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GUNDAM EXSEED_B_4

Last-modified: 2015-04-17 (金) 17:00:06

「お茶にしますか、それともお食事にしましょうか?」
執事風の老人がそう訪ねてきた。セインとミシィは空腹を感じており、食事でもよかったのだが、ハルドがそれを制して「お茶でお願いしますよ」と先に言ってしまった。
「少しはアッシュを休ませてやれ」
ハルドはセインとミシィにそう言うのだった。
案内された先は、テラスであった。素朴であったが丁寧に手入れされた庭園が見えた。
「わぁ、綺麗」
ミシィが庭園を見て興奮して言った。その様子に小さなお姫も喜んでいる。
「そう言ってもらえると嬉しいです」
セインは花や木々には疎いので良く分からず、取り敢えず用意された椅子に座った。その光景を見てハルドとアッシュは少し呆れたような表情を浮かべている。
「セイン君。まだ座るのは早いよ」
アッシュが柔らかい口調で言うが、セインはよく分からなかった。ヴィクトリオという少年も椅子に座っているのだ。
「まぁ、いいよ」
ハルドは諦めた感じで言った。
「皆様どうぞです」
姫が座ってから、ハルドもアッシュもミシィも椅子に座った。
「こういうことだよ」
アッシュが苦笑いしながらセインに言うが、やはり良く分からなかった。
「普通は、偉い人が座るまで座っちゃダメなの!」
ミシィが母親のようにセインに言って、セインはようやく理解した。
「大丈夫です。みんな仲良くがクランマイヤー王国のモットーなのです」
小さな姫はそう言ったがセインは、バツの悪そうな表情を浮かべるしかなかった。
ほどなくして、お茶が運ばれてきた。運んできたのは執事風の老人だ。メイド風の女性は特に何もせず、姫の隣に座っていた。
「えーと、では、その改めて紹介しますです」
茶会の始まりに言葉を開いたのは、小さな姫だった。
「クランマイヤー王国王女のアリッサ・クランマイヤーです」
そう言うと、小さな姫はぺこりとお辞儀した。
「かわいい……」
ミシィがセインにだけ聞こえるくらいの小さな声で言ったが、確かに可愛らしい女の子だった。セインの印象ではリスや兎の小動物を思わせる女の子だ。
「えっと、それでこっちがバーリ大臣で、こっちが私の世話役のメイ・リーです」
そんな風に姫が紹介すると、執事風の老人が
「バーリと申します」
そしてメイド風の女性が
「メイ・リーです」
と自ら名乗った。
そんな風に言われて、アッシュらは驚いた大臣に色々な雑事をさせていたのかと。そして申し訳ない気持ちになった。
「別に気にしなくていいぞ。所詮、王族ごっこだ」
ハルドが突然、無礼なことを言いだしたが、姫たちは否定せずに微笑むだけだった。
「あの、つかぬ事を伺いますが、バーリ大臣は何を担当する大臣なのでしょうか?」
アッシュがバーリに向かって尋ねたが、バーリの返答は何とも曖昧なものだった。
「大臣です」
「いや、ですから内務大臣や外務大臣などの……」
「申し訳ありませんが、私は只の大臣なのです」
そう断言されるとアッシュも反応に窮する。

 
 

