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KtKs◆SEED―BIZARRE_第02話

Last-modified: 2008-06-18 (水) 20:08:16

 『PHASE 02・戦闘激流』







「思ったよりも反応が早いな」



 ブチャラティは苦い表情を浮かべた。

 今、ブチャラティ、ナランチャ、ダイアーの三人は、ステラのガイアに乗り込んでいる。ブチャラティが操縦席の後ろの壁にジッパーを貼り付け、そこに生まれた空間に入っているのだ。


「しかもかなりの腕だ」

 ブチャラティはガイアのコクピットから、前に立ちふさがるインパルスを見据えて言った。

「くうう〜〜ッ!!」

 ステラが唸る。彼女は今までにこのような強敵と戦った経験がない。彼女たちファントムペインには圧倒的に敗北が足りない。ゆえに、予想外の敵に対し、冷静さを失いやすい。


「あのザクたちもやるな……」

 インパルスが現れる前に、すでに戦っていた、二体のブレイズザクファントムの動きを見て呟く。白いザクがアビスを、通常より暗い緑のザクがカオスを相手にしていた。アウルは白いザクと互角に戦えているようだが、スティングは暗緑色のザクに押されている。




(総合的に見て、こちらが不利だ。これほどのパイロットが揃っていたとは……。この白いMSもステラを上回っている。動きに若干のためらいが見えるのは、この機体を取り戻したがっているからだろう)




 おかげでまだ制圧はされていないが、このままではまずい。

 そうしているうちに、人工の大地に衝撃が走った。ネオが港口を破壊したのだ。



〈ブチャラティ! 今の〉

「ああ、限界だ」







 ブチャラティはアウルに答える。だが、このままでは離脱もままならない。

「なあブチャラティ、もう一体来たぜ!!」

 ナランチャが叫んだ。確かに、赤いザクがこちらに迫っている。手には巨大なビームライフルを持ち、こちらに銃口を向けている。

「次から次へと……」

 ブチャラティは思わずため息をつく。当初の計画では、MSを奪ったらさっさと逃げる予定だった。追撃を防ぐために工廠を破壊する案も出たが、すべてを壊しきれるほど機体のエネルギーも続くとは思えないため、余計な手間をかけずに逃げることにしていた。


だが、実際は逃がしてすらもらえない。

「3対4か。ジンならともかく、新型ザクとなるとさすがにまずいな」

 ブチャラティは判断を下した。

「『スティッキー・フィンガーズ』!!」

 スタンドの拳がコクピットの側面を殴り、ジッパーで壁に外まで続く穴を開けた。



「『ダイアー』、外に出て、適当なMSに乗って援護してくれ」



 いつもはダイアーを『さん』づけで呼ぶブチャラティが呼び捨てにした。それはチームリーダーとしての命令ということ。命令を受けたダイアーと、側で聞いていたナランチャがさすがに豆鉄砲を食らった鳩のような顔になる。だが、ダイアーはすぐに不敵な表情を浮かべて頷き、




「任せておけ」



 そう言って、機外に躍り出た。



 シンは一瞬、目がおかしくなったかと思った。ガイアのコクピットから、大の大人がすり抜けて出てきたように見えたのだ。そのあとすぐにガイアが飛び掛ってきたので、確認の暇はなかったが、気のせいということで片付けた。


 だがシンの見たものは気のせいでも幻でもない。ダイアーはコクピットから10メートル以上も下の大地に向けて飛び降りていた。時々、ガイアに接触して、ブレーキをかけつつ、数秒で地面にたどりついた。もし少しでも遅かったらガイアに跳ね飛ばされていたかもしれない。


「さてと」

 ダイアーは、コクピットから見下ろした中で、一番傷のなさそうなMSに向かって走った。









「それは俺が乗るはずだった機体だ……返してもらうぞ」



 カオスの正式パイロットとなるはずだった男、虹村形兆は呟くと、ザクファントムを操り、ビームトマホークでカオスに切りかかる。



「こ、この野郎、速いうえに、なんて正確に動きやがる!!」



 スティングは悲鳴に近い声をあげた。

 形兆は『計算しつくされた』といえる動きで、カオスを追い詰めていった。スティングがどう攻めようとも、予測済みとばかりに防ぎきり、的確に最も隙のある部分を見抜いて攻撃してくる。いや、見抜いているのではなく、意図的に隙をつくりだしているのだ。


どこを攻撃されたら、どのように守るか、その守りによってどのような隙ができるか、それを完全に計算している。



「こ、この『几帳面バカ』がぁ!!」



 やや意味不明な罵声をとばすスティングだったが、このままではいつか守りきれない隙を生み、仕留められてしまうだろう。



 少しずつ相手の陣形を崩して、決定的な一手を打ち込む詰め将棋のように!!



