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GUNDAM EXSEED_B_41

Last-modified: 2015-09-05 (土) 21:14:00

コナーズが操縦する輸送船は輸送船の下部に改造されたネックスを吊り下げたまま、クランマイヤー王国の工業コロニーにある宇宙港へと、ゆっくりと入港した。
「ハルドの大将。まだ生きてますか?」
コナーズはセインを救出してからしばらくしたら、急に静かになったハルドを心配して通信を通して声をかけた。
「一応生きてるが、全身が筋肉痛だ。それになんか胸の辺りがおかしい」
一応は生きているということで、コナーズはホッとした。心配するべきは他にもいる。それは輸送船の格納庫にしまわれたMSの中にいるセインだ。セインに関しては通信で何度も呼びかけているが応答がない。
「二人とも、クランマイヤー王国ですよ。もう安心ですからね」
コナーズは通信で二人に呼びかけるが応答が無かった。コナーズは本格的にマズイことになっているのではないかと思った。
宇宙港にはコナーズの輸送船の接近を聞きつけて、多くのメンツが集まっていた。コナーズは輸送船を宇宙港に停泊させると、外のメンツに呼びかける。
「救出は成功したみたいですけど、なんかヤバそうです!」
外へとマイクで呼びかけるとコナーズは格納庫のハッチを開けた。
「格納庫の機体にはセインが乗ってます。自力じゃ出られなさそうな雰囲気なんで、無理やり出してください」
コナーズがそう伝えると、ハッチを通り抜け、ミシィが一番乗りに格納庫に乗り込み、続いてレビーが部下と一緒に機材を持ちながら、格納庫に乗りこみ、マクバレルが最後に悠々とついていく。
格納庫に乗り込んだ瞬間、レビーとマクバレルは驚愕した。全く見たことのない機体があったからだ。
レビーとマクバレルは機体の全体を一瞬見ただけで、ブレイズガンダムの進化系だと察した。胴体部分が同じというのが二人の考えを決定づける一番の要因だったのは間違いなかった。
「教授、この機体は……」
「ブレイズガンダムの発展形。いや、本来のスペックを発揮するための姿だろう。まったく訳の分からん機体だ」
レビーとマクバレルは間違いなく、この世界で最先端の技術と知識を持つ二人組であったが、その二人にもブレイズガンダムと言う存在は理解しきれない怪物であった。
「レビーさん!お願いします。セインが、セインが!この中に!」
レビーは機体に目を奪われていたが、必死な少女の叫びで我に返った。今はとにかく、少女の叫びに応え。少年を救出しなければいけないと、車いすを動かした。その間、マクバレルはただひたすらに機体に見入っていた。
「とにかくハッチを開ける!機体の損傷は後回しで!」
レビーは部下に命令すると、レビーの部下はレーザーを発する巨大な工具で、コックピットハッチを焼き切ろうとする。
「大丈夫、ミシィちゃん。すぐに会えるから。少し……何十分か待ってて」
それから数十分、レビーはひたすらにミシィを慰めながら、コックピットのハッチが焼き切れるのを待った。そして待った結果は確実なものとしてミシィの前に成果を示した。
コックピットのハッチは焼き切れ、機体から引き剥がされると、コックピットの中にはセインがいた。ミシィはセインの姿を確認した瞬間、顔を青ざめさせた。
なぜなら、セインの顔色は蒼白を通り越して土のような色だったからだ。ミシィは驚き、思わず口をおさえながらも、人目もはばからずコックピットの中のセインに抱き付いた。
レビーとその部下は、まさか死んでいるのではという嫌な予感が頭をよぎったが、直後にその予感は否定された。
「……生きてます!セイン生きてます!」
ミシィが泣きながら、レビーの方を振り向いて笑う。レビーは心の底から良かったと思った。しかし、なぜセインは、ああもぐったりしているのだろうとレビーは不思議に思った。
「良かった!良かったよ!セイン!」
ミシィが抱きしめる状態から、体を離してセインの手を握って振った瞬間だった。セインの腕があり得ない方向にプラプラと所在なく動いた。
「……折れてませんか?」
レビーの部下の一人がそう言った。レビーもそう思い、叫んだ。
「担架ぁーっ!」
セインはミシィに抱えられながら担架に乗せられたが、その間も全身の骨が本来あり得ない方向にプラプラと動いていた。
「ぜ、全身骨折かな……」
レビーは部下を見るが部下は目を逸らした。
状態はどうであれ、セインは無事に帰って来た。それだけでクランマイヤー王国にとっては喜ばしいことだった。

