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KtKs◆SEED―BIZARRE_第07話2

Last-modified: 2007-12-02 (日) 18:27:57

SIDE:レイ



 他のミネルバ・クルーが上陸許可を得て、思い思いに楽しんでいるとき、レイ・ザ・バレルは一人黙々と射撃練習をしていた。

 実際、射撃場にはもう一人いるのだが、会話も何もないので一人と同じである。

 そのもう一人の名は虹村形兆。この艦において誰よりも孤高を貫く男。そして、ギルバート・デュランダルの真意を知る人間。



 レイは思い起こす。彼がこの世界に現れた、いや、『復活』した日のことを。



 形兆はレイとデュランダルが二人だけで部屋にいたとき、突如天井近くの空間から現れた。

 空間がぐにゃりと飴細工のように曲がったかと思うと、歪みは次第に何かの形となっていき、やがて色と輪郭が生まれ、人間の姿となって床に落ちて来た。

 受身をとることもできず、床に激突して痛みにうめきながらも立ち上がった男こそ、虹村形兆であった。



 さすがに驚愕しながらも、デュランダルはそれを表に出さずに押し殺し、形兆に声をかけた。レイはいつでも形兆を銃で撃てるように身構えていた。



「君は……何者かな?」

「何者……といわれても困るが、俺の名は虹村形兆だ」



 話が通じることがわかると、デュランダルは彼から話を聞いた。

 後から考えれば拘束するなりした方がよかったのかもしれないが、現れ方からして普通ではなかったため、その辺りの判断をつけられなかった。



 デュランダルと形兆は情報の交換をしあった後、双方難しい顔で黙り込んだ。

「スタンド能力? 吸血鬼DIO? 一度死んだ?」

「コズミック・イラ? プラント? コーディネイター?」

 とても信じられない……双方にそんな思いが滲み出ていた。



「よかったら……君の言うスタンド能力とやらを、わかる形で示してくれないか?」

 デュランダルは普通の人間には見えないというスタンドの力を表してくれるよう頼んだ。 形兆は頷くと、部屋の隅の花瓶を指差し、

「あれ壊していいか?」

「あ、ああ、それほど高価なものではないが」

「撃てぇぇ!!」



 バリィィィンッ



 花瓶に無数の穴が開き、その衝撃で粉々に砕け、床に散らばる。

「………!!」

 レイもデュランダルも言葉が出なかった。理性では何かのトリックという疑いは捨てきれないが、心情では、すでに形兆の存在を認めていた。

 この男が真実のみを口にしているのだということを。



「さて、今度はあんたが証拠を示す番だなぁぁ」

 デュランダルは形兆の要求に応じた。応じるのは容易かった。MSやコロニーを見せてやるだけでよかった。

 形兆もさきほどのレイたちと同じく、疑いを残しながらも、半ば以上信じるという思いになったようだった。



 存在を認めた以上、デュランダルは彼の能力を自らの計画に取り込むことを考えた。形兆の能力は有益であり、敵に回せば脅威となりうる。

 目に見えず、検査にも引っかからない。証拠も残らない。暗殺にこれほど適した能力もない。

 デュランダルはデスティニー・プラン…人類社会を遺伝子に基づき、管理する計画のことは隠したまま、戸籍や生活の面倒を見る代わりにザフトに入り、力となってほしいと交渉した。

 それに対する形兆の答えはこうだった。

「……俺は失敗者であり、敗北者だ。人生を奉げた目的を、ついに果たせないままに死んだ。目的がもはや達成できない以上、俺の人生は始まることはない。俺の生は既に終わっている……


だが、生きることをやめることもできない。安易な死など、許されるべきじゃぁない。残してきたもののことを思えば……俺だけ楽になることはできない。生き場が得られるのなら、この取引に応じよう」