「うおおおおぉぉぉッ!!」



 スティングは吠えて、ビームクロウを振るう。だが、



 ドッゴォォォォン!!



 そのビームクロウが粉々に吹き飛んだ。M1500オルトロス高エネルギー長射程ビーム砲による攻撃だ。見れば、新手の赤いザクがこちらに砲口を向けていた。

「ザ、ザフトがぁッ!!」

 スティングは叫んだが、これが決定的な隙であることは自覚していた。



「予告どおり殺す!!」



 形兆は、トマホークをカオスのコクピットめがけて振り下ろしそうとした。しかし、今度は彼が不意をくらうことになる。

 一体のザクウォーリアが、形兆のザクファントムにタックルをくらわしたのだ。

「何ィッ!?」

 形兆は吹っ飛んだものの、体勢を整えて倒れこむのは回避する。

「貴様も敵か!」

 四人目の敵を相手に、形兆は怒りの叫びをぶつけた。



「ザフト兵よ!! このダイアーがお前の相手だ!!」



 ザクを奪取したダイアーは、戦意を漲らせて、戦闘へと向かった。





〈スティング!! そちらはダイアーに任せて、ステラの援護を頼む!!〉

「……くそっ!!」



 悔しさに歯噛みしながらも、ブチャラティの命令を受け、スティングはその場を離れた。ブチャラティの任務はファントムペインの援護であるが、ネオから臨時の命令権を与えられており、スティングが逆らうことはできない。


もっとも、スティングは簡単に命令を聞くほど扱いやすいタイプではない。それを従わせるのは、ブチャラティ個人の力あってのことだ。

 スティングはガイアの援護に向かう。途中、クローを破壊した忌々しい赤ザクが立ちふさがったが、ビームサーベルでビーム砲を持つ腕を切り落としてやった。そのザクは離脱していったようだが構ってはいられない。


 ガイアに対し、完全に意識を向け切っているインパルスの背後に、サーベルをくらわそうとした。だが、また別のザクが現れ、突進してくる。



(さっき鬱陶しかった奴か!!)



 片腕を切り落としてやったのに、まだ向かってくるとは。サーベルで斬るのは間に合わないので、カオスの胸からビームを発射し、ザクを撃つ。ザクはシールドで防いだものの衝撃は殺しきれずかなりの距離を吹き飛ばされた。


やがて格納庫の壁に激突して止まった後、戦場を離脱していった。

 しかし、このザクのおかげでインパルスへの攻撃が遅れ、接近を気づかれてしまった。インパルスは振り向きながらレーザー対艦刀を振るい、カオスを襲う。カオスはスラスターを噴かして、後方に跳んで避ける。




「なるほど、いい反応するじゃねえの」



 スティングは呻いた。

(くそぉ!! さっきの几帳面バカといいコイツといい、それにブチャラティにダイアーに……強い奴がなんでこんなにいやがるんだ!!)







