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KtKs◆SEED―BIZARRE_第07話

Last-modified: 2007-12-02 (日) 18:27:18

 『PHASE 07:狭間の時間』



SIDE:アスラン



「それじゃあよろしく。しっかり頼むよ」

 ユウナ・ロマ・セイランがそう言った相手はアスラン・ザラ。

 一般的に言えば、恋敵と呼べる男である。

 もっとも、ユウナにしてみればカガリと結婚する意思はないし、落ち着いたら婚約破棄をしようとも考えていた。

 もともとセイラン家の力を強めるのが主目的の結婚だ。

 すべてが終わった後なら、もうセイラン家はアスハ家の力など必要のない存在となっているだろう。

 もっとも、すべてが終わった後、オーブという国が残っているかどうか怪しいものだが。



「ああ……」



 アスランの顔は暗い。カガリのことが心配なのだろう。

 カガリ・ユラ・アスハは、あの暗殺事件の後、昏睡状態になってしまった。

 一番の重傷であったのだから無理もない。命に別状はないらしいので、もう数日もすれば意識も回復する見込みだというが……。



「そんなことじゃ困るな。君はプラントへの使者なんだ。しっかりしてくれ」



 ユウナの言うとおり、アスランの任務はプラントとの、より細かく言えば、デュランダル評議長との交渉である。

 今の国家情勢では、連邦との同盟などすれば、国民が暴動を起こしかねない。

 である以上、まだ戦争が始まらないうちにプラントとの絆を強くしておかねばならない。

 そこでアスランが送られることとなったのだ。

 プラント出身であり、かつての大戦の英雄であり、アーモリーワンの一件でデュランダルとの関係を持った彼が。



「カガリが倒れて、フリーダムの詳細がわからない今、プラントとの繋がりは必須なんだからねぇ」



 カガリが切り札として突き出したフリーダム。しかし、カガリが意識不明の今、フリーダムがどこにあるのかもわからない。

 アスランもフリーダムがあることは、ついこの間まで知らなかったらしい。



(もともと思いつき程度で修理してあったんだろうなぁ)



 ユウナは思う。以前のカガリを考えるに、フリーダムを直したことに深い意味があったとは思えない。

 災害時にロウソクを準備しておくような、軽い考えで隠しておいたのだろう。

 そもそもフリーダムを扱えそうなパイロットなど、このアスランかキラ・ヤマトくらいだろうに、その片割れに知らせないのはどういうことだ。



(キラ・ヤマトなら知っているのかもしれないが……彼とは親しくないしな)



 どうアプローチをかけたものか。しかも彼の側にはあのラクス・クラインがいる。

 なぜだか知らないが、彼女は強烈なカリスマの持ち主で、多くの部下を隠し持っているらしい。下

 手に関わりを持てば、ただでさえ逼迫した状況が、更にややこしくかき混ぜられかねない。



(あの二人とは、あまり関わりたくないな)



 ユウナの政治家としての勘はそう判断した。あとフリーダムの行方を知っていそうなのはモルゲンレーテ社くらいだ。

 そちらの方にはすでに探りを入れている。そろそろ反応が出そうなものだが。

 だが今はどこにあるのかもわからないフリーダムより、プラントとの友好関係の方が大事である。



「わかっています。必ず、議長からは良い返事をいただいてきます」

「おいおい、そんな堅苦しい言い方しなくていいよ今更。死線をくぐった仲じゃあないか」

 その言葉にアスランは苦笑し、

「……変わったものだな、あんたも」

「君らに負けてはいられないからね」

 そう言って笑うユウナに、アスランは安堵する。

『君ら』という言葉から、彼がカガリをライバルとして見ており、恋慕の情はないと確信できたからだ。





(そうでなければ手強い恋敵になるところだった)



 実際、アスランの人生で最大の敵となっていたかもしれない。

 しかしそうでない以上、今のユウナはアスランにとって尊敬すら覚える好ましい男であり、強い覚悟によって父の呪縛を断ち切る後押しをしてくれた恩人でもあった。



 ユウナの命を振り絞った覚悟は、パトリック・ザラによる迷いなど吹き飛ばすほどの苛烈さであった。

 その覚悟を感じ取り、オーブを、大切なものを守るために動き、戦うという覚悟を決めたアスランに、過去の亡霊が立ち入る隙はない。 今のアスランは父の存在を受け入れていた。そして受け入れた上で、己の道を歩もうとしていた。