「バーリは凄い大臣なのです。お茶も美味しく淹れられるし、お菓子も上手ですし、ご飯も美味しいのです」
姫は自慢げに言うが、アッシュらは、それは大臣の仕事なのかと思ったが、これ以上、触れても有効な回答は得られないだろうと察し、この話はここまでにすることにした。
「あのメイ・リーさんは、何をする人なんですか」
ミシィが話しを変えるように尋ねたが、やはり返ってきた返答は曖昧な物だった。
「姫様のお世話です」
「お世話って具体的に何をするのかなぁって思って聞いたんですけど……」
そうミシィが言ったが、メイ・リーはキョトンと首をかしげるだけだった。
「な、王族ごっこだって言ったろ」
ハルドがニヤニヤしながら言う。姫たちも微笑みながら、こう言うだけだった。
「私たちはいるだけで良いらしいのです」
なんだか良く分からないぞ、とセインは思ったが、
「国に関しては皆さんが自分たちで頑張るというらしいので、私たちは私たちができることをするだけなのです」
アッシュは、その答えだけで色々と察したがセインにミシィの少年と少女は良く分からなかった。
「まぁ、いいじゃねぇか、茶にしようぜ。少し休憩だ」
そう言うと、バーリ大臣が茶菓子にアップルパイを持ってきた。
「リンゴは特産品だからな、これも美味いぞ」
ハルドがそう言うと、バーリ大臣が取り分け、全員に配る。セインとミシィは状況が分からないまま、茶会に参加することとなった。
話題は他愛のないものだった。姫が綺麗な花を見つけたとか、ヴィクトリオと一緒に遊んだら転んでしまったとか、姫の年齢相応の他愛もない話をセインとミシィは、ぼんやりと聞いていた。
セインとミシィが少し異常に感じたのが、アッシュがアップルパイを3切れも食べたことだった。
「甘い物を食べるのも3年ぶりだったもので、つい」
アッシュが恥ずかし気に言うのが少年と少女には印象的だった。
この茶会の間、ハルドは特に何を言うわけでもなく、基本的にぼんやりと姫の話しに相槌を打っているのが、セインには印象的だったといえば印象的だった。
しかし、途中、バーリ大臣とコソコソと何かを話しているのだけはセインは見逃さなかった。
茶会は何事もなく終わった。その後、セインとミシィは姫とヴィクトリオと一緒に庭園や屋敷の周りを夕食まで散歩することになった。
ハルド曰く、子ども同士で遊んでいろということだった。

 

「はぁ、柔らかい椅子というのも3年ぶりだな」
アッシュは屋敷の今のソファーに体を預け、心からリラックスした様子で言った。
「ほんとに監禁生活だったんだな」
ハルドが言うと、アッシュはまぁな、とだけ言い目をつぶり、それきり静かになった。
「お疲れの様子ですな」
バーリ大臣がアッシュの様子を見て言うとハルドも頷いた。
「まぁ、あの話は後で良いでしょう。まずはコイツの体力が戻ってからということで」
ハルドは多少なりともバーリ大臣に敬意を持って、そう言い、アッシュの回復を待つことにした。

 
 

結局、アッシュが夕食まで起きなかったのはハルドの誤算だった。そして、夕食も大事な話が出来る雰囲気ではなかった。
「アッシュどのがお疲れの様子だったので滋養強壮ということを考え、メインはジビエにしてみました。鹿肉のローストのオレンジソースがけです」
バーリ大臣はそう言うと自分が調理した料理の数々を並べる。
アッシュは、本来の性格からは想像もつかないほどの勢いで料理を食していた。
「セイン、テーブルマナーがなってないわよ」
ミシィが細かくセインに注意する様は母親のようだった。
それを聞いた小さな姫もなんとか、きちんとしたテーブルマナーで食べようとするが、うまくいかない。
「別にテーブルマナーに気を使わなくても良いんだよ。あれは人を不快にさせないようにするための物なんだ。この場にゃ人一倍意地汚くメシを食ってる男がいるんだから、今更不快もなにも関係なし、好きなように食べりゃいいさ」
ハルドはアッシュを横目で見ながら、卓につく全員に言った。しかし、ハルド本人のテーブルマナーは完ぺきだったが。
「すみません。失礼だとは思いますが、おかわりなどは貰えないでしょうか?」
アッシュはとうとう、そんなことまで言ってのけた。
「他にも、鹿のレバーを使ったシチューがありますが、そちらもどうですか?」
そうバーリ大臣が言うと、アッシュは「ぜひ!」と全く遠慮なく言った。
「ヴィクトリオ、お前は大きくなっても遠慮ってものを知るんだぞ」
ハルドはがっつくアッシュを揶揄して、そう言うのだった。

 

