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GUNDAM EXSEED_B_51

Last-modified: 2015-11-28 (土) 23:09:06

「被害報告とMSの整備状況を報告して」
ロウマは旗艦のブリッジに座り、頬杖をつきながらブリッジクルーに尋ねる。
「MS隊の被害は30%ほどです。接近戦を行ったため、全MSが機体に何らかの損傷を負っているため、機体のパフォーマンスを完全に発揮するためには、整備や修理に六時間以上はかかります」
残り七割の機体を多いと考えるか、少ないと考えるかは別にして。整備と修理に関しては結構な時間だな、とロウマは思った。だがまぁパイロットの休息も取れるなら構わないかと思った。
「全軍に通達してよ。とりあえず休憩だ。ってな」
別に急ぎでなくても良いとロウマは思った。最終的には勝てばいいのだから、ノンビリと重しを重ねていくようにして戦っていけば兵力に圧倒的な差がある以上、こちらが勝つと。

 

「来ねぇなぁ」
ハルドはコックピットでボンヤリとしながら、遠くに見える敵艦隊を眺めていた。
「ハルドさん、交代してください」
ボンヤリとしているとジェイコブから通信が入り、三兄弟の機体が、修理と整備を終えたのか戻ってきていた。
ハルドはジェイコブ三兄弟の機体を見ると、思わず笑いが漏れた。
「だっせぇ」
ジェイコブ三兄弟の機体は損傷した部分を適当な布で覆われ、その上に硬化剤入りの塗料駆けられた、絆創膏つきの機体となっていた。
昔は自分もそんな機体で戦ったことがあるが、これは戦場での応急処置的なものだ。防御性など皆無だが、まぁそうするしかないのが現状なのかと納得することにした。
「んじゃ、一旦休む。お前らもコックピットの中で寝るとかして休憩しながら見張りをやれよ。気を張り詰めすぎてると、腕が落ちるぞ、特にセインはな」
ハルドは最前列で砲戦特化となったオーバーブレイズガンダムに乗るセインに対しても、一応の忠告をした。四人は一斉に、ハイっ!と元気よく返事をした。
あんまり気合入れてもロクなことねぇぞと思いながらも、やる気に水を差すのもなんだと思いハルドは、何も言わずコロニー内に戻った。
宇宙港内にはシルヴァーナとアマツクニの輸送船、スクナが待機している。ハルドのヴァリアントガンダムはその脇を通り、港のすぐ横のブロックにある格納庫でと機体を進ませる。ハルドは適当なハンガーにMSを駐機させると、機体から降りる。
「手足をくっ付けるのが最優先!特に手と指が一番大事、手があれば戦えるんだから、修理はそこ優先!脚は間に合わないならつけなくていい、適当にスラスターのポッドでもつけときゃ宇宙じゃ戦えるんだから!」
格納庫内ではレビーがMSの修理と整備に関して、全てを管理し指揮を執っていた。ハルドは作業に加わるでもなく、座って格納庫内の様子を眺めているだけのマクバレルに話しかける。
「嫁さん、絶好調だね」
レビーは格納庫内の状況を全て理解し、的確な指示を下しているのだろうとハルドは思った。マクバレルは僅かに自慢げな表情を浮かべて答える。
「実戦経験があるからな、とにかく判断が早く、効率重視だ。……ところで、ヴァリアントガンダムはどうだ?」
「現状は最高。ただ不満があるとするなら、対多数用の武装っていうか広範囲を薙ぎ払えるような武器が欲しいと思ったな」
ハルドは現状のヴァリアントガンダムに関しては機体の挙動に関しては文句はないが、武装に関しては、いささか不満があった。ハルドは、自分は多数を相手取る場面が多いため、どうしても対多数用の武器が欲しくなるのだった。
「安心しろ。この戦いには間に合わんが、そういう武装のプランは既にある。次を待て」
次を待てか……その言葉を聞いてハルドは笑みをこぼす。
「次ってことは、勝てると思ってるわけか、マクバレルの旦那様は」
マクバレルは何を当り前のことをといったような表情を浮かべ、言う。
「貴様がいるのだ。勝つだろう」
ヴァリアントガンダムがあるからじゃなく、俺がいるからか、とハルドはいつのまにか随分信頼されているなと思った。

 
 

