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GUNDAM EXSEED_B_7

Last-modified: 2015-04-17 (金) 17:35:33

アービルを訪れてから数日間、クランマイヤー王国はお通夜のような雰囲気だった。ハルドの無事を皆、信じてはいたが、不安も大きかったのだ。
そしてアービルから姫たちが帰還してから十数日後。
「よう」
ハルド・グレンという男は何ともない様子で帰って来た。
その日、クランマイヤー王家邸では祭りのような騒ぎとなったことは言うまでもない。

 

「どうやって帰って来たんだ」
ハルドの帰還パーティーをした後の夜中、ハルドとアッシュは酒を酌み交わしながら、のんびりとした雑談に興じていた。
「別に、やれることやって帰って来たんだよ」
そう言って、ハルドは自分が帰って来るまでの経緯をアッシュに説明するのだった。
まず、機体が破壊された時点で、脱出。宇宙空間をノーマルスーツのみで移動し、酸素残量ギリギリでアービルに戻り、一日二日の間、身を隠していた。
その後、宇宙港に行くと適当な宇宙船をハイジャックし、適当なコロニーの傍でハイジャックした船から宇宙空間に脱出し、コロニーに忍び込むということをくり返し、
クランマイヤー王国への定期便が出ているコロニーを探し、最後はクランマイヤー王国行きの定期便が出ているコロニーを見つけて、それに乗ってようやく帰って来たということだった。
「ハイジャックはする必要があったか?」
「金がなかったし、警戒もされてたから、どうしようもなかったんだよ」
他にも方法はあったろうと思ったが、アッシュは追及するのをやめ、それよりも気になることを聞くことにした。
「ずいぶんと、この国に肩入れをしているな?」
アッシュは不思議に思っていたのだ。ハルドという男を見ている限り、そこまで何かに縛られるような男ではないこと、そんな男が姫とはいえ幼い少女の命令を聞いて命をかけたのだ。それがアッシュには不思議だった。
「別に、そこまで肩入れしているつもりはないんだけどな。金をもらってるし、メシもごちそうになって、そして今飲んでる酒の分だけ働いてるつもりだけどな」
そうは言うが、アービルでの働きは、それに見合わないものだとアッシュは思う。
「僕には、わりに合って無いようにみえるがな」
「そりゃ、他人から見りゃそうだろうけど、俺の中じゃ勘定はあってるよ。それに命をかけてまで頑張る義理はないから、適当なところで消える予定だしな」
本当にそうかという疑念がアッシュにはあった。アービルでの一件は少しでも間違えば間違いなく命を落としていたというのに、ハルドはどうということもないといった感じだった。
「アービルでの一件からは、そんな風に割り切っているようには見えないがな。あれは死ぬ可能性もあったと思うが」
アッシュは思ったことをそのまま口に出したが、ハルドの方はどこ吹く風と言った感じだった。
「死ぬ可能性なんかないと思ったから、俺は行ったんだよ。あんまり俺をなめるなって、これでも凄腕だぞ?」
それは知っているとアッシュは思うが、どうにもハルドという男にアッシュは不安を覚えた。命をかける義理はないと言って命を大事にするような物言いをしながらも、
本当は、その逆、命などどうなってもいいという、生き急ぐような考えが、この男にはあるのではないかとアッシュは思うのだった。
「もう終わってもいいと思ってないか?」
アッシュは思わず口に出してしまった。するとハルドは鼻で笑い、
「酔って来たから、もう寝るよ」
それだけを言い残して、アッシュの元から去って行った。
結局、答えを得ることが出来なかったことが、アッシュの不安を一層強めるのだった。ハルド・グレンという男が生き急いでいるということについての不安を。

 
 

