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GUNDAM EXSEED_EB_11

Last-modified: 2016-01-12 (火) 20:26:45

リヒトがプロメテウスPMCの仕事を終えて、リヒトは中近東地域の兵器開発施設に戻る。戻ってすぐにしたことは、とにかくPMCの制服を脱ぐことで、リヒトは自室に戻ると制服を脱ぎ捨て、床に放り投げておく。
そして、普段着に着替え、部屋を出ると、とりあえずMS格納庫に向かった。連絡も何もしていないせいで、アテネがそろそろ、拗ねている頃だろうと思い、ご機嫌を取りに行くのだ。
リヒトは真っ直ぐ、MS格納庫に向かい、MSハンガーに収まっているジェネシスガンダムの前に立つと、アテネに呼びかける。
「元気?」
(…………)
完全に拗ねてやがる。めんどくせぇ。リヒトはそう思いつつも白々しく言うのだった。
「やっぱアテネと離れるとダメだな。寂しくてしょうがない」
(…………)
「すげー厄介な敵と戦ったんだけど、その時もアテネがいてくれたら楽勝だった。やっぱり、俺はアテネがいないと駄目だな」
(…………)
本当に面倒なAIだな、どうすっかな。譲歩も限界だし、帰って来たばかりで疲れてるからさすがの俺も我慢の限界を向かえちゃうぞ。そんな風にリヒトが思っていると、沈黙していたアテネがゆっくりとリヒトに語り掛けてきた。
(……お帰りなさい。お疲れ様でした)
アテネが言ったのは、それだけだったが、リヒトはとりあえず、置いていったことに関しては機嫌を直してくれたようで助かった。
「愛してるぜ、アテネ」
(私もです。リヒト)
AIに愛されるのはどうなのか、リヒトは良く分からなかったが、まぁ嫌われるよりかは良いと思うことにして、とりあえず、この場は収まったと思い、アテネに言う。
「ちょっと、用事があるから、ミリアムの所に行くけど、すぐに戻ってくるから」
(了解しました)
まぁ、実際にすぐに戻ってこれるかは分からないが、とりあえず、嘘でもすぐに戻ってくると言う。そう言っておけば、アテネの機嫌をその場で損ねることはないという、小賢しい知恵が働いた結果の言葉だった。リヒトはその言葉を残してアテネの前から去るのだった。
MS格納庫を出てリヒトが向かった先は、施設の情報処理センターである。おそらく、まだミリアムが施設の人間から色々と教わっているか、頼んだ仕事をやっているはずだと思い、向かうのだった。
別に迷うこともなく、リヒトは情報処理センターに入るとミリアムが施設の人間と何か議論していた。リヒトは自分の用事が大事なので、ミリアムの都合を無視して呼びかける。
「おーい!」
かなりの大声で呼ぶと、ミリアムはリヒトの存在に気づくが、座ったまま動かない。あ、俺が行けって話しねとリヒトは思うと、ミリアムのそばまで近づく。すると、ミリアムは手元に置いていたノートPCのモニターをリヒトの方へと向ける。
「これが一番新しい、ユウキ・クラインのカーボンヒューマンの画像」
PCのモニターにはどこかの貧民街で井戸を掘る作業をしている、ユウキ・カーボンの姿があった。上半身裸で、頭にタオルを巻き、作業着のズボンを履いている、かなり日焼けしているが間違いなく、ユウキ・カーボンだった。
その姿を見た瞬間、リヒトは指先がチリチリとし、強い破壊衝動が芽生えるのを感じた。やっぱり、コイツは殺さなきゃな。リヒトはユウキ・カーボンの姿を見て、強く思うのだった。
「……正直、探すのはまったく大変じゃなかったんだけど。この人って全然、身を隠すそぶりとかしないし」
ミリアムは複雑な表情を浮かべていた。リヒトは気になったので率直に聞いてみる。

 
 