「隊長、武装はどうしますか?」
マクバレルと話しているとレビーがハルドに近寄りながら、尋ねる。ハルドはすぐに答えた。
「ビームピストルはそのまま。ナイフもそのまま、シールド、ブレイドライフル、ビームライフル、ソリッドライフル、全部そのままで。変更は、両膝のマウントにヘビーマシンガン、右肩には対艦刀、左肩にガトリングガン、バックパック右にペネトレイターライフルを頼む」
現状、戦闘宙域にはアンチビーム粒子がばら撒かれている。実体弾メインの装備で行くべきだと考えた結果の装備だった。
「相当重くなりますけど、行けますよね?」
レビーが尋ねるが、ハルドは問題ないと頷く。
「ペネトレイターを使うか」
マクバレルがニヤリと笑いハルドを見る。その間、レビーは他の整備士に細かな指示を出し、ヴァリアントガンダムの武装変更を行わせていた。
「使え使えって、うるさかったろ。ペネトレイター」
ハルドはやむなしと言った口調で答える。
ペネトレイターライフル――マクバレルが開発した武装だが、簡単に言えば、超硬度の弾頭を色々と複雑な力を作用させて超高速で撃ちだす銃らしいとハルドはマクバレルから説明を聞いていた。
威力は、計算上、現行の主力戦艦を縦に五つは貫けるというものらしい。ただし貫通力は凄まじいが範囲威力に関しては、マクバレルは口を閉ざしていた。つまりは、貫通力が凄まじいだけのソリッドライフルとハルドは判断したのだった。
まぁ、それでも使ってみるかとハルドは考え、武装として選択したのだった。
ハルドが見ている間に、ヴァリアントガンダムの武装がすぐさま変更されていく。ハルドの要望として、なるだけどんな状況にも対応したいと考えた結果が、武装マウントシステムだった。とにかく大量に武器を持っていけば、何とかなる。そういう結論によるものであった。
ハルドが見ている中、ものの数分でヴァリアントガンダムの武装交換は終わり、レビーは他の機体の面倒を見るために動いていた。マクバレルもふらりと立ち上がり適当に機体の整備を手伝い始め出した。
「さて、休憩するか」
ハルドは独り言を漏らした瞬間に肩を叩かれる。
「悪いが、休憩は待ってくれるか?」
その声はアッシュの物であり、ハルドはしかたねぇなぁといった表情で、歩いていく、アッシュの後をついていく。
アッシュはハルドを人気のない場所へと連れてくると、ゆっくりと口を開く。
「すまない。どうしようもできなかった」
アッシュは頭を下げる。ハルドはそれに関しては、仕方ないという思いしか抱いていなかった。
「謝る必要はねぇと俺は思うけど。もしも、お前がいなくて俺一人の状況だったら、もっと酷い状況になってたのは確実だしな。俺は目の前の敵を相手に殺し合いをすることに関しての指揮には自信がある。お前は、軍隊の全部を統率してまとめる能力が高い。
俺たち二人が揃ってりゃ無敵だった。今回はタイミングが悪かっただけだ」
そうは言いながらもハルドの表情には暗いものが僅かにあった。
「死んでいった者たちには、どう償えばいいんだろうな」
アッシュは重く口を開く。
「わかんねぇな、それに関しては誰も教えてくれたことはなかったな。ただまぁ……」
ハルドはその場に座り込むと、ポケットから薄く小さな瓶を取り出した。
「死んだ人間を偲んで飲んで、今は気持ちを切り替えようぜ」
アッシュはまったく仕方のない男だとおもったが、アッシュの気持ちが僅かには救われたのは事実だった。
ハルドは瓶を開けて酒を飲む。アマツクニの代表の部屋から盗んできた一品だ。味は悪くないと思いつつ。飲みながら死んでいった人間をハルドは思い出す。

 
 