 
 

「何を騒いでるんだか。こっちの心配もしてほしいぜ」
ハルドは機体から降りて、輸送船の格納庫の方を見ていた。
「まぁ、いいじゃないか。無事に物事が上手く行ったんだ。それぐらい」
ハルドの出迎えはアッシュだけだった。
「姫とヴィクトリオは?」
「小学校」
まぁ、急に帰って来た感じだから無理もないか。一応いつも遊んでいるように見えるが姫もヴィクトリオも立派な小学生だ。
「まぁ、迎えが摂政閣下ってだけでもありがたいと思おうかね」
ハルドは茶化しながら言う。そう言うとアッシュは僅かに不機嫌になった。
「いい加減、摂政閣下はやめろ。僕はウンザリだ。……それより、そのアーマー取らないのか?」
ハルドは言われて気づいた。そういえば、改造したネックスに乗るために装着したアーマーを付けたままだ。
全身を外すのには手間がかかるにしても。頭部のバイザーを上げるくらいなら楽だし良いだろうと思ったが、ハルドは嫌な予感に襲われてバイザーを上げるのを躊躇った。
「話す時くらい顔を見せろ」
アッシュの手が伸びて、頭部アーマーの横のバイザーを上げるスイッチを押した。その瞬間バイザーが上がった。それとほぼ同じタイミングだった。
「ごはぁっ」
ハルドが口から血を吹き出して。全身が痙攣しだした。
「おい、どうした!?」
目の前で吐血し痙攣し始めた人間を見てアッシュは驚愕に襲われたが、冷静に叫んだ。
「担架ぁー!」

 

気づくとセインは良く知った天井を見ていた。良く知っていると言っても、あまり良いものではない。セインはこの天井はクランマイヤー王国の病院の物だと知っていた。
セインは体を動かそうと思ったが、体が全く動かない。首も動かせないので視線だけを動かすと全身が包帯とギブスに包まれていた。見た目は完全にミイラ男ではないかとセインは思った。
「よう、元気か?」
隣から声が聞こえた。しかしセインは現在、全身をギブスで固定されたミイラ男、状態なので隣のベッドの様子を見ることは出来ないが、声で分かった。声の主はハルド・グレンだ。
「つっても、返事も出来ねぇか」
そんな声が聞こえると、ベッドを仕切るカーテンが開いた。おそらくハルドの方で開けたのだろう。セインは首が動かないので、目だけでハルドを見ると、ハルドも中々に悲惨な状態だった。
両腕と両脚は完全に包帯とギブスで覆われ、簡単なことしかできない状態。そして、胸に包帯が何重にも巻かれているのをセインに見せつけていた。
「レビーとマクバレルの口車に乗って、ヤバい機体に乗ったらこのざまだ。笑ってくれっていってもわらえねぇか、全身の骨が漏れなく骨折かひび入ってるんだもんな」
全身骨折!?ハルドの機体に引っ張られて以降は記憶が無いが何があったというのかとセインは驚愕した。
「いや、俺の機体、というかマクバレルとレビーのせいなんだけどね。加速は良いんだけど減速しようとすると死ぬ機体だから。しょうがなく最大加速でアレクサンダリアから逃げたら、機体の加速Gに耐え切れず、お前の身体はボロボロになったわけ」
セインは、ミイラ状態の身体で考えた。つまりはハルドの機体に引っ張られたせいで、今現在こんな身体になっていると。それはハルドにも原因が無いかとセインは思った。
「フガガガガ!、フガガ!」
「なに言ってんのか分かんねぇよ。って痛ぇ……俺も肺とか肋骨とか胸辺りが殆どぶっ壊れてるから、喋るのきついんだよ」
ハルドはそう言うと横になった。セインがかろうじて見えた範囲では、顔は痛みで辛そうだった。
「フガガガガ」
ありがとうとセインは言ったつもりだが、おそらくは伝わってないだろうとセインも思った。しかし、それだけの怪我を負っても自分を助けてくれたのは、セインからすれば嬉しかった。
両親もいない今、それでも自分を大切に思ってくれる仲間。セインはそれをかけがえないのないものだと思った。
「何言ってるか分かんねぇし、喋りたくねぇから黙ってろ」
ハルドがそう言うがセインの心には感謝とそして、クランマイヤー王国――よくよく考えれば自分にとっての第二の故郷、そこへ帰って来た喜びがセインの心を埋め尽くしていた。

 
 

