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GUNDAM EXSEED_B_55

Last-modified: 2015-11-28 (土) 23:17:42

アッシュはぼんやりと被害報告を聞いていた。戦いから数日たってもアッシュは未だに勝利が信じられずにいたが、クランマイヤー王国は確かに勝利したようで、捕虜の扱いなども色々とアッシュはピンと来ない頭で指示していた。
「とりあえず、リニアの復旧と家を失った住民の保護を最優先で頼む」
アッシュは、そう指示を出すと、どうにも落ち着かない気分になり、誰もいなくなった部屋で、隠し持っていた酒を取り出すと、グラスに注いだ。
「その年で、アルコール依存はマズいぜ」
いつの間にか部屋に入っていたハルドがアッシュからグラスを取り上げ、自分が飲みだした。
「俺たちは勝ったんだぜ。もっと景気の良いツラをしろよ」
ハルドはそう言うがアッシュは勝利の実感を得られずにいた。アッシュは未だに自分たちが勝ったのかはっきりとしない気分だった。
「綺麗に終わる戦場もあれば、何となくで終わる戦場もある。よく知ってんだろ。今回は敵さんが、意地悪く撤退の信号を出さなかったせいで、こっちがはっきりと勝ったって分からなかっただけだ」
アッシュの悩みを読み取り、ハルドが言う。しかしなぁ……とアッシュが何かを言おうとするとハルドはグラスを机に叩き付けた。
「あんまし、グダグダ言うな。若いのが不安がる。っても俺たちも若いけど」
まぁ、そうだなと思い、アッシュは腑に落ちない勝利を何とか受け入れることにしたのだった。

 

ハルドはアッシュが多少なりとも元に戻ったことを確認した後、残った面倒な仕事をすることにした。それは姫のことである。戦いが終わり、避難が解除されると、姫は自室に引き籠ってしまっていた。
ヴィクトリオなど仲の良い者が呼びかけているが応答はない。食事に関してはアラン中佐を働かせて、姫の部屋のドア前に用意させているが、いつも食べるのは少量だった。ハルドは姫が何とかならなければ、この国はダメになると考えていた。
ハルドは姫の部屋のドアの前に立つ。食事は少しだけ手を付けた跡があった。ハルドは勿体ないと思い食事の残りをいただきながら、姫の心境を思おうとしたが無理だった。バーリ大臣とメイ・リーが死んだショックが大きいぐらいしか思いつかなかった。
「入りますよー」
ハルドは声をかけてドアを開けようとしたが鍵がかかっていた。生意気だと思い、ハルドは道具を使って鍵を開けて、部屋に侵入した。
姫は椅子に座ってぼんやりしていたのでハルドは、ポケットに入っていたゴミを投げつけ、姫の頭に当てる。当たった直後、姫は目を丸くしてハルドを見た。
「感傷に浸るのは良いんだけどよ。やることはやれよ」
ハルドは姫に対して、ズイと近寄ると厳しく言い放つ。
「部屋の外に出て、国民に笑顔を見せろ。私は大丈夫ですと強がれ。そうすりゃ皆、辛いのを我慢する。結果、物事が効率よく進む」
ハルドの言葉は徹頭徹尾、冷たかった。姫に対して、誰もがいたわりの言葉をかけてくれた中で、ハルドだけが違った。

 
 