クランマイヤー王国の人々、ハルドの兄さんと呼ばれていたことを不意に思い出す。綺麗な兄さんだなぁと、良く言われていたし、女性からはよく告白されていたな。全部断っていたが、もしも失恋の傷心のまま死んでいったのなら、寂しいなとハルドは思った。
ベケットは酒場で酒を飲むときやセインをからかうのを一緒にやって、たまにバカ騒ぎをした仲だった。
エルスバッハは一度、戦場で敵として戦ったことがあるが、真面目で良い奴だという認識しか持っていなかったが、話しかけるとたまに真面目な顔で冗談を言うような奴だった。嫌いじゃなかった。
メイ・リー。無口でぼけーっとしているだけの女だったが、色々と事情があって、そうなったのはバーリ大臣から聞いていた。若い女だ、恋も何も知らず、ただ姫のために生きた。これから先は違った未来があったかもしれないが、それはもうない。
バーリ大臣。良い人だった、それが全てだ。自分みたいな、ならず者を真っ先に受け入れてくれた人だったとハルドは思いだす。もう、あの人に会うこともないのかと思うと、寂しさと悲しさが一気に押し寄せてくる。
ハルドは死者への感傷には充分浸ったと思い、酒瓶をアッシュに投げる。アッシュはそれを軽く受け取り、酒を飲みながらも、ハルドとは違う何か別のことを考えている様子だった。
「降伏はしねぇぞ」
ハルドはアッシュを見て言う。
「するわけないだろ。奴らに思い知らせてやるまで、降伏してたまるか」
そう言いながら、アッシュは、ただ、と口にする。
「姫様や民間人をどうするかを考えてな」
自分はまだ死んだ人々ことを考えていたのに割り切り早いなと思いながら、ハルドは答える。
「全員、スクナに乗せとけアマツクニの輸送船だ。状況がどうにもならなくなりそうな直前に出港させて、アマツクニへ避難させる。それしかないだろ」
そうだな、と呟き、アッシュは酒瓶をハルドに投げ渡す。酒瓶の中は空だった。
「やることはやる。僕らは戦場で死ぬ。だが、姫達は生かす。その方針だ!」
アッシュはそう言うと、決然とした様子で立ち上がり、歩きはじめる。それに合わせてハルドも酒瓶をその場に置き捨て、立ち上がりアッシュについていく。
「ついていくぜ、総司令閣下殿」
ハルドは茶化しながらも、真剣な眼差しを隠さなかった。置き捨てられた酒瓶だけが彼らを見送った。

 

「くっせぇ」
ハルドは格納庫に戻ると開口一番、そう言った。
「あ、隊長!」
ユイ・カトーがハルドを見つけ、手招きする。その姿ほぼ全身を包帯に巻かれた状態であった。隣には、虎(フー)が座っているが虎も上着を脱いで、包帯だらけの身体を露わにしていた。
二人とも、格納庫の中央にドンと置かれた大きなテーブルと椅子に座っていた。まぁ、二人がいるのはいいとして、この臭いは何だと思い、格納庫内を見渡すと、アラン中佐がMSのヒートサーベルを熱源に鍋で何かを煮込んでいた。
「何をしているんだ?」
アッシュがユイ・カトーらと同じテーブルにつくと、遅れてクリスがやってきて座りながらが答える。
「ラーメンを作ってますね」
クリスも見た目は痛々しい状態である。片側の手足は包帯やら何やらで覆われ、片耳も布で覆われていた。
「そりゃ、いいな」
ハルドは握り飯を食ったばかりだが、もう少し何か欲しいと思っていた所だった。しかし臭いなとハルドは思う。
ラーメンに関しては地球連合所属時代に世界中を渡り歩いてきたため世界各地のラーメンを食べたが、スープがここまで臭いのは初めてだった。
「豚骨かな」
臭いから察してアッシュが言うと、調理中のアラン中佐が、そうですと答えた。ハルドは豚骨かぁと、若干残念に思った。豚関係を食わない土地は多いので、ハルドは鶏や魚介から出汁を取る系統の方が食べ慣れていたためだった。
気づくとストームやセーレ、レビーとマクバレルが卓についている。ハルドはベンジャミンが近づいてくるのも見えた。この面子ならば軽く作戦会議は出来ると思った。

 
 