「セイン君は骨がくっつくまで二日くらいかな。ハルドさんは肺に穴が空いてるから一週間はここで大人しくしてもらわないと」
医師は病室で淡々と説明した。いつもセインが訓練で負った傷を治療してくれる医師だった。
「はぁ!?ふっざけんな!って痛ぇ……」
医師はため息をつきながら説明する。
「現代医学だと。骨折なんかは二日か三日あれば治るけど、内臓に穴が空くと別なんですよ。それにハルドさん、こっちじゃ分からないけど、出所不明の生体組織ペーストで肺の穴塞いだでしょ。そのせいで肺全体が色々とマズイことになってるんですよ」
セインはミイラ状態から少し我慢すれば元に戻れると思い喜んだ。しかし、ハルドは別だった。
「ふざけんな!俺も速攻で治せ!
「いや、無理ですよ。肺が腐りそうなんですから」
そう言われ、ハルドはマジで?という表情になり大人しくなった。
「出所不明の生体組織ペーストのせいですよ。品質の悪い物はよくこうなるんです。肋骨が変な方向に曲がって心臓や肺を貫きかけてたのは、まぁ良いですけど。そもそもこんな状態になって痛くなかったですか?」
「いや、痛くなかったけど……」
ハルドは少し考え、強制的に注入された正体不明の薬剤のことを言った。
「ああ、だからか、尿から田舎の医者じゃ訳の分からない成分が出てきてね。軍の知り合いに尋ねたら、危険で使用が中止された薬の成分と一致したんですよ。痛みとか感じなくなる類の効果を持ったものですね」
ハルドは色々と頭の中で物事の整理がついてきた。
「俺の私見だが、レビーとマクバレルは俺が死ぬ可能性を気にせず、ヤバい機体をつくって、更にヤバいアーマーでヤバい薬をめったやたらに注入したわけか」
ハルドは笑いながら言った。すると医者はうんうんと頷いた。
「多分そんな感じでしょう。まぁ医療以外のことは私の管轄外なのでお好きに。まぁとにかくハルドさんは。内蔵関係の治療とハルドさんが言うヤバいクスリを身体から抜くのに一週間入院でお願いします」
そう言って医者は去って行った。ハルドはセインを見る。
「なんで、助けられた奴より、助けた奴の方が被害が大きいんだろうな?」
セインはハルドが色々キレてる状態だと思い、とりあえず寝たふりをしたのだった。

 

「いてぇいてぇ、くっそいてぇ!」
セインが退院の日はそんな声で目が覚めた。全身の包帯はとれ、骨をもくっついていた。セインは身支度を整えるとハルドに挨拶をして去る。
「すいません。お先に失礼します」
セインは小さな声で言ったつもりだったハルドには聞こえていた。
「ふざけんな、くそ!退院したらお前も同じ目に合わせるからな!」
セインは嫌な予感がしたが、気にせずに病室を出た。すると、すぐに誰かが自分に抱き付いてきた。
「良かった、良かったよ、セイン」
抱き付いてきたのはミシィだった。セインは抱き付いてきたミシィを拒むことなく、穏やかに頭を撫でた。
「うん、帰って来た」
セインの言葉はそれだけだったが、セイン自身は何もかもを振り払った、本当の自分ただ一人の言葉だと思ってミシィに伝えたのだった。
セインは思う。大切なものを決めつけるにはまだ自分は子どもであり早すぎると。それでも、子供でも、いまの大切なものは守りたい、それはクランマイヤー王国であり、そこに住む人々、ミシィにその家族、そして自分が知っている人たちだ。
命を捨てでも、と以前は言ったかもしれないがセインは、そんな気持ちにはならなかった。今は、絶対に命を捨てたくない。どんな苦しみや辱めにあっても、それでも自分は生きて、大切な人のそばにいたい。
皆から離れ、一人になり、孤独を経たセインの答えがそれだった。誰かと常に一緒にいなければいけない。セインは、ハルドやロウマなどの強者からすれば、一笑に付されるような答えだろうが自分にはそれしかないと思った。
セインは思う。自分は弱いと。多くの敗北のと人の言葉がそれを気付かせた。自分は強さとは無縁の存在だと。だからこそ多くの人々と歩みを共にしよう。
そして、一人ではなく多くの人と、今となりにいるミシィや、それを含めた多くの人々と歩いていこうと思ったのだった。それだって強さだとセインは考えた、アレクサンダリアでの何も出来ない日々の中で、そう思った。
セインは完治直後でまだふらつく体をミシィに預け、ゆっくりと歩きはじめたのだった。

 
 