「私は悲しいとか思っちゃいけないんですか」
姫は涙を流しながら、ハルドに訴える。
「いいよ、悲しいと思っても。ただし、顔に出すな。自分が王だってことを自覚しろ。王は常に泰然とし民を安心させなければいけない。泣いていいのは夜、ベッドで寝る時だけだ。だけどな、朝起きた時に誰にも泣いていたことを悟らせるな」
ハルドは鋭い目で姫を見つめていた。その目の鋭さに姫はたじろぎながらも口を開こうとするが、先にハルドが口を開く。
「ならば、姫などやめるとか言うんだろ?だけど、駄目だ、この国には、もうアンタについていくと決めた奴らが何人もいる。アンタはそいつらを裏切れないだろ?それに、だれもアンタを姫という象徴から降ろさない。アンタはそれだけの格のある人間だからだ」
ハルドは姫を見つめながら言う。
「全てを諦めろ。得るものより失うものが多い、自分はそういう生まれだってな。だから一瞬の喜びを愛し、大切にしろ。いずれ失われるとしてもだ」
ハルドは最後に穏やかな笑みを浮かべながら姫の頭を撫でる。
「まぁ、俺やアッシュは絶対に失われない物だろうから、そこらへんは心配すんな。それなりになるまで、面倒は見るよ。ここまで関わった仲だしな」
そう言うと、ハルドは姫の頭から手を離し、部屋を去って行った。部屋の外へ出てドアを閉めると、そこにはアッシュがいた。
「子ども相手に厳しすぎるとは思わなかったか?」
アッシュの口調は咎めるようだった。おそらく、これで解決はするだろうという気はしていた。姫は賢い。ハルドの言葉で自分の立場を思い知らされ、そして諦めを抱いただろう。きっと明日からは、以前の姫に戻って笑っているだろう。どんなに無理をしてもだ。
「僕は君の強さを尊敬している。だが、人の弱さを無視して強さを要求し続けるというところは、決して認められない」
そうかい、とハルドはアッシュの横を通り過ぎながら言う。
「だったら、お前か誰かでカバーしてくれよ。俺には無理なんでな」
そう言うとハルドは振り返り、穏やかに笑うのだった。
その翌日以降、姫は笑顔で人前に顔を出しクランマイヤー王国の人々を励ましてまわった。その姿は依然と変わらず、アッシュは痛々しいという思いを抱かずにいられなかったのだった。

 

ガルム機兵隊はジョットを除く全員が捕虜となって、第一農業コロニーの作業員宿舎に押し込められていた。他のクライン公国軍兵も同じ扱いだった。
「いやーやばかったな」
ギルベールがドロテスに言う。ヤバかったというのはクライン公国軍の兵がクランマイヤー王国の人々の手によって私刑に合いそうになったことであり、ギルベールらも一時は危機に陥ったが、摂政がなんとか説得してくれたおかげで私刑に合わずに済んだのだった。
しかし、ドロテスは私刑から免れられたものの、不機嫌極まりない表情であった。なぜなら煙草を取り上げられてしまっていたからである。
「捕虜引き渡しまで我慢だって」
ギルベールはドロテスをなだめつつ、やることもないので、簡素なベッドに横になった。捕虜の引き渡し、いつになるかは分からないがそれまでは、ぼーっと過ごすしかないだろうなぁと、ギルベールは諦めの境地に達しながら目をつぶった。

 
 

「捕虜引き渡しの日程と場所に関してですが……」
アッシュとクリスは捕虜の引き渡しとその際の諸々の賠償について話し合っていた。金銭や取引がらみならユイ・カトーがいた方が良かったが、残念ながら彼女は名誉の負傷により入院中であった。クリスも入院が必要なレベルだが、アッシュは無理をさせていた。
「なるべく早くしたい。厄介者は抱えておきたくないしな」
実際にクライン公国軍が行ったかは分からないが、こちらは無差別虐殺を受けており、国民のクライン公国への恨みは頂点に達している。アッシュは国民には落ち着くように言ったが、いつ爆発して捕虜収容所襲撃して、捕虜をリンチして殺すか分からないのだ。
世間体を考えるなら、捕虜をリンチして殺害などの悪評は避けたかった。だから、さっさと捕虜など変換してお終いにしてしまいたいというのがアッシュの本音だった。捕虜以外にもやる仕事は溜まっているのだから。
「とりあえず、 場所は現状、クライン公国の侵略を受けていないコロニーで、それについては僕が決めておき、後で報告します。、それから、少しこの計画書に目を通しておいていただけますか?」
アッシュはクリスから紙を一枚手渡され、一通り目を通すと、正気か?というような目でクリスを見るのだった。
クリスは自信満々に頷く。確かに、この計画書を実行したらクライン公国がどうとかではなく、世界に大きな衝撃を与えるだろうが。
「リスクマネジメントもしていますのでご心配なく」
クリスの言葉が返って心配だったが、アッシュは賭けてみても面白いかと思うのだった。

