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GUNDAM EXSEED_B_35

Last-modified: 2015-06-26 (金) 13:58:35

アッシュたちが宇宙に戻ると、小型船の合流地点には、見たこともない戦艦が待機していた。識別はクランマイヤー王国となっている。
「ずいぶんと立派な艦をお持ちなんですね」
マイケルズ中佐に、素直にそう言われたが、アッシュの頬は引きつっていた。
「ええ、まぁ」
アッシュはこんな戦艦の存在など知らない。アッシュの目には銀色に輝く戦艦が映っていた。
艦の姿はシンプルである。武装兼ブースターユニットが両脇に付き、真ん中に剣のようにまっすぐ伸びた艦の本体がある。両脇のユニットからは大きく翼が伸びているが、これはスラスターユニットも兼ねているようだった。
武装に関しては、良く分からないが、中央の本体に二連装のビーム砲が二門ついているのは外観から把握できたがアッシュの知るクランマイヤーの技術者コンビが武装に手を抜くわけが無いので、武装は隠されているが相当だろうとアッシュは考えた。
やりすぎないように言った記憶がアッシュにはあったが、これはやりすぎの範囲ではないのだろうかと思った。そうアッシュが色々と考えを巡らせている時、銀色の戦艦から通信が入った。
「こちらクランマイヤー王国所属、戦艦シルヴァーナである。艦長のベンジャミン・ドレイクが姫の迎えに来たぞ」
シルヴァーナというのか、あの戦艦はとアッシュはボンヤリ思った。しかし、わざわざ戦艦で来なくてもいいだろうとアッシュは思いながら、戦艦を見ていると戦艦からMSが発進した。
「よう、楽しかったか、地球は?」
通信にハルドの声が紛れ込んで来た。そして戦艦から発進したMSも見たことがないものである。
通常のMSより一回り小さく、シンプルな、としか言いようのない機体であった。特徴的なのは頭部のサイズと比較しても大きなブレード状のアンテナである。おそらくこれも自分がいない時に技術者コンビが開発したのだろうとアッシュは思った。
「マルトスって名前だ。良い機体だぞ。小さいけれどジェネレーターはそのままで、パワーは普通のMSとほぼ同じ、小回りとかスピードは上っていう機体だ」
説明されてもアッシュはどうでも良かったし、とにかく色々と余計な情報が入ってきて、頭がぐらつきそうだった。
「もういい。護衛なら護衛で、とにかくクランマイヤー王国まで連れて行ってくれ」
アッシュがウンザリとした声で言うと、了解という声が複数返ってきて、戦艦とMSは動き出し、アッシュたちが乗っている小型船も動き出したのだった。

 

アッシュたちは戦艦シルヴァーナの護衛で無事にクランマイヤー王国に辿り着くことが出来た。護衛が無くても無事に辿り着くことはできたとアッシュは思ったが、心配して迎えに来てくれたハルド達の好意に感謝しておくことにした。
「いやぁ、シルヴァーナは最高だな」
「海賊やるのが楽しみだぜ」
アッシュは感謝したことを後悔したのだった。
「海賊と言いましたが、どういうことでしょうか?」
マイケルズ中佐が訝しげな表情でアッシュに尋ねる。ああ、聞かれたくなかったというのに、アッシュが、そう思った瞬間、ハルドがマイケルズ中佐を殴り倒していた。
説明が面倒だったから、その対応は楽でいいとアッシュは思った。楽でいい、楽でいいが、一応マイケルズ中佐は賓客だぞと、アッシュは頭を抱えた。

 
 