「コイツをどうにかするのは、反対とか思ってる?」
リヒトがそう言うと、ミリアムは頷き、答える。
「うん……だってこの人、良い人だし……。行動をチェックしても、困っている人の手助けしかしてないし、悪い人じゃないんだから、見逃してもいいんじゃないかな?」
リヒトは別にミリアムの言葉に対して腹を立てるということもなく、淡々と、ああそうなの、としか思わなかった。ミリアムがどう思おうが、自分の行動を変えることはないのだから、勝手に、そう思っていれば良いとしかリヒトは思わなかった。
基本的にミリアムはどうでもいいのだ。自分がどうしたいかが全てで、自分はユウキ・カーボンを殺したいだけなのだから。
「うーん、直接話し合ってみないとなぁ。でも、ミーちゃんがそう言うなら、悪い人じゃないかもね」
リヒトは適当にミリアムに話しを合わせた。現状、ミリアムはリヒトにとっては、どうでもいい存在なので、嘘をつくことにも罪悪感などは全くなかった。
「直接会うなら、この人はここにいると思うけど。ホテルに長期宿泊で部屋を借りてるのも調べて分かったし」
ミリアムはPCを操作し、モニターに地図を映すと、地図上に赤い点でユウキ・カーボンのいる場所を示す。そこは南アフリカ共和国があった地域の某都市だった。
「泊まってるホテルを教えてよ」
リヒトがそう言うと、ミリアムはホテル名と住所を書いておいたメモをリヒトに渡す。
「はい、どうもね」
これで当座の所、ミリアムは用無しだが、どうしたものかとリヒトは思う。先ほどのユウキ・カーボンを擁護するような発言は、まぁどうでもいいが、少し飽きたなとリヒトは思うのだった。
飽きたというか、冷めたというべきか、リヒトには判断がイマイチつかなかった、とにかくミリアムに関してはどうでも良くなってきていた。役に立つのは間違いないが、まぁそれだけだな。妹っぽく振る舞わせるのも最初は面白かったが、今は飽きた。
なので、もういいかとリヒトは思い、掌にタブレットを転送させると、ミリアムにタブレットを差し出す。
「頑張って働いてくれたから、もういいよ。契約満了ということにしても」
リヒトの、その言葉にミリアムはキョトンとするだけだった。
「前に言った通り、この画面上に映ってる資産は全てキミの物。保証人はグランパとグランマが引き受けてくれることになってるし、戸籍関係も整備しておいた。
とりあえずは、ミリアム・レイノルズということでグランパ達と生活してもらうことになるかな。レイノルズじゃなく別人になりたいとかいう話しはグランパにすれば、なんとでもなるから心配なく」
ミリアムはえ?え?と全く状況が分からないようだった。
「とりあえず、現状、キミのことはジェシカに頼んであるから。
この前、僕の部屋にいた金髪の優しそうな女の人ね。ジェシカにお願いすれば、無事にニューヨークまで送り届けてくれると思うから、そこら辺は自分でよろしく。分からないことがある時もジェシカに聞けばいいから」
リヒトはそこまで言うと、必要なことは充分に伝えたので、呆然とするミリアムの肩をポンポンと叩き、笑って言う。
「良かったね、これでキミは自由だ。楽しい人生を送るといい」
それだけ言って、リヒトはミリアムに背を向けて、その場から立ち去ろうとした。だが、当然、急にそのようなことを言われてもミリアムは納得できるはずもなく、リヒトの背に向けて、叫ぶ。
「私を捨てるのか!?」
捨てるって、そんなたいしたもんじゃないだろうにと、リヒトはミリアムの怒りの理由に関して深く考えようとはしなかった。ただ面倒だったので、軽く流す。
「捨てるって、そんな大袈裟な。とりあえず、一旦お別れって感じで。別にこれっきりってわけじゃないし、とりあえず契約満了なので、ミーちゃんに少し将来を考える時間をあげたって感じだよ。別にまた僕の相棒やってもいいしね。ただまぁ、今はいらないかなってだけ」
リヒトは適当に取り繕って、そう言った。その言葉にミリアムは釈然としない気持ちを露わにした表情を浮かべていたが、リヒトはこれ以上相手にするのも面倒だったので、ミリアムがこれ以上、何かを言う前にさっさと、その場から退散したのだった。

 
 