 その時の顔を見て、レイとデュランダルは、なぜこうも形兆の奇想天外な言い分を信じられたのかわかった気がした。

 彼はどこか似ているのだ。かつて地球を滅ぼそうとした彼らの友に。自分の人生を持ち得ないその絶望が。



 こうして形兆はザフトに入った。

 デュランダルは形兆に軍人としての能力は期待していなかったが、彼は見る見るうちにコーディネイターにも勝る成長を遂げていった。

 しかしそれは形兆に力を高めること以外にやることがなかったためだ。他の兵士が休みを取り、遊ぶ間にも、形兆は訓練をした。訓練しかしなかった。

「生きる理由もないが、無能な奴に殺されたくもないんでな」

 生に絶望しながらも、死ぬことを拒絶する。そんな強さを、あるいは歪みを抱えながら、彼は確実に力をつけていった。

 デスティニー・プランの真実を告げたときも、形兆は平然としていた。

「くだらん計画だとは思うが、別に反対はしない。その計画が受け入れられるかどうかは結局民衆の意思にかかっているのだしな。民衆が自ら自由意志を放棄するならそれは仕方ない。


 反発するならそれもいい。その意思を貫き通せず、敗れるとしても、それはそいつらが弱かったというだけの話だ」

 彼は常に冷然とし、善悪より強弱を重要視し、他人にほとんど関心を持たず、それはレイやデュランダルに対しても同じだった。

 レイがクローンであることも、デュランダルが計画を立てた理由も知ろうとしなかった。

 自分には人生を彩る何者もあってはならないというように。



 レイはかつて訊いた。死んだ後、人はどうなるのかと。長く生きられない彼にとって、これは無視しえない問題であった。

「よく憶えてはいないな。生き返ったばかりの時は憶えていたと思うが、夢から覚めた後のように忘れてしまった。ただ億泰と会って、あいつにどこへ行くのか訊いて……」


 億泰というのが誰かは知らなかったが、そのときの彼の表情は、レイが初めて見るものであった。懐かしさと、寂しさと、愛しさと、誇らしさの篭った、微笑みであった。 だがすぐに恥じるように微笑みを消すと、いつもの仏頂面になり、


「話は終わりだ。一つ言えることは、死後の世界なんて期待するなということだ。こちらの世界にも霊魂が実在するという保証はない」

 彼はその頃、レイがクローンだとは知らずとも、長くは生きられない体だとは知っていたようだ。それでも遠慮容赦をしないところが彼らしい。



 レイは形兆を信頼しているわけではない。好きなように利用することのできない危険要素とも考えている。デュランダルの邪魔となる時は、撃つ覚悟を決めている。

 だが、できればそうしたくはなかった。信頼していないといえ、嫌っているわけでもなかったから。

 レイにとってもう一人の自分であり、兄のような、父のような存在。生きる事に絶望を抱いた彼、ラウ・ル・クルーゼを思わせるこの男のことを。
そのくせにレイともラウともまったく逆の存在であるかのように、強く誇り高く生きる彼のことを。