 

セインは草原に座り、荒れ果てたコロニーの全景を眺めながら呟く。
「こういうのは嫌だな」
過去を振り返っても仕方ないが、どうしてこうなってしまったのかセインの考えは尽きなかった。誰が悪いのか?それを考えても答えは出なかった。
「強くなったと思うんだけどなぁ」
セインは自分の手を見て思う。いつの間にかゴツゴツとして完全に大人の手だ。身長も伸びた。自分は変わってはいるのだが、それでも世界は変えられないか。とセインは思った。ただ、それで諦めて止まっていても仕方ないとセインは思うのだった。
「やれることをやっていこう」
これから先はまだ長いだろう。長いなら長いなりに、自分のペースを持って生きていこうとセインは思った。自分の先を歩く人々は多くいる。急いで追いつく必要はない。いつか辿り着けばいい。セインはそう思い、立ち上がると、歩き出した。

 
 

ハルドは行くところもないので、とりあえず工業コロニーのMS製造区画に足を運んでいた。
尋ねてみると、レビーが忙しそうに全体の指揮を執って、機体の修復作業を行っていた。対して悠然と座っていたのが、マクバレルである。ハルドは少し驚いたがマクバレルのそばには、アルバ・ジン・サハクが座っていた。
よく見てみると、マクバレルは何か図面を引いているようだった。ハルドは気になったのでマクバレルのそばに近づき、何をしているのか眺めてみた。
「ゴールドフレームの改修プランを練っていた。これを持ってアマツクニに帰れば、すぐに機体の改修が行えるようにな」
マクバレルはそう言うと、作業を続ける。アルバはその光景をじっと眺めていた。MSマニアという奴はと思ったが、ハルドは自分もそこまで変わりないマニアであることを思い出した。
「右脚を失ったな」
ハルドはマクバレルに話しかけられ、ヴァリアントガンダムのことかと思い出す。ロウマのマリスルージュとの戦闘中に自分で斬り落としたことを思いだした。
「少しミスった。悪かったな」
「別に構わん。向こうはこちらの未知の技術を使っているのだろう。私としては、それに対して苦もなく対処できる貴様の方が、恐ろしいと思うがな。それにカスタムされたザイランとシャウトペイルなども相手にした後だろう?
技術者としてはマシンのスペックを軽くオーバーする貴様のような化け物じみた輩の方が人間離れしていて恐ろしいよ」
ハルドはマクバレルから、そんな殊勝な言葉が聞けるとは思わなかったので驚きの表情を浮かべたのだった。
「ヴァリアントガンダムもオーバーブレイズガンダムもキャリヴァーも今後の戦闘に備えてのカスタムプランは整っている。少し待っていれば、もっと良い機体を渡せる」
「随分と優しくなったもんだ」
最初にあった時のマクバレルはもっと険があった気がしたが、今は多少なりとも穏やかになっている気がした。
「ふん、所詮は見ているだけの人間だからな。これぐらいは働かんとな」
マクバレルは何かを悔いるような表情を僅かにだが見せた。それは、自らの好奇心と探求心に任せて、MSを開発し続け、人命を軽視してきたことへの償いの気持ちだった。

 