「ところで食材は?」
「ジャクソンさん、父親のほうですが、用意してくれてました」
おいおい毒ガスにまみれた食材は食材は御免だとハルドは思ったが、クリスは言う。
「毒ガスはそこまで強いものじゃなかったようです。弱めの神経ガスですね。最も子供や老人が吸えば後遺症は免れられないものですが。表面を洗えば別に何も問題はないですよ」
じゃあ、食う分には問題ないかとハルドは思ったが、ユイ・カトーその言葉に露骨に嫌な表情を浮かべた。
「うわ、めんどくさ。毒ガスまみれの物とかどこも買ってくれないから、毒ガス撒かれたって話しは無しにしましょうよ」
それは、この戦いが終わってから考えることだろうとアッシュは思ったが、なんだろうか全体に余裕が出てきているのをアッシュは雰囲気で感じた。最初の頃の絶望など、もう無い。アッシュは勝てるという気持ちさえ僅かにだが、自分の内に芽生えてくるのを感じた。
「まぁ、それは後で考えるとしてだ」
アッシュがそう言うと、テーブルにラーメンが置かれ、一人ずつに行きわたるように回していき、ようやくラーメンが自分の所まで来たところで、アッシュはラーメンの全容を見ることができた。
「豚骨ラーメンだな」
レビーは全員に一旦、作業の手を止めてラーメンを食うように指示を出していたので、アッシュもパイロットらに、同じような指示を出した。
「具はネギだけか、しょぼいぜ」
ハルドは不満げに言いながらも、既に白く濁った濃厚なスープをスプーンですくい飲み、その次に麺をすすっていた。
「肉類まで調理は難しかった。すぐに用意できるのはネギぐらいだった。すまない」
別に謝ることではないだろうと思いながら、アッシュはスープを飲むと良い味だと思った。味自体は濃厚だが口の中は脂っぽくはならずに、すっきりとして飲みやすいスープ。そして麺を箸で掴むと、見事なまでに細麺だった。それをすすり思う。
「戦いの中でも本格的なものを食べられるのはいいな」
動物系スープと細麺のラーメンはコロニー育ちなら馴染みの味だ。単純にコロニーでは魚介類が確保できないためであるが、そのために動物系スープのラーメンは宇宙で発展してきたとアッシュは思い出す。
「外を見張ってるセイン達も呼べ、セイン達にも食わせとけ。そん時に見張りの交代も忘れんじゃねぇぞ」
ハルドがラーメン食べながら、パイロットに指示を出す。アッシュはこの感じが良いと思った。ハルドには悪いが、ハルドは下士官タイプで部隊の引き締めやら細かいことを指示してくれるので、自分は多少だが楽が出来るとアッシュは思った。
「で、思ったけど、虎先生とかは何で無事?」
ハルドが食べながら、尋ねる。
「敵が途中で逃げ帰ったから平気なんですよ。あのままだったら皆殺しだったでしょうけど」
ユイ・カトーは戦闘の最中に敵が不自然に引いていったことを語った。
「はい情報、クリス先生、分析よろしく」
クリスは辛うじて無事な右腕でラーメンを食べながら急に話しを振られたことに戸惑う。そんなクリスをよそにセインとジェイコブ三兄弟がテーブルにつく。
ハルドはセインがテーブルに着くや否や、ニヤニヤと笑みを浮かべながら話しかける。
「セイン君、キミさぁ、色々と状況を整理すると、第一農業コロニーの人気の無い小屋でミシィと二人っきりでスタートだったらしいじゃん。そこで何してたの?あ、替え玉くれ、ハリガネで」
ハルドはニヤニヤを崩さない、ハルドは全てを察していたが尋ねていた。ああそうかと、テーブルの全員が何となく察した。ただセインを除いてだが、セインは明らかな動揺を見せていた。
「え!いや、何も……」
セインは俯いてラーメンを食べる。ハルドは我が意を得たりといった感じで大笑いしながら叫ぶ。
「喜べ、同胞!今日ここに男になった奴がいるぞ!」
ハルドが叫ぶと一斉に拍手が起こった。テーブルの面々は苦笑といった様子だった。それは行為に及んだことよりも、行為に及んだ場所、状況に対しての、色々と文句があったためだった。ただしアッシュを除いてだが。

 
 

「さて、セイン君。どうだい、僕より先に大人の男になった気分は?あー、面白くないなぁ、セイン君は特攻でもしてもらおうかなぁ、クソ野郎」
「初めてが小屋とか女の子の気持ち考えなよ、クソ野郎」
「給料出してやってんだから、勢い任せじゃなくホテルとかでしろよ、クソ野郎」
「不潔な場所でするなよ、クソ野郎」
「避妊したか、クソ野郎」
「おまえは仲間だと思ってたのにな、クソ野郎」
「まぁおめでとうだね、クソ野郎」
「不潔、クソ野郎」
セインは自分がクソ野郎で定着しそうなことに対して危機感を抱いたので、思わず叫んだ。
「ミシィは絶対に幸せにしますので、皆さんよろしくお願いします!」
何がよろしくなのかは分からなかったがSEEDの直感力を活かしセインは、そう叫んだ。するとテーブルに座っていた面々だけではなく、格納庫の全員が拍手を始めた。
「良く言った!それでこそ、男だ!」
ハルドは替え玉が投入されたラーメンの丼を手に持ちながら言う。
「この戦いが終わったら、セインの結婚式だぞ!総員死なずに結婚式に出席、これが第一目標だ!死なねぇように戦え!」
ハルドが叫ぶと、格納庫が活気に沸いたのだった。アッシュはアホらしいと思いながらも、こういう盛り上げ方は自分には向いてないと思った。
だが、それでどうこう思うほど子供ではない。自分は自分のするべきことをするだけと思い、目の前のラーメンのスープを飲み干したのだった。
「おまえ……身体に悪いぞ。あ、替え玉、粉落としで」
ハルドが隣で替え玉を頼んでいる。スープが殆ど無くなっている状態で替え玉を頼む、それも粉落としだ。お前も同じようなものだろうと思いながら、アッシュは少し心に余裕が生まれたのを感じたのだった。