 その頃、アーモリーワンの外の宇宙空間でも戦闘が繰り広げられていた。



「出てこないな」



 そう言ったのはネオ・ロアノーク。『白仮面』の二つ名を持ち、組織の指揮官の中ではベスト3に入るとも言われている。

 その二つ名どおり、白い仮面を被り、目と鼻を隠している。かつての戦いで受けた傷を隠すためという話だが、彼の経歴を詳しく知る者はいない。



「失敗ですかね?」



 副官のリーの言葉に、ネオは考え込む。確かに時間には遅れている。この戦艦『ガーティ・ルー』の性能は高いが、相手は軍事工廠だ。

 時間がかかれば物量に攻め落とされる。今は港口を破壊し、兵器が外に出られないようにしているが、いずれ復旧するだろう。

 そうなる前に離脱せねばならない。



「しかし……『彼ら』が失敗するなど、そうそう考えられないがな……」



 ネオは、作戦実行者、六人の顔を思い出しながら言う。

 スティング、アウル、ステラの三人の実力はよく知っている。付き合いは二年に満たないが、どんな作戦も共にこなしてきた。

 彼らはファントムペインの中でも屈指の実力者だろう。

 そして、もう三人。彼らの力はもはやネオの考えが及ばない世界である。その所属はファントムペインではない。

 ネオがファントムペイン隊長の地位についたのと同時期につくられた特殊部隊。







 地球各地で起こる、軍隊と民間の軋轢の解決、軍の風紀維持、独立運動グループへの対抗……治安を乱すものに対して、民であれ軍であれ、区別なく警告し、調査し、交渉し、粛清する権利を持った特殊部隊。