「鍛えなおすか……」
ハルドは病室のベッドの上でボンヤリとそんなことを考えていた。ロウマには何度か言われているが弱くなっているという自覚はハルドもあった。最近は、馬鹿をやって強さを誤魔化してばかりだった。
しかし、アレクサンダリアで戦ったガンダムタイプに、本気を出したロウマ。強敵はまだまだいそうだ。別に死ぬのが怖いわけではないし、それを望んでもいるのだが、全力を出しきって死ななければ意味がない。ハルドはそう思っていた。
とりあえずは、勘を三年前の特殊部隊所属時代まで戻す。そこからがスタートだとハルドは考え。今は体を治すために、とにかく休もうと決めたのだった。それから数日後、ハルドは無事に退院した。

 

クランマイヤー王国はロウマが率いるガルム機兵隊の襲撃以降、平穏な日々が続いていた。クランマイヤー王国のコロニー内は季節が秋へと変わりつつあった。平穏な日々、そして季節が移り変わる中でも人々はやることがあった。
新たな機体に乗ってクランマイヤー王国へ帰還したセインは新たな機体オーバーブレイズガンダムについての説明をレビーとマクバレルに強いられていた。
機体を説明する中でどうしてもプロメテウス機関と“ギフト”の存在に触れる必要があったため、その部分はハルドが説明した。レビーもマクバレルも別段、驚いた様子はなく簡単に納得したようだった。
「まぁ怪しい技術を開発している秘密結社なんて腐るほどありますし」
「その説明が一番納得しやすかったので信じただけだ」
というのが二人の弁である。ともかく、レビーとマクバレルはオーバーブレイズガンダムに興味津々であり、セインが入院中に既に機体の中身を粗方解析したとのことである。
「出力はブレイズガンダムと比べて通常時でも150%の上昇。あと、ブラックボックスだった動力部分がオープンになって、その“ギフト”ってのが解放されてるわ」
レビーはそう言うと、機体の各部パーツを外すように部下の作業員に命令した。部下は速やかに機体のパーツを外すとオーバーブレイズガンダムの動力が露出した。
「あれが“ギフト”というものなのだろう?」
マクバレルは動力炉の中心に浮かぶ。炎のような球体を示した。
ハルドはブレイズガンダムとの戦闘の最中で少し見たがハッキリと見たのは今回が初めてであるし、パイロットのセインも初めて見た。
「調べたが、恐ろしく高効率なエネルギー体だ。通常時でも、現行のMSの動力などは足元にもおよばない。アレ一つをうまく使えば、地球一つ分のエネルギー問題など簡単に解決できる。まぁ、人間にアレを使いこなせるとは思えんが」
ハルドはマクバレルの言葉に気になる点があったので、質問してみた。
「通常時って、ことは通常じゃない場合もあるんだよな?」
マクバレルは作業員にパーツを戻すように命令したうえで、ハルドの質問に答えはじめる。
「少し、実験したが。どうやら炎のような物体は人間の精神に感応して出力を上げるようだ。特に興奮状態だと、出力量は極端に高まる。そして高出力時には、人類が現在観測出来ていない未知の粒子を放出するようになる」
だからブレイズガンダムは、あんなパワーを発揮出来ていたのかとセインは納得したのだった。その横でハルドは思考を巡らせ、マクバレルに尋ねてみる。
「興奮状態で出力が高まるなら、セインのブレイズガンダムは常に出力が高い状態でないとおかしいはずだが、そんなことは全くなく、俺からは安定しているように見えた。それに極端と言う言葉が気になるな。
その極端は機体を自壊させるレベルか?後は人間には使えないってのが気になるな。どういう意味だ?」
マクバレルは一気に質問をされてウンザリといった感じだったが、素直に答えるのだった。
「ブレイズガンダム時にはフィルタリングがかけられており、出力が常に安定するように制御されていた。おそらく何らかのコードでフィルタリングを解除しパイロットの感情の昂りを“ギフト”に伝えていたのだろう」
マクバレルは説明はウンザリと言った感じで続きはレビーに譲る。
「出力が上がっても機体にはダメージはいかなかったと思いますね。ブレイズガンダムのフレームは異常な出力が流れてきた場合は、放出するように出来ていますし、背中を突き破って、炎の翼を出したのは、完全なイレギュラーでしょう」
ハルドはふーんと、レビーとマクバレルの説明を聞いていた。するとマクバレルがハルドの最後の質問に答える。

 
 