 

ロウマは旗艦のブリッジに座った状態で目を覚ました。どこでも寝られるのは少年時代のドブネズミのような生活のおかげだが、ロウマはそのことをありがたいと思ったことは一度もなかった。
「何時間寝てたかな?」
「三時間ほどです」
少し短いが、まぁ充分だろうとロウマは思う。どうせ、今日で終わりにするのだから、寝るのはいつでも良いと思った。
「MSの修理とかの状況は?」
「全体の80%ほど完了しています」
そちらもまぁ完全ではないが、やれなくはないだろうととロウマは思い、決断する。
「早いが、動く。こっちも被害を受けるだろうがガチンコで行こうかね」
なるべく手堅く戦い、被害を少なくすれば上からの評価も上がるが、ロウマは正直なところ、もう面倒になっていた。ハルドもやってきたことだし、さっさと片づけたい。そういう思いが先行していた。
「艦隊は艦砲射撃をしつつ、前進。MS隊は艦隊を挟むように左右に展開、シャウトペイルの突撃隊は最速で突撃、他のMSは突撃の援護射撃をしつつ同様に突撃。
歩兵隊も展開する、MS隊の戦闘が始まったら、小型艇で大回りしつつ、クランマイヤー王国の宇宙港へ突入して、コロニー内を制圧」
ロウマの指示は艦隊に所属する各艦に伝わっている。
金で雇ったドブネズミはどうするかとロウマは考えたが、捨て置くことにした。生き残りは僅かだ。クランマイヤー王国の人間と一緒に殺してしまえと結論を出した。
「俺のマリスルージュは出せる?」
ロウマは格納庫へと連絡を取る。
「いや、その大破同然でして、こちらとしては何とも」
それもそうかと思ったが、まぁいいなんとでもなると思った。とにかく自分も戦闘に出てやろうという気持ちにロウマはなっていた。取り敢えずは敗北のイライラを解消でもしなければやっていられない。そう思ったからだった。
「艦隊総員に伝達、作戦開始は、現時刻から二時間後だ。総員、準備と覚悟を怠るな」
ロウマは所属する艦隊、全てに命令を発したのだった。

 
 

「出撃は二時間後か」
イザラが時計を見る。諸々の準備をしていれば二時間などあっという間だ。しかし機体の修理も全て完了している以上、ガルム機兵隊には心配はいらないとイザラは思った。
「ロウマの旦那の機体見たけど、すっげーボロボロになってんな」
ギルベールがニヤニヤを隠さずに言う。それに関してはイザラも確認して、いい気味だと思った。だが、いい気味だと思った直後で、嫌な予感を覚えたのも事実だった。
「ロウマをやった奴と俺たちがやるはめになるかもしれんぞ」
ドロテスは煙草を口に咥えながら言う。火は着けていない。煙草を吸うと文句を言いだす輩が多いためであった。
「ロウマを圧倒する奴だ。勝てるとは思えんな。なので、それらしい奴を見かけたらガルム機兵隊は撤退という方向性で行くぞ」
君子危うきに近寄らずという奴だとイザラは自信を持って、ガルム機兵隊皆にそう指示を出した。ガルム機兵隊の面々も同意だといった感じに頷いた。

 

