
アッシュはキャリヴァーに搭乗し、ブレイズガンダムに搭乗しているセインに尋ねる。
「風があるのが、なんとも、変な……」
「変に風を意識しないことだ。MSの推力の方が上だから、大丈夫。それより砂の上での戦闘だというのを忘れるな。出撃前に足裏の設置圧を砂上に設定するんだ」
それを言い終わるとアッシュのキャリヴァーは降下艇から飛び降りた。続いてセーレのフレイド大気圏内仕様が飛び降り、それに遅れてセインのブレイズガンダムが飛び降りる。
「ジェイコブ、やることは?」
「降下艇の護衛です!」
アッシュは言いたくないが、最低の命令を下した。
「弾が降下艇に飛んで来たら、自分の機体に直撃させてでも、弾を止めろ!いいな!」
「了解です!」
そう言っている内に、砲弾が降下艇に向かって飛んできた。アッシュのキャリヴァーは何でもないことをするように砲弾をビームライフルのビームで撃ち落とす。
「むむー、多分あたりませんよー、イザラさーん」
アリスが報告するが、イザラも見ていた、肩と腰に翼を持った見たこともない灰色のMSが砲弾をビームライフルで撃ち落としたのだ。
「おもしろそうだな」
イザラの口元に笑みが浮かんだ。あの灰色の翼持ちは並の腕ではなさそうだとイザラは思い、ガルム機兵隊各員に伝える。
「灰色鳥は私の獲物だ。誰も手をだすなよ!」
そうイザラは言うと、乗機のシャウトペイルを高速で飛翔させた。
「灰色鳥って?」
ギルベールがドロテスに聞く。ドロテスは煙草を口に咥えに火を付けて、一服してから答える。

 
 

「翼が四枚あって灰色だから灰色鳥なんだろ」
ドロテスはギルベールの頭でも分かる程度の説明をしてやった。これで分かるだろうとドロテスは思った。しかしイザラも直情的だ。隊長代理としてあれでいいのかとドロテスは思う。
しかし、隊長代理ではない自分たちは同じ真似をしても何の問題も無い。
「ドロテスよぉ」
「奇遇だな、俺も見つけた」
ドロテスとギルベールの2人は、仕留め損ねた獲物を見つけたのだった。
「ガンダムタイプは俺とドロテスだ!邪魔ぁすんな、アリス!」
ドロテスの操る褐色のザイラン、ギルベールの操る赤色のザイランがセインのブレイズガンダムに向かって飛びかかって行った。
「勝手な人たちだなー」
アリスはコックピットで頬を膨らませていた。するとアリスの目の前に、大型のMSが降りてきた。
「私の相手してくれるんですかー、でもー、私って強いですよー」
アリスのピンクのザイランの前にはセーレのフレイドが立ちふさがっていた。
「一応、私も強い方だがな」

 

「ひっさしぶり三流!」
ギルベールの赤いザイランが右手に持った鉄球を、セインのブレイズガンダムに投げつけてくる。
ブレイズガンダムは鉄球を受けることはせずに、回避の選択肢を取った。そしてセインはここが問題の瞬間だと理解している。
「俺たちを忘れてないよな。三流」
この二機は連携してくる。セインは、この後の敵の攻撃は予想がつき、即座に回避運動に徹する。そして褐色のザイランがビームライフルを二丁持ちで連射してくるのを全て回避した。
そして回避したタイミングで、赤色が仕掛けてくる。セインは頭の中でこの二機との戦いは何度もシミュレーションしていた。
そしてそのシミュレーション通りに赤色が突撃してくる。だが、これはフェイントだとセインは思い、赤色は無視して機体を大きく後退させると、ブレイズガンダムのいた場所をバズーカの砲弾が通り過ぎていった。
「へぇ」
「おお」
ギルベールもドロテスも感心した声を出した。反撃こそされていないが、攻撃が全て回避されたことに対しての賞賛である。
「三流から二流ってとこじゃね?」
「まぁ、もう少し試してから判断だな」
赤色のザイランと褐色のザイランは共に地面に着地した。セインのブレイズガンダムも着地する。空中で下から攻撃されるのはセインが怖かったためである。
「高さの有利を捨てるか?」
「下からの攻撃されんのこえーんじゃね」
通信はセインにも届いている。その通りだとセインは認めて、相手の動きを伺う。この二機を相手に先手を取るのにセインは恐怖があった。
この二機の連携は想像を絶するレベルで高い。二機が一つの機体のように動くとセインは感じていた。迂闊な攻撃や動きは手痛い反撃の元となる。セインはそう考えていた。
「動かねーんなら、こっちからっと」
赤色のザイランが鉄球を投げる――ふりをして、褐色の機体がビームアックスを投擲する。それと同時に赤色のザイランがウインチクローを発射する。
セインは盾を捨てることにした。ビームアックスの投擲をブレイズガンダムがシールドで受け止めた直後にシールドずらし、わざとウインチクローをシールドで受ける。
「ありゃ、釣り失敗」
相手の声が聞こえた瞬間、ウインチクローのワイヤーをブレイズガンダムのビームライフルで焼き切る。