クライン公国軍の侵攻から二週間ほどが経った日だった。アッシュは主だったメンバーを集め、ある発表を行った。
「捕虜の返還と、今回の戦争の終戦協定を結びに行く」
ハルドはそう言えば、クランマイヤー王国は独立国家であり、クライン公国も独立国家。国家間で戦争をしたならば終戦協定を結ぶのが筋だなと思い至った。
「今回はコロニー、ウィンダリアを協定調印の場として、クライン公国にも連絡し、了解を得ている。状況がどう転ぶかは分からないため、戦力は当然用意して向かう。なお調印は姫様が行う」
アッシュはそれだけ伝えると、ウィンダリアというコロニーへ向かうメンバーをクリスが発表する。
「アッシュさん、ハルドさん、セイン君、ストームさん。姫の護衛に虎(フー)さん。あとはハルドさんが適当に十機ほどMSとパイロットを見繕ってください」
なるべく戦闘能力が高いメンバーをメインに選んだつもりだった。クリスはとりあえず、ハルドとストームと虎(フー)がいれば何とかなると見積もっていた。

 
 

そうして数日後の調印式の日、ハルドらは姫を代表として、シルヴァーナに乗り込み、ウィンダリアへと到着した。しかし、予想外なことがいくつかあった。ウィンダリアは既にクライン公国に征服されており、中立という立場ではなくなっていたのだった。
クライン公国軍のMSがコロニー周辺を警戒する中、シルヴァーナはウィンダリアへと入港する。
コロニー、ウィンダリア。特徴が無いのが特徴といったようなコロニーであり、そのせいもあってかクライン公国軍からは優先的に侵略する対象とはされていなかった。今回の調印式に合わせてクライン公国軍はウィンダリアを強襲し支配下に置いたのだった。
これによって、クランマイヤー王国陣営は、敵の支配下の真っ只中へと放りこまれることとなったのだった。
「クリスの見通しが甘かったな」
アッシュはクライン公国軍の制圧下におかれたコロニーを眺めながら、服装を整える。
「ま、あいつにだって読めないことはあるだろ」
ハルドは姫の礼服を整えながら、答える。できれば、気配りの出来る女を連れてきたかったが、クリスが気を利かせなかったせいで、自分が姫の身の回りの世話をする羽目になったとハルドはウンザリとした気分だった。
「ほら、これでいい」
とりあえず、ドレスの飾りの位置が気に入らなかったので直したが、直して良かったと思える出来だった。
「似合いますか?」
姫がくるりと回ってハルドに尋ねるが、ハルドはそんな動きをするなと、ドレスの裾や皺を直し始めた。
「似合いますよ」
アッシュが穏やかに答えるが、姫としてはハルドの返事が聞けなかったので若干不満だった。
「とりあえず、服はこれでいい。姫様はあんまり派手に動かないように」
ハルドはそう言うと、アッシュに向かって言う。
「会場には、虎とストームを潜入させてあるから心配するな。ストームは狙撃用のライフルを持って会場に乗り込んでるから、滅多なことじゃ狙撃はされないはずだ」
「虎は護衛につかないのか?」
「虎だって人間だぞ。銃弾を身体で防ぐ鋼鉄の盾になるなら、護衛として配置するが、そうじゃねぇんだ。遊撃として、自由に動かせておいたほうが効率がいい」
アッシュはそういうものかと思い、ハルドの配置にとりあえず納得するのだった。
「予想外の展開で、ここが敵地になっちまった以上、色々と俺も気を配るが、あんまり期待するな」
その期待するなは、どの部分にかかっているのか、アッシュは尋ねたかったが、やめておいた。聞いていらぬ心配を抱きたくなかったからだ。
「よし、じゃあ、行って来い」
そう言ってハルドは姫とアッシュを送り出したのだった。

 
 