居所も分かったことだし、行くか。リヒトは躊躇う理由もないため、さっさとユウキ・カーボンのいる場所へと向かうため、自室へ装備を取りに行き、全ての装備を用意し、身に着ける。
顔を隠す機能を持ったいつものフードが取り付けられた、黒いシャツを着て、その上に気候とは全く合わない、黒のロングコートを上着にする。ズボンは黒のカーゴパンツだが、pケットを使いやすいように改造がされているものを履く。
武器類は、現地に到着してから装備すればいいと思い、大型のバッグに武器を全て詰め込み、リヒトは部屋を出る。
そして、最後にトーマスのもとへと向かった。トーマスは相変わらず、対人用兵器の開発室にいた。
「なんだ、行くのか?」
トーマスはリヒトの格好を見て、そう言うと、リヒトが何も言わずとも銀色のケースを渡す。それを受け取ったリヒトは中を確認する。ケースの中には、液体の入った小さな注射器が五本あった。
「臨床実験はしてないが使えるはずだ。連続使用してもいいが、五本は計算上の致死量ギリギリだからそこら辺は気をつけろ」
リヒトはケースをカーゴパンツのポケットにしまう。リヒトはこれがないと、ユウキ・カーボンの相手は無理だと考え、試験段階のものであるにもかかわらず、無理を言って、トーマスに用意してもらったのだった。
「悪いね」
「別に構わんよ。後で使用感を聞かせてくれるならな」
それぐらいなら楽なものだ、ユウキ・カーボンを仕留めれば良いだけの話しなのだから。リヒトは、適当に礼を言うと、トーマスに別れを告げ、その場を去る。
これで準備は出来た。後は、ユウキ・カーボンに会うだけだ。そして、ぶち殺す。そう心に決めながら、リヒトはMS格納庫に向かい、MSハンガーのジェネシスガンダムに乗り込む。
コックピットのシートに座り、リヒトは言う。
「準備は出来た。あのカーボン野郎の所に行く」
(了解です)
アテネの応答に合わせてリヒトは機体を起動させ、ジェネシスガンダムをMSハンガーから、ジェネシスガンダムを動かし、格納庫から機体を発進させるのだった。

 

リヒトは転送機能を使わずに、ジェネシスガンダムを飛行させ、目的地へと向かっていた。単純にエネルギー量を万全な状態にしておきたいという理由だった。おそらくMS戦もあるだろうと考えた上での判断だった。
リヒトは移動中の機体制御はアテネに完全に任せ、自分はボンヤリと座っていたが、その口元はニヤニヤと動いていた。そんなリヒトにアテネが声をかける。
(脳内物質の分泌量が平常時に比べて増加しています。興奮しているのですか)
「そうだねぇ」
殺したいくらい嫌いなのに、会いたくてたまらない、何とも不思議な気分なのは間違いないとリヒトは思った。正直なところ女と遊ぶ時以上にワクワクしている、自分がいることをリヒトは感じていた。
「会いたくてー♪会いたくてー♪心震える、月夜の下、荒野に立つ、私ひとりー♪」
リヒトは適当にリズムをつけて言ってみたが、アテネからは憮然としたイントネーションの言葉が帰って来た。
(私もいますが)
違うなぁ、そうじゃないんだよ。まぁアテネに情緒というものを理解しろという物を無理があるか、そもそもコズミック・イラの人間に情緒の豊かさを求めるのが間違っているのかもしれないなぁと、リヒトは思いつつ、アテネに尋ねてみる。
「アテネはシャドウってなんだか分かるかい?」
(影ですか?)
「言葉的にはあってるけど、俺が言いたいのはちょっと違う。俺が言いたいのはユングの言った心理学用語の方のシャドウだ」
まぁ分からんだろうなぁ、とリヒトは思う。そしてアテネが返してきたのは、リヒトの思った通りの答えだった。
(……データにありません)
「まぁ、気にすんな。西暦の時代の考え方だ。今の時代は知ってるやつの方が少ない」
抽象的な心理学の考え方の一つだ。宗教すら捨ててしまったコズミック・イラの人間には、宗教より先に捨てられてしまったものだろうとリヒトは思う。アテネのデータにも引っかからないのは無理もない。
シャドウは、まさしく影、自分が表に出している性格やら考え方の中で、無意識に抑圧している影の部分。認められず表に出すことのできない自身の心の性質だ。
何となく気に入らない。理由がなくとも嫌いという存在がいる場合。その人物を好きになれないのは自身のシャドウと一致する性質を持っていると考えられる。
シャドウとは、自身が抑えている自分の一面。抑えている自分と同じ性質を持つ人間が現れれば、自身は抑えている性質と対面させられるわけだから、拒否反応を起こし、理由はなくとも嫌いという状態になる。

 
 