 
 

「ばーか、耐ビームコーティングぐらいしてあるって、あれぇ!?」
ブレイズガンダムのビームライフルはいくつかのモードがある。セインはその内のバスターモードを使い、通常の三倍の威力のビームでワイヤーを焼き切ったのだった。
「甘く見過ぎだ」
ドロテスの声と共に褐色のザイランがブレイズガンダムに突っ込んでくる。
片手にビームアックス、片手にビームライフルという装備。セインもブレイズガンダムに同じ装備をさせる。右手にビームライフルそして、左手にビームサーベル。
「この距離の戦いは好きか」
褐色のザイランは目と鼻の先である。敵の声が聞こえた。セインは頭の中で答える。大嫌いだと。
褐色のザイランのビームライフルの銃口がセインの目に映る、それと同時にブレイズガンダムはビームライフルで相手のビームライフルを殴り、銃口を無理矢理に下へと向ける。それと同時にビームアックスがブレイズガンダムを襲うが、その速度は対応できる範囲だった。
「遅い!」
セインが叫ぶと同時にブレイズガンダムの左手のビームサーベルは切り上げられ、褐色のザイランの顔面にかすり傷をつける。
その途端に褐色のザイランは後退をし、赤色のザイランと並び立つ。
「ギルベール、二流だな」
「ああ、ドロテス、二流だ」
二人の声が聞こえた瞬間だった。セインは二機のザイランから圧倒的な殺気が発せられるのを感じた。
「名前を聞いておこうか二流」
セインは殺気に気圧されながらも、答える。
「セイン・リベルターだ」
セインは喉を振り絞って答えた、それほどまでに、目の前の二機の圧力は異常だった。
「オーケー覚えた」
「こちらもだ」
二人のパイロットの声が聞こえた瞬間だった。セインは今までにない危険を感じた。間違いなく、殺されると、そんな予感に襲われたのだ。
だが、その直後、何が起きたのか、二機のザイランはブレイズガンダムに背を向けて去って行った。
「悪いがこちらは仕事持ちでな、遊びはできん」
「次は楽しくやろうぜ、セイン」
褐色と赤色のザイランの2機は去って行った。セインには訳が分からなかった。だが、あの二機と渡り合えた、それはセインにとって大きな成果であった。

 

アッシュの目の前には長大な対艦刀を持ち、サーフボードのようなサブフライトシステムに乗った見たことのない機体が迫っていた。
アッシュは対艦刀の存在を危険と判断し、接近戦はしたくなかったため、相手から距離を取ることを選択したかったが、空中戦ではサーフボードに乗った敵の方が速かった。
「そらぁ!」
対艦刀が横薙ぎに振るわれたのを、アッシュのキャリヴァーは空中で宙返りするように回避し、その最中にビームライフルで反撃する。しかし、相手の速度の読みが足りないのかビームは空を切る。
「やめてくれないか、こちらはクライン公国の敵対国ではないし。こちらの船にはVIPが乗っている。攻撃はやめてくれ」
よくよく考えればおかしい話しである。これからクライン公国の敵になるための会議に行く上に、そもそも自分が摂政で世間的に見たらVIPだ。
「関係は――」
長大な対艦刀が尋常ではない速度で閃く。
「ない!」
アッシュのキャリヴァーはそれでも容易に対艦刀を回避する。相手の腕が悪いとは思わないが、勝負にならないとアッシュは思う。少なくともハルドと同じレベルの相手でなければ戦いにはならないとアッシュは思った。