   ―――――――――――――――――――――



 そうしてアスランを見送ったユウナのもとに、ウェザーが現れた。

 カガリに次いで重傷だったというのに、今はすっかり元気なものである。



「モルゲンレーテからの使者とやらが来た。フリーダムの件だと思うが」

「了解。あ、ミネルバの方は?」

「まだ完璧ではないが、大方修理できたそうだ。艦長と交渉が続いているが、非常時には協力してくれるだろう」



 ウェザーの応えにユウナは頷き、歩を進めた。やるべきことは山とあるのだ。







SIDE:スリーピング・スレイヴ



 そこは薄汚れた廃屋。主を失った小さなビルの一室に、三人の男がいた。



「で? 俺たちこれからどうするんだよ」



 ナランチャは窓の側に立つブチャラティに尋ねた。



「俺たちが命じられたのはオーブへの潜入と潜伏、現状の調査だ」

「何をどう調べろとも言われていないのだろう?」

 ダイアーの言葉にブチャラティは頷く。



「大方、自由な時間をとれないように、適当に任務を与えているだけだろう。 スパイなんてもう何人も送り込まれている。今更俺たちが調査するまでもないはずだからな」


 ブチャラティは、上司であるジブリールの顔を思い浮かべながら言った。

 ガーティ・ルーは、ユニウスセブン落下の後に地球に降りた。

ネオたちの援護という任務を終えた彼らに、次に与えられた任務が、オーブの調査である。

 ユニウスセブン落下のドサクサに紛れて入り込み、この廃屋に潜んでいるが、これ以上有益なことができるとも思えない。

 いかんせん、準備不足だ。

「一応、調査は適当にやっておく。お前たち二人は町の見物でもして息抜きしていてくれ」



「マジすか!? さっすがブチャラティ! 話せるぜ!!」

「いいのか?」

 対照的な反応をする二人の部下に、

「構わない。どうせまたすぐに危険な任務がまわってくるんだ。今のうちに楽しんでおいてもらいたい」



 かくして、三人の不法入国者が町に放たれた。



SIDE:ブチャラティ





「ブチャラティ元気ぃ?」

「ようブチャラティ」

「昼飯かいブチャラティ?」



 町に出たブチャラティは、とある飯屋にいた。潜入してから数日、飯はいつもここでとっている。

 常連客とはすでに親しくなっていた。人とすぐに打ち解けられるのは、ブチャラティの才能の一つである。

 今日も店外席に座り、ピザを齧りながら客の話に耳を傾けていた。

 ほとんどが他愛もない話だが、時としてダイヤモンドより貴重な情報が飛び込んでくることもあるので馬鹿にできない。



「姫様はまだお目が覚めないそうだ」

「セイラン家がますます好き勝手しやがる……」

「連邦の奴らと組むなんて言い出してみろ。殴りこんでやる」



 どうも彼らは軒並みセイラン家の人間が嫌いらしい。

 この2年足らずでオーブを復興させたのはセイラン家であるはずだが、彼らに言わせると、『ウズミ様が死んだとき、真っ先に逃げ出した臆病者』、『繁栄のために大西洋連邦に尻尾を振っている犬』であるそうだ。


 ブチャラティからしてみれば、不当に過ぎる評価であると思えるのだが、凝り固まった価値観を変えることは容易なものではない。あえてその辺りは曖昧に頷くにとどめておいた。




(これは、オーブが連邦と組むことはなさそうだな……)



 町の噂話にしても、流れるニュースにしても、反連邦に染まっている。たとえ政府が連邦と組んでも、軍や民衆はその判断に応じることはないだろう。



(戦場になる前にとっとと出て行った方がいいだろう……)



 滞在期間は決められているが、場合によってはより早く出るべきだろう。連邦やプラントの情勢を考えると、今日明日に戦争が始まったとしてもおかしくはない。

 いや、オーブの元首が重傷を負ったという事件で他国が動揺して足並みが乱れなければ、もっと早くに戦争を始めていただろう。

 そして、この国が戦場になることもまた、おかしくないのである。



(命令違反を咎められても、無駄な戦闘に巻き込まれるよりましだ)