「駐在武官なんだから、殴るなよ」
アッシュは怒りを通り越したような境地で冷静に言った。
「しょうがないだろ、よそ者には色々と説明が必要なんだから、取り敢えず眠って貰って、準備してから説明な」
またバイオレンスな展開かとアッシュは辟易しながら、ハルドに担ぎ上げられ、どこかへ連れていかれるマイケルズ中佐を見送った。
そしてアッシュは自分がいない間、クランマイヤー王国がどうなったかを確かめるため、王国の見回りに出たのだった。レビーとマクバレルは除外することにした。もう戦艦の改修の件で何をしたかは理解したからだ。
アッシュは見回りに出た途端、ちょっとした驚きにであった。なんとストームが植物の世話をしているのである。
アッシュからすると雑草にしか見えなかったし、それを畑一面に生やしているのはどういうことかと思ったが、ストームは狂人なので、こういうこともあるかと納得することにしたのだが、直後に、マリアの悲鳴が聞こえた。
何か事件かと思ってマリアの元に向かうアッシュ。するとマリアがガチガチと震えながら、ストームの畑を指さしていた。
「ヤバいです。これはシャレにならないくらいヤバいです」
アッシュは何がそんなにヤバいのか分からなかったので、ストームに聞いてみる。
「何を育てているんだ?」
「葉っぱちゃんだよ。吸うとハッピーになる葉っぱさぁ!」
あ、これはヤバいなとアッシュも思った。とりあえずアッシュは何も言わず、ストームの畑に生えている危険な植物を残らず刈り取った。
「あー、俺の葉っぱちゃん!」
ストームが悲痛な叫びをあげていたが、アッシュは無視した。
とりあえず、次はイオニスだ。アッシュがイオニスの元へ向かうと、そこにはヴィリアス式騎士道場という看板が掲げられた掘立小屋である。
アッシュは嫌な予感がしたが我慢して、掘立小屋に入ると、イオニスが騎士とは何かを人々に説いていた。それはいいが、聞いている人々の目は虚ろだし、小屋の中が煙で充満しているのがおかしい。
アッシュはイオニスに説明を求めた。
「ストーム殿から頂いた葉っぱを焚いてだな、私が説教をするとみなが騎士道についてよく聞いてくれてな。私も話し甲斐があるというものだ」
ストームからの葉っぱということでアッシュはダメだと思い。問答無用で掘立小屋を破壊した。
「あー、私の聖域がー!」
イオニスも悲痛な叫びをあげていたが、アッシュは無視した。
これで直接行動を起こしそうなヤバい人間たちの始末は付けたわけだが、残りはユイ・カトーだ。アッシュはユイ・カトーのオフィスを訪れたが、当然のように良くない事態になっていた。
ユイ・カトーのオフィスは豪華になっており、ユイ。カトー自身もブランド物と一目で分かるスーツを着ていた。
「その服と、この部屋の豪華さはなにかな?」
アッシュが聞いてみると、ユイ・カトーは何を言っているのかという表情を浮かべた。
「貯金で買ったんですが、何か?」
その貯金は公金を横領して貯めた金じゃないかとアッシュは言いたかったがやめておいた。このゲス女には何を言っても無駄だ。周囲に被害が出る形でトラブルを起こしていなければ良いと思って、去ろうとした瞬間、ユイ・カトーの机から一枚の紙が落ちた。
「あ、拾わないで!」
ユイ・カトーが叫ぶが既にアッシュは拾っていた。紙に書かれているのは、カジノ収益のようだった。
「カジノ、開いてたな?」
アッシュが笑いながら尋ねる。ユイ・カトーも笑いながら答える。
「ちょっと、お小遣い稼ぎをしたかったんで、てへ」
アッシュは無言で部屋を出ると、ユイ・カトーが開いていたカジノを潰した。クランマイヤー王国では賭博は違法だからだ。
「あー、私の金づるがー!」
アッシュは悲痛な叫びをあげるユイ・カトーを無視して、最後に一番ヤバそうなことになっている場所に向かうことにした。
「死んでないといいが……」
アッシュが一番に案じていたのはマイケルズ中佐のことだった。

 
 

「それで私はどうなるんだ?」
マイケルズ中佐は暗い地下室で目を覚ました。目の前には赤い包帯を顔に巻き素顔を隠した男が金づちと釘を持って立っていた。
「いや、どうも、クランマイヤー王国がクライン公国相手に私掠船やってるのを見逃すのと、前に地球連合相手に私掠船やってたのを見逃すこと、この二つがちゃんとできると分かれば俺はアンタをこの部屋から無傷で出すけど」
マイケルズ中佐は少し考えた、どうやら近頃の海賊騒ぎの原因はクランマイヤー王国だということが分かった。正義にのっとれば、公表すべき事柄だが、現状、自分の目の前には、金づちと釘を持ったイカレた男がいて、自分は椅子に拘束されている。
絶体絶命の状況であるわけだが、どうするべきか。マイケルズ中佐が考えていると目の前のイカレた男が口を開いた。
「つねづね思っているわけだが、いつでも座れたら便利じゃね?と、だから椅子と人間を合体させていつでも座れる人間を作ってみようと思うんだが、どう思う?」
言っていることの意味がさっぱり分からないが、何となくこの男が自分にやろうとしていることは分かった。釘で体と椅子を繋げようということだろう。
「とりあえず、一本いっとく?」
栄養ドリンクみたいな調子で言われても困るとマイケルズ中佐は思う。
「少し冷静にならないか?」
言っても意味はないと思った。少なくとも感覚的には自分より相手の方が冷静だからだ。
「別に難しい話しして無くね。俺はただちょっと悪いことを見逃せって話しだよ?」
「うん、そうだな。前向きに検討するよ」
とりあえずマイケルズ中佐は屈した。これで大丈夫だと思った。しかし、イカレ男がイカレているのは、それ相応の理由があるのだ。
「なんか、嘘ついてそうだから、ちょっと思い知らせるわ」
そう言うとイカレ男は釘を捨てた、マイケルズ中佐は嫌な予感しかしなかった。イカレ男はガムテープを取りだすとマイケルズ中佐の口が空かないようにガムテープを縦に巻いた。これでマイケルズ中佐は常に歯を食いしばった状態になった。
すると、次にイカレ男は安全ピンを取り出すと、マイケルズ中佐の唇をめくりあげ安全ピンで突き刺して固定した。マイケルズ中佐は突き刺さった安全ピンの痛みに悶えた。安全ピンによって唇はめくられ、歯が剥きだしになった。
「さて、野球は好きかな?」
そういうとイカレ男は片手持ちの金づちを両手で持って、野球のバッティングフォームをして見せる。
「白球も白い歯も同じようなものだよな?」
そう言ってイカレ男は金づちを振りかぶった。マイケルズ中佐は何をされるか想像がついた。白い歯をホームランしようといったところだろう。死にはしないだろうが死ぬほど痛い目にあわされると思った。その時だった。
「ちょっと、待て!」
アッシュ・クラインが地下室に突入してきた。アッシュはイカレ男に手でバツ印を作ると、
「ノー暴力、ノーバイオレンスだ!」
必死の形相でイカレ男に言った。イカレ男の方はしょうがないと言った様子で、マイケルズ中佐のガムテープと安全ピンを外し、拘束も外した。
自由になれたわけだが、何事も突拍子もなくマイケルズ中佐は訳が分からなくなっていた。
「まぁ、あれでも悪い奴ではないので、許してくれ」
アッシュは、そう言うがマイケルズの感覚からすると、あれで悪い男でなければ、この国の悪人というのはどういう生き物なのだと思った。