 
 

「私を舐めているのか!」
対艦刀とサーフボードを使った高速の攻撃は読みづらく、恐ろしく速いが、それだけでアッシュは別に怖いとも思わなかった。
「舐めてはいない。キミの実力の高さも評価しているが、僕の相手にならないだけだ」
そして、アッシュは自分の中の力を解放する。。それはSEEDの力だ。力が解放された瞬間世界の速度が自分の物になるような感覚をアッシュは得た。
そして、その感覚に任せて機体を操縦する。動きは別に大したものではない。ビームライフルをしまい、ビームサーベルを二刀流に構え、アッシュの感覚ではゆっくりと動く相手をビームサーベルで切り刻むだけである。
そして時間の間隔はアッシュからイザラへと移る。イザラは何が起こったのか分からなかった。気づいたら機体は凄まじい衝撃を受け、両腕を失っている。一瞬だった。一瞬でこれか灰色鳥!イザラは歓喜を覚えていた。
「家なんかどうでも良い。そうだジュール家なぞどうでも良い。お前が欲しいぞ灰色鳥!お前を必ず私の前に屈服させ、私の物にするぞー!」
落ちていく機体の中からの声はしっかりと聞こえていた。アッシュはゲンナリとする。図らずも狂人をまた一人作り出してしまった。神は自分を狂人処理機にしたいのかとアッシュは絶望の思いに囚われるのだった。

 

セーレのフレイドは砲弾の雨を突っ切り走っていた。
「おねーさん。すごー」
敵からの賞賛も悪いものではないと思いながら、セーレのフレイドは新装備といって渡されたビームスピアをピンクのザイランに突きつけた瞬間だった。ピンクのザイランは不可思議な動きで、スピアの軌道を避ける。
「その重武装でなぜ!」
セーレは理解ができなかった。アリスは久しぶりマトモに付き合ってくれる敵にサービス精神で説明した。
「重武装だから、体捌きだけで回避しないとー」
そうアリスが言うと再び砲撃が開始され、その中をセーレのフレイドを駆け抜け、アリスのザイランに一太刀を入れようとする。
その瞬間だった、アリスのピンクのザイランが全ての武装をパージした。
「こういう勝負がしたいんですよねー、おねーさんー」
全ての武装がパージされたアリスのザイランはスマートに見えた。しかし物騒にビームダガーを握っている。
「良くないな」
アッシュはそう思い、上空から、セーレのフレイドとピンクのザイランの間にビームライフルを撃った。
「キミらの隊長らしき人物は僕が落とした。一度撤退してくれ」
アッシュがそう言うと、以外にも敵は素直に撤退をしたのだった。

 

「ああ、灰色鳥、灰色鳥、灰色鳥……」
撤退の最中、イザラはずっと灰色鳥と呟いていた。
「セイン、いいじゃん」
「ああ、面白くなってきた、あのセインとか言うガキ良いぞ」
アリスは自分だけ、面白い相手と会えなくて不満だった。
しかし、まぁいいだろうとアリスは思う。この後のナイロビの戦いがあれば面白い相手などいくらでも見つかると思ったのだった。

 