「人間にはアレが使いこなせないというのは、人間は感情が変動する生き物だということだ。
薬剤を大量投与して常に興奮している人間でもいれば、あの“ギフト”は、最高のエネルギー発生装置になるが、そんなことを続けていられる人間などおるまい。結局はMSの動力で収めておくのが妥当な代物だ」」
ハルドは話しを聞きながら何となく思ったことを言ってみた。
「羽クジラの一族さんたちは、地球人が常に興奮し続けているか、感情を常に一定に保っていられる生き物だと思ったのかね?」
ハルドの考えに対し、マクバレルは頷いた。
「生物の進化の形が読めん以上、そういうものを用意しておくのもありだろう。実際、陳腐なSF小説の世界にいるような感情を自由にコントロールできるようになった人間しかいない世界では、この“ギフト”は最高のエネルギー源だぞ」
まぁ、そうだろうなとハルドが考えていると、セインが何の話ですかとハルドに顔を近づけてくる。鬱陶しいのでハルドはセインの顔を押して遠くにやった。
「話は変わりますが、色々とこのオーバーブレイズガンダムは機体の各部がオープンになったのでブレイズガンダムの頃より整備も楽になってますし、どうやら“ギフト”への感情接続のフィルタリングも緩和されてます。
ただ、フィルタリングが緩和されたせいか、パイロットの精神状態が影響されやすくなっているみたいですね。出力の上がり下がりがあるかもしれないのでパイロットのセイン君は気をつけてください」
セインは素直に、はい、と返事をしたが。隣のハルドは頭を抱えた。
「精神状態の安定って、お前が一番苦手な部類じゃねぇか」
セインはハッキリ聞こえたが無視をした。
「まぁ動力に関しては何とでもなるが、我々としては気に入らんのはフレームや外装を手がけた奴らだ。私が“ギフト”の情報を知っていたなら、完璧な形でフレームも外装も仕上げてやったというものを!」
マクバレルは怒り心頭といった様子だった。
「とりあえずだ!フレームや外装は私が仕上げ直しをするので、機体を動かせるようになるまでは、少し待て!」
「オーバーブレイズガンダムをクランマイヤー王国風に最高の形に仕上げるから待っててね、セイン君」
レビーとマクバレルはセインに対してそう言った。セインはいまいち話の流れが分からなかったが、この二人に任せておけば大丈夫だと思った。その直後だった。ハルドが手を挙げて言った。
「前に頼んだ、俺専用機はどうなってるんですかー?」
そうハルドが言った瞬間、レビーとマクバレルはバツの悪い表情になった。
「あー、えーと、努力中です」
「というか手詰まりだ。ここの設備では貴様の本気の操縦を完全に受け止める機体は造れん」
忘れてはいなかったが忙しくておざなりになっていた機体だ。そもそもクランマイヤー王国の設備が悪いから完成までこぎつけられないのだとレビーは思った。
マクバレルが本当のことを正直に言ったので、レビーがマクバレルの服の袖を引っ張る。その言葉を聞かされたハルドの目は完全に座っており、いつの間にかどこからか拾ってきた、鉄パイプを手に持っていた。
「オーケーだ、クソ野郎ども。少し反省させて仕事が捗るようにしてやるよ」
ハルドは鉄パイプを片手にゆっくりとレビーとマクバレルに近寄る。マクバレルは平静を装っているが、顔面は蒼白で冷や汗を大量にかいている。どうしようもないとレビーは思い、起死回生に策にうって出た。
「ごめんなさい!私、お腹に赤ちゃんがいるかもしれないんです!許してください!」
そうレビーが叫んだ瞬間、場が呆然となった。一番、呆然としたのはマクバレルだった。
「え、まじ?父親は?」
ハルドは鉄パイプを振り上げた状態で制止し、レビーに尋ねた。レビーは無言でマクバレルを指さした。ハルドは、まぁそうだろうと思った。
「お願いします。子どもを父親がいない子にしないでください!」
レビーは全くのでまかせだが、とりあえずだ自分とマクバレルがハルドの暴力から逃れるにはこれしかないと思って言ったのだった。

 
 