しばらくの間、誰もが暇になった。
「地球に行くのは、もう少しゆっくりでいいかなと思うんです」
セインとミシィはそう言って、クランマイヤー王国にしばらく滞在することを決めたようだった。
「行くところもないから、ここにいるよ。一応人質らしいしな」
そう言うのはアッシュである。
「姫様に助けていただいた命です。姫様に仕えることで、そのご恩に報います」
そう言ったのはアービルで助けた、元聖クライン騎士団の、セーレ・ディアスという女だった。
ハルドもコナーズも次にする仕事もないので、クランマイヤー王国でのんびりと過ごすことにした。
基本的には誰もやることがなかった。世間では、クライン公国のコロニー侵略と制圧が行われていたが、クランマイヤー王国はまだ平和の中にいた。
セインとミシィは王家所有のリンゴ園の手入れの手伝いをしていた。アッシュは、3年間分の知識を取り戻すために情報収集に熱心だった。セーレはというと、姫の護衛役と言った感じで四六時中、姫について回っている。ヴィクトリオは基本的に走り回って遊んでいた。

 

みんな仕事をしているように見えるが、基本は手慰みのレベルだとハルドは思い、リンゴ園からくすねたリンゴにかじりついていた。
コナーズは船の整備やらをやらせているので、完全にヒマなのはハルドだけだったが、それを気にするような気持ちはハルドにはなかった。
そうやって、何日もすることなくぼんやりしていると、ついに姫から命が下った。
「ピクニックをするので、護衛してください」
俺の仕事かとハルドは思いながらも、不承不承で引き受けたのだった。

 

そしてピクニックの当日である。
メンバーは姫、ヴィクトリオ、アッシュ、セイン、ミシィ、セーレ、メイ・リーそしてハルドであった。
この面子で行っても普段と変わらないような気がしたがハルドは何も言う気はしなかった。出発の直前にバーリ大臣から、こっそりと耳打ちをされる。
「これは、アービルの社会見学のお詫びということなのです。あとは改めてクランマイヤー王国を案内したいという姫様の、お気持ちなのです」
言われてハルドは、ふと思い出した。あまり興味がなかったが、自分はクランマイヤー王国に関して知らないことも多いなと。ならば、それを知るためにピクニックも良いかと思った。
出発はクランマイヤー王家邸からだった。それもかなり朝早い時間である。
「では出発しましょう!」
姫が元気よく言うと、ヴィクトリオだけがオーと手を挙げたが、ある程度以上の年齢組は何もせず、互いに顔を見合わせるだけで、何とも締まらない出発となった。
「では、まず社会見学です!最初はクランマイヤー王家邸があるメインコロニーからです」
と言いながら、姫はルンルンと歩き、ヴィクトリオも真似していた。少年少女はそういうことをする歳ではなくなってしまっているし、大人組はやってしまったら場合によっては何らかの施設に入れられる可能性があるので、普通に歩いた。
やがて辿り着いたのは、地味な三階建てのレンガ造りの建物である。これでも、コロニーでは最大の建造物であった。
「ここが、政庁舎です。政治に関わることは全て、ここでやっているのです」
姫は自慢げに言うが、ハルド達からすれば何とも貧相な政治関係の場所だと思った。ヴィクトリオだけは「すっげー」と喜んでいるが。
すると、さえないが優しそうな風貌の中年男性が政庁舎から出てきて姫にお辞儀する。
「この人が、クランマイヤー王国の政治を色々するマッケンジーさんです」
マッケンジーという中年男性は「どうも」とお辞儀をすると、のんびりした感じで、庁舎に戻って行った。

 
 