 治安維持特別部隊『スリーピング・スレイヴ』



 それは、最初は余裕をもって迎えられた。軍の風紀を正すなどというのは、軍によって被害を受ける民間の不満を和らげるための方便だろうと思ったのだ。

 やがて、ブチャラティたちが、本気で軍の乱れを解決しようとしていることを知ると、余裕は嘲笑に変わった。

 二十歳になったばかりの若造の率いる部隊に何ができるものかと。

 半年も経たぬうちに、嘲笑は焦燥に変わった。スリーピング・スレイヴは予想外の実力と公平さで、問題を解決していったのだ。

 何人もの軍人を営倉や裁判所に送り出しながら。

 中にはMSまで使い、彼らを『不慮の事故死』させようとした部隊もあったらしいが、ことごとく失敗に終わっている。

 一方的に暴力をふるわず、交渉からはいるブチャラティたちの態度は、民間の運動グループに歓迎された。

 ブチャラティは運動グループに対して、及び腰でも、居丈高でもない、公正な態度で交渉を行い、多くの場合は血を流すことなくことを治めた。

 もちろん血を流すことがないわけではなかったが、そのとき流れる血は、相手側の血の方が圧倒的に多かった。

 そうするうちに、ブローノ・ブチャラティとスリーピング・スレイヴの勇名は強大なものになった。『民衆の味方』『軍規の調整者』として。



 それが今、ブチャラティはスリーピング・スレイヴから離れ、ファントムペインの下働きとして、MSの強奪などという汚れ仕事に手を貸している。

 その理由については詳しく知らない。

 大きくなりすぎたスリーピング・スレイヴの名声と実力を、軍上層部が恐れ、力の分断を図ったのだろうと、ネオは睨んでいる。

 理由はともかく、ネオにとって彼らが指揮下に入ったのは、歓迎すべきことだった。



 あの三人の子供たちが……前よりも生きていられるようになったのだから。







 ブチャラティは上層部とかけあい、ファントムペインの『ゆりかご』――失敗、挫折の記憶を取り去り、ストレスのない精神状態で戦えるようにする装置――を取り払った。




『挫折を克服できないような脆弱な精神など、生き残れるものではない!』



 ブチャラティはそう言い放った。

 そして、薬物投与すらやめさせた。ネオは、薬物投与をしなければ正常な状態を維持できないと言った。

 だが、ブチャラティの部下である男、ダイアーが、ステラたちの体に触れると、ダイアーの手から光が放たれ、ステラたちの肉体を癒してしまったのだ。

 ネオや部下の学者たちは仰天したが、ダイアーの能力については機密事項ゆえに、詳しくは話せないということだった(ただ〈波紋〉という名称らしい)。



 それからは教育のやり直しだった。嫌な記憶を消さない状態での訓練。敗北の記憶を引きずったままの訓練。

 当初、ステラたちは目に見えて力を落としていった。だが、今は力を持ち直し、全盛期の力に戻っている。これからもその力は上昇していくことだろう。

 ブチャラティの方針が正しかったということだ。



 ブチャラティもダイアーも、人に教えるのがうまく、優れた教師であった。ナランチャは、ステラたちにとって初めての友人となった。

 特にやんちゃなアウルとは気があったらしく、共にイタズラを繰り返している。



 そうして、以前よりも感情豊かになった三人を見て、ネオは胸に痛みを覚えた。

 それは、三人を変えたブチャラティたちへの嫉妬と……今まで三人に何もできないでいた自分への不甲斐無さだった。

 そのとき、ネオは気づいた。自分がステラたちをこれほどに大切に思っていたことを。



 MS奪取作戦の二週間前、ネオはブチャラティに礼を言った。ステラたちを人間にしてくれたことを。だが、ブチャラティはこう答えた。

 『俺は、本当に機械として扱われ、感情をなくしてしまったファントムペインを何人か見たことがある』

 ネオはピンと来た。それは、今までのスリーピング・スレイヴの戦いの中で、遭遇したのだろう。敵として。

 『だが、ステラたちは感情を失っていなかった。それは、周りに彼らを人として扱っていた者がいたからだ』

 ブチャラティはまっすぐな目でネオの目――仮面の奥の目を見つめ、言った。



 『あんたはいい人だ……あんた自身が思っているよりも』



 その言葉をネオは思い出しながら、席から立ち上がっていた。



「出撃して時間を稼ぐ。艦を頼むぞ」



 そう言うと、ネオは自らの機体に向かった。あの六人を帰ってこさせるために。







 数分後には、ネオは宇宙空間を飛んでいた。

 ネオ専用機、TS−MA4F〈エグザス〉。鋭い流線型のMA(モビルアーマー)である。ビームを放つユニット四基を飛ばして、四方から同時攻撃するビームガンバレル を搭載した、強力な機体だ。




 ネオは呟く。

 それは、どこかの詩か小説の一節だったか、どこぞの芸術家の文句だったか。



「『人は皆、運命の奴隷……運命は変えられず、運命のままに生き、苦難の道を歩みて……そして死ぬ』」



 ネオの放った攻撃が、一瞬で二体の敵MSを破壊する。



「『されどその苦難には……意味があるのかもしれない。どこかの誰かに希望として伝わっていくような……何か大いなる意味となる始まりなのかもしれない……』」



 今、自分の行いは何かの始まりとなるのか?



「『無事を祈ってはやれないが……彼らが〈眠れる奴隷〉であることを祈ろう……目覚めることで……』」



 彼らとは、俺のことも指すだろうか?



「『意味のあることを切り開いていく……〈眠れる奴隷〉であることを……』」



 ネオは切に祈った。自分が、あの哀しい運命を背負う三人の子供たちにとっての、あの尊敬できる男たちにとっての、〈眠れる奴隷〉であることを。そうであるのなら、苦難の道などいくらでも歩んでやろう。








