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GUNDAM EXSEED_B_46

Last-modified: 2015-09-05 (土) 21:31:12

現状、一番被害が少なかったのは第2農業コロニーだった。MSが突入してくると同時に、森に住む民は族長のリカードの指示の元、広大な森の中に身を隠していた。ジェイコブ三兄弟も樹上に隠れ、徘徊する敵らしきMSをやり過ごしていた。
(どうなってんだ?)
ジェイコブは部族に伝わるハンドサインで声を出さずに弟妹と会話をしていた。
(クライン公国が攻めてきたってことでしょ?)
(だけど、いきなりだったのは変だよ。クリスとかから聞いてるけど、普通は最初に挨拶をしてから攻撃してくるらしいし)
そうやって、ジェイコブ三兄弟はコミュニケーションを取っていたが、突然辺りが真っ暗になった。こうなってはハンドサインでは会話をするのは難しい。そう思われそうだが、森に住む民の夜目は尋常ではないため、近距離であれば問題なく見える。
鬱蒼とした森の中は夜になれば、完全な暗闇とほとんど同じであり、今も似たような状況であるため、ジェイコブたちはそれを苦とも思わなかった。
そんな中、鳥の鳴き声を真似た人の声が聞こえてきた。ジェイコブ三兄弟はそれが自分たちの父親のものだとすぐに分かったし、他の森の民も分かっただろう。
鳥の声マネは余所者に会話を察知されずに森の中で会話をするための技術だった。ジェイコブ達も当然、それを習得していた。
(コロニーの電力が止められ、非常電源に移行したようだ。状況は悪くなっている。我らも動く)
マジか、とジェイコブは思ったが、どうやらジェイコブの父のリカードは既に動いていたようだった。森の中を探索していたしていたMSが突然、前のめりに大きく転んだのだった。転んだ先は泥沼だった。リカードしかけたトラップにかかったためだった。
泥によって、メインカメラとサブのカメラが使い物にならなくなったため、パイロットがコックピットから出て、カメラの状況を確認しようとした瞬間だった。パイロットの首に矢が突き刺さり、続いて、心臓にもう一本矢が突き刺さり、パイロットは絶命した。
ジェイコブは何が起きたのか分からなかったが、急にパイロットがコックピットから引きずり出され、敵の乗っていたMSが動き出した。
ジェイコブには何が起きているのか、さっぱり分からなかった。だが動きだしたMSは、同じ姿の機体に対して突っ込んでいくとヒートクローをそのコックピットに突き刺した。
ほとんど一瞬といっていいような短時間で、第2農業コロニーに侵入してきた二機の敵MSは全滅したのだった。
「すげーな、親父」
ジェイコブは心から感心し、樹上から降りて、父の乗る機体のそばまで行く。
「それで、どうすんだ。親父?」
ジェイコブがリカードを呼ぶと、リカードはコックピットから降りて息子に言う。
「お前たちは、この機体に乗って、工業コロニーに行け。パイロットだろう?私たちは隠れながら行動する。どうやらコロニー内に鼠が隠れていそうなのでな、それを狩ってこようと思う」
そうリカードが言った直後だった。コロニー内に今までにないほど大規模な警報が鳴り響いた。
「なに!?」
マリアとペテロは樹上にて突然の大音量に驚いていた。ジェイコブは状況がつかめず辺りを見回していた。ただ、リカードだけが厳しい顔で警報を聞いていた。
『空調システムがダウンしました。非常モードに切り替わります』
警報が鳴り響いた後に、そんな電子音声の放送が各コロニーに鳴り響いた。
「状況は良くないな」
リカードは厳しい顔で言った。ジェイコブは訳が分からず、父に尋ねる。

 
 

「空調システムが落ちたってなんだよ!?俺ら窒息するのか!?」
慌てた声をだす息子のジェイコブとは対照的に父のリカードは冷静だった。
「空調システムが非常モードになっているうちは酸素の供給に関しては何の問題も無い。それに空調システムに関しては、電気関係と同じく非常モード時はアンタッチャブル。
つまりは誰がどんな手段を使おうとも非常モードを停止させることは出来ないようになっている。ただ、非常モード時は……まぁいい、お前は早く行きなさい」
ジェイコブは父に最後まで言ってほしかったが、父はジェイコブに説明をしている間は無いといった様子で急ぎ去っていった。
いつもこうだなとジェイコブは父の説明不足に文句を言いたかったが、そんなことをしている間が無いことも分かっていた。ジェイコブは弟のペテロと妹のマリアを呼ぶと、父が残していったMSに乗り込んだのだった。