 ブチャラティが今後の大まかな予定を考えていると、



「ああ!!」



 大きな声が彼に向けて放たれた。ブチャラティが振り向くとそこには、赤毛の少女が立っていた。彼はその少女に見覚えがあった。



「君は、確かアーモリー・ワンで……」

「あ! 憶えていてくれたんですか!」



 ブチャラティは名前も知らなかったが、その少女、ルナマリア・ホークは嬉しそうに微笑んだ。



   ―――――――――――――――――――――



 ルナマリアはご機嫌であった。ミネルバの上陸許可が出てから、この辺りの主要な観光スポットは回り終え、適当に街をブラブラしていたら、あの日助けてくれたヒーローのごとき男性と再会できたのだから。




「まさかこんなところで会うなんて! あれ、でも本当になんでオーブに?」

「……ビジネスさ。機密事項があるんで、あまり詳しくは話せないが」



 まったく説明になってはいなかったが、ブチャラティがまったくうろたえず、冷静に堂々と答えたためか、ルナマリアはそれで納得したようだった。

 実のところ、そこの辺りはさほど気にしていなかったというのもあるが。



「おいブチャラティ! その娘は彼女かい!?」

「可愛いじゃないか! 羨ましい!!」

「そ、そんな、彼女がいたなんて……」



 周囲が囃し立てる。女性の中にはショックを隠せない者もいた。そんな彼らに、ブチャラティはやや顔をしかめた。



「そんなんじゃない……ちょっと縁があっただけで、名前だって知らない」

「あ、私、ルナマリア・ホークといいます!! あなたは?」

 女性特有の押しの強さに、流石のブチャラティもたじろぎ、

「ブローノ・ブチャラティだ……」

 と答えた。



「そうですか、あのとき探していた人たちは見つかったんですね。アーモリー・ワン、あんなになってしまいましたけど、怪我はなかったですか?」

 ブチャラティとルナマリアは同じ席に座って話していた。ブチャラティには、彼女と話す必要性はなかったのだが、ルナマリアの強い希望と、

周囲の「照れるな照れるな」「俺たちのことはいいから彼女を大事にしなくちゃ」「後は若いもんに任せて」といった勘違いしたうながしによってこういう形になってしまった。




「いや、被害の中心にはいなかったし、すぐに非難できたから何も問題はなかった」

「よかったぁ。私もいろいろあったけど、怪我もなくこうして元気でいます。お互い運が強いですね」

 ルナマリアは笑顔で言う。しかし、

「元気?」

 突如、ブチャラティの視線が射抜くような鋭さを帯びた。そして、すっと右腕を伸ばし、ルナマリアの左頬にかかる髪を、軽く掬い上げる。





「え、ええ!?」



 突然の行為に、ルナマリアは目を白黒させる。だがブチャラティはかまわず、髪に隠れていた肌を見て、

「これは嘘をついている……汗と肌だ」

 静かな口調でそう言った。

「な、なんですかいきなり?」

「君は嘘をついている……君は元気だと言ったが……本当にそうか?」

 深く……差し込むような視線がルナマリアに浴びせられる。

「な、何言ってるんですか……私は、全然なんとも……」

言いつくろおうとしたが、彼の目を見ているうちに、ルナマリアは腹の底から込みあがってくるものを感じた。



「うっ、ぐぅっ、ふ、うええぇぇぇぇぇえんん」



 気がついたときには、ルナマリアはただ涙を零し、嗚咽を漏らし、子供のように泣きじゃくっていた。

 無意識のうちに、髪を掬い上げた彼の手を握り締め、その温もりにすがるように、泣きじゃくっていた。

 それは、誰もが気づかなかった彼女の弱さ。

 彼女自身、気づいていなかった苦しみ。

 同胞を失った悲しみ。

 戦いと死の恐怖。

 仇も討てない自分の不甲斐無さ。

 いくら軍人として教育を受けたとはいえ、実戦経験などない少女が、覚悟する間も与えられずにいきなり殺戮の場に投げ出されたのだ。

 彼女にはシンほどの闘志もなく、レイほどの冷徹さもない。戦う内は無我夢中で気がつかなくても、精神は着実に痛めつけられ、音のない悲鳴をあげる。

 それがこの、誰よりも人の悲しさを知る優しさを持った男によって見抜かれ、ここにさらけ出されたのだった。



 ブチャラティは、彼女が何を仕事とする人間なのかは知らない。そもそも仕事についているのかどうかも知らない。

 少なくとも、軍人であるとはまったく思っていなかった。未熟な彼女からは、軍人特有の殺伐とした気配を感じられなかったから。

 ただ、彼女があの混乱の中で苦しんだということはよくわかった。

 その混乱を生んだものである自分が彼女を助けようとするなど、馬鹿馬鹿しいまでの偽善だとわかっているが、それでも見過ごすことができないのが、ブチャラティという人間であった。