もしかしたら、ユウキ・カーボン、いやユウキ・クラインという人間自体が自分のシャドウと一致する人物なのかもしれないとリヒトは考えていた。
もっとも、リヒトが知るシャドウの話しは父から教えられたものであり、正確さはないので、リヒトは自分の考えに関しては、確信を抱いていなかった。
父さんも、俺の知識が正しいとは限らねぇからな、と言っていたなぁ。とリヒトは思い出しながら、この世界の人間はどうしようもないと思っていた。
なにせ、宗教の権威が、化石と遺伝子調整された人間が存在した程度で失墜するのだ。西暦の思想家たちも驚くだろう。
科学の発達と共に抽象的な思考は失われたが、人々の中では抽象的な言葉は増えた。ハッキリとしない物言い、確証の無い説明、論拠のない説得、飾りだけの言葉。人類は生物としては進歩する方向を一つ見つけたが、人間として進歩する方向を失った。
精神世界、心の豊かさとも言えるそれは西暦の時代の人類に比べ、今の人類は明らかに退化している。父さんはそう習ったと聞いたが、実際はどうなのかとリヒトは一瞬思うが、まぁどうでもいいことかと思考を戻す。
とにもかくにもユウキ・クラインという人間の性質はリヒトが無意識に抑えていたものなのかもしれないという所まで、思考を戻す。
ユングの心理学ではシャドウを見つめ、抑圧していた自己を受け止めることで、人間的な成長が得られるという話しだったが、リヒトにとって、それはどうでもいいことだと思うのだった。
とりあえず。気に入らないのだから、排除するのが楽だとリヒトは思う。人間的な成長を求めて、受け入れるよりも、ぶっ殺した方が楽なのです。ユング先生ごめんなさいと、適当なことを考えながら、リヒトは一旦眠りにつくことにした。
充分に休息を取り、万全の態勢で戦いに臨む。そのためにリヒトは目的地に到着するまで眠ることにしたのだった。今更になって、色々と考えるのも無駄だと判断し、寝て一休みしたほうが生産的だと考えてのことだった。

 

眠り、目を覚ますと朝だった。そして、リヒトは機体が地面の上に立っていることを理解し、目的地に辿り着いたことを、察した。正確には、目的地の近くだが。なにせ、目的地が市街のど真ん中である以上、MSでそのまま乗り付けるわけにもいかない。
リヒトは悪くない目覚めだと思いながら、武器を入れたバッグをコックピットの奥から引っ張り出すと、一旦コートを脱ぎ、武器を身につける。改めて装備すると相当な重量だったが、リヒトは気にしなかった。
最後にコートを着直し、オーダーメイドの45口径カービンを細長い袋に入れ、肩にかけると、リヒトは機体から降りる。
「なんかあったら呼ぶから、それまで待ってて」
(了解です)
リヒトはアテネにそう言い残すと、リヒトは真っ直ぐ市街へと向かうのだった。ユウキ・カーボンの泊まっているホテルの居場所は知っているので、迷うことはなかった。
ユウキ・カーボンが泊まっているホテルは市街地の中でも閑静な高級住宅街のそばの、高級そうに見えるホテルであった。実際にはそれほど大したホテルというわけでもないだろうが、とリヒトは思ったが、どうでもいいことだと思い、周囲を見回す。
閑静な高級住宅地そのものといった感じだと思い、リヒトはさして面白いものではないと思った。だが、見回した中で気になった場所があった、それは住宅街の奥の小高い丘にある公園らしき場所であった。
リヒトは考える。
ユウキ・カーボンもそれなり以上のバックアップを受けている以上、こちらが市内に入り込んだことも把握しているはずであり、ユウキ・カーボンの言動を考えるならば、周囲に余計な被害が及ぶ可能性があるホテル内よりも公園を戦いの場所に選ぶだろうと。
リヒトは確信を持っていたわけではないが、とりあえず、公園の方へと向かってみる。すると、明らかに人の気配が少なくなってくる。
「お膳立ては整ってるってことか」
明らかに人払いをしているとリヒトは思い、迷いなく公園内へと足を踏み入れる。その瞬間に監視の目があることをリヒトは気配で察し、左目をつぶり周囲を見回してみると、人間の姿を確認できたが、攻撃してくる意思は見えなかったので無視することにした。
そしてリヒトは、公園の奥へと進んでいく。思いのほか広い公園であり、公園の中央には林があった。リヒトは林の中の舗装された道を歩き、公園のさらに奥へと向かう。

 
 