「コナーズさん、降下艇は大丈夫ですか?」
「まぁ飛ぶのは良いですが、MSを今更乗せろってのはどうも無理が」
アッシュは仕方ないと思った。ナイロビまでの距離はそれほどでもない。MSは個別に推進剤を使いながら、飛行し降下艇を追う形となった。
みっともないが、アッシュたちは無事にナイロビに辿り着いた。そして直後に尋問が始まる。当然である。MSを展開したまま首都に突っ込んで来れば普通の神経なら尋問なりなんなりするだろう。
アッシュたちが尋問でウンザリし、誤解を解いて無事にホテルに帰ると、ホテルの部屋には先客がいた。
「アラン・マイルズ中佐です」
そう名乗ったのは長身でさっぱりとした角刈りの男性であった。アッシュは自分たちの監視役だと思った。こう言う時ハルドがいると外傷を与えない拷問で精神的に屈服させてくれるのだが、いないのが惜しかった。
アッシュは一応伝えておくべきことを、マイケルズ中佐に伝えた。
「クライン公国部隊とナイロビ近郊で接触しました。会議に際しての襲撃があると思われるので警備は厳重に」
アッシュは取り敢えず伝えたが、マイケルズ中佐の反応は曖昧だった。アッシュは役に立たないと即座に判断し、その日は眠りについた。

 
 

ロウマ・アンドーは宇宙の軌道上の要塞で面倒な降下部隊の編成を行っていた。
「くそ、うぜぇ、全員死なねぇかな」
そんなことを言いながらもロウマは編成を完璧に仕上げた。
「降下部隊の編制、終了しました」
ロウマは敬礼をして報告をする、相手はロウマより階級の上の相手だからだ。
リオネル准将、たいした武功もないが、家柄で准将に登りつめた相手だ。ロウマはこの男が死ぬほど嫌いだった。
「ご苦労、アンドー大佐」
リオネル准将はそれだけ言うと、ロウマを見る。
「きみもなかなか大変だね。准将の席が空かなくて、苦労してるそうじゃないか」
その声を聞いた瞬間、ロウマはこの男をぶち殺してやろうかと思ったか、理性が勝って、それはなされなかった。
「まぁ安心したまえ、この作戦が成功したら、私は少将になり准将の席は空くよ」
ああ、そうですかとロウマはリオネルの言葉など聞いてなかったし、失敗するように色々と策は練った、ロウマはリオネルが幸せな顔をして部屋を出ることはないようにしておいた。どんな邪魔が入ってもだ。
作戦開始の時を今か今かと待つのはリオネル准将と、ロウマ・アンドー大佐も同じであったが目的には極めて大きな違いがあった。

 

ナイロビに付いた当日は、アッシュたちは疲れから眠りについてしまったため。その翌日からアッシュたちは会議に向けての準備を始めた。
アッシュたちがまず手を付けたのは服装であった。アッシュは正装というものを久しぶりにした。地球連合の首脳たちと会っても失礼のない格好を自分と姫はしておく必要があった。
「うごきづらいですー」
姫にはドレスを用意した。アッシュの見立てでは姫が着るのならばこれしかないと思った。
あとはアッシュが気になることは。
「護衛役はどうなりますか?」
アッシュは昨日から自分たちにくっついているマイケルズ中佐に質問した。返ってきた答えは淡白であった。
「護衛は地球連合の兵が固めます」
アッシュとしては、そうですか、としか言いようがなかった。そうなってくると、セイン達の居場所が困ることになる。
「僕の読みでは間違いなく、会議中に襲撃がありますね。不幸なことに、宇宙からナイロビへの降下ラインはクライン公国が掌握してるんで、最悪、MS隊が降下してきますよ」
クリスがこともなげに言ってのける。状況は良くないということだ。
「クランマイヤー王国のMS隊も会場の警備に当たらせますが、よろしいですね?」
アッシュはクリスの言葉を聞き、そう決断しマイケルズ中佐に伝えた。
マイケルズ中佐の顔に一瞬侮りが見えたが、アッシュは仕方ないと思う。何も知らなければ、こちらは田舎の小国の数機のMSであり、戦力にはならないと思うだろう。だが、そう思われてもアッシュはセイン達を遊ばせておく気にはなれなかった。
「一応、警備の隊には伝えておきます」
マイケルズ中佐はそう言っただけだった。全面的に頼りにできそうな人物ではないが、これくらいの用事なら任せてもいいだろうとアッシュは思った。

 