「はぁ、しかし満腹というものは良いものだな」
食後、今で全員が休憩してる中、アッシュはそう言いのけた。
3人前も食って、何をいまさらという表情を、その場の何人かが浮かべていた
「ところで、アッシュ。そろそろ大事な話しをしてもいいか?」
皆が休憩でまったりしている中、急にハルドがそう切り出した。途端に小さな姫と大臣、世話役が姿勢を正した。
「別に構わないが……」
アッシュも怪訝な表情を浮かべながら姿勢を正す。
「じゃ、まぁ軽く説明で、お前の誘拐を依頼したのは、ここにいる姫様たち。正確には大臣さんだ」
「なんだと?」
そう言われても、アッシュにはピンと来なかった、クランマイヤー王国の3人は全員、善良な人間に見えるからだ。
「ハルド殿、ここからは私が説明を……」
ハルドに代わってバーリ大臣が言葉を続ける。
「単刀直入に申しましょう。わたくしどもが、貴方、アッシュ・クラインを誘拐したのは、ひとえに人質とするためです」
「人質?」
アッシュは言っていることの意味が分からなかった。そして、意味が分からなかったのはセインも同じだった。
「クラインってなんだよ!あんた、クライン公国の人間なのか!」
セインは急に立ち上がり、アッシュを指さし、叫ぶ。
「セイン、うるせぇ。座ってろ」
「でも!」
「俺は座ってろと言ったぞ、セイン」
ハルドは目に僅かな殺気を込めてセインを見る。その視線にセインはたじろいだ。
「セイン、今はおとなしくしてたほうが良いよ」
セインの隣に座るミシィがセインの服の裾を引っ張り、たしなめる。セインは腑に落ちない表情で、座った。

 
 

「まぁ色々とうるさい奴もいるので、説明は俺がした方が良いでしょう。バーリ大臣?」
「ではお願いします」
大臣は恭しく一礼すると一歩下がった。
「まぁ人質って話しもマジで、それを依頼したのもここの人たちで間違いはないよ」
ハルドはアッシュに対して言う。
「しかし、人質と言ってもだな……」
「自分には、その価値もないってことだろ。俺もまぁ、ここの人たちに説明したんだがな……納得はしてもらえず、今に至るってわけだ。まぁ、俺としては金がもらえりゃ何でも良かったから受けたんだがな」
そう言うと、ハルドはセインの方を向いた。
「ここにいるアッシュ・クラインてのは公国で3年間、監禁を受けた身。お前らと一緒で公国に見捨てられた身だ。納得しろとは言わねぇが理解はしろ。お前らと同類なんだからな。いいな?」
ハルドはそう言うが、セインはイマイチ腑に落ちない気持ちではあった。
「だが、なぜ人質が必要なんだ?」
アッシュは率直な疑問をハルドにぶつけてみた。
「それはだな、まぁ今の公国周辺の情勢と絡む問題でな……」
そこまで言ってから、ハルドは少し考えるような仕草を見せてから続けた。
「まぁ、実際に今の公国がどうなってるか、見てもらった方が早いかもな。お前が3年間、監禁されている間に公国がどう変わったのかをな」
そう言うと、ハルド全員を見回して言う。
「いっちょ、社会勉強に出かけるとするか。いいですか、バーリ大臣?」
「私は構いません」
「じゃ、決定ということで。セインもミシィもアレクサンダリアぐらいしか知らないだろうから来て勉強するんだな」
そう言われ、セインもミシィも急にだったので頷くことしか出来なかった。
すると、横で小さな手が挙がった。
「あの、私も見てみたいです」
そう言ったのは、姫だった。続けてその隣にいたヴィクトリオも同じく、行きたいと手を挙げた。
「ピクニックじゃないんですけどね」
そう言うと、ハルドは若干、困った表情でバーリ大臣を見るが、バーリ大臣は頷くだけだった。
「じゃあ、姫様も一緒ということで。急ですけど、明日には出発しましょう。いいですね?」
ハルドが言うと、全員が頷いた。
そして、明日、他のコロニーにへと社会勉強ということになったのだった。

 

「すいません。大臣さん。こんなことになって」
「いえいえ、構いませんよ。船は我が国の物をお使いください。人数的にそちらの方が、ご都合がよろしいでしょう」
ハルドは頭をかきながら、礼をする。
「なにからなにまで、すいませんね。正直、子どもに見せたいような場所じゃないんですけどね」
「いえいえ、姫様もこの国を治める身、見聞を広めるのは良いことです。例え、どのような場所であっても……」
そう言うと、大臣もハルドも若干、暗い顔になる。
「ここがずっと平和でいてくれるといいんですがね」
ハルドは心からそう言ったのだった。