 ダイアーが、『スリーピング・スレイヴ』に入隊したのは、ほんの一年前……ファントムペインの援護という任務を命じられる直前であった。



 それ以前の彼はユーラシアの、中くらい程度の規模の町に住む一般人であった。



 彼がどのようにしてその町を訪れたかは、ダイアー自身にもわからない。気がつけば町の外れに倒れていたのだ。

 ダイアーは、邪悪の化身のごとき男に戦いを挑み、戦いと呼べるような行いをすることすらできずに、瞬殺された。最後に一矢を報いるのが精一杯だった。

 あの後、どうなったかについて、ダイアーはあまり心配していなかった。

 あそこには、尊敬する師匠や、自分よりよほど優秀な弟弟子、そして親友が鍛え上げた勇気ある青年がいた。彼ら全員が敗れることなど考えられない。

 それより困惑したのは自分の現状についてだった。自分は確かに死んだはずなのに、なぜこうして生きているのか。

 死後の世界か、生まれ変わりという奴か、答えは出なかったが、時間が経ったことで一つわかったことがあった。



 自分には体があって、腹が減る、ということだ。



 ここがどこであれ、ものを食べずにはいられないということは理解できた。ダイアーは町中を歩き回って職を探した。

 途中、見たこともない建物や乗り物を目にしたが、不可思議なものは波紋や石仮面で慣れている。驚きはしたが、割とすぐに慣れることができた。

 何より人間はかつての世界と大した変わりはない。一月もしないうちに、ダイアーはこの世界に馴染んでいった。

 ダイアーは無事、町唯一の建設会社に雇ってもらうことができた。力仕事の得意なダイアーは大いに働き、たちまち仲間からの信用を得ることができた。

 会社、自慢の作業用に改造したMS(社長がジャンク屋の友人から安く買い取ったプロトジン)の扱いも覚え、そのうちにMSで曲芸をさせられるほどの腕になった。

 この世界に現れてから一年間、ダイアーは平和に穏やかに暮らしていた。

 だがある日、事態は一変した。町の近くにある、連合軍事基地の指揮官が交代したのだ。

 今までは、町と基地は一定の距離を置きつつ、平穏な関係を保ってきたのだが、指揮官交代と共に軍規は乱れ、軍人の犯罪が目に見えて多くなった。

 難癖をつけては暴行をなし、金も払わず商品を持っていく。人々の不満は日に日に高まっていった。

 そしてある日、七歳の少女が酔っ払った軍人により射殺されたことで、人々の軍隊への不満が爆発した。

 町中で軍人に対する攻撃が巻き起こり、軍はこれに対抗し、結果、町は紛争状態となった。その紛争の中にはダイアーもいた。

 殺された少女は、仕事仲間の一人娘であり、ダイアーにもよく懐いていた。

 ダイアーは素手で何人もの軍人を倒したが、多勢に無勢。彼一人が無敵であっても、他の人々は訓練を受けた軍人に取り押さえられていった。



 三日後、軍は孤軍奮闘を続けるダイアーの前に、捕らえた人々を人質として晒し、投降を呼びかけた。

 これまでかと、ダイアーが諦めようとしたとき、現れた男がいた。

 その男は、一枚の書類を軍の指揮官に渡した。それを見た指揮官は、顔を真っ赤にして男を怒鳴りつけた。

 だが、男の鋭い眼光を目にして黙り込むと、今度は高圧的ながらも言い訳を始めた。

 『これは、一方的に町人たちにのみ問題があることであり、自分たちは自衛のために攻撃を行っただけ』だと。



 だが、その男が調査を始めると、指揮官の不正が次々と明るみに出た。資金の横領、犯罪組織からのワイロ、そしてもちろん、町人たちへの不当な行為のすべてが。

 まるで『過去に指揮官が何をしたのか』をその目で見ているかのように、次々と証拠があがり、コンピュータのパスワードすらあっさりと解かれてしまった。



 指揮官は刑務所に送られ、軍人たちも不正を行ったものは罰を受け、町人たちは解放された。

 ダイアーが後にその男、ブチャラティに礼を言いにいくと、



『あなたはたった一人で軍と渡り合ったそうだが……その力、俺に貸してくれないか?』



 ブチャラティはそのように言った。



『俺は力を求めている……もうこんな、軍によって弱い者が苦しむようなことが起こらないように、こんなことをさせないだけの力が必要なんだ』



 その真摯な態度に、ダイアーは感銘を受けた。その態度に、正義を抱いて生きた、親友の姿を見た。親友の愛弟子の姿を見た。

 もう一度、もう一度戦おうという、想いが芽生えた。ダイアーは自らの能力をすべて明かし、ブチャラティの指揮下に入ることを誓った。

 ダイアーは会社の仲間に別れを告げ、盛大な送別会の後、ブチャラティの部隊に入った。

 軍における戦闘法、高度なMSの操縦法、武器や機械の使用法を一年かけて学びながら、大尉という地位についたのだった。



 カオス、ガイア、アビスがバーニアを噴かして飛んでいくのを確認する。それを追い、白いMSと白いザクも飛んでいった。



(とりあえず離脱する機会は作れたが……この目の前の相手をどうするかな?)