「俺らも警備かー、まぁすることあるわけでもないけどなぁ」
ジェイコブはホテルの部屋でノンビリとしており、セインも同じく、その部屋にいた。
「地球って言っても、コロニーとあまり変わった感じしないしなぁ」
セインは拍子抜けしていた。地球というのはもっと何か名状しがたいが凄い場所だと思っていたのに、着いてみれば天井が無くて代わりに空があるだけでコロニーと一緒だと思った。
「ただいまぁ」
急に扉が開いて、ペテロとマリアが袋を持って入ってきた。
袋の中身はセイン達の昼食である。若者たちはファストフードのハンバーガーにしてみたのだった。クランマイヤー王国にはチェーン店が少ないので、こういう物を食べる機会も少なかったので、若者たちは満足して食事をした。
「うん、なんか都会的な味」
ペテロがハンバーガーを食べながら言うが、日頃のペテロの食事ぶりは味を理解しているようには見えなかったので、一同は味の評価は無視して各々食べてみる。味は、そこそこというところだった。
その頃、アッシュと姫と護衛役のセーレはVIPということで、地球連合の南アフリカ統一機構の外務大臣に昼食に招待されており、高級な料理に舌鼓を打っていたのだった。

 
 

「レーションですー、ご飯ですよー」
アリスがMSのコックピットで寝ているガルム機兵隊の面々を通信で叩き起こした。
野営時の食事はガルム機兵隊の面々の間では罰ゲームの一種だった。
「今日はガウンさんですよー」
つまりは怪しい薬草やら謎の肉が入った粥かと思い、全員がゲンナリする。
「……」
ガウンは何も言わず、全員の皿に粥をよそうと、無言で手を合わせ食べ始めた。ほどんどが食いたくないと思ったが、食わねばならぬのが、ガルム機兵隊の鉄の掟だった。
ゼロが平気な顔で粥を口に入れたが、その瞬間、ぺっぺっと吐き出す。
「駄目だよー、ゼロ君―、吐き出しちゃー、ガウンさん傷ついてるよー」
アリスがゼロの背中をさする。さしものゼロも毒物への耐性は備えていなかったようで、無表情とはいかずに目に涙を浮かべていたが、懸命に食べていた。
「……」
ガウンは何も言わなかったが、確かに傷ついている様子だった。これで自分たちが食べないのも可哀想だとイザラたちは思ったので、仕方なく粥を食った。するとイザラたちは毒状態になった。

 

数日はあっという間に過ぎ、地球連合代表者会議の日となった。アッシュと姫はマイケルズ中佐に付き添われながら、朝早くに、議場へと出発した。対してセイン達はノンビリと自分たちのMSの置いてある場所へ向かうのだった。
「あれ、これ地図、おかしくね」
ジェイコブが気づいて言う。セインも地図を見たが、確かにおかしかった。自分たちの警備場所はナイロビの端も端で議場からは異常に離れている。
「つまりは、のけ者にされたというわけだ」
のけ者にされることに慣れているセーレが答えを出した。セイン達は色々と文句を言いたいこともあったが、今更どうこういう訳にもいかない。
会議が始まっているのに警備場所に付いていませんでしたではシャレにならないしクランマイヤー王国の恥となると気づき、セイン達はノンビリとした態度から打って変わって大急ぎで、警備場所まで向かうのだった。

 

「緊張してますか、姫様?」
アッシュは車の中で優しく姫に尋ねた、姫は頑なな様子で首を横に振る。
「大丈夫です。皆がんばってるのに、私だけ失敗なんてできません」
姫は強く言った。アッシュはその言葉に少し困った表情になる。
「だったら、その顔はダメですよ。皆、姫様の笑顔を見たいのです。姫様が笑顔でいてくれれば、それだけで成功なんですよ」
そう言うと、アッシュは優しく姫の手を握った。
「……アッシュさん……ハルドさんに振られた時はアッシュさんと結婚します」
あれ、こういう話しだったかとアッシュは話が変な方向に流れるぞと思った。そして摂政が姫と結婚など典型的な悪人のような気がしてアッシュはそれだけは嫌だった。
「結婚相手はゆっくり探しましょうね」
アッシュとしてはそれしか言いようがなかった。そうしているうちに、車は議場へとたどり着いた。