 
 

夕方も過ぎ、夜になってきたので、ハルド達は皆、クランマイヤー王家の好意で、屋敷に泊まることとなった。ハルド達には、それぞれ一室が貸し与えられた。

 

夜中、ミシィはセインの部屋を訪れていた。セインはミシィの前で、ハルドに言われた通りに筋力トレーニングに明け暮れていた。
「ねぇ、セイン。本当に地球に行くの?」
ミシィは思いつめたような表情でセインに尋ねるが、トレーニング中のセインはミシィの表情には気づかない。
やがて、疲れ果てトレーニングが中断してから、ミシィの言ったことに対して返答する。
「そりゃ、行くさ。クライン公国と戦うために」
セインの決意は断固としたものだったが、ミシィは、それを聞いて表情を暗くする。
「……私はね、もういいんじゃないかなって、思い始めてる。それはお父さんやお母さんは取り戻したいけど、このコロニーに来たら、別に無理して、そんなこと……」
「そんなことってなんだよ!」
セインは激昂してミシィに詰め寄った。
「僕の母さんは殺されて、父さんは連れ去られたんだぞ。そんなことじゃない!絶対に許せないことなんだ!」
「でも、もう終わったことじゃない!辛いことだけど、忘れてこのコロニーで平和に暮らそうよ!みんな良い人だし、きっと忘れて、楽しく暮らせるようになるよ!」
ミシィも譲らず、怒鳴り返す。
「僕は、そんなの嫌だ!忘れることなんてできやしない!絶対に奴らにやりかえしてやるんだ!」
二人の意見は決裂した。
「セインの馬鹿!やりかえしたければ、勝手にすればいいわ。私はもう知らない!」
そう言って、ミシィはセインの部屋から飛び出していった。
後に残されたセインは「あ……」と言うだけで、ミシィを追うこともできず、ただ部屋で立ち尽くすしかなかった。

 

「そうか、そういうことがあったか」
アッシュはテラスの椅子に座りながら、ぼんやりと夜の庭園を見つめつつ、ミシィの話しを聞いていた。
「復讐ってのは、男の子にとって、そんなに大事なものなんでしょうか」
ミシィはセインと言い合いになってしまったことを後悔しながら、事の起こりから顛末までをアッシュに話していた。
「復讐が大事かは、僕には何とも言えないな。僕は復讐を諦めてしまった人間だからね」
アッシュは穏やか表情でミシィに言うが、その心の中には死んでいった戦友たちの最後が思い起こされていた。
「諦めちゃったんですか……」
ミシィが何とも言えない表情をする。
「まぁね、僕の場合は戦友だから、君たちのような肉親とは重みが違うんだろうけど」
一応の注を付けながら、アッシュは続ける。
「僕は思い続けることに耐えられなくなってしまったんだ。復讐するっていう気持ちをもち続けることに疲れてね」
ミシィの目には、アッシュは疲れた老人のようにも見えた。
「それで、今はどうなんですか?」
今の気持ちはどうなのかという意味でミシィは尋ねた。後悔などはないのだろうかという思いも含めて。

 
 

「いたって穏やかだよ。もし、あの世があるのなら、そこでは戦友たちが僕を恨んでいるかもしれないけどね。もっとも3年も監禁され続けて、気持ちが擦り減ってるせいかもしれないけどね」
そういえば、この人はそうだったと思い出し、ミシィは改めて聞いてみることにした。
「自分を監禁した人たちに復讐したいとかいうのは?」
「正直、無いかな。僕は色々と疲れてしまっていてね。そんな風に強い気持ちは持てないよ」
アッシュは穏やかな顔で答えた。
「でも、色々と無駄に過ごしてきた僕からすれば時間は大切な物だ。キミもセイン君も後悔しないように生きてほしいとは思う」
ミシィはアッシュの顔を見るが、若いのにやはり老人のように感じさせる表情だった。
「後悔しないようにですか?」
「そうだね。こう言うと全て台無しだが、キミもセイン君も自由に生きるべきだと思う。何にも囚われずにね」
そして、アッシュは付け加える。
「まぁ、生きるだなんだと考えるより先に、目の前の彼氏を大切にすることを一番大事にした方がいいと僕は思うけどね」
「彼氏じゃありません!」
ミシィの怒声は屋敷中に響き渡った。