 ダイアーはビームトマホークを構える暗緑色のザクを注意深く見つめた。



 軍歴一年のダイアー。彼のMS操縦技術はかろうじて一流といえなくもない、という程度のレベルだ。

 精神的には脆いステラたち相手なら、ペースを崩し、本来の力を発揮させずに倒すことができる。

しかし、目の前の相手は間違いなく修羅場の経験がある、精神的にも強い、格上の相手だ。分が悪い。それでも戦わなければ生き残れない。



(ブチャラティ大佐も中々酷な命令をしてくれる)



 内心苦笑すれどもブチャラティを恨む気持ちは微塵もなく、ダイアーは思い切って攻撃に出た。

 まずはゆっくりとザクを動かす。生身で行う時のような、狙いを定めさせないような流水の動きではない。単に鈍い動きだ。だが、それが相手に疑心暗鬼を生む。



「……妙にのろいな」

 形兆は呟く。相手の動きは、いらつくほどに遅いものだった。

「何か狙っているのか……」

 彼はMMI−M633ビーム突撃銃で狙いをつけ、

「ならこうしたらどうする?」

 銃撃を行った。ただし、それは相手を撃ったのではない。



「ぬっ!!」



 相手のすぐ横にある、半壊した格納庫を撃ったものだった。そして、格納庫の中には大量の武器や、爆薬が収納されていた。 

 それをビームで撃てばどうなるか。答えは一つ。



 ズッグワァァァァァァァンッ!!



「うおお!!」



(まさか、自分たちのものを破壊するとは!!)



 いかに半壊していたとはいえ、思い切った行為である。



「あるいは……逃げ遅れた奴が生きて下敷きになっていたかもしれんが〜〜、それは逃げ損ねて足を引っ張る奴が悪いィィ〜〜」



 形兆が呟く前で、ダイアーの乗るザクは、爆風に襲われた。それに対し、ダイアーは反射的に回避を行う。

 だがそれは、ダイアーの意図しない行動であり、すなわち策や狙いを含まない動きであった。



「くらえい!!」





 形兆は無防備となったザクにトマホークで切りかかる。だがそこで、ダイアーは形兆の思惑を超えた動きをした。



 ブオン



 スラスターを噴かして飛び上がったダイアーのザクは、形兆のザクのトマホークを握る右手に左足を、左肩に右足を置き、踏みしめた。



「なにィ〜〜!!」



 それが拳や蹴りなら避けられた。

 それがビームなら防げた。

 だが、乗っかってくるなんて予想できようものか。



 ダイアーは更にビームトマホークを取り出すと、



「かかったなアホが!!」



 形兆のザクの頭めがけて振り下ろした。たとえ相手がどんな攻撃をしてこようと、ダイアーはこの攻撃を行うと決めていたのだ。

 不意打ち、奇襲を受けても、最終的に行うことにかわりはなかった。

 建設会社で働いていたとき、一発芸として鍛えた『稲妻MS空烈刃』。正攻法で勝てる相手ではない以上、邪道で攻めるしかない!! 