もう少しか、そう思っていると、林を抜け、開けた場所に出る。そこは公園内でも一番高い芝生の広場であり、その端は市街を一望できる、展望台になっていた。
リヒトはそこで目的の人物をついに見つける。それは男である。男は展望台の手すりに手をのせ、市街を眺めており、リヒトに背を向けている。リヒトはバッグからカービンを取り出し、手に持つと、躊躇いなく男の背中に銃口を向ける。
「勘弁してくれ。いきなり銃殺は無しにしよう」
男は背を向けながら、リヒトに対して言う。その声は間違いなく、あの男、そうユウキ・カーボンのものだった。リヒトは大人しくカービンを下ろす。多分だが避けられるので意味はないと考えた結果だった。
「その判断は正しいな」
ユウキ・カーボンは振り返る。茶色い髪に爽やかな印象を与える顔立ち、服装は、白いボタンダウンのシャツを腕まくりして着て、下は普通のジーンズだった。前にあった時と比べると日焼けしていた。そして日本刀を鞘に収め、ジーンズのベルトに紐で吊り下げていた。
ユウキ・カーボンはリヒトの姿を確認すると、小さくため息をついて言う。
「だいぶ、穢れたな」
憐れむような表情でユウキ・カーボンは言うが、リヒトはユウキ・カーボンの表情の意味など気にせずに答える。
「アンタを殺すためだ。仕方ない」
ユウキ・カーボンはそうか。と小さく呟くと、再び、リヒトに背を向けながら言う。
「少し話しでもしよう。面白い話しでもないけど」
ユウキ・カーボンは自分の隣に来るように背を向けながら、リヒトに手で合図を送る。リヒトは特に警戒もなく。ユウキ・カーボンの隣に立つ。不意打ちをするような人間ではないことは分かっていたため、リヒトは警戒をしなかった。
隣にリヒトが立つと、ユウキ・カーボンはリヒトを見ずに展望台から市街を眺めながら尋ねる。
「何が見える?」
リヒトの目には貧民街が見えたが、リヒトはどうでもいいと思って答える。
「何も」
ユウキ・カーボンはリヒトの適当な答えを気にすることもなく、口を開く。
「俺には人間が見えるよ。未来を夢見ることが出来ない人々だ」
リヒトはユウキ・カーボンと自分の見ているものが同じだと思ったが、考え方は違うことは理解した。そんな風に思っていると、ユウキ・カーボンは続けて話す。
「地球連合になる前、西暦の時代、南アフリカ共和国がどういう国だったかは、知っているかい?」
歴史の授業か、くだらないと思いながらリヒトは答える。
「アパルトヘイトなんかやってた国だろ」
有色人種を差別する政策だ。黒人と白人を明確に分けて差別していた。細かい内容は思い出すのに時間がかかるが、リヒトは適当な記憶を掘り起こすと、黒人は決められたエリア以外に出られないとかなんとかがあったと、思い出す。
「いいね。プラント……今はクライン公国か、そこでは誰もアパルトヘイトなんて言葉知らなかったから、話しを理解してくれる人間は少なかったから、話しを理解してくれる人がいるのは嬉しいね」
そりゃ、プラントでは知ってる人間はいないだろうなぁとリヒトは思う。基本的に現代の人間、つまりコズミック・イラの人間は西暦の文化に関しては無関心だ。僕も父さんに教えてもらってなければ知らずに終わっていただろう。
「人種差別。まぁ、俺の時代も差別はあったのに歴史のそれに誰も関心を示さなかったのが、俺はおかしいと思って勉強をしたよ。けどまぁ、なんというか意味はなかったけど。ナチュラルとコーディネーターの差別問題なんて、たいしたことはない。
俺からすれば、白人と黒人という見た目でわかる場合の差別と、見た目じゃ分からないナチュラルとコーディネーター間の差別なんて比べるに値しない。
声を上げなければ良かったんだ。自分たちは優れた人類だなんて、コーディネーターの一部の馬鹿が言わなければ、世界は平和だった。
黙って世界に溶け込もうとして生きていけば、時間はかかるかもしれないが、コーディネーターだって、自然と世界に溶け込み生きていけば、コーディネーターだって“ナチュラル”だったはずだ」
ナチュラルの意味を違って使っていることがリヒトには分かった。コーディネーターが黙って生きていけば、ナチュラルとコーディネーター間での摩擦は起きず、世界は一つだったと言いたいのだろう。実際、見分ける方法はないのだから。
誰もが黙って、普通に生きていけばコーディネーターは増える。その内にコーディネーターの数が増えていけば、コーディネーターがいることが日常となり、いずれはコーディネーターがいることが自然の状態、つまりはナチュラルな状態となる。
ユウキ・クラインという人間の思いが、カーボンヒューマンを通して吐き出された瞬間だとリヒトは思ったが、特に何も感じなかった。

 
 