 

「で、俺のところに来たわけか」
セインは今のハルドの元にいた。ハルドは銃の整備をしながら適当にセインの話しを聞いていた。
「復讐というのは、そんなに悪いことなんでしょうか。ハルドさん」
ハルドは器用に手を動かしながら銃の部品を分解し、手入れをしながら言う。
「さぁなぁ、悪くはねぇんじゃねーの。俺は復讐を果たした身だから何とも言えねぇが」
ハルドがそう言うとセインの表情は明るくなった。
「復讐を果たしたんですか。それで、どうなりました!?」
表情明るく、ハルドに詰め寄るセインだったが、返って来たものは暗い答えだった。
「何も無くなった」
そう言うと、一瞬でセインの表情が何とも言えないものに変わる。
「別に、俺は復讐が悪いとは言わねぇよ。確かに何かを成し遂げたって充実感はあったし、今もそれで良かったという考えは変わらない」
「でも、何も無くなっちゃったんですよね」
セインの表情は暗かった。
「そりゃ、俺が賢く立ち回らなかった結果だよ。あの時の俺が、今の俺だったら復讐を果たしても結末は変わったかもしれない」
そんな風に言われても、セインの表情は変わらない。
「結論だけ言わせてもらえば、復讐を果たした結果に得るものは確実にある。だが問題は復讐を果たした後ってことだ」
そう言うとハルドは暗い表情のセインの頭を小突いた。
「まぁ、お前が復讐をするんだったら、その後のことも考えて立ち回れってことだ」
「復讐したら、賢く立ち回れってことですか?」
小突かれた頭を押さえながらセインはハルドに尋ねる。
「いいや、もっと前から準備をしろ。例えば彼女を大切にするとかな」
「彼女じゃありません!」
セインの怒声は屋敷中に響き渡った。

 
 

セインとミシィは廊下でばったりと出会った。
「彼女じゃないからな」
「彼氏じゃないからね」
二人が顔を合わせた瞬間に言った言葉はほとんど同じだった。思はず二人は笑ってしまった。そして――
「怒鳴ってごめん」
「こっちこそ、ごめん」
二人は互いに謝るのだった。
「地球に行くのは、もう少し考えてみようかなって思う……」
「いいよ、セインがやりたいようにやったらいいと思う……」
二人はそれだけを言うと互いに「おやすみ」と言って自分の部屋に入るのだった。

 

居間では、ハルドがワインを片手に酒を飲みながら、銃の整備を続けていた。
「それじゃあ、意味がないだろ」
「まぁな」
アッシュがハルドのしていることを見ながら言うと、当然と言った声が返って来た。
アッシュは、ハルドの傍のソファーに体を預け、ゆったりとする。その光景をみたハルドは酒瓶を片手にアッシュに聞く。
「飲むか?」
「飲んでみたいかな。飲酒が出来る年齢を過ぎても監禁生活で飲む機会がなかった」
そう言うと、ハルドは、立ち上がり新しい酒瓶とグラスを持ってきた。
「ま、初心者にはこれって、ことで」
「悪いな」
ハルドはグラスに赤ワインを注ぎ、それをアッシュに渡す。
「乾杯はするか?」
「監禁生活からの解放を祝してということで頼むよ」
「じゃ、それで」
とハルドは言うと、ハルドとアッシュはお互いに盃を掲げた。

 
 