「いや、そうか、うん。なんか、ごめんな。多分俺が良くなかったな、すまん。体には気をつけてな」
ハルドは珍しく本心から謝った。何故かはわからないが、謝らないといけないと思って、鉄パイプを下げたのだった。
「子どもがいるかもしれないって言ったから、まだわかんねぇんだろ?」
「生理が来ていないので、もしかしたらと思って。早とちりかもしれないかもしれないですけど」
ハルドの問いにレビーはしれっと答える。生理は一週間前に来ているので子どもが出来ている可能性はゼロだ。しかし、妊娠ネタでハルドがここまで弱くなるとはとレビーはハルドの弱点を見た気がした。
「まぁ、なんだ、もし出来てたら、結婚式は早めに挙げろよ。腹が目立たないうちにな。祝儀は俺が多めに出すからよ」
レビーはハルドが思ったよりも本気な感じだったことに少し驚きながらも、多少の感謝の気持ちを抱いた。
そしてハルドはバツが悪そうな表情のまま工場区画を去り、ハルド専用機の話しはうやむやになったのだった。
この間、セインは良く分からないので、呆然としているしかできなかった。セイン・リベルター16歳。まだまだ未熟であった。

 

ハルドはひたすらに訓練の日々だった。三年間で無くなった感覚を取り戻すために、ひたすらに体を動かしていた。訓練の相手はストームが殆どだった。
ハルドとストームは王家邸の裏にある草原で徒手格闘の訓練を延々と続けている。ハルドのローキックからハイキックへ軌道が変化する蹴りをストームはすんでの所で避けるが、空を切ったはずの蹴りの軌道がもう一段階変化し、蹴りが伸びてストームを襲う。
ストームこれは回避できずに真正面から受け止めるが、ストームの動きもそれだけでなく、ローキックをハルドの軸足に放っていた。しかし、ハルドの蹴り脚の方が圧倒的に速く、ローキックを放ったはずのストームの蹴り脚を弾き、ストームを地面へと転ばせた。
地面に転がった瞬間にストームは降参のポーズをして、ハルドを呆れさせる。
「ったく、話しになんねぇ。なまり過ぎだストーム」
「そうは言うけど、俺ってばもうすぐ40歳よ。おじさんよ。無理言うなって」
ストームは抗議の声を上げる。ハルドはその声を無視して、この分では訓練としての密度が弱いなと考えていた。この際、虎(フー)と組み手をしてもいいが、その場合、本気になりすぎて、どちらかが重傷を負うということになりかねない危険性もあった。
ハルドは冷静に今の自分の状態を考えてみた。基本的な戦闘技術は確実に落ちてるし、直感的な判断力の正確さも落ちている。体力も低下はしていないが、鍛え上げていたわけではないので昔と比べて変わっていない。ハルドはそれも問題のような気がした。
とにかく、三年前より弱くなっているのは確実だとハルドは冷静に自分を分析した。今までは弱くなっていても困らなかったが、明らかに強い敵の存在がハッキリとした以上、出来れば自分の強さを昔のものに戻したかった。
「おーい、ハルドくんよー、もう訓練終わりにして、飲みに行かねぇ?おじさん、喉乾いたよ」
まだ昼間だぞ飲んだくれがと、ハルドは色々とストームに思うことがあった。とにかくこの男はマトモに働かないのだ。働かない癖にクランマイヤー王家のツケで昼間から酒を飲むダメ男。
昔からどうしようもないところはあったが、軍を辞めてから酷くなったようだとハルドは思った。

 
 

“ストーム”本名は不明。歳は40歳になると本人は言っているが、それも怪しいものだ。見た目では30代前半にも見える。
地球連合軍時代は軍上層部直属の特殊工作員。特技は狙撃と言語。地球上の全ての言語、今は滅んだ小数民族の言葉さえ完全に理解し、話すことすら容易だ。狙撃に関しては非公式だが、地球連合軍内で最高のスコアを出したこともあった。
工作員時代の基本的な仕事は武器の密輸や武装組織の支援、麻薬の密造密売など様々な非合法活動で国家を疲弊させ、内側から崩していくという長期的な作戦を主としていた。他にもテロ活動の扇動なども行っていた。
ハルドのように、単純にターゲットを殺すだけの工作員とは単純仕事とは全く逆の仕事がストームのしていたことだった。
まぁ仕事は色々と汚いことが多く、当時から愚痴をこぼしていたが、軍の機密を数多く握っているということで、容易には軍を辞められず。
任務中に死亡したことにして、軍から脱走したが、ストームを知っている人間は誰もストームが死ぬなど思っていなかったので、ほとんど意味がなかった。かわいそうなので見逃した結果、今に至るというわけだ。
「飲むのは夜だけだ。それよりも早く仕事を見つけろ、ごくつぶし」
「俺ちゃん、働くのイヤー。それよりもお酒を飲みたいよー」
ホントにクソだなコイツとハルドは思った。そして、もう放っておくことにした。訓練は自力で何とかするしかないと思うのだった。