 

「空調システム落とすとか、正気じゃないなぁ」
ユイ・カトーはメインコロニーの中を鼠狩りしている最中に、警報とその直後の放送を聞き、近くに偶然干してあったシーツをナイフで切り裂くと、布きれを作り、それ使い、自分の顔の鼻から下の部分を覆った。
ユイ・カトーはシーツを複数に切り裂き、布きれを複数造ると、一緒に行動している虎(フー)や、その弟子に投げ渡し、自分の真似をするように言った。
「ナンダ?」
虎(フー)は怪訝な表情を浮かべながらも、ユイ・カトーの言う通りに口を布で覆った。
「あ、出来れば鼻にも布がかかるように、お願いしますよ」
そう注意するとユイ・カトーは携帯電話を取り出し、アッシュに連絡をする。少しの間があって、アッシュが出た。
「戦闘中に携帯電話を使うなよ」
アッシュはそう言うが、ユイ・カトーは通信機など持たずに出かけてしまったのだから、どうしようもない。ユイ・カトーは無視して話しをする。
「空調システムが非常モードになったのは知ってますよね」
聞かれて、アッシュは、ああ、と答えた。
「すっごくヤバいんですがどうすればいいでしょう?」
ヤバい、そう言われてもアッシュはイマイチ、ピンと来なかった。非常システムは問題なく稼働しているから空気に関しては問題が無いはずだとアッシュは思った。だが、ユイ・カトーは大丈夫と思っていないようだった。
「アッシュさんは、体験したことないから分からないか……とりあえずストームさんは詳しいと思うんでストームさんに聞いてください」
そう言われ、アッシュは携帯電話を通話中にしたまま、アッシュに通信する。
「空調が非常システムになってんのはヤバいよ」
通信がつながった瞬間にストームは開口一番そう言った。
「なんでヤバいかっていうとね……」

 
 

「ガスが使えるようになるんですよ。毒ガスが」
クリスはアラン中佐を前に、空調が非常システムになると何がまずいかを説明しだした。
「空調システムが非常モードになると、コロニー内の空気中の有害物質を除去する機能が極端に落ちるんです。今時のコロニーは普通に毒ガスなんか使えません。コロニーのシステム毒ガスなんて有害物質は即座に除去、宇宙へ放出します。
けど、非常モードだと、空気の供給で機能は精一杯で有害物質の除去効率が極端に落ちるので、毒ガスの仕様が可能になるんです」
クリスは疲労が大きい様子で説明を終えた。

 

ストームもクリスにだいたいのことは説明し終わった頃だった。
「俺も昔にやったことがあるから、なんとも言えんけど、相当効くよ?」
ストームの口調は若干ながらバツが悪そうではあった。
「私も特殊部隊時代に見たことがあります。と言っても、私たちの場合は可燃性のガスをコロニー内に充満させてコロニー内を大爆発させたという例ですが」
毒ガスにしても可燃性ガスにしても、どちらにしても相当ヤバいじゃないかとアッシュは危機感を覚えた。
「対処法は?」
「空調システムを通常に戻す」
ユイ・カトーが答えた直後にストームが付け足す。
「ガスを撒こうとするやつを殺す」
何にしても時間との勝負だとアッシュが思ったその時だった。急にコロニー内の音声放送システムから声が聞こえた。
「こちらは、クライン公国軍聖クライン騎士団所属、ロウマ・アンドー准将である」
この通信が聞こえてきた瞬間にクリスはしまったと思った。目先の事柄にとらわれ過ぎて艦隊の存在を忘れていたのだ。
「私は、貴国クランマイヤー王国に、我らクライン公国の同胞となる栄誉を与えに来た者である」
ロウマはいつものふざけた調子ではなく、真面目な声で話していた。
「私も諸君らも忙しい身であろう?ついては単刀直入に、貴国の代表者に伺いを立てたいのだが、貴国はクライン公国の傘下に加わるか否か?それをそうだな……一分以内に決めてもらいたいのだが、どうかな?答えは無論、決まっていると思うが、では一分を数えよう」
ロウマが慇懃無礼な態度で数を数えようとした瞬間だった。可憐な少女の怒声がそれを掻き消した
「私はあなたたちを絶対に許しません!」
その声は姫のものだった。だが、どうやってとアッシュは思った。どうして姫がロウマとの通信に応じているかは、クリスとアラン中佐が知っていた。
姫は避難所の子ども用スペースから走り出るとクリスの前に立ち、クリスから通信機を奪い、アラン中佐にロウマの通信回線とつなげるように命令し、今に至っていたのだった。
「許さないというのは回答になりませんよ」
アッシュはロウマがニヤニヤと笑っている所が想像できた。
「私たちクランマイヤー王国の人々はクライン公国を絶対に許さない。絶対にクライン公国を許さないっ!」
アッシュは嫌な気分になった。おそらく今の姫の眼は憎しみと怒りに満ちているだろう。そういう風にはなってほしくはなかったが、もうどうしようもないとアッシュの心には後悔しかなかった。