 
 

イカレ男は何も言わずに去って行く。アッシュとマイケルズ中佐もその後をついていく形になったが、途中で分かれた。アッシュは歩きながら話す。
「私掠船の話しは聞いていると思いますが、申し訳ないのですが見逃してくれませんか?」
アッシュは懇願した。マイケルズはこの懇願を拒否したらあのイカレ男が戻ってきて、自分を殺しに来るだろうことが想像できたので、申し出を受けた。
マイケルズ中佐は軍人の家系に生まれ、真っ当に生きてきたが、この時初めて道を踏み外した。こうしてマイケルズ中佐のクランマイヤー王国での一日目は終わったのだった。
翌日、クランマイヤー王国での二日目、マイケルズ中佐は業務を行おうとしたが、、そう思った矢先である、妙な女がマイケルズ中佐の元を訪れた。片方の前髪を長く伸ばし、目を隠している不審な女だった。
「財務大臣のユイ・カトーです。マイケルズ中佐ですね。あなたは重大な違反をしていますよ!」
いきなり怒鳴られてマイケルズ中佐は訳が分からなかった。
「ここクランマイヤー王国では現在、専業軍人は存在が許されていないんです。生産力が低下しますからね。外国人だからって私は特別扱いしませんよ!」
マイケルズ中佐は本当に訳が分からなくなっていた。自分は駐在武官であるからして、と言おうと思ったが、いきなり財務大臣と言われる女にパンチされた。人生でこんな扱いをされたのは初めてだった。
「ファック・ユー、黙れ!クソ忙しいのに一応VIPだから私自らが来たんですよ。とりあえず、このリストの中から仕事を選んでください」
そう言われ、マイケルズ中佐はユイ・カトーからリストを渡された。リストには職業が羅列されているがどれもロクな物には見えなかった、一つだけマイケルズ中佐の目を惹くものがあった。
「料理人でお願いします」
マイケルズ中佐は、昔、料理人に憧れていたことを思い出し、それを選択したのだった。
「お、いいですね。料理人。お店もプレゼントしときますよ。アッシュ摂政に言って駐在武官邸兼レストランという感じで行きましょう。はい、店の権利書とか労働に関する書類諸々です。ヒマがあったら書いておいてください。じゃあ、さようなら」
そう言ってユイ・カトーは去っていった。マイケルズ中佐は気づいたら料理人ということになっていた。自分の選択ではあるが、何か腑に落ちないものを感じていた。
マイケルズ中佐は駐在武官の仕事か、レストラン経営の準備か優先するにあたって、レストランの方を優先することにした。
レストランの店舗は人魚と海の男亭という酒場の隣だった。空き店舗だったために埃がたまっているかと思ったが、そうでもなく、割と小奇麗だったため、準備に手間はかからなそうだった。
マイケルズは、店の内装を考えていると不意に胸が高鳴ってくるのを感じた。昔の夢が意外なところで叶うことに興奮していると自分でも気づいた。
とはいっても、マイケルズ中佐は店の経営など初めてであるため、食材の調達など、細かいことは分からない。こういうことは同業の人間に聞くべきだと思い、隣の人魚と海の男亭へと向かった。