「少しは楽になったかい?」

 ルナマリアが泣き疲れて涙を止めた頃合に、ブチャラティは訊いた。

「ぐすっ、ふすっ、ふぁい……」

 やや鼻の詰まった声で彼女は答える。

「す、すいません……こんな、急に泣き出したりなんかしてしまって……」

 次第に感情が落ち着いてきたらしく、恥ずかしそうに顔をうつむかせた。

「いや……気にしないでいい。俺は君とは他人も同然だし、名前だって今知ったばかりだ。君のことなど何も知らないし、何をしてやることもできない。それでも手を握るくらいはできるから、そうしたまでのことだ」


 迷惑を感じるどころか、助けになれないことを歯がゆくさえ思っている彼の態度に、ルナマリアは感動を覚えたが、同時に自分が彼の右手を両手で握り締めていることに気づき、泣いた後という以外の理由で、顔を真っ赤にした。


「し、ししし、失礼しました!! わ、私はこの辺で、そ、その、ありがとうございました!!」

 羞恥のあまりにパニック状態に陥ったルナマリアはいきなり立ち上がると、逃げるようにその場を去っていった。

 ブチャラティはやや呆然と少女の後姿を見送った後、苦笑を浮かべた。



「まあ、少しは元気になれたかな」



   ―――――――――――――――――――――



「はあっ、はあっ、はあっ」



 ルナマリアは荒い息をつき、足を止めた。

「うう〜〜、恥ずかしい、恥ずかしいよう」

 思い出すと顔から火が出そうだ。まさか人前であんなに泣くことになろうとは。しかも少し憧れを抱いていた男性の前で。

「ああ〜〜、飛びてェ〜〜ッ!!」

 顔を抑えながら呟く彼女であったが、その胸の内にはもう一つ別の想いが宿っていた。

 彼はなぜ、手を握ってくれたのだろう? 今日名前を知ったばかりの小娘なんかのために。



(彼はマジになって私を心配してくれた。彼には何の得もないのに……彼の手の感触を思い出すと、勇気がわいてくる)



 ルナマリアは一つの確信を抱いていた。この想いがある限り、これからの戦いを乗り越えることができると。







SIDE:ユウナ



 ユウナ・ロマ・セイランが対面したモルゲンレーテの使者は、快活な笑みの似合いそうな生命力に溢れた男性であった。

 粗野な雰囲気ではあるが、教養がないわけではないだろう。その目に宿る深みからは、見た目以上の経験を感じさせる。

(油断ならないな……)

 ユウナはそう判断した。隣のウェザーも、似たような判断をしたらしく、物腰に適度な緊張が感じられる。

「じゃあ話を聞こうか。えーと、確か前にも会わなかったかい? 僕と話したことはないが、カガリやアレックスを訪ねていた……なんという名前だったかな」

「ああ、よく憶えていますな」

 男は手にした帽子を胸に当てて一礼した。



「スピードワゴン…ロバート・E・O・スピードワゴンと申します。以後、お見知りおきを……」



   ―――――――――――――――――――――



「スピードワゴンね……憶えておくよ。それで、モルゲンレーテはなんて言ってきたんだい?」

 場を支配するため、わざと偉そうに訊いたユウナに、スピードワゴンは答えた。

「モルゲンレーテはフリーダムのことは『知らない』、とのことです」

「……へえ、そりゃ面白い返答だね」

 ユウナの目が鋭くなり、ウェザーも協力するように殺気を放出する。

「フリーダムを『知らない』? 猫の手ほどの戦力も借りたいこの状況でそう言うのかい?」

 知らないはずはない。カガリがフリーダムを回収、修理、保管するにはモルゲンレーテの力なくしてできるはずはないのだ。

「私を脅しても仕方ありませんよ。私はただの使者にすぎません」

 スピードワゴンのふてぶてしい態度が気に障る。

「ああわかってる。で、他に言うことは? なけりゃ強制捜査に踏み切るけど?」

「まあ慌てずに……モルゲンレーテにはフリーダムを知らないとしか言えない理由があるんです。その一つは、セイラン家を信用できないということらしいですな」

「……それ、そんなにはっきり言ってきたのかモルゲンレーテは」

「いいえ、もっと綺麗に包装してありましたけどね、わかりやすい方がよろしいでしょう?」

 ユウナはため息をついた。この男、思っていたより遥かに面の皮が厚いようだ。

「……まあいい。それから?」

「国家元首が昏睡状態であちらさんも焦ってるわけですな。何せモノがモノです。核の軍事利用を禁止するユニウス条約を破った、核エンジン及びニュートロンジャマーキャンセラー搭載機。元首の庇護下になけりゃ、犯罪者として処罰されるわけで」