 邪道はうまくはまればどんな強敵にも勝てるが、見切られればそれまでである諸刃の剣。

 ダイアーの剣は見事、敵を切り裂くかに見えた。







 だが、ここで虹村形兆は、彼がザフトのエリートであることを示す行動をとった。



 普通ならッ!! バランスを崩し、倒れこまないように踏ん張るだろう。だが、虹村形兆は、



『逆に思いっ切り倒れ込んだ!!』



「ぬおっ!?」



 形兆は、仰向けに倒れこむと同時にスラスターを噴かし、スライディングの格好で滑り、ダイアー機の下敷きにならぬように移動した。

 これがMSではなく生身であれば、スライディングの推進力が足りず、ダイアーの機敏で精密な動きから逃れることはできなかっただろう。



 形兆は、安全な場所まで滑ると、素早く起き上がりダイアー機に対しビーム突撃銃を撃つ。だがその動きを予測していたダイアーは一瞬早く盾をかざしていた。



「ちっ、なんておかしな動きをしやがる」

 形兆が唸った。



「なんという判断力と操縦技術。あの局面でこうも見事に危機を脱するとは」

 ダイアーが感心したように言った。



 二体のザクが共にビームトマホークを構えた状態で向かい合う。



「こいつは危険な相手だ……ちと用心せねばなぁ〜〜」



「危険な相手と思ってくれていればいいが……これ以上の戦闘はきつい」



 ダイアーはこのまま死ぬことも覚悟したが、最初の奇抜な攻撃が功を奏し、形兆は用心して近づかずに動きを止めた。

 二体のザクは、こう着状態に入った。だがそのこう着もそう長くはなかった。数分後、形兆機の左腕から黒煙が吹き出た。

 もともと爆発の影響で弱っていた部分を、ダイアーのザクに踏みつけられたため、完全に故障したのだ。



「ちいっ!!」



 形兆はそれを認めると、すぐさま引いた。引き時を見誤るほど、彼は愚劣な男ではない。対するダイアーは形兆を追わなかった。

 窮鼠に噛まれてはたまらないし、宇宙に逃げる時間の方が貴重だったからだ。

 こうして、二人の男の戦いは、あっけない幕切れを迎えた。



 だが、ありきたりではあるが、確かな事実として……本当の戦いは始まったばかりであった。







「形兆機、敵に奪われたザクと対峙し、動きを止めました」

 赤い髪をツインテールにしたオペレーター、メイリン・ホークからの報告を聞き、ミネルバ艦長である女性、タリア・グラディスは思案にふける。

「あの形兆と互角の腕だというの……? シンやレイもてこずっているようだし……一体何者かしら……」

 シン、レイ、形兆、彼ら三人はいずれも指折りのパイロットだ。

 いかにこちらが手加減しているとはいえ、あの三人相手にここまでねばっている以上、敵も只者ではありえない。



「もしこのまま逃げられでもしたら……」

「バタバタ首が飛ぶわね、上層部の」

 アーサーの呟きに、グラディスが適当な調子で答える。アーサーは情けない面相でうなだれた。さきほどここに来たデュランダル議長もため息をつく。



「何、気にすんなよアーサー、お前の首は飛ばないって」

 そう言ってバンバンとアーサーの背中を叩く男がいた。ジャン・ピエール・ポルナレフ、デュランダル議長の護衛として、ここに来た一人だ。

 カラカラとした笑顔が似合う、よい人物ではあるのだが、『ようこそ来訪者』と歓迎はできないタリアだった。



 指揮系統に影響が出る可能性のあるデュランダル議長とは別に、この男はタリアの苦手とする存在だ。

 彼の開けっぴろげな雰囲気が苦手であるし、セクハラまがいのことも多々ある。人柄はいいので嫌いではないが、相性のいいタイプではない。



「しっかし、シンの奴大丈夫かねぇ」

 ポルナレフが呟くのが聞こえる。



「あいつは、昔の俺によく似てる……つまりあれだ……ドジ踏みやすいんだよな」



 妙に説得力を感じ、タリアは無性に不安になった。





 アスランは呆れていた。戦場を離れながら垣間見た、二体のMSの戦闘に。

「どういう連中なんだ……?」

 MSを強奪した連中や、それを相手にしていた者たちもかなりの腕前だったが、あんな曲芸紛いのことをMSで行うなど。

「技術よりも発想力の問題だなあれは……」

 アスランは何となくため息をつく。

「アスラン……」

 カガリがアスランに話しかけた。その頭には、赤黒く固まった血がへばりついている。

 さきほど、ザクでインパルスをかばった結果、相手から攻撃を受けた衝撃で頭に怪我をしていたのだ。

 大したことはないように見えるが、なにぶん頭の怪我だ。用心するに越したことはない。

(早く手当てを受けさせなければ)

 アスランはドックの方に足を向ける。あの人はこちらに向かったはずだ。



「デュランダル議長に会おう。このゴタゴタで身元を保証してくれるのはあの人だけだ」



 カガリが頷くのを確認し、アスランはザフトの新造艦『ミネルバ』へ向かった。







 カオスのビーム砲一斉射撃が、轟音を響かせ、コロニーに大穴を開ける。大穴からコロニー内の空気が急速に流れ出ていく。



「よし! 逃げるぞ!!」



 スティングの声が、シン、レイと戦うステラ、アウルのもとに届く。

『オッケーだぜステラ、ブチャラティ、ついでにナランチャ!!』

「俺はついでか!?」

 アウルの急かす声がガイアに伝わる。



「くうっ!!」

 白い新型MSがガイアにビーム砲を放つ。相手はさきほど装備を換装し、接近戦型から起動戦型になっていた。

(相手と戦場に相性のいいタイプに変身できるMSか……考えたものだな)