 
 

「ありがとしゃーす」
人魚と海の男亭を訪れると、ちょうど、仕入れの業者が来ていたようだった。
「あ、どうもっす」
そう挨拶をしてきたのはジェイコブだった。マイケルズは確か、パイロットだった記憶していたが、今の服装はそれとはまったく違った。
「……キミは肉屋なのか?」
マイケルズ中佐は聞いてみた専業の軍人がいないということは、このジェイコブという少年も働いているのだと考えたからだ。
「あー、肉屋っつーより、狩人っす。鹿、猪、熊、雉、兎。なんでも調達しますけど」
ふむ、ジビエを使う時はこの少年に頼むとしようと、マイケルズ中佐は思った。
「すまないが、私も店を開くことになった。きみに食材を頼む時もあると思うが、その時はよろしく頼む」
「了解っす。あと、野生の食材が必要なら第2農業コロニーに来てくれれば、食材は用立てしますんで。妹のマリアはちょっとしたハーブ園をやって小遣い稼ぎをしてるし、ペテロは魚を釣って小遣い稼ぎしてるんで、よろしくっす」
ジェイコブ三兄弟は意外と真面目に働いているのだなとマイケルズ中佐は思った。その時だった。店のカウンターから怒鳴り声がした。
「ジェイコブ!サボってんじゃないよ!マリアに言いつけるよ!」
若い女の声であった。その怒鳴り声に恐れをなしてジェイコブは去って行ってしまった。マイケルズ中佐は女を見る。
長い赤毛に、バンダナを三角巾代わりに頭に巻き、胸元が大きく開いた服を着ていおり、気象の激しそうな女だった。
「そこのデカいアンタも、冷やかしか、客かどっちだい?客なら座る、冷やかしなら帰りな!」
マイケルズ中佐は反応に窮し、思わず正直に答えてしまった。
「いや、自分は隣に店を開く予定の者だが……」
そう言った瞬間に赤毛の女の眼が鋭くなる。
「店ぇ?そういや聞いたね、レストランを開くとか。良い度胸じゃないか!ウチの隣に店を開くなんてさ、喧嘩売ってんのかい!?」
赤毛の女はより強い調子で言われた。マイケルズ中佐の周りにはこの類の女性はいなかったため、対応に困った。すると店の奥から恰幅の良い壮年の男性が現れる。
「アイリーンや、そんな怒鳴り声をあげるもんじゃない。お隣さんなら仲良くやっていかんとな。ジャクソンだよろしくの、で怒鳴り声をあげてたのが娘のアイリーン、こっちもよろしく」
マイケルズ中佐は、はぁと言った感じで良く分からないまま、ジャクソンという男性と握手をした。そして、ある程度食材の仕入れ先について聞くと、礼を言って、店を立ち去ったのだ。
マイケルズは食材はなんとかなりそうだと一安心した。そして今度は内装を整えるために雑貨屋などにも足を運んだのだった。そうして、マイケルズ中佐のクランマイヤー王国での二日目は終わったのだった。
そしてマイケルズ中佐がクランマイヤー王国に到着して三日目、マイケルズ中佐は気づいた。駐在武官らしい仕事を何もしていないことに。マズイと思い、知っている顔の中で一番マトモなアッシュ・クラインのオフィスを尋ねた。
デスクではアッシュが大量の書類の山と格闘していた。
「ヤギを街中でも連れて歩きたい?だれだ、この陳情書を出したのは!知るか、拒否!」
「隣の店を潰して欲しい?落ち着け!」
「やぎのみるくはおいしくないのでやめてください?好き嫌いするな!」
アッシュは国民が出した陳述書に目を通している最中だったようだった。邪魔かと思ってマイケルズ中佐が退出しようとすると、アッシュが気づいて呼び止めた。
「すみません、マイケルズ中佐。気づくのが遅れて。レストランを出店されるようですね。この国に馴染んでもらえているようで、うれしいですよ」
アッシュは笑顔を見せて、そう言った。やはり数少ないマトモな人間だと思った。マイケルズ中佐は、相談できる人間はこの人物しかいないと思って聞いてみた。

 
 