シルヴァーナから出た瞬間にアッシュと姫は面食らった。なぜなら、クライン公国の高級官僚が既に待ち構えていて、二人をリムジンへと案内したからだ。
それによってアッシュはウィンダリアが完全にクライン公国のものとなったことを理解し、そして自分が敵地にいることを改めて感じ取ったのだった。
ハルドはヴァリアントガンダムのコックピットに乗り込み、機体を艦から発進させる。建て前は、捕虜に対して敬意を持って見送るため、本音では何があっても、即座に対応できるようにするためだった。
ヴァリアントガンダムに続いてオーバーブレイズガンダムも発進し、続々とクランマイヤー王国のMSがウィンダリアの市内へと姿を現す。MS隊は二列を作りその間を捕虜が通るように配置した。
クライン公国側も考えは似たようなもので、中央を開けてMS隊が二列に並んでいた。そして、その先頭にはハルドが以前、僅かだが交戦した青い翼のガンダムタイプがいた。
「めんどくさ……」
ロウマ・アンドーはウィンダリアの、とあるビルの屋上、全てが見渡せる位置にいた。手には炭酸飲料の瓶と、携帯モニターが握られていた。調印式は一応だが、テレビ中継される。そこまで興味があるわけではなかったが一応は目を通しておこうと思ったのだった。
どうせ決まりきったやり取りがされるだけだろうと思いながら。

 

リムジンはすぐに調印式の会場へと辿り着いた。アッシュは姫が緊張しているだろうと思い、横を見たが、姫の表情はいたって平静だった。
肝の座り具合では、自分の方が負けているかもしれないと思わざるをえなかった。なぜならアッシュはこれから妹と会うことになると思い気後れしていたからだ。
リムジンのドアが開き、アッシュたちは案内されるままに、調停式とその前の会談の場へと向かった。
「緊張してます?」
姫が不意に口を開いた。アッシュは苦笑しながら答えた。
「恥ずかしながら」
「年上なんですからね」
十歳の女の子に叱られてしまったとアッシュは、自らの失敗に苦笑いを浮かべるしかできなかった。まぁ、叱られたおかげ、というのもおかしな話だが、アッシュは僅かに穏やかな気分を取り戻し、会談の場へのを扉を自らが率先して開いたのだった。
会談の場には既に人がいた。それは確かに自分の妹だとアッシュは思った。鮮やかなピンクの髪を長く伸ばした美しい少女だった。そして、その隣に怜悧な表情を浮かべた男が一人。アッシュは妹が立ち上がり、こちらに対して、恭しく一礼をする。
姫とアッシュも敬意を込めた礼を返す。すると、ピンクの髪の少女が微笑みながら口を開く。
「お初にお目にかかります。アリッサ・クランマイヤー姫殿下。そして、お久しぶりです。お兄様。クライン公国公王のエミル・クラインと申します」
その瞬間、アッシュは様々な記憶が蘇ってくる。自分を見捨て、監禁生活へと追い込んだ張本人。そう思った瞬間、アッシュは怒りが吹き出しそうになったが、自らの隣にいた少女が一歩前へ出たことで冷静を取り戻すことができた。
「丁寧な御挨拶いたみいります。クランマイヤー王国王女アリッサ・クランマイヤーと申します」
自分より姫の方がよっぽど冷静だと思い、アッシュも口を開く。
「クランマイヤー王国摂政のアッシュ・クラインです」
アッシュは冷静さを取り戻し挨拶した。そして、姫とアッシュの二人は会談の席へと座るのだった。

 
 

「シンプルに行きましょう。まずは捕虜の返還をお願いします」
エミル・クラインの横に座る男は、礼儀などというものを完全に無視し、必要な事柄だけを述べた。なるほど、そういうタイプかと、アッシュは思った。おそらく世渡りは下手だが、実務に長けるタイプだと。
「異論はありません。捕虜返還の様子もモニターできるはずです」
会談の場には大きなモニターがあり、そこに外の光景が映される。アッシュはシルヴァーナに連絡し、捕虜の解放を指示した。しばらくすると、クライン公国の将兵が、宇宙港から出てくる。
クランマイヤー王国のMSの列に挟まれた真ん中を所在なく歩き、クライン公国側へと向かっていった。