 
 

「……はい、一分終了。交渉決裂。俺的には超楽しい展開だね」
ロウマは先ほどまで口調から一転して、いつもの軽い口調に戻った。
「いやぁ、降伏なんかされたら困っちゃうところだったよ、実際はね。俺の楽しみがなくなってしまうからさぁ。クランマイヤー王国の人間はそうだな、みんな奴隷にでもしようか。
あっと、その前に、民族浄化とかかな。俺は女は嫌いだけど女が辛い思いをしてるのを見るのは好きなんだよ。クランマイヤー王国とかいう薄汚い田舎者どもの血は少しでも薄くしていかないとね」
ゲスが、とアッシュは心の中で罵り、ロウマの通信回線に割り込んだ。
「貴様は宣戦布告も無し、独立国家を奇襲し、民間人を大量虐殺したんだぞ!これは戦争犯罪にあたる!」
アッシュは当然のことを言ったのだが、ロウマは、はんっ、と鼻で笑った。
「何言ってっかわかんないなぁ、俺。もしかして、今お宅らの所が襲撃されてるのが俺の差し金だとでも?」
「貴様の差し金以外に考えられないだろうが!」
アッシュが怒鳴るがロウマは全く何も感じていない様子で答える。
「勘弁してよ。何でも俺のせいされちゃ、俺も困るって。ただ運が悪かっただけじゃない?俺が攻めるのと、ならず者が突発的にキミらの国にやってきたタイミングが重なっただけでしょう。
人間ってのはちょっと何かあるとすぐに人のせいにするから嫌だねぇ。ただ、巡りあわせが悪かったってだけかもしれないのにさぁ。俺は傷ついたから通信切るよ。ああ、そうだ。一応正々堂々と戦おうと思ってるから言うけど。
俺の軍は長旅で疲れててね、休息を取って明日の朝に攻めるよ」
明日の朝。その言葉を聞いてアッシュは時計を見る。時計は夜の10時を示していた。明日の朝までは、まだ少しの猶予がある。その間に今コロニー内で起きている問題を片づけなければいけないとアッシュは焦りを感じていた。
「ちなみにアッシュ君さぁ、俺とノンビリ話してて大丈夫?あの可愛い姫様の声が聞こえないんだけど。まぁいいか、じゃ、今度こそ切るよ。それじゃあ、楽しく戦おうね」
そう言ってロウマの通信は途絶えた。アッシュはロウマの言っていた言葉が気になっていたので、すぐに姫が持っているはずの通信機に通信を繋いだ。しかし応答が無い。なにが起きたかと思うと、閉じられている避難所の扉の隙間から紫色の煙が漏れ出ていた。
「まさか、もうガスが!?」
アッシュは背筋が凍ったが、直後にアラン中佐が避難所の扉を開けて、手を交差させて×を作った。アッシュはどういう意味か分からなかったが、直後にストームからの通信が入る。
「たぶん只のスモークで無害。あらかじめ仕掛けておいた嫌がらせ用のやつだろうね。けど相当に混乱させることは出来る」
アッシュはつくづく嫌になる戦いだと思った。もっと真正面から来てくれれば、自分は何とかできるが、こうも搦め手でこられると自分は思考停止になってしまう。アッシュは危機感を覚え、同時にロウマ・アンドーの掌で踊らされているという自覚を抱いたのだった。

 
 