アッシュが小声でハルドに言う。
「大丈夫か、この国は?」
ハルドとしても答えようがないが、これで大きなトラブルが起きている様子はないし国民は快適に暮らしている様子なので。
「大丈夫だろ」と、答えるしかなかった。
「次へ行きましょう!」
姫は変わらずご機嫌である。皆で出かけるというのが、そんなにいいのかともハルドは思った。
「子供はそういうもんだよ」
ハルドの横をあるくアッシュがぼそりとハルドの心を読んだように言った。心を読まれたようなのは気に喰わないが、子どもが楽しそうなのは良いと思った。
自分の子ども時代が悲惨とは言えないが、こういう楽しみには欠けていたから、子どもの楽しそうな表情を見ると多少なりとも自分の子ども時代の記憶が癒される気がした。
「次はここです!商店街です」
言われて、辿り着いたのはクランマイヤー王家邸からほど近い、石畳の一本道である。小さな店がいくつか並んでいる。ハルドもたまに利用するので、説明の必要はなかった。
「色々、おまけしてくれます!」
姫は自慢げに言うが、ハルドとしては「そうだね」という感想しかなかった。
「では、このコロニーはここまでにします」
そう言うと姫は皆を先導して、リニアトレインの発着場に向かった。それで、ハルドは思い出した。そういえばクランマイヤー王国は4つのコロニーが密集した国だったと。
「まずは、工業コロニーに向かいましょう
そう言うと、姫に連れられ皆で、リニアトレインに乗って、隣り合うコロニーに向かった。リニアトレインは時速で数百kmはで乗り物だったはずだとハルドは記憶を掘り起こした。
そして、姫に連れられ、降りたのは工場ばかりのコロニーだった。
最初のコロニーとは違い、自然を感じさせるものは少ない。ただ自然らしさを思わせるのはコロニーの中央に流れる川だった。
「ここでは、この国で必要な工業製品を全部まかなっているのです」
姫が自慢げに語ると、ヴィクトリオがやはり「すっげー」と驚きと歓喜の表情を浮かべるのだった。それでいいのかヴィクトリオと思うハルドだったが、このコロニーに関しては少し気になる点があった。
「アッシュ。川向こうの工場だが……」
ハルドが小声でアッシュに言うとアッシュも頷き、答えを述べる。
「MS製造用の工場だな」
ハルドとアッシュはこのコロニーに不穏な気配を感じていた。しかし、
「あ、川向うの工場はしばらく前から停止していて全く動きません」
姫がハルドらの心配を打ち消す言葉を言って、終了してしまった。
「このコロニーは大工場長という人が責任者なのですが、今は忙しいので、次行きましょう!」
言って、姫は全員をリニアトレインに再び押し込むのだった。
「だが、まぁ良かったじゃないか」
アッシュはトレイン内でハルドに言い、ハルドも同意する。
「MS生産能力があるコロニーなんて真っ先に狙われるだろうからな」
二人は多少、ほっとした様子だった。
そして姫が二人の男の心配をよそに、次に降り立ったコロニーはクランマイヤー王国そのものといった感じだった。
穀物を生産する畑に、牛や羊などの家畜が放牧されている。最近では見慣れた光景である。
「ここはクランマイヤー第一農業コロニーです」
姫が言うのを適当に聞き流しながら、ハルドは景色を見ていた。
「ここは、生産量を重視しているらしいです。特に穀物、酪農や野菜、畜産に特化したコロニーで人はあんまり住んでないです」
なるほど、とハルドは思った。眼前に広がる農業が集大成されたような光景はそのためかと思った。人が少ないのは大部分を自動化しているのだろうと思った。
「ここは、あんまり面白くないので次に行きましょう」
姫はそう言うと、再び全員をリニアトレインに押し込み、先を急ぐのだった。

 
 