「つまらない話しだろう?まぁ、我慢して聞いてくれ、できれば憶えていてくれると嬉しいけど。ユウキ・クラインという後の暴君の若い時の言葉だしな。
ただまぁ、気に入らなかった。それが俺の全てだ。何を持って自分たちを優れていると言えるのか、俺はコーディネーターに問いたかった。おまえらの全ては、誰かによって与えられたものであり、自身の努力で勝ち取ったものではないのに何を誇るのかと」
「パパやママのお給料じゃない?」
リヒトは適当に答える。コーディネーターにするためには、それなりに金が必要だ。クライン公国、昔はプラントだが、そこでは無料らしいが。まぁ、最初期のコーディネーターは、そうなるためには金が必要だった。
「まぁ、そうだな。何にしろ、自分の意思など関係なく、ただ運よく与えられたもので自分は特別だと勘違いした馬鹿どもがコーディネーターだ。
そのせいかは知らないが、俺の時代には、コーディネーターの中では、必死に努力することが愚かなことだと思う奴もいた。
そして、ガキの頃、イジメられてた俺が、アホみたいに努力をして、いじめっ子を殴り倒せるまで鍛えたら、いじめっ子はなんて言ったと思う?卑怯だってよ。
笑える話だろう。頑張って相手の上にいくこと。いや、そもそも頑張ること自体が卑怯なんだとよ。それを理解した瞬間に俺はコーディネーターを諦めた。
頑張ることや努力をしないことを責めているわけじゃない。努力する心を折られた人間だっているしな。ただ、俺が許せなかったのは努力の価値を認めないことだ。努力したところで何でも出来るわけじゃない。
だけど、意味の無い努力はなく、努力という物には全て価値がある。そう考えるからこそ、俺は努力というものを認めない奴らを軽蔑する。そして軽蔑の末に俺はコーディネーターを諦めた」
リヒトは努力は必要だとは思うが基本的にはどうでもいい話だったので、欠伸をしながら適当に聞いていた。だが、思うところがあったので口にする。
「その割には、アンタはコーディネーターに優しかった支配をしていたけどな」
諦めていたというわりには、コーディネーターの出生率低下の問題解決や、遺伝子操作の失敗を無くするように完璧な遺伝子操作の技術開発に取り組んだ。全てユウキ・クラインが国の実権を握った後に行われ、成功したことだ。
「それが、俺も不思議だ。この身体の年ごろのユウキ・クラインはコーディネーターに対して諦めを抱いていて、その気持ちは確かに俺の中にある。多分、何年かして心変わりしたのか、それとも――」
そう言ったところで、ユウキ・クラインは言葉を切って、急に話しを変えるのだった。
「少し、俺が喋りすぎか。退屈だろう?」
「別に」
リヒトは言葉通り、別に何とも思っていなかった。殺す相手の最後のおしゃべりだ。付き合ってやっても別にどうとも思わなかった。言っている内容にもさして興味はない。好きなだけ喋れば良いとリヒトは思うのだった。
「それはありがたいな。俺は再生されてから、人とじっくり話すということをしてなかった。それも自分の心の内を語るなんてことはな。だから、今は少し楽しいよ」
ユウキ・カーボンは微笑みながら、言うと、展望台の手すりに寄りかかりながら、再び話し始める。
「リヒトに夢はあるか?」
唐突に尋ねられた言葉に対して、リヒトは率直に返す。
「無いな」
「まぁ、まだ二十代にもなってないんだから、仕方ない。自分がどういう人間かも分かってないだろうからな」
ユウキ・カーボンはそう言うと、リヒトの方へと顔を向け、リヒトの目を見ながら言う。
「俺にはあるよ。夢がね。はたから見れば本当に夢としか言えないものだけどね」
そう言った後で、ユウキ・カーボンは手を伸ばし、その手を握り締めながら言う。

 
 