「とりあえず色々と整理したいな。クリスは……?」
アッシュは額を手でこすりながら難しい表情で言った。すぐにクリスから返事の通信が入る。クリスも避難所のスモーク騒ぎで外に出ていた。アッシュは直接会話しようとコックピットから出ようとしたが、それに関しては即座にストームが止めたのだった。
「一応、アッシュ君、総司令だしね。MSの中の方が安全さね」
クリスもそれに同意したのだった。
「とにかく、アッシュさんに何かあるというのは極めてマズいので、コックピットの中でお願いします」
アッシュはとりあえず、わかった。と了承し、コックピットのシートに身体を預ける。
「クリス。現状説明を頼む。きみが把握できてる範囲でいい」
アッシュに言われ、クリスは通信を通してアッシュに説明を始めるのだった。
「とりあえず司令部に関しては機能停止です。そのため、コロニー周囲の状況を探査するのが困難となっています。
次にコロニーの状態ですがリニアトレインの線路が破壊されたため、各コロニー間の移動が困難となっています。
また、電気系統に何らかの工作をされたため、送電等に不具合が発生、現在コロニーは非常電源で稼働中。そのため、全コロニー内はほぼ暗闇です。空調システムも工作されているため非常モードで稼働中。それにより毒ガスが有効な状態です。
民間人の死傷者多数。民間人に偽装した敵兵の仕業によるものです。我々は偽装した敵兵を鼠と呼称し、現在、歩兵による鼠狩りを行っています。
四基のコロニーの内、我々が状況を把握できているのは、このメインコロニーと工業コロニーだけです。第一農業コロニーと第二農業コロニーに関しては状況の把握はできていません
所属不明の敵MSの侵入に関しては現在は停止しています。工業コロニーの方にも問い合わせた所、向こう同じようです。
クライン公国軍の本格侵攻は翌朝と敵指揮官は言っていました。現状、僕が把握している情報はこれぐらいです」
アッシュはどうにも状況が悪いなと思うしかなかった。
「最優先は?」
アッシュは思考するのが面倒になりクリスに尋ねた。
「電気と空調のシステム修復ですね」
「虎(フー)とユイ・カトーほか数名をシステムの修復に向かわせる。他はとにかく明日の戦闘に備え、パイロットを工業コロニーに集める。これでどうだ?」
「良いと思いますけど。システム修復に関しては、工業コロニーの技術者の協力が必要です。虎(フー)さん達は工業コロニーを経由してからシステム修復に向かってもらいましょう」
だいたいこのコロニーに関しての見通しがついたかとアッシュは思い、工業コロニーの様子はどうかとセインに連絡した。
セインはすぐに通信に出たが、その声は極めて焦ったものだった。
「大変です!工業区画、MS工場じゃない方の区画が爆発してます!」
工業コロニーにも鼠がいたかとアッシュはウンザリした気分になった。
「区画の人間の避難は?」
「全然です!何だかわからないですけど、工場の人達の姿が見えないんです!」
おそらく鼠が銃を撃って威嚇して、工場の人間たちを表に出させないようにしているのだろうとアッシュは考えた。

 
 

「虎(フー)は先行してシステムの整備区画の鼠の掃討。ユイ・カトーは歩兵を3:1に分け3を率いて、工業区画に行って鼠狩り。残りの1の歩兵はアラン中佐の指揮下に入り、鼠狩りを続けるのと同時に避難所を警戒」
アッシュはこの指示で大丈夫かという不安があったが、もうどうにもならないと思った。根本的に使える駒が足りないのだ。こんな時にハルドがいたならば楽なのだがとアッシュは若干弱気になっていた。
「セイン君は何とか明日の朝までにパイロットを揃えてくれ。キミも怪我をしているだろうが我慢を頼む」
了解です。という返事が返ってきた。その返事にまだ元気があることだけが救いだった。

 