 そして彼ら二人は、今日も一度として話すことなく、訓練で一日を終えるのだった。



SIDE:アーサー



 オーブのとあるバーに、二人の男が並んで座っていた。

 一人は逞しい大柄の男性で、もう一人はどことなく頼りなげな男性であった。

 大柄の男の名はダイアー、もう一人の男の名はアーサーといった。

「うう……僕だって、僕だって一生懸命やってるんだ……艦長ひどいや……」

 アーサーは真っ赤な顔で涙を滝のように流していた。飲む前は悩みなんか無さそうな、お気楽な男なのに、カクテルをコップ一杯飲んだだけでこの有様である。

 ここ三日、同じことを繰り返している。

「そう酒ばかり飲んでは体に障るぞ。これでも胃に入れろ。静脈注射してもいいようなとびきりのスープだ」

 ダイアーは呆れ交じりに忠告し、スープを奢ってやる。宇宙船乗りにとっては縁起の悪すぎる料理であるが、アーサーは泣きながらそれを受け取った。

「人の情けが身にしみるぅ……」

 それから一時間もしないうちに、アーサーは寝こけてしまった。いつものことだ。

 そして、

「ちーっす」

「副長、お邪魔してませんか〜?」

「あー、やっぱり」

 店の入り口から三人の声が聞こえる。少年二人と少女一人。確か名前は、ヨウラン、ヴィーノ、メイリンだったか。

 アーサーの職場に勤めているらしく、いつも酔いつぶれたアーサーを迎えに来る。上司としての面目はまるでないが、ある意味、愛されているのだろう。

「ほら、起きてくれよ副長」

「財布出して、お勘定払わなきゃ」

「むにゃ……」

「あ、ダイアーさん。今日もまたうちの副長がご迷惑を」

 メイリンがペコリと頭を下げ、ダイアーは苦笑を浮かべる。そしてカクテル代が払われると、まだ半分眠っているアーサーを少年二人が肩に担いで運んでいく。

 ダイアーはそっと波紋を流し、アーサーの身体機能を上げ、アルコールの分解を助けてやった。これで明日は二日酔いなどにならずにすむだろう。

「ほらしっかりしてくださいよ……」

「う〜、いつもすまないねぇ……」

「それは言わない約束でしょ……」

 そんな声が次第に遠ざかっていくのを聞きながら、ダイアーは一人飲み直しを始めるのだった。



SIDE:シン



 シン・アスカは、かつての戦争で犠牲になった人々を弔う、慰霊碑があるという場所へ向かっていた。彼の家族も弔われている場所に。

「ここは……変わったな」

 慰霊碑は、シンの家族が死んだ場所の近くにあり、行くまでに流れ弾を受けた場所も通ることになった。そこも今は芝生の生えた公園になっている。

 シンは両親の亡骸と、ちぎれた妹の腕を思い起こし、怒りと憎しみがぶり返させる。その激情を押さえ込み、

(オーブは……これからどうなるんだ……)

 現在と未来に目を向ける。オーブは反連邦、親プラントに傾いていることは知っている。それはプラントに身を置くシンにとっては歓迎すべきことだ。

 だがオーブがまた戦争に巻き込まれる以上、喜ぶ気にはなれない。

(しかも、今回は政府じゃなく、国民がそれを望んでいる……それに対し、オーブ政府はどうするつもりだろう……)