「駐在武官の仕事についてですが……」
そう、マイケルズ中佐が聞きかけた時、オフィスのドアが勢いよく開けられた。そこから現れたのは見たことも無いような美青年であった。
「アッシュ、私掠船に行くが、欲しいものあるか?」
美青年は近所に買い物にでもいくような調子で、相当に物騒なセリフを吐いた。マイケルズ中佐はここでも常識が崩れるのかと絶望した。
「酒。あと、マイケルズ中佐が駐在武官の仕事に悩んでいるようだから連れて行ってやれ」
クライン摂政!?マイケルズ中佐は訳が分からないといった感じでアッシュを見るがアッシュは書類の山と格闘中である。
「オーケーオーケー、じゃあ行こうか中佐殿」
マイケルズ中佐は美青年の尋常ではない腕力に引っ張られ、連れていかれたのだった。
「虎(フー)も怪我が完治して絶好調、シルヴァーナもあるし盛大に狩るぜ?中佐はMSに乗れるよな」
一応はエースクラスと言われる腕だったがとマイケルズ中佐が言うと、美青年は、そいつは良いと笑うのだった。恐ろしく魅力的だが、内に恐ろしいものを飼っているようにも見えた。
「俺はハルド・グレンだ。覚えなくても顔で分かるから良いだろ?」
美青年はハルドと名乗った。この青年もマトモではないようだった。
マイケルズ中佐はリニアトレインに乗せられた。事前に調べた情報ではクランマイヤー王国は四つのコロニーで成り立っているということは知っており、このリニアトレインは工業コロニーへ向かっていると分かった。
「とりあえず中佐はレディ・ルージュ号かな、乗る船は。状況が変わる前は普通に軍事訓練してたけどよ。私掠船始めてからは、こっちが訓練のメインになっちまった。あんまり無理しないで、実戦訓練できるから私掠船は良いぜ」
なにが良いのか分からないがクランマイヤー王国が実践的な訓練を重視していることだけはマイケルズ中佐は分かった。
そうやって考えているうちにマイケルズ中佐は工業コロニーの宇宙港に連れていかれた。ここにも宇宙港があるとはマイケルズ中佐は知らなかった。隠し宇宙港というものかと考えた。
「遅いよ、レイヴン!」
聞いた声がしてマイケルズ中佐は声の方を見ると、アイリーンが海賊の格好をしていた。本当に訳が分からないとマイケルズは思った。
「うるせぇ、こっちは客連れだ、おまえの船に乗せな。赤毛の女海賊さんよ」
「くっそ、めんどくさい客を。アンタ!MSには乗れるね!足止め役だよ!」
マイケルズは訳が分からなくなりすぎて好きにしてくれという気分になっていた。
「んじゃ、行きますか」
そうハルドは言うと血のように真っ赤な上着を着て、さらに血のように真っ赤な色の包帯で顔を覆うのだった。
「ブラッディ・レイヴン?」
マイケルズ中佐は思わず口に出したら、そうだ、とハルドは頷いた。マイケルズ中佐は嫌な予感しかしなかったが、無理やりにレディ・ルージュ号へと押し込まれたのだった。
「では、シルヴァーナ出港だな」
マイケルズ中佐が精神的に大変なことになっている中、戦艦シルヴァーナゆっくりと発進した。続くのは巡洋艦を海賊船に改修したレディ・ルージュ号である。マイケルズ中佐はレディ・ルージュ号に乗せられていたのだった。
「調子悪いって聞いたけど、大丈夫かよセイン」
シルヴァーナの艦内ではジェイコブがセインを心配して声をかけていた。
「いや、不思議とそんなことは無いんだよな。少し前まで調子悪かった気がしたんだけど」
「ならいいけど、ムリしないでよ」
マリアが姉のような口調で言う。ジェイコブ三兄弟では一番下の妹だというのに。
「まぁ、無理はしないよ、今日はマルトスって新しい機体のテストをすれば良いんだろ?」
セインが言うと、全員がマルトスを見上げた。フレイドに比べると不安が残る機体である。大きさが通常のMSより小さい時点で、戦闘に怖さを感じた。

 
 