 

セインはオーバーブレイズガンダムに乗りながら、モニターを見るとドロテスとギルベールが小さく敬礼をしているのが見えた。セインは、自分はどうするか迷いながらも、結局はドロテスとギルベールにMSで小さく敬礼したのだった。
ドロテスとギルベールは苦笑しながら、クライン公国側へと歩いていった。この先も殺し合う相手同士なのになにをやっているのかと自嘲から生じた笑みだった。

 

「捕虜が返還されたことは確認しました。後はこちらが敗北したことによる賠償の件ですが」
「この用紙に書かれている通りで頼む」
アッシュは、怜悧な表情の男に一枚の紙を渡した。それは病院のベッドでユイ・カトーが血反吐を吐きながら書いた物だった。
怜悧な表情の男は無言で目を通し、一通り目を通した後でアッシュに言う。
「問題はありません。この条件を呑みます。共通通貨で――ですね」
随分とあっさり通ったが、大丈夫なのかという感覚がアッシュにはあったが、とりあえずユイ・カトーを信じることにした。
「そちらの勘定係は随分と優秀なようだ」
怜悧な表情の男は、まったく表情を崩さずに無駄口を叩いた。アマツクニの時もそうだったが、ユイ・カトーは人材としては相当に優秀なのかとアッシュは疑問に思った。アッシュからすれば、公金横領を繰り返すゲス女なのだが。
「これ以上話すことは特にありませんね。クライン公国とクランマイヤー王国の終戦協定の調印式はテレビ中継を行います。私はその準備がありますので、席を外します。皆様どうぞご歓談下さい」
怜悧な表情の男はそう言って、席を立ち部屋から去って行った。アッシュはその姿を呆然と見送りながら、男と代わって護衛の兵士が一名部屋へと入って来た。アッシュはその男に対しては特に気になるようなこともなかったので無視をした。
そうしていると、エミル・クラインが、ゆっくりと口を開いたのだった。

 
 

「しばらくお会いしませんでしたけど、お兄様はお元気でしたか?」
エミル・クラインはおっとりとした口調で言いのけた。その瞬間にアッシュは脳の血管が切れそうになった。しばらく?三年だぞ。お前は三年間も僕を監禁したのだぞ?アッシュは怒りで目を血走らせていた。
「元気だったか?それは、どういう意味で聞いているんだ?僕にはその言葉は、挑発にしか聞こえないんだがな」
アッシュは手が出そうになるのを抑えながら、エミル・クラインに尋ねる。
「えーと、そのままの意味なんですが、お兄様が元気で暮らしていたかを聞きたいだけで……」
「そのままの意味とは何だ。三年間監禁場所で元気に暮らしていたといえばいいのか?」
アッシュは心の底から苛立ちを覚えた。アッシュが監禁されていたのは妹も知っているはずだ。
「監禁ですか?でも、お兄様は悪いことをしたから、少し閉じ込めておかなければいけないと聞いていました。でも今ここにいるということは元気にやっていたということですよね?」
「なぜ、監禁された場所から、ここまで辿り着いたのか疑問に思わないのか?僕は、その方が不思議なのだがな。兄が勝手に国を出奔して敵側についているという状況に何も感じないのか?」
アッシュは苛立ちよりもウンザリとした気分が強くなってきていた。昔から妹と話すとこうなる。アッシュ自身、そういう感情を持つのは良くないと思うのだが、どうしてもそれを抑えるのは難しかった。
「お兄様はいつも怒ってばかりです。私にだって言いたいことはあるのに……」
じゃあ、言ってくれ頼むからとアッシュは思う。もう自分のことが嫌いだからとでも何でも
いいから、アッシュは妹のちゃんとした言葉が聞きたかった。
「お兄様が出ていったのは良く分かりません。でも、今は元気で良かったなぁとエミルは思います」
アッシュは頭を抱えるしかなかった。頭が悪い。アッシュは、そう断じるしかなかった。最近は、頭がキレる人間としか話してなかったせいで、自分の妹の要領の悪さと考えていることの幼稚さにアッシュは、気持ちが折れそうになっていた。
アッシュはもう言うことはないと思うことにした。どうせ、何を言っても的外れな答えが返ってくるだけだと思い、アッシュは妹に関して全てを諦めたのだった。
「エミル公王陛下は、どうして戦いを引き起こすのですか?」
アッシュが口を閉じると、姫が鋭い目つきでエミル・クラインに尋ねる。エミル・クラインは頬に手をあて少し考えた後に言葉を返す。
「平和のためです。全ての国がクライン公国と共に歩むようになれば世界は平和になるそうです」