「俺は、俺たちは楽園をつくる。それが俺を含めた全てのユウキ・クラインの総意であり、夢だ。俺たちは、全ての人間を貧困や病から救い、日々の糧に困ることの無い世界を作る。人類永遠の夢、ユートピア、理想郷。誰もが夢見ながら諦めたそれをつくり上げる」
リヒトは馬鹿なことを、と思いながら尋ねる。
「人類、みんな平等の世界か?そんなのは気持ち悪いだけだ」
「俺はそんなものを求めていないよ。そもそもこの世界に平等は存在しない。リヒト、キミが生まれながら何もせずとも美しいように、生まれた段階で格差がこの世にはある。それを取っ払うのは無理だし、正しくない。
俺が目指すのは、全ての人間が、その背景にあるものを無くし、己の力だけで未来を夢見て、その夢を掴みとれる世界だ。
貧困や病、差別といった壁を取り払い、努力することで、無限の地平を目指して人が走り、夢へとたどり着ける世界。それが俺たち、ユウキ・クラインの願いだ。
人類を次のステージへと進化させるのもそのためだった。だけど、その企みはキミの父親に阻まれた。だから、人類を次のステージへと進化させるのは諦めた。
だが、可能性は見えた。キミの父親の活躍のおかげで、人類はこのままでも充分だということが分かった。だから、楽園を造るという本来の目的に移ることにした。俺たちは全ての人間を救う」
アホか、としかリヒトは思えずに、思わずに口にする。
「楽園なんて存在しない。人間は愚かで怠惰だ。アンタの夢なんか一生叶わない。生きる苦しみから救われたとしても、その人間が夢を持って生きるわけが無い。
どうせ、何も考えず、誰かを傷つけて生きるだけだ。この世界の人間に未来を期待するアンタは間違ってる。アンタの夢に人は追いついていない」
リヒトの言葉に対して、ユウキ・カーボンは変わらず微笑みを浮かべながら、尋ねる。
「人類に絶望しているな。まるで人間は悪そのものだというような言い方だ」
「そうだ。人間の本性は悪だ。放っておけば欲望のままに生きて誰かを傷つける。アンタの言葉は人の性質が善であることを前提にしたものだ。だけど、人は善じゃない。善であるならば、人は自らの行いを振り返り、悪を行わない。
だが、俺が見てきた中で、人は常に悪を行ってきた。人の道に外れることを平気でやる奴らばかりだ。ほんのちょっとだけ、少しだけでも手を伸ばせば救える人すら救わず放っておくような奴らばかりだ」
リヒトは言い終えて、おかしいと思った、どうでもいいと心の中で思っているのに、口から出るのはそれとは全く異なる言葉だった。冷静じゃない。リヒトはそう思い、本来の無関心な自分に戻ろうとして、取り繕うように言う。
「まぁ、どうでもいいことだ。俺の言葉も意味がないことだ。なにせ、俺が悪党だからな。悪党が何を言ってもしょうがないだろ?」
ユウキ・カーボンはリヒトの言葉を聞いても微笑み絶やさず、穏やかな声で言う。
「必死だな。俺の言葉が気に障ったか?すまなかったな。だが、本音が聞けてうれしいよ。キミが人間に対して絶望していないことがわかってね。だから俺はキミのために言おう、人の本質は善であると」
リヒトは自分の中に芽生えた苛立ちを抑えながら言う。
「孟子と荀子を語るつもりはねぇぞ」
「孟子と荀子が分かるだけで充分だよ。俺の時代には、それを知らない人間しかいなかったからな。宗教の権威が失墜するような時代に、紀元前の人間の言葉など誰も知らなくても当然なのかもしれないけどな。とにかく話しが通じる相手と話すのは楽しいよ」
ユウキ・カーボンはそう言いながら、そらんじるように語る。

 
 