「別にデカけりゃいいってもんでもないと思うよ」
ジェイコブ三兄弟で一番腕が立つペテロが言う。
「ハルドさんが言うには違うのはサイズだけで、パワーも何もかも従来機通りだから、普通にやればいいんじゃないかな?」
ペテロにはわりと余裕があるようだった。セイン達にはそれが羨ましかった。
「おまえら、そろそろ獲物だ。MSで出とけ」
ハルドの声がした瞬間、全員が不安を無視してマルトスに乗り込んだ。
マイケルズ中佐は無理矢理にフレイドに押し込まれていた。大型のMSであるフレイドにである。
「パイロットは殺さない、なるべく機体も壊さないってのがアタシらのルールだ!しっかりやんな!」
アイリーンはそう言うと外からコックピットのハッチを閉めた。マイケルズ中佐としてはもうどうしようもない。
ここまでエリートとして順風満帆な人生を送ってきたのに、いきなり海賊かという思いがあったが、ここで働かなければ、何をされるか分かったものではない。幸い敵はクライン公国だ。倒すのに躊躇いはなかった。
「くそ、アラン・マイケルズ出るぞ」
半ばヤケクソの気分でマイケルズ中佐は出撃したのだった。
「状況は、敵に関しては巡洋艦三隻……三隻だと!」
マイケルズは海賊がやるような戦闘ではないと思ったが、クランマイヤー王国の私掠船部隊は、普通に戦っていた。
「冗談じゃない」
そう呟きながら、マイケルズも戦闘に加わる、フレイドの挙動はここまでで把握したさして問題はない。そう思いながらビームガンをホルスターから抜き、敵機のコックピットに向けて、ビームガンを撃とうとした。その瞬間だった。
マイケルズ中佐のフレイドの目の前をビームが通り過ぎた。
「よくねぇよ、新入り、殺しは無しだぜぇ、腕を狙って武装を潰しな」
できれば、口頭で注意をして欲しいものだとマイケルズ中佐は、改めて敵機の腕をビームガンで潰した。そして直後に気づく。
「おい、連射が出来ないぞ!」
トラブルか何かだと思い、ヒートサーベルを抜き放ち、目の前の敵機の残った腕を切り落とした。整備ぐらいはきちんとして欲しいと思ったが、周りを見ると普通に連射をしている。というか、予備の方と交換を繰り返して持ち替えながら撃っている。
つまりは、そう言う風に使えということかとマイケルズ中佐は理解したが、非合理的すぎると感じた。そう考えている内にも敵は動いて逃げようとしたので、マイケルズ中佐はフレイドのビームガンを敵のコックピットに突きつけた。
「動いたら撃つ」
海賊とはこうすればいいのかと何となく分かったのだった。
マイケルズ中佐が敵を止めている間にレディ・ルージュ号は巡洋艦に突撃をした。噂で聞いた話だと、この時代に海賊は肉弾戦をして、艦を制圧するというのだ。実際に見てもマイケルズ中佐は信じがたかった。
「おら、新入り、パイロットを追い出せ、機体を貰ってくぞ」
誰からか言われて、マイケルズ中佐は戸惑ったが、とりあえずビームガンでコックピットの辺りを叩いてみて言ってみる。
「降りろ、降りなきゃ、殺すぞ」
海賊らしくとはこういうことだろうかとマイケルズ中佐は、言ってみたわけだが、聞かされた方としては低くドスの聞いた声で言われたわけだから、実際に身の危険を感じ、コックピットから出てくる。
「んで、それをキャッチして、巡洋艦の方まで持って行って、脱出艇に乗せるわけだ」
マイケルズ中佐は細心の注意でパイロットをMSの手に握らせると、そのまま巡洋艦まで運び、待機している脱出艇と合流させた。
この作業に関しては、妙にチマチマしており、海賊らしさを感じなかったが、これもパイロットを殺さないためなのだとマイケルズ中佐は思った。マイケルズ中佐の機体は安定した動きで、パイロットを脱出艇のそばまで連れていったのだった。
「これで俺らの、仕事は終わり、新入りー、帰るぞー」

 
 

まさか巡洋艦三隻にこれをやるのかと思っていたら、マイケルズ中佐の視界では既に脱出艇が三隻動いていた。つまりは巡洋艦を三隻、仕留めたわけだ。
マイケルズ中佐はクランマイヤー王国の戦力を過小評価していた。
彼らが不殺などせず、艦船の制圧行為などせずに、純粋に撃破に向かっていたら巡洋艦など、一瞬で墜ちるだろうと。クランマイヤー王国の兵の練度とその装備が本物であることを、地球連合軍の士官の目ではっきりと確認した。
「新入りー!帰るぞー!」
誰だか分からないが叫ばれ、我に返ったマイケルズ中佐は、戦力分析は後に回すということにして、レディ・ルージュ号に戻るのだった。
その後は鹵獲した艦船をクランマイヤー王国まで運ぶだけであり、マイケルズ中佐はボンヤリとそれを見ているのだった。

 

「うーん、マルトス、ちょっと嫌かな、俺は」
ジェイコブがコックピットから降りてきて、セインに話しかけた。
「僕もちょっと嫌かなぁ、相手より自分の方が小さいと、なんか圧力を感じて苦手」
セインは難し気な顔で話すが、それに対して、やって来たマリアが口を挟む。
「それは兄さんたちが男だからよ。男の人って背のデカい相手にすぐビビるでしょ。私はマルトス好きよ。素早くて小回りも効くのにパワー負けしないし」
男の性質の問題にされても困るとセインとジェイコブは思うのだった。

 