「なるほど。けどさっき、一つはって言ったね? 他にあるのかい?」

「もう一つは、フリーダムはモルゲンレーテだけのものではない……遠まわしに言えば、さる桃色髪のお方が関わっているそうで」

「あ〜〜」

 ユウナはなんだか凄く納得してしまった。

「私もその辺よく知らないのですが、もともとあの方が持ってきたもんということで、所有権はあの方にあるとかで……モルゲンレーテの独断では決められないのだとか」


 確かフリーダムはザフトからあのピンクが盗んでキラ・ヤマトに渡したものだったと聞く。

 とすれば、本当の所有権はザフトにあるはずでは……とユウナは考えたが、今は話を続けてもらうことにした。

「だが、だからって知らぬ存ぜぬを通せると思っているわけではないよね?」

 ここまではっきりと言うからには、何かあるに違いない。

「それはもちろん。で、私に一任されたわけですよ。あなたが信頼できる人間かどうか、見極めるという役目をね」



「……なんだって?」

 ユウナはきょとんとしてスピードワゴンをまじまじと見つめた。

「もし私が、あなたを信頼できない人物と見たら、モルゲンレーテはフリーダムについて関知していないと、合理的な説明をし、納得していただく予定でした。あるいは、こちらがつかんでいるセイラン家のスキャンダルを見せ、脅すつもりでした」