 
 

なるそうです?ここまで世界を戦いに巻き込んでいて、自分の意思ではなく誰かの言葉に従っているのかとアッシュは問い詰めたくなったが、姫と妹の会話であるため口を挟むのは控えたのだった。
「共に歩むとは侵略することなんですか?」
姫の言葉は鋭く明らかに怒りがこもっていたが、エミル・クラインはその言葉の意味がイマイチ分かっていないようだった。
「他のコロニーことに関しては皆さんがいろいろやってくれていますし、わたくしには良く分からないのですけれど、お話しを聞くと、どこのコロニーの人々も喜んでくれていると聞いています」
喜んでいる?独裁と恐怖政治をしいていることを、この妹は何も理解していないのだ。完全な傀儡ではないかとアッシュは思った。
「私の国はクライン公国に侵略されました」
姫は変わらず鋭いまなざしで、エミル・クラインを見る。対してエミル・クラインはボンヤリとした様子だった。
「それは大変でしたね。申し訳ありませんでした。そんな物騒なことをする者は叱っておきますね」
駄目だ話が通じていない。そもそも今、この会談がどういう意図で行われているのかも理解していないのだろう。アッシュは妹の正気を疑ったが、昔からこうだったことを思い出す。基本的に関心の無いことは全てどうでもいいのだ。それも極めて極端に。
「アリッサ姫様も、お兄様も、そんな、お話よりも、お花のお話しをしましょう。わたくし今年も青いバラを綺麗に咲かせることができて、庭園も鮮やかになりました。姫様も、お花はお好きですか?お好きでいらっしゃるなら、何かをお送りいたしますわ」
アッシュは妹と話しても何も得るものはないと痛感した。いや、正しくは得るものがひとつだけあった。それは妹が完全に傀儡で何も考えず毎日楽しく過ごしているということだけだ。
アッシュは姫を見てみると、姫の方は僅かに驚いた表情を浮かべていた。多分だが姫の人生においては、こんな大人は初めて見るからだろう。無責任かつ無関心、自分の立場というものを一瞬も考えず幸せに生きている人間だ。
アッシュからすれば、身内の恥だが、これを反面教師にして成長して欲しいとアッシュは姫に対して思うのだった。
そうしているうちに、部屋の扉がノックされ、怜悧な表情の男が顔を出し、準備が整ったことを伝えた。おそらくはこの男がクライン公国の実質的な支配者なのだろうとアッシュは考えた。
だが、しかし現状のクランマイヤー王国も似たものかとアッシュは反省の念を抱いた。最後の最後に決定権を持つのは姫だが、だいたいは自分やユイ・カトー、クリスで国政を担っている。現状、姫に内政面の能力を期待するのが難しいからだ。
しかし、それをいつまでも続けていたら、クライン公国がエミル・クラインを傀儡としているのとさほど変わらない。アッシュは帰国したら姫に政治を学んでもらおうと思うのだった。そしていずれは姫が主導となって国の舵取りを、と未来を想像するのだった。

 
 

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