「今日も楽勝楽勝大楽勝ってな感じだな」
ハルドはシルヴァーナのブリッジで顔面の包帯を取って、ブラッディ・レイヴンをやめている所だった。
「しかし、そろそろ輸送船を狙うのは難しくなってきたな。この航路に関しては少し獲物を取りつくした感があるな」
艦長のベンジャミンがハルドに言う。ハルドの方は別にどうでもといった感じだ。
「輸送ルートを変えてんだろ。これだけ海賊に襲われてルートを変えないバカが軍の上層部やってんなら、真正面から公国とやっても勝てるっての」
「まぁ、そうだが。海賊はどうする?少し遠出でもするか?ルートを変えたのなら、変えたルートをクリスに予測してもらえばいい」
そうベンジャミンが言うと、ハルドは気乗りしない様子だった。
「こんだけ馬鹿やってんだ。そろそろ反撃がくるだろ。少し様子見だな。それに駐在武官どのも来てくれたことだし、武官殿に軍事訓練でもしてもらって、ほとぼりが冷めるのを待ってから動くことにしよう」
ベンジャミンは何も言わずに頷いた。これは全面的にハルドに了承という合図だった。争いごとに対する感覚に関してはハルドの経験値は圧倒的である。それに関してベンジャミンは絶対の信頼を持っていた。
「では、今後は少し動きを控えるということだな」
ベンジャミンが確認するとハルドは頷く。では了解だと、ベンジャミンはシルヴァーナの進路を固定したまま、少し休むのだった。

 

各員が各々勝手なことをしている内にシルヴァーナとレディ・ルージュ号はクランマイヤー王国に到着した。二隻の艦艇が入港するのは工業コロニーの宇宙港であった。
マイケルズ中佐はなるほど裏口かと思った。ここならば人目にもつかず、堂々と悪事が働けるわけだ。そう思った直後、マイケルズ中佐は自分も悪事に加担してきたではないかと、自責の念に囚われたのだった。
「んじゃー、とりあえず、荷出ししてくださーい!」
宇宙港で指揮をとっていたのはユイ・カトーであった。財務大臣が何をするのかと思えば、海賊の多くが、荷物をユイ・カトーのもとに巡洋艦から積み荷やら、乗組員の私物やらを盗ってきて並べる。その中に、マイケルズ中佐は気になる物があった。
「あのティーセット……」
間違いなく、クライン公国式の最高級品だ。地球連合軍にいたころから欲しかった。所属のの問題や地球に輸出されていないことから、絶対に手に入らないと思っていたが、とマイケルズ中佐は心の中に欲が生まれてくるのがハッキリとわかった。

 
 

「なにこれ、ティーセット?ゴミかな」
ユイ・カトーはハッキリと言い捨てる。マイケルズ中佐は、その発言が許せなかった、それよりも目前の危機が迫っていた。
「とりあえず、倉庫」
そう言いながら、ユイ・カトーが雑にティーセットのカップを雑に置こうとした時だった。
「待て!」
マイケルズ中佐は本能的に叫んでいた。マイケルズ中佐は葛藤していた、言ってしまおうか、だが言ってしまったら、人間として終わりそうな気もしていた。だが、物欲には勝てなかった。
「そのティーセットは私が預かろう!」
マイケルズ中佐は悪の道に堕ちてしまったのだった。
「まぁ、良いですけど。私等には価値が分かんないんで」
ユイ・カトーはそう言うと、テープにマジックで何かを書くと、ティーセットにそのテープを貼った。テープにはマイケルズと名前が書かれていた。
「私からするとゴミみたいな価値の物は倉庫に入ってるんで、欲しけりゃ届け出を出してくださいね」
ユイ・カトーはそれだけ言うと、さっさと収穫物の鑑定に戻っていった。
マイケルズ中佐はそれを無視して、ティーセットを眺めていた。手に取ってみると感触も何もかも最高だと思った。
自分の店で、このティーセットを並べることが出来れば最高だとマイケルズ中佐は思うのだった。盗品だとかは関係ない。物の価値には変わりないのだとマイケルズ中佐は思うことにした。
「くくく、随分と満足げじゃねぇか、武官殿よぉ」
声をかけられてマイケルズ中佐は初めて気づいた。声の主はハルド・グレンというの名の男だったとマイケルズ中佐は思い出した。
「海賊、楽しいだろ?連合にいたころよりさ」
ハルドはニヤニヤとしながら言う。マイケルズ中佐は否定できなかった。実際に楽しいし、実入りもあったのだから。否定はできない。
「まぁ、これで同罪だ。仲良くやろうぜ、アランさんよ」
名前で呼ばれたということは仲間になってしまったということなのかとマイケルズ中佐は一瞬だが葛藤したが、もはやどうでも良い。
こうなっては毒を食らわば皿までという気持ちで、マイケルズ中佐は、アラン・マイケルズ中佐ではなくクランマイヤー王国ではアランとして生きることに決めたのだった。