 
 

宇宙では作戦の準備が進められていた。
そんな中、ロウマは手持無沙汰にボンヤリと施設内を歩いていると偶然知り合いと出会った。白髪を乱暴に伸ばした老人である。ロウマはその姿を見るとすぐに声をかけた。
「バルドレン博士」
声をかけると老人も気づいたようだが、ロウマの姿を見ても不機嫌に鼻を鳴らすだけだった。
「人の道に新たなる火を」
「人の道に新たなる火を」
バルドレンはプロメテウス機関の一員、そしてEXSEED計画の責任者でもあった。
「博士がいるってことは、EXSEED投入?」
ロウマは興味本位で聞いてみたが、バルドレンは極めて不機嫌な様子で答えた。
「EXSEEDではなく、EXSEED用MAを御所望じゃよ。軍はな。あのリオネルとかいうクソボウズがワシにエクシーダスを貸せと言いおった」
「で、貸したんだ」
「貸すに決まっとるだろう、ワシも軍の金で研究しとるんじゃぞ、拒否などできるか!」
バルドレンはリオネルに向けるべき怒りをロウマに向けていた。
「まぁエクシーダス兇犬磧∨が一にも撃破されることはないだろうし戦果もあげてくれるじゃろう。ワシはそれで我慢する!」
そう言うと、バルドレンは怒りをあらわにしながら立ち去って行った。
ロウマとしては参ったという感じだ。バルドレンの爺さんが噛んでいるとなると状況は大荒れになるとロウマは予想できた。これでは、自分の計画も上手く行かないかもしれないなぁ、とぼんやりと考えるのだった。

 

代表者会議は粛々と進められていた。特に大騒ぎになるような議題もなく、各国のクライン公国への対策もアッシュが理解できる範囲では極めてマトモだった。そして会議が終盤になる。
そろそろ、クランマイヤー王国関係の議題だった。
「それでは、次の議題、クランマイヤー王国への地球連合の支援についてです」
進行役が議題を読み上げた、自分の出番かと、アッシュは思い、立ち上がろうとしたが、姫様が早歩きで、壇上へと昇って行ってしまった。
ちょっと待て、これはマズいぞ。アッシュは冷や汗をかき、どうしたものか考え込んでしまった。議場内は小さな少女がドレス姿で壇上にあがっていることにざわついている。
「皆様、はじめまして、クランマイヤー王国の王女、アリッサ・クランマイヤーです!」
姫はマイクが付いているのにも関わらず、大声で言い、そして深々と礼をする。
「偉い人の皆さんにお願いがあります。クランマイヤー王国を助けてください!クランマイヤー王国でも頑張ってクライン公国と戦う準備はしてますけど、それだけでは足りないらしいので、地球連合の人達の協力が必要らしいんです。
だから、協力してくれることを約束してくれると嬉しいです」
ああ、どうしたものかとアッシュは思う。議場内の雰囲気は悪くはないが、それは姫が可愛らしく見た目が良い女の子が必死に訴えかけているのが受けているだけだ。
しかし、ここで自分が出ていくのも状況的にマズい気がするとアッシュは思った。ここで出ていくと、何だか悪い摂政が姫の必死の訴えを邪魔している感じになるようにアッシュは思ったからだ。
「いやぁ、大したものです。私の孫より随分としっかりしていらっしゃる」
近くの席の老人たちからは、そんな話ししか聞こえて来なかった。
そんな中、ある中年の男性が手を挙げる。質問だろう。これはマズイとアッシュは思った。
「貴国ではクライン公国と戦う準備とは具体的に何をしていらっしゃるのですかな」
よしとアッシュは思った。これなら姫にも答えられるぞと思った。
「自国産のMSの建造と基本的な物流の見直し、それによる国の収入のプラス化、防衛施設の建造です」
ほう、と姫がよどみなく答えたので質問者は感心したようだった。
これは自分も回答の一例として用意しておいたものだ、姫が盗み見をしていたのだろう。アッシュは姫の盗み見もたまには役に立つと思った。