「それで、えーとパイロットは……」
セインは腹の傷の痛みに耐えながら機体とパイロットの数の確認を行った。先ほどジェイコブらが敵のMSに乗ってやって来たので、危うく撃墜しかけたが、なんとか無事にジェイコブ三兄弟は合流できているし、セーレも問題なく合流していた。
しかし、それでも機体とパイロットの数が合わない。セインは無事に格納庫まで到着したパイロットの数と機体の数を確認していたがどうしても合わない。
本来だったら、機体の方が少なく、パイロットの交代などの関係でパイロットの方が20人以上余るはずなのに。セインが数えた限りでは、パイロットの方が機体よりも10人ほど少なかった。
その数字にセインは背筋がゾッとした。30人以上のパイロットがMSに乗ることもできずに死んでいったというのかと思い、もしかしたら自分もその内に入っていたかもしれないと思うと僅かに恐怖を感じた。
しかし、セインはすぐに恐怖を振り払った。朝には戦闘が始まる。恐怖を感じている暇など無いと気持ちを切り替えた。
現在、セインが幸いと思えるのはシルヴァーナのクルーがほぼ全員無傷であり、戦闘の際には艦砲射撃による援護が期待できるということだった。というか、それしか幸いと思えることが無かった。
今、コロニーを襲ってきている連中はクライン公国軍ではないというが、それも信じられない話であるし、何より信じられなかったのが、避難所を爆破したという話しである詳しい話しは聞いてはいないが、相当に酷い状態だという。
セインはどう考えてもロウマの仕業だとしか思えなかった。ロウマが裏で手を引いてやらせているに違いないとセインは、そう確信を抱いていた。
「若者よ。私は寝るぞ。グリューネルト、三時間経ったら起こせ」
「はい、坊ちゃん」
セインがロウマの陰謀を巡らせているのではと考えていた最中、イオニスは勝手に寝ると言って寝てしまった。相変わらず勝手な人だなとセインは思ったが、しかし三時間しか寝ないというのはどういうことだろうかとセインは思った。
「セイン様も、どうぞお休み下さい。何かあった際には起こしますので」
グリューネルトにそう言われると、セインにも疲れが襲ってきた。気を張っていたいのだがとセインは思ったが、無理だった。セインはイオニス同様、コックピットの中で眠りについたのだった。

 
 

「で、私は結構、危険な役回りなわけですね」
ユイ・カトーと彼女が率いる歩兵はノーマルスーツに着替えて、リニアトレインの線路を伝って工業コロニーに向かっていた。線路は途中で破壊されているので、破壊された部分を乗り越えなければならなかったが、そこは問題が無かった。だが問題は次であった。
工業コロニーのリニアトレイン駅のホームに敵はバリケードを築いていた。ユイ・カトーは物陰に隠れながら、サブマシンガンを撃っていた。
「こういうのって、どう考えても私の仕事じゃないでしょうに!」
ユイ・カトーは虎(フー)の弟子に行け!と手で合図をするが、虎の弟子は手で無理と合図を返す。
「なんで!?」
「弾幕が激しすぎます。自分たちは虎先生ほど完璧に弾丸避けは出来ないので、この弾幕は無理です」
F○ck!使えねぇ、と思いながら、ユイ・カトーは物陰から飛び出しグレネードを敵兵のど真ん中に投擲する。その瞬間だけ、弾幕が弱まり、グレネードが爆発する。
「Go!Go!Go!Go!」
ユイ・カトーはとにかく叫んで虎の弟子たちを突撃させた。接近戦になればこちらの方が圧倒的に強いのだ。要は接近する隙さえ作ればいい。敵に接近した虎の弟子たちは一撃のもとに敵兵を無力化していく。
「ぶっ殺せ、とにかく、ぶっ殺せ!」
ユイ・カトーは半狂乱で叫んだ。舐めんな、こちとらハルド・グレン仕込みだぞ。とユイ・カトーは敵に対して甘く見るなという思いで、死にかけの敵兵の息の根を止めながら、リニアトレインの駅を後にした。
ユイ・カトーが工場区画に辿り着くと、工場区画は燃え上がっており、コロニーの電力が落ちて暗闇のはずなのに明るかった。そして、早速、鼠の御出迎えがあった。
「グレネード!」
誰かが叫んだので、ユイ・カトーは走って逃げる。その間に虎の弟子が尋常では無い速度で走りながら突っ込んでいき鼠を三匹ほど狩った。本当に頼りになる歩兵だとユイ・カトーは感心した。
「とりあえず、拠点確保!」
ユイ・カトーは軍人時代の訓練通りに叫んだ。とりあえず、頑丈そうな建物で避難所にもなっている工業コロニー管理棟に向かうのが良いと思い、ユイ・カトーは歩兵を引き連れて走り出した。
「ああもう、死ね死ね!」
ユイ・カトーが走りながらでも、鼠はうじゃうじゃといて銃を撃ってくる。ユイ・カトーは足を止めず走りながらサブマシンガンで応戦しながら移動していた。
後ろの方では虎の弟子ではない普通の歩兵が何人か脱落、つまりは戦死しているが、そんなことは気にしていられる状況ではなかった。
とにかくいつの間にこんなに鼠が入り込んでいたのか、ユイ・カトーは訳が分からなかったが、それを考えるのは後にして、とにかく管理棟まで走り抜けることを第一に考えた。だが、ユイ・カトーもいつまでも走ってはいられなかった。
突然、額の辺りに強烈な熱を感じ、直後に凄まじい痛みに襲われ、視界が真っ赤に染まった。
「撃たれたぁぁぁぁっ!」
ユイ・カトーが転びそうになったところを虎の弟子が拾い上げ、ユイ・カトーを抱え、そしておんぶして走る。
「走れ!走れ!」
ユイ・カトーはおぶされながらサブマシンガンを鼠に向かって連射する。だが、直後に今度は背中に熱を感じた。また撃たれた?かすったのかとユイ・カトーが考えようとした時、
「グレネードっ!」
背後で爆発音が聞こえた。もういいから、早く着かないかしらとユイ・カトーが思っていると、
「グレネード!」
「またかよっ!?」
いい加減、キレそうになったが誰にキレればいいのかユイ・カトーは分からず。背後で爆発音を聞いた直後に、背中に鋭い痛みが走るのを感じた。