 

アランは姫からお茶に呼ばれた。唐突な誘いである。まだ店の準備も出来てなかったが、呼ばれた以上は行くしかなかった。
茶会にはハルドとアッシュもいたが、アランは気にしなかった。というよりは気にすることすらできなかった。何故ならティーセットが、クライン式の最高級品だからだ。
王族なら当然と思うかもしれないが、アランは震えるしかなかった。一点のシミも無い茶器、そして茶を淹れているのは執事だ。
「執事じゃなく、バーリ大臣な」
ハルドが横から言うが、アランは許せなかった。自分を虚仮にしているのかという思いしかなかった。
茶葉も良質なクランマイヤー王国産ではなく、わざわざ地球産にしている。アランは自分に茶の味が分からないとでも思っているのかと思った。良質なクランマイヤー王国産を出すのが筋だと思い、内心では怒り狂っていた。
そして、菓子はアップルタルトである。味は……アランは負けていると一瞬思った。自分が作ったものではこの味は出せないのではないのか、そんな思いに囚われた。優劣をつけたいというのか、この大臣はとアランは思った。
「中々ですな」
アランとしてはそう言うことしかできなかった。自分ならもっと美味い菓子を出せるぞという対抗意識があったが、アランはそれを口にしなかった。それを口に出させて、現状では劣っていることをハッキリさせたいというバーリ大臣の思惑だと思ったからだ。
「申し訳ありませんが、茶葉を確認させてください」
アランは屈辱の申し出をした。そして愕然とした。アップルティーなどのフレーバーティーですら自家製で、徹底的に完成度を上げている。自分はここまで徹底できないとアランは思った。

 
 

「年の功というものです」
バーリ大臣はそう言うが、アランはそれで納得できなかった。そして思わず言ってしまった。軍人として働いていた時とは比べ物にならない強い気持ちでだった。
「貴方には負けない!」
そうしてアランは無礼を承知で言い、クランマイヤー王家邸を走り去って行った。
それから数日後、ビストロ・マイケルズは開店した。アラン・マイケルズが経営する店である。
昼間は丁寧なランチと繊細な味わいの喫茶類とスイーツ、夜は豪華だが絢爛に過ぎない質実剛健といった感じのディナーコースを振る舞う名店となったのだった。

 

ある日、アランの元に古臭い電話が届いた。アランは肉類の調理で繊細な作業を強いられていたので、その電話を鬱陶しく思った、最高の肉を出すのには緻密な温度管理が大事だというのに。
「はい、ビストロ・マイケルズです。申し訳ありませんが、ウチは出前をしてません。緊急の用件でない限り、夜は電話をしないでください」
アランはそう言って、電話を切った。今日は新しいソースを試す日だというのに、厄介なことだとアランは思う。客はバーリ大臣を含むクランマイヤー王家の人間だ。最高の料理を出さねばとアランはたぎっていた。そしてその後の電話は無視した。
「お見事です」
バーリ大臣は口を拭きながら言った。
「クランマイヤー王国の味が、一つに詰まっていると言っても過言ではありません。ソースは魚介ベースなのに肉を邪魔しない。それどころか魚介の風味がむしろ、陸で育ったはずの牛の味を引き立てる。メインの味はお見事としか言いようがない」
バーリ大臣は珍しく長い言葉を発した。
「しかし、あなたは味を探求するばかりに食べる人のことを理解していない。見てみなさい。私の隣の姫様を。私が食べ終わっているのに、まだ食べた量は半分過ぎだ。
陸の味を重視しすぎるために肉を焼き締め過ぎましたね。肉は焼けば硬くなる自明の理です。硬ければ食べにくくなることは当然。あなたの料理は自分勝手だ」
そう言われ、アランは崩れ落ちた。
「確かに自分は、味しか追及していなかった。食べるのは姫様だというのに、そんなことも忘れていた。料理とは食べる人間のためにあるもの。料理人が自己満足で出してはいけない。そんなことも忘れていました」
アランは涙を浮かべているが、実際はたいして大げさな話でもなく、姫がゆっくり食事しているだけであった。
「自分は修行し直します。食べる人のための料理というものを」
そう言いながら、アランは、厨房へと戻って行った。電話は鳴り続けている。面倒だとは思ったが、アランは電話に出た。
「マイケルズ中佐、緊急の任務だ。同盟国のクランマイヤー王国の戦力も使い、月を墜とせ」
なんだ、そんなことかとアランは思い。適当に了解の相槌を打ち、アランは厨房に戻るのだった。
そして翌日。朝の食材仕入れの時、アッシュを見たので、声をかけた。
「地球連合軍が、月を墜とせと命令したので、よろしく」
そう言って、アランは、海老の目利き作業に入るのだった。

 
 

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