 

それから数日、ハルドはひたすら自力で訓練をしていたし、他の面々やクランマイヤー王国の人々ものんびりしたものだった。
そんなある日だった。朝食の時間に姫がハルドやアッシュに急に伝えた。
「今日は刈り入れをします!」
何の?とハルドとアッシュは顔を見合わせた。セインは最近、ミシィとその家族が住む家で朝食を取ることが多いので、この場にはクランマイヤー王国生まれではない者はハルドとアッシュとセーレしかいなかった。セーレに関してはハルドもアッシュも意識の外だった。
「とにかく稲刈りなんです!お米をとるんです!神聖な儀式なんです!」
ああ、米かとハルドは朝食の米飯を食いながら何となく理解した。まぁ暇だし良いかと思って姫に付き合うことにした。ヴィクトリオも何だか知らないが楽しそうなので良いと思った。
「僕はちょっと仕事が……」
アッシュは及び腰だった。まぁそうだろうとハルドは思った。摂政になり地球連合と同盟が結ばれてから、外交関係はアッシュに一任されており、アッシュは内政と外交の両面の仕事を一人でこなしていた。まぁいつか過労死するだろうなとハルドは他人事のように思った。
まぁ、アッシュが頑張っているのでクランマイヤー王国は過ごしやすくなったという国民の声も聞こえてきている。
ハルドからすれば凄まじいと思うことだが、不満は一切出てきていなかった。これは、おそらくアッシュの繊細な性格が不満分子のことも考えて、色々な配慮をしているからだろうと思った。
そういう余計なことまで考えて仕事をしているから死にそうになるのだとハルドは思ったが、口には出さなかった。
「むー、じゃあアッシュさんはいいです。私とハルドさんとヴィクトリオ君で稲刈りに行ってきます」
ハルドは訓練を休むのもたまにはいいかと思って、朝食を終えると姫についていくのだった。
ハルドは稲刈りをする場所はクランマイヤー王家邸のあるメインコロニーかと思ったが、違った。第一農業コロニーで稲刈りをやるようだった。ハルドはイマイチ理解しがたかった。第一農業の田は相当な広さがあるが、どうするのかと。
そんなことを考えながら、第一農業コロニーでリニアトレインを降りると、駅の前は凄まじいことになっていた。
とにかく人に人、クランマイヤー王国中の人間が集まっているようだった。

 
 

「あ、ハルドさん。どうもっす!」
ジェイコブ三兄弟の長男のジェイコブがハルドの姿を見つけ声をかけた。ジェイコブの顔には奇妙なペイントがされていた。
「お前、顔の何?」
言われてジェイコブはハルドがクランマイヤー王国生まれの人間ではないことを思い出した。
「稲刈りっすから、顔に化粧をして、神様が来るのを敬ってお迎えするんです。神様に汚い顔は見せられないっすから」
何だか複雑な文化があるようだとハルドは思った。
「森の人たちは、ああしますけど、私たちは田んぼの泥で良いんですよ」
姫がハルドに講釈をできるのが少し嬉しいように説明した。ハルドとしては泥を顔に塗るのは不潔なので、嫌だと思った。
「じゃあ、始めましょう!」
姫が小さな体からどうやって出しているのか分からないほどの大声で皆に呼びかけた。すると、皆はオー!と叫び、持ち場についていく。
ハルドは状況が読めなかったが、とりあえず周りの動きに合わせようと思った時だった。姫に引っ張られ、稲刈り用の服装に着替えさせられ、そのまま稲刈りに従事させられた。
「どうすんだ、コレ」
そう思いながらも、ハルドは器用な方だったので、クランマイヤー王国の住人の動きを見て、それを真似すればいいだけだったので全く困ることはなかった。しかし、そうでないものもいたようだった。
「セイン、そうじゃないって!もっと腰をしっかりしなきゃ!」
「うるさいなぁ、ミシィに言われなくても分かってるよ!」
どうやら、この場にはセインとミシィもいたようで、二人で仲良く騒ぎながらやっていた。ハルドはその光景を何となく悪くないと思うのだった。前は別にどうでも良かったと思ったはずだが、少し自分も変わっているかとハルドが思った時だった。
急に指が襲ってきて、ハルドは上半身を反らして躱した。指を放ったのは姫だった。どういうつもりなのかハルドは聞きたかったが、姫は頬を膨らませていた。
「むー残念です。おまじない失敗です」
神事におまじない、クランマイヤー王国という国は一体何年なのだと、ハルドは少し呆れながら姫に聞いてみる。
「どういうおまじないですか?」
「田んぼの泥で、好きな人のほっぺたに一の字を書くと結ばれるっておまじないです」
「それじゃ、姫様は俺とは結婚できませんね」
ハルドは姫の機嫌を損ねないような口調で言ったが、お呪い失敗した時点で姫はご立腹であった。
「いいです、私が大きくなったハルドさんが結婚してくださいっていうような美人になりますから」
そう言って、姫は稲刈りの作業に戻って行った。
ハルドは結婚と言われてもピンとこないし、そもそも、これからさき結婚をしようなどという気持ちは全くなかった。自分が真に愛する人間はただ一人であり、その一人を想い続けていればハルドは充分だったからだ。