 ユウナは内心ギクリとする。セイラン家は確かに真っ当な政治を行ってはいない。

 2年にしてオーブを復興させるために使ったやり口は、決して奇麗事ではないのだ。賄賂から脅迫まで、あらゆる手を使った。

 それを公表されたら、セイラン家は非常にヤバイ。

 緊張するユウナに、しかしスピードワゴンは暖かな声で言った。

「しかしながら、こうして見るに、貴方は信頼できそうな御仁だ。以前見かけた時とは大違いですな」

「な……!!」

 面と向かって言われ、ユウナの顔が赤くなる。隣でウェザーが無言で頷いていた。

「う、な、いや……そ、そうかい、信頼するのは勝手だけどね」

 少しばかり無意味な声を出した後、気を落ち着かせてぶっきらぼうに言う。しかし顔はまだ赤かった。

「私は、悪い人間ばかりの環境で生活していましたからね、悪党ってのは匂いでわかるんですよ」

 スピードワゴンは、ユウナの悪ぶった態度も平然と受け流す。

「匂い、だって?」

「ええ、こいつには少々自信がありまして」

 スピードワゴンが『向こうの世界』で成功できた鍵は、信頼できる者とできない者を嗅ぎ分ける力であった。



 だが、一度だけ、それも致命的な失敗があった。かつての戦友の裏切りを嗅ぎ取れなかったあの失敗。

 あの時、あの男は、確かに清廉潔白な友であったはずなのだ。それが遺跡の中に辿り着いた時には、己の欲望のために無関係の人間までも殺す悪鬼に変貌してしまった。


 あの日から彼は戒めている。人が、善から悪に転じる速さは、光の速さをも上回るということを。

 ……今回はなんとなく大丈夫な気がしているが。



「まあいいさ。それで信頼したらどうするんだい?」

 スピードワゴンの暗い過去も知らず、ユウナは急かした。

「ある場所に、貴方を案内します」

「ある場所?」

 スピードワゴンはポケットから折り畳まれた地図を出し、バサバサと広げて、

「ここです」

 と、一点を指差した。そこには、『アカツキ島』と書かれていた。



   ―――――――――――――――――――――



 スピードワゴンの案内を受け、ユウナとウェザーはアカツキ島の地下深くに来ていた。こんな場所があるとは知らなかったが、今更驚く気にもならない。

「やたら深く潜るねぇ」

「それだけ機密事項ということです」

 ユウナたちにはわからなかったが、ここまで潜る途中にも地下施設があり、そこにはあの『アークエンジェル』もあったりした。

 今回用意された通路は、そういった別の地下施設とはぶつからず、一直線に目的の場所に行く通路であった。

「……着きました。ここです」

 スピードワゴンが指差した先にはパネルがあり、そこには、

『この扉、開かれる日の来ぬことを、切に願う』

 そう刻まれていた。

「……なんだいこれ?」

「ま、ちょいと待ってください」

 スピードワゴンが何やら操作すると、壁が、いや、壁のように見えた扉が、音をたてて開いていく。

「モルゲンレーテも桃色の方ともめたくないので、フリーダムは渡せない……代わりにこいつを、とのことで」

「この中に、何があるって言うんだ?」

 ユウナの問いに、スピードワゴンはなぜか微妙に引きつった顔をした。疑問に思いつつも、ユウナとウェザーはその部屋に足を踏み入れる。

 そして部屋の電源が入れられた。

「うわっ」

 ユウナが部屋中を照らす光の眩しさに声をあげる。

「……なんだこれは」

 ウェザーの方はまぶしさに目を細めながらも、そこにある物を確認したらしかった。ユウナが目を開けると、そこには、

「なぁ……!?」

 黄金に光り輝く、MSが立っていた。

「これ……ガンダム?」

 ユウナの呟きのとおり、二つの目に、角のようなアンテナはガンダムに酷似している。

「アカツキ、という名前だそうです。前回の戦争では未完成だったのを、モルゲンレーテが完成させたものだそうで」

 二人が困惑していると、どこからか『声』が聞こえてきた。

『カガリよ……』

 ユウナはその声に聞き覚えがあった。

『もしお前が力を欲する日、来たれば、その希求に応えて、私はこれを贈ろう』

「この声、ウズミおじさん!?」

 驚くユウナの耳に、『声』はただただ流れ続ける。



『教えられなかったことは多くある』

「わ、わかってたんなら、もう少し政治家としての教育をさせといてくれれば……」



『私はただ一つ、これのみを贈る』

「こんなの作る金があったら、オーブ復興に必要なものいろいろ残せただろ?」



『護るための剣、いま必要ならば、これを取れ!』

「ていうか、あんた兵器開発はしてないんじゃなかったのかよ!」



『どうか、幸せに生きよ。カガリ……』

 それで『声』は終了した。

「……ウズミおじさん」

 ユウナの呟きは、父からの娘への愛に対する感動などは一切なかった。ただ、『聞くんじゃなかった……』という脱力感があった。

「なあユウナ……」

「……なんだいウェザー」

 あまり聞きたくなかったが、ユウナはウェザーの言葉をうながした。

「この前、俺はアスハ首長に、『ウズミ・ナラ・アスハが良い人間であったこと、否定はしない』と言ったが……」

「うん……」

「ウズミ・ナラ・アスハは悪くはないにしても……馬鹿だったのではないか……?」

「……そうかも」

 好きではなかったが、それなりに尊敬していた人物であった。しかしこれはちょっとひどいのではないか。

 大体、兵器なんて技術が進歩すればすぐに時代遅れになる。それなのにこんなもの残してどうしろというのか。

 これが十年後であったら間違いなく無用の長物になっていたはずだ。

 ウズミの死後も開発をやめなかった奴らはそれに気づいていたのか、いなかったのか、どっちにしても馬鹿馬鹿しい。

「あー、まあ、お気持ちはお察しします」

 スピードワゴンが困った顔で頬を掻いている。

「慰めないでくれ……なんかもー無かったことにしたいくらいなんだ」

「そうは言いますが、これも戦力にはなりますよ? ミラーコーティング装甲はビームを反射する優れものですし、運動性能も現在の最新鋭機体にも劣らぬほど優れてます」


 ユウナはうなだれながらも、このMSの運用方法を考えていた。認めたくはないが、これを使えば単純な軍や民衆は

「この事態に備えていたなんてさすがウズミ様! セイラン家なんぞにはできないことを平然とやってのける! そこにシビれる、あこがれるゥ!!」

 と喜び、士気を上げるだろう。

 戦力としてもフリーダムに並ぶ、いや、ユニウス条約違反とかの負い目がない分、フリーダムよりいいかもしれない。だが、

「使いたくないなぁ……」

「うーむ……」

「いや、ホント気持ちはわかりますがねぇ……」

 三人は、無駄なまでに光り輝くMSを眺めながら、同時に深いため息をついた。








TO BE CONTINUED