「次は第二農業コロニーです」
姫が言うのを正直言ってハルドは無視して考えていた。
「防衛に関してか?」
やはり、アッシュがハルドの考えを読んだように言うのだった。それがハルドは気持ち悪いと思ったが、言っても仕方ないことだと考え、思ったことを述べた。
「自力で大量の食糧を生産できる能力と、停止しているとはいえ、MSの製造工場があるんだ。うまくいけば防衛には適した土地になるだろうよ」
ハルドは思ったことをそのまま言ったが、アッシュは乗り気ではない様子だった。
「ここが戦場と言うのもな」
そんなことを言っている間に、トレインは停車した。
「みなさん、第二農業コロニーに着きました」
姫が言うと、皆に早く降りるように促した。姫が第二農業コロニーは圧巻の光景だった中央部に池と言うに大きすぎる巨大な水たまりがあり、それ以外はほとんど森といった様子だった。
「すげぇな」
思わずハルドが言うと、姫はご満悦と言った様子だった。
「真ん中のは海なので、淡水じゃなく海水ですので海水魚も釣れます。淡水魚は真ん中に注ぐ水が流れる川で釣れます。ついでに言うと、森には野生動物がいるとのことです」
姫はメモを見ながら、ハルドに言った。それはヤバいんじゃないかと思った。運の悪いことにリニアトレインの駅のそばは森だ。一瞬見えただけでも、鹿やリスの姿が見えた。
「大丈夫です。鹿さんたちとはお友達なので、襲ってきません。熊さんや猪さんは、別ですけど……」
最後に聞こえた声が嫌な予感しかさせなかった。
ハルドは全員をすぐに、森の中から退避させるように命じた。走って中央の海に行くと、幸い、海の周りは平野で襲われる危険は少ないと感じた。
海の周りを見ると確かに、海を感じさせるように砂浜になっていた。
「そろそろ、ご飯がいいです」
姫が言い出しヴィクトリオを同意しだしたので皆で昼食を摂ることにした。場所は中央の海、その砂浜から出た直後の平野。
昼食はサンドイッチと各種のおかずだった。バーリ大臣謹製らしく、子供だましらしい趣向は一切なく、本格的な食事だった。
ハルドとしては常識として子供向けらしいチープさも必要ではないかとおもいながら、バゲットにレバーペーストを塗りながら食事をするのだった。

 

「あの、ここの偉い人に会ってほしいんです」
食事を終えた後、ハルドは急に姫に言われた。その直後、馬に乗った集団にハルド達は囲まれた。ハルドは自分がいつの時代にいるのか分からなくなりそうだった。
「きみがハルド・グレン君か?」
馬に乗った壮年の男性が言う。やはり時代はいつかと何かに問い詰めたくなった。
「安心していい。きみ達に危害を加えるつもりはない」
そう言いながらも、馬に乗った一団の中には弓に矢をつがえるものもいる。これで危害を加えないと思えるのは中々に難しい。
「今が何年か言える相手となら交渉に応じるが?」
見た感じでは時代遅れの連中に対しては、ハルドはそう強がりを言うしかなかった。
「C.E.152だ。安心しろ。私は文明人だ。名前はリカードだ」

 
 

ハルドはその後、リカードのテントに招かれた。同席するのは姫だった。
「すまないな、あんな歓迎で」
「いや」とハルドは言うしかなかった。何を言っても嫌なことになりそうな予感がしたからだ。
「リカードは悪い人ではないです。自然を愛する人なのです!」
姫がフォローを入れるとリカードという男は、ゆっくりと喋りだした。
「その通りだ。我々は争いを嫌い、自然を求めてきたものなのだ。たまに争いに巻き込まれることはあったが、我らは平和を愛する部族」
「だから、このコロニーを任せているのです」
姫はそう言うが、ハルドはなんとも言えなかった。
「まぁ、キミの想像通り我々はカルト集団だ。自然を愛し、自然の中で生きることこそが人間の正しい姿だと心から信じている集団だ。勢力を大きくしようという気はない。ただ、静かに暮らしたいのだ。このコロニーの自然の中でな」
自らカルト集団と認めるカルト集団は信用できるのか?ハルドはそういう思いに囚われていた。
「我々は基本的に農業コロニーにしか行かない。そして、そこで害虫駆除や牛追いなどをして生活している。または、野獣の狩りだな」
ハルドとしては、そうですかとしか言いようのない話だ。案外、クランマイヤー王国というのは色々あるのだなと思わされた。
「まぁ、分かりました。けど、俺に話しってのは?」
おそらくここからが、本題だろうとハルドは身構えるが、要件は大したことはなかった。
「MSを貰ってほしい。2機だ。我々の生活に加わりたいという者が乗って来た。我々には必要ないのでな」
言われ、ハルドは良く分からないまま、MSが駐機させてある場所まで案内された。あったのは地球連合軍の量産型MSアンヴァルだった。
ピクニックは無事に終わった。ハルドがアンヴァル2機を受け取るというおまけつきで。

 