「歩兵も来ますかね」
クリスはハルドの横で地べたに座りながら、タブレットを片手で器用に操っていた。
「俺に聞くんじゃねぇよ、大軍師様よ」
「じゃ、来るって想定して歩兵戦力を配置」
クリスはタブレットの画面上に戦場の予想図を描き、そこに歩兵の部隊を配置していった。
「ハルドさんは、一番圧力が強くなりそうなところをお願いします」
おう、とだけハルドは言うと、格納庫の壁に寄り掛かったまま、ボンヤリとしている。
「……知っている人が死んでいくのは嫌ですね」
クリスは思っていたことを吐露した。もう会えない人々がいるというのが、ここまで心に重く響くものだとクリスは思ってもいなかった。
「戦争やってりゃ慣れる」
ハルドが言った、その言葉に対し、あまり慣れたくもないなとクリスは思った。
「ところで、姫様の所には行かないんですか?」
姫はハルドに不思議と懐いている、言って少しでも話しても良いのではとクリスは思ったが、ハルドは微動だにしなかった。
「落ち着いてからでいいだろ。これから嫌でも色んなものを失っていく立場だ。喪失の苦しみには慣れてもらわないとな」
10歳の子どもに対して厳しすぎないかとクリスは思ったが、ハルドが行かないと言うのならクリスには説得する術はなかった。
「俺は少し寝とく。何かあったら起こせ」
ハルドはそう言うと、そのまま座り込み、壁に寄り掛かったまま寝息を立てはじめた。
「勝手だなぁ」
クリスはそう思うも、まぁこれぐらいの勝手は許されても良いかもしれないと思った。ハルドが戦力的にはハルドが戻ってきただけだというのに、クランマイヤー王国の兵士たちは俄然勢いづいている。
クリスはハルドという男の影響力の大きさを改めて実感したのだった。

 
 

アッシュは何気ない様子で、レビーによって整備と調整が施されたキャリヴァーを見上げていた。その後ろにセインがゆっくりと近寄り、アッシュの隣に並び立つ。
「最愛の彼女と色々としなくてて良いのかい?生きて帰れないかもしれないんだから最後の思い出づくりをすると良い。相手がいない僕の分までな」
アッシュは隣に立つセインを横目で見ると、嫌味っぽく言った。セインはアッシュの口からは聞いたことのない口調にタジタジになりながらも反論する。
「いや、その、まだシてませんから。シそうな雰囲気にはなりましたけど」
さっきはハルドのせいで否定できなかったが、今なら何とか否定できた。
「それは、シそうな雰囲気になったこともない僕に対する当てつけか何かかい?」
アッシュは横に立つセインを睨みつけたが、すぐにその表情は笑みに変わった。
「冗談だよ。あまり怖がらないでくれ」
いや、充分に怖かったですとセインが言おうとしてアッシュを見ると、アッシュはどこか遥か遠くを見るような眼差しになっていた。
「誰の思い出にもならずに死ぬのだけは嫌だな」
アッシュは静かに言った。
「死んだとしても、誰かの思い出の中でだけは生きていたいと思う。これは生きている人の枷になるかな?僕はときどき思うよ。死んだ人間のことを全部忘れられたら、どんなに楽だろうと」
セインはアッシュの言葉も分かる気がした。両親の死は自分にとっての枷だった。心の中でどこか自分を縛っていた。だが今は違うと思い、口を開く。
「枷ではないと思います。死んだ人のことを枷にしているのは自分の思い。死んだ人がどんな風に考えているのかなんて僕らに分かりません。
僕らが枷だと思えば枷になるし、僕らが、幸せに生きて欲しいと、死んだ人たちが考えていると思うなら、きっと、それが真実なんだと思います。
自分勝手で都合の良い考えですけど、死んでいった人たちは何も教えてくれないんですし、自分勝手に考えた方が楽だと思います」
セインは思ったことをまとまりなく述べた。するとアッシュは、フッと笑いセインの肩を叩く。
「立派になったね」
初めて会った時は何も出来ない子どもだったが、今では立派な男に成長したなとアッシュは、感慨深げにセインを見る。
「悲しい時は悲しみ、喜びは喜びと受け止め、怒りを怒りとして露わにし、楽しみを楽しみとして享受する。今の僕たちは、それが許されるのかな?」
「僕は、僕たち自身がそれをすることを許せるならば、死んでいった人たちも許してくれると思います」
だったら、笑うか、とアッシュは思う。ハルドが帰ってきて、セインが立派に成長した。喜ばしいことだ。笑っても死んでいった人々は許してくれるだろうと思い、アッシュは笑みを露わにし、セインの肩を強く叩いたのだった。

 
 

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