 ジャンケンで言えば、相手がグーだとすれば、パーになって戦えるということである。だが感心している場合ではない。



「ステラ、一瞬でもいいから隙をつくれ。そうすれば脱出できる」



 ブチャラティはそう命令した。だが、

「こいつはっ! こいつだけはっ!!」

 むきになったステラは戦いをやめようとしない。

「ステラっ!!」

 ブチャラティはさすがに焦る。こうなると、ステラに言うことを聞かせられるのはネオくらいだ。

 ガイアは苛烈に攻撃するが、正確さに欠けた攻撃はことごとく防がれる。そうしていると、焦りを帯びたアウルの声がコクピットに届いた。



『やめろこのバカっ!! 死ぬ気かよ!!』

「っ!! アウルっ!!」

『あっ、やべっ!!』



 ブチャラティは叱責し、アウルは口を押さえた。だが飛び出した言葉は戻らない。



「……死ぬ? 死、ぬ? 私……死ぬ?」



 ステラはすでにかかっていた。

 ガイアの動きが止まる。ステラが動きを止めたからだ。その好期を逃す相手ではない。白いMSがビームサーベルで切りかかる









「いやぁぁぁぁぁぁっ!!」



 ステラの絶叫がコクピット内に響いた。だが、叫んだだけではよけられない。

「『スティッキー・フィンガーズ』!!」

 ブチャラティのスタンドが操縦桿を操作し、攻撃をかわす。

 人間を超えた動きを可能とするスタンドは、機敏にガイアを動かし、白いMSの攻撃をかわす。白いMSは追撃を行おうとした。



 だがその時、一条のビームが白いMSを襲った。白いMSはスラスターを操って、ビームをかわし、ガイアと距離をとる。



「ダイアーのおっさんだ!」

 ナランチャが歓声をあげる。ビームを撃ったのは、ダイアーの乗ったザクだった。

『どうにか逃げ延びてきたぞ』

「よくやってくれた。先に外に出といてくれ」

 ダイアーはブチャラティの言葉に頷くと、穴へと向かっていった。



「危なかったぜ……」

 ナランチャが呟き、安堵の息を吐く。



『わ、悪い、ステラ、ブチャラティ……』

「俺にも謝れってーの」



 ブロックワード。ステラたち、エクステンデッドに刷り込まれた暗示。

 恐怖を引き起こして動きを止めるためのスイッチ。ステラの場合、『死』という言葉によって、精神をかき乱される。

 ダイアーの波紋、ブチャラティやネオの教育でも、心に刻み込まれたブロックワードを消すことはできなかった。

(いつか……彼女が『死』から解放されることはあるのだろうか)

 救われて欲しいと思う。だが、今のブチャラティには、そのことを考えている余裕はなかった。



「とにかく脱出の隙はできたわけだ」



 ブチャラティの言うとおり、二体の敵MSは動きを止め、様子を伺っている。距離からして、うまくすれば逃げ切れるだろう。すでにスティングとダイアーは外に出ている。


「アウル、援護してくれ。外に出る!!」

 少しは落ち着いたといえ、まだ操縦するまでには至らないステラに代わり、ブチャラティが操縦する。ビームを乱射して、簡単には追えないよう二機のMSを足止めしつつ、宇宙へと向かった。










「くっそォッ!! ここまできてッ!!」

 シンは、撃墜ではなく追跡阻止を目的としたビームの猛撃に遭い、むざむざと足止めさせられていた。このままでは逃げられてしまう。

「こんなんじゃ教官やマーレに、合わす顔がないじゃないかっ!!」

 シンは盾でビームを弾きつつ、半ば強引に敵を追って、宇宙空間に飛び出した。





「インパルスが宇宙に!!」

 アーサーが嘆きの声をあげる。

「ああ、やーっぱ頭に血が上ったな」

 ポルナレフはうんうんと頷く。

 そんな男どものやかましい反応と、のんきな反応に苛立ちながら、タリアはある決断を思いついていた。

「形兆機、ミネルバに到着しました」

 メイリンから、故障で退却を余儀なくされた形兆機が、ミネルバに入ったという報告がなされる。

 そしてレイのザクがシンを追って宇宙に出たのを見て、決断を実行に移した。

 状況はもはや手詰まり。ここで思い切った一手を打つしかない。



「これより、ミネルバを発進させます!!」






TO BE CONTINUED