「よし、じゃあ、軽く動かそう」
ハルドがアンヴァルを受け取った次の日から、アッシュのリハビリとセインの訓練が始まった。ハルドはやる必要がないと思ったのだが、セインがどうしてもと頼むからハルドはセインの訓練に了承したのだ。
「はい!」
セインは言うが、なんともへっぴり腰な動きだとハルドは思った。
意外だったのはアッシュで、3年のブランクがあるのに、それほど苦労せずに機体を操っている。
対照的に、セインの方はなんというか、過敏すぎる。すぐにレバーや装置を作動させて取り返しのつかなくなってしまう。
「すこし落ち着け、セイン。MSはお前が思うより軽いんだ。遅いと思うくらいで動かした方が今のお前の感覚と合うはずだ」
ハルドに言われて、セインは自分の感覚よりも少しゆっくりと機体を動かす。すると、一瞬だけ機体が思い通りになったような気がした。
だが、直後に、アッシュの操るアンヴァルに組み付かれてしまう。
「よし、仕切り直しだな」
アッシュが言うと、アッシュのアンヴァルは再び距離を取る。
対して、セインのアンヴァルは安定した機体の体勢をとることもままならない。
「あまり、焦らないことだ。基本的にMSは自動で安定を取るようにプログラムされている。まずは、流れに逆らわないことを覚えよう。自分らしさを入れるのはそのあとだ」
アッシュに言われ、少し顔の熱くなるセインだったが、一々そんなことを気にしていられない。セインは必死でMSの操縦を体得するつもりだった。

 
 

「実際、どうなんですかセインは?」
尋ねたのはミシィだった。ハルドと一緒にセインとアッシュの一対一の訓練を見ていた。
「悪くはないと思うがね」
実際、ハルドはそう思っていた。マニュアルを見ただけでここまで動かせるとは思ってなかったからだ。
「才能があるってことですか?」
そう尋ねるミシィの表情には複雑な物が混じっている。
「動かす才能とパイロットとしての才能は別だよ」
ミシィの表情の複雑さは感じていたがハルドは無視して、本音を答えた。
「俺は基本の挙動すらまともにできないのに何十機も敵を墜とすパイロットを知ってるし、ショーやらでは誰よりも活躍するのに実戦では一機も墜とせないパイロットを知ってる」
そう言ってからハルドはミシィに対して言うのだった。
「まぁ、期待も絶望もするなってことだ。アイツだってクランマイヤーの生活が気に入って地球行きをやめることもあるかもしれんしな」
言うと、ミシィは一瞬明るい表情を浮かべるが、すぐに考え込むような表情に戻った。ハルドはさすが女子、単純ではないと感じるのだった。
「くそぉ、なんでコイツ!」
「焦りすぎだセイン君!」
訓練は中々の場面になっていた。どうしても機体がついてこないセインがやたらめったらに機体を動かすのだ。
アッシュのアンヴァルは、その動きを見切りながら、両腕を捕まえる。実力差は明らかだった。
「監禁生活が嘘みたいだな」
ハルドが外野から冷やかし言うのだが、アッシュとしてはそういう感じではない。
「そうでもないさ。けっこうきついぞ。この子の相手は」
暴れて面倒なのかもしれないとハルドは思ったが、そうではないと感じた。
「じゃあ、交代だ。アンヴァルは俺が乗る」
言うと、アンヴァルはハルドが観戦をしている方向に向かう。ハルドはノーマルスーツに着替え、アッシュと入れ替わりにアンヴァルに乗り込む。
ハルドは軽く稼働の確認を行う。すると思うのはアンヴァルでも、あのロウマ・アンドーという男が乗る、ゼクゥドには勝つことは出来たということだ。
しかし、いまさら思っても仕方ないことだとは分かっている。気持ちを切り替え、セインの訓練に臨むことにした。
「じゃあ、今度は俺が相手だ」
ハルドはセインに言うと、セインは明らかに怯えた様子になった。
「殺さないで下さいよ」
セインが声を振りしぼり言った。
「そりゃ、お前次第だ」
言って、ハルドのアンヴァルが突進する。
その間、セインのアンヴァルは微妙な動きを繰り返していた。良くある傾向だ。どう動けばいいか迷ったパイロットは機体の操縦をどうすればいいか考え、操縦桿を細かく動かす、その結果が微妙な動きなのだ。
ハルドのアンヴァルは迷うことなく一撃をくれてやるつもりだった。もちろん武器ではなく拳で不殺生の一撃だ。
避けられない、今までのセインの機体の動きからはそうだと思った。しかし、高速のハルドのアンヴァルの拳をセインのアンヴァルは手で弾いたのだ。
ハルドは別段、驚きもしなかった。戦場ではこういうこともある。そういう感覚が働き、二撃目の拳をセインのアンヴァルのコックピットに撃ちこんでいた。衝撃がコックピット内を大きく揺らし、パイロットのセインの意識も飛ぶ。
「なるほどな」
ただ、なんとなく、動きを停止したセインのアンヴァルを見つめハルドは、そう呟いたのだった。