「孟子の言葉を流用するに、人の性質は善である。なぜなら、どんな人間であろうと、四端を持って生まれてくるからである。では四端とはなにか?」
ユウキ・カーボンはリヒトに言葉の続きをうながす。リヒトは面倒だと思いながらも答える。
「四端とは、惻隠(そくいん)、羞悪(しゅうお)、辞譲(じじょう)、是非(ぜひ)の四つを言い、惻隠とは他者を見ていたたまれなくなる心、羞悪とは不正や悪を憎む心、辞譲とは譲ってへりくだる心、是非とは正しいことと間違っていること判断する能力。
ただし、孟子の言葉を借りるなら、人は善であり四端を持って生まれてくるが、それを育てなければ、獣と同じだと言っている。だが、この世界で孟子の言う四端を育てることができるのは誰だ?誰も育てられない。人は悪の味を覚えすぎたからだ。
悪とは楽でもある。苦しみの少ない道だ。自分で作るよりも人から奪う方が容易い。人を無視して自分の利益だけを求めた方が得られるものが多きく、豊かさを得られる」
「だから、俺たちは、人が飢えず病まず、貧困に苦しむこともない世界を作るんだよ、リヒト。楽園を造り、人を人として育てる。個人の欲望よりも素晴らしい人間らしさ、愛と平和と自由が約束された世界を造る。
個人の欲望は否定しない。人間であるならば誰もが持つ感情だからだ。だが人を傷つけずに欲望を満たす手段を考えられるまでに人間を育て上げる」
リヒトはユウキ・カーボンの言葉を聞いている内に限界に達した。
「そんなことは無理だ。誰もそんなものは望まない。愛するより憎む方が楽だ。平和の退屈よりも争いの危険の方が楽しいし、得をする人間はいっぱいいる。自由よりも束縛されている方が良い、何も考えなくて済むし楽だからな!
誰も苦しい道は選ばない。楽な方が好きなんだよ、人間は!だから簡単に悪に染まる。善の道を進んで苦痛を味わうよりも、悪の道を行き、楽に利を得たいからな」
ユウキ・カーボンはリヒトの言葉に対して、少し困った表情を浮かべつつも、どこか満足した顔でいた。
「そんなに必死になるなよ。いつものように、どうでもいいことのように言えよ、リヒト。化けの皮が剥がれかかってるぞ。だけど、まぁ、そうやって必死に話すキミを見るのも悪くはない。なぜなら、キミの本質が善であると分かったからだ」
何をくだらないことをと思い、リヒトは反論する。
「俺が善だと?勝手な理屈で人を殺して回る俺が善だと?いや、俺こそ人間が悪である証明だ」
「そうやって悪を気取らなきゃ立っていられないだけだろう?血で全身をコーティングし、心すら誰かの血を浴びて隠さなきゃいけないほど、弱い。そもそも善悪について考えていなければ、今のように話すことはできない。心の底では、いつも自問しているんだろう?
今の自分が正しいのか?そんな風にすぐに不安になるから、悪を気取り、自分を誤魔化す」
「勝手な妄想を話すな。不愉快だ」
そう言われても、ユウキ・カーボンは続ける。
「自信に満ち溢れているように見せているが、実際は不安でしょうがない。本当は自分一人では何も決められない臆病者。俺は知っているよ、キミが決断する時にサイコロを使うこと。色々と理由づけはしてるだろうが、全て建て前で実際は自分で判断するのが怖いだけだ。
だから、サイコロに頼る。運とか偶然によるものだから仕方ないと自分で思いこむためだ。決定に関して責任を持ちたくないから。もっとも、今は俺の存在があるから、俺を倒すためとか理由をつけているようだけど――」
そこでユウキ・カーボンは言葉を止める。リヒトの銃が突きつけられたためだった。

 
 

「俺と一緒に来た方がいいぞ、リヒト。少なくとも、俺たちは世間一般で言う善行を行うために動いている。いくら悪を気取っても、善を捨てられないキミにとっては、俺たちの側の方が楽なはずだ。
もう無理をする必要は無い。善悪を無視して任務に従事するには、キミは感情的過ぎるし、感傷的だ。キミは若すぎるし、無関心を装うには情を知りすぎている。
どうでもいいと思い、そう行動してもキミの心の奥底は色々な感情が渦巻いているはずだ。たぶんキミの周りの人間の多くは、そう気づいているはずだ、だから――」
「黙れ、鬱陶しい!お前は俺の何だ!?家族でも仲間でもない奴が、俺を分析してゴチャゴチャ言うな!俺は俺の好きな人達が喜んでくれるから戦ってるんだ!
お前に言われたようなことは全て理解してんだ!それでもな、俺は誰かの役に立ちたいんだよ!俺を知らない奴のことなんか知ったことか、どうでもいい!
父さんやオジサン、俺の仲間たちのためにやれることは絶対にやる。おまえをぶち殺すのもその一つだ!」
ユウキ・カーボンは憐れむような表情を浮かべながら穏やかに言う。
「自分の小さな世界とそこに住む人々のためという、小さな志だけで戦うか。それでも良いが、いつか限界が来る。戦う理由を自分の内に求めなければ、キミの矮小な心はいつか潰れるぞ。おそらくキミの周りの人間も気づいているはずだ」
「もういい!口を開くな!お前を倒して、オリジナルの居場所を吐かせる。場合によっては殺す。それでもういい!」
リヒトは右手のカービンを突きつけたまま、ユウキ・カーボンから距離を取る。接近戦は圧倒的に不利と判断したためであった。リヒトがユウキ・カーボンから10mほど離れると、ユウキ・カーボンは言う。
「言っておくが、こちらも多少は本気だ。俺の仲間に入れるということに関してな。だから殺しはしないが、少し痛い目にあってもらう」
言い終えるとユウキ・カーボンは刀を抜き放ち、構える。対してリヒトも45口径カービンを構え、狙いをつける。前は負けた。だが、今回は完全装備だ。負けるわけがない。リヒトはそう思い、引き金を引くのだった。

 
 

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