 
 

壇上の姫はアッシュには冷静に、そして何故か別人のようにも思えた。
「質問の時間かもしれませんが、私に言葉を言わせてください。私はお父さんから、言葉こそが人を動かすと言われてきました。しかし、未熟な私には、その実感はまだありません。
ただ、そんな未熟な私にも手を差し伸べてくれる人たちが大勢います。私は彼らに恩返しをしたいのです。そのためには、皆さんのご協力が必要になります。
未熟な私には、あなた方に、今すぐ与えられるものはありませんが、いつか必ずお返しをするので、どうか私たちを助けてください」
姫はそう言うと深々と一礼をして壇上を降りていった。言っていることは陳腐だが、アッシュは何か恐ろしい物を感じた。完全にこの姫の虜となっていたのだ。
おそらく議場内にも同じ気持ちになったものがいたに違いない。姫が壇上から降りても、議場内は沈黙に包まれていたが、やがてまばらに拍手が起き、そしてそれは段々と広がり万雷の拍手となったのだった。
アッシュは危険だと思った。この少女は危険であると。姫はアッシュの顔を見て笑顔を浮かべているが、アッシュはその笑顔を今は子どもの物と考えることは出来なかった。怪物である。アッシュは、この少女こそが一番の怪物なのではと思ったのだった。

 

「さて、作戦開始だ」
リオネル准将は淡々と、そう言った。ロウマは盛り上がらねぇ作戦開始だと思いながら、議場の様子をテレビで見ていた。やはり器が違うと、あの姫のことを見ていた。怪物のランクをつけるなら、堂々一位だとロウマは思った。
ロウマはすることも、やりたいこともなかったので、衛星軌道上にある、宇宙空母の司令部の隅に座りながら、ノンビリと茶を飲んでいた。
ロウマの視線の先では、降下ポッドに積み込まれたMS部隊がナイロビへと落ちていく。まぁ、よくこんなつまんない戦いで命を落とせるなぁ、一兵卒は、とロウマは馬鹿にしながらその光景を眺めていた。

 

ナイロビの端で警備任務に当たっていた、セインとジェイコブ三兄弟にセーレは、轟音が空から聞こえてきたので、機体を真上に向けた。
「セイン、上!」
マリアが叫ぶが、叫ばなくてもセインも見ていた。しかし落ちてくるのが何かは分からなかった。だが、横ではセーレのフレイドがビームライフルを構え、落ちてくるもの狙いをつけて、ビームを発射していた。
「クライン公国の降下ポッドだ。迎撃しろ!」
セーレにそう言われ、セイン達の機体も慌ててビームライフルを構えて、降下ポッドを狙うが、距離が遠すぎて、当たらない。
「当たらなくても、とにかく狙え。ここに対空防衛用の装備が万全にあるとは思えない」
つまり敵はナイロビに降り放題ということかとセインは思った。
「こんな端じゃ、何も出来ないでしょう!姫とアッシュさんを守るなら、中心部にいかないと!」
ジェイコブが提案し、セインもそれは同意だった。
「わかった。現状、この地点は警備の意味が薄いので放棄し、ナイロビ中央部、最重要目的地は議場だ。そこに向かう」
セーレは現状、指揮官であったので命令を出し、クランマイヤー王国の機体を中央部に向かわせたのだった。

 

「さて、私たちにも仕事があると、ロウマは言ったわけだが」
仕事がこれとはな、イザラを含めガルム機兵隊はナイロビから少し離れた地点で待機していた。
「ロウマからの追伸では作戦は絶対に失敗するので、ガルム機兵隊が退路を確保し、しんがりとして働くようにとある」
「つまりは延々待機かよ」
ギルベールがウンザリといった口調で言う。
「まぁ暇なのもいいだろう、たまには。それにロウマが言うには作戦は失敗するのだろう?」
ドロテスは口に咥えていた火の付いた煙草の灰を携帯灰皿に落とす。
「奴の読みが当たるのは確実だが、失敗するところも見てみたいな」
イザラは意地悪く笑うと、コックピットのシートにゆったりと身を預けた。

 
 

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