 昏睡状態にあるカガリに対しての感情は複雑だ。嫌いな相手であったが、最後に見せた毅然とした態度を思うと、ざまあみろという気にはなれない。

「あれだけのこと言ったんだ。こんなことで死ぬなよな」

 嫌いなことは変わらない。憎しみも鈍らない。だが、同時に何かを期待している部分も確かにあるのだ。



 思い煩いながら慰霊碑の前に着くと、そこには先客がいた。

 黒い髪をした男が、肩越しに振り返りこちらを見ていた。

 シンは同い年くらいかと思ったが、実際はシンより年上であった。彼の名は、ナランチャ・ギルガといった。

「……よぉ」

 彼はシンにそう話しかけた。

「お前、これ何か知ってる? この国に来たの初めてなんだけど、適当にぶらついてたら意味ありげなものがあったからさぁ」

「あ……慰霊碑です。二年前の、戦争の……」

「戦争……」

 シンの言葉に相手はちょっと気まずげな表情をつくる。

「あー、お供え物持ってくるべきだったか?」

「いえ……お気持ちだけで充分です」

 口調はやや乱暴だが悪い人物ではなさそうだと、シンは判断した。

 そこに、足音が近づいてくる。シンが振り向くと、褐色の髪をした、穏やかそうな男がいた。シンより少し年上のようだ。

「よぉ、なあ、これ慰霊碑なんだってよ。知ってたか?」

「ああ……知ってるよ。来るのは初めてだけど」

 ナランチャに答え、褐色の髪の男は哀しげな顔をする。

「海の水を被っちゃったみたいだね……花が枯れちゃうな……」

 ユニウスセブン落下によって引き起こされた高波が、この辺り一帯に被害を与えたのだろう。周囲の花も芝生も生気がなかった。

「いくら綺麗に花が咲いても、吹き飛ばされるんだ。人の手で……」

 シンは気がつけば呟いていた。

 戦争によって、多くの命が失われた。その悲しみが癒えぬうちに、あるいは、癒えぬからこそか、人はまた戦いを起こそうとしている。

 憎悪と殺戮は、人の業なのか。永遠に終わることのない運命なのか。

 戦う覚悟はすでにしているとはいえ、その愚かさに、シンは怒りと哀しみを抱いた。

「君は………」

 褐色の髪の男――キラ・ヤマトは、シンの慟哭にも似た言葉を受け、沈痛な面持ちになったが、言葉が見つからないでいた。

 そしてナランチャは、

「あー、花吹き飛ばすような奴がいるんなら、俺がやっつけてやってもいいぜ?」

 いまいち話がわかってなかった。

「それは駄目だよ。暴力を振るえば、それは憎しみを呼び、新たな争いを生む。許すことが大事なんだ」

 キラは幼い子供に言い聞かせるように言う。だが、

「争いが起こったら勝てばいいんだろ? 花をいじめるような奴に俺が負けるわけねえって」

「いや……そうじゃなくて」

 キラは困った顔になるが、ナランチャは言葉を続けた。

「それによー、ここの花を吹き飛ばすってことはよー、ここで慰霊されてる人たちや、慰霊している人たちの想いを侮辱するってことだろ?

 そんな奴を許すわけにはいかねーよ。侮辱するという行為に対しては、殺人すらも許される……言うこととやってることの違う蛸野郎の台詞だが、結構正しいと思うぜ」


 シンはドキリとした。花という比喩に気づかなかった男が、実はことの本質を突いていたからだ。

 戦いは起こる。命、心、誇り、金銭、権力、地位、家族、恋人、宗教、信念、自由、正義……それぞれの人間が、譲れない大事なものを持つ限り。

 そして何もかもを譲ることを許せるのなら、それはもう人間ではない。

 ユニウスセブンを落としたコーディネイターたちも、カガリを暗殺しようとしたブルーコスモスたちも、譲れぬものがあったには違いない。

「どんなことがあっても、殺人が許されるわけはない!」

 キラがその声に若干の怒りをにじませる。

「別に許されなくてもかまわねえさ。地獄に落ちても別にいい。けど、生きている者として、死んだ者の想いは受け継がなきゃいけねえ。その想いが侮辱されたことを、見過ごすことだけはできねえぜ」


 ナランチャは、かつてアバッキオが命と引き換えに、自分たちに道を示してくれたときのことを思い出しながら言い切った。



 険悪な雰囲気になる二人に、シンが割って入る。

「待ってくれ。花を吹き飛ばした奴は、俺が片をつけるから。あんたは気にしないでくれ」

「え? そうか? 手伝ってもいいぜ?」

「いや……これは、俺が受け継いだ想いだから……」

 二年前ここで死んだオーブの民。その想いは、同じ民である自分が受け継がなくてはならない。

「ふーん……じゃ、俺の出る幕はないな」

 ナランチャは素直にそう言うと、

「じゃあな。次来るときがあったらお供え持ってくっから」

 その場を立ち去っていった。



 残されたシンとキラは目を合わせたが、互いに何も言わなかった。ただ、どちら胸にも今の彼の言葉が刺さっているのがわかった。

 人はなぜ戦うのか。戦いをなくすことができないのか。その問いの難解さが、改めて思い知らされたのだ。



 そして二人は無言のまま、どちらともなく違う方向へと歩き出した。



 その日、大西洋連邦はついにプラントを敵性国家と定め、戦争へと向かっていた。

 戦争と戦争の狭間の時間は、この日に終わったのである。






TO BE CONTINUED