 
 

それから数時間、休憩を挟んで稲刈りは終わった。まだ稲は大量に残っているが、それは後で機械を使い刈り取るらしいとハルドは聞いた。それでは今までやっていたのは何なのかと思ったが、これはある種の儀式であるとハルドは聞いた。
その証拠に夕方になると大きな火が焚かれ、太鼓や様々な楽器が鳴りはじめ、クランマイヤー王国の人々は火の周りで踊りはじめる。
「あれ、ハルドさんも来てたんですか」
セインがミシィと並びながら歩いて、ハルドの姿を見つけ、挨拶をする。セインの頬には泥で一の字が書かれていた。
「ミシィは抜け目がないな」
ハルドはセインを少し馬鹿にするような口調で言ったが、ハルドの口元には笑みが浮かんでいた。まぁ悪くない、悪くはないとハルドは思った。ミシィなら上手くセインの手綱を握るだろうしお似合いと言えばお似合いだ。
「お幸せに」
ハルドはそう言うと、二人を放って、酒を配っているらしい場所に向かった。すると森の部族のリカードが酒を配っていた。
「忙しいことだな」
「なに、日々の生活を比べればたいしたことはない」
ハルドは何となく、リカードと話しがしたくなったので、リカードの隣に座った。
「きみはこのような祭りごとを原始的だと思うか?」
リカードは仕事をしながら、ハルドに尋ねた。
「いや、雰囲気もあって嫌いじゃないよ、俺は。あんまり綺麗な世界で生きてきたわけじゃないから、こういう人間味のある世界は好きかもしれない」
そうか、とだけいってリカードは酒を配っていた。
「この祭りにおいて酒は、神の水ということで部族の長である私が責任を持って配ることになっている」
そりゃ大変そうだなと思いながら、ハルドは盃をリカードに差し出した。リカードは何も言わずに盃に酒を注ぎ、ハルドは酒を飲む。米酒、質も良いし祭りで出すような代物ではないような気がした。
「この祭りでは、火に要らないものをくべ、その代わりに願いを叶えてもらうという風習があるが、君に要らないものはあるか?」
リカードに尋ねられた瞬間、ハルドは自分、と言いたくなったがやめておいた。他人に余計なことは話したくなかった。
「君のことだ。自分とでも言うのではないかと思ったが」
どうやら何もかもお見通しらしいとハルドはバツの悪い表情になり、盃をリカードに差し出した。リカードは盃に酒を注ぎながら言う。
「生も死も自由だ。この世界は自由に満ちている。全てきみの好きにしたらいい。ただ、世界は許しても人は許さない。それが生きていくこと、そして死ぬことの面倒なところだ。私たちは世界ではなく常に人に縛られている。
きみの死を望まず、この世界に居続けることを望む人間もいる。厄介だろうが、その望みを叶えてからでもいいのではないかね、全てを捨てて死を望むのも」
面倒だなぁとハルドが思うとリカードは僅かに微笑んだ。
「人の生とは面倒なものだ。面倒を忘れるには神の水が必要なのだ」
そう言うと、リカードはハルドの盃に酒を注いだのだった。
「火の周りでは若者たちが楽しんでいる。きみも行くといい」
ハルドは盃の酒を手に火のそばに近づいた。すると偶然セインとミシィの二人組にであった。
「ハルドさんもお願いですか?僕は僕の周りの人たちを守れるような強さが欲しいってお願いしました」
セインの表情は穏やかだった。ハルドは直接見たわけではないが、自分が破壊したブレイズガンダムに乗っていた時のセインの表情とは全く違うのだろうと思った、
そしてなんとなく大人っぽくなったことにムカついたのでセインの尻に蹴りを入れた。その瞬間、そばにいたミシィが口うるさくまくしたのでハルドはさっさと逃げだした。

 
 

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