 
 

セインが目を覚まし、正常になってから反省会が行われた。
「初めて、MSに乗るにしては悪くない動きだったと思うよ」
これはアッシュの弁であるが、次のハルドの弁は
「なってねぇな、基本的に戦いへの怯えが見え隠れしてる。だから、すぐに動きがヘタレる」
アッシュは鋭い視線でハルドを見ながら、続ける。
「まずは、基本動作を体で覚えるまで習熟してからかな、咄嗟の動きには良い物を感じたよ」
アッシュはセインの操縦に関しては、わりと上出来だという認識らしい。まぁハルドも初めて乗ったにしては良い方だと思うが。
「とにかくマニュアルを完全暗記してからだと俺も思うな。おそらく、カンは良いものがありそうだが、それも普通に動けるようになってからだ」
最終的には、そこまで悪い評価が下ることもなく、そうハルドが言って反省会は終了した。

 

それからはセインのMS操縦訓練は日課となった、基本的には宇宙だが、大臣などから許可が出れば、コロニー内でも動かして良いということになった。
段々とそれらしい形になっているなとハルドがセインの訓練を第2農業コロニーの平野、そのそばの川で釣りをしながら、ぼんやりと眺めていると、急にセーレが現れた。
まったく予期せぬ来客だった。セーレは姫の護衛ということを勝手に言い出し、四六時中姫について回っているので、ハルドとの関わりは少なかった。
「あの、姫様から伺ったのですが……」
セーレは何か口に出しがたいものを抱えているようだった。ハルドは急に現れたセーレに座れとも何とも言わず、無言で先を促すだけだった。
「ハルド殿は金さえ払えば、何でもしてくれると聞きました」
「まぁそんな感じだけど」
多少なりとも嫌な予感がしたが、話しを聞いてみるまでどうともしようが無い。
「で、なんか頼み事?」
ハルドが、そう言うとセーレは、ハイと頷くのだった。嫌な予感が強まって来たぞとハルドは思ったが、先を促した。そして聞かなければ良かったと思った。
「強制収容所に潜入して、私の幼馴染を助け出して欲しいのです!」
やはり嫌な予感は的中した。

 

「私の幼馴染は反体制的な発言をしたということで、収容所送りになったんです」
もうセーレはハルドが促さずともどんどんと喋って行く。
「私がアービルで捕まる直前に幼馴染は月の第3収容所に送られたと聞きました。ハルドどのには、その幼馴染を助け出して欲しいのです」
ハルドは聞かされて考える。別にやれないわけではないと。まぁ、相当厳しい仕事になるだろうとハルドは思ったが、まぁやれなくはない。
「まぁ、いいけどさぁ……」
それなりの額を払ってもらわなければ、やろうとは思えない。だが、セーレはそれを察したようで小切手を持ってきており、それをハルドに見せるのだった。
「……うん、いいよ。助け出してきてやる」
小切手には、ハルドが二つ返事で危険な仕事に乗るだけの額が書き込まれていた。

 
 

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