「なるほど、酒というのはこういうものか、甘いな」
アッシュが乾杯後、グラスの中の酒を口に含むと、そんな答えが出てきた。
「そいつは、初心者用って言ったろ。甘口も甘口だ」
ハルドは言いながら、銃の整備を続け、照準や重心の微調整に入っていた。
「だから、それじゃ意味がないだろう」
アッシュはハルドの傍のワイングラスと酒瓶を見て言った。
酔った状態で調整しても、使うのは素面の時なのだから、素面の状態で調整しなければ意味がないとアッシュは言いたかったのだ。
「いいんだよ、これは趣味みたいなもんだから、ちゃんとした調整は別の時にやる」
と言うと、ハルドは組み上げた銃を分解しだし、部品1つ1つを丁寧に磨き始めた。
「こうやって、磨き上げて、芸術品みたく仕上げるのが好みなんだよ」
そう言って偏執的に部品を磨く様子はいささか変態的でもあった。
「あまり、騎士団では、そういうのに興味はなかったな。銃も嫌いじゃなかったが、官給品で満足していた」
アッシュはグラスの中身を既に飲み干していた。ハルドが、そこに新たに注いでやった。
「そりゃ騎士団様は良い銃がただで貰えるから良いけど、地球連合の官給品はホントにクソだったぞ」
言いながら、ハルドも酒を飲み、グラスを空ける。
「ああ、そういや、騎士団所属だったってのは、しばらく内緒な。ガキどもがナーバスになる」
「それくらいは分かるよ」
そう言いながら、アッシュは空になったハルドのグラスにワインを注ぐ。
「ならいいけどよ。しかし、ガキの世話は面倒だな。それもあれくらいの年頃のは。姫様とかヴィクトリオくらいの相手なら楽なんだが」
「思春期は大変なんだよ。僕たちもそうだったろう?」
そう言ってアッシュはグラスの中身を飲み干す。すると、すぐにハルドが次を注ぐ。
「思春期……あったか?」
「……なかったな……」
アッシュもハルド思い出す。どちらも青春などというものはなく、ハルドはひたすらに戦いと殺しだった時代。
そして、アッシュもハルドと比べると若干遅いが基本はMSの操縦訓練の毎日だった。どちらも、セインやミシィのような甘い時代を生きてはいない。

 
 

「正直、言うとな。セインが地球連合に入るのは、俺は反対だ。そんなことで青春を無駄にすんなってんだ!」
ハルドは銃の整備もそこそこにグラスの酒を飲み、吠えた。
「僕も同感だな。彼女がいるなら、のんびりと乳繰り合っていればいいんだ!」
アッシュはグラスから飲むのを止め、酒瓶に直接、口をつけグビグビとワインを飲んでいた。
「ハルド!キミはどれくらいのヘボパイロットを見てきた!?」
「星の数ほどだ!」
ハルドもアッシュも楽しくなってきてしまっていた。
「だろう?セイン君がその中に入らない可能性は!?」
「ゼロじゃない!」
「そして悲しむのは!?」
「ミシィ!」
そこまで言って、二人は冷静になった。流石にまだ酔いきってはいないようだった。
「実際なぁ、僕らが隊長だとして。あれだけ仲の良い相手がいる男を危険な任務に連れていきたいか?」
「俺はごめんだね。後方待機か、狙撃手訓練させて、狙撃要員に育てる」
しかし、それをセインは望まないだろうとハルドもアッシュも分かっていた。何故か知らないが、若いパイロットほど危険な最前線を担当したがるのだ。
「ほんとやだなぁ」
不意にアッシュが言いだした。酔い始めの証拠である。会話があっちこっちに飛ぶのだ。
「気づいたら21歳だぞ。ハルド」
「俺もだよ」
ハルドも酔い始めてきていた。少し上級者ぶってはいるがハルドも、酒を飲んだ回数は少なかった。
「21が大人なわけねぇだろって、俺は思うわ。人生相談なんかされて、どうすんだよって感じ」
「なんだ、そっちもか」
セインとミシィの話しである。
ハルドもアッシュも面倒くさいので酒瓶から直接ワインを飲んでいた。
「21歳が、普通はどういう歳なんだか考えてほしいぜ」
「普通は大学生。親の保護を受けられ、責任を負うこともなく、自由に生きられる。そういう歳頃」
しかし、ハルドもアッシュもそういう人生は、もう送れないのだ。
「まだ、ガキだよ僕らは……」
「そう、ガキなんだよな……」
ハルドとアッシュは酒瓶を軽く打ち付けあい、その中身を飲み干してから眠りについた。
酒は彼らを、すぐに眠りへと導いた。

 
 

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