 
 

「いってぇえええええっ!」
おおよそ女性のものとは思えない叫び声をあげてユイ・カトーは意識を失った。
次に目が覚めた時、ユイ・カトーの前には見た顔があった。それは別の任務で分かれたはずの虎(フー)だった。
ユイ・カトーは額と背中が痛い以外は健康なことを確認して辺りを見回すと、どうやら、工業コロニーの管理棟のようであった。
ユイ・カトーはとりあえずの拠点を確保できたことにホッとすると、次になぜ虎がここにいるのかを尋ねた。
「システム、バショ、ワカラナイ」
システムの場所が分からないとそういうことかとユイ・カトーは納得した。そして呆れながら言う。
「虎先生、小学生じゃないんだから、分からないことがあったら、その場で聞こうよ」
そう言うと虎は申し訳なさそうな表情になるのだった。
「おう、銭ゲバの嬢ちゃん生きてたか」
虎と話していると見知った顔がやって来た。工業コロニーを管理しているガーンズ・ゴーバックである。
「元気そうでなによりだ」
ユイ・カトーは笑って見せるが元気なわけなどなかった。とにかく背中が痛いし額も痛い。背中は銃弾がかすったのとグレネードの破片がいくつか刺さったせいだと思った。
ユイ・カトーは自然な仕草で額を触ると包帯がされている。誰かが手当てをしてくれたのだろうと思った。額を触ってみて分かったが肉が完全に弾丸でえぐれている。これでは大量出血も当然だと思った。
ユイ・カトーは明らかに営業スマイルと分かる笑顔でガーンズに言う。
「ゴーバックさんも、無事で何よりです」
そう言うとガーンズは顔をしかめた。
「無事じゃねぇよ。工員は撃たれる、工場に爆弾は投げ込まれるで、このあたりは滅茶苦茶だ。若いのが戦闘訓練を受けてたから何とか、持ちこたえるが。敵はこの建物の人間皆殺しにする気で攻撃してきやがる」
この建物とは管理棟のことか。ユイ・カトーはとりあえず管理棟の安全を確保しなければ状況は良くならないと考え、虎(フー)に目で合図し、自分も銃を手に立ち上がった。
「おい、嬢ちゃん、どうする気だ?」
「戦闘してくるんですよ。……いや、鼠狩りですかね」
そう言うと虎が先陣を切って管理棟から飛び出て、続いてユイ・カトー率いる歩兵が管理棟から走り出る。
「虎先生、やっちゃってー!」
ユイ。カトーが言うまでもなく、虎は壁を駆け上り高所で機銃を構える男を一撃で殴り倒し、続けて走る。
「いやー、楽だわ。あの人いると」
ユイ・カトーは虎の動きを見て、いつも思うが三年前にハルドが虎と殴り合いをして勝ったという話しは嘘なのではないかと思うのだった。
「カトー隊長、自分たちはどうするんですか?」
虎の弟子ではないがそれなりに優秀な歩兵がユイ・カトーに尋ねてきた。
「私たちは、小さい鼠を狩って、避難が遅れてる人を救出。とにかく命を大事にちょこまか動く」
大物は虎(フー)が引き受けてくれるだろうから、ユイ・カトーは虎が仕留めるのに手が回らない相手を片づけることにして動き出